新興宗教ハイグレ教 〜アナザーストーリーver〜 |
「ん…、これ企画書じゃない。こんな雑多なトコに置いてたら失くすわよ」 目に付いたのは片付けもしないで散らばった隅の机に置かれた数枚の紙。 こんなのがしたいなぁ、などの一般生徒からの投書とソレを煮詰めた企画書であった。 その投書にはそれを書いた人の名前はなかった。 無論、恥ずかしいからとかの理由もあって、名前をちゃんと書いてくる人は滅多にいないけど。 【非日常な格好をして、みんなで文化祭とかどうでしょうか】 ただ一言、そこには書いてあった。 企画書にはできるだけ新しい、というか無理に奇をてらった内容があったが…。 “ほら、みんな望んでるのよ” ―――朝の、暗い、声。 前よりはっきり聞こえてきたその声は、自然と自分に馴染んでいった。 「そう…だから、皆…、皆…」 頭がぼーっとして思考がまとまらない。 そのくせ、たった一つの欲望が私の中を支配していく。 「ふ、ふふ…。そうね、この企画は素晴らしいわね」 そう呟く葉月の影は、複数の影を重ねたかのように黒く染まっていた。 文化祭に備えて、すぐにでも行動を起こさなければいけない。 しかし、今は既に放課後であるために残っている生徒は少ない。 少ないが、先生はおそらくほとんど残っているだろう。 そう考えると、私は職員室へと向かった。 職員室では忙しそうな先生と、ただ煙草をふかしたりしてのんびりしている先生の両極端の巣窟であった。 生徒会長である自分は割合職員室を訪れる方なので、特に誰も注目はされずにすんだ。 とりあえず、職員室の奥にある校長室へと私は向かった。 一人で居るだろうから、何かと都合が良い。 軽くノックして、私は普段の自分を装って部屋へと入っていく。 「あら、どうしたの?進士さん」 この学校の教師は総じて若い人が多く、全て女性で構成されている。 それというのも、二年ほど前から就任した校長先生の指導方針である。 確かに若い先生のほうが話しやすいし、今の生徒たちに理解を示してくれるので、一つの正しい行動だったのだろう。 私は校長先生に微笑みで返すと、手に銃を生成して構える。 玩具のようにも見える銃を見て、何かの企画の余興でも見せにでも来たのかと勘違いしたらしい先生は様子を見たままだ。 まずは叱らず、容認する方向で捉えようとする教育方針は好ましい。 だから、私は慈しみを込めて引き金を引いた。 校長先生に手伝ってもらい、一人ずつ先生達をハイグレ人間へと変えていった。 そうして、校長室には総勢63名の色とりどりのハイレグに身を包んだ教師たちが居た。 それぞれが紅潮した顔つきでこちらを見ている。 それは支配者の至福、心地よい快感が身体に走っていく。 「さて、いつまでも恍惚としてる場合じゃないわね」 そして、考えを巡らせる。 全員ハイグレにしてしまっては文化祭が、ある意味普通のものとなってしまう。 ここの文化祭は外部に対しては厳しい上に、今のところは外の人間を絡めるのはリスクが高すぎるか。 そこで、洗脳の度合いを低い人間を何人かゲストとして用意することにする。 それぞれの学年から、3〜5人程度のグループで普段行動をしている人間をリストアップしてもらった。 とりわけ、保健室にはグループで来るためか保健医からの情報が一番多かった。 さて、一年生からは大人しめのグループを選んでみる。 上級生からの命令に逆らいきれずに堕ちていく様子を見るのは愉しいだろう。 二年生からは活発な子を選んでみる。 一年生とは真逆の反応を見せてくれるのかどうか愉しみでならない。 三年生からは不良っぽい子を選んでみる。 不良とはいっても、一応進学校ではあるし、先生も良い意味で教育熱心な人が多いのでどちらかといえば気が強いと言ったほうが合うだろうか。 これらの子は洗脳レベルを極端に下げておいておく。 ハイレグ関係のあらゆる行為において、羞恥などは感じるけれど変に違和感や異常を感じない程度にしておく。 ああ、言うなれば調教をするような感じだろうか。 単純にハイグレ化を進めるだけなら必要のないことだが、何事にも楽しみというものは必要だと思う。 それに、こんなにも嗜虐を好む性格だとは自分でも気付かなかった。 適度に欲求を解放させるべきだと考えたのだ。 ――さて、結果から言えば洗脳活動は滞りなく進行している。 …けれど問題が一つ。 それは、うちの学校にあるクラブの一つなのだが、そこが僅かな異常に気付き始めている。 無理もないことかもしれない。 何しろ、気付かれないようには行動しているが、効率ではなく楽しさ重視でやっているのだから。 そして、その問題はゲームと置き換えると愉しくもあった。 既に学校の9割は支配下に置かれており、勝利は確定的でもあるのだから。 勝てる勝負しかしない臆病者ではないけれど、勝ちしかない勝負に抗う相手を見るのは最高に愉悦かもしれない。 そのクラブはただの文芸部だが、ある意味あなどれない。 と言うのも、どこの学校にもなんとなく社会に馴染めないという人間がいる。 それでも、適当に折り合いつけて生きていくのが普通だがそれも若いからかできない生徒が居る。 そういうものたちが何故か集まりやすい傾向にあるクラブなのだ。 そこは今は8人で構成されており、うち7名は先の洗脳活動により支配下にいる。 要するに部長のみが異常を勘付いた、ということだ。 部長の名前は宮司伊織。 何事にも動じず、そつなくこなせるが他人との感覚が合わずに浮いている。 彼女自身はどう思ってるか知らないが、一番社会とはズレている気がする。 他の部員は、それから見れば真っ当な部類に入る。 それでも過去の事情から他人を見下すことで精神の安定を得ているようなタイプなど、色々とアレなのが揃っている。 先ほども言ったが、既にほぼ全員がこちらの手ごまなので恐れるには足らない。 そのうちで一番まともな感覚の持ち主で、相沢朱里という非凡に憧れているタイプの人間が扱いやすかった。 文芸部の人間が自分から行動を起こさないのが多い中で、快活なのは稀有な存在といえるだろう。 その性質が問題の発端っぽい気もするのだけれども。 ちなみに部長が動こうとしているのは、とどのつまり彼女の退屈しのぎに近い。 そして、私はどうやって堕とそうか思案を始めた。 物事にはシチュエーションが大切だ。 この子はゲームが好きらしく、最新のビデオゲームよりかはチェスなどの実際に手で触ってできるモノがより好みらしい。 「ふぅん、そうね…」 集合写真にも、一年の修学旅行でのときも常に無表情で写っている宮司さんを見つめる。 「ゲーム、…ゲームねぇ?」 葉月本人はあまりゲームをやらないので、イマイチゲームに関連したものが思いつかない。 思いつかないので、好みの性格にしてしまえばいい。 結論から言えば、相沢さんの手引きもあって部長の洗脳は完了している。 洗脳してはいるが、宮司さんは地雷を抱える形で洗脳が施されている。 文化祭用の愉しみはまだ一ヶ月後で、それまではゆっくりとこの三人で愉しむのも悪くない。 宮司伊織が完全にハイグレ人間へと化すのは自らハイレグを着用した場合だ。 この段階で彼女は生徒会長である私と話がしたいと言ってきた。 私が黒幕だと気付いたか、異常を知らせに来たか。 「どちらにしても、これがゲームスタートの合図かしらね?」 ふふっ、と妖艶に笑えば生徒会室で準備を始める。 とは言うものの、私がわざわざ動かなくてもハイレグ人間と化した下僕が大勢居るので楽なのだが。 …その翌日、文芸部部長にとっての運命の日。 放課後になると、さっそく生徒会室へと彼女はやってきた。 彼女は挨拶もそこそこに、本題へとすぐさま入っていく。 「うちの部員の様子が近頃おかしい。まぁ、普段から変だと言われればそうなんだけどね」 案外、それに関しては自覚はあるらしい。 「それで?生徒会への調査を頼んでるのかしら?」 「いや、相沢というのがいるのだけど、その子が葉月様…などということを呟いていたのを偶然聞いてしまってね」 妙に冷めた目つきでこちらを見る。 「相沢が、個人的な趣味なんかで生徒会長と付き合いがあるのならともかく、どうも学校全体で生徒会長を崇拝しているように見受けられる」 発端があるとはいえ、そこまでよく気付いたものだと苦笑する。 みんなは一応今のところは普段どおりの生活を送っているため、ばれないとそれなりに自負していたのだけれど。 「生徒会長さんが、仮に洗脳装置なんかで信頼を集めているとかだったらあたしとしてはどうでも良かったんだけどね」 ふぅ、と彼女は一旦間を置いて続ける。 「あたしたちにまで及ぶなら、相応の覚悟は必要だってことを伝えにきただけかからさ。