【新訳】アクション仮面vsハイグレ魔王〜if〜 |
「これが地球ね」 モヒカン頭の男は椅子に座って、空中に映し出された地球の映像を眺めていた。ピエロのような仮面を被り、真っ黒いマントで全身を覆っている。映像に触れようとする仕草をした際に見えた腕は青白く、女性のように細かった。 円錐型の奇妙な形をした宇宙船はゆっくりと地球へと向けて進んでいる。 「思ってたより綺麗な星じゃないの。ホホホ……」 笑みを浮かべながら眺めている映像には東京都庁が映されていた。 「失礼いたします。ハイグレ魔王様、もう間も無く地球へと到着致します」 扉が開き、3人の女性が部屋へと入ってきた。全員青白い肌にバスタオルほどある幅のハラマキを体に巻いている。中央の緑色の髪の女が報告を始める。……しかし返答はない。 「ハラマキレディース、挨拶は?」 短く、冷たく男が言う。 「もっ申し訳ありません! ハイグレッハイグレッハイグレッ!」 謝罪した後、女は脚をガニ股に開き、手を股に向けて伸ばし交差させるという奇妙なポーズを行った。 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 両脇に立つ2人も続けて全く同じ動作を行う。 「そう……そうれじゃあこの場所に着陸してもらいましょうか」 そう言うとハイグレ魔王は地球の街並みを映しながら、ひとつのビルを指定した。 「こんな形の建物ってアタシたちの星になかったでしょう? 近くで見てみたいわ。それに……ヤツらの基地へも近そうだし……」 「ハッ、それでは着陸への準備へ取り掛かります! ハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 今度はハイグレポーズを行ってから、ハラマキレディースは部屋の外へと出て行った。 ーーその頃、そんなことを知るはずもない地球では普段と変わらない日常が始まろうとしていた。 「しんのすけ〜! バス来ちゃうわよ! しんのすけ〜! 」 トイレの中で居眠りをする子どもにむかってドアを叩き必死に母親が起こそうとしている。 「野原さ〜ん」 「バス来ちゃった……」 無情にも迎えが到着してしまった。迎えのバスは誰も乗せることなく次の家へと出発していった。 「もぉ〜ダメだなみさえは」 トイレから出てきた子供が母親に言う。母親のみさえは気合を入れて臨んだ幼稚園の1学期の最終日だったが、無情にもバスは息子のしんのすけを置いて走り去ってしまった。毎月支払っているバス代が最後まで無駄になってしまった悔しさと、幼稚園まで送っていかなくてはならない怒りが同時にこみ上げてきた。 「誰のせいだと思ってんのーー」 「あっアクション仮面のニュースだ!」 みさえのお仕置きを慣れた様子でかわして、しんのすけはテレビの前に滑り込んだ。 『現在、怪我で療養中のアクション仮面ですが、1週間後には退院できるとのことです』 ニュースキャスターが淡々と原稿を読み上げていく。 「へえ〜この前の事件の怪我、軽くて良かったわね」 「アクション仮面は強いから簡単にはやられないんだぞ!」 ニュースを聞いた2人はホッとした様子だった。明日から待ちに待った夏休みが始まる。 「北春日部博士! 一体どうするんですか!?」 埼玉県の田舎の古民家。その地下では少女の声が響いていた。大きな声をあげていたのは、この国では知らない人はいないと言ってもいい。アクション仮面の可愛いパートナー、桜リリ子だ。 彼女の視線の先には太めの体に白髪、立派な口ひげを生やしたいかにも博士という風格の男がいた。 「落ち着きなさい。アクション仮面がいなくとも我が国には自衛隊もいる」 「とても敵う相手ではありません! アクション仮面の本当の容態を教えてください!」 「……早くて2週間といったところじゃ」 博士は眉間にシワを寄せ、深刻なものへと変わっていた。 「じゃが、キミの妹のミミ子くんもついておる。心配することは――」 「博士! 未確認物体の大気圏突入を確認しました!」 博士の言葉はレーダーを監視していた研究員の大声に遮られた。 研究所の職員全員がレーダーの行方を見つめる。 「着陸予定地特定! 座標は……新宿! 東京都庁です!」 「すぐに都庁前のカメラに繋ぐのじゃ!」 通勤、通学時間と重なって、新宿の街には沢山のスーツや学生服姿の人々でごった返していた。 目的の場所へと急ぐ彼らも、突然の未確認飛行物体の来襲に目を奪われていた。見たこともない、巨大な飛行体が現れ、高層ビル群の真上を通過していくのだから無理もない。 やがて、その巨大なピンク色の物体はまるで建物のように変形を始め、都庁を跨ぐように着地した。 唖然とただ見つめていた通行人たちも、本能的に危険なものだということは理解したようで、洪水のように一斉に都庁ビルから少しでも離れるように逃げ始めた。 ハイグレ魔王は玉座に深く腰掛けたまま、逃げ惑う地球人の様子を楽しげに眺めている。 「ホホホ、随分と暑苦しい格好をしているわね」 逃げ惑う人々は魔王の言う通り、カッチリ分厚い生地の服を着て大汗をかいている。 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 再びハラマキレディースが入室する。彼女たちがハイグレポーズを終えて正面を向くとハイグレ魔王は楽しそうに、あやとりに興じていた。 「着陸に成功しました」 報告を聞いて、ハイグレ魔王の指さばきも軽やかになる。 「第一陣出撃よ。手始めにこの辺りの地球人をハイグレにしておやり」 「ハッ! パンスト団出撃!!」 「ちょっと待ちなァ!」 静かな部屋に野太いガラガラ声が響く。 「ここら一帯の指揮は、このTバック男爵に任せてもらおうじゃねえか!」 奥から姿を現した男は、パンツ一丁、いやTバック一丁の姿だった。褐色の色をしたマッチョな体に、上半身には防具、下半身は黒のTバックのみを着けて仁王立ちした男は、堂々と親指を自らの胸元へと突き立てている。 「ホホホ……Tバック男爵、随分と張り切っているようね。……良いでしょう。この辺りは任せるわ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 勝ち誇ったようにハラマキレディースを一瞥してから、のっしのっしとTバック男爵はエレベーターまで歩いていく。胸を張り、再びハラマキレディースへと満面の笑顔を見せ付けながら部屋を後にした。 「ハラマキレディース、お前たちには別の仕事をしてもらうわよ」 不満そうにするハラマキレディースだったが、別の仕事という言葉は彼女たちにとって、とても魅力的だったようだ。曇っていた表情が少し晴れる。 「お前たちにはアクション仮面の基地を探して貰うわ。どんな方法でも構わないから確実に見つけ出すのよ」 思わぬ大役が舞い込んできた。リーダーを筆頭にハラマキレディースは揃って股を開く。 彼女たちの表情はすっかり笑顔になっていた。 「お行きなさい! ハラマキレディース!」 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 新宿の街のパニックはすでに収束がつかない状態になっていた。次々と謎の飛行物体が宇宙船から飛び出てくる。それらは編隊を組み、ライフルのような銃を構えて地上へと迫ってきた。これには逃げずにボーッと都庁に跨る宇宙船を眺めていた人たちも黙ってはいられなかった。 「さあパンスト団、1人残らずハイグレ人間に変えてやれ!」 真っ赤な全身ラバースーツを着て、頭にパンストを被った集団は、空を飛ぶオマルに跨りながら、一斉に構えていた銃を逃げ惑う人々へと向けた。銃口から発せられた真っ赤な光が地上に雨のように降り注ぐ。 「きゃああああああああああああああ!!」 「うわああああああああ!!」 光線は針の糸を通すかのように次々と命中していく。 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」 「ハイグレェッハイグレェッハイグレェッハイグレェッ」 光線中で撃たれた人たちは例外なくその場で立ち止まり、腰まで切れ上った無地のハイレグ水着を身に纏い、ハラマキレディースたちが行っていた挨拶と同じ動作を行い始めた。 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」 「ハイグレェッハイグレェッハイグレェッハイグレェッ」 ただ、決定的に違うところは、彼らは強制的にガニ股にされ、強制的に口を動かされ、強制的に腕をVラインに沿って交差させられている。体の自由を完全に奪われて無理やり行なわされていた。 ハイグレ星人は3回のみ行ったポーズを、彼らは延々と繰り返している。灼熱のアスファルトの上でハイグレポーズを繰り返す。 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」 「ハイグレェッハイグレェッハイグレェッハイグレェッ」 パンスト団の光線の雨は止むことはなく次々と地球人をハイレグ水着姿へと変え、体の自由を奪っていく。 「は、博士……!」 「落ち着くんじゃリリ子くん」 研究所の人間は全員がモニターに釘付けになっていた。 「博士! データベースにありました。ハイグレ星人の可能性が高いです」 「やはりそうか……ついに地球も目を付けられてしまったようじゃな……」 博士の顔がみるみる強張ってしまうのがわかった。そしてパソコンでハイグレ星人の情報を調べている研究員の表情も険しくなっていった。 「博士……これが本当だとすると――」 「博士! ハイグレ星人とは何者なんですか!?」 リリ子は研究員との会話に割って入って博士に詰め寄った。 「ああ……そうじゃな……ワシらも多くの情報を持っているわけではないが、親玉であるハイグレ魔王率いる侵略民族として宇宙では有名な種族のようじゃ。過去にも数々の星を征服し、自分たちの支配下に置いている。 「支配下……ですか?」 「そうじゃ。ハイグレ星人の侵略方法は非常に特徴的じゃ。あの銃から放たれる光線を浴びると最後、ハイレグ水着姿にされ、身も心もハイグレ魔王の忠実なしもべ、ハイグレ人間と化してしまう。あの奇怪なポーズはハイグレ星人へ忠誠を誓うものじゃ。そのうち洗脳が完了して自ら進んで行うことになるじゃろう」 眉を潜め神妙な顔つきで説明する博士だったが、あまりにも現実離れしたリアリティに欠ける内蓉にリリ子をはじめとして、大半の所員たちが呆れ顔になっていた。 「博士、新しい情報が手に入りました」 1人の研究員がコンピューターを睨みつけながら言った。 「現在新宿を攻撃しているのはハイグレ星人でほぼ間違いありません。現在指揮をとっているのはハイグレ魔王の部下のTバック男爵。ハイレグ水着ではなくTバックの下着を着用しています。感情的になりすい面もありますが、部下の中で最も冷酷な性格だそうです。それと……」 研究員は言葉を詰まらせる。 「それと?」 博士よりも先にリリ子が聞いた。 「あ、いや……Tバック男爵はホモだと……」 「そ、そう……」 聞かなければよかった……。リリ子は短く返事をして黙ってしまう。 「フハハハハハハハハ!!」 突然、男の汚い笑い声が研究所内に響いた。 「ッ!?」 全員がモニターに注目した。 画面には大量のハイグレ人間と、ハイレグを着ていない1人の男が映し出されていた。男はTバック姿だった。 「ふん。ハラマキレディースなんかいなくたって地球人なんかイチコロだぜ。ここら一帯の地球人はみんなハイグレ人間になったな。この街はハイグレ魔王様の支配下同然だぜ」 Tバック男爵が上機嫌でハイグレ人間たちを見回す。逃げ惑い、苦痛の表情でハイグレポーズを行っていた人たちは、今は真剣な顔つきになり、動きもキビキビとキレのあるものに変わっていた。まさに北春日部博士が言っていたように、ハイグレ星人に忠誠を誓っているようだった。Tバック男爵の言う通り、本当に新宿の街はハイグレ星人の手に堕ちてしまったようだった。 パンスト団の姿は既になかった。他の地域の侵略に向かったのだろうか。Tバック男爵もその場を離れるために、未洗脳者の最終確認をしているようだ。 「オーホッホッホッホッホッホッホッ!!」 突如、Tバック男爵の右肩が光り始める。異変に気づいたTバック男爵は少し怯えた様子で虹色に輝く光を見つめる。 「ハ、ハイグレ魔王様……!」 男爵の右肩に、手乗りサイズのハイグレ魔王が現れた。すると、ハイグレ人間たちが、ハイグレ魔王のいる方向に向き直る。そして、これまでバラバラに行っていたハイグレポーズを揃えて、本能的に自分たちの新たな支配者へと捧げた。 モニター越しに眺めている北春日部博士とリリ子、研究員たちは、ハイグレ星人の洗脳の威力を見せつけれられていた。 「Tバック男爵、頑張っているようね。素晴らしい光景だわ」 数十分前まではハイグレ星人どころか、異星人の存在すら知らなかった地球人たちは、ハイグレ魔王のしもべとして忠誠を誓い、素晴らしい光景を演出している。 「その調子でよろしく頼むわよ」 ご機嫌な様子のままハイグレ魔王は姿を消した。 1度揃ったハイグレ人間たちの動きは乱れることなくそのまま続いている。Tバック男爵がその場を去っても、彼らのハイグレポーズが終わることはなかった。 「あっそうよ!」 リリ子が急に叫んだ。研究所のモニターは既に切らて真っ暗になっていた。耐えきれなくなってリリ子が切ったのだ。すっかり静かになった研究所内に彼女の声がキンキンと響き渡る。 「きっとアクション仮面を襲ったのもハイグレ魔王です! 偶然にしてはタイミングが良すぎます!」 「な、なるほど……。もう1つの地球に行っている時の謎の事故……。なくなってしまったアクション・ストーン……突然のハイグレ星人の来襲……偶然と考える方が不自然かもしれん……」 「ミミ子に聞いてみます!」 そう言うとリリ子は大きな機械の電源を入れた。すると備え付けのキーボードの上にある小さなモニターに、リリ子そっくりの女の子が映し出された。 