涼宮ハルヒの憂鬱 SOS団の冒険・ハイグレ人間でしょでしょ?
Episode00 研究所の或る晴れた日のこと

とある山地の地下にある研究所。その中で怪しげな実験を行う科学者がいた。
「おのれ、憎きアクション仮面と北春日部め!!必ずやお前たちに復讐をしてやる!!」
独り言を言いながらコンピューターを動かしているのは南春日部博士。北春日部博士とは同じ大学を出たが、彼とは正反対に悪の道に染まり、世界征服のための研究を日夜行っていた。しかし、何度もアクション仮面と北春日部博士によって阻止され、地下に潜っての研究を余儀なくされていた。かつてはたくさんいた部下も今では数えるほど。そのため、戦力の増強が急務になっていた。

ホルマリン漬けにされた一人の女性。全裸で手足を縛られて身動きが取れないように拘束されていた。
「・・・・・・・ん・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・。」

「ふふふっ、これが最終実験。ハイグレ人間化開始だ!!」
博士がスイッチを押すと、ホルマリン漬けの容器にハイグレ光線が注入されていく。
「う、うわああああっ!!」
容器の中が赤く光り、女性の体に青のハイレグ水着が装着される。部下に命令して容器から女性を引き上げ、拘束していた縄を外して床に寝かせる。
「さあ、起きるんだ!」
博士が声をかけると、その女性は立ち上がる。
「んん・・・・・・・。」
症状の変化を待つ。女性は次第に腕を下に降ろす。そして・・・・
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
長い髪をなびかせながら、激しくハイグレポーズを繰り返した。彼女は人間ではないので、その表情は変わらなかったが。

博士は高笑いして成功を喜ぶ。ハイグレ光線の成分を分析し、一年以上かけて研究した成果が出たからだ。ただし、今回の実験はハイグレ化の過程を観察しながらであったため、16時間もかかっていた。
「博士、すぐに体力測定に移りますか?」
部下が尋ねる。しかし、博士はかぶりを振って言う。
「いや、待て。こいつは能力が元々高いからそうそう倒されることもあるまいからして、実際に運用して調査結果を得よう。新たな実験体も欲しいしな。」
博士はハイグレ人間に向き直って言う。
「今のは聞いていたな?近くの別荘地を襲い・・・・・そうだな、実験容器は今のところ5つあるから、5人の女を攫ってくるのだ。行けっ!!」
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!任務了解しました。朝倉涼子、すぐに行ってまいります。」
朝倉涼子。既に消滅させられたインターフェースであったが、ハイグレ人間の実験体として博士の手によって復活させられていたのだ。
涼子は踵を返して部屋を出る。実験体の確保のため、一番近くにある別荘へと向かった。



Episode01 スキー旅行

俺はベンチに座って近くの自動販売機で買ってきた缶コーヒーを飲みながら一時の安らぎを謳歌していた。その横で長門が本を読んでいる。
俺は体中がミシミシいっているのだが、それも当然といえば当然と言えなくもない。なぜなら、こんな山奥のコテージにスキー旅行に来るのに、スキー板のみならず鍋やら食材やら遊び道具やら、共同で使う全ての荷物持ちをしていたからだ。それを命令したハルヒはといえば、こんなに疲れ果てた俺を労わることもなく雪合戦に興じている。
『いくわよ、みくるちゃん!!』
『ふえ〜!!』
ハルヒは逃げ回る朝比奈さんに雪の玉を次々に命中させている。俺の朝比奈さんになんてことを、などという一時の感情の昂りが油断だった。
「キョン君、覚悟!」
「ぶべっ!」
アクションゲームでクリティカルヒットを出したかのように、俺の顔に妹が雪玉をぶつけてきた。何度も言うが、俺は荷物持ちのせいですごく疲れている。反対に妹は古泉にスキー板を持ってもらっていたから、全く疲れていない。つまり、この時点で俺に回避行動を取ろうという意欲がないところに元気のありあまっている小学生の攻撃が来たわけだから、当たるのも必然だ。
「何するんだ!」
「キョン君も遊ぼうよ〜。」
「嫌だ。俺は疲れてるんだ。他を当たってくれ。」
このスキー旅行、ハルヒ曰くSOS団冬合宿には、SOS団のメンバーと鶴屋さん、アホの谷口と国木田も一緒に来ていた。遊び相手には困らないはずだ。
そこへ呼びもしないのにハルヒがやってくる。
「こら、キョン、有希!あんたたちも来なさい!二チームに分かれて勝負するのよ!」
嫌がる俺の腕を引っ張り無理やり連行しようとする。こういう時のこいつは何が何でも自分の思い通りにしようとする。さようなら、俺の憩いの一時。
「ほら、有希も早く来なさい!」
「先に始めてて。トイレに行ってくる。」
そう言って長門は本を閉じて濡れないように抱えながらコテージへと足早に去って行った。

例によってくじ引きでチーム分け。俺と古泉、朝比奈さんで一グループ、ハルヒと鶴屋さん、妹、谷口、国木田で一グループ。
「って、明らかに戦力差がありすぎだろ!!」
「まあまあ、いいじゃないですか。スリルがあって楽しそうですよ。」
いや、古泉よ。お前が何をもってスリルなどという言葉を持ち出しているのか分からんが、それは生きて帰る見込みがある場合に使うんだ。この場合はただの自殺行為だ。
「有希が戻ってきたらそっちのグループに優先的にあげるから。じゃ、ゲームスタート!!」
俺の意見に耳を傾けるはずもなく、ハルヒチームが雪玉を投げてくる。くそっ、こうなったらヤケだ!とことんやってやるぜ!



