新世紀エヴァンゲリオン もう一つの世界〜ハイグレを、君に〜 |
最後の使徒、渚カヲルが滅せられてから数日。 碇シンジは身を寄せている葛城ミサトの家でふさぎこんでいた。 「嫌だ・・・・・嫌だ・・・・・嫌だ・・・・・。」 シンジは友達だと思っていたカヲルを自分で殺したことに罪悪感を感じていた。 仕事中のミサトが電話をかけてきても出ず、自分の世界にこもっていた。 「はあ・・・・・・。明日からネルフ本部に泊まり込みだってのに全く準備してないな・・・・。」 シンジは起き上がる。 「気乗りはしないけど準備しないと・・・・。」 荷物をまとめ始めるシンジ。 「んっ?これは?」 テーブルの上に乗っている一つの小包。 「あっ、昨日届いたやつか・・・・。」 前の日の晩に宅配便で届いたシンジ宛ての荷物。開ける気力もなかったのでそのまま放置していた。 シンジはおもむろに包みをはがす。その中から小箱が現れ、それを開けると一枚の黒いマントが入っていた。 「何だろう、これ?」 シンジは今破った包みの差し出し人を見る。そこにはこう記されていた。 「ハイグレ魔王・・・・?」 シンジには心当たりのない名前だった。 「まあいいや。つけてみよう。」 シンジはそのマントを広げ、羽織ってみる。 「あ・・・・・。」 シンジに不思議な力が湧いてきた。 「なんだろう、この温かい感覚・・・・。まるで母親に抱かれているような・・・・。」 マントを外してみるとたちまちその温かい感覚は消えていった。 「もう一回つけてみよう。」 もう一度羽織る。 「あ・・・・。いい感じだ・・・・。」 「そのマントを付けることができるんですね?」 「!?」 後ろから不意に声をかけられ驚くシンジ。振り返るとそこには一人の女性が立っていた。 「一体どこから入ってきた?君は誰?」 「ハイグレ魔王様の使いの者です。失礼ながらここに空間転移して入らせて頂きました。」 「この小包の送り主の使い?」 「はい。」 「僕に何の用?なんでこれを送ってきたの?」 「我々の調査の結果、あなたにはこの世界をハイグレ魔王として統べる力があります。なので、ハイグレ魔王様の宝の一つ、魔王のマントを差し上げたのです。」 「そんなこと急に言われても・・・・。世界征服なんて・・・・。」 「あなたはこの世界が嫌だと思っている。違いますか?」 「それは・・・・。」 「そう。親友でありながら自らが殺した使徒・渚カヲルの現実を未だに受け入れられない。」 「・・・・・。」 「あなたにはこの世界を人類補完計画よりも平和にすることができます。全ての地球人をハイグレ人間化し、あなたの下に従わせればもう戦争や災害で無益な血が流れることもありません。そして、人々が共に生きていける世界を作れます。」 「・・・・・。」 「信じられない・・・・。でも、信じたい・・・・・。」 シンジはマントから元気が分けられているような気がしてくる。 「うん・・・・。このマントを付けてるとできそうな気がする・・・・・。やってみるよ。」 「やって頂けますか。では、これを受け取ってください。」 女性は一丁の銃を取りだす。 「これはハイグレ銃。この銃から出る光線で相手をハイグレ人間にできます。」 「ハイグレ人間にするとどうなるの?」 「服がハイレグに変化し、コマネチに似たポーズを取ります。そうすれば、あなたに無二の忠誠を誓ったことになります。」 「うん、分かった。」 「マントが銃弾やミサイルからあなたを守ってくれますのでご安心を。」 女性はシンジから一歩後ろに下がる。 「さて、私はここらへんで失礼します。教えることは教えたので、もうあなた一人で戦えるでしょう。」 「もう行っちゃうの?」 「はい。次の仕事がありますから。この先は守秘義務なんで聞かないでくださいね?」 「そっか。いろいろありがとう。」 「いえいえ。では、ご武運を。」 女性の足下に魔法陣が出現し、彼女はそれに飲み込まれながら消えて行った。 「よし、死んだカヲル君のために・・・・この世界のために頑張ろう。」 シンジは決意を新たにハイグレ銃を握り締めた。 カチャリと部屋の鍵が開く音がする。 「シンジ君、休憩時間だから様子見に来たんだけど、元気?誰かと話してたみたいけど?」 そう言いながらこの部屋の主、葛城ミサトが入ってきた。 「あら、誰もいないみたいね。気のせいだったかしら?」 ミサトが首をかしげる。 「あの、シンジ君、何やってるの?」 マントを羽織っているシンジをいぶかしげに見る。 