「こちらミミ子。どうしたの?」 声までそっくりだった。ミミ子と名乗った少女は、リリ子を心配そうに見ている。 「こちらリリ子! ミミ子、アクション仮面が事故にあった時に、近くに怪しい奴がいたりしなかった!?」 挨拶もそこそこに、リリ子はいきなり本題に入った。 「え? 急に言われても……あ! アクション仮面が気を失う前に黒いマントを着た仮面の怪人の幻を見たって……」 「間違いない。ハイグレ魔王じゃ! アクション仮面を事故に見せかけ襲撃し、アクション・ストーンを盗んだんじゃ。アクション仮面をこちらの世界にこられなくしてから侵略を開始した……」 「侵略!? 博士、なにかあったのですか!?」 ミミ子が画面から飛び出てきてしまいそうな勢いで聞いてきた。 北春日部博士は彼女を落ち着かせながら、これまでに起こったことの説明を始めた。 「――というわけなんじゃ。このままだと東京は今夜中にも奴らの手に堕ちるじゃろう……。ミミ子くんたちにまで迷惑をかけてしまい申し訳ない」 予想を超える非常事態にミミ子は黙り込んでしまった。 「じゃが、まだ望みが完全に失われたわけではない」 「「本当ですか博士!!」」 双子の姉妹はまったく同じタイミングで聞いた。 「うむ……ミミ子くんの世界に、アクション仮面に選ばれし『アクション戦士』と呼ばれる少年がいるはずじゃ。その子を探し出して欲しいんじゃ」 「アクション仮面に選ばれしアクション戦士……」 ミミ子が小さい声で繰り返す。 「そうじゃ。アクション仮面カードのナンバー99のカードに選ばれた者はこちらの世界に来ることができる。その子がこの世界を救ってくれる救世主になるはずじゃ」 「でも博士、いくらなんでも漠然としすぎでは……? この国からカードの持ち主を見つけ出すなんて……」 「2人とも安心しなさい。ナンバー99のカードは市場に出回っていない。カードを集めている人たちからも幻のカードと呼ばれおる」 「それじゃあ尚更……」 落胆の表情を隠せない2人を交互に見つめながら、博士は続ける。 「ナンバー99のカードはたった1枚だけじゃ。アクション仮面が持っておる。彼もまた選ばれた者じゃからの。そして、今度はそのカードを他の物に渡すときじゃ。他のカードと同じようにお菓子のオマケとして入れておけばよい。カード自身がアクション戦士を吸い寄せてくれるじゃろう」 リリ子はまだ少し不満そうだったが、画面の向こう側にいるミミ子は納得した様子だった。 「幸いアクションストーンの予備が1つある。あとはアクション戦士を無事にこの世界に連れて来ることができれば……。事は一刻を争っておる。ワシたしも全力を尽くす。ミミ子くんも大変じゃろうが頑張ってくれたまえ」 「はい!」 力強い返事を残してミミ子は回線を切断した。 「……」 「大丈夫じゃ。ミミ子くんを……アクション戦士を信じよう」 心配そうに俯くリリ子を安心させようとしたのか、それとも自分に言い聞かせようとしたのか、北春日部博士はぎこちない笑顔を見せた。 「さて、リリ子くん。我々も準備に入るぞ。まずアクション戦士をこちらの世界に誘導せねならん。そして、敵がどこまでの情報を知っているのかを調べるのじゃ」 キリっと真剣な顔になって、テキパキと指示を出す北春日部博士。彼の指示を受けて研究員たちも一斉に作業に取り掛かる。 「博士! 出撃した自衛隊が……全滅しました……」 「そうか……予想はしていたが科学力全般のレベルが我々よりも高いようじゃな……」 戦況が悪化しているのは明白だった。 「博士、さきほどTバック男爵から名前が出たハラマキレディースですが、どうやら同じ幹部のようです。基本は3人で行動していて、Tバック男爵とはライバル関係にあるようで、綿密に練った作戦を実行するのが得意のようですね」 「Tバック男爵より厄介そうじゃな……。姿を見せないということは、既に何か企んでいるのかもしれないのう……みんな急ぐんじゃ!」 「はいっ!」 「ホッホッホッ、ハラマキレディース。何か収穫はあったの?」 薄暗い王室で玉座に腰掛けるハイグレ魔王。その前に跪くのはハラマキレディースの3人だ。 「ハッ、到着前の情報通り、この星でハイグレ魔王様に対抗しうる力を持つ者はアクション仮面だけのようです。そして、そのアクション仮面もパワーの源であるアクション・ストーンを奪われてこちらの世界には戻って来る事は出来ません」 リーダーが淡々と報告をする。 「アクション仮面の秘密基地はこの城から少し離れば場所にあるようで、北春日部博士という男が仕切っているようです。現在パンスト団を使って捜索中です」 満足そうにハラマキレディーが報告を終えると、待ち侘びていたTバック男爵が大声で報告を始めた。 「ハイグレ魔王様! オレはこのあたりの地球人を1人残らずハイグレ人間にしてきました! ここら一帯の人間は全てハイグレ魔王様の忠実なしもべだぜ!」 Tバック男爵はこれ見よがしにハラマキレディースにガッツボーツを見せつける。 「ホッホッホッ……みんな良くやってくれているようね。その調子で頑張ってちょうだい」 「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」」 ――ハイグレ魔王が地球に襲来してから4日。 自体は好転するどころか悪化する一方だった。日に日にハイグレ星人の侵略地域は広がり、ついに首都圏は完全にハイグレ星人の支配下に置かれてしまっていた。 早朝、北春日部博士の研究所にけたたましいベルが鳴り響いた。徹夜で監視にあたっていたり、交代で仮眠を取っていた研究員たちは揃って飛び上がり、通信機を見た。 ミミ子からの通信だった。 「もしもし、北春日部じゃ」 博士が応答する。 「こちらミミ子です。アクション戦士が見つかりました! 今日にも鍋洗海岸の北春日部6号でそちらに向かう予定になっています」 彼女の報告に緊張と疲労の色が濃くなっていた所内に明る声が広がった。 「そうか……! ありがとうミミ子くん」 「博士……そちらの状況は?」 ミミ子は恐る恐る聞いた。 「……正直言って決して良いとは言えん……。僅か4日間でここまで侵略が進むとは……。幸いこの場所はまだ見つかっておらんようじゃ。ワシらも出来る限りのことはしているつもりじゃ。アクション仮面をこちらの世界へ送るために、もう一息じゃ……頑張ってくれたまえ」 「はい!」 力強く頷くミミ子。その声が軽やかに研究所に響く。所内の空気が少し軽くなったような気がした。 望みは繋がった。だが首の皮一枚の状況には変わりはない。現状を打開するにはアクション戦士を無事にこちら側の世界に呼んでからだ。何としてでもアクション仮面をこちら側の世界へ……。 侵略から5日目の朝。 アクション戦士の到着は大きくずれ込んで深夜となってしまった。 博士と共に寝ずの番をしていたリリ子はいつの間にか眠ってしまっていた。 バタバタと走り回る音。激しく飛び交う声。リリ子が目を覚ますと研究所はすでにフル回転で動き出していた。 リリ子は飛び起きて博士のもとへと向かった。 「博士、すみません!」 「おおリリ子くん。少し寝られたようじゃな。もうすぐ出発じゃ」 「出発ってどこにですか?」 「アクション戦士が無事到着したんじゃよ! 今から迎えに行くんじゃ」 「本当ですか! わかりました!」 一気に眠気が覚めたリリ子は、用意されていた車に乗り込む。博士もカバンを持って運転席に乗り込んだ。 「それでは出発するぞ!」 博士は力強くアクセルを踏み込み、車は山道を下っていった。 「リリ子くん、よく聞いてくれ」 博士は前を向いたまま話し始めた。ハンドルを握りながら、慣れたアクセルとブレーキコントロールでぐんぐん進む。 「アクション戦士の名前は野原しんのすけくんじゃ。もちろんナンバー99のカードを持っておる。本人確認はまずカードを見せてもらうのがいいじゃろう。今はカードに組み込んである発信機の示す場所へと向かっている。このポイントだと春日部じゃな」 博士がナビの地図上で点滅している黄色い点を指した。 市街地になるにつれてハイグレ人間が増えてきた。もうハイグレ人間は散々見せられたので慣れたつもりでいたリリ子だったが、直に洗脳された人々を見るのは堪えた。 ハイグレ人間たちは洗脳が完了しても、暇さえあればハイグレポーズをとり続けている。ハイグレ星人から命令が下らない限りはひたすら忠誠を誓い続けるようだ。 恐らく全ての地球人がハイグレ人間となるまでは自由にはさせないのだろう。そうしないと、ハイグレ星人の科学力の前ではかえって邪魔になるのではないか。とリリ子はガラス越しにハイグレ人間を見送りながら考えていた。 主要道路はほぼハイグレ人間が占拠しているため、車は郊外や裏道を進んでいった。 目的地まであと数キロだ。野原しんのすけの居場所を示すポイントへと着々と近づいていく。 「う……ぐぐ……リリ子……くん……」 「博士!?」 「スマン……ちょっと腹の調子が……うぐぐ……」 車は徐々にスピードを落としていく。このままでは敵に見つかってしまう可能性がある。リリ子は意を決する。 「私が運転します! 博士は後ろの席で休んでいてください」 「申し訳ない……」 路肩へと停車して、博士を後部座席へと移す。リリ子が運転席へ乗り込もうとしたとき、ドアミラーに何かが写り込んだ。パンスト団が2体。あとをつけられていたようだ。2人が車を降りたため、銃をこちらに向けていた。 右側のパンスト団のハイグレ銃の先が赤く光る。 リリ子がそれに気づいた瞬間、すでに光線は彼女の顔をわずかに外して地面に吸い込まれていった。 慌てて車に乗り込み、エンジンをかける。あと数センチのところでハイグレ人間にされるところだった。そうなっていたらハイレグ水着を着せられ、ハイグレ魔王のしもべとなり、地球の最後の希望であるアクション戦士を喜んで差し出していたかもしれない。ハンドルを握る手は震え、汗でベトベトになっていた。 ゴミ箱を弾き飛ばしたりしてT字路を無理やり右折する。目の前に人の姿が見えた。 「ハイグレ人間? いや、服を着てる!」 リリ子はブレーキペダルを全力で踏み込んだ。アスファルトとタイヤのゴムが擦れる甲高い音が鳴り響く。 車はサラリーマン姿の男の目の前ギリギリで停止した。ぶつからなかったことにリリ子はほっと胸を撫で下ろす。 しかし、最も重要なことを忘れていた。自分たちはパンスト団に追われいたのだ。ミラーを見ると、パンスト団はサラリーマンの男と、その先にいる家族へと銃を向けていた。ハイグレ銃を向けられたまま立ち尽くす4人の親子。 「喰らえ! アクションとりもちガン!」 運転席の扉を開け放ち、勢いよくアスファルトへと飛び出して転がるリリ子の手には、ハイグレ銃にも負けない特殊な形の銃が握られていた。 銃からは2発の白い取り餅が装填されていて、リリ子が引き金を引くと、2つの餅はパンスト団へ向かって真っ直ぐ飛んで行く。見事、顔面に命中して、視界を奪われたパンスト団は互いのオマルを衝突させてしまい、コントロールを失い遠くの民家へと墜落してしまった。 「やったわ……」 冷や汗を拭いながらリリ子はゆっくりと立ち上がる。まさに危機一髪だった。 「あ〜! ミミ子おねいさんだぁ!」 幼稚園生くらいの男の子が興奮した様子で自分のもとへとやってくる。 「サインしてください」 そう言って少年が差し出したのは色紙ではなく、金色のアクション仮面カードだった。 「そのカードは……私をミミ子と間違うってことは……もしかしてキミ、野原しんのすけくん?」 「オラのこと知ってるだなんて……トツゲキだなあ〜」 「カンゲキ、でしょ」 母親のみさえが訂正する。どうやらこの少年で間違いなさそうだった。 「はあ……ミミ子のやつ……選ぶ子間違えたんじゃないかしら……」 リリ子は呆れたようにしゃがみ込み少年を見る。 「おおい……リリ子くうん……ううう……ぐわあああぁ……」 停車している車の後ろのドアが開き、今にも死にそうな老人が姿を現した。 「博士!」 慌ててリリ子が抱きかかえて体を支える。 「大丈夫ですか……? 119番しましょうか?」 少年の母親が心配そうに聞いた。 「うう……大丈夫……ウンコしたいだけじゃ」 「おトイレ、貸してください!」 「カッコワル」 「全国の皆さん! 私たちは異星人の攻撃を掻い潜り、彼奴らの支配下に落ちた新都心、新宿の街に潜入することに成功しました!」 博士がトイレに入っている間、野原一家とリリ子は居間でワイドショーを見ていた。男のアナウンサーがハイグレ魔王の宇宙船の真下で決死のレポートをしている。 リリ子は何度も見た光景だった。ハイグレ魔王に気づかれず、新宿に侵入できるはずがない。彼らは泳がされているだけだ。様々な番組でたくさんの人々がカメラの前でハイグレ人間に変えられる様子を見せられた。悲しいが見慣れてしまった映像。 しかし、野原一家は食い入るようにテレビを見つめている。 「貴重な映像をどうぞご覧ください!」 アナウンサーの顔のどアップのあと、映像は新宿のスクランブル交差点のVTRに切り替わった。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ――」 ハイレグの水着を着て真剣な顔つきでガニ股になって腕を交差させる老若男女。撮影されていようが、恥ずかしがる様子もなく、一心不乱に同じポーズを繰り返す。 奇抜すぎて恐怖すらも吹き飛んでしまうような映像を見つめる。 「やっぱり、俺が見たのとそっくりだ」 映像がスクランブル交差点の上空から無数のハイグレ人間を映したものから、女性のハイグレ人間のアップに切り買ったとき、しんのすけの父親のひろしが言った。 「もうこの街にも奴らの手が伸びてきているわ……」 「おお!ななこお姉さんだ!」 飴玉を舐めながら、しんのすけがテレビの画面を触る。 みさえとひろしもビックリしながら画面に食いついた。 右上のあたりに服を着た若い女性が走っているのがわかる。 「なんであんな場所に……」 「見て、あそこにいるの忍ちゃんじゃない?」 