【第2回】硬いようで硬い。でも少し脆いハイグレ【固め・授業・無様】





 1限目の終了を告げるチャイムが教室に響く。鐘の音を合図にペンを置き、生徒たちはリラックスした体勢になる。広い教室に机はわずか6つ。前後2列に分けられたうち、後列の2席は空席になっている。

「く〜っ! 座学は疲れるね〜」
 ロウズは立ち上がって大きく体を反らして伸びをする。腰ほどまである濃紺の髪の毛がふわりと広がる。
「あ、次の授業の校外実習だけどな、中止になったからこのまま教室に待機!」
 担任のマラナはそう告げると、教材をまとめて教室を出て行った。

「ええ〜!?」
 ロウズは衝撃の通告にガッカリして崩れ落ちる。
「残念だったね〜」
「最近はこの近くも物騒らしいからな」
 彼女の両脇のミントとマーシュが声をかける。
「妥当な判断ね」
 唯一後列に座るグラスが悔しそうに空席を見る。
「研究所の奪還に向かったロシェとラリネも行方不明のままだし……」

 数ヶ月前に起きた大きなハイグレ星人による襲撃によってロウズたちの拠点は奪われた。逃げ延びた僅かな人間を除いてほとんどの人たちがハイグレ星人に忠誠を誓うハイグレ人間へと洗脳されてしまった。
 奪還作戦の任務を受けて研究所へ向かった2人の仲間も帰ってくることはなかった。

「大丈夫。あの2人ならきっと無事よ」
 ミントはこの言葉を何度発しただろう。ミント以外のクレスメイトたちも幾度となく互いに掛け合った言葉。
「そうね。私たちアクション戦士は絶対に負けないわ!」
 グラスも慣れた様子で答える。もうすっかりお馴染みとなったやり取りだ。

「それにしても実習の代わりに何をするんだろうね〜……」
 けだるそうにロウズは机に突っ伏した。
「形式は学校として使ってるけど、ここはただの雑居ビルだからなあ……第3研究所とも距離があるし……1限目と同じく資料と睨めっこじゃないか?」
 マーシュは退屈そうに言った。
「そろそろ実践訓練もしないと体が鈍って固まっちゃうよ」
「ふーん。それじゃあ戦ってみる? それとも固まってみる?」
 幼い少女の声が教卓付近から聞こえた。

 教卓の前には青白い肌の赤髪少女が、赤いハイレグを着て仁王立ちしていた。
 彼女が何者なのか瞬時に理解したアクション戦士たちは直ちに戦闘状態に入る。

「みんな、変身よ!」
 ロウズの声を合図に、4人はベルトのバックルに手を当てた。
 少女たちは眩しい光に包まれ、制服から戦闘スーツへと姿を変えた。

 それぞれ色違いのセーラー服のような戦闘服姿になった4人は、侵入者を睨みつける。
「ハイグレ星人がいったいなぜこの場所を?」
 アクションレッドとなったロウズが聞いた。
「まさか迷い込んだ……なんて言わないわよね?」
「だとしたらとんだ迷い猫だなあ……」
 グリーンとイエローに変身したミントとマーシュが乾いた笑いを漏らす。
「理由はなんだっていい!」
 黒い戦闘スーツを着たグラスが声を荒げる。
「数多くの同胞を辱めてきたハイグレ人間の罪は重い! 我々の前にのこのこ現れておいて無事に帰れると思ったらおおおおおああああああ!?」
「ブラック!?」
 アクション戦士たちが一斉にグラスを見た。
  グラスは赤い閃光に包まれていた。
 光から解放されたブラックは、黒いハイレグ水着姿にされてしまっていた。
「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」
 グラスは真っ黒なハイグレ姿でガニ股になり、掛け声に合わせてキビキビと腕を鋭く切れ上がった股間のVラインに沿わせ上下させる。
「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」
 仲間たちに心配そうに見つめられながらハイグレポーズを繰り返すブラック。

「ハイグレ光線……? いったい誰が……」
 ロウズが辺りを見回すが、目の前にいるハイグレ星人以外に敵の姿は見つけられなかった。ハイグレ星人は、相変わらず腰に手を当てて仁王立ちしながらニヤニヤと笑っている。

「さあブラック。いえ、ハイグレ人間グラス。私たちの支配者の1人であるチロ様へと忠誠を誓いなさい」
 聞き覚えのある低く艶やかな声。聞いているとどこか落ち着く、慣れ親しんだ声。