Episode02 宇宙人VS宇宙人の決闘

私はコテージに入ると本を近くにあった机に置いた。このコテージは団欒スペースと寝室、キッチン、浴室、トイレに分かれている。涼宮ハルヒが退屈しないように、古泉一樹が組織から借りた。人里離れた場所にあり、管理人もいないので、近くに私たち以外の人間はいない。つまり、この空間に私たち以外の人間がいれば、それは侵入者。

私は屋根裏部屋に上がる。やはりいた。
「ふふ、やっぱりあなたが最初に気づいたわね。」
朝倉涼子。私のバックアップのために作られたインターフェース。
「この空間への時空干渉の乱れをキャッチした。地球時間で3分13秒前。」
朝倉涼子は以前と様子が違う。ハイレグ水着を着ている。
「さて、どうする?私と戦う?」
「あなたには私は倒せない。それは前例で分かっているはず。」
「ふふ、どうかしら?」
「!!」
朝倉涼子の情報結合の解除の申請ができないし、体も動かない。なぜ?とにかく、統合思念体に報告しないと。
「ああ、それ無理。統合思念体には別のプログラムを当てて、あなたの情報を送っているから。」
ダミー・プログラム。それは朝倉涼子には与えられていない権限のはず。
「驚いた?あのね、私は今はあなたのバックアップとしてのインターフェースではないわ。ハイグレ人間なのよ。ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
ハイグレ人間。そのような情報はない。イレギュラー。
「ハイグレ人間には様々な力が与えられるの。あなたに勝つのも容易。」
「目的は何?」
「うーん、クライアントがね、実験台にする女の子が欲しいんだって。でね、あなたに来てもらいたいのよ。拒否権は認められないわ。じゃあ、行きましょ。」
いまだに行動プログラムをロックされて動けない。私は朝倉涼子に抱えられて空間転位をして、この時空間から消えた。



Episode03 ちゅるやさんの消失

俺たちは雪合戦に疲れ果て、一時休戦した。戦闘続行をしたところで多勢に無勢。勝てるわけがない。
「おい、長門のやつどうしたんだ?出てこないじゃないか。」
谷口が言う。そう言えば、あいつはどうしたんだ?トイレにしてはずいぶん長い。トイレの中で新聞を読んでいる世間の叔父様ではあるまいし、一時間以上もかかるとは思えない。
古泉が自分が見てくると言って立ち上がるが、鶴屋さんが押しとどめる。
「あたしが呼んでくるよ。めがっさ喉が乾いてるから、飲み物取りに行くついでにね。」
そう言って鶴屋さんがコテージに向かう。まあ、すぐに戻ってくるだろう。俺は疲れた体を壁に横たえ、眠りに落ちた。



私は冷蔵庫からスポーツドリンクを取りだす。汗かいた時はこれよね〜。ゴクゴクと喉を鳴らして飲むのはとても爽快。
空になったペットボトルをゴミ箱に投げ入れる。さてと。長門っちを呼びに行くか。
私はトイレの前にやってくる。あれ?トイレに明かりがついていない。うーん、部屋で寝てるのかな?

全ての寝室を確かめてみたけどいない。妙だなー。
「長門有希を探しているの?」
私にかけられた声。この声は・・・まさか!私は反射的に部屋を飛び出そうとするが、いきなり目の前の世界が変わって逃げられない。
「私に何の用かな、涼子ちゃん?」
「あら、私のこと知ってるの?」
見なくてもその相手が誰なのか分かる。
「この空間は私の管理下にある。抵抗は無駄よ。」
「そう。有希ちゃんがいないのは、あなたの仕業だね?」
涼子ちゃんは口元に笑みを浮かべる。
「会いたい?だったら、あなたも長門有希のところで連れてってあげる、鶴屋さん。」
涼子ちゃんが小指を私に突き出した瞬間、私の体に電流が走る。力が入らず、そのまま倒れこむ。
「暴れられると面倒だしね。じゃ、行きましょ。」
私は何も抵抗することができず、彼女の脇に抱えられる。ハイレグ水着を着て一体何を?その答えを得る前に私は意識を失った。



Episode04 事件

「こら、起きなさい、キョン!」
俺はハルヒに飛び蹴りを喰らって目を覚ます。朝比奈さんの甘い声で起きてくださいと言われたら喜んで起きるのだが、こいつのはその可愛げの一割もあるまい。
「事件よ、キョン!」
「事件?隕石が降ってきてその影響で火山が爆発でもしたのか?」
「鶴ちゃんがいなくなったのよ。有希もまだ行方知れずだし。連続少女行方不明事件。何かカッコいいでしょ?」
俺にはハルヒの思考が理解できない、というか理解したくない。ただ二人が見当たらないだけでそんなに大げさに騒ぐ必要性がどこにあるのだろうか?などと考えている俺をよそに、ハルヒは古泉と話している。
「どう?いた?」
「いえ、コテージの中にはいません。近くの店まで買い物に行ったのかもしれません。」
「えっ?こっから片道30分はあるわよ?黙っていくなんて考えられないわね。」
そうだ。それはないだろう。ひょっとしたら、ハルヒが退屈しないようにいつぞやのミステリーごっこと同じような芝居をしているのかもしれない。
「どっかに隠れて驚かそうって寸法だろう。二人ともこの近くにいるはずだ。」
「私もそう思うわ。いいじゃない、絶対見つけてやるわよ!」
ハルヒが俄然やる気になっている。やれやれ、こいつが退屈しないのであればそれでいいか。世界の危機は二度とごめんだ。
「はは、ではお願いしますね。それでは、僕と朝比奈さんは夕食を作っていますから。お二人が見つかるまでには出来上がるようにします。」
そう言って古泉と朝比奈さんは厨房へと入って行った。おのれ古泉、朝比奈さんと二人きりとはうらやましい奴め。

「さあ、くじ引きよ!」
長門と鶴屋さんを見つけるためのグループ分けをする。で、俺とハルヒで一グループ、谷口と国木田と妹で一グループ。
「じゃ、僕たちはこっちを探すから、キョンと涼宮さんはあっちね。」
国木田と谷口は妹の手を引いて反対側へ歩いていく。妹はバイバイと手を振る。面倒くさいが、一応俺も小さく振り返す。
「ふっふっふっ、この私から逃げおおせようと思ったことを後悔させてあげるわ。」
何を後悔するというんだ?まあ、そんなわけで俺とハルヒは森の中の雪を踏みしめながら歩いて行った。