みさえがピンク色のハイレグを着た女……の上へ指を置いた。その辺にいる男よりも遥かに鍛え抜かれた彼女の肉体に対して水着が少し小さすぎるような気がした。 「ああ! 見つかった!!」 突如、映像がアナウンサーへと戻って、ななこの安否は不明のままになってしまった。 「え〜全国の皆さん……私は、侵略者たちに囲まれています。私は……私は……たた、助けてくれえぇ〜アクション仮面……だああああああああああああああああああ!!」 アナウンサーに大量のハイグレ光線が打ち込まれる。カメラは光線が発射された方向の空を映した。 無数のパンスト団が浮遊して銃を構えている。スタッフたちにもハイグレ光線の雨が浴びせられた。 「わあああああああああああ!!」 映像がそこで途切れ砂嵐になってしまった。 ひろし、みさえ、リリ子も呆然と画面を見つめる。 しばらくして映像が回復した。 カメラの前には先ほどまでオマルに跨り飛んでいたパンスト団たちが並んでいた。ハイグレ人間いなったスタッフたちに撮影させているようだ。 「ホホホホホホ……」 ねっとりとしたオカマの声がテレビのスピーカーから流れてくる。その瞬間、パンスト団の顔の上に、半透明の不気味な仮面が重なる。 「地球人よ。早くアタシたちのハイグレ銃を浴びて……ハイグレにおなりなさあい」 ハイグレ魔王直々の投降を促す言葉だった。その後、カメラは左に移動する。 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 そこには先ほどまで懸命にレポートを続け、最後はアクション仮面に助けを求めたアナウンサーの姿があった。水色のハイレグ水着を着せられ、懸命なハイグレポーズによって股間の大きなイチモツを左右にぶんぶんと振っている。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ! みんなハイグレを着よう!」 最後まで抵抗を続けた男も、すっかり洗脳され人々に投降を求めた。 「ハイグレッハイグ――」 画面が真っ暗になり、音も途切れる。地球人がハイグレ星人の言いなりになって、本心じゃないことを言わされ、行っている姿を見ることにこれ以上耐えきれずリモコンで電源を落としたのだ。 「可哀想に……」 必ず人間に戻してあげなければ……。 リリ子はそう心に誓って、野原一家に説明を始めた――。 「私たちの攻撃を掻い潜りねえ。遊ばせてただけなのに調子に乗っちゃダメじゃない」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ! 全てはハイグレ魔王様のために! みんなハイグレを着よう! ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ! みんなハイグレを着よう!!」 リリ子がテレビを消したあとも、放送は中断されず男性アナウンサーが相変わらずハイグレ星人に降伏するよう呼びかけていた。 「リーダー……なんかむさ苦しくないですか……? これじゃTバック男爵の手柄みたいですよ」 「何言ってるの? アイツよりはマシでしょ?」 「正直どっちも微妙です……」 2人の部下はオエっと吐く真似をしながら、リーダーにテレビに映すハイグレ人間の交代を訴えた。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ! みんなああああ、ハイグレを着よおおおおう!! ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ!!」 そんな会話をされても、アナウンサーはハイグレ人間として、ただ命令に従い続ける。 「だって他のハイグレ人間に替えたところで男しかいないわよ?」 リーダーが面倒臭そうに言った。 「リーダー、あれなんてどうです?」 オレンジが路地裏を見ながら言った。 「はあ……はあ……」 物陰で息を切らした女の地球人が身を潜めてかがみ込んでいた。女はついさっきこのアナウンサーが行っていた番組のVTRで逃げ惑っていたななこだった。 「あら。まだ生き残りがいたのね」 ハンターのように目に光が宿ったリーダーは、彼女へむけてパンスト団にハイグレ銃を構えさせた。 「先輩! 周りの様子見てきましたけど、普通の人はもういないですね。そろそろ私たちも撤収したほう……が? ……あれ?」 別の小道からもう1人、未洗脳の地球人が現れた。 「2人も取り逃がしてたなんて、Tバック男爵は何をやってたんですかね!」 「私たちに手柄をくれたんだからいいじゃない。さあ、どっちもハイグレ姿にしておしまい!」 「み、みんな……嘘……嫌あああああああ!」 スタッフの女性は踵を返し、来た道を激走した。 その声で異変に気付いたななこも、慌てて立ち上がり声がした方向と逆方向に逃げた。 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 白と黄緑のハイグレ人間となった女たちは、2人並んでハラマキレディースへとハイグレポーズを捧げる。 逃走虚しく、あっさりと2人はハイグレ光線を浴びせられ、ハイグレ人間となってしまった。 これでもう逃げだす心配はない。 「リーダー、試しに……」 「はいはい、わかったわよ」 根負けしたリーダーは、アナウンサーをカメラの前から退かせる。 「さあ、まだハイグレ人間になっていない愚かな地球人が早く諦めるように全力でやるのよ」 「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!!」」 2人のハイグレ人間は真剣な表情で返事をすると、カメラの前へと立った。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ! みんなあ、ハイグレを着ましょう!」 「ハイグレェ〜、ハイグレェ〜、ハイグレェ〜、ハイグレェ〜! 早くハイグレ銃を浴びせて頂いて、ハイグレ人間になろう!」 2人は思い思いの言葉とテンポで地球人たちにハイグレ人間へとなるように呼びかけた。 「「全てはハイグレ魔王様のために! ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレェ!!」 「ほら、こっちの方が華がありますよ」 「確かにそうかもしれないわね……」 「それじゃあ次は男と女を交互に並べて――」 「リ、リーダー!」 ノリノリのオレンジとは正反対の引きつった顔で、もう1人の部下のムラサキが叫んだ。 「どうしたの?」 「き、北春日部博士を追っていた部下の消息が途絶えました……」 「なんですって!? ば、場所は分かっているの!?」 「一応……」 ムラサキは首を縦に振った。 「それなら、北春日部一味にやられた可能性が大きいわね……。とりあえず至急戻って魔王様に報告よ!」 「「ラジャー!!」」 3人は颯爽とオマルに跨ると、この瞬間も彼女たちの命令に従い投降を呼びかけ続けるハイグレ人間たちを置いて、頭上にそびえる宇宙船へと戻っていった。 慌てて城に戻ったハラマキレディースは一目散に王室に向かい、ハイグレ魔王の前に跪いた。言い訳など余計な弁解や口答えをした時の方がハイグレ魔王が恐ろしいことを3人はよく知っていた。 「報告を聞こう」 「ハッ」 リーダーが現在の状況を正直に報告する。 「ハイグレ魔王様、申し訳ございません。北春日部を追跡していた部下との連絡が取れなくなりました。撃墜場所の情報はわかっています」 ハイグレ魔王は黙って聞いている。 「どうか出動のご命令をこのハラマキレディースにお与えください!」 無理を承知でリーダーは懇願する。 「ちょっと待ちなあぁ! その役目はこのTバック男爵様に任せてもらおうじゃねえか!」 再び自分の胸に親指を突き立てながら、自信満々にTバック男爵が名乗り出た。反射的にハラマキディースも新宿での未洗脳者の件など反論したがったが、今回は自分たちの方が分が悪い。3人揃って男爵を睨みつけることしかできない。 「いいでしょう。お行きなさい、Tバック男爵!!」 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」 勢いよく返事をすると、Tバック男爵は勢いよく部屋を飛び出していった。 「さて、ハラマキレディース?」 甘ったるい。でも硬く冷たい芯のある声。ハイグレ魔王が怒るといつもこの声になる。 「アンタたちには珍しいくらいの見事なミスね」 ハラマキレディースたちは黙って魔王を見つめる。 「こうなることはある程度予想できたわ。でも、それだけ北春日部一味を追い詰めたということ。今、アンタたちを送っても逃げられるのがオチよ。だったらそんな役目がお似合いのTバックに今回は譲ってあげなさい」 ハイグレ魔王は仮面を横にずらし、アイシャドーが入った瞳を下品に緩ませる。 「Tバックが力ずくでアクションストーンを奪おうとしている間に次の一手を進めなさい。アンタたちならできるわね?」 「お、お任せください!」 リーダーがぎこちなくも即答する。 「ただし……次失敗したらどうなるか……わかってるでしょうね?」 突き立てた小指に電撃を灯しながらハイグレ魔王が言う。後ろにはナイロン100%ジャージの姿も見え隠れしていた。 「は、はい……承知しております」 恐ろしい2つの罰から目をそらすようにして返事をする。 「ホホホ……それではお行き、ハラマキレディース!」 「ハイグレッハイグレッハイグレッ!!」 逃げるようにハイグレ魔王の部屋を飛び出したハラマキレィースは、オマルに跨り東京上空を飛行していた。 「リーダー……当てはあるんですか?」 心配そうな顔でオレンジが聞く。 「だって、出来ません! なんて言えるわけないでしょ!?」 「中間管理職の辛いところですね。いいなあハイグレ人間は気楽で」 「とりあえず私たちも現場に行ってみましょう。作戦を立てるのはそれからよ」 パンスト団が消息を消した地点に到着すると、幼稚園バスの行く手を塞ぐTバック男爵の姿があった。バスは別の車を潰すような形で停車している。 「どうやらあの中に北春日部一味がいるようですね」 「基地に向かうつもりね」 Tバック男爵に見つからない角度から、3人は観察を続ける。 「リーダー、私あの乗り物に見覚えがあります」 ネコをモチーフにしたピンク色のバスを見ながらムラサキが言った。 「なんですって!?」 リーダーは大声で聞き返した。危うくTバック男爵たちに聞かれてしまいそうな音量だった。 「昨日の作戦に向かう途中に見ました。場所も覚えています」 「迷っている暇はないわ。やつらの基地に先回りするわよ!」 「「ラジャー!!」」 3人はフルスロットルで飛び去った。 「本当にここなの?」 「間違いありません」 3人が降り立った場所は何の変哲もない幼稚園だった。 「基地を民家や幼稚園に偽装している可能性もあるわね」 「なるほど。さすがリーダー!」 「リーダー、パンスト団が到着しました」 3体のパンスト団がふよふよとグラウンドに着地した。 「よし、まずはあの部屋から調べるわよ!」 引き戸から窓まで全面ガラス貼りの部屋をしらみ潰しに探していくハラマキレディース。不用心なことにどの部屋も鍵はかけられていなかった。 「誰もいませんね」 「まさか私たちに気づいたのかしら……?」 リーダーとオレンジは顔を見合わせた。作戦が失敗したら、3人には電撃とジャージの刑がまっている……。 「リーダー! 見つけました!」 後ろから声がして、振り向くとムラサキが1人の地球人と追いかけっこをしていた。 「み、みんな異星人よ! みんな逃げて……ああああああああああああ……!」 土の庭を逃げ回っていた女は、庭のど真ん中でパンスト団により撃ち抜かれた。アナウンサーの時と同じく一度に大量のハイグレ光線を注がれる。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 ピンク色のハイグレ人間と化した女は、炎天下のなかハイレグ水着1枚でハイグレ星人に服従を誓うポーズを始めた。 「さあ、アクション仮面の基地へと案内しなさい」 リーダーが女に命じる。 「ア、アクション仮面の基地ですか!?」 女は驚いた様子でリーダーを見上げた。演技には見えず、ハラマキレディースは顔を見合わせる。 「こ、ここは秘密基地じゃないの?」 作戦の失敗は決して赦されない。少し焦りながらリーダーが改めて確認する。 「こちらはふたば幼稚園です。私はこの幼稚園の副園長をしていました。ハイグレ魔王様に楯突くアクション仮面なんかの基地ではありません! ハイグレッハイグレッハイグレッ」 副園長はハイグレ魔王を称え、ハイグレポーズを行った。 「じゃああの大きなピンク色の乗り物は?」 ムラサキが聞く。 「もしかして幼稚園のバスのことでしょうか……?」 「バス?」 「はい。近所の子どもたちを集めています。もうすぐ戻ってくるころだと思いますが……」 「なるほど……パンスト団とやりあって車が壊れたから乗り換えたのね。それなら基地に向かう前にここに1度よるはずだわ」 「ここで一網打尽にするんですね!」 オレンジが両手をパンッと合わせて言う。 「いいえ。北春日部博士に本当の基地まで案内させるのよ」 「北春日部博士に……?」 リーダーは意地悪く笑うと、副園長を見た。彼女は直立不動の体勢で静かにハラマキレディースの会話を聞いていた。 「さっき、みんな逃げてって言ってたわね。隠れている仲間のところへ案内しなさい!」 副園長先生に迷いはなかった。素早くガニ股になる。 「ハイグレッハイグレッハイグレッ! どうかみんなもハイグレ姿にして下さい!」 ハイグレ人間に案内をさせて、ハラマキレディースたちは残りの人間たちが隠れている部屋までやってきた。 厳重に施錠された鉄製の大きな引き戸。副園長はためらうことなく解錠する。 「ハイグレッハイグレッハイグレッ! こちらです」 ガチャリ……と錠の開く音。ギイイィ……と軋みながらレールの上を滑る扉。