「はい……マラナ先生……」
 グラスはその声に従い。一旦ハイグレポーズを止めて、ハイグレ星人へと向き直る。
「ハイグレッハイグレッハイグレッ! 私はアクションブラックから、ハイグレ人間グラスへと生まれ変わりました。これからはハイグレ人間としてチロ様をはじめとしたハイグレ星人様に永遠を忠誠を誓います!」
 曇りのない真剣な顔で言い終えると、グラスはその場でハイグレ星人へとひれ伏した。

 アクション戦士たちは、人一倍正義感が強いグラスが床に額を擦り付ける姿に驚きを隠せなかった。しかし、それ以上に彼女たちを動揺させる姿が飛び込んできた。

「マラナ先生……」
 弱々しくロウズが教室へと入ってきたハイグレ人間の名前を呼ぶ。マラナはオレンジのハイレグを身にまとい不敵に笑っている。

「ハイグレッハイグレッハイグレッ」
 オレンジのハイグレ人間は、ハイグレポーズを行ってから、ハイグレ星人へ跪く。
「チロ様、すでに1人減りましたが、この5人がアクション戦士の残党でございます」
 4人のアクション戦士に突き刺さるマラナの言葉。
 仲間だった2人が、侵略者へ屈して服従している。教師と学友の哀れな姿をアクション戦士たちは直視できなかった。
 そんな2人をチロは満足そうに見下ろしていた。自分よりも体の大きくても、チロにとっては自分には逆らえないただの奴隷でしかない。道具となんら変りなかった。
 チロは予定通り、ハイグレ人間を道具のように使って計画を遂行していく。

「これをみんなに配りなさい」
 チロはグラスに3つの包み紙を手渡す。グラスはハイグレポーズを3回行ってからそれらをアクション戦士に配っていった。ハイグレ星人に抵抗する様子など微塵も見られない。

「これは何の真似だ?」
 今にも包み紙を握り潰しそうな勢いでマーシュが聞いた。
「チョコレート……?」
 包装をほどいてみたミントが訝しげに観察している。
「そう。私の手作りよ」
 これまでとの強気な態度から一変して、照れ臭そうにチロが答える。地球人への突然のチョコのプレゼントを羨ましそうにハイグレ人間たちが見つめているのに気づいた。チロはさらに2つのチョコの包みを取り出すと、しもべたちに1個ずつ配った。
「よ、よろしいのですか?」
「私たちにまで……ありがとうございます」
 ハイグレ人間たちは感激で目を潤ませながらチョコを受け取った。
「さあ、みんな召し上がれっ」
「チロ様のご厚意に感謝して……」
「頂きます……」
 口に運ぶどころか、3人中2人は包みすら開けていない状態のアクション戦士をよそに、ハイグレ人間の2人はチョコを口に放り込む。
 ハイグレ人間たちは、チョコレートをゆっくりと舌で転がし、やわらかく溶けていく食感を楽しんだあと、名残惜しそうに飲み込む。
「とても濃厚なのに、しつこくない程よい甘さ……今までで食べたチョコレートの中で1番美味しいです」
「口の中ですぐに溶けてしまいました……口に残る甘みと香りがまるでチロ様の優しさのように、ふんわりと広がっています」
 チロの手作りチョコを絶賛するハイグレ人間たち。

「そりゃそうよ! 使ってる材料が違うもの!」
 チロが得意気に胸を張った。

「はっ! 侵略した場所にある貴重な材料を贅沢に使えるんだから当然だな」
 マーシュが黙っていられず吐き捨てた。

「アハハッ! 侵略した場所にある貴重な材料ですって?」
 チロがお腹を抱えて笑う。
「確かに当たってるかもね。アクション戦士はアンタたちにとっては貴重だろうし」

「ッ!?」
 彼女の言葉に3人の顔が凍りつく。
「たしか〜……ロシェとラリネって言ったかしら。贅沢に丸ごと使ってるのよ」
 楽しそうにケラケラとチロが笑う。

「あの子たちが……嘘よ!」
「そうだ! そんなことは絶対にありえない!」
「ハイグレ星人とはいえ趣味の悪い冗談ですね」
 アクション戦士たちは次々とチロへ非難の言葉をぶつける。