Episode05 ミクルの大冒険・ハイグレ編

お鍋のグツグツ煮える音。古泉くんが手際よく作業をしている。今晩は合宿の定番、カレー。涼宮さんの団長命令だった。
「古泉くん、こっちは終わりました。次は何をすればいいですか?」
「それではお皿を出していただけますか?プラスチックの皿を用意してありますから。」
お皿を九枚並べる。ついでに紙コップも用意する。並べ終えたころ、6時丁度の鐘が鳴る。
「皆さん、遅いですね。」
「そうですね。明日は朝からスキーだっていうのに・・・。まあ、僕としては涼宮さんが楽しそうにしている分にはほっとしますけどね。」
玄関の開く音がする。
「あっ、帰ってきたみたいですね。私、行ってきます。」
お鍋から手の離せない古泉くんに代わって私は玄関に向かう。

玄関に着くと、ドアが半開きになっている。誰も入ってこない。私は外に出てみるが、外からここまでの足跡がない。少し雪が降ってきてるのに、なんで?私たちがさっきまで遊んでた場所はもうすっかり雪に覆われてしまっているのに。
「動かないで。」
私の首筋に刃物が当てられる感触。そして、羽交い絞めにされる。それと、この声は・・・。
「朝倉さん?」
「あら、覚えていたのね。あなたとは接点が無かったから覚えてくれてるかどうか不安だったんだけだけど。説明は長くなるから後で。一緒に来てくれる?」
えーと。こういう時ってどうすればいんだろう?私は大きく息を吸って叫んだ。
「キャー!!誰か助けて!!」

「どうしました?」
古泉くんがお玉を持ったまま出てくる。すぐに今の事態がただごとじゃないって気付いたみたい。
「なるほど、そういうことでしたか。長門さんと鶴屋さんが連続して行方不明になった原因はあなただったんですね。涼宮さんの動きを見るためですか?」
「ふふ、私はクライアントの命令どおりに動いているだけ。そう、ハイグレ人間の偉大なる復活のため、と言っておくわ。」
クライアント?ハイグレ人間?私を置いてけぼりにして二人がどんどん話を進めていく。
「私は女性5人を拉致するように命令されてるの。実験台ね。この子で4人目。」
「4人目?まさか!!」
「小学生のくせに暴れてくれて面倒だったわ。じゃ、私たちは行くから。男に危害を加えるようには命令されていないから今回は見逃してあげるわ。」
勝手に言いたいことだけ私を羽交い絞めにしたまま異空間へと入り込んでいく。
「さ、一緒にハイグレ人間になりましょう?朝比奈さん。」
「助けてください〜。」
古泉くんが差し伸べる手をつかむことができず、私は異空間のかなたへと飛ばされていった。



Episode06 クローズド・サークル

俺とハルヒは長門と鶴屋さんを求めて三千里・・・くらいは歩いたかなあと思いつつも、実はコテージの周りを1kmくらいしか歩いていなかった。ホッキョクギツネじゃあるまいし、はたまたイエティでもあるまいし、なぜこんな雪の降っている山道を歩かねばならんのか。
「おーい!!」
後ろから谷口と国木田の声が近づいてくる。二人とも血相を変えて、例えるならお化けにでも出会って逃げてきたかのように走ってくる。
「どうしたのよ、あんたたち。もう二人とも見つけちゃったの?」
ハルヒはどこか不満そうに言う。いや、俺としては万々歳だ。早くこんな人間が生命維持に危険を伴うような場所から逃げたいからな。
「ち、違うんだよ。キョンの妹さんが消えちゃったんだ!!」
「えっ?俺の妹がどうしたって?」
二人の話によるとこうだ。一緒にいたはずの妹がちょっと目を離したすきに足跡も残さず消えてしまったと。

「おーい!!」
今度は何だ?古泉がこれまた血相を変えて走ってくる。
「た、大変です!!朝比奈さんがいなくなってしまいました。」
俺たちはお互いの顔を見合せ、しばらく沈黙の状態が続いた。



「これは事件よ!!隠れんぼなんかじゃない!!本物の事件に違いないわ!!」
コテージに戻って早々、ハルヒはテーブルを叩いて力説しだした。
「ってことは誘拐だよね、これ。」
「長門、鶴屋さん、キョンの妹、朝比奈さん。ってことは次にいなくなるのはお前じゃないのか、涼宮?」
「その可能性は十分にあるわね。これは誘拐の類に違いないわ。若い女専門に連れ去っているのよ。」
どんなピンポイントな誘拐犯だ。そんなのがいたとして、何のためだ。漫画でヒロインをさらって勇者をおびき出すためか?いや、そんな空想上の話をしても始まるまい。
「(ちょっとお話が。)」
古泉が俺に廊下に出ろと囁いてくる。この顔は何か知ってるな。」

廊下に出ると、古泉が俺に自分が見たという話を俺に聞かせる。
「何だと!?朝倉が4人を?」
ハイグ人間?実験台?分からん。何のことだ?
「恐らくは、朝倉さんを復活させたのが彼女のいうクライアントでしょう。ハイグレ人間というのはそのクライアントが復活もしくは製造しようとしている人造人間。その被験者として女性を集めている、といったところでしょうか。あくまで僕の推測に過ぎませんが。」
古泉がいつものように的を射ているような推理を俺に聞かせてくる。一般人には信じられないことだが、常に非日常的な事件に巻き込まれている俺は妙に納得してしまう。ということは、ハルヒの身が危ないってことになる。と言ってもな。警察はこの雪で来られないし、念のために麓で待機している新川さんと森さんもこの雪では到着が大幅に遅れるだろう。つまり、俺たちはここにまんんまと閉じ込められちまったわけだ。クローズド・サークル。夏合宿と同じだな。
「まずい状況だな・・・。」
「そこで提案です。次に敵は間違いなく涼宮さんを狙うでしょう。恐らくその時が我々が朝倉涼子と接触できる最後のチャンス。その機を逃さずに彼らのアジトを突き止めなければ、囚われの4人は戻ってこないでしょう。」
「あえてハルヒを餌にしろ、と?」
「ええ。今の彼女の好奇心に満ちた精神状態であれば閉鎖空間を発生させるほどのショック状態にはならないでしょうし、これは賭けですが。」
どの道俺たちに勝機はない。閉鎖空間内でなければ古泉は能力を発揮できないし、俺も谷口も国木田も喧嘩は強い方ではない。
「分かった。その案に乗ろう。」
俺と古泉はハルヒの熱弁を聞き流しながら、運命の時を待つことにした。