「これですか?もらったんですよ、ハイグレ魔王に。」 「ハイグレ・・・・・魔王??」 「そうだ、ミサトさんで試してみよう。」 シンジはハイグレ銃の銃口をミサトに向ける。 「あはは、そっか。元気になったからピストルごっこがしたいのね?」 「違いますよ。僕はこれから世界を支配するんです。まずはミサトさんから。」 「そっかそっか。怖い怖い。」 「信じてないでしょ?」 「シンちゃんも中学生なんだから、そういう遊びも程々にしないと駄目よ?」 「やっぱり信じてないんだね?」 自然と銃の引き金に力が入っていく。 「さあ、僕に従うんだ!!」 ピュンピュンピュン 「きゃっ!」 ミサトに光線が当たり、体が激しく点滅しながら、服とハイレグ水着の状態が交互に繰り返される。 「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 光が消えると、そこには十字架のペンダントをつけ、赤のハイレグ水着を着たミサトが立っていた。 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 シンジは今更ながらハイグレ光線の力に驚く。 「凄い・・・・。」 「ハイグレ!!ハイグレ!!私はシンジ君の忠実な奴隷になるわ!」 「僕、ハイグレ人間の世界を作りたいんだ。ミサトさんも力を貸してください。」 「分かったわ。何でも協力する。」 「まずはネルフにいるアスカと綾波、リツコさんをハイグレ化したいな。」 「じゃあ、私が先にリツコの部屋に入れるように手筈を整えておくわ。」 「お願いします。」 ミサトはハイグレ人間であることを隠すため、服を着た。 「うふふ、スパイみたいね。じゃ、後でね、シンジ君。」 そう言って部屋を出て行った。 「ああしてミサトさんのハイレグ姿みると、いいなあ・・・・。」 シンジは無意識のうちに鼻の下が伸びていく。 「ガサツなのを除けば、ミサトさんってスタイルいいし、美人だし・・・・。これだったらアスカや綾波も期待できるだろうな・・・・。」 シンジはこの後の展開にわくわくしてきた。 「そうだ・・・・。ネルフに行く前にあそこに行っておこう・・・・。」 シンジは部屋を出る。そして、まっすぐある場所に向かった。 ピッピッピッ とある病室。心電図が同じ間隔で心臓の音を刻んでいる。シンジはそれを凝視していた。 「トウジ・・・・。」 シンジの親友・鈴原トウジは新型エヴァのパイロットに抜擢されたが、その暴走に巻き込まれて瀕死の重傷を負い、現在も集中治療室で絶対安静の生活を送っていた。 「トウジ、僕のせいで、ごめん・・・。」 眠っているトウジに向かってひたすら謝り続けるシンジ。 「でも、もう心配はいらないよ。僕と一緒に・・・・。」 シンジはハイグレ銃を取りだす。 「一緒にハイグレ人間の世界で暮らそう。」 ハイグレ銃の引き金を引く。 トウジの体がハイグレ光線に包まれ、黒のハイグレ姿になった。 「ん・・・・。」 トウジが目を開ける。 「トウジ?」 「シンジか・・・。」 おもむろに立ち上がるトウジ。シンジがあわてて止めに入る。 「だめだよ、寝てなきゃ。」 「放せ、シンジ。ワイはもう大丈夫や。」 そう言いながら、ベッドを降りる。 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 ハイグレポーズを取り始める。今まで生死をさまよっていた彼とは違っていた。 「トウジ!!元気になったんだね?」 「ああ、ピンピンしとるで。これもハイグレ魔王様とシンジのおかげや。ほな、一緒に、ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 今まで動けなかった分を取り戻すかのようにハイグレポーズを取り続ける。 ピッ 病室のカードキーの認証音。そして少ししてからドアが開いた。 「おーい、見舞いに来たぞ、トウジ〜。」 「ちょっと、相田君。鈴原は寝てるんだから、大声出しちゃ駄目よ。」 「あっ、そっか。いっけね。」 入ってきたのは同じ中学のクラスメイトの相田ケンスケと洞木ヒカリだった。 二人は病室の中の光景に目を疑った。 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「トウジ!!」 「鈴原!?」 元気にハイグレポーズを取るトウジに驚く。 「どうなってんだよ!?