【第4回】恐怖!ホワイトハイグレ団の野望








 ナンバープレート「8190」のパトカーが3車線道路を進んで行く。さすがにパトカーを抜き去るような勇気あるドライバーはいないようで快調に道を滑っていく。
 助手席に座る葵は短い髪をぐしゃぐしゃとかき回しながらひとつ大きなため息をついた。

「結局今日も収穫なしか」

 葵の言葉にハンドルを握る宇美の表情も必然的に暗くなる。信号が赤に変わり、停止線ぴったりのところで停止する。緊急時でない限り周りの模範となるよう交通ルールはしっかり守る。
 右折用のウインカーを点滅させてから宇美が口を開いた。

「拉致事件の裏には白の組織が絡んでいるのは間違いないはずなんだけどね」
「まさかあの雑居ビルが不発に終わるなんてね」
 悔しさを滲ませる宇美と葵。

 2人は最近多発している事件の捜査を進めていた。しかし成果は芳しくない状態が続いていた。しかし、それでも収穫がゼロなわけでなかった。
 どうやら今回の事件はある組織が深く関わっているらしい。通称・白の組織と呼ばれ、文字通り白い服を身にまとっている。宗教団体らしいがその素性は警察ではよくわかっていない。

 その白の組織のアジトが町外れの小さなビルの地下にあるとの情報を得て向かってみたのだが、なんの変哲もない雑居ビルだった。
 1階と2階にはオフィスが、3階には歯科医院が入居していた。それぞれ話を聞いてみたが怪しい様子もなく、病院もそこそこ繁盛しているようだった。


「帰ったら志穂と一緒に作戦を練り直しだな」
 そう言って座席を最大限に倒しダッシュボードに脚を載せる。葵の定番のスタイルだ。毎度口すっぱく宇美に注意されるのだが本人に改めるつもりはさらさらないようだ。

「もう、少しは女の子らしくしなさい」

 宇美は透き通るように滑らかな水色の髪を掻き揚げる。葵が仕草と髪型と言葉遣いと服装をもうちょっと気を使えば間違いなく何倍も可愛くなるのに実に勿体ない。男勝りなパートナーを横目に見ながらハンドルを切る。葵はシャツの第一ボタンを外して、全開にした窓から吹き込む風で涼をとっていた。もう……と呆れる宇美の頬は優しく緩んでいた。大切な仲間3人との時間がずっと続いてくれたいいのに。


「おっと噂をしてたら志穂から着信だ」

 葵はポケットからスマートフォンを取り出して頭上に掲げる。ブルブルとモーター音を車内に響かせる携帯電話の液晶ディスプレイには米沢志穂と表示されていた。彼女たちと共に今回の事件を捜査しているパートナーの名前だ。

「もしもし。白の組織のこと何かわかったかい? こっちはハズレだったよ」
 親指で応答ボタンをタップして電話を耳に当てる。大人しい小動物のような声が葵の左耳に流れ込んでくる……はずだった。

「もしもし、星井葵ちゃんね?」
「……」
 聞き覚えのない声。ねっとりと妖艶で、自信に満ちた攻撃的な声だ。
 ゆっくりと葵はシートのリクライニングを戻す。


 葵の様子から異変を察した宇美は、ゆっくりと車を路肩に停車させた。

「お前は誰だ?」
 重く冷たい声で葵が聞く。彼女の鋭い目は電話先の何者かをじっと見据えているようだった。

『うふふ、聞いていた通りの娘ね。でも嫌いじゃないわよ』

 女は小馬鹿にしたようにケラケラと笑う。電話を握る葵の手がプルプルと震えていた。

「志穂に一体何をした!?」

「あらあら、せっかちな娘はモテないわよ」

 女は相変わらず可笑しそうに笑っていた。

「あなたたちのお仲間の志穂ちゃんはちょっと知りすぎちゃったから、私たちの仲間になってもらうことにしたの」

 葵はようやく理解した。音声をスピーカーに切り返る。

「白の組織の人間か」

『そんなダサい名前じゃないわ。私たちはホワイトハイグレ団よ。以後お見知り置きを」

 ビンゴだった。ホワイトハイグレ団こそ白の組織の正式名称である。ホワイトと呼ばれる教祖をトップにしたいわゆる過激派の宗教団体だ。洗脳まがいのことをして構成員を増やしているという不穏な噂もある。そして、今回の連続拉致事件の裏にホワイトハイグレ団がいることを突き止めたのは他でもない志穂だった。

「あなたたちの要求は?」

「あら、その声は海原宇美ちゃんね?」

 女は宇美の存在に気づいても動揺するどころか、瞬時に彼女の名前を出してきた。

「うふ、私たちの要求はシンプルよ。捜査から手を引きなさい」
 葵と宇美は顔を見合わせる。要求自体は想定内のものだった。

「仮にその要求を飲んだら志穂は解放されるのか?」
 葵が聞いてみる。

『そうねえ。さっきも言ったけど志穂ちゃんはちょっと知りすぎちゃったわ。だから今、私たちのことをもっと知ってもらって、彼女にはホワイトハイグレ団の一員として私の部下になってもらう。これは変わらないわ』

「話にならないわね」

 宇美が女の言葉をバッサリと切り捨てる。

「もし、あなたたちがこれ以上この件に首を突っ込まないと約束してくれるなら、私たちもしばらく大人しくしててあげるわ」

「一応は交換条件ってわけか」

「ええ。魅力的でしょう?」

 そんな魅力的なトレード案に対しての答えは決まっていた。

「悪いが――」
「悪けれど交渉は決裂ね。私たちは必ずあなたたちを逮捕して、志穂も被害者も全員救い出してみせるわ!」

 語気強く宇美が叫んだ。葵はこんなに眉間にシワを寄せている宇美を見るのは初めてだった。

「そうだと思っていたわ。我がホワイトハイグレ団はあなたたちの入団も大歓迎よ。あと最後に素敵なモノを見せてあげる」

「素敵なモノ……? っておい!」

 電話は女によって一方的に切られてしまった。通話画面は自動的にホームに戻される。

「ん?」

 葵はメールのアイコンに1件通知マークが点灯していることに気づいた。封筒を模したアイコンをタップすると、数分前に1通のメールを受信していたようだ。
 差出人は米沢志穂。
 添付ファイルがひとつ。

「これは……」
「動画ファイルね。開いてみましょう」


 宇美も僅か5インチほどの画面を覗き込む。
「これを……開く……」
「気持ちはわかるけど私たちには見る義務があるわ。ファイルを開いて」
 スマホを握る葵の手の上に宇美は自らのてのひらを覆い被せた。ひんやりと冷たかった。それでも葵の指は動かない。大切な仲間が人質に取られてしまったのだ。無理もない。でも、ここで私たちが動揺してしまったら奴らの思うツボだ。

「しっかりしなさい葵! ビビってないで早く開きなさいよ!」
「だからさっきから開くってなんだよ開くって! 私だって早く見たいんだよ! もう代わりにやってくれ!」
 葵は逆ギレして携帯をぶん投げた。

「そ、そういうことだったのね……ごめんなさい」

 宇美は彼女が電子機器がまったくダメなことをすっかり忘れていた。スマホの基本的な使い方を覚えるのに1ヶ月かかったメカオンチっぷりは伊達じゃない。宇美はスマホを拾い上げて動画の再生準備をする。

「銃ならなんでもすぐに使いこなすのにね」
 ファイルをダウンロードしながら宇美が呟く。

「銃は素直だからな。こいつらはすぐ不機嫌になるし性格もコロコロ変わるから苦手だ」

 なんとも不思議な理由だが、実際に射撃の腕前がトップクラスなのだから嘘ではないのだろう。ダウンロードが完了し、宇美は携帯をカーナビの窪みに立てかけた。
 画面中央の三角形の再生マークに触れる。くるくるとローディングマークが回ってしばらくして消えた。

 薄暗い部屋。意図的に暗くしているようだ。

『この映像を見ているということは私のこともご存知ね?』
 コツコツとヒールの音を立てながら1人の女がカメラの前にやってきた。
 くるくると巻かれた金髪に突き刺さった鳥の羽。肩に巻かれたファーのようなフワフワ。これはいわゆるオシャレというものなのか? その手のことに無頓着な葵は、映像の女の格好はただただ奇抜なだけだった。
 両手には肘まで伸びるグローブ。同じく膝まで伸びるロングタイツ、その上にブーツを履いている。色は羽やファーも含めて全部純白だ。
 中でも一番目を引くのは彼女の着ている服が、鋭い切れ込みの入ったハイレグ水着ということだった。モデルのようなスタイルも某歌劇団のような派手なコーデもこのバブルの名残のような水着のせいで台無しになっていることは葵にでも良くわかった。