Episode07 涼宮ハルヒの消失

俺と古泉はひたすら敵の襲来を待ち続ける。といっても何かするわけではない。リビングのソファーに座って腕組みをしながら周囲を警戒し続けるだけという単純極まりない作業だ。
「あたし、シャワー浴びてくる。」
誰も戻って来ない、警察も来ないという状況に耐えかね、ハルヒが立ち上がって風呂場に行く。谷口と国木田はうとうと眠りこんでいる。まったく、人の気も知らずにいい気なもんだ。
「現れませんね・・・。もっと早く来るものと思っていましたが。なぜでしょうか。」
「知らん。俺はできれば来ないでくれた方がいいんだがな。」
雪が止めば麓にいる新川さんと森さんが合流するし、少しは心強くなるだろう。それまでの辛抱だ。

シャワーの音が消え、ドアの開く音がする。ハルヒが風呂を出たらしい。ドライヤーを使って髪を乾かしている音が聞こえてくる。
「キャーーーーー!!」
最近のドライヤーは変わった音が出るんだなあ・・・・・って、違う!!これは悲鳴だ!!
俺と古泉は脱衣所に向かって走る。谷口と国木田はまだ寝ている。役に立ちそうにない。

脱衣所のドアを開けると、そこにはタオル一枚というあられもない格好で下半身が床下に沈んでいるハルヒがいた。
「た、助けて、キョン!いきなり変な黒い影があたしの足を・・・。」
ハルヒは床に広がる黒い影にずるずると引きずりこまれていく。必死に洗面台につかまっているが、力尽きるのも時間の問題だ。
俺はハルヒの右手を、古泉は左手をつかんで力任せに引っ張る。
「いいですか、涼宮さんを引っ張り出したら、すぐにあの穴の中に飛び込みますよ!」
古泉が俺に向かって叫ぶ。やるしかないか。朝比奈さんや長門を助け出すためにはな。
「って、おい!!このままじゃ俺たちまで一緒に引きずり込まれちまうぞ!!」
俺と古泉の二人がかりでも少しずつ影へ影へと近づいていく。
「ちょっと、二人とも!!もっと優しく助けなさい!!あたしの腕が取れちゃうでしょ!!」
「アホ!!そんな事言ってる場合か!!」
などと言いつつも、俺だって限界だ。
「しかたありませんね。このまま涼宮さんと一緒に行きましょう。」
「マジか!?」
くそう、ハルヒだけでも助けたかったのだが。この状況では贅沢は言っていられない。
「1、2の3!!」
空間への干渉を排除される前に俺は速攻でハルヒと一緒に影の闇の中へと飛び込んだ。その瞬間、俺と古泉の手が離れ、ハルヒとは別方向へ飛ばされていく。ハルヒ・・・ハルヒ・・・・。



Episode08 研究所の風景

あたしが目を覚ますと、どこかの怪しげな研究所の中にいた。バスタオル一枚で実験台のようなカートに寝転がっていた。
「あら、やっと起きたわね。」
どこかで聞き覚えのある声。見上げるとハイレグ姿の朝倉涼子が立っていた。
「あなた、朝倉さん?ここはどこ?どうしてあなたがここにいるの?あたしはお風呂から出たらいきなり変な黒い影に引きずり込まれそうになって、キョンと古泉くんが助けてくれようとして、でもやっぱり駄目で・・・。」
ああ、イライラする。記憶が混乱してちゃんと正常な思考ができない。
「それは簡単。私がここに連れてきたから。あなたの仲間も一緒よ。ほら。」
朝倉さんが緑色の水が入った容器を指さす。なんか大きい容器ね。人間が入っても平気な大きさの。その中には・・・
「有希!!みくるちゃん!!鶴ちゃん!!妹ちゃん!!」
私は気付いたら駆け出していた。容器をバンバン叩いて呼びかけるが応答はない。
4人が素っ裸でホルマリン漬けにされていた。有希だけは頑丈に手足を縛られていて、他はそのまま手足をだらりと下げて目を閉じている。
「ふふ、驚いた?ここはね、ハイグレ人間を製造するための秘密研究所。この子たち、あなたも含めて実験台なの。」
ハイグレ人間?実験台?なんのことだか全然分かんない。

「あら、博士のお出ましね。」
部屋に白衣を着ててっぺん禿の老人が入ってくる。あれが博士かしら?
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
朝倉さんはそれを変なコマネチポーズを取って出迎える。博士は部屋に入ってくるなり私に目を向ける。
「おお、5人目の女か。よくやった。ふむ。お前の情報通り、なかなか実験台にふさわしそうな女だ。」
「おほめの言葉をありがとうございます、博士。既に実験の準備のための初期設定も終わっています。」
「おお、すまんの。なんせ今まで4人いっぺんに実験しておったもんじゃから、手が回らんでの。」
助手らしき人物が私の両肩を抑える。
「じゃ、脱がすわね。」
朝倉さんが私の羽織っているバスタオルを取り上げる。
「返しなさいよ!あたしの裸をただで見ようなんて百年早いわよ!!」
「平気平気。すぐにハイグレ人間になるから。そうすればあなたも私みたいにこの水着姿になるわ。」
抵抗する私だけど、全然相手に効いてない。両腕を抱えられて持ち上げられる。そのまま階段を上っていき、実験容器の真上に来た。
「実験開始じゃ。」
博士の命令とともに私は容器の中に落とされる。
「う・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・。」
特に息苦しくはない。不思議な力が働いているみたい。
私はSOS団の団長として超常現象を探していた。宇宙人・未来人・超能力者と出会って遊びたい。でも、友達をこんな危険な目にあわせて、なおかつ私までこんなところで実験材料にされちゃうなんて・・・・。私はそんな後悔の念に駆られながら意識を閉じた。