「お仲間の味はどうだった?」
 彼女たちの言葉など歯牙にもかけず、チロはハイグレ人間たちに感想を聞く。

「こんなに美味しく料理して頂けて、2人とも喜んでいると思います」
「羨ましいくらい美味しいです」
 うっとりとした眼差しをチロへと向けるマラナとグラス。
「そうでしょ! でもねえ……」
 チロは少し寂しそうな顔になる。
「今回は魔王様のご命令で、アンタたちはチョコじゃなくて像になってもらうわ」
「像……ですか?」
「そうよ。最後まで私たちに抵抗を続けた地球人の末路として、ハイグレ魔王様のお城に飾っていただけるのよ」
「わ、私たちがですか……?」
 その言葉にマラナとグラスはさらに目をうっとりとさせる。
「ハイグレ城の装飾品として永遠に存在できるなんて幸運ね。さあもう固まり始めてるわよ〜!」
 いたずらっぽいチロの言葉に急かされるように2人のハイグレ人間は慌てて股を開く。

「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!」
「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!」

 息のあったハイグレポーズを披露する。
 ハイグレ星人へ。チロへ、まだ見ぬハイグレ魔王へとハイグレを献げる。
 開始から数分。彼女たちの体に異変が表れた。
 裸足の足が白く変色していく。

「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!」
「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!」

 指先から踵、足首……すでに膝下は硬化して感覚が失われてしまった。
 しかし、ハイグレ人間たちは変わりゆく体に怯えることなく、力の限りハイグレポーズを続けようと一心不乱に叫び続ける。

「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!」
「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!」

「アハハッ! そうよ。そうやって立派な石像になりなさい!」

「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!」
「ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ!」

 大声で笑うチロの声援に応えるように、ハイグレ人間たちは迫り来る石化の時へ向けて、精一杯のハイグレポーズを献げる。
 硬化のペースは徐々に早まり、すでに彼女たちの太ももまで達していた、ガニ股の角度のまま灰色に固まっている。

「このままじゃ本当に固まるぞ! 今すぐその動きをやめるんだ!」
 マーシュの叫び声はかつての仲間たちに届くことはなかった。

「ハイグレェッ、ハイグレェッ、ハイグレェッ、ハイグレェッ!」
「ハイグレェッ、ハイグレェッ、ハイグレェッ、ハイグレェッ!」

 ハイグレを繰り返したことによって、様々な体液で濡れて硬くなったハイレグが2人の身体のいたる所を締め付ける。高粘度の分泌物が染み込んだ股布も秘部へと深く深く食い込んでいく。忠誠を誓い、真剣にハイグレを繰り返した結果得られた快感を拒む理由はない。マラナもグラスも下の口でしっかりハイレグを咥えて刺激を貪る。

「こっちはそろそろお別れね。バイバ〜イ」

「「ハイグレェ! ハイグレェ! ハイグレェ〜! ハイグレ――」

 グラスの声が途切れた。
 思い切り体を仰け反らせた体勢のまま真っ白く固まっている。だらしなく口を開け、乳首を突き立て、股間にハイレグを食い込ませる姿は地球の平和を守っていた戦士の姿とはひどくかけ離れたものだった。

「ハイグレェ! ハイグレェェェ! ハイ――」

 グラスに続いてマラナの声も消える。共に過ごし、時には親のように慕ってくれていたアクション戦士たちを、ハイグレ光線を打ち込まれ、ハイグレ人間へ転向したことであっさりと裏切った。自分をハイレグ姿にしたチロの命令通り動いた。後悔はない。あるのはハイグレ星人の命令に従う満足感のみだ。
 ちょっと残念だったのは教え子に先に像になられてしまったことくらいだ。教師として先に行って待っててあげたかった。
 マラナはグラスの姿を見ることができない。体の自由が利かなくなってきていた。最後は全員でハイグレ城に並べる姿を想像して彼女の意識は閉じた。

 賑やかった教室を嘘のように硬い静寂が包む。
 窓際にはハイグレ人間だった像が2つ。製造過程の一部始終を見せつけられて言葉を失うアクション戦士たち。彼女たちを横切り石像へと向かって歩きだす1人の少女。

「もしも〜し、聞こえますか〜!」
 だらしなく緩みきっているグラスのおでこをコンコンと叩くチロ。もちろんグラスはだらしない笑顔のままで反応なんてしない。
「聞こえていたら返事してくださ〜い」
 マラナの頭をぺちぺちと叩く。グラスと対照的にマラナは体を屈めて、Vラインに両手を添えた形で石化していた。もちろんどれだけ叩かれても微塵も動かない。