って、おい、シンジ、お前説明しろ!!」 ケンスケがシンジがいることに気付き、説明を求める。 「説明って何を?」 「どうして鈴原が急に元気になったってことよ!!昨日来た時までずっと寝たきりだったのよ?」 「ああ、それはね・・・。」 病室の扉がまた開く。看護師が騒ぎに気づいてやってきたようだ。 「どうかしましたか?・・・・・きゃっ!!」 看護師もトウジの変わり果てた姿に驚く。 「ケンスケ、委員長。見ててよ、僕の力を。」 シンジは看護師に向けてハイグレ銃を撃つ。 「きゃああああ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 看護師はハイグレ姿になり、ハイグレポーズを取る。 「トウジと同じ?」 「碇君、あなた・・・。」 二人が後ずさる。 「さあ、二人もすぐに一緒にしてあげるからね。まずはケンスケからだよ。」 シンジはケンスケに向けてハイグレ銃を放つ。 「うわあああああ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 緑のハイレグ水着に身を包み、ハイグレポーズを取る。 「相田君!?」 「さ、次は委員長の番だよ。」 「いや、来ないで・・・・。来ないで!!」 ヒカリは部屋の逃げようとするが、部屋の隅に追いつめられる。 「じゃあね、委員長。」 ハイグレ光線がヒカリに当たる。 「きゃああああ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 白のハイレグ姿になったヒカリは恥ずかしそうにハイグレポーズを取る。 「みんな、待ってて。この世界をすぐに僕の思い通りに作り替えるから。」 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 シンジはハイグレポーズを取り続ける四人を尻目に病室を出た。 ネルフ本部にたどり着いたシンジ。認証カードを差し込み、中に入る。 「さてと、ミサトさんはうまくやってるかな?あ、そうだ、アスカのところに寄ろう。」 シンジはアスカのいる病棟に向かった。 アスカは精神的にボロボロになった状態でベッドに横たわっていた。 「アスカ・・・・。今すぐ楽にしてあげるね。」 ハイグレ銃を構えるとそれに気づいたアスカが発狂して襲ってくる。 精神病になっている彼女には人間の心はなく、ただ本能的に行動している。 「うわあああああああああああっ!!!!!」 ハイグレ銃を跳ね飛ばされ、アスカが馬乗りになって首を絞めてくる。 「このままじゃ、殺される・・・・。」 その瞬間シンジの体に不思議な力が入ってくる。そして、気づくとアスカは部屋の隅に飛ばされていた。 「このマントが守ってくれたのか・・・。」 シンジは立ち上がってマントをたなびかせる。アスカは怯えて反撃してこない。 シンジはハイグレ銃を拾い上げて構える。 「さあ、ハイグレ人間になるんだ!!」 ハイグレ銃を放つ。 「きゃああああああっ!!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 今まで廃人であったのが嘘のようにハイグレポーズを取るアスカ。 目はかつての輝きを取り戻し、赤のハイレグ水着を着ながら元気にポーズを取る。 「ハイグレ!!ハイグレ!!生きてるって素晴らしいわ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 ハイグレ人間になったアスカを伴って犯罪者用の拘束室へ向かう。 警戒に当たっていたネルフ兵たちが当て身を喰らって気絶している。シンジはハイグレ銃を発射して彼らをハイグレ人間にしておく。 奥に進むと最重要拘禁者用の部屋が見える。その前にはミサトの姿があった。 「あら、シンジ君。アスカも。ちょうどいいところに来たわね。今からリツコを連れ出そうと思っていたところよ。」 ミサトがカードキーを差して暗証番号を入力するとゲートが開く。 「今の騒ぎは何かしら?・・・・って、ミサト?」 「あなたを必要としている人がいるのよ。出てちょうだい、赤木博士。」 ミサトがリツコの手錠を外して外に出るように促す。 「ミサト、これはどういうこと?何でそんな格好をしてるの?シンジ君もアスカも・・・・。」 「これが答えですよ、リツコさん。」 シンジはハイグレ銃を構える。 「えっ?」 