「いかにも。私はホワイトハイグレ団の総帥、ホワイトよ!」

 水着や装飾品に負けない白い歯をキラリと輝かせる。
 自己紹介を終えたホワイトは突如、腰を落としてガニ股になった。強調された股間にまた布がギュッギュッと喰い込んでいく。見ている側がムズムズしてしまうくらいの喰い込みっぷりだ。

『ハイグレッハイグレッハイグレッ!』
 ピンと真っ直ぐに伸ばした両腕を、細く喰い込んだ水着のVラインに沿うように上下に動かしながらホワイトは3回「ハイグレ」と叫んだ。葵と宇美は敵の奇行に驚きながらも黙って見続ける。

『そんな怖い顔しなくてもいいじゃない。ほら、あなたたちの素敵なお友達よ」

 ホワイトを映していたカメラは180度急旋回して反対側を向いた。

「志穂!!」

 仲間の姿を見つけて葵が叫ぶ。声こそ出さなかったがスマホを握る宇美の手にも力が入る。
 彼女たちの仲間である米沢志穂は、変わり果てた姿を余すところなく記録されてしまっていた。

 ショッキングピンク色の床に仰向けに寝かされた志穂の四肢は拘束具でがっちりと固定されていた。肘を曲げて両の手のひらを見せ、両脚は不格好にM字開脚のように開いた状態で設定されている。
 栗色のツインテールは激しく乱れ、激しく抵抗している様子がわかる。
 制服は脱がされホワイトハイグレ団の総帥と同じ色と形の水着を着せられている。総帥であるホワイトとの違いは装飾品はまったくなく、代わりに口と胸と股間に奇妙なパーツが取り付けられている所だ。

「あっ……ああんっ!」
 性感帯に取り付けられたパーツがポワッとピンク色に妖しく光ると志穂が緊張感のない声を漏らした。

「さあ米沢志穂。いまこの向こうではかつての仲間があなたの生まれ変わった姿を見ているわよ」
 猿ぐつわの隙間から激しく呼吸をしながら志穂はカメラを見つめた。光が消えかかっている虚ろな瞳で見つめる志穂。

「志穂、あなたの口から直接忠告してあげなさい」

 ホワイトは志穂の口に付けられていた器具を外す。

「んぱッ……ハァ……ハァ……葵……宇美……ごめん……油断したわ……この組織は危険よ…………おほっ! おっおっおおおお……ここは例のビルの地下にいいいいいいいい――――」
 言いかけたところで胸と股間のパーツが激しく点滅し、志穂はビクンビクンと体を暴れさせながら悲鳴をあげる。拘束具のせいで腹部をくねらせるだけしかできず、お尻を何度も浮かせては床に打ち付けていた。やがて胸のパーツのランプが消えた。しかし股間の器具は点滅がゆっくりとなりはしたが、ゆっくりと淡い光を発している。
「さあ、練習通りになさい」
「く……葵……宇美……ホワイトハイグレ団の捜査から手を引きなさい……んん……私たちは……敵対してはいけない……もう忘れて……」
 これが志穂の言葉でないのは明らかだった。
「その続きは?」
「……」
 ホワイトに促されても志穂はグッと歯を食いしばって黙ったままだ。
「仕方ないわねえ」
「ぎゃあ!?」
 悲鳴とともに志穂の目がカッと開かれる。股間のパーツがこれまでで最大の点滅を始めた。併せて胸の点滅も復活する。
「ゔにゃああああああああああああ!!」

 目に涙を浮かべながら大暴れする志穂。彼女が乱れ叫ぶ様子を楽しそうに眺めるホワイト。頃合いを見計らって器具から発せられる刺激を弱める。

 息を切らせて虚ろに天井をみつめる志穂へホワイトがもう1度促した。
「さあ、続きを言ってごらんなさい」

「ぐぐ……わ、私は……米沢志穂は……ホワイトハイグレ団とホワイト様に忠誠を…………ちっ誓わない!」
 志穂の目に光が宿った。生気を宿した瞳に力を込めて志穂が続ける。

「葵、宇美! 私は大丈夫だから……かならずホワイトハイグレ団を……ホワイトを捕まえて奴らの計画を阻止して! 場所は例のビルの地下のおおおおおああああああああああハイグレ気ん持ぢいいいいいいいいい気もぢいいよおおおおおおおおおお――――」

 断末魔とともに志穂の下半身から吹き出した潮がカメラのレンズを濡らす。志穂は白目をむいて力尽きていた。だらしなく開ききった口からはヨダレも垂れている。未だに止めてもらえず与えられ続ける刺激を受け入れてビクビク痙攣する哀れな姿を余す所なく撮影され続ける。

「なんつう真似を……」

「こんのって……酷すぎるわ……」

 仲間への想像を超える拷問に葵たちは強い憤りを覚えた。
 
「あらあら、はしたないわねえ」

 まるで拠点を制圧したように、彼女の体を跨いで仁王立ちするホワイト。気を失ってしまっている志穂は彼女の下で、いまもチョロチョロと潮の吹き残しを垂れ流して屈辱的な状態を演出していた。

「この娘のようになりたくなければ、これ以上の深入りはやめなさい。忠告はしたわよ。じゃあね〜!」

 映像は停止して、液晶ディスプレイも動画の再生画面から通常の状態に戻った。

「どうする?」
 宇美は電話をロック状態にしてから葵に差し出す。

「決まってるだろ」
 鷲掴みで受け取ると葵は宇美の目を見た。真っ直ぐ突き抜けるような淀みのない瞳。その瞳で見つめられた宇美にはもう答えは分かっていた。そして宇美も同意見だった。

「あのビルに戻るぞ」
「了解!!」

 宇美がパトカーのアクセルを思い切り踏み込む。車は華麗にUターンを決めてさきほどの雑居ビルを目指した。











 歯医者というところは不思議な場所だ。普段なら他の人に見せない口の中に指を突っ込まれてイジられる。完璧に無防備なのにもかかわらず、運が悪ければ大切な歯を削られて強烈な痛みにも耐えなければならない。
 浜野ミナトも横山歯科医院に通う患者の1人だ。小学4年生にもなれば歯医者で泣くことはなくなった。けれど未だにドリルの音や注射は怖い。でも仮にも男子であるミナトはそれを悟られないように常に平静を装っていた。横山先生に格好悪い姿は見せられない。
 今日もいつものようにエプロンを付けて椅子に座り先生を待つ。歯科助手のお姉さんがあと数回で治療は終わりだと言っていた。もう少しでミナトは治療に全然ビビらない勇気ある4年生の称号を手にいれる事ができる。
 とりあえず先生を待つ間、コップに注がれた水でうがいをしてみる。口に含んだ水を吐き出しコップを置く。コップに新しい水が注がれ一定の量で供給がストップする。毎回思うが無駄のない洗練されたシステムだ。面白くてついつい多くうがいをしてしまう。もう1回やってみようか……。

「ミナトくん、こんにちは」
「ぶふぉ!?」
 口にコップを持って行った瞬間に声をかけられ、ミナトは思わずむせてしまう。慌ててコップを置く。コップには一口分だけの水が足されて止まった。

「こ、こんにちは!」

 腕で口を拭いながらミナトは横山に挨拶を返す。
 院長の横山は白衣姿でマスクを付けてながら微笑んでいた。治療の邪魔にならないようにブロンドの髪を後ろでお団子にまとめている。

「はーい、お口を開けてね」
 倒れる椅子に体を預けながら、ミナトは横山に言われるがままに口を開く。背もたれが倒れきると、両目に乾いたタオルが被せられた。どのみち治療中は目を閉じているが、照明が意外と眩しいし、目をギュッと閉じている顔を見られないというメリットがあった。

「今日は奥の歯を治療していきますね」
 横山はミラーでカチャカチャと歯の隙間の具合を確認していく。

「う〜ん……結構酷いわね。麻酔をして削りましょう」

 先生の発した言葉にミナトの体がピクっと震える。気づかれなかったことを祈りながら呼吸を整える。

「ミナトくんは麻酔は嫌いかな?」

 バレていた。観念したミナトはこくりと小さく頷いた。だからといって麻酔をしてもらなわければ壮絶な痛みが待っているわけで、決して逃げることは出来ないのだけど。ミナトはタオルを見つめながら注射器を口に突っ込まれるのを待った。
 しかし、ミナトに訪れたのは針の鋭い痛みではなく、頬へ触れるポヨンと柔らかい感触と、耳への生温かい吐息だった。未知の体験にミナトは心臓がバクバクと高鳴っていくのがわかった。

「痛い薬と気持ち良い薬……どっちがいい?」
 ミナトの耳元へ囁く横山。横山は麻酔の準備と一緒に白衣を脱ぎ、密かに下に着用していた真っ黒のハイレグ水着姿になっていた。生地の薄い水着越しの胸をミナトの頬へ押し付けながら答えを待つ。
 この年頃の少年は見栄を張ろうとするから、こちらから優しく導いてあげることが大切だ。
「気持ち良い薬にしておくね?」
 胸の谷間に顔を埋めてあげる。ミナトは数回頷いた。鼻の穴を丸く膨らませながら横山の乳房を堪能している。
 横山は治療台に用意しておいた薬の入った試験管を手に取る。数ミリリットルのピンク色の薬液。