それらにハラマキレディースは一切触れていない。しもべであるハイグレ人間が自らの手で彼女たちを呼び入れたのだ。 室内の人々が目を丸くして変わり果てた副園長を見つめる。 「みんなもハイグレを着ましょう! ハイグレッ、ハイグレェッ、ハイグレエェ!」 かつての仲間たちの視線を浴びながら、とびっきりの笑顔でハイグレポーズを行う。 「さあ! 1人残らずハイグレ姿にしておしまい!」 副園長を押しのけて現れたハラマキレディースの命令によって室内はハイグレ光線の光に包まれた。 教室よりも少し広くなっている部屋の中では、子どもたちが飽きないようにお遊戯が行われていた。ラジカセの音に合わせて園児たちが楽しそうに踊っている。 「ちょっと上尾先生? なんでこんな曲しかないのよ。これじゃ子どもたちが踊りにくいでしょ」 しっとりと長い黒髪が印象的な先生が、メガネをかけたショートヘアの先生に言う。 「まつざか先生だって北埼玉ブルース流してたじゃないですか……」 上尾先生がボソっと呟くように言った。 「あ、あれはよしなが先生の机にたまたまあったテープを再生しただけよ!」 濡れ衣を着せられたまつざか先生が反論する。 ふと、入り口の扉が軋む音が聞こえた。 「副園長先生、見回り随分時間かかりましたね」 「ひまわり組の子たちが着いたのかし……ら……」 2人の目に飛び込んできた副園長先生は、ピンク色のハイレグ水着姿だった。テレビや新聞で見たものと同じ水着だ。その後ろには明らかに地球人ではない集団が控えている。 「みんなもハイグレを着ましょう! ハイグレッ、ハイグレェッ、ハイグレエェ!」 あの動きもテレビで何度もみたものだった。笑顔でガニ股になっているハイグレ人間から、副園長先生の面影はなかった。 園児たちも驚きを隠せず、踊るのをやめて出入り口を見ながら立ち尽くしている。 「さあ! 1人残らずハイグレ姿にしておしまい!」 半ば弾き飛ばす勢いで青白い3人組が数歩前へ出ると、さらに後ろに控えていた3体の敵が銃を園児たちへ構え一斉に光線を放った。 「きゃああああああああああ!!」 「うあああああああああああああ!!」 「いやああああああああああ!!」 扉に近い園児からハイグレ光線を打ち込まれていく。 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「はいぐれっはいぐれっはいぐれっはいぐれっ」 色とりどりのハイレグ水着を着せられた子どもたちは、年相応ではない鋭いお股の切れ込みをハイグレポーズによって強調する。 「わあああああああああああああ!!」 「やあああああああああああ!!」 「ああああああああああああああ!!」 パンスト団は淡々と光線を放ち、淡々と子どもたちをハイグレ人間へと変えていく。 「ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ」 「ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……」 「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」 生まれて初めて着るであろうハイレグ水着姿になった子どもたちも、淡々とハイグレポーズを繰り返す。 まつざか先生と上尾先生は他の出入り口へ向かうが、全ての扉の鍵が外から閉められていてビクともしなかった。 「み、みんな……ステージの上に……似てげてぇ……」 上尾先生の弱々しい声は、ハイグレ人間たちの声と、ハイグレ人間になるまいと逃げ惑う子どもたちの悲鳴でかき消されてしまう。 「みんなぁ〜……」 「そんなんじゃ聞こえるはずないじゃないの! メガネ取りなさいメガネ!」 最後の扉も施錠されていることを確認したまつざか先生が叫ぶ。 「あ、そうか……えっとメガネ、メガネ……ああああぁぁ……」 自分のかけているメガネに手をかけた瞬間、上尾先生は真っ赤な閃光に包まれた。 「ハ、ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……」 強制的にやらされていますと言わんばかりの、ぎこちなくハイグレポーズを始める上尾先生 ――か、体が勝手に……ああ……恥ずかしい……。 ぴっちりとした水色のハイレグが上尾先生の体を締め付ける。辺りを見回すと、すでにハイグレ人間の割合の方が多くなってしまっていた。まだ服を着ているまつざか先生が自分を見ている。彼女の表情は心配しているようにも、呆れているようにも見えた。 ハイグレ人間になっても、延々と抵抗を続ける上尾先生と違って子どもたちは、1人、また1人と笑顔になっていく。 「ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……」 彼らを見ていると、まるで自分がおかしいのかなと思えてくる。 ――あれ……私なんでハイグレ着るの嫌がってるんだろう……。 彼女から、この格好どころか、このポーズへの嫌悪感すら徐々になくなっていく。 「しっかりしなさい!」 上尾先生の耳にまつざか先生の甲高い声が突き刺さる。 「そんなものに負けんじゃないわよ!」 まつざか先生は子どもたちを一段高くなった壇上に1人づつ移動させていた。彼女の声を聞いて上尾先生は少し落ち着きを取り戻す。 ――そうだ……私もしっかりしないと……。 体の自由は奪われても、心まで好き勝手されるわけにはいかない。上尾先生は気合を入れ直して正面を見る。 「ハイグレ……ハイグレッヒィッ!?」 いつの間にかオレンジ髪のハラマキレディースが真正面に立っていた。 「メガネってこれね。これを外すとどうなっちゃうのかなあ?」 オレンジの手が上尾先生の顔面に迫る。 「ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……ハイグレェ……」 しかし、避けることもハイグレポーズをやめることも出来ない。 「ハイグレェ……ハイグレェ……あっ――」 彼女の顔からゆっくりとメガネが外される。オレンジはオモチャで遊ぶように彼女を見下ろす。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!」 メガネを外された上尾先生は、これまでとは打って変わってキビキビとキレのあるハイグレポーズを披露した。 「うわっ! ビックリしたあ……」 あまりの変わりようにオレンジが少し後ずさりする。 「その勢いでそいつらやっつけちゃいなさい!」 壇上からまつざか先生の声が響く。 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」 上尾先生は勢いよくハイグレポーズを繰り返すだけで彼女への反応はない。 「私たちをやっつけるか。あの女を黙らせるか。好きな方を選びなさい」 「ハイグレッハイグレッハイグレッ! かしこまりました、ハラマキレディー様!」 惰性でやっていたものとは違う、しっかりとしたハイグレポーズを3回行ってから上尾先生はオレンジに返事をする。 それから、ゆっくりとまつざか先生と数人の園児がいるステージへと歩き始めた。 「ちょ、ちょっと……なに敵の言いなりになってんのよ!?」 子どもたちを避難させている演台の陰に自らも体を隠しながらまつざか先生が叫ぶ。 「ハイグレ人間がハラマキレディー様の命令に従うのは当然だろ?」 上尾先生が立ち止まる。 「ハイグレッハイグレッハイグレッ!」 演台から顔を覗かせる園児とまつざか先生へ向けて、丁寧に3度ハイグレを行う。 「抵抗していた自分が恥ずかしいよ。ハイグレを着せて頂いた時に大人しく諦めて受け入れていれば良かったぜ」 メガネを奪われて饒舌になった上尾先生は止まらない。 「ほら、子どもたちを見てみなよ」 そう言って誇らしげに両手を広げる。 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「はいぐれっはいぐれっはいぐれっはいぐれっ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 すっかり洗脳されて笑顔でハイグレポーズを繰り返す園児たち。男子も女子も慣れないハイレグ水着を受け入れ、ガニ股になりハイグレポーズを繰り返す。 「教え子を見習って、まつざか先生も早くハイグレを着よう」 身も心もハイグレ人間になってしまった子どもたちに、まつざか先生たちが気を取られている間に、上尾先生は壇上へとよじ登る。際どいVラインの水着を着ていることなど全く気にする様子はない。 ハイグレ人間になった地球人が、侵略者の命令に忠実に従って仲間を裏切る様子を、ハラマキレディースは遠巻きに鑑賞していた。 「いつ見ても面白いですね。ハイグレ人間の無様な姿を見るのは」 「Tバック男爵が魔王様にお仕置きされてる姿の次に好きです」 「お前たちも趣味が悪いわねぇ……お、もう1人の女が出てきたわよ」 部下2人をたしなめながら、リーダーもハイグレ人間と地球人の攻防を見守る。壇上へ上がり、誇らしげにハイグレポーズをする上尾先生へとまつざか先生が立ちふさがり、3人は大盛り上がりだ。 「ここから先へは一歩も行かせないわよ……!」 大の字になって上尾先生の行く手を阻む。 「往生際がわるいね。そんなんじゃ子どもたちの手本にならないよ」 じわじわと2人は距離が縮まっていく。まつざか先生は両手を上尾先生へと突き出し、戦闘態勢をとる。 「くっ光線打たれて侵略者の言いなりになっちゃって……少しは……やあああああああ!?」 しかし、上尾先生からではなく、ずっと遠くに離れた場所にいたパンスト団から攻撃は飛んできた。 戦闘ポーズから再び大の字になるまつざか先生の姿をみながら、上尾先生は勝ち誇ったように笑った。 「いいんですかリーダー?」 「ごめん、ちょっと飽きてきちゃった」 名残惜しそうなオレンジに、リーダーが茶化した顔で答える。 「ふふふ……でもまだ終わったわけじゃないわよ」 リーダーが不敵に笑う。 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 真っ赤なハイレグ水着を着せられたまつざか先生。普段から派手な水着が好みだった彼女はハイレグを見事に着こなしていた。 「……お股のお髭、はみ出てるぞ」 ボソッと上尾先生が指摘する。 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 今日のプール教室が終わったら処理しようと思っていたと言ってやりたがったが、当然そんなことは許されない。まつざか先生は同僚にハミ毛を披露しながら屈辱のハイグレポーズを繰り返す。 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ。上尾先生、ご苦労様」 壇上にもう1人、ハイグレ人間が登ってきた。 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ! 副園長先生こそ、ハラマキレディー様のご案内お疲れ様でした」 「ハイグレ人間として当然のことをしただけよ」 笑顔で言いながら、副園長先生は上尾先生と並ぶ。 「あら、まつざか先生。お股のお髭はみ出てるわよ」 全く同じ指摘を受ける。しかし、まつざか先生はそれどころではない。不思議な心境の変化と戦っていた。 あれだけ屈辱的だったムダ毛のはみ出しもあまり苦ではなくなってきていた。ハイグレポーズへの抵抗も徐々になくなっていくのがわかる。 ハイレグ水着への恥ずかしさは最初から全くなかった。このハイレグの水着や、それ以上に過激な水着をたくさん着てきたからだ。 ただ、いずれもセクシーで、それによって男を悩殺するために着ていたわけで、決して人前でこんな無様なポーズを披露するためではない。こんなポーズは死ぬほど恥ずかしい。と、ついさっきまでは思っていた。思っていたはずなのに……。 まつざか先生は、2人が挨拶のように行ったハイグレポーズを見て無性に羨ましく感じた。自らの意思でハイグレポーズを行ってみたいという衝動に強く駆られた。下にいる子どもたちの無邪気なハイグレポーズも彼女の思考を刺戟する。 まつざか先生は、負けそうになる度に、自分の後ろで怯えて隠れている子どもたちを思い出し、必死でその欲求を抑えつける。 「ダメよまつざか先生。自分に嘘をついちゃ」 「仕方ないなあ。私たちが手伝ってあげるよ」 2人のハイグレ人間はまつざか先生の後ろに回り込んだ。 「まずはもっと脚を開きなさい」 副園長先生はまつざか先生の太ももを掴み、グイッと押し拡げる。 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ!?」 急に態勢をイジられて、まつざか先生の態勢が崩れず。 「ほら、ハラマキレディー様の前でみっともない。背筋を伸ばして腕を引く!」 ぴったり背中に張り付いた上尾先生が彼女の両手首をしっかり握って、一気に胸元まで引き上げた。 「ハッハイグレェ〜!」 甲高く色っぽい声が室内に響き渡る。 「もっと広く開いて!」 「さあ、もう1回!」 副園長先生は更にまつざか先生のガニ股をさらに深くさせる。息のあったコンビネーションで上尾先生が仰け反るようなハイグレポーズのアシストをする。 「はぁん、あっはっハイグレェ! ハイグレェ! ハイグレェ! ハイグレェェェンッ!」 この作業をあと数回行って、2人のハイグレ人間は彼女から離れる。 「ハイグレェ〜……ハイグレェ〜……ハイグレェ〜……ハイグレ〜ン……!」 解放されてもハイグレポーズの態勢は変わらない。まつざか先生は2人に合わせられた形でハイグレポーズを刻む。しかし、それも徐々に物足りないものになってきた。 彼女のなかに身も心もハイグレ人間になりたいという欲求が溢れ出てくる。身も心もハイグレ人間になればもっと気持ち良くハイグレポーズができる。ハイグレ星人に忠誠を誓えば身も心もハイグレ人間なれる。