Episode09 CAVE

川のせせらぎの音が耳に入ってくる。あれがいわゆる三途の川なのか・・・。あの向こうに行くと俺がいつも引用している格言を言った本人に会えるんだろうか・・・。
「起きてください。起きてください。」
そんな悠久への夢想とは裏腹に、古泉の声で目が覚める。
「ここはどこだ?」
俺たちは洞窟の中にいるようだ。暗いが、天井の割れ目からわずかに光が入ってくる。
「奴らの秘密基地に続くトンネルでしょう。山の中に偽装して作っていた、といったところでしょう。朝倉さんを復活させる前は、当然普通の人間が歩ける道を使っていたでしょうからね。」
状況を整理する。俺たちはハルヒの手を離してしまって途中の道に振り落とされてしまったらしい。ハルヒと朝倉は見当たらないからな。
「この先に進んでみましょうか。」
携帯電話も圏外になっている。二人で敵のアジトを突き止めるしかなさそうだ。

一本道を進んでいくと行き止まりになる。反対方向に来ちまったか?いや、そもそもこの洞窟が研究所に続いている保証もないわけだが・・・。そんな俺をよそに古泉がしきりに周りの壁を調べ始める。
「これは仕掛け扉です。少し下がっていてください。」
その言葉に従って通せんぼしている岩から少し離れると、古泉は近くにある手のひらサイズの岩を押した。ちょうどその部分だけが岩の中に沈み、それに呼応して岩が動き出した。
「さ、いきましょうか。」
「おい、扉を勝手に開けちまったら奴らが気づいてやってくるんじゃないか?」
「ご安心ください。どうやらこの空間は通常とは異なるようです。ほら、僕の力も少しは使えるみたいですから、目くらましで逃げるくらいはできます。」
確かに、古泉の神人を倒す力が右手に少し見える。まあ、これなら前にカマドウマを倒したくらいの力は出そうな感じだ。

20分くらい歩いただろうか。洞窟の中は日の光もないし、そこらへん水だらけで異常なまでに寒い。そんな凍死しかけた俺に希望の光が差し込んだ!
「どうやらついたようですね。」
洞窟の中にできた空洞のような広まったところに小さな研究所が立っていた。外から見る限り2階建ての建物、その周りに大きな実験機器や乗り物、発電機らしき物がある。
この中にハルヒたちがつかまっているのか。実験される前に助け出さないとな。



Episode10 涼宮ハルヒの憂鬱・一人ぼっちのハルヒ

絶対ハイグレ人間なんかになるもんですか。なんであんな水着を着てコマネチしなきゃいけないのよ。ハイグレ!ハイグレ!って変態じゃない。そうよ、あたしを支配するのはあたしだけ。せっかくSOS団の団長になってみんなにあれやこれや命令できる立場になったのに、なんであの博士に従わなきゃいけないの?でも、その反抗心が弱くなってくる。実験が進むごとにハイグレ人間を受け入れる心が芽生えてくる。
「実験体5、体内のハイグレ化適合率70%まで上昇。ハイグレ光線の干渉を開始します。」
白衣を着た助手がレバーを一つ下に引き下げる。またか。あのレバーが引き下げられるたびにあたしはハイグレ人間に近づいてくみたい。でも、あたしには何もできない。ただ、こうやって裸でこの容器に入って眺めているだけ。

「実験体1〜4、ハイグレ人間化最終段階到達。」
「ふむ、仕上がりは上々じゃな。ハイグレ光線を最大に引き上げて強制注入。ハイグレ化開始じゃ!」
部下が命令されたとおりにスイッチを押す。有希たちの容器が眩しいくらいに赤く光る。
「あ・・・・・・・・・く・・・・・・・・・。」
みんなが苦痛の声をあげている。なんとかしてあげたい・・・。みんなを守るのが団長の務め・・・・。でも、ハイグレ人間への拒否反応がなくなってきているあたしには、それがいけないことにも思えてくる。

光が収まる。みんなハイレグの水着姿になっていた。すかさず部下たちが容器から彼女たちを引き上げて床に降ろす。
「ハイグレ。ハイグレ。ハイグレ。」
有希は紫のハイレグ水着を着てポーズを取る。いつもと変わらない表情。あんたはハイグレ人間にされてもクールなのね。
「ハイグレ!!ハイグレ!!ああ、恥ずかしいです!!」
みくるちゃんは白のハイレグ水着を着て恥ずかしそうにポーズを取る。操られてるから仕方ないけど、恥ずかしいならしなきゃいいじゃない。
「ハイグレ!!ハイグレ!!楽しい!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
鶴ちゃんは緑のハイレグ水着を着て楽しそうにポーズを取っている。鶴ちゃんは楽しそう。ハイグレ人間になってもきっとすぐ受け入れられるんだろうな。
「ハイグレ!!ハイグレ!!」
妹ちゃんはピンクのハイレグ水着を着て元気一杯。若いっていいわよね・・・。

ハイグレ人間にされた4人と朝倉さんが博士の前に並んでハイグレポーズを取る。
「お前たちに命ずる。先ほど監視カメラに侵入者を捉えた。ただちに捕まえてくるのじゃ。」
「かしこまりました!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
5人はポーズを取って部屋を出て行った。侵入者ってキョンと古泉くん?だったら、早く助けに来て・・・。あたしもあの子たちみたいに嬉しそうにハイグレポーズを取るなんて嫌・・・。
「ぐっ・・・・・。」
またレバーが一つ引き下げられた。早く・・・・ハイグレ・・・・したい・・・・。だめ・・・・ハイグレのことした頭に入ってこない・・・・。



Episode11 男二人の逃避行

俺と古泉は裏口からいとも簡単に研究所に侵入した。中にはレーザーや監視ロボの類はないらしい。あまりにも防犯体制がお粗末すぎる。こういう秘密研究所だったら入った瞬間に攻撃システムが作動して侵入者を射殺ぐらいはできそうなものだ。いやいや、俺たちがその間抜けな犠牲者にならなかったのは幸いだが、こうも何もないと不安になってくる。
「涼宮さんたちは大事な実験体。奪い返されないように最上階に捕らえられているはずです。」
古泉は特に警戒したそぶりもなく歩いていく。場慣れしているのか。