「石像2つ出来上がりっと」
 軽くパンっとグラスの股間を蹴り上げてからチロは教卓へと戻る。

「お前……よくも……」
 マーシュの声は震えている。

「あの2人を元に戻しなさい!」
 必死に憤りを押さえ込んでロウズが言った。

「そのチョコを食べてくれたら考えてあげてもいいよ」
「このチョコを……?」
 チロの提案に、ミントは持っていた丸いチョコを見つめる。仲間を助けるために仲間が材料というチョコを食べろというのか……。

「ふざけるな! グラスの仇は私が取る!」
 マーシュがチロへと向かって飛びかかる。
「ちょっとマーシュ! もうっ」
 止めてはみたが、ロウズもこの状況を打破する方法が見つからず、マーシュに続いた。ミントも2人を追う。
 マーシュの握り拳がチロの顔へと迫る。一切の躊躇のない本気の攻撃だった。
 ロウズも高く跳躍して、ハイグレ星人へと回し蹴りを浴びせようとしていた。
「さがりなさい」
 低い声で小さく呟き、チロは両手を広げる。手のひらからバリバリと青白い電光が走った。
 あともう僅かの距離で攻撃が届くはずだった。しかし、無情にも3人はチロの放った電撃を浴びて吹き飛ばされてしまう。

「さあ、食べてもらうわよ」
 次の瞬間、床に落ちていた3つのチョコレートがふわりと浮かんだ。
「えっと、包み紙がないのがグリーンで、あと2つは……適当でいっか」
 2つのチョコも包み紙が剥がされる。

「それを食べたら2人を元に戻してくれるのよね……?」
 ミントが聞く。
「気が変わったからそれはないかな〜」
「おい! 話がちがもご!?」
「先に約束を破ったのはどっちよ? おとなしく味わいなさい!」

 反論しようとしたマーシュの口にチョコレートが放り込まれる。続いてミント、ロウズの口の中にもチョコレートが突入する。

 噛まないようにと抵抗するが、口内で容赦なくチョコは溶けていく。吐き出そうとしても、チョコは口の外へと出て行ってくれない。じわじわと広がってくる香りと甘み。普通に食べたら美味しいと感じていただろう。文句なしの出来だった。

「どう? 美味しいでしょ」
 その問いに応える者はいない。全員チョコを口の中に留めている。抵抗を続ける3人へチロは軽く電撃を放つ。

「キャッ!? ああ……飲んじゃった……」
「私も……」
「クソ! さっきは油断したけど次は容赦しねえ!」
 マーシュは感想どころか、再びチロへ向けて攻撃を仕掛けるために戦闘状態に入った。

「あああ!? な、なにこれ……? か、体が……あっあつい……いやあああああああああ!?」
 悲鳴をあげならミントはその場へうずくまった。

「ミント!?」
「お前、ミントになにしやがった!」
 怒りに震えるマーシュをあざ笑うようにチロが答える。
「この星には1つだけ激辛のものを混ぜて同時に食べるゲームがあるらしいじゃない。今回は激甘にしちゃったけど……まあ、見ていればわかるわ」

 ミントの体には既に異変が訪れていた。戦闘スーツはゆっくりと溶けるように消えてしまい、代わりに緑色のハイレグ水着が彼女の体をキュッと締め付けていた。

「あっうっ……」
 急に押し寄せた刺激に耐え切れず思わず声を漏らすミント。

「さあ、1番甘〜い当たりを引いた感想を聞かせて」

「は……い……」

 ゆっくりと返事をして、ミントは立ち上がった。
 これまでに経験したことのないハイレグの鋭い切れ込みの快感で、既に股間はじんわりと湿っている。

「ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……」
 ミントはチロへ向けて躊躇うことなく腰を落としてガニ股になり、ハイグレポーズを行った。
「私はチロ様の素晴らしいお菓子によって、ハイグレ人間ミントとして生まれ変わることが出来ました。チロ様……どうか私もみんなと同じようにハイグレ城に飾ってください……! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレェ!」

 ミントは恍惚とした表情で転向完了を宣言した。像にしてもらうことは照れながら頼んでいたが、ハイグレに関してはハイグレ人間らしく、一切の恥じらいなどは感じさせず、本能のままに快楽を貪る。