「さあ気持ち良くなりましょうねえ」
 横山が優しく囁く。ミナトの顔には絶えず彼女の柔らかい胸の感触が、スベスベの水着の生地越しに伝わり付けている。

「もう少し大きく開けてね」

 言われるがままに口を最大まで開けるミナト。もう気持ち良くなる準備は万全だ。しばらくして自分の口内にとろ〜りと生温かい液体が流し込まれているのがわかった。溶かしたキャンディのような甘くてまったりとした薬液が口いっぱいに広がっていく。

「ゆっくり飲み込むのよ」

 ゴクリとまずひとくち。ミナトは薬がまるで全身を駆け巡っていくような感覚を覚えた。まるで体が作り変えられていくようだ。

「焦らないで、ゆっくりと……そうそう上手よ」

 ミナトの口の中はすっかり空っぽになってしまった。

「うふふ。それじゃあもう1回飲んでみる?」

 タオルで目隠しをされているミナトは返事の代わりに、笑顔で口を開いて2本目の投入を待った。







 投薬から数分。結局、試験管計4本分の薬を飲み干したミナトは押し寄せる快楽を堪能した末に眠ってしっていた。
「ふふふ……よく寝ているわね」
 真っ白のハイレグ水着を着せられ仰向けになるミナトをうっとりと眺める横山。顔にタオルを乗せられたままで、ミナトは自身の体の変化にも気づいていないだろう。横山はぷっくりと浮き勃った乳首を愛でるように人差し指で撫でる。

「うっ」

 感度良好のようで眠りながらもビクッと体をクネらせる。刺激に呼応するように股間の逸物も立派にそそり勃つ。やわらかく伸縮性の高い水着い生地でテントを張るミナトの股間はもうベットリと濡れていた。

「いいのよ。ハイグレに全てを委ねなさい。ハイグレの快楽に溺れて何度でもイッていいのよ」

 ギュウ……っとミナトの乳首をつねりあげる。

「ううっあっ……あっああ……」

 テントから微量の白濁液をハイレグ越しに噴き出させるミナト。横山の指示ですかさず助手の女が白濁液をバキュームで吸い取る。

「アハァ……」

 ミナトは汁を撒き散らしたまま寝息を立てる。

「さて、と。ちょっと親御さんに説明してくるわね。麻酔が効いてるので少し休ませてから夜にでも送り届けますってね」
「はい」

 助手に残りの作業を任せると、ハイレグ水着の上に再び白衣を纏うと診察室を出て行った。




 診察時間が終了した頃、ようやくミナトは目を覚ました。顔に乗せられたタオルを自らの手で外すと、倒れた椅子に寝たまま眩しそうに辺りを見回す。

 椅子の脇では横山先生と助手の女がミナトを見下ろしていた。横山は黒、助手は白のハイレグ水着をそれぞれ着ていた。初回の今日まで治療中はずっと2人はこの格好をしていたが、タオルで目隠しをされていたミナトは初めて見る姿だった。
 美しい。
 率直なミナトの感想だった。少年は椅子から降りると、横山たちの正面に立った。白衣でないことに疑問も抱かなければ、奇抜な格好とも思わなかった。ミナトは寝ている間に食い込んだお尻の布を直して、カピカピになった股布の下にある小さな逸物の位置を修正する。与えられた白いハイレグ水着を正すとミナトは腰を落とした。

「ハイグレッハイグレッハイグレッ!」
 彼はすっかりハイレグ水着を受け入れていた。
 横山へとガニ股になりコマネチを3回行うミナト。 

「ようこそハイグレ人間ミナト。さあ、入団の誓いを立てなさい」
 横山が指示を出すと、ミナトはガニ股に開いた脚をさらに深くした。言うべき言葉ははっきりとわかっていた。ハイレグのVラインへと両腕を伸ばす。膨れ上がる股間の両脇にセットして、2人のハイグレ人間を見上げる。

「ハイグレッハイグレッハイグレッ! ハイグレ人間ミナトはホワイトハイグレ団とホワイト様に忠誠を誓います」

 横山が満足げな笑顔でミナトを見下ろす。彼女の表情はミナトにとって十分な引き金になった。ハイグレポーズで締め付けられそ反り勃った幼い男根が暴発する。

 ミナトは本日8回目の射精をした。数ヶ月前、夜中にうなされて目を覚ますとパンツの中が真っ白の液体でグショグショに濡れていた。ベトベトで気持ち悪かったが、ビンビンに膨れがあったアソコは迂闊に触ると気がおかしくなりそうなくらいに痺れていた。それから母親の目を盗んでは快楽を求めた。しかし、似たような刺激は得られても、あの夜を越えることはなかった。今この瞬間までは。

「あっく……おお……はいぐれぇっ」

 ミナトは体に残っていた精液を出し切ると、ボタボタと床に垂らしながら感謝のハイグレポーズを行った。彼は身も心もハイグレの虜になった。ホワイトへ忠誠を誓うハイグレ人間へと生まれ変わった。





 雑居ビルの地下。その最深部の奥深くに造られた一室。まるでミュージカルの舞台を切り取ったような巨大なステージ。その中央にそびえる階段の下で横山が跪いていた。
 薄暗い部屋で横山は静かに主君の到着を待った。
 20分ほど経った頃、突如照明が付き舞台が明るくなった。

 7人の白いハイレグ水着を着た女が階段の最上段に現れて、ゆっくりと降りてきた。6人のハイレグ女たちがブーツにグローブだけの質素な姿なのに対して、最後尾の女は沢山の装飾品を身に身に纏っていた。彼女だけは階段を降りず、上から横山も含めた7人のハイグレ女を見下ろしていた。

「ハイグレッハイグレッハイグレッ」
 立ち上がってハイグレポーズを行う横山。
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
 続いて6人のハイグレ女たちも続く。
 ハイグレを捧げられる女は3カ所からスポットライトに照らされキラキラと輝いている。

「お忙しい中ありがとうございます。ホワイト様」
「ご苦労様。報告を聞きましょうか」
 ホワイトは雑談をすることもなく本題へと入った。

「ハッ。ハイグレ人間へと適合反応が出た少年の投薬実験は成功し、転生が完了しました」
 誇らしげに報告する横山。
「そう。それじゃあ8体目の被験体を探す作業に移りなさい」
「かしこまりました」
 横山はハイグレポーズを始めようとガニ股になる。
「ああ、それとこれ」

 ホワイトは3枚のカードを横山へと投げた。カードはくるくると回転しながら横山の前に落ちた。カードにはそれぞれ女の写真が印刷されていた。
「この制服は……」
「最近勘のいいネズミがいるらしいの」
 面倒臭そうにホワイトがため息を漏らす。
「転生させますか?」
「そのうち捕まえてくると思うから可愛い子犬ちゃんに転生させてあげなさい」
「かしこまりました」
「それじゃあよろしくね」
 ひらひらと手を振りホワイトは姿を消した。白いハイグレ女たちも彼女を追って階段を駆け上がっていく。
「ハイグレッハイグレッハイグレッ! 全てはホワイト様のために!」
 再び薄暗くなった部屋で1人横山は忠誠を誓った総帥へとハイグレを捧げていた。








 パトカーはエンジンを鳴かせながら雑居ビルへと疾走する。次の信号を曲がれば雑居ビルへと繋がる通りに入る。さすがにこの車で近くわけにはいかないので、ここからは歩いて向かうことにする。
 大通りを避けて細い路地からビルへと向かう。建物の入り口が見える物陰から様子を伺う。しかし平日の昼下がりに目立った動きは見られなかった。何もできないまま日が暮れて夜になった。歯医者の電気も消えてビルは真っ暗になってしまった。

「強行突入するか?」
「失敗した時のリスクが大きすぎるわ」

 これまで志穂の立てた綿密な計画をもとに行動してきた2人は、勢いでビルまでやってきたものの、これ以上先のことを全く考えていなかった。昼間に尋ねた時も怪しいところは見つけられなかったし、再び不発に終わるのは避けたい。

「葵、見て!」
 宇美は細い路地に動く人影を見つけた。肩を叩かれた葵も彼女が指差した方へ目を凝らす。暗闇のなか奇妙な形の影がビルの入り口のある大通りへと近づいてくる。

「あれは……!?」







 一瞬街灯に晒されてその姿が露わになった影は1人ではなかった。白衣を着た女と、担がれた少女の計2人。女は青のハイレグ水着を下に着ていた。少女は口を布で塞がれてロープで体を縛られている。
 街灯の光から外れて再び見えなくなった2人はそのまま闇に飲まれてしまった。