エレベーターを見つけたが、スイッチを押しても動かない。
「あれ、おかしいな?故障しているのか?」
そこへ近づいてくる足音が。まずい、見つかったか?
「壊れてはいない。そのエレベーターの情報を操作しただけ。」
「長門!?」
SOS団員にして宇宙人の長門有希が紫色のハイレグ水着を着て立っていた!!
「あなたたちを拘束するように命令されている。」
「誰の命令だ!?」
「南春日部博士。またの名をハイグレ魔王。」
長門はそれだけ言うと高速で呪文を唱え始める。まずい!!
「古泉、逃げるぞ!!」
古泉の力で長門が作った制御空間にひびを入れて脱出する。逃げながら目くらまし攻撃でなんとか撒いた。

無我夢中で非常階段とおぼしき場所まで走ってきた。
「はあ、はあ。これで少しは時間を稼げるでしょう。」
「まさか長門がハイグレ人間になっているとはな・・・。」
これはまずい。とすると他の奴らも同じように操られているのだろうか。いや、まだ望みはある。ハイグレ人間にできるのだとしたら、その逆もまた然りだ。博士とやらを脅して聞き出せばいい。
「危ない!!」
古泉に突き飛ばされ、もんどりうって倒れる。階段の上の方からキラリと光る何かを持って誰かが降りてきた。妹が両手にハサミを持ってジャキジャキいわせながら立っていた。って、お前もハイグレ人間にされていたのか!!
「お前、何だその格好は!?」
「ハイレグ水着に決まってるじゃない。ハイグレ!!ハイグレ!!あたしはハイグレ人間さんなんだから当然だよ?」
当然じゃない。プールも海のないのにハイレグ水着を着て歩いているのが普通だとしたら、世間一般の皆様のうち実に九分九厘がまともではないことになってしまう。
「キョン君も古泉君も悪い子だね。ハイグレ水着を着てないなんて信じられない。だから、あたしがその服をズタズタに切り裂いてあげる。」
何を言ってるのかさっぱり理解できん!!ちなみに理解できないということが理解できるのは無知の知。ソクラテスの名言だ。
「すまん!!」
俺は妹の首筋にチョップを喰らわしてやる。ハイグレ人間になったといえども所詮は子供。そのまま崩れ落ちるようにしてのびてしまった。
「かわいそうですがこのまま縛っておきましょう。」
どこから持ってきたのか、古泉がガムテープで妹の手足を縛って階段の物陰に隠す。
「さあ、行きましょう。」
この先どんなトラップが待っているのやら。まったく気が滅入る。



Episode12 朝比奈みくるの罠

俺たちは階段を上る。アクション映画なんかだと上から無防備な敵に対して攻撃するのが定番なのだが、そんな気配は全くない。
難なく三階にたどり着く。この研究所はずいぶん入り組んだ配置になっていて、同じような部屋がいくつも続いている。
「おい、古泉。この何十もありそうな部屋を一つずつしらみつぶしに調べるっていうのか?そもそも最上階にいない可能性もある。例えば地下の奥深くに実験室があるとか。」
「その時はその時です。でも、勘には自信があるんですよ?とりあえずこの部屋から見てみましょう。」
何とも楽観主義な古泉は手近な部屋からドアを開いて調べている。IDやパスワードのセキュリティなど奴にかかれば意味をなさない。なんせカードや正しい文字の配列のかわりに攻撃だからな。もう見つかっているのがバレバレだから開き直りというか。

「おや、ある意味ではビンゴのようですね。」
三回目の破壊活動をして入った部屋。その中にはハイレグ水着姿の朝比奈さんが立っていた。ああ、朝比奈さん、あなたまで。実は心の中で彼女のおっぱいが気になっているとか水着姿が眩しいとかやましいことは何一つ考えていないぞ。
「ハイグレ!!ハイグレ!!キョン君と古泉君もハイグレ魔王様の下に!!みくるビーム!!」
ポーズを取った朝比奈さんが魔法のステッキを振りかざす。そのステッキの先についているお星様からビームが・・・・出た。
「ぎゃあああああっ!!」
俺はすっかり油断していたので当たってしまう。何とか致命傷は避けたが、もう一度当りたくはない代物だな。
「これは本当はハイグレ魔王様がお仕置きに使う強力なものなんです。だから、降伏してください!!」
朝比奈さんはそんな事を言いながらビームを乱射してくる。俺たちは部屋から一目散に逃げた。

「やれやれ。ひどい目にあったな。」
俺はいまだにしびれている体をさする。
「あれ?」
古泉が何か違和感を感じたようで立ち止まる。んっ?なんか周りの景色が上にあがっているような?いや、違う。俺たちが落ちている?
「これはまさか!!」
俺たちの半径2メートル四方の床が落ちた。そこに目がけて上から四方を取り囲むように鉄製の檻が落ちてくる。
「しまった!!」
「やられましたね。こんなイージートラップにはまるとは・・・。」

「ふっふっふっ。ツメが甘かったねえ、君たち。」
今まで隠れていた鶴屋さんが俺達を指さして笑っている。確かに油断だった。
「で、こうして待ち伏せていたってわけ。この檻は特別製だから古泉一樹の力でも壊せない。」
朝倉が笑顔で言う。檻は頑丈にできていてびくともしない。くそ、何も反撃できないなんて。
「すみません。こうもあっさり捕まってしまうとは。」
まあ、短い夢だったさ。今までが運が良かっただけなのさ。
「じゃ、博士のところに連れてくから。一緒に来てもらうわよ?」
「ハルにゃんももうすぐ最終実験だから。イッツ・ショー・タイム!!」
こうして俺と古泉は檻に入れられたまま奥の部屋へと運ばれていった。



