ハイグレコロシアム

ハイグレコロシアム

「ハイグレッ!ハイグレッ!なのは様、そろそろ試合のお時間です。ご準備を」
赤いハイレグを着た小さな少女が、部屋の片隅の小さなイスに座っている女性、なのはを呼ぶ。
「ヴィータちゃん…様付けはやめてって」
「申し訳ございませんなのは様。しかしあたしは最下層のハイグレ人間です。
 全てにおいて最も下の身分の存在。
 まだハイグレ人間となっていない人よりも、このコロシアムで戦う皆様よりも圧倒的に下。
 なのでここで戦うなのは様にも、様をつけ敬うのが当然なのです。
 これはハイグレ星人様たちにより定められ、そしてこの世界の法律によって決まっていることです」
「……」
「それにあたしはもうヴィータではありません。このコロシアムの主催者様とそこで働く全ての人に仕える、
 ハイグレ奴隷・023号です」
首にまかれた首輪のようなチョーカーのようなものを指差しながらヴィータが言う。
その首輪の端につけられた金属の小さな板には、023とナンバーが、いやヴィータの新しい名前が刻まれていた。
「……っ」
二人の間でもう何度繰り返されたか判らない問答。
返ってくる反応が前と全く違わないと判っていながらも、なのはは同じことを言ってしまう。
あの明るく元気で闊達だったヴィータが、こんな風になってしまったということを認めたくないからだ。


数ヶ月前の話である。
機動六課の隊員として働いていたなのはたちの前に、突然異次元から侵略者が攻めてきた。
『ハイグレ魔王』と名乗ったその侵略者たちは、圧倒的な戦力と科学技術でなのはたちを圧倒。
なのはたちの世界を侵略していった。

魔王たちの侵略方法は独特であった。
彼らはその手に持つ、一見すると玩具のような銃から奇怪な光線を発し、人々を洗脳し
自らのしもべにし、従わせるというものである。
光線を浴びせかけられた人々は、赤と青に明滅する不思議な光に包まれ、
その中で衣服がハイレグの水着のようなものに替わった。
そして光が収まった次の瞬間、足を蟹股に開き、そのハイレグのV字にそって両手を動かし
『ハイグレ!』と叫び何度も繰り返した。
光線を浴びた者はそのハイグレと呼ばれる動作を、始めのうちは嫌がっているようだったが、
数分もすると喜悦に歪んだ表情になり、ハイグレ魔王に忠誠を誓うしもべ、
『ハイグレ人間』に生まれ変わっていた。
ハイグレ人間となった人間たちを戦力とし、時には兵として使い、時にはスパイとして敵対勢力に忍び込ませ、
内部から崩壊を招き、またハイグレ人間を増やし続ける魔王の軍勢。
相手の兵が増えると同時に、こちらの戦力が消えていく。
そのようなジリ貧の戦いに追い込まれながらも、なのはたちは最後の最後まで魔王に抵抗し続けていた。
しかし、最後には取り囲まれ、捕縛され、最後の抵抗者として人のまま連行された。
全ての人類がハイグレ人間となり、全てが魔王のものとなった世界で、
なのはたちは人のままハイグレ星人たちに裁かれ、
そしてとある施設へと送られた。
それがこの、『ハイグレコロシアム』である。


「さぁ、行きましょうなのは様。
 本日もコロシアムは満席。ハイグレ星人の皆様も、ハイグレ人間の皆様も
 なのは様の戦いを心待ちにしておりますよ」
真紅色のハイレグを身にまとい、ハイグレ奴隷となったヴィータがなのはを急かす。

ヴィータはコロシアムに送られてすぐに、戦いの場に上げられた。
ハイグレ星人たちを楽しませるモノとして、ハイグレ人間や改造人間たちと戦うという奴隷の立場に憤慨し、
飛びあがって、観客席にいる身分の高いと思われるハイグレ人間を攻撃し、隙を突いて逃げ出そうと画策し、
闘技場から観客席へ飛び込んだ瞬間──
赤と青に明滅する光に包まれハイグレ人間へと変貌させられていた。
観客席にはハイグレ星人とハイグレ人間たちの安全を配慮し、
奴隷たちが逃げ出したり、観客に危害を加えられぬよう、
強力なバリアと、ハイグレ光線が張り巡らされていたのだ。
コロシアムのハイグレ星人たちはあえてそれを説明せず、そう動くことを心待ちにしていたのだ。
期待通りの行動をしてくれたヴィータに対する、歓声と笑い声が響きわたるコロシアムの中で、
ヴィータはハイグレを繰り返し、数分もしないうちに完全なハイグレ人間へと生まれ変わってしまった。
そして一試合もこなさずハイグレ人間となったことに加え、観客たちへ危害を加えようとした罪により、
最下層のハイグレ奴隷という身分を与えられることになった。
しかし、完全にハイグレ人間となったヴィータは、主であるハイグレ星人たちに危害を加えようとしたことの罪で、
死罪をも覚悟していたのだが、最下層の奴隷として仕えることという寛大な処置に心打たれ、
コロシアムの中心で喜びの涙を流しながら、
ハイグレ星人とハイグレ人間の永遠の奴隷となる誓いのハイグレを大声でしたという。
何度も何度も『ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!』と繰り返して…
なのははその現場を見たわけではない、
待機室に帰ってきたヴィータとヴィータの主となったコロシアムの職員のハイグレ人間がこと細やかに説明したのだ。
なのははそのときの光景を、悪夢のように思い出せる。
数刻前には、目を吊り上げて憤慨し、ハイグレに対する敵意をむき出しにして出て行ったヴィータが、
ハイグレ人間となった様を涙の後が残る顔で、嬉しそうにハイグレしながら語る光景を──

「あの…なのは様?」
ヴィータはその後コロシアムの案内役兼コロシアムで戦う戦士たちの世話係として、
特になのはのそばにいることとなった。
代わり果てたヴィータを見せ続けられるのはとてつもない苦痛だったが、
「ごめんなさい。今行くわ」
それを今考えていてもしょうがない、と首を振り、なのはは立ち上がる。
「…行こう」
「ハイグレッ!ハイグレッ!」
ヴィータが了解の意のハイグレをする。
何度聞いても聞きなれることがないこの挨拶になのはは顔を少し歪めるのであった。


明るい通路を通り、コロシアムの中心、闘技場へと向かうなのはとヴィータ。
コロシアムと言っても、ハイグレ星人のもたらした技術と現代の技術によって作られたもので、
とても綺麗なものである。
普通の人間たちのための部屋も、個別に風呂やトイレも完備されており、
食堂やトレーニング室、治療室にリラックスルーム、娯楽室もある。
もちろんハイグレ人間用の娯楽ではなく普通の人間用の娯楽である。
これらは元の生活への執着を持たせるための物であり、ハイグレ人間になどなりたくないと思わせるためのもので、
そうすることによって、人間が敵と必死に戦うように仕向けるのである。
綺麗に磨かれた通路の向こうから二つの人影が歩いてくる。
長い金髪をツインテールにし黒いリボンでとめ、黒いバリアジャケットを着た女性、フェイトだ。
その後ろには洗脳されハイグレ人間になりフェイトのお世話係となっているシャマルがいた。
「フェイトちゃん…」
バリアジャケット姿であることを確認し安堵するなのはだが、フェイトの表情は暗くとても辛そうだった。
「ハイグレッ!ハイグレッ!ご苦労様です。シャマル様。フェイト様」
ヴィータがシャマルとフェイトに向