「消えた?」
「あそこに隠し扉があるみたいね」
 宇美が物陰から飛び出す。2人は細心の注意を払いながらビルへと近づいた。女が消えた場所には目立たないが確かに扉があった。

「行くぞ」
 葵は拳銃を構えながらドアノブを握る。宇美も頷き銃を握った。

 鍵はかけられていなかった。扉を開けると小さな部屋に繋がっていた。窓も何もない殺風景な真っ白い部屋だ。葵たちは壁や天井、床まで念入りに調べる。

「あった」

 葵が床に不自然な切れ間を見つけた。

「地下ね」

 床下には急な階段が地中深くまで伸びていた。
 迷うことなく頷き合い2人は階段を降りる。

 非常灯のわずかな明かりを頼りに階段を降りると、細い通路が真っ直ぐ伸びていた。壁も床もピカピカに白いおかげで小さな光だけでも目が慣れれば進めそうだ。
 志穂もこの道を通ったのだろうか……? 葵に背中を預けて後方へ銃を向ける宇美は考える。さっきの子のように拉致されて運ばれたのか。
「きゃっ!?」
 ドンっと背中が何かにぶつかった。すぐに振り返って銃口を向ける。

「うわっバカ下ろせ!」
 葵が慌てて銃を下げさせる。廊下は終わっていて2人は広い部屋の入り口にいた。その勢いのまま宇美の腕を掴んで物陰に隠れた。壁に軽く頭をぶつけたが宇美は口を押さえて悲鳴が漏れるのを必死に堪えた。

「つつ……ここは?」
 床が白からピンクに変わり、殺風景だった1階の小部屋とは打って変わって沢山のコンピューターや機材が並んでいた。

「実験施設みたいだな……あれは何だ?」
 葵が銃で巨大な機材を指す。ピンク色の液体で満たされた容器が1つ置かれている。
「あんなもの何に使うんだ?」
 機材を確認しようと葵が身を乗り出す。
「下がって!」
 今度は葵が宇美に引っ張られた。
「何するんだよ!」
「誰か来たわ」
 わずかに足音が聞こえる。コツコツと乾いたヒールの音は少しづつ大きくなる。しばらくして室内に何者かがやってきた。わずかに確認できる1つの人影を2人は目を凝らして追った。何か長いものを担いでいる。葵は人影が追っていた白衣の女と人質の女の子であると確信した。宇美を見ると彼女も気づいている様子だった。

「それでは実験を始めようか」
 楽しげな女の声と共に部屋に明かりが灯った。葵と宇美は乗り出していた体を再び物陰にしっかり隠す。

 机の上に横にされていた少女は目に涙を浮かべながら、自らの体を縛り上げているロープを解こうと必死にもがいている。なにか罵声を浴びせているのかうめき声をあげているが、ガムテープで口を塞がれていて聞き取れない。

「そんなに嫌がることはないじゃないか。キミは世界で初めての被験体になれるんだよ?」

 少女が何か反論するがまったく聞き取ることができない。女は少女を無視してカチャカチャとコンピューターをいじくる。低く重い音でカプセルがうなり始める。時折ゴポゴポと空気が下から吹き出す。

「いいかい? キミは全く苦しまずにハイグレ人間に生まれ変わることが出来る。この天才科学者のボクにかかれば簡単なことさ」
 女がボタンを押すと、炭酸飲料の入った缶を開けたような音を立ててカプセルの蓋が開いた。

「ちょっと煩いんだけど、中で窒息されても困るからね」
 嫌そうにガムテープを剥がす。手加減なく引っ張られて少女の顔が激痛で歪む。

「ぷはってて……ちょっと話と違うじゃない!」
 相変わらず手足を縛られた状態だったが、少女は可能な限りの大声で研究員の女を怒鳴りつける。
「ボクはずっと同じことしか言っていないよ。キミは選ばれたんだ。ホワイトハイグレ団の1人にね」

「私はアイドルのオーディションって言われて参加したの! だからこんな恥ずかしい水着だって着たのに……」
 顔も涙で濡れていたが、彼女の着ている紫色のハイレグ水着も汗が滲みて黒ずんでいた。

「そんなの騙される方が悪いのさ。それにアイドルなんかよりホワイトハイグレ団に入ってハイグレ人間としてホワイト様にご奉仕させて頂く方がずっと素晴らしいことだよっと」
「嫌ァ! 絶対に嫌ァ!」
 必死の抵抗も虚しく少女は軽々と担がれてしまう。女はカプセルの横に備え付けられた階段をテンポ良く登っていく。

「くっ」
 我慢できず葵がカプセルへ向けて銃を構える。
「待って」
 が、宇美が制する。
「黙って見てろっていうのか?」
「ここで私たちまで見つかったら元も子もないわ。悔しいけど……」
 宇美にとっても苦肉の判断だった。首を大きく振って盟友へと理解を求める。

「きゃああああ――」
 室内に響き渡る大きな悲鳴。少女の悲痛な叫びは液体と蓋によって消されてしまった。

「どうやら横山は既に7人目を転生させたらしいじゃないか。ボクはまだ4人。この装置では0人だ。早くこの装置を完成させるためにもキミに長く構っている暇はないんだよ。スイッチオン!」

 スイッチが押されると、カプセルの中の薬液が眩しく光り始める。最初は液中で叫び続けていた少女だったが、しばらくして眠るように大人しくなってしまった。目を閉じて口を半開きにした状態で全く後かない。彼女を縛っていたロープは全て液に溶けてなくなってしまった。体の自由を取り戻しても、だらりとぶら下げたまま少女はカプセルの中央に浮かんだままだ。
 女は少女の様子を見ながらニヤニヤと笑っている。頬の緩み具合を見るとどうやら順調なようだった。もうすぐで3分が経過する。少女のハイレグ水着は紫色が徐々に薄くなっていく。やがて純白のハイレグ水着へと変貌した。

「完成〜」

 装置は自動停止して、液体が抜かれていく。浮遊状態からカプセル内に着地した少女は眠たそうに目を開ける。

「ようそこホワイトハイグレ団へ」

 カプセルに縦筋が入りぱっくりと2つに割れる。

 少女はぼーっと正面を見つめたまま、裸足でぺたぺたと気の抜けた音を立てて歩み出る。

「さあ、入団の誓いを立てるんだ」

 腕を組みニヤつきながら女が言う。

「はい!」

 女の言葉に虚ろだった少女の目に光が宿った。

「ハイグレッハイグレッハイグレッ! 私はハイグレ人間としてホワイトハイグレ団とホワイト様に忠誠を誓います!」

「ククク……転生実験は大成功だ。これで劇的にハイグレ人間の転生効率を上げられる! ボクの研究のためにも頑張るんだよ」
「はい。アイドルなんてくだらない夢は捨てて、私はホワイトハイグレ団に全てを捧げます。ハイグレェ!」

 少女は高らかに洗脳宣言をすると、研究員に連れられて奥へと消えていった。

「こんなものをどうやって……」
 少女たちを見送り、足音が聞こえなくなってから宇美は研究室を調べ始める。葵は万が一に備えて彼女たちが消えていった廊下の前で見張りをしていた。全方位から発せられる僅かな音にも全神経を尖がらせて、カプセル装置なども入念に調べている宇美を見守る。やがて、ひとつ大きなため息を漏らしてから宇美は葵を見る。

「私たちは甘く見ていたみたいね。ホワイトハイグレ団の科学力はかなりのものだわ」
「そうみたいだな」
 葵は志穂の拘束具を思い出す。このカプセル型の装置といい見たこともないものばかりだ。まるで……。
「地球の技術とは思えないわね」
「えっ?」
「え?」 
 2人の予想が一致したことが予想外で、思わずお互い顔を見合わせる。

「そんなバカな」
「そうであって欲しいわね。行きましょう」

 焦りは禁物だが長期戦に持ち込むのも避けたい。宇美も拳銃を取り出して廊下へと出る。背中を葵に預けて先を目指した。







 横山歯科医院の入るビルの地下に造られたホワイトハイグレ団のアジト。地下深くにまで伸びた施設の中には様々な機関が用意されていた。大規模なものの1つに学校があった。小中高や学年などの区別はなく、全員がひとつの教室で学んでいる。年齢もバラバラな十数人の生徒たちが学ぶことはたった2つだけ。ハイグレの素晴らしさ、ホワイトハイグレ団とその総帥であるホワイトがいかに偉大かを毎日朝から夜まで叩き込まれる。
 生徒たちはほぼホワイトハイグレ団によってハイグレ人間に転生した子どもたち。つまり地上で誘拐されて行方不明とされている子どもたちだ。