「さあ、ハイグレ人間になって世界の平和のために戦いましょう!!」 ハイグレ銃の引き金を引く。 「きゃあああああ!!」 リツコは大の字になって青いハイレグ姿のハイグレ人間になった。 「私が・・・・私が・・・・あの人以外に忠誠を誓うなんてこは・・・・・くっ・・・・・・。うわあああああああっ!!」 必死にシンジへの忠誠を拒むが、リツコの頭脳といえども苦しくなってくる。 「も、もう、だめ・・・・。ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 リツコは大きくポーズを取る。今までの人生で一番楽しい時であるかのように。 「あなたに絶対の忠誠を誓うわ、シンジ君。いえ、ハイグレ魔王様。」 「ありがとう、リツコさん。さあ、みんなでネルフを制圧しにいこう。」 シンジは三人を促して作戦室へ向かった。 「コーヒーを入れましたので、どうぞ。」 「ありがとう。」 「頂きます。」 伊吹マヤ、日向マコト、青葉シゲルの三人はコーヒーを飲みながら休憩を取っていた。 「しかし、使徒は全部倒したっていうのに、警戒態勢がいつまで続くんだ?」 「不測の事態を想定しているんだろう。計画の障害になる何かを。」 「ここ数日は冬月副司令が出ずっぱりですね。私たちは本当に大丈夫なんでしょうか?」 マヤが指揮席に座って考え事をしている冬月を心配そうに見上げる。 作戦室の扉が開く。日向たちが目をやるとそこにはシンジの姿が。 「やあ、シンジ君・・・・。その、元気そうで何よりだね・・・。」 日向はカヲルを失って自責の念に駆られているであろうシンジを心配して言う。 「ええ、まあ。」 「おや、シンジ君。その格好は?」 青葉がマントを指さして言う。 「ああ、これですか?これはね・・・・。」 シンジが指を鳴らした瞬間後ろから出てくる三人の影。 「きゃっ!!」 マヤはリツコ、日向はミサト、青葉はアスカにそれぞれ後ろから羽交い絞めにされた。 「せ、先輩!?これは、どういうことですか!?何でここに!?」 「ふふ、シンジ君のおかげよ。あなたもハイグレ人間にしてあげるわ、マヤ。」 「ひいぃぃぃぃっ!!」 マヤは何が何だか分からずただただ怯えるだけだった。 「そうか。さっきからあちこちの部署で通信回線が不調になっていたのは葛城三佐の仕業だったんですか!!」 「あら、人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。全てはこの地球をハイグレ人間の世界にするためなのよ、日向君。」 日向はミサトに銃を突き付けられていてそれ以上抵抗できない。 「これはクーデーターか!?俺たちを、ネルフをどうする気だ!!」 「うるさいわね、青葉さん。少し黙ってなさい!!」 アスカにビンタを喰らって悶絶する青葉。 シンジはハイグレ銃を取りだす。 「そ、それは!?」 「さあ、みんなハイグレ人間になってもらうよ。」 ハイグレ光線が三人に当たる。 「いや、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 三人の体が点滅してハイグレ人間の姿になる。 「そんな、ごめんなさい、お父さん・・・・お母さん・・・・・。ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 マヤは黄緑のハイレグ水着を着て泣きながらハイグレポーズを取る。 「これで、俺もミサトさんと同じに・・・・・。ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 緑のハイグレ姿で嬉しそうにポーズを取る日向。 「なんで、俺が、俺が・・・。くそっ・・・・。ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 少しハイグレ人間になることを拒みながらも青のハイグレ姿でポーズを取る青葉。 「シンジ君!!武器を捨てるんだ!!」 冬月が騒ぎに気づいてやってくる。手には銃を構えている。 「何のつもりだか知らんが、馬鹿なことはやめるんだ!!」 「馬鹿なこと?そんなつもりはありませんけど。」 冬月が威嚇のために一発地面に向けて撃つ。 「次は脅しじゃない!!本当に撃つ!!今までの君に対する処遇に不満があるなら謝る!!だから武器を捨てるんだ!!」 「はは、それはあなたと父さんの計画が無駄になるからですか?