「焦らなくてもすぐに固まるから安心しなさい」
「は、はいぃ……ハイグレ魔王様のお気に召して頂けるように頑張りますぅ……ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ、ハイグレェ〜!」

「ヒッ……ミント……足が……!」
 思わず両手を口に当てて、ロウズが悲鳴を漏らす。ミントの足の指が透明になり、電灯と窓から注がれる光を反射させていた。

「アンタはチョコを食べようとしてくれていたし、特別にクリスタルよ!」

「ハイグレェ、ハイグレェ、ヒャイグレェ……ありがとうございますぅ……ハイグレ人間として最高の幸せです……私もマラナ先生とグラスみたいに――」
 言い終える前にミントは透き通る彫刻のような姿で固まってしまった。笑顔でチロを見上げている。

「思ったより早かったわね。さてと、アクション戦士も残るは2人だけ」

 チロは新しい包み紙を2つ用意している。

「ロウズ、歯を食いしばって絶対に開けるなよ!」
 マーシュは駄目元で再び攻撃を仕掛けるつもりのようだ。
 
 ロウズもマーシュとともに攻撃を加える準備をする。像に変えられるなんて、死よりも悲惨と言われるハイグレ人間に洗脳されること以上にひどい仕打ちだ。最後まで絶対に抵抗するつもりだった。

「ひとつ提案なんだけど」
 緊張した様子もなくチロは笑顔で喋り始める。
「このゲームあんまり面白くなかったからやめた! 先に降参した方はハイグレ人間のままにしておいてあげる」
「どういうことだ?」
 マーシュが聞き返す。
「だからね、私に先に降伏すれば普通のハイグレ人間にしてあげるよって言ったの!」
「誰がお前ら侵略者に頭なんて下げるか! お前たちにやられたみんなの為にも私たちは最後まで戦う!」
 マーシュは怒りのあまり声を荒げた。
「ロウズ、お前も何か言ってやれ……ってお前……何をやってるんだ!?」
 マーシュの目に映ったロウズは、床に両膝を付いていて、さらに両手も続けようとしているところだった。
「石像になるくらいだったら、ハイグレ人間のほうがマシよ!」
 次の瞬間、アクションレッドはハイグレ星人へとひれ伏した。
「わ、私をハイグレ人間にしてくださいいいい!」
 短いスカートから純白のパンツが丸見えになっても気にせず、おでこを床にしっかりと着けて、尻よりも低い位置に固定する。

「お前……プライドってものはないのか!? だからレッドなのにサブリーダーなんだよ!」
「そんなの今は関係ないでしょ!」
「アクション戦士ともあろう女が、侵略者にひれ伏すなんて無様ね。いいわ! 面白かったからお前は固めないであげる!」
「あ、ありがとうございますううう……」
 ロウズはハイグレ星人を見上げて感謝の言葉を絞り出す。

「チッ……私は1人でも最後まで戦ってやる! うおおおおおおお!!」
 イエローは大きく跳躍してチロへと飛び掛った。しっかりと歯を食いしばり、口の中へ異物を投入されないように細心の注意を払う。

「うおおおおおおおおおお! ぎゃああああああああああああああああああ!?」
 空中でマーシュはピンク色の光線に包まれる。
「チョコに気を取られすぎて、コレがあるのを忘れるだなんておバカさんね」
 チロの手にはハイグレ銃が握られていた。ハイグレ星人が侵略に使う最もスタンダードな武器だった。

 光線から解放されたマーシュは緑色のハイレグ水着を着せられ、チロの目の前にゆっくり着地した。ぺたりと足が床に着く音が小さく聞こえる。
 笑うチロの目の前に立つマーシュは、身長差からチロを見下ろす形になった。
 マーシュは目線を正しい位置に修正するため、M字開脚のように深く膝を曲げて腰を落とした。そして、チロへ忠誠を示す為に、あのポーズを始める。
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 メンバーの中で1番運動神経が良いだけあって、難しい体勢からキレのあるハイグレを繰り出して行く。
 
「あら、緑が2人になっちゃった。あ、でも色は関係なくなるから別にいっか!」
「ハイグレッ!ハイグレッ! 色なんて気にまりません! チロ様からハイグレを頂けただけで私は十分です! ハイグレッ! ハイグレッ!」

「そんなぁ〜……それじゃあ、特別に金色にしてあげる!」
 チロは虹色のチョコを取り出す。
「特製マーブルチョコレートよ!」
 マーシュは何も言われなくても動きを止めて、口を開く。