Episode13 涼宮ハルヒの恐怖

ハイグレ化実験も終盤に入ったらしい。あたしの頭にハイグレ人間のことしか入ってこない。人間をハイグレ人間に適合しやすい体に変換して、その上で最終的にハイグレ人間にするってわけね。体がだんだん熱くなって顔が火照ってきて、下半身もムズムズしてくる。早く出たい。早くハイグレ人間にでもなんでもなりたい・・・・。
「博士、実験体のハイグレ化光線とのリンクが基準値を超えました。ハイグレ化はいつでも可能です。始めますか?」
「いや、待て。ハイグレ人間どもが捕まえた客人がこちらに向かっているのだ。せっかくだから最終段階を見せてやろう。」
客人?こちらに向かってる?もしかしてキョンと古泉君?そっか。ハイグレ化したあの子達に捕まっちゃったんだ。
「ぐ・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・。」
あたしはハイグレ人間になりたくない。でも・・・・でも・・・・。

朝倉さんと鶴ちゃんが実験室に入ってくる。後ろには檻に入れられたキョンと古泉君がいた。
「博士。ただいま戻りました。」
「うむ、ごくろう。今から涼宮ハルヒのハイグレ化を開始しようと思っていたところだ。」
博士は檻につかつかと歩み寄る。
「小僧ども、科学の偉大さをこの目でしかと見るがよい。」
二人は檻の中から悔しそうに睨みつけるだけ。助けてもらうなんてもう無理。あの檻は頑丈そうだし、あたしだってもう意識が遠のきそうだし。
「ハイグレ光線注入。最大限まで圧力を引き上げろ。」
「きゃあああああああああああ!!」
あたしの入っている容器が一気に赤く光る。苦しい。そしてその光が体を覆って融合している。一瞬気を失って気がつくと、体が引き締まっている。胸がブラジャーをした時みたいにきつく締まり、お尻もキュッとなっている。なんでだろう?体を見るとハイレグ水着を着ていた。いつの間にかこの容器に入っている水が化学変化して、あたしの体の一部になったんだ。
「(このハイレグ水着はもともとあたしの一部。あたしそのもの・・・・。そうよ・・・。あたしはハイグレ人間・・・・・・・ハイグレ人間なのよ・・・・。)」
最後まで残っていた理性が消える。あたしはハイグレ人間。ハイグレ人間の涼宮ハルヒ。

容器から引き上げられ、床に下ろされる。あたしは濡れた体をふくよりも優先してやるべきことがあった。
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
あたしはハイグレポーズを取った。



Episode14 HOH団

「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
ハルヒが黄色のハイレグ水着を着てポーズを取っている。ただ見ているだけしかできなかった。
「ハルヒ!!目を覚ませ!!お前は自己中でわがままで何でも自分の思い通りにしてきた奴だ!!そんな訳のわからないものに操られるな!!」
俺の必死の叫びもあいつには届いているんだろうか。
「うるさいわね。あたしはハイグレ人間の素晴らしさに気づいたのよ。ハイグレ!!ハイグレ!!」
駄目だ。ハルヒは完全に洗脳されてしまった。なんて力だ。あのハルヒをここまで変えてしまうなんて。恐るべき技術だ。

「その二人を外に出しなさい。団長命令よ。」
ハルヒの命令で俺と古泉は檻の外に出される。いつの間にか戻ってきていた長門と朝比奈さんと妹に後ろ手に縛られている状態ではあったが。
「さあ、二人もハイグレ人間にしてこの素晴らしさを味あわせてあげるわ。いいでしょ、博士?」
「ふむ。まだ男を使った実験はしていなかったからな。構わんよ。」
待ってくれ。まさか俺もその女物の水着を着て変なポーズを取りながらハイグレ魔王に忠誠を誓うのか?嫌だ。絶対に嫌だ。
「キョン君、今度こそその服を脱いでハイグレ人間になろうね。」
妹が俺のオーバーを大きなハサミで切る。古泉も長門と朝比奈さんによって服を脱がされ、俺たちはあっという間に裸にされた。
「(古泉・・・。ハイグレ人間に洗脳されない方法は何かあるのか?)」
「(皆目見当がつきません。観念しましょう。もしかしたら、新川さんと森さんが気づいて何とかしてくれるかも。)」
望み薄のような気がするが、この状況ではそれしか頼るものがないのか。俺を生んだ両親に泣いて謝りたい。馬鹿な息子でごめんよ、と。

俺と古泉は今まで筒型の実験容器の上に立たされる。
「あんたたちがハイグレ化したら、ハイグレ人間を大いに盛り上げるためのハイグレ人間の団、略してHOH団を作るわよ。」
「何をするんだ?」
「決まってるじゃない。ハイグレ人間をこの地球の隅から隅まで広めるのよ。まずはハイグレ人間に改造するための施設を博士にたくさん作らせて、邪魔な場所にはスパイを送って壊滅させて、その後全世界をハイグレ人間化したらみんなで遊ぶの。挨拶は当然ハイグレポーズ、学校では立派なハイグレ人間になるための勉強をするの。」
こいつはハイグレ人間になっても妄想癖は変わらんらしい。俺は断固それを拒否できるのだろうか。洗脳されてしまったこいつを見るとその自信はない。
「ハイグレ人間化開始じゃっ!!」
博士の命令で容器の中に落とされる。
「くっ・・・・・・・・・。」
俺の体が少しずつ変化していくみたいだ。こうして俺もハイグレ人間になるのだろうか・・・・。

「容器が二つしか埋まってないわね。」
ハルヒが不満そうな顔をしているのがガラス越しに見える。
「そういえば、一樹君が新川さんと森さんを呼んでたよね。そろそろ来てる頃じゃないかな?」
「黄緑絵美里のコテージへの到着を確認。新川さんと森さんも一緒。」
鶴屋さんと長門が盛んにハルヒを煽っている。
「じゃ、その三人とおまけに馬鹿二人も連れてきましょう。」
これ以上被害が増えるのか・・・。頼む、逃げてくれ、谷口、国木田。俺は彼らの無事を祈りつつ意識を閉じた。



Episode15 突入せよ、山荘

私は長門有希の異変に気づき、とるものもとりあえずこの山荘にやってきました。ふもとで組織の森さんと新川さんに出会い、一緒の車に乗せてもらいました。そこで得た情報では、場合によっては世界が破滅の危機を迎えるかもしれない状況であることが推測できます。