撃てるものなら僕を撃ってくださいよ。」 冬月は一瞬ためらったがふるえる手で銃を持ち直す。 「そうか。なら仕方がない。死なない程度にやらせてもらうよ。」 冬月はシンジの足に向けて銃を放つ。しかし、マントの力で銃は当たらない。全て跳ね返され、シンジの足もとに落ちてしまった。 「な、なに!?」 「だから言ったでしょう?撃てるものなら撃ってみろって。今の僕は神を超える存在。攻撃は無意味です。」 「ば、ばかな!?」 「さあ、あなたもハイグレ人間にしてあげます。」 シンジはハイグレ銃を放つ。 「ぐわああああああっ!!私の今までの人生はなんだったんだ!?」 冬月は茶色のハイグレ姿になる。 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「さて、作戦室は全て制圧したけど・・・。」 作戦室にいるスタッフを全てハイグレ化するのに30分かかった。 「もっと効率的にハイグレ化する方法はないものかしら?」 「そうね・・・・。」 ミサトに聞かれたリツコが考える。 「もしかしたら、エヴァの干渉フィールドをうまく転用すればいけるかもしれないわ。」 「それってファーストや私にもできるの?」 「恐らくは。ハイグレ光線の波長を調整すればATフィールドを破れるはずよ。」 「じゃあ、リツコさんとミサトさんはその準備をお願いします。その間に僕とアスカはセントラルドグマに行きます。」 シンジはアスカを伴い、エヴァに乗ってネルフ本部のはるか下に位置するセントラルドグマへと降下していった。 一方、ゼーレ本部では、ネルフの異変に気づき会議が行われていた。 「これはゆゆしき事態だ。我々の計画の遂行に大きな障害となる。」 「MAGIの占拠も事実上不可能。穏便な策は取れんな。」 「しかし、現時点での戦略自衛隊の大規模な投入は得策ではない。」 「では、手をこまねいて見ていろというのか?」 「報告ではハイグレ化された兵士の戦力は戦略自衛隊のそれをはるかに上回っている。失敗すればコトだ。」 「いや、待て。病院でハイグレ化された者たちを分析したところ、ハイグレ光線の性質についてはある程度の対策はとれる。」 「ハイグレ光線とやらがATフィールドの波長に合わせて侵入することが分かったぐらいでは・・・。」 メンバーのやり取りを聞いていたキール・ローレンツが立ち上がる。 「私に考えがある。特別兵器81号を使おう。」 「特別兵器81号?あのATフィールド初期化ガスのことか?」 ATフィールド初期化ガス。人間の持つATフィールドを生来持っている状態に戻す特殊な化学兵器だ。 「あれを使えばハイグレ化したネルフの者たちを無に帰すことができる。」 「ふむ、開発されたまま放置されて何の役にも立っていなかったが・・・。因果なものだな。」 「直ちにゼーレ諜報部の総力をあげてネルフ無力化作戦を実行する!!」 セントラルドグマでは・・・・ 「もうすぐ私の念願の目的が果たせる・・・。」 「そう。」 「全ての駒が揃えば計画の開始だ。頼むぞ、レイ。」 「ええ。」 二人は磔にされているリリスを見上げながら話している。 エンジン音が近づいていくるのがゲンドウの耳に入る。 「んっ?この音は?」 「初号機と弐号機。」 「!!」 二人の目の前に初号機と弐号機が着陸し、エントリープラグが開く。 「シンジ・・・・。何をしにきた?」 「父さんを止めに来たんだ。」 「馬鹿な事を。人類は補完されなければならない。それが必要なのはお前にも分かっているはずだ。」 「人類補完計画なんかに頼らなくても、世界は変えられるんだ。僕の思い通りにね!!」 シンジは抜き打ちざまにハイグレ銃を放つ。 「・・・・危ない!!」 レイがゲンドウを思いきり突き飛ばす。今まで彼がいたところをハイグレ銃が通り過ぎた。 「碇君・・・・。あなたには失望したわ。まさかこんな形で裏切るなんてね。」 「何を言ってるんだ!!裏切ったのはそっちじゃないか!!必要なことは何も教えず、ただ僕やアスカやミサトさんたちを利用してただけじゃないか!!」 「それは人類のために必要なこと。」 「僕には関係ない!!使徒が神なら僕はその上をいく存在!!その力を見せてあげるよ!!」 シンジはレイの腕をつかみ、自分に引き寄せる。 レイが力いっぱいシンジの頬を叩こうとするが、跳ね返される。 「うっ!!」 「無駄だよ。君に僕は倒せない。さあ、おとなしくハイグレ人間になるんだ!!」 シンジはレイに向かってハイグレ銃を放つ。