 数週間前からクラスへ仲間入りした浜野ミナトもその1人だ。みんな同じ白いハイレグ水着を着用して今日も勉学に励んでいる。
 今日の授業は昨日から新しく入ってきた子のために、ホワイトハイグレ団の生い立ちから現在までの復習だった。新入生が加わると、数日にかけてこの授業を行う。でも教団の素晴らしさを再認識できることもあって生徒たちの中では人気が高い。授業の中ではイグレポーズを捧げる機会が多くミナトも小まめに新入生が加入しないかなと密かに楽しみにしていた。総帥であるホワイトへ向けて、今日45回目のハイグレを捧げたところで夕食の時間になった。もうすっかり日常の一部となった学校生活とはハイグレポーズ。じんわり湿った水着の股間だって気にならない。だってクラスメイトみんな濡れているんだから。

 今日の夕飯はカレーだった。給食と同じ要領でみんなテキパキと準備を始める。ハイレグ水着の上に白い割烹着と帽子をかぶった給食当番の子たちが配膳の用意を整える。

 ミナトも列に並び、ご飯を受け取って四角いお盆に乗せてルーを待つ。今日はたくさん勉強したから凄くお腹が空いている。やっと自分の順番がやって来てご飯の盛られたお皿をカレー担当の子へと手渡す。

「なんだかミナトくんすっごいお腹減ってそうだから超大盛りにしてあげるね!」
 満天の笑顔でキララはお皿を奪い取った。
 お玉にカレーをたっぷりとすくい、ご飯へと浴びせかける。また再びカレーをご飯へと浴びせかける。



「はい!」
 ルーが並々と注がれて、お皿から溢れそうなカレーライスをキララが差し出す。
「あ、ありがとう」
 高鳴る心臓の鼓動に気づかれないように、可能な限りの平静を装ってミナトはカレーを受け取った。







「あっ」

 受け取る際に皿が傾き、少しだけキララの指にルーがかかってしまった。
「ご、ごめんっ」
「だいじょーぶだよ!」
 キララはペロリと自らの指をなめる。それから綺麗になった右の親指を立ててグーマークを作った。
「ミナトくんの手も汚しちゃったね」
「ふぇっ!?」
 有無も言わさぬ早業で彼女はミナトの人差し指と中指を咥え込んだ。ビックリしすぎてお盆ごとカレーライスとを後ろに吹っ飛ばしてしまいそうだった。女の子のベロが指に絡みついてくる感触は不思議な感じだった。しかも場所は彼女の口の中だ。
「ぷはっ! ほらね、綺麗になったよ」
 ハイレグと同じピンク色の舌をペロッと出してキララが悪戯っぽく笑う。彼女だけ水着の色が違うのは委員長だからと教えてもらったけど、とても似合っているとミナトは改めて思う。
「そう……だね」
 何といっていいのかわからなくてミナトは逃げるように自分の机へと戻った。謎の興奮によって真っ赤に火照った顔も見られなくなかった。

 それから数分後には当番の子たちの分の食事の用意も整った。

「それでは!」

 割烹着のままキララが黒板の前に立つと、生徒たちは立ち上がって彼女に注目した。ミナトも起立してキララを見る。全員の準備を整ったことを確認してから、キララはゆっくりと股を開いた。

「ハイグレッハイグレッハイグレッ! ホワイト様に感謝して、美味しい給食を頂きます!」

 キララはハイグレポーズを3回行ってから、ガニ股のまま両手を合わせてお辞儀をした。

「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ! ホワイト様に感謝して、美味しい給食を頂きます!!」」」

 彼女に続いて残りの生徒たちがまったく同じ動作を行った。

 奴隷であるハイグレ人間がこうして食事を摂ることが出来るのも、ホワイトハイグレ団の総帥であるホワイトの慈悲に他ならない。奴隷が支配者に感謝するのは当然のことだった。少なくともミナトはそう教えられて、実際に自分でもそう信じて疑わない。
 お辞儀を終えて、着席する。いよいよ食事の時間だ。ミナトはスプーンを手に取る。まずはコップにスプーンをつけてから……いただきまーー。

『緊急連絡、緊急連絡』

 出入り口に取り付けられていた真っ赤な赤色灯が回転して、天井のスピーカーから無機質な機械音が流れ始めた。

『侵入者発見、侵入者発見、総員ただちに所定の位置に付け。繰り返す。侵入者発見、侵入者発見、総員ただちに所定の位置に付け。繰り返す。侵入者――』

 週に1回行われる訓練と同じ音声。ミナトも既に数回参加した。今回のように実際に侵入者がやってくることが多いらしく訓練とはいってもとても厳しかった。彼の配置された場所は地下へと続く階段だ。自分より前からいる子たちはもっと大切な場所を任されている。早くハイグレ人間として信頼されるようになるためにも今回は重要な実戦だ。ミナトはカレーを諦め配置場所へと急ぐ。

 ホワイトはもちろん幹部たちは地上への直通のエレベーターを使用するため、階段は非常時以外にはあまり使われることはない。木製のバットを手にミナトは配置に付く。このバットで殴れば内蔵されたセンサーが感知して侵入者の位置を伝えてくれるらしい。殺傷能力もなければ洗脳効果も持っていない。彼らの役割は敵の侵入の勢いを弱めることだ。ミナトもなんとなく危険な役割だとは理解はしていたが、その役割を全うするのがハイグレ人間の使命だ。バットを握る手に力が入る。

 ふと奥の廊下の角にふよふよと動く人影が見えた。
「あっちは非常時でも僕らは立ち入り禁止のはず……」
 侵入者を発見してしまったことでミナトの心臓の鼓動が激しくなる。高揚と恐怖が入り混じった不規則なリズムでミナトの体を打ち付ける。
「い、行かなきゃ……全てはホワイト様のために……」
 ミナトの心を支配しようとした恐怖は、既に彼の心を覆い尽くしているホワイトへの忠誠心には勝つことはできなかった。忠誠を誓った支配者のためにミナトは震える手でバットを構えて1歩1歩進んで行く。

 角から奥を覗くと人影は、さらにそのひとつ奥の曲がり角へと消えていった。
 まずい……侵入者を取り逃がしたとなったら、どんなお仕置きをされるかわかったものではない。彼の心の中に恐怖があるとしたら、それはホワイトへの恐怖だった。身も心も彼女に侵食され奴隷と化していた彼は、ダッシュで人影を追った。

「侵入者め! 覚悟しろ!」
 曲がり角を華麗に曲がってバットを振りかぶる。

「キャッ!?」

「え!?」

 両手で頭を押さえてしゃがみ込んだ少女をミナトはよく知っていた。腕の力が抜けてバッドをだらりと下ろした。

「キララ……ちゃん!?」

 なぜ彼女が配置場所ではなくここに……? そもそもここは立ち入り禁止のはず……ミナトは混乱してそれ以上の言葉が出てこなかった。
「ミナトくん……どうしてこんなとろこに……?」
 立ち上がったキララは驚いた様子でミナトを見る。
「それはこっちのセリフだよ!」
 ミナトはバットを放り投げて言う。カランと乾いた音を立ててバットが床に転がった。センサーが作動してバットの先端のライトが赤く点滅する。

「あっ! とりあえずこっちへ!」
「うわ!?」
 キララは壁のスイッチを押すと、壁から扉が現れた。彼女はミナトの腕を掴み扉の内側へと飛び込んだ。

 真っ白な小さい小部屋。扉が閉まると狭い密室に無防備なハイレグ姿の男女が2人きり。直前のやりとりもあって無言のまま気まずい空気が流れる。
 キララはずっと黙って俯いたままだ。この沈黙を打破するべくミナトが口を開く。

「侵入者かと思ったらキララちゃんだったからビックリしたよ。怪我とかしてない?」
 キララはぷるぷると首を横に振る。
「そっか。それならよかった」
「ミナトくんは私がどんな子でも嫌いになったりしない?」
 突然投げつけられた質問。今度はミナトが首を振った。
「あ、当たり前だよ!」
 少し恥ずかしかったが密室だし大丈夫だろう。でも少し顔が火照るのを感じる。
「良かった。私、ミナトくんのそういう所が好き!」
 屈託のない笑顔が弾ける。ミナトの顔は沸騰したように熱く、心臓はついさっきを遥かに超える勢いで高鳴っている。
 ここは密室。クラスメイトも誰も見ていない。しかもこのムード。確実にチャンスだ。行けミナト! 心の声に後押しされミナトは意を決して声を振り絞った。

「ぼ、僕もキララちゃんのこと……す、す、好――」
「あ、ついたみたい」

 軽快な『ピンポンッ』という音と共に閉じられていた扉が開いた。ぴょんっとキララちゃんは外へ飛び出す。
「どうしたの? 早くしないとまたエレベーター閉まっちゃうよ」

「あ、うん……そうだね……」

 不完全燃焼で重い体を動かしてミナトも外に出る。
 エレベーターの外は真っ暗だった。
 不気味なくらい光がない。漆黒の闇。キララが怖がる様子が微塵も見せないため、ミナトは体の震えを悟られないように肩幅を広げながら立っていた。