「お食べ!」
 チロがチョコを口の中に放り込んだ。
 毒々しい虹色のチョコを抵抗なく受け入れるマーシュ。ゆっくりと味わう。

「大変美味しいです」
 満面の笑みでマーシュが言った。

「すぐ効果が出るから準備しなさい」
「はい!」
 マーシュはM字開脚の体勢を解き、立ち上がってピンと背筋を伸ばした。
 それから改めて通常のハイグレを開始する。

「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ! 全ては偉大なるハイグレ魔王様の為に! ハイグレッ、ハイッ!」

 金のハイグレ人間像は一瞬にして完成した。

「アハハッ! 一丁上がりっと」
 凛々しく固まったマーシュの顎をグッと掴むチロ。

「みんなの分も私が頑張って生きるわね……」
 像と化した仲間たちを哀れみながらロウズが言う。

「じゃあアクションレッド、逃げちゃ駄目だよ」
 すでにチロはロウズへとハイグレ銃を向けていた。もう抵抗する気力なんて残っていないロウズは、再びおでこを床につける。
「は、はい。チロ……様……」
 それがロウズがアクション戦士として最後に残した言葉になった。温かく、少し痺れる感覚が体を支配する。戦闘スーツだけではない。下着まで消えていくのがわかった。
 気がつくと体を締め付けるキツめの水着を着せられていた。洗脳過程は想像していた苦しいものではなく、むしろ心地よかった。水着の着心地も悪くない。

 徐々に自分がこれから行わなければならない事もよくわかった。これが洗脳されたということなだろうか。自然すぎて全く嫌悪感は感じない。そんなくだらないことを考えている暇があったら今すぐでもハイグレをしたい。ハイグレをしなくてはいけない。ハイグレを捧げなくては……。
 ロウズは素早く立ち上がる。ガニ股になる。手をVラインに添える。そして、叫ぶ。
「ハイグレェ! ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」
 真っ赤なハイレグ水着を着たハイグレ人間がそこには立っていた。
「ハイグレッハイグレッハイグレッ! ハイグレ人間ロウズは、これまでの行いを深く反省し、ハイグレ魔王様のしもべとして一生お仕え致します! ハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッハイグレッ」

 ロウズは全力でチロへとハイグレを捧げ、忠誠を誓った。
 チロは新たに誕生したしもべに早速命令を下す。
「うん。じゃあコレ食べて」
「ハイグレッハイグレッ……え、これは……?」
 チロが差し出したのは角砂糖だった。
「早く!」
「ハッハイグレッハイグレッ!」
 ロウズはビクッと体をすくませてから、自分の立場を思い出したように慌てて角砂糖を口に入れた。

「甘い?」

「は、はい……とても甘いですけど……これは?」
 味も形もなんの変哲もない角砂糖だった。
「甘いって〜! 良かったねカガミ!」
「カガミって……加々美博士ですか!?」
 マラナと同様に慣れ親しんだ名前。アクション戦士を支えてきた研究者の名前だった。研究所が襲撃にあったときに行方がわからなくなっていたが、チロから名前が出ていたことで、彼女も無事ハイグレ人間になっていたんだとロウズは安心する。

「そう。その砂糖が加々美」
「えっ?」
「あいつ私の作ったチョコが苦いから、もっと砂糖を入れて甘くしたほうが良いなんていったのよ。ムカついて、そんなに甘いチョコが食べたいなら砂糖にしてやるって!チョコにもたっぷり入れてやったわ! さっきの角砂糖はあいつの最後の一欠片」
「そ、そうだったのですか……」
 ロウズは甘い生唾を飲み込む。
「不満?」
「い、いえ! ハイグレ人間ごときがチロ様のお料理に意見したりするなんて……当然の報いです!」
「でしょ〜? 生意気よね〜」
 チロの声色から博士が砂糖にされたのは本当のようだ。ロウズは恐ろしくなって話題を変えようとする。
「そ、そうだ。私もこのアクション戦士たちを運ぶのを手伝います!」
「その必要はないわ」
 チロはそう言うと、パチンと指を鳴らす。次の瞬間、4体の像は姿を消した。