レイは大の字になり、悶絶する。 「き、きゃあああああああああああっ!!」 「レ、レイ!!」 ゲンドウの叫びもむなしく、レイは水色のハイグレ姿に変身する。 「そんな、リリスから生まれたこの私が・・・・。この私が・・・・・。」 レイは抵抗を試みるが、無駄だった。少しずつ腕を下ろし、閉じていた手を開く。 「私にはもう、抵抗する力がない・・・・。ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「レ、レイ!?」 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 ゲンドウが近づいても取り合わない。 「くそっ!!」 ゲンドウは背を向けて逃げようとする。 「逃がさないわよ!!」 それまでシンジの後ろに控えていたアスカが素早く動き、ゲンドウに蹴りを入れる。 「ぐはっ!?」 ゲンドウの眼鏡が吹き飛び、壁にしたたかに頭を打ち付ける。 「あはは、ダメだよ、アスカ。そんなに思いっきり蹴ったりしたら。」 「えー、でもー。」 「まあいいや。アスカは父さんの右腕を、綾波は左腕を持って立たせてよ。」 命令を受けた二人がゲンドウを立たせる。 「さあ、僕の下についてもらうよ、父さん。」 「なぜ私がお前に・・・・!!」 「言ったでしょう?僕はこの世界を作り変える存在だって。今まではいろいろすれ違ってたけど、新しい世界でやり直そうよ。」 「嫌だ!!私は・・・・・私は・・・・・!!ユイーーーーーー!!」 シンジは嫌がるゲンドウの気持ちなど一顧だにせず、ハイグレ銃を放つ。 「うわああああああああああああああ!!」 ゲンドウは黒のハイグレ水着を着てポーズを取る。 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「あはははははっ!!さあ、父さん。僕に従うんだ!!」 「仰せのままに、ハイグレ魔王様。」 その後、リツコの完成させたシステムにより、半日でネルフの全てと第三東京市をハイグレ人間にして支配下に入れた。 「こうも簡単にいくとはね。これで僕の理想の世界を作れる。ふふふふっ。」 シンジは高笑いが止まらなかった。 一方、ゼーレ本部では・・・・ 「時は満ちた。我々の計画の妨げとなるネルフを無力化するのだ!!」 キール・ローレンツはネルフのハイグレ人間無力化作戦の開始を命令した。 「こちら、A班。ガス噴出装置の設置を完了。」 「こちら、D班。装置の動作に異状なし。」 「こちら、F班。全ての準備工程を完了。」 次々と部隊から入ってくる報告を聞くゼーレ諜報部隊長。 「隊長。準備はすべて整いました。後は隊長のご命令のみです。」 「うむ。全ATフィールド初期化ガス装置、作動!!」 「ん?何だ、あれは?」 ネルフの護衛にあたっている戦闘員が通路の奥からやってくるガスに気づき、傍らの同僚に声をかける。 「あ・・・・・・・・・・・・・・・。あ・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 同僚は声も出せず、そのまま倒れこむ。 「お、おい!?ぐっ・・・・・。」 自分もガスに当てられて倒れこんでしまう。 「ぐ、ぐわあああああっ!!」 「うわぁぁぁぁぁ!!」 二人は全身に痛みが走って七転八倒する。 「ハ、ハイグ、レ・・・・・・・・・・・。」 「そんな、馬鹿な・・・・。」 最後の言葉を発した瞬間、二人の体が光り、ハイグレの水着姿が元の軍服に戻っていた。 ネルフの至る所で悲鳴が上がる。 「うわああああああああ!!」 「きゃああああああああ!!」 スタッフ達がハイグレ姿から元の姿に戻っていく。 ATフィールド初期化ガスの力によって、駐車スペース、研究室、食堂などが次々と汚染されていく。 作戦室でもこの異常事態に気づいていた。 「大変です!!正体不明のガスが侵入して職員を次々と襲っています!!」 マヤが絶叫する。 「日向君!!青葉君!!すぐに発生源を隔離して!!」 「駄目です!!空調設備の至る所に仕掛けられていて、制御不能です!!」 「なんて事なの・・・・。せっかくハイグレ人間の世界に近づいていたっていうのに・・・・。」 「Dブロックが制圧されました!!このままだと、後3分でこの作戦室に到達します!!」 「碇。防衛予算の削減が仇になったな。」 「ああ。このままでは全滅は免れないだろう。」 