ハイグレ星人に忠誠を誓えば気持ちのいいハイグレポーズが出来る……。 理性的に考えるのはもう限界だった。 ――みんな……ごめん……先生、もうダメみたい……。 後ろで震えている子どもたちの顔を思い浮かべるが彼女の考えは変わることはない。 ――ハイグレ人間になりたい……。 「さあ、その邪魔な台をどかすのよ!」 鋭い声がステージ上に届く。 「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」 副園長先生と上尾先生は瞬時に命令に従い、演台の両脇に立つ。 「ハイグレェ! ハイグレェ! ハイグレェ! かしこまりましたぁ、ハラマキレディー様!」 遅れてまつざか先生が返事をする。ハラマキレディースへ向けて、毛がはみ出たハイグレ姿でハイグレポーズを行う。それから素早く演台の前へと向かった。 まつざか先生へと光線が命中すると、リーダーは不敵に笑いながら副園長を呼びつけた。気付いた副園長先生はすぐに駆けつけ、素早くリーダーの前に跪く。 「あの女にハイグレ人間の素晴らしさを教えてあげなさい」 「かしこまりました。ハイグレッハイグレッハイグレッ」 副園長は立ち上がり、ハイグレポーズを行うとペタペタと床を裸足で走ってまつざか先生のもとへと向かった。 「まだ終わってないっていうのはコレのことですか?」 まつざか先生がかつての仲間にハイグレポーズをレクチャーされる様子を見ながらオレンジが聞いた。 「あいつらにはまだ働いてもらうかもしれないから、試験的な意味も込めて。ね」 2人の教育的指導によってまつざか先生はすっかりハイグレポーズに夢中になっていた。ハイグレの虜となって、メロメロで締まりのない顔になった彼女は既に子どもたちの盾としての役割は果たしていなかった。 「頃合ね。さあ、今から私たちのしもべとしてしっかり働くがいいわ」 リーダーがすうっと大きく息を吸い込んだ。 「さあ、その邪魔な台をどかすのよ!」 彼女の声はまっすぐハイグレ人間たちへと伸びていった。 副園長先生と上尾先生が真っ先に反応する。もう彼女たちは立派なハイグレ星人の忠実なしもべとなっていた。 「ハイグレェ! ハイグレェ! ハイグレェ! かしこまりましたぁ、ハラマキレディー様!」 2人から少し遅れてまつざか先生がハッキリとそう答えた。 彼女がハイグレ星人のしもべ、身も心もハイグレ人間になった瞬間だった。 3人のしもべたちは、力を合わせて演台を持ち上げる。6本の腕に高く掲げらた演台はとても重く、不安定にぷるぷると揺れている。彼女たちの足元には震えて塊になっている子どもたちの姿が露になる。 園児たちは目に涙を滲ませながら、3人の先生たちを見上げる。 「怖くないわ。あなたたちもハイグレ人間にして頂けるのよ」 「逃げてもムダだぜ。私たちはハイグレ人間としてハイグレ魔王様のために働かせて頂くのがあるべき姿なんだ」 副園長先生と上尾先生がすがるように見つめる園児たちに語りかける。彼らをここまで連れてきたまつざか先生も、教え子たちを見る。 「私が間違っていたの。もうあんなバカな真似はしないって約束するわ。みんなもハイグレを着せていただきましょう」 最後の希望だったまつざか先生も、今となっては子どもたちの味方ではなかった。 3人のハイグレ人間は園児をハイグレ人間にしてもらうべく、懸命に重い演台を支え続ける。 ハイグレ人間が必死に働く様子を眺めながらハラマキレディースが肩を揺らして笑っている。 「この光景は思ってたより面白いですね」 「私たちの命令には逆らえないですからね」 「ふふっあんまり笑っちゃ可哀想じゃない。あれでも真剣にやってるんだから」 リーダーも笑いを押し殺して部下2人に注意する。 「あんまり遊びすぎて、逃げられてもつまらないわね」 パンスト団がハイグレ銃を構える。銃から放たれた光線は、ハイグレ人間たちの足をすり抜け、次々と子どもたちに命中していく。園児たちにはもう逃げる体力も立ち上がる力も残されていなかった。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 「ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 壇上の子どもたちは、しっかりと背筋を伸ばして不揃いだが元気なハイグレポーズを繰り返す。 演台は壇上奥に起き直され、先生たち3人は教え子たちの後ろでお手本を見せるように揃ったハイグレポーズを行っていた。 壇上の子どもたちが笑顔になった頃、ハラマキレディースの3人は既に子どもたちへの興味を失っていた。 「なるほど。まだまだ続きがあったんですね。さすがリーダー」 「いったい誰にするんですか? 最初に洗脳したハイグレ人間ですか?」 「あの歳じゃ使い物にならないわよ。残りの2人にするわ」 短い会議のあと、上尾先生とまつざか先生が彼女たちの前に呼ばれた。 「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!! お呼びですかハラマキレディー様!!」 忠誠を誓うポーズを行った後、2人はハラマキレディースへ跪き、深く頭を下げた。 「もうすぐここへアクション仮面の北か春日部博士がやってくるわ。やつらからアクション・ストーンを奪ってもらいたいの。アクション・ストーンとはアクション仮面のパワーの源であり、こちらの地球に呼ぶための重要なアイテムよ」 リーダーが頭を垂れるしもべへと続ける。 「ただアクション・ストーンを奪うんじゃ芸がないわ。それだと北春日部一味が自分の秘密基地に戻って新たなアクション・ストーンを作り出すかもしれない。だから北春日部に基地まで案内させて、そこで全員ハイグレ姿にしてから悠々とアクション・ストーンを奪うのよ。できるわよね?」 リーダーの問いに対して真っ先に答えたのはまつざか先生だった。 「はい! お任せください」 顔を上げて、力強い眼差しでリーダーを見つめる。 「私もやります! 必ずアクション仮面の基地を潰してみせます!」 上尾先生も続く。 「それじゃ私たちは戻るから後は頼んだわよ」 「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!」」 ハイグレ人間2人は驚いて顔を上げる。 「これは転向前に来ていた服よ。時間がないわ。さっさと着なさい」 命令に従い、水着の上から渡された服を着る2人。 「くそっハイグレ人間にまた服を着せるなんて……こんな時代遅れなモノよりも絶対にハイグレの方がいいよ。北春日部博士ってやつは絶対に許さねえ」 「ハイグレが1番素晴らしいのなんて当たり前なんだから早くしなさい!」 もたもたとズボンを穿いている上尾先生にまつざか先生が言う。まつざか先生は既に準備を終えていた。 「はい。これも忘れないでね」 上尾先生がぎこちなくズボンを履き終えると、ムラサキが彼女の顔にぐいっとメガネを押しつけた。 「あ、ありがとうございます……ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ……」 私服のまま俯き加減でお礼を言う上尾先生。 「本当に面白い体質してるわね。でも、それはハイグレ姿以外では控えなさい」 「は、はい!」 上尾先生がこくりと返事をする。 「リーダー、来ましたよ。スピード的にここに寄るつもりはなさそうです」 「あら、ここは見捨てられたみたいね」 リーダーが意地悪く言う。 「アクション仮面の仲間なんてロクな人がいないですね」 上尾先生がぼそっと呟く。 「だから私たちはハイグレ魔王様に忠誠を誓ったんじゃない。必ず北春日部博士からアクション・ストーンを奪ってみせますわ」 まつざか先生が自信たっぷりに言った。 「まずは何としてでもヤツらを止めなさい! どちらかが乗れれば良いから、片方が轢かれてでも止めるのよ!」 「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!!」」 私服の上からハイグレポーズを行い、2人は命令に従って幼稚園を飛び出した。 幼稚園バスは猛スピードで春日部市内を激走していた。ふたば幼稚園に近づくにつれ、運転手の園長先生はチラチラと上空の様子を気にしていた。 「敵の姿はありません。寄っても大丈夫ですよ」 窓から顔を出してリリ子も辺りを確認する。 「じゃ、じゃあ裏口から少しだけ……」 幼稚園の正面を通り過ぎようとしたその時。 「止まってええええええええええ!」 突然、幼稚園の正門から人が飛び出してきた。園長先生は慌ててブレーキを踏み込む。バスは大音量の悲鳴をあげて急停車する。 「よかったあ……」 「ま、まつざか先生!」 紫色のシャツにハーフパンツ姿のまつざか先生は、ほっとした表情でフロントガラス越しに見える園長先生とよしなが先生を見た。 「ま、まってぇ……」 「上尾先生!」 まつざか先生に続いて走ってきた上尾先生もバスの前に到着する。 「幼稚園で事務をしていたら、ハイグレ星人に襲われて……」 「ずっと助けが来るのを待っていました……」 安全のためにバスへと乗せてもらった2人は走ってバスの前へ飛び出した理由を園長先生へ説明する。 「わ、私の……私の妻と園児たちは!?」 「……」 まつざか先生は首を横に振った。 「副園長先生と園児たちは……ハイグレ星人によってハイレグ姿に……!」 悔しそうに唇を噛むまつざか先生。 園長先生は自分の妻である副園長先生のハイレグ姿を想像する。 (ハイグレェ! ハイグレェ! ハイグレェェェ!) 園長先生の頭の中で笑顔でハイグレポーズをする副園長先生。 「あの歳で……哀れな……」 中年のハイレグ姿というだけでもキツいものがあるのに、あのポーズまで行っている妻の姿は想像するのも辛かった。 「ところで、このバスはどこへ向かっているんですか?」 まつざか先生が質問した。 「どこへ行けばいいのか……」 すっかり落ち込んでしまった園長先生が力なく答える。 「ワシの秘密研究所へ向かってくれ! そこなら安全じゃ!」 白髪の老人が答える。秘密研究所という発言と見た目から、まつざか先生はこの男が北春日部博士だと確信した。 「まあ! それは素晴らしいわ」 特に異論もなくバスは北春日部博士の秘密研究所へと向けて出発した。 真っ暗な王室。奥の玉座にはハイグレ魔王。魔王から向かって右側にはハラマキレディースが控えている。遅れてTバック男爵が到着する。 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」」 4人の幹部がハイグレ魔王へハイグレポーズを捧げる。 「ウフフフフ、みんな揃ったようね」 ハイグレ魔王が喋り始めると部屋が明るくなった。 「ハラマキレディース。地球征服計画の進行状況を説明してくださるかしら?」 ハラマキレディースは、ハイグレ人間を幼稚園バスへ送り込んだ後、超特急で帰還していた。作戦が順調なこともあって余裕の表情でリーダーが答える。 「ハッ。現在東京の人間は、ほとんどハイグレ人間への転向を済まし、続いて埼玉、千葉、神奈川の人間たちもほぼ我々の勢力圏下へ納めつつあるといった状況です。数日中には、日本中の人間がハイグレ魔王様のしもべとなることでしょう」 「いいでしょう」 大満足の様子で報告を聞き終えるハイグレ魔王。 「で、Tバック男爵?」 話題はTバック男爵へと移る。 「オレはあの時、北春日部からアクション・ストーンを奪ってこれたんだ! なんで止めたんですか! 魔王様!!」 Tバック男爵が語気を強めて抗議をする。ハラマキレディースから奪って手に入れた任務をハイグレ魔王自らに邪魔されたことが不服らしい。 ハイグレ魔王はふわりと浮き上がり、Tバック男爵の目の前へと移動する。 「おおぉぉ……」 「ん〜〜……ほっ!」 ハイグレ魔王の平手打ちが男爵の左ほほを直撃する。あまりの威力にTバック男爵は床に弾けとぶ。 「あたしに文句言う気なのTバック? 考えるのはあたしの仕事よ。あんたはあたしの言われた通りに動いていればそれでいいの」 ハイグレ魔王は右手の小指を立てて、床に倒れるTバック男爵に近づけた。小指を中心に右手が青白く光り始める。 「それが守れないならぁ……」 「ううぅ〜……やめて下さい! ハイグレ魔王様……ど、どうかお許しを〜……」 小指から発せられた電撃を浴びて、Tバック男爵は床にのたうち回る。 「「「キャハハッ! みっともな〜い」」」 「お黙り!」 その様子を見てはしゃぐハラマキレディースも一喝され、3人は思わず首をすくめる。 静かになったところでハイグレ魔王は玉座のある場所へと戻る。 「まったくお前たちは下品で困るわね……いいこと? お前たちも知っての通り、この地球上であたくしの力と対抗しうる力を持つ者は、言わずと知れたアクション仮面よ」 定位置に戻っても座る事はなく立ち上がったまま、ハイグレ魔王が続ける。 「確かに、アクション・ストーンをこの手中に収めれば、アクション仮面はこちらの世界へ来られない。ウッフフフフフフフ」 ハイグレ魔王の話を幹部たちは静かに聞き入る。 「でも、北春日部博士とその一味を放っておけば、また新たなアクション・ストーンを作り出すかもしれないでしょ? フッフフフフフフ……」 気持ちよさそうにハイグレ魔王は作戦を語っていく。 「だから……やつらの秘密基地を見つけ出して、皆殺しにしてから、残ったアクション・ストーンを手に入れても遅くはないのよ」 ハイグレ魔王は、仮面を回転させて、露わになった瞳で部下たちを見る。 「しかし、どうやってやつらの基地のありかを?」 「ウッフフフフフ」 待ってましたと言わんばかりにハラマキレディースが笑う。 「あたしたちが、ちゃ〜んと作戦を立ててあげてるから、ご心配なく」 リーダーがTバック男爵に勝ち誇ったように言った。それから、ハイグレ魔王へと向き直り、縦に一列に並ぶ。 「このハラマキレディースにお任せあそばせ!」 手をヒラヒラと振って挑発的なアピールをするハラマキレディース。 