「いい加減にしろ! ホワイト!」

 部屋の奥から物騒な声が聞こえた。この声の主が侵入者と見て間違いないだろう。

「隠れてないで出てこい!」
「もうこれ以上の暴挙は許せません。あなたを逮捕します!」

 ミナトは耳を疑った。逮捕ということは警察……警察が一体なぜこんなところに。声が聞こえる方向を暗闇の中で必死に探っていると、一筋の光が壁を照らした。2回くらいの高さがある場所に1人の女性が立っていた。真っ白いハイレグ水着を着た女性は、ミナトたちが崇拝するホワイト本人だった。
 ミナトの目に映った彼女の姿は、神々しくキラキラと美しく輝いて見えた。もうホワイトから視線を外すことができない。彼の股は勝手に開き、腕を股間へと伸ばした。

「ハ、ハイグレッハイーー」
「ダメッ!」

 2度目のはイグレポーズを行おうとした時、キララによって制止されてしまった。口と右腕を押さえ込まれる。
「我慢して。見つかっちゃう」
 2、3度頷いてミナトは腕を下ろした。

「こっちに」
 彼女に手を引かれるままミナトは部屋の隅へ移動した。








 延々と続くと思えるような階段を下りる葵と宇海。薄暗く、足を踏み外さないように一歩一歩、慎重に進んでいく。
「行き止まりだ」
 前を行く葵が言う。宇海にもあと十数段で階段が終わっているのが確認できた。その先に扉のようなものが見える。かなり深い所までやってきた。軽く疲れも出てきたが、捕まっている志穂のことを考えるとそんな甘えたことは言っていられない。階段を下り終え、はっきりと姿を現した扉は見下ろしていた時にはわからなかったが、2人の慎重をゆうに超えるほど大きなものだった。

「開けるぞ」
 葵がゆっくりとノブを回した。少したけ扉を開き、隙間から中の様子を確認する。部屋の中は更に暗かった。敵の気配は感じられない。葵はペンライトの明かりを室内に向ける。相変わらず真っ白なタイルが張り巡らされた床が広がっている。敵の気配は感じない。光をもう少し部屋の奥までスライドさせてみる。照らされる小さな円の中に一瞬、脚のようなものが見えた。細い華奢な白い足。見覚えがある。葵は慎重にペンライトの照準を合わせる。その脚の正体は、探していた志穂のものだった。

「志穂!」

 ドアを手荒く全開にして葵が飛び出す。敵がいてもかまわない。全員ぶっ飛ばすだけだ。仰向けで倒れている志穂へと駆け寄った。真っ白いハイレグ水着1枚以外は何も身につけていないが怪我はなさそうだ。

「おい志穂! わかるか?」

 葵は志穂を抱き起こして呼びかける。

「……ん……葵……?」

 ゆっくりと目を開けた志穂は、ぼんやりとした顔で仲間の顔を見る。

「よかった……」
 葵はぎゅっと志穂を抱きしめる。
「どうして来たの……? 来ないでって言ったのに……」
 状況が理解できず困惑したような声で志穂が聞く。

「はいそうですか。なんて簡単に引き下がる私たちじゃないのはわかってるでしょう?」

 遅れてやってきた宇美が質問に答える。

「そんなことより早く逃げるぞ」

 出口へ向かうため葵は志穂の腕を肩へと回して立ち上がる。
「歩けるか?」
「なんとか」
 しかし、その会話を交わした瞬間だった。階段へと続く扉が当然閉じられた。

「ダメ。鍵がかけられてる」

 宇美がなんとか扉を開けようと試みるがビクともしない。

「クソッ!」
 志穂に肩を貸しながら、葵は天井を見上げる。
「いい加減にしろホワイト! 隠れてないで出てこい!」
「もうこれ以上の暴挙は許せません。あなたを逮捕します!」
 宇美も怒りに任せて声を張り上げた。

 次の瞬間、一筋の光が壁を照らす。2階ほどの高さに設けられたバルコニーのようなステージに1人の女の姿が浮かび上がった。

 金髪から生える白い羽。頬にプリンタされた白い星のマーク。白いグローブにブーツとマント。そして真っ白なハイレグ水着。自分たちを見下ろす女は間違いなくホワイト本人だった。
 2人は敵の本丸ということを含めても、ホワイトからはオーラのような異様な雰囲気を感じ取った。チラリとホワイトの姿を見た志穂は、葵の手を振りほどこうと暴れ始めた。
「大丈夫だ。私たちがついてる」
 よほどホワイトに酷いことをされたのだろう。葵は背中をぽんぽんと叩き志穂を落ち着かせる。
 葵は僅かに足が震えていることに気づいた。武者震いをするなんていつぶりだろうか。これは予想以上に大変な戦いになりそうだ。

 しかし、この最終決戦は葵の予想を大きく覆すほどあっさりと終焉を迎えた。


「さあ、ハイグレ人間シホ。侵入者を捉えなさい!」

 ホワイトが遥か高みから志穂へと命令を下す。

 その声を聞いた志穂の答えは――。

「はい。全ては偉大なるホワイト様のために」

 あまりの衝撃に葵の反応が一瞬遅れた。志穂によって関節を絞められ身動きを完全に封じられてしまった。
「志穂……お前……なんで……」
「ホワイト様の忠告を無視したあなたたちが悪いのよ」
 邪悪な笑みを浮かべながら手加減なく葵の動きを封じる志穂。

「うふふ。すっかり従順になってくれたわね。最初はあんなに抵抗していたのにね」

 高みから見物するホワイトが楽しそうに笑う。

「恥ずかしながらハイグレの素晴らしさを理解していなかった私に、丁寧にご指導くださったホワイト様のご命令に従うのはハイグレ人間として当然です」

 すらすらと迷いなく、ある意味では機械的にホワイトを崇める言葉を発する志穂。

「葵、宇美……あなたたちもホワイト様にハイグレ人間にして頂きましょう……一緒にホワイトハイグレ団のためにご奉仕するのよ」

 うっとりとした声で勧誘をしてくる。完膚なきまでに洗脳を施され、骨の髄までホワイトに服従しきっている志穂へはどんな言葉で説得をしても無駄なようだ。しかし、彼女をここまでの状態に堕とした洗脳術とはいえ葵も宇美も負けるつもりはない。

「悪いが遠慮しておくよ。どんな理由があろうと悪に屈するわけにはいかな……うあわあああああああああああ!?」

 志穂の提案を拒否する葵の体が突如、真っ赤に発行した。訳もわからないまま葵は悲鳴をあげて顔を歪めた。志穂の拘束は解かれ、体を大の字に広げて断末魔を響かせる。
 宇美は葵の体が光る直前に、一本の光線が彼女の体を目掛けて射したのを見逃さなかった。しかも出処は自分のすぐ近くのようだった。

「ぐぐ……なんだこれは……」

 激しい光の点滅から解放された葵は制服を剥ぎ取られ、純白のハイレグ水着姿になっていた。自らの体の変化を見て戸惑っている様子だ。

「うう……嫌だ……そんな……ハ、ハ、ハ、ハイグレェ!」

 クイッと1度、キレのいいハイグレポーズを行ってしまった。葵は屈辱的な思いを隠さず顔をしかめる。1度栓が抜かれてしまった衝動はもう止めることはでいない。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

 為す術もなく敵へと服従を表すポーズを繰り返す葵。完全に体の自由を奪われてしまった。
 宇美は状況がうまく飲み込めないなか、葵が打たれた光線が次に狙うのは誰かは理解できた。
「そこにいるのはわかっているわ! おとなしく出てきなさい」
 宇美は薄暗い一角へと向けて銃を向ける。葵の仇をとるためにも、相撃ちになっても仕留める覚悟だ。やがて物陰から2人の人影が現れた。2人とも両手をあげている。

「子ども……!?」

 志穂や葵と同じく白い色のハイレグ水着を着せられた少年。そしてピンク色のハイレグ水着を着た少女。少女の手には一丁の銃が握られている。殺傷能力があるとはとても思えない……まるで水鉄砲のようだ。あれで葵が……。

「やっぱりあなただったのね。キララ」

 名前を呼ばれてバツが悪そうに少女は2階にいるホワイトを見た。

「ごめんなさい……お母様」
「おかーー」
「ええええ!? ホワイト様がキララちゃんのお母さん!?」

 宇美の言葉は、少女の隣にいた少年の驚きの声でかき消されてしまった。

「あら、その子があなたが紹介したいって言っていた?」
 しげしげと少年を見下ろすホワイト。彼女に見つめられた少年は条件反射のようにガニ股になった。

「ハイグレッハイグレッ! ハイグレ人間ミナトです! 偉大なるホワイト様にお会いできて光栄です!」

 はイグレポーズの途中あたりから、少年の股間がむくむくとソリ立っていく。キララもそれに気づいた様子で、ひとつ大きなため息をついてから、彼の紹介を始める。

「そう。彼がミナトくん。すごく優しくてカッコイイでしょ?」

 こっちが絶体絶命な状態だというのに、ボーイフレンドの紹介を微笑ましく行うホワイト親娘。少年だって捕まえて洗脳されてしまっただけだろうに……。
「なんでホワイト様の子どもだってことみんなに黙ってたの?」
「それはね……」
「キララはあなたたちと同じように学校生活がしたかったみたいなの。ハイレグの色だけは一緒にするわけにはいかなかったけど、これからもよろしくお願いね」
「その銃をこちらに渡しなさい!」