「素晴らしいですわ……!」
 チロの力を見て、ロウズが感嘆の声を漏らす。

「私はハイグレ城に向かうけど、お前はここに残って良いわよ」
「いえ、私もチロ様のために――」
「必要ないわ。どうせお前もあと少しで砂糖になるんだし」
「え……?」
「像にはしないけど、ハイグレ人間のままでいさせてあげるなんて言ってないでしょ?」
 チロが続ける。
「ハイグレ魔王様は、最後まで戦ったハイグレ人間の像が欲しいと仰っていたの。仲間を簡単に裏切るようなハイグレ人間はいらないもん」
「そんな……どうかお考え直しください!」
「それがハイグレ人間が私たちにモノを頼む格好なの?」
「あ……! 申し訳ございません! ハイグレッハイグレッ! チ、チロ様……どうか……! チロ様ァ! どうか私をハイグレ人間として……チロ様ァ!! ハイグレェ! ハイグレェ! ハイグレェェェェ――」

 泣き叫びながらハイグレポーズを繰り返し、ロウズは真っ白い雪像のような姿で固まった。

「さようなら、アクションレッド」
 チロは真正面からロウズだった砂糖の塊を蹴り倒した。
 抵抗など出来るはずもなく、ゆっくりと塊は倒れていき、後頭部から床へ激突して跡形もなく粉々に四散した。

「アハハッ。もうおかし作りは飽きたし、砂糖はい〜らないっ♪」
 無人となった部屋を出て、廊下に駐めてあったオマルに跨ると、チロはハイグレ城へと向かって飛び去った。
 彼女を見送るかのように、教室から廊下へと砂糖が舞った。





ぬ。
2016年09月09日(金) 01時50分01秒 公開
■この作品の著作権はぬ。さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お読みいただきありがとうございます
お題に固めが入っていたので、チロ様にもうひと頑張りしてもらおうかなと思って書かせて頂きました
一応全部入りということにさせてもらいましたが、実質「固め・無様」という感じですね

ちょっと予定より遅い投稿になってしまいました。締め切り守るって大変ですね……

みなさん今回もお疲れ様でした(`・ω・´)ノシ

この作品の感想をお寄せください。
こんばんハイグレー!&お久しぶりハイグレー!&あけおめハイグレー!(`・ω・´)ノ 三ヶ日を利用して遅ればせながら今回企画作品読み周り感想書き周り中の0106でございますー!

再登場のチロ様、悪逆の限りを尽くしてなんて恐ろしい子……!(((( ;゚Д゚)))茶室でいつも遊んでいる私にはわかる……ぬ。さんの奥底に秘められたサディズムは私のマゾヒズムをたやすく上回ると……!(謎畏怖
ハイグレ人間の生命を弄ぶ恐ろしい一面を覗かせながらも、作ったお菓子を恥ずかしそうに差し出したり、出来を褒められるとえっへんと胸を張ったり、最終的に飽ーきたとばかりにほっぽっちゃったりと、実はその残酷さも子供っぽい無邪気さの裏返しだったりで、チロ様とっても素敵なキャラクターしてらっしゃる(*´д`*)犠牲者となる未洗脳者たちには気の毒だけれども、ぜひ機会があれば再登場を願っちゃうぜ……!
ハイグレ魔王様の居室にあった球を持ち上げている人型の像も、こういうエピソードの末あそこに置かれているのだろうか!?とか考え出すと色々妄想が止まらない素敵な作品ありがとうございました!(`・ω・´)ノシ といったところでではではー!
0106 ■2017-01-02 06:51:53 9.179.138.210.rev.vmobile.jp
遅くなったZE☆
まさかのチロ続投!石像化に食べ物化…普段は優しいぬ。さんの心の闇が見えて さすがのワタスもドン引きやでぇ(褒め言葉)
無様を超えてもはや凄惨ね ぬ。さんはどこに向かっているのだろう…クエストの方もグロエンドにならないか心配になってきたZE☆
ROMの人 ■2016-09-28 00:11:54 p179152-ipngn200304kanazawa.ishikawa.ocn.ne.jp
執筆お疲れ様です!
お菓子を食べれば即洗脳、更に固められ敵の居城に飾られるのに強いエロスを感じてしまいますね!(家に一つ欲しい)
特にロウズが泣き叫びながら砂糖に変えられるシーンは残酷ながらもゾクゾクしてしまいました…
次の作品も楽しみにしております〜
満足 ■2016-09-09 11:05:05 om126237040168.9.openmobile.ne.jp
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