「くっ……ぐぐ……」 「Tバック、あんたはこの城の見張りをしてなさい」 悔しがるTバック男爵へ、ハイグレ魔王が命じる。それから楽しげな顔でハラマキレディースを見た。 「ハラマキレディース、パンスト団を全員連れて出動おし!」 次の瞬間、すでに控えていたパンスト団を引き連れて、ハラマキレディースはオマルに跨りハイグレ城を飛び立っていった。 幼稚園バスが案内されたのは山奥に1件だけ佇む民家だった。 「ここじゃ」 すると何の変哲もない古民家がせり上がり、地下への入り口が現れた。 「かっこいい〜!」 「ここがアクション仮面の基地だったのか!」 しんのすけのクラスメイトのマサオくんと風間くんが興奮気味で周りを見回す。ネネちゃんとボーちゃんも珍しそうに研究員や機材に見惚れている。 「へえ、ここがそうなの」 「ん?」 「ここが秘密基地……」 先生たちもきょろきょろと辺りを確認する。 北春日部博士たちがバスから降りて数分も経たないうちに、研究所内のサイレンが鳴り響き、赤色灯が点滅した。 「どうした!」 「は、博士……大変です!」 レーダーを監視していたメガネをかけた男性研究員が報告する。 「敵の大群がこの研究所へ向かってきます」 「な、なぜこの場所が……とにかく、バリアー作動じゃ!」 博士が指示を出すと、メガネの研究員は右足の近くにある大きいレバーを引いた。 「バリアー!」 研究所をカモフラージュしている民家がバリアーで覆われる。敵が攻撃したような音が僅かに聞こえたが、地下の室内はビクともしていない。 「この北春日部が発明した電磁バリアはそう簡単に破られはせんぞ! ダハッハッハッハッ!」 発明が威力を発揮して自慢気に北春日部博士が笑う。 「素晴らしいわ、博士!」 まつざか先生が博士のもとへ走り賞賛を送る。 「世紀の大発明です……!」 上尾先生もまつざか先生に続く。 「博士……あの、アクション・ストーンは今どこに?」 「ああ、それならしんのすけくんの腹のなかにな」 「し、しんのすけくんのお腹の中に……?」 上尾先生の質問に博士が答える。 「ちょっと!」 3人の間にリリ子が割って入った。 「どうしてあなたがアクション・ストーンのことを知っているの?」 リリ子が真顔で迫る。 「そ、それは……まつざうぷっ」 「バ、バカッ! 何言ってるのよ!」 慌ててまつざか先生が上尾先生の口を塞ぐ。 「あなたたち、さっきから怪しいと思っていたのよ」 彼女たちをずっと疑っていたリリ子は確信をもって宣言する。 「ほ、ほら上尾先生、疑われているわよ!」 まつざか先生はそう言って上尾先生からメガネを外した。 「ちょっと……フッ……フッフフフフフフ……バレたのなら仕方ないな。ハッ!」 「「「おおっ!」」」 上尾先生がとった行動に男性陣が釘付けになる。彼女はシャツとズボンを脱ぎ捨てて、水色のハイレグ水着1枚になった。 「いかにも! 私はハラマキレディー様のスパイさ!」 高らかにそう宣言する。 「ハイグレッハイグレッハイグレェッ!」 ハイグレポーズを見せつけると、上尾先生はバリアのレバーへと向けて走っていく。 「タァッ!」 勢いよく回し蹴りを放ち、研究員を弾き飛ばす。 「させるかあ!」 上尾先生へ向けて数人の男性研究員が飛びかかる。 「そっちがその気なら相手してやる。覚悟しな!」 研究員と揉み合いになりながらも、上尾先生は男性研究員たちと互角に戦っていた。 「バリアー…‥解除!」 上尾先生ではなく別の女性の声。 ハイレグ姿ではない、洋服すがたのまつざか先生がバリアーを解除してしまった。すぐ近くで繰り広げられている戦いに気を取られていて誰も気づかなかった。 「フッフフフフ…‥残念だったわね。ハッ」 まつざか先生も颯爽と服を脱ぎ捨てる。 「私もハラマキレィー様のスパイさ!」 2人目のスパイ宣言に呆然とする博士やリリ子へ向けてガニ股になる。 「ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェェェン!」 勝利を宣言するハイグレポーズを見せつける。 「どけぇ!」 上尾先生が最後の研究員を投げ飛ばし、まつざか先生の隣に並んだ。 「ハイグレェッハイグレェッハイグレェッ!」 「ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェェン」 2人揃ってハイグレポーズを行うと、大きな振動と衝撃が室内を襲った。 巨大なドリルが天井を突き破ってくる。ドリルの回転が止まると、中からハラマキレディースの3人が飛び出してきた。その後にパンスト団が続く。 「「「ハラマキレディース、参上!」」」 再び手をヒラヒラさせるポーズを、今度は地球人に見せつける。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 その後ろではスパイとしての任務を終えた青と赤いのハイグレ人間が仲良くハイグレポーズを繰り返している。 「「「な、なんて羨ましんだ!」」」 「「何て恐ろしい。でしょ!」」 Tバック男爵とは打って変わって、スタイルの良い美女3人組にの登場に興奮を隠せない男性陣へみさえとよしなが先生が突っ込んだ。 そんな緊張感のないやり取りなんて気にも留めず、リーダーはパンスト団に命令を下す。 「さあ、みんなハイグレ姿にしておしまい!」 ハラマキレディースはその場にしゃがみ込み、総動員したパンスト団がハイグレ銃を構えると、一斉射撃を開始した。 「どわあぁ!」 北春日部秘密研究所での1人目のハイグレ人間となったのは園長先生だった。 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 緑色のハイレグを着せられ、地球人のど真ん中で苦しそうにハイグレポーズを開始する。間近で見る初めてのハイグレ人間として、園長先生はまじまじとみんなに見つめられることになった。 「ああああぁぁぁぁ!」 2人目は立ち尽くしていたマサオくんが狙われた。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレェッ!」 真っ赤なハイグレ人間として、ハイグレポーズを開始する。 「い、いかん!」 やっと状況を把握してきた北春日部博士がリリ子へ指示を出す。 「リリ子くん、しんのすけくんだけでも助けるんだ!」 「はい!」 リリ子は光線を掻い潜り、逃げ惑って散り散りなってしまった人の中から野原一家を探した。 「ネネちゃん、僕たちも逃げよう」 風間くんがネネちゃんの手を引こうと振り向いた。 「きゃああああああああ!」 ネネちゃんは、風間くんの目の前でハイグレ光線に包まれた。 「ハイグレ…‥ハイグレ…‥ハイグレ…‥ハイグレ…‥」 ピンク色のハイレグを着て、青ざめた顔で弱弱しくハイグレポーズを始めたネネちゃんを心配そうに風間くんは見つめる。ハイレグ独特の腰まで切れ上がる切れ込みと、細い股布が未発達の体をきゅっと締め付けている。 「うわあああ!」 呆気にとられ、その場に立ち尽くしてしまっていた風間くんもハイグレ光線を浴びせられる。 「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ!」 ネネちゃんと同サイズで色違いの青いハイレグ水着を着せられた風間くんは、ハイグレポーズのペースもネネちゃんに合わせて、2人揃って繰り返した。 「ハイグレ…‥ハイグレ…‥ハイグレ…‥ハイグレ…‥」 「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ!」 ハイグレ光線が襲うのはバスでやってきた人々だけではない。銃口は研究員にも容赦なく向けられる。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」 「ハイグレェッハイグレェッハイグレェッハイグレェッ」 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 アクション仮面の仲間であっても、ハイグレ星人を撃退しようとしていても、ハイグレ光線を打たれてしまっては意味がない。女も男も白衣を脱いでその場でハイグレポーズを繰り返す。 パンスト団の近くにいる研究員から次々とハイグレ人間へと変えられていった。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 バリアーを守り上尾先生に回し蹴りを受けた研究員も、上尾先生と取っ組み合いの戦いを繰り広げた研究員たちも、最後に投げ飛ばされた研究員も今では彼女と同じハイグレ人間になっていた。 上尾先生とまつざか先生にとって彼らなど眼中になかった。彼女たちの視線の先にはよしなが先生の姿があった。 もうふたば幼稚園の教員でハイグレ人間になっていないのはよしなが先生だけだった。 よしなが先生はボーちゃんと一緒に逃げ惑っていた。逃げる道を間違って行き止まりへと追い込まれてしまう。乱雑に積まれたダンボールを見上げて立ち尽くす。 そこにボーちゃんへとハイグレ光線が飛んできた。 「危ないっ!」 よしなが先生がハイグレ光線に飛び込む。 「ああああああああ!?」 よしなが先生の悲鳴が響く。 「ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ」 教え子の盾になり、よしなが先生は黄色いハイグレ人間へと生まれ変わった。 「ボオオオオオオ!」 よしなが先生の隣が真っ赤に光り、珍しいボーちゃんの悲鳴が響く。 「ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ」 しかし、よしなが先生はついさっき盾になってまで守り抜こうとしたボーちゃんがやらても、動じることなくハイグレポーズを刻み続ける。ハイグレ人間となった彼女にとって、仲間が増えることは歓迎すべきことだった。 「ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェッ!」 「ハイグレ……、ハイグレ……、ハイグレ……、ハイグレ……」 よしなが先生の盾も虚しく、わずか数秒後にボーちゃんもハイグレ人間へと転向した。黄緑色のハイレグ水着を抵抗する様子もなく着こなしている。 よしなが先生も教え子の隣で不揃いだが、仲良くハイグレポーズを刻む。これでふたば幼稚園の教員は全員がハイグレ人間になってしまった。 「ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ」 「ハイグレ……、ハイグレ……、ハイグレ……、ハイグレ……」 まつざか先生は今もハラマキレディースとパンスト団を讃えるハイグレポーズを刻み続けながら、実によしなが先生らしい転向の仕方だと笑顔になっていた。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 上尾先生も最後の仲間がハイグレ人間となったことで笑顔が溢れる。 リリ子は野原一家を安全な場所へと誘導している真っ最中だった。 悲鳴とハイグレコールが室内を支配するなか、リリ子の力強い声を頼りに野原一家は必死に後ろをついていく。 「こっちへ!」 「うわあああああああ」 「父ちゃん!」 「あなた!」 「たい!」 光線に包まれたのは、一家の大黒柱である野原ひろしだった。 「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレェッ!」 水色のハイレグ水着になり、体毛丸出しでも必死にハイグレポーズを繰り返すひろし。そんな父の姿に、家族は悲しみを通り超して少し呆れてしまっていた。 「さあ早く! みんなを守るためにも、ここにいてはいけないわ!」 リリ子は残された家族4人に叫んだ。 みさえはひまわりを強く抱き、しんのすけと共にリリ子の開けた隠し部屋へ続く通路へと走って行った。 「たああああああ!?」 みさえの斜め後ろから発射されたハイグレ光線が、ひまわりを包み込んだ。 「ひ、ひま! ああああああああああ!?」 思わず立ち止まってしまったみさえにも、同じ角度から再び発射されたハイグレ光線が命中する。 大の字になったみさえは、それまで大切に抱いていた、ひまわりを放り投げてしまった。 「たっ! はいぐれっはいぐれっはいぐれっはいぐれっ」 しんのすけ、リリ子、北春日部博士は目を疑った。言葉はもちろん、立つことすらできなかったひまわりが、自ら一人前にハイグレポーズを行っていた。 「ひまが立って喋ってる……!」 しんのすけが驚いたように黄色い水着を着た妹の後ろ姿を見つめる。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 しかし、両親は自らもハイグレ光線の洗脳と戦っていて、それどころではなかった。 みさえは明るいオレンジ色のハイレグ水着姿で、ひろしと同じペースでハイグレポーズを繰り返していた。 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「はいぐれっはいぐれっはいぐれっはいぐれっ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 しんのすけ1人を残して野原一家はハイグレ魔王のしもべとなってしまった。あともう少し時間が経てばアクション・ストーンを飲み込んだ息子を嘆くことになるだろう。 リリ子はしんのすけを連れて隠し部屋の中に入った。 あとは北春日部博士を待つだけだった。リリ子が分厚い扉へ手をかけて博士を待った。 研究所内はハイグレ人間の割合が完全に逆転した。ふたば幼稚園の教員は全員がハイグレ魔王に忠誠を誓った。園児たちもしんのすけを残してハイグレ人間へと生まれ変わった。もう1つの地球からやってきた、ハイグレ魔王の襲来を知らなかった野原一家も、これもしんのすけを残して全員がハイグレ魔王のしもべとなった。 