相沢もこの話になると急にはぐらかすしね」 とりあえず、相沢さんには後でお仕置きが必要かもしれないと微笑みの下で怖いことを考えていた。 「仮に私が黒幕だったとして、素直に貴女を返すようなうっかりさんに見えるのかしら?」 「…そのときは力づくでも」 「野蛮なことは嫌いな性格なの。だから、もし争うというのならこういうのにしない?」 そういって取り出したのはチェス盤。 良く分からない、おちょくりにも取れる行動に彼女も驚いてるみたいだ。 でも、彼女は対等な勝負を申し込まれて逃げる性格じゃないと知っている。 むしろ、チェスなどは私よりかは彼女に分があるのだろう。 …何せ、私はチェスなんかやったことがないのだから。 「貴女が負けたら、罰ゲームとしてコレでも着てもらいましょうか」 そういって更に藍色のハイレグを取り出した。 「そんなのを着る趣味はないが、あたしが勝ったら何をしてくれるんだ?」 「そうね、自由に決めていいけど。とりあえず部費アップってトコでどう?後で変更してもいいけどね」 「…分かった」 ああ、もう。こうも簡単に思い通りの展開だと可愛らしくも見えてしまう。 彼女と長い付き合いの人の行動予想のおかげだった。 で、私はチェスはできない。 昨日の夜にルールブックを見て、コマの動かし方なんかの基本を覚えただけだ。 そして相手はかなり強い部類に入る人だ。 ――けれど、洗脳されている人間が洗脳した人間に勝てる道理はない。 洗脳の第一は相手が自分よりも優れているという少し卑屈めな思想にすることなのだ。 なら、チェスのうまい人間が下手な人間と戦うとどうなるか? 答えは盤面に出ている。 …まるで、白痴。 本人は真剣にやってるつもりでも、わざと相手に勝たすように駒を動かしている。 そうした本人は洗脳が潜在的であるために、何故負けたのか理解できない。 「……っ」 「私の勝ちみたいね?」 結果は明らかで、盤上には彼女の駒は何も残っていない。 自分から差し出すように彼女は駒を動かしていたからだ。 「それじゃ、約束どおり着てもらいましょうか?」 「ほ、ほんとにやらせるのか?」 「ええ、やらせるわよ?今、ここで」 しなくてもいい勝負に乗ったのは自分で、勝てると思った勝負に負けたのも自分。 渋々と服を脱ぎ始めるが、すぐに手が止まる。 「…裸になるわけじゃないんだから、着替える場所はない?」 「貴女のすぐ後ろに、着替えられそうな場所があるわ」 私の背後にある準備室でも良かったのだけれど、わざわざ同じ空間で着替えをしろと言ってみたのだ。 少し、彼女は何かをいいたそうだったが、結局は何も言わずに渋々と着替えをし始めた。 数分後、着替えを終えて出てきた彼女の様子がおかしい。 原因は自分なのだし、どうなるか理解しているのだけれど黙って様子を見ていた。 「なに、これ…。身体が熱くて、あれ……ヘン…」 すっかり顔を紅潮させた彼女は自分の身体を眺めている。 罰ゲームで着せさせられていることを既に彼女は認識しているかどうか怪しい。 「ハイグレッ、って叫んでごらん?」 「は、い…ぐれ?」 「そうよ?」 彼女は自然と両手を股間あたりに持っていき、それをV字に切るような動きをし始める。 「ハイ、グレ…ハイグレ、ハイグレッ!」 少しすれば慣れてきたのか、どんどんと激しい動きになってくる。 今までの無表情はどこへやら、彼女は恍惚とした笑顔を浮かべながらコマネチをひたすら繰り返した。 「ふふ、いい格好ね。今の貴女ほうがよっぽど魅力的よ?」 「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ」 愛おしそうに見つめると、私は今度の文化祭へと思いを馳せる。 文化祭での催し物で弄ぶのが愉しみだ。 これで彼女も晴れてみんなの仲間入り。 文化祭での案内は恒例として文芸部担当なのだから、より魅力的に仕事をこなしてくれるようになるだろう。 私はその様子を思い浮かべると、薄く微笑んだ。 |
十六夜
2007年10月13日(土) 00時17分14秒 公開 ■この作品の著作権は十六夜さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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