「ゼーレの奴らの仕業か?」 「恐らくは。・・・・・・・葛城君。」 ミサトを呼ぶ。 「シンジ、お前を信じているぞ。」 「うん!!任せて!!」 「三人とも、急いで!!」 シンジ、レイ、アスカはミサトとリツコに連れられて部屋を出る。 「うわぁぁぁぁぁ!!」 「きゃあああああっ!!」 作戦室に侵入したATフィールド初期化ガスが次々とオペレーターたちを襲う。 「あ、あ、あ・・・・。もう、ダメ・・・・。」 マヤが倒れる。既に日向と青葉もすぐ側で倒れており、ハイグレ人間の姿ではなくなっていた。 「これでいいのか、碇?」 「我々がハイグレ人間の状態を解除されたとしても、初号機が何とかしてくれる。」 「信じるしかないな。それが唯一の道しるべ、な、の、だ、から、な・・・。」 「ハ、イ、グ、レ、魔、王、様、万、歳・・・・・・・・!!」 冬月とゲンドウも元の姿に戻って意識を閉じた。 「エヴァの発進庫までもうすぐよ!!」 「こっちにはまだガスがあまり回ってなくて助かったわね、リツコ。」 「当然でしょ?エヴァを守るためにこの区域は一番安全な場所にあるんだから。」 「ちょ、ちょっと、ミサト、リツコ!!後ろからガスが来てるわよ!!」 アスカが絶叫する。もくもくとまるで蛇が這いまわっているかのようにガスが近づいてくる。 「このままだと追いつかれる。」 レイも息切れしながら言う。 「仕方無いわね。あなたたち三人は先に行きなさい!!」 ミサトとリツコが立ち止まる。 「えっ?ミサトさんとリツコさんは?」 「大丈夫。ちょっち時間を稼いあげるだけだから。」 「レイ、アスカ。シンジ君を、ハイグレ魔王様をお願いするわね。」 そう言って二人は反対側に駆け出してガスの前で手を大きく広げ、ガスを包み込むように立ちはだかる。 「うわあああああああっ!!」 「きゃあああああああっ!!」 二人はATフィールド初期化ガスの力で元の姿に戻され、その場で崩れ落ちた。 しかし、二人が邪魔をしたおかげで、ガスの進行速度が少し落ちた。 「今のうちに行くわよ、碇君。」 「ミサトさん!!リツコさん!!」 「あんた、バカ?あの二人の犠牲を無駄にしないためにも、私たちは生き延びなくちゃいけないのよ!!さっさと足を動かしなさい!!」 シンジはレイとアスカに手を引っ張られ、ただひたすら走る。 何とかエヴァの発信庫にたどり着く。 「「「エヴァンゲリオン、起動!!」」」 エヴァンゲリオンを起動し、三人は空高く飛び立った。 エヴァ零号機、初号機、弐号機は空中からネルフの惨状を見下ろす。 「ガスがネルフ全体を覆っているわね。」 「市街地にも被害が出ているわ。」 「僕たちの力で何とかしなくちゃ・・・。アスカ、綾波、力を合わせて頑張ろう。」 「・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・。」 シンジの呼びかけに対して二人は答えない。 「ちょっと、どうしたのさ、二人とも!!」 「あ、ごめん。あんたがそんなにポジティブな事を言うのが意外で・・・。」 「これもハイグレ人間の力なのかしら?」 「えっ?そうなのかな?」 「まあいいわ。いっちょ派手にやってやろうじゃない!!」 「ネルフの解放は私たちの任務。」 「うん!!」 レーダーに反応がある。数え切れいないほどの機影が映っていた。 「うわっ!!すごい数。何よ、これ?」 「恐らくはゼーレの差し金、戦略自衛隊。」 「ファースト、あんたゼーレが裏切るって知ってたの?」 「碇司令が言ってた。ゼーレは我々とは味方ではなくなった、って。」 「どうしよう・・・。このままじゃネルフがやられちゃうよ。」 「シンジ!!あんたのシステムで戦略自衛隊をハイグレ化するのよ!!時間は何分くらい必要?」 「えっと、ハイグレ光線の増幅に5分、充填に2分、かな?」 「7分ね。上等。ファースト、それまで私達で防ぐわよ!!」 「了解。」 アスカとレイは左右に分かれ、戦略自衛隊の両翼へと突っ走る。 「撃て撃て!!今のネルフは無力状態だ!!エヴァ三機が相手でも勝てる!!」 「ケーブルだ!!ケーブルを狙え!!」 戦車部隊と航空部隊がアスカに向かって一斉射撃をする。 「ハイグレ魔王様のために!!あんたたちには負けてらんないのよ!!」 アスカは銃弾をものともせず敵の真っ只中に突っ込んで敵を撃破していく。 「くそっ!ひるむな!プロの意地を見せてやれ!!」 「子供相手に負けるな!!」 