北春日部秘密研究所の職員も、全員がハイグレ人間に変えられてしまっていた。残すは看板を背負う北春日部博士のみだ。もう彼を守る部下は誰もいない。博士の腹心も、正義感の強かった部下もみんなハイレグの水着姿でハイグレ星人の忠実なしもべとしてハイグレポーズを繰り返している。 「ここから先は一歩も行かさんぞ!」 北春日部博士は隠し部屋へと続く通路へと、大の字になって立ち塞がった。 北春日部博士にとって2人は残された希望だった。 周りを見渡すと、自分を含めた3人以外は全員ハイグレ人間になってしまっていた。 自分たちがアクション戦士として連れてきた少年の家族、その少年の幼稚園の先生と友達。一緒に幾多の敵と戦ってきた研究所の仲間たち。みんなハイグレ人間の言いなりなってしまった。 スパイに仕立てあげられた2人の侵入を許したのも自分の甘さが原因だ。しんのすけにアクション・ストーンを誤飲させてしまったのも、自分が飴なんかにカメモフラージュしたからだ。もう自分に出来ることはこれしかない。最後まで残された2人の盾になることだけ。 一瞬、遠くにいたハラマキレディースのリーダーと目があった気がした。しかし、気づいた瞬間に北春日部博士はハイグレ光線に包まれた。 「だああああああああああ」 強烈な痺れで両手両足がピンと真っ直ぐに伸びる。白衣が引き剥がされ、シャツや下着の感覚がなくなっていく。着ていた服の感覚が全てなくなる。しかし、裸になったわけではない。体をピッチリと覆う、これまで経験したことのない新しい感覚が体を包んでいる。全身ではない。足も腕には包まれている感覚はない。ぴちっと張り付くように包まれているのは、胸と腹、背中に臀部。そして股間。 北春日部博士はこの感覚の正体が何かすぐにわかった。 ――これがハイグレ水着……か。 光線から解放され、体の硬直が解かれる。しかし、自由になったわけではない。博士はこの後、自分がどうするべきか理解した。これまで見てきた予備知識などではなく、純粋にするべきことがわかった。 すでに両足は大きく開いている。あとは腰を落とすだけだった。開いていた両手を股間へと持って行く。 なんでみんながハイグレ光線を打たれた後に抵抗できないのか不思議だったが、ハイグレ人間になってようやくわかった。 ――ハイグレをするんじゃ……。 もう強力な洗脳が始まっているのだ。ハイグレ星人に敵対心があればあるほど洗脳の威力は強くなる。 ――早くハイグレをするんじゃ……。 必死に抵抗する博士に博士が命令する。抗うことはできない。 「ハ……ハイグレェ〜!」 北春日部博士も屈してしまった。Vラインに沿って思い切り体を反り上げる。 ――そうじゃ。もっと……もっとハイグレ魔王様にハイグレを捧げるんじゃ。 「ハイグレェ〜! ハイグレェ〜! ハイグレェ〜! ハイグレェ〜!」 博士は全身を激しく動かしてハイグレポーズを捧げる。 ――ハイグレ。ハイグレ。わしはハイグレ人間。ハイグレ魔王様のしもべ。ハイグレ……違う! わしは……わしは……わしはハイグレ人間……そうじゃ……わしはハイグレ人間……ハイグレ魔王様の忠実なしもべ……。 隠し部屋の扉が閉められる重い音が聞こえる。地球人2人と、アクション・ストーンを逃してしまった。これは重罪であり、あとで厳しい罰を受けても仕方がないと覚悟する。 それと一緒にリリ子の悲しげな声も聞こえた気がしたが、そんなことは北春日部にとっては重要なことではかった。 「ハイグレェ〜! ハイグレェ〜! ハイグレェ〜! ハイグレェ〜!」 リリ子が重い扉を閉めると、隠し部屋の中は驚くほどの静寂に包まれた。先ほどの悪夢のような喧騒が嘘のようだ。 「……」 リリ子は博士がハイグレ人間になってしまったショックで黙って俯いている。 「オラたち……これからどうなっちゃうの?」 しんのすけの声がぼんやりと響く。 真っ暗な室内には、リリ子としんのすけの2人だけだった。 リリ子が重い口を開く。このままずっとここにいるわけにもいかない。 「しんのすけくん、アクション仮面カードを貸してくれる?」 「ほい!」 しんのすけはポケットからナンバー99のカードを取り出した。 リリ子はカードを受け取ると、扉とは反対側の壁に彫られた溝にはめ込む。 すると、壁が開き1台の三輪車が姿を現した。 「北春日部博士の作ったスーパー三輪車よ」 説明をしながらリリ子はしんのすけにカードを返す。 「あのね、しんのすけくん。いまハイグレ魔王がいるところは、向こうとこちらの世界の入り口なの。そこに行けばアクション仮面をこちらの世界に呼ぶことが出来る」 「そしたらアクション仮面にハイグレ魔王をやっつけてもらえばいいんだ!」 「そうよ。私とこの3輪車で一緒に新宿まで行って欲しいの。できる?」 リリ子自らも飛行ユニットを背中に装着して、しんのすけに確認する。 「オラやる! オラが地球をお助けするんだ!」 しんのすけは迷うことなく即答だった。 「「「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ」」」 研究所内には相変わらずハイグレポーズを行うハイグレ人間の声で満たされたいた。しかし、バラバラだったハイグレポーズは揃えられ、抵抗を続けるハイグレ人間もいなくなり、悲鳴のような不快な声も消えていた。 ハイグレ星人に捧げるハイグレポーズで統一されている。 更にはハイグレ人間たちは綺麗に整列させられ、ほぼ1箇所でまとめられていた。 ついさきほど洗脳されたばかりの、ひろし、ひまわり、みさえ、北春日部も従順に整列して周りと同じタイミングでハイグレポーズを繰り返している。 上尾先生とまつざか先生も、よしなが先生を挟み込むようにして、列に加わっている。 1列目に子供たち、2列目に大人、3列目は研究員たちと適当な並べ方だったが、ハイグレ人間たちは、自分の持ち場から精一杯のハイグレポーズを正面で見ているハラマキレディースへと捧げる。 「「「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ」」」 「これだけ並ぶと見応えありますね、リーダー!」 前2列だけでも10人以上のハイグレ人間の大合唱を見ながら興奮気味にオレンジが言う。 「作戦は成功のようね」 リーダもすっかり潮らしくなった北春日部の姿を見て満足に言う。 「ところで、アクション・ストーンは見つかったの?」 リーダーがオレンジに聞いた。 「それなら今調べて――」 「リーダー……」 浮かない顔でムラサキがやってくる。 「全員の体とハイグレをチェックしたんですが、見つかりませんでした……」 「なんですって!?」 リーダーは慌てて北春日部の前へと飛んでいく。 「ア、アクション・ストーンはどこに隠してるの!?」 リーダーは北春日部の方を掴んで動きを止める。それに合わせて周りのハイグレ人間もハイグレポーズを行うのをやめた。 「申し訳ありません。すでにまつざか先生に報告したのですが、しんのすけという少年が飲み込んでしまって……少年は今、あの部屋の中です」 北春日部博士が隠し部屋を指した。 「ちょっと、私たちの報告ミスたっていうの?」 まつざか先生が身を乗り出して博士に詰め寄った」 「い、いえ決してそういう意味では……もともとわしが厳重に管理していれば、今すぐにでもハラマキレディー様にお渡しできたのです……」 弱弱しく北春日部が釈明した。 「ふん。元はと言えばしんのすけくんが意地汚いのがいけないのよ。一体どんな教育をしてるのかしら、ひまわり組は」 まつざか先生の怒りは収まらない。 「まつざか先生の言う通りだわ。私がもっとしんちゃんに厳しくしていれば……」 彼女の隣にいたよしなが先生も謝る。 「まあ幼稚園では教えることに限界があるし、ご両親の教育にも問題があったんじゃないのかしら」 ギクリと野原夫妻が体を震わせる。 「こ、この度はうちの息子がとんだご迷惑をおかけして申し訳ありません」 「私たちが親として、ハイグレ人間として罪を償っていきますので、どうかお許しを!」 すると、2人は列から離れて、ハラマキレディースの3人の前へひれ伏した。 「私たちまでハイグレ人間にしてくださったハラマキレディー様には感謝してもしきれません!」 「ど、どうかうちのしんのすけにも寛大な措置をお願いします!」 水色とオレンジのハイグレ人間がぷるぷると震えながら床に貼り付いている。 リーダーはその様子をしばらく黙って眺めたあと、大きく息をすこんだ。 「私語は慎めみなさい! 大人しく整列しているのよ!」 大声で怒鳴ると、野原夫妻は慌てて列に戻り、まつざか先生、よしなが先生、北春日部博士は口を一文字に閉じて、正面を向いた。 「ハイグレ人間ごときはあたしたちの作戦に口を出すんじゃないわよ! ほら、ボケっと突っ立ってないでやることやりなさい」 「はいぐれっはいぐれっはいぐれっはいぐれっ」 真っ先にハイグレポーズを再開したのはひまわりだった。 残りのハイグレ人間たちも慌てて再開する。 「「「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ」」」 室内は再び規律のとれたハイグレポーズが再開された。 「リーダー、何者かが、この場所から飛び出して行ったのがレーダーに映っています」 「アクションストーンを持って逃げたわね!」 レーダーにはふたつの印が転変して研究所を表す家マークから遠ざかっていく様子が映し出されていた。 しかし、レーダーシステムはすでにハラマキレディースの管理下に置かれている。逃げることは不可能に近い。 「よし、追うわよ――」 「お待ちなさい」 天井から聞こえるハイグレ魔王の声。 ハラマキレディースは辺りを確認するが見当たらない。 「ここよ。ここ」 「ハッハイグレ魔王様!?」 魔王の姿を真っ先に見つけたのは北春日部だった。 リリ子とミミ子がよく使用していた通信機の画面に、ハイグレ王の姿が映し出されていた。 「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」」 ハイグレ星人、ハイグレ人間たちが一斉にハイグレ魔王へ挨拶を行った。 「誰かと思ったら北春日部じゃない。その様子だと、ようやくあたしの偉大さに気づいたようね」 「はい。偉大なるハイグレ魔王様のしもべとなれて光栄でございます。ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」 北春日部博士は深々と股を開いたハイグレで、かつての敵に絶対服従を誓った。 「フッフフフフフ、いいでしょう。邪魔してくれた分、たっぷりこきつかってあげるわ。ところでハラマキレディース?」 たっぷり笑ったあと、冷たい声で幹部たちの名前が呼ばれる。 「は、はい……」 代表してリーダーが返事をする。 「聞いてたわよ。アクション・ストーンを回収できなかったんですってね」 「申し訳ございません」 リーダーが深く頭を下げると、部下2人もそれに倣った。 「アクション・ストーンはわしが――」 「それが私たちが――」 「お黙り!!」 好き勝手に喋り始めようとするハイグレ人間をハイグレ魔王が一喝した。 「今回は地球人程度の行動を読み切れなかった私たちに問題があるわ。そうでしょう?」 ハイグレ魔王はリーダーに問いかける。 「はい。この場にいるハイグレ人間の行動や単純で容易く予想ができたのですが……」 「予想外の行動する地球人が、城へ向かってるのね」 「はい」 「ならあたしたちもその地球人の予想を超えていくだけよ」 ハイグレ魔王は笑いながら言う。 「あら、もう城に着いたようね。映しておいてあげるから、あんたたちはそこで見ていなさい」 「ハ、ハイグレッハイグレッハイグレッ」 「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」 「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」」 全員のハイグレポーズを見終えると、ハイグレ魔王は王室から消えて、ハイグレ城の入り口に映像が切り替わった。 ハラマキレディースとしもべたちは、画面をじっとみつめている。 ハイグレ魔王の城の入り口は、緑色の仮面の口の部分だった。 「ふう、着いたわね。しんのすけくん大丈夫?」 「オラは平気だぞ〜」 カメラで研究所のハイグレ人間たちに見守られながら、2人は城の中へ向けて歩き始めた。 「待って!」 2人を呼び止める声が聞こえた。他人ではない聞き憶えのある声だった。振り向くと、リリ子とまったく同じ顔を女の子が立っていた。 「ミ、ミミ子!? どうして……」 妹の登場に驚きを隠せないリリ子。 「ミ、ミミ子ちゃんが2人……?」 しんのすけが交互に2人を見比べている。 「前もいったけど、私はリリ子。ミミ子はあの子よ。2人ともアクション仮面の可愛いパートナー」 「ほぉほぉ」 しんのすけは頷きながら返事をした。 「でも、それは数日前までの話よ」 ミミ子は笑いながら言った。 「ミミ子くん!?」 北春日部博士と研究員たちが少しざわついた。 「黙って見てなさい」 リーダーが低い声で言うと、彼らは口を閉じ映像に集中した。 嫌な予感がした。彼女にとってありえないと思ったが、心が少しざわめく。 「ミミ子……これは一体どういうこと?」 「実はね、ハイグレ魔王様がアクション仮面から本物のアクション・ストーンを手にいてられたときにね」 「ハイグレ魔王……様……?」 リリ子は瞬時に反応した。 「そうよ。だって忠誠を誓った方を呼び捨てにするわけにはいかないでしょう?」 にやりとミミ子が笑う。 「ハイグレ魔王様がアクション仮面を爆発事故に見せかけて倒された後、私のところへも来てくださったの。そしてハイグレ人間へと転向することを許してくださったわ。あんなに拒んでいた私を優しく受け入れてくださったハイグレ魔王様のような方こそ、地球の支配者に、いいえ、全宇宙の支配者にふさわしいわ!」 大声で叫ぶと、ためらいなくミミ子はセーラー服を脱ぎ捨てた。