インターホンを鳴らします。中から谷口さんと国木田さんが出てきました。
「黄緑さん!?それと、えっと・・・。」
「多丸家で執事をしております新川と申します。こちらは同じく家政婦の森でございます。古泉様からお話を聞き、この吹雪を無理にやって参りました。」
新川さんがスラスラと架空の設定で自己紹介をしています。かなり訓練を積まれているようですね。
「それで、他の皆様は?」
「それが・・・俺とこっちの国木田以外誰もいないんです。」
話によれば涼宮さんたちが忽然と消えてしまったとのこと。とにかくコテージに入らせていただき、中を調べることにします。

「どうですか?何かつかめますか?」
森さんがこっそり私に耳打ちしてきます。
「浴室近くに時空の乱れを感じます。誰かが大規模な干渉をした形跡があります。」
私はありのままを伝えます。しかし、肝心のその場所には涼宮さんの着替えがあり、洗面台の近くにドライヤーが落ちているだけ。

「・・・・!!この空間への干渉を確認!!」
誰でしょう?この行動パターンは恐らく・・・・。私のそばではお二人が戦闘態勢を取っています。

「囲まれましたな。」
新川さんの声で初めて気付きましたが、確かに囲まれています。いつの間に・・・。涼宮さん以下6人がハイレグの水着を着て迫ってきます。
「やむを得ませんね・・・。新川、できるだけ怪我は負わせないように。」
「承知しております。」
森さんが指示を出しています。笑顔ですが、とても凄惨な笑顔をしています。

「獲物がノコノコやってきたわ。全員捕まえてハイグレ人間にするのよ!!」
涼宮さんの号令と共に全員飛びかかってきます。

「黄緑絵美里。あなたの行動を制約する。」
長門さんが呪文を唱え、そこに朝倉さんの攻撃が。何の抵抗もできずに捕らえられてしまいました。新川さんと森さんも同じです。
「どうしたんですか?」
ダメ、来ちゃダメ・・・・。そう叫ぶ暇もなく、谷口さんと国木田さんが入ってきます。
「えっ?みんな、どうしたんだ、その格好は?」
「ハイグレ人間の衣装よ。さあ、あんたたちも大人しくつかまりなさい!!」
「うわあああああああっ!!」
こうして捕まった私たち五人はワープして研究所へと連れて行かれることになったのです。



Episode16 キョンの憂鬱

「ぐ・・・・・・・あ・・・・・・・・・。」
だんだんこの水槽の中にいて苦しくなってくる。ハイグレ人間に近づいている証拠か。あの白衣の研究員がレバーを引くたびに容器の中の水が変化しているのが分かる。となりの容器に入っている古泉も苦悶の表情を浮かべている。奴もつらそうだ。
「ふむ、男は順応速度が遅いのう。やはりハイレグに抵抗があるのじゃろうか。」
博士はのんきにしゃべっている。この苦しさが分からずに平然としているのがムカつく。そしてまた俺は目を閉じた。


なんだか外が騒がしい。何が起きたんだ?
「さあ、博士。新しい実験体を連れて来たわよ。」
「ほう。男が三人と女が二人か。では、その女二人のハイグレ化を先にしよう。男では少々手間取るからの。」
黄緑さんと森さんが身ぐるみはがされて水槽に落とされる。
「ハイグレ化光線圧力上昇。」
ぐっ・・・・。人の心配をしている余裕はないらしい。ハイグレ・・・ハイグレ・・・・・。いかん、考えるな。考えるとハイグレ人間のことが頭の中でリピート状態になる。心頭滅却すれば火でも涼しく感じられると偉いお坊様も言っている。ハイグレ・・・・。

ハルヒたちが俺らを見ている。ハイグレ人間になるところを見守るつもりなのだろうか。だったらせめて素っ裸でない状態で見られたいものだ。妹以外に裸をさらすのはさすがに恥ずかしい。かと言って俺は動けないのでアソコを隠すこともできないし、ハイグレ人間になることを阻止することもできない。ただただ苦しい時間が流れていく。この苦しさから解放されるならハイグレ人間にでもなんでもしてくれ・・・。



Episode17 始まり

「博士。実験体1〜4、いつでもハイグレ化可能です。」
「うむ、最終段階に移行じゃ。」
ふむ、やはり男と女ではハイグレ人間への適合能力に差があるか。倍以上の時間がかかるというのはいささか問題がある。世界征服のためには男を軍隊化して戦う方が有利じゃからのう。今閉じ込めてあるあの男三人を使ってハイグレ化実験の見直しを行うとするか。

「ハイグレ化開始!!」
「ぐわああああああああっ!!」
四人が容器の中でもだえ苦しんでいるのが非常に愉快だ。ワシは悪の科学者。苦痛に顔をゆがめているところを眺めるのが好きで好きでたまらない。

「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
一番左の小さい方のガキが水色、でかい方が黒、ツインテールの女が赤、背の低い娘が黄緑。そういえば、まだハイグレの色の決定方法についてよく分かっていなかったな。ついでに研究するか。やれやれ、北春日部とアクション仮面を倒すにはまだまだ時間が必要だな。



「さあ、全員整列!HOH団の結団式よ!」
ハルヒに命令されて全員集合する。そう、俺はハイグレ人間。ハイグレ人間なんだ。というわけで俺も並ぶ。
「キョン、古泉君、みくるちゃん、有希、妹ちゃん、鶴ちゃん、朝倉さん、黄緑さん、森さん。まだいないけど、谷口、国木田、新川さんもHOH団の発足メンバーとして承認します。団規則第一条、リーダーはあたし。二条、あいさつは全員ハイグレポーズ。三条は・・・後で考えるわ。目的はハイグレ人間の世界を作るために博士に協力すること。いいわね?」
「おおっ!!」
「じゃ、最初の任務。全員、ポーズを用意!!」
俺は手を下にして構える。
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」



MKD
2009年02月21日(土) 16時52分49秒 公開
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■作者からのメッセージ
尻切れな感じですが、完結です。

新しい小説書きがでてきて嬉しいです。絵師さんも増えているようですし、盛りあがってきましたね。