 宇美が談笑する3人へ向けて怒鳴る。銃を自分の足元へと投げすてるようにキララへと促す。

 キララは観念した様子で両手を下ろして、オモチャのような銃を差し出した。宇美は彼女の行動に胸を撫で下ろしながら、人さし指で足元に投げるよう指示する。キララは銃を持つ左腕を振って銃を投げた。
「いい子よ。それにてもこんな銃はやっぱり地球の技術じゃ……って!?」
 光線銃は宇美の足元へはやってこなかった。

「お前が仕留めなさい! ハイグレ人間!」

 くるくると回転して飛んでいく銃は1人のハイグレ人間の手に収まった。

「お任せください。キララ様」

 銃を受け取った葵は素早く構えて、照準を宇美へと合わせた。

「葵!?」
 宇美の声に反応することなく葵はターゲットへと狙いを絞る。

「大切な仲間を撃てるかしら?」
「卑怯者……ッ!」

 激しく動揺する宇美とは違い、葵にはまったくそんな様子は見られない。ハイグレ人間となった葵にとってキララは従うべき支配者の1人だ。自分のような末端の新入りが逆らうような相手ではない。そして彼女は葵をハイグレ人間へと導いた恩人でもある。

 宇美が両腕を震わせながら銃口をこちらへ向けようとしている。撃たれるわけにはいかない。ましてやキララとホワイトに危険が及ぶのは身を挺してでも避けなければ。葵は迷いなく引き金を引いた。
 
「いやああああああああ!!」

 宇美はあっけなく光線に包まれた。ガシャンと拳銃が床へ落ちる。

 しかし、そんな宇美に一切のリアクションをせずに葵はくるりと後ろへと向き直った。力強くホワイトを見つめて、ゆっくりと、深く股を開いた。

「ハイグレッハイグレッハイグレッ」
 3回だけハイグレを行って、ガニ股のまま静かに支配者の言葉を待った。

 満足げに葵の姿を堪能するホワイト。あれだけ盛大に歯向かっていた狼が、牙を抜かれ従順に股を開いてこちらへ尻尾を振っている。可哀想な子犬にホワイトは哀れみの言葉をかける。

「ご苦労様。さあ、入団の誓いを立てなさい」

 葵が待ち望んだ言葉だった。これで真のハイグレ人間になることができる。ホワイトの奴隷となることができる。徐々に食い込みつつあるハイグレの鋭い切れ込みの刺激を感じながら、葵は生まれ変わるための誓いを述べた。
「ハイグレッハイグレッハイグレッ。ハイグレ人間・アオイはハイグレ人間としてホワイトハイグレ団とホワイト様に忠誠を誓います!」

 もう戻ることはできない不可逆の誓い。未練なんて全くなかった。まやかしの正義は捨て、これからはホワイトハイグレ団という本当の正義のために生きて行く。ホワイトのために身も心も捧げるハイグレ人間として。








 宇美の転生が完了したのは、それから数分後のことだった。アオイとシホが後ろから見守る中、宇美はホワイトへと向けてひれ伏している。真っ白い水着と透き通るような水色の髪のコントラストが美しい。
 ハイグレポーズを3回行ってから、誰に言われることもなく自ら床へと額を付けた。クールでプライドの高かった宇美が絶対にしない行動だった。しかし、もう彼女はこれまでの宇美ではなく、ハイグレ人間・ウミである。自分がホワイトハイグレ団の最下層の存在という自覚がしっかりと芽生えた証拠だ。
 ホワイトに見つけられながら、ただひたすらに誓いを許しが貰えるのを待つ。
 洗脳前とはいえ、ホワイトの娘へと銃を向けたことは問題行為だった。もちろんすでにキララへの謝罪を行っている。

「顔を上げなさい」
 まるで天から響く声のように感じられた。言葉に従って宇美は額を床から離し、ホワイトを見上げる。その場にいるハイグレ人間たちにも緊張が走る。

「あなたが次に拳銃を使うときは、自らの頭を撃ち抜くときだけよ。わかっているわね?」

 ホワイトの言葉に宇美の顔は凍りついた。しかし、首を横に触れるわけがない。

「わ、わかっております……ホワイト様……」

 宇美は傍に置いていた拳銃を手にとって、銃口をこめかみにあてた。しばらく触っていなかった銃はヒンヤリと冷たかった。

「ハイグレ人間・ウミ……死んでお詫びを……」
 引き金に触れる指に力を込める。ホワイトのためなら死ぬのは怖くなかった。むしろこの重い罪を自分だけの死をもって償えるなら安いものだ。

「お待ちなさい。違う違う」
「……え?」

 ポカンと口を開いたまま宇美は固まってしまう。

「あなたにはやってもらう仕事があるのよ。それが終わるまではお預けよ」

 ペットからおやつを取り上げるような口調でホワイトが言った。

「それでは……私は……?」

「いいわ。さあ、入団の誓いを立てなさい」

 ホワイトの言葉を受けて目を赤くさせながら宇美は立ち上がった。

「ハイグレッハイグレッハイグレッ! ハイグレ人間・ウミはハイグレ人間としてホワイトハイグレ団とホワイト様に忠誠を誓います!」

 言えるとは思っていなかった言葉。自らの口で発しながら、その感動を噛み締める。

「よかったなウミ」
「おめでとう」

 先に転生を終えていた仲間が迎えてくれる。

「キララ、侵入者はいなくなりました。その子を連れて教室に戻りなさい」
 ホワイトの声は優しい声はホワイトハイグレ団の総帥ではなく母親のものだった。

 2人をエレベーターへと乗せて見送ると、ホワイトの声は再び総帥としての厳しいものへと戻った。

「さて、ハイグレ人間・ウミ。お前には地上の風俗へ行ってもわうわ。しっかりホワイトハイグレ団の資金を稼ぐのよ」

「ハイグレッハイグレッ!」

 ウミは即答だった。まともな店に送られるはずがないのはわかっていた。しかし、それがホワイトハイグレ団のためになるのなら。
「全ては偉大なるホワイト様のために」

 身も心もホワイトに捧げたウミは、文字通りその身体を差し出した。

「さて……残ったお前たちには重要な仕事を任せるわよ」
「「ハイグレッハイグレッ」」

 シホとアオイが返事をする。

「警察の情報をこちらに流すのはもちろんだけど、ホワイトハイグレ団に必要な将来有望な子どもたちを見つけて連れてきなさい」

 シホの調査とアオイとウミの勘は見事に当たっていた。やはり一連の誘拐事件の犯人はホワイトだった。ずっと追い続けていた犯罪者が目の前にいる。しかし、彼女たちは動かない。ウミはそんなことよりも地上の違法風俗で男性陣に奉仕することで既に頭がいっぱいだった。シホとアオイは追い求めていた犯人へ向けてガニ股になった。

「ハイグレッハイグレッ! 機密情報は全てホワイトハイグレ団へご提供致します! 全ては偉大なるホワイト様のために!」

「ハイグレッハイグレッ! ホワイト様に選ばれてハイグレ人間へと転生することは子どもたちにとって光栄なことです。1人でも多くの優秀な子どもたちをホワイトハイグレ団へ連れて参ります! 全ては偉大なるホワイト様のために!」

 犯罪の片棒を担ぐ認識など2人にはまったくなかった。ホワイトの命令は絶対で、ホワイトの命令は正義なのだ。

「よろしい。それではお行きなさい! ハイグレ人間たち」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
白い奴隷たちは新しい使命を全うするためにエレベーターの中へと消えていった。全ては偉大なるホワイトのために。







 拉致事件は半年後も終息することなく続いていた。警察も必死の捜査を行うも犯人には近づけないでいた。

「先週、また3人子どもたちが行方不明になった」会議室で警察の幹部が苦々しく言う。「あれから捜査に進展はないのかね?」

 その質問にはシホが答えた。

「申し訳ございません。前回、突入した雑居ビルが不発に終わってからは……不審者などの情報をうけ調査はしているのですが……」

「あの……」

 隣に座るアオイが手を挙げる。

「不審者対策に活用したいので、今月もパトロールに使っている資料を頂けませんか?」

「ああ。あとで送っておこう」

 結局、特に大きな進展のないまま会議は終了した。

 2人はいつもの捜査室に戻る。

「おかえり」
 部屋にはパソコンに向かうウミの姿があった。この部屋には似合わない白いハイレグ水着姿で。

「さっき送られてきた資料は既にホワイト様に送信済みよ」

「ありがとう。ふぁ〜暑い」
 アオイも制服を脱ぎ捨て、純白のハイレグ水着姿になって椅子に腰掛けた。

「ウミは今夜もお店?」
 3人分のコーヒーを淹れているシホも既にハイレグ1枚になっていた。

「ええ。上客からこんなにご指名が入っているのよ」
 ウミは指を4本立てながら誇らしげに言う。

「すごいじゃん!  人気ナンバーワンなんだって?」
「まあね。でももっと頑張って私もホワイトハイグレ団に貢献しないと」
 ウミはすっかり心入れ替え、献身的に任務に従事していた。