司令官の号令も虚しく、レイの零号機によって敵が粉砕されていく。 「もう少しよ・・・。頑張って、碇君・・・。」 レイは敵を真っ二つにしながらそう呟いた。 「ハイグレ光線充填率・・・・98・・・・99・・・・100!!」 シンジは操縦桿を握り直す。 「アスカ!!レイ!!下がって!!」 初号機が手にする銃を二手に分かれて進撃してくる戦略自衛隊に向ける。 「ハイグレ光線、発射!!」 轟音とともに大量に飛び出すハイグレ光線が次々と戦略自衛隊の隊員を襲う。 「ば、馬鹿な!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「隊長・・・・。」 「我々の負けのようだ・・・・。」 その瞬間にハイグレ光線が本営を包み込んだ。 その後、戦略自衛隊からガスの解除方法を聞き出し、ガスの威力を相殺する処置がとられた。 ネルフは再びハイグレ化し、喜びに沸きかえった。 「さすがはハイグレ魔王様。これからもあなたについていきます。」 「ハイグレ魔王様、万歳!!」 ネルフの皆に拍手喝采を受け、シンジは今までの人生で味わうことのなかった幸せな瞬間を味わった。 「これからも皆とずっと一緒にいたい・・・・。僕も皆と同じ生活をしたい・・・・。そうだ、僕もハイグレ人間になろう。」 シンジはそう思い立つと自分の頭にハイグレ銃を押し当て、ためらいもなく引き金を引いた。 ネルフを開放した後、すぐにゼーレを急襲した。幹部たちは全てハイグレ化され、そして逮捕・収監された。 同時に、ATフィールド初期化ガスはハイグレ社会の根幹を破壊する大量兵器と認定され、その廃棄が進められ、禁忌の兵器としてえい未来永劫にわたって封印されるに至った。 一か月のうちに全世界をハイグレ人間の世界に作り替え、人類は新たな進化を遂げた時代へと突入したのであった。 シンジは世界を統一するハイグレ魔王の座を固辞し(彼は人前が苦手だったから)、民主的なハイグレ共和制へ移行した。 初めて行われた大統領選で碇ゲントウが当選し、世界のハイグレ化をより確かな方向へ導いていく政策が次々と打ち出されている。 ある日・・・・ シンジは通学路を歩いていた。今は青のハイグレ姿で、マントはつけていない。マントは父の執務室に飾られている。 「そういえば、結局あのマントは何だったんだろうな・・・。何のために僕に渡したんだろう・・・。」 今まで魔王のマントに何度となく助けられるたびに、その疑問は強くなっていたが、結局分からずじまい。 その本当の狙いは真のハイグレ魔王の復活であり、アクション仮面の打倒のためとは知る由もなかった。 学校へ着く。シンジはまっすぐ教室へ向かった。 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 現在ではハイグレポーズを取るのが挨拶の代りになっている。 「しっかし、あんたもバカよねえ。せっかく世界の王様になれるチャンスだったのに。」 「ああ、シンジは本当にお子様だな。」 アスカの辛辣な言葉にケンスケが相槌を打つ。 「まあまあ、そう言うな。ワシらはシンジのおかげでこうしていられるんやし。」 「私はハイグレ魔王でなくなっても碇君といられるほうがいい。」 「ファースト、それはどういう意味かしら?ミサトの部屋で一緒に暮らしてる私に対するやっかみかしら?」 「別に。」 「こんのー!!」 教室の扉が開く。ヒカリが怒りながら入ってくる。 「こら、あんたたち!!もうすぐ朝礼よ!!喧嘩してないで早く準備しなさい!!」 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 朝礼のために体育館に集まり、皆でハイグレ人間のポーズを取る。 シンジも手を下げて、そして勢いよくポーズを取り続けながら叫んだ。 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 完 |
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2009年01月29日(木) 21時58分53秒 公開 ■この作品の著作権はMKDさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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