ぴっちりと体に張り付いた水色のハイレグ水着が現れる。 「私はハイグレ魔王様に永遠の忠誠を誓ったハイグレ人間よ! ハイグレッハイグレッハイグレッ」 誇らしげにハイグレポーズを披露する妹を見てリリ子は言葉を失っていた。 「リリ子が全部状況や作戦を話してくれたおかげで、とってもやりやすかってハイグレ魔王様とハラマキレディー様にお褒めの言葉を頂いちゃった。特にアクション戦士の情報はお役に立てて頂けたそうよ!」 ミミ子は誇らしげに語る。 「心残りは、また基地の場所が変わってたことね。ちゃんと私にも教えてよ。隙あらば聞き出そうと思ったんだけど……でも、ハラマキレディー様が素晴らしい作戦を思いついて下さったおかげで、この件には私の出る幕はなかったんだけどね」 リリ子は目を閉じて、変わり果ててしまった妹の顔を見ないようにして立ち尽くしていた。 「まずはアクション戦士とアクション・ストーンからまとめて片付けましょう」 その言葉にリリ子が顔を上げると、すでに彼女たちは無数のパンスト団に囲まれてしまっていた。 「しんのすけくん、中へ逃げるのよ! しんのすけと一緒に城内へ避難しようと、リリ子は彼のもとへ走り出した。 「しんのすけくうううううううん!!」 「おわああああああああああああ!?」 リリ子の叫びも虚しく、しんのすけは大量のハイグレ光線を浴びせられた。 激しい光が消えると、真っ赤なハイレグ水着姿のしんのすけが現れた。 「はいぐれ、はいぐれ、はいぐれ、はいぐれ」 しんのすけは、落ち着いた表情のままハイグレポーズを開始した。 「ふふふ、これでアクション・ストーンは逃げも隠れもできなくなったわね」 ミミ子が笑顔でリリ子へ言う。 「はいぐれ、はいぐれ、はいぐれ、はいぐれ」 リリ子はハイグレポーズを繰り返すしんのすけへと呼びかける。 「しんのすけくん! 私と一緒にアクション仮面を呼ぶんでしょ! 助けて!アクション仮面!って」 「でもそれ言ったらアクション仮面がこっちの世界に来ちゃうんでしょ?」 逆にしんのすけが質問してきた。 その質問にはリリ子の代わりにミミ子が答えた。 「そうよ。だからアクション仮面は呼ばないで、ハイグレ魔王様がいらっしゃるのを待とうね」 「おら、ハイグレ魔王様さまがいらっしゃるの待つ! はいぐれ、はいぐれ、はいぐれ、はいぐれ」 研究所ではアクション戦士であるしんのすけがハイグレ人間となり、アクションストーンごと手に入れてしまったことに驚きの声が広がっていた。 「あの子、ハイグレ人間にして頂いたら、すっかり聞き分けがよくなって……」 みさえが安堵と感動の涙を流している。 しばらくして、再びモニターにあの男が映った。 「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」」 研究所内は一斉に3回のハイグレポーズか行われ、ピンと張り詰めた空気になった。ハイグレ魔王がミミ子たちもとに現れた。 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 「はいぐれ、はいぐれ、はいぐれ」 2人のハイグレ人間も魔王へ向けて忠誠を誓う。ハイグレ魔王は仮面とマントを外し、素顔でピンク色のハイレグ水着姿だった。 「どう? 久しぶりのこちらの世界は?」 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ。まさかハイグレ魔王様に転送して頂けるなんて……ハイグレ魔王様が支配する地球……夢のような世界です」 「それはよかったわねぇ」 目をキラキラさせて答えるミミ子を見ながら、ハイグレ魔王はゲラゲラと大笑いしていた。 ひとしきり笑うと、ハイグレ魔王は本題に入る。 「さあ、坊や、こっちおいで」 「ほいっ」 ハイグレ魔王が手招きすると、大人しくしんのすけは魔王の手中に収まった。 「今、邪魔なものを取り除いてあげるわ」 ハイグレ魔王が手をしんのすけのお腹にかざす。手のひらが真っ赤に光、お腹に照射される。 やがて、ぬるりとピンク色の石がしんのすけのお腹から飛び出し、ハイグレ魔王の手のひらに収まった。 「いただき」 「あはは、いただかれちゃったあ」 しんのすけは顔を真っ赤にして笑う。 「何こいつ変なやつね……」 「変なやつじゃないぞ。オラはハイグレ人間だぞ」 「あっそう。まあ、あたしの言うことを聞くならそれでいいわ。あんたこれ欲しい?」 ハイグレ魔王は、ついさっきしんのすけの体内から手に入れたアクションストーンを無防備に披露する。 「オラいらなーい」 しかし、しんのすけはあっさり拒否する。 「あら、なんで?」 「だってハイグレ魔王さまのがずっとずっとカッコイイんだも〜ん!」 「だそうよ。残念だったわね」 ハイグレ魔王はリリ子へアクション・ストーンを見せつけた後、天高く掲げた。 「砕けよ!」 リリ子の目の前でアクション・ストーンは粉々に砕け散った。 「アクション仮面がこちらの世界に来られないのに、アクション仮面のパートナーは必要ないわよね?」 パンスト団が上空からリリ子を包囲し、ハイグレ銃を向ける。 「あなたは間違っている! 私は絶対に卑劣な洗脳なんかに屈しないわ!」 「リリ子、ハイグレ魔王様になんて失礼なことを!」 「ホホホ、いいのよ。どちらが正しいかなんてすぐにわかることなんだから」 「そうよ。私たちは負けない! 正義は必ず勝――」 ハイグレ城から見える太陽は少しづつ傾き、わずかにオレンジ色を帯びてきている。 「あの不恰好な飛行艇は……北春日部ね」 ハイグレ魔王は遠くからオマルに先導されてやってくる飛行物体を眺めていた。 「ほら、お迎えが来たわよ。いい加減静かにしなさい」 ハイグレ魔王がハイグレ人間をたしなめる。 「ハイグレッハイグレッハイグレ……ああん、ハイグレ魔王様ぁ、お願いですもう少しだけ……」 ハイグレポーズをやめされられたハイグレ人間はまだ物足りなさそうに両手でもじもじと股間を揉んでいる。 「こんな素敵な場所で、偉大なるハイグレ魔王様へ直接忠誠を誓うなんて機会、私のようなハイグレ人間には最初で最期なんです……」 「それはさっきも聞いたわよ。それであと5分だけって約束だったでしょ」 「私にはハイグレ魔王様が全てなんですっ」 「仕方ないわねえ……あと少しだけよ」 「わあ! ありがとうございます。 それじゃあ、う〜んと脚を開いてっ、ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!」 ピンク色のハイグレ人間は弾ける笑顔でハイグレポーズをおねだりしては、捧げるを繰り返していた。 「もうリリ子も立派なハイグレ人間ね」 ミミ子が遠くから姉を見ながら微笑ましく見ている。 あの後、パンスト団にハイグレ光線の一斉射撃を受けたリリ子は抵抗する暇もなく、ハイグレ魔王に忠誠を誓った。 それからずっとハイグレ魔王へ忠誠を捧げっぱなしだった。 「さて、ハラマキレディースを出迎えなきゃね」 ハイグレ魔王はリリ子を振り切り、見晴らしのいい場所までやってきた。 「オラ、ハイグレ魔王さまが、おなかからアクションストーンをスポーンって取り出してくれたこと……一生忘れない」 「ホホホ、お、お安い御用よ」 面倒なハイグレ人間に挟まれてしまった。 「ハラマキレディー様にもお詫びをしなければ! おかえりなさいませ! ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」 「わかったから少し黙ってなさい!」 ハラマキレディースのオマルが入り口に着陸する。 「ご苦労だったわね」 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 「はいぐれ、はいぐれ、はいつれ、」 ハイグレ魔王と、ハイグレ人間3人に出迎えられる。 「ハイグレッハイグレッハイグレッ」 「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」 3人もハイグレ魔王へハイグレポーズを捧げる。 「ハラマキレディース、北春日部の基地を殲滅させ、帰還いたしました」 「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」」 ハラマキレディースの後ろに控えている、北春日部の基地で殲滅され、ハイグレ人間となったしもべたちがハイグレポーズを捧げる。 「いいでしょう。アクション・ストーンの件は大目に見てあげるわ」 この言葉に喜んだのはハラマキレディースよりもハイグレ人間だった。 「ありがとうございます……ハイグレ魔王様のような寛大なお方のしもべになれて、わしは幸せです」 「ハイグレ魔王様のいない世界に戻るなんて考えられません。俺たち家族はハイグレ人間としてこの世界に残り、生涯ご奉仕致します!」 「私たちのようなハイグレ人間にもどうかご命令を!」 「オラもハイグレ魔王さまのためにしっかり働くぞ!」 「私はもうアクション仮面のパートナーなんかじゃありません! ハイグレ魔王様のしもべ、ハイグレ人間です。ハイグレッハイグレッハイグレェ!」 ハイグレ光線を浴びて、反逆者も異世界人も、ヒーローに命運を託された子どもも全員ハイグレ魔王の言いなりになった。自分の置かれた環境を疑問に思うこともなければ、不満に思うこともない。 「さあみなさん!」 ミミ子がハイグレ人間たちに呼びかける。 「私たちの支配者であるハイグレ魔王様とハラマキレディー様がここにいらっしゃいます。あとは分かりますね?」 ハイグレ人間たちは全員が一瞬にしてガニ股になった。 「「「それではみなさんご一緒に」」 ミミ子とリリ子の揃った声が合図になった。 「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」」」 ハイグレ人間たちは残っていた力を出し惜しみせず、全力で忠誠を誓った。 「「「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!」」」 ハイグレ魔王のしもべとして忠誠を誓うこと誇らしげに、ハイグレ人間たちはハイグレポーズを捧げる。 「「「ハイグエレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」」」 もう夕陽は沈みかけていたが、ハイグレ人間たちを誰を止めない。その場からハイグレ魔王とハラマキレディースがいなうなっても、帰還したTバック男爵が気持ち悪そうに彼らを見て、通り過ぎても、ハイグレ人間たちはハイグレポーズをやめることはなかった。 「「「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」」」 ハイグレ人間たちの忠誠を捧げる行為は夕日が朝日になるまで続いた。 もう彼らにはハイグレなしの生活は考えられない。 ハイグレ魔王に支配されない世界で生きていくなんて考えない。 いや、考える必要もない。 考えるのはハイグレ魔王の仕事。そのしもべであるハイグレ人間は命令に従っていればいい。 それがハイグレ人間だから。 「「「ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!!ハイグレッ!!」」」 |
ぬ。
http://haiguress.blog.fc2.com/ 2016年07月23日(土) 17時00分58秒 公開 ■この作品の著作権はぬ。さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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遅くなりましたが、リメイクお疲れ様です。 先日再編されました「スパイ まつざか梅」と比べましても、同じ題材の中で展開を変え、見せ場の強弱すら調整できるぬ。さんの文才は素晴らしいの一言です、まさに変幻自在! 大きなくくりで言えば同じ二次創作SS作家として、多角的な視点を見習おうと思います。 それでは、またスレでお会いしましょう〜 |
牙蓮 | ■2016-07-29 22:50:42 | 121.106.168.203.megaegg.ne.jp | |
お疲れ様です 原作をいろいろな角度で書けるのには、流石の一言です 主要キャラのシーンだけでなく通行人が突然の来襲に驚き、そして洗脳されいく様子や アナウンサーが実は泳がされているだけであったり今までもそういう人が大勢いたり そういう描写も嬉しい所です(モブ洗脳シーン好きなので) |
akariku | ■2016-07-24 21:19:24 | p345023-ipngn200206takamatu.kagawa.ocn.ne.jp | |
いつの間にこんな大作を仕込んでいたのか(そしてクエストはまだなのか) やはり原作の改変リバイバルは最高ですね 原作に欲しかった登場人物や妄想していたシーンが ふんだんに盛り込まれていてお腹いっぱい大満足です きちんとアニメの声で再生されるのは原作リスペクター(造語)のぬ。さんの力あってでしょうね P.S.最近私用が忙しくてなかなかチャットに顔出せませんが クエストの更新は1日一度は確認します いずれまたフィーバーしましょう |
ROMの人 | ■2016-07-24 19:21:54 | softbank126122109144.bbtec.net | |
執筆お疲れ様です! しんのすけはハイグレ化しても相変わらずですね(笑) ハラマキやTバックの細かい描写ってあまり見ないので勉強になりました! 全体的に長くてもテンポよく読める文才は素晴らしいと思います。 |
満足 | ■2016-07-23 22:10:46 | om126204041038.3.openmobile.ne.jp |
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