「私も今夜1人連れて行けるよ」
 アオイがコーヒーをすすりながら言った。

「また1人仲間が増えるのね?」

「ああ。学校の成績も運動神経も申し分ない。今は定期的に横山様のもとでハイグレへの適応実験をして頂いてるところ。今夜にでも親と喧嘩して出てくるように言ってあるんだ」

「へえ。あ、ホワイト様が資料を送ったメールの返信をくださったわ。動画付きよ!」

 シホの言葉に、残りの2人は慌ててモニターを覗き込む。シホも少し緊張気味に添付ファイルを開いた。

『ご苦労様、ハイグレ人間たち』
 動画に映るホワイトは、立派な白い椅子に深々と座っていた。

「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ」」」
 ハイグレ人間たちはモニターに映る総帥へハイグレを捧げる。

『お前たちのおかげで我がホワイトハイグレ団の戦力はかなり整ったわ。だから新しい任務を与えるわよ。これからも3人仲良く頑張りなさい』

「新しい任務?」
 シホが小さく呟く。

『さあ画面をよくご覧なさい』

「あ……」

 ホワイトの声を聞くと、3人の瞳から光が消えた。命令通り画面だけをじっと見つめている。

『よくお聞きなさい? 一連の連続拉致事件の犯人は他でもないあなたたち3人だったの』

「拉致事件の犯人は私たち……」
 アオイがぼんやりと呟く。

『私もホワイトハイグレ団も一切関係ない。全てはあなたたちの猟奇的な犯行』

「ホワイト様もホワイトハイグレ団も関係ない……全て私たちの犯行……」
 シホも呟く。

『可哀想に……拉致した子どもたちはもうどこにもいない。子どもたちは全員殺しちゃったの。そうハイグレ人間・ウミたった1人で。そうよね?』

「はい。子どもたちは私がたった1人で殺しました……」
 ウミが繰り返した。

『最後の任務は今回の事件は必ず3人の犯行ということで終わらせることよ。我がホワイトハイグレ団の名前は一切、世に明かしてはいけないわ』
「「「はい……全てはホワイト様のために……」」」
 3人揃って答える。

『ウミは極刑になるかもしれないけど頑張ってね』
「はい……全てはホワイト様のために……」

「じゃあ絶対しくじっちゃダメよ。ハイグレもそれを最後に禁止だからよ〜く味わいなさい。じゃあね〜』

「「「ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……」」」

 無表情で、ゆっくりと最後のハイグレポーズを行う3人。
 画面が消えても彼女たちの目に光が宿ることはなかった。3人はハイレグ水着を脱いで部屋の奥深くへと隠した。制服を着た所で扉が激しくノックされた。
「ここを開けろ!」
 警察なので当たり前だが、警官の声だった。
「お前たちが拉致事件の黒幕だという通報と有力な証拠が見つかった。警察の恥さらしめ! 話を聞かせてもらう!」

 3人は抵抗することなく扉を開けた。
「はい。すべて事実です」
「拉致事件は私たちが行いました。間違いありません」
「罪を認めて全てをお話しします」
 3人の警察官は、制服のまま手錠をはめられ連行されて行った。





 雑居ビルの地下深く。ホワイトは椅子に座って、ワインを飲みながらテレビを見ていた。全チャンネルが拉致事件の犯人が警察官だったという衝撃のニュースを放送していた。3人は犯行を全面的に認めているという。しばらくの間はこの警察の大スキャンダルで持ちきりだろう。一般市民からの信用もガタ落ちで、信用回復にはさらに長い時間を要しそうだ。

「勝手に首を突っ込んできたあなた達が悪いのよ。残念だけど相手が悪かったわね」
 白ワインを一口分流し込む。
「ふふふ……でも思わぬ副産物のおかげでハイグレ魔王様から授かった計画は一気に順調よ。ありがとう。そして、さようなら可愛い奴隷ちゃん」
 ホワイトはテレビを消して、残りのワインを飲み干した。ハイグレホワイト団の野望はまだ始まったばかりだ。


ぬ。
2017年05月31日(水) 22時08分10秒 公開
■この作品の著作権はぬ。さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうもこんばんは。投稿が想定以上に遅くなりました…でも今回は遅刻してないよ!
予定していたよりもかなり長くなってしまいました。本当はもっとスッキリ終わらせる予定だったんですが、書いている途中にもいろんなネタが出てくるですもの…絵師さんたちが考えたキャラ可愛すぎぃ…!
ROMさんの作品をベースに書かせて頂きましたけど、akarikuさんもファウストさんも参式さんの作品の子たちも全員主役とさせて頂いたつもりです。俺の底能力に限界があるのでその辺はすみません…

でも、個人的にはすごい楽しかったです!
一部楽しすぎて暴走しすぎてしまった部分もございますがどうぞご容赦ください…何卒…何卒…
またこんな機会があったら是非!
各作品のコメントは画像掲示板で後日たっぷりと…

今回はこの辺で失礼します。みなさんお疲れ様でした!(`・ω・´)ノシ

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執筆お疲れ様です!
5枚の絵をしっかりとした話を作りあげるぬ。さんは最早人智を越えてますね(白目)
絵師さん達のキャラ達が複雑に絡み合う重厚なドラマに思わず見とれてしまいました。
最後の3人はちょっと可哀想でしたが魔王が征服した際には幸せに生きていることを願っています。
満足 ■2017-06-09 21:28:01 om126186193153.7.openmobile.ne.jp
当初絵師5人分なんて正気かと思いましたが水面下で起きている他の出来事としてすべてつなげたことに驚きました。
おまけにカプセルとか要素が多めに含まれてていい…
そして給食係ちゃんが想像以上にとんでもないポジションにいてびっくりしました
しかもakarikuさんの子とここまで絡むとは…ミナト君ちょっと話し合おうか

給食のシーンもいい感じの流れで使っていただきありがとうございます!
どんな絵を描くか悩んだ甲斐がありました
参式 ■2017-06-04 01:07:31 kd106154055029.au-net.ne.jp
なんという、超大作……。
機械による快感注入に始まり投薬、カプセル漬け、そして王道の光線銃とあらゆる洗脳手法がエロエロに書かれているばかりか、それぞれの役者達が実に活き活きとしていて飽きることなく読み通せました。
ROMさんの仰るように、分割投稿でもきっと多くの読者を最後まで引き付けてやまないでしょうねぇ〜。
いつもながら、ぬ。さんの構成力にただただ感服です!

そして個人的には、多少の違いはあれど「カレー」やら「風俗」といった拙作との共通点にクスリとしていました。
これも企画ならではの楽しみですね♪
牙蓮 ■2017-06-02 23:42:45 38.117.168.203.megaegg.ne.jp
自分の絵から素晴らしいショタ洗脳を見せてくれてさらにその後もミナトくんの出番も多くて大満足です
そしてホワイト様とキララちゃんまさかの親子とは、やはりハイグレは人を若々しくする
ある程度事が大きくなってきたらスケープゴートを用意、ホワイトハイグレ団の存在が隠れる上手い作戦だなあ
可哀想だが可愛い愛娘に銃を向けたから致し方ない
ホワイトハイグレ団に完全に支配されるXデーに3人は許され英雄扱いされるか、許されずそのままか
akariku ■2017-06-02 00:43:37 p227001-ipngn200303takamatu.kagawa.ocn.ne.jp
ぬぬぬ!本当に4つの絵で作品を書くとは このいやしんぼめ!
名探偵コナンのように大きな組織(黒の組織ならぬ白の組織)がバックにありつつ それぞれのストーリーが独立しており1話ずつでも楽しめるという物語構成 ぜひ12話アニメで見てみたい!
私のイラストパートのストーリーは大体想定通りです 王道の良さをしっているぬ。さんだからこそストレートに物語を書いていただけたのは嬉しいです!
なお「白の組織の人間か」「そんなダサい名前じゃないわ。私たちはホワイトハイグレ団」はどっちにしてもダサい!グッジョブ!

あと最近モーレツにバタバタしてまして あまり顔出せなくてスンマソン
ROMの人 ■2017-06-01 07:31:51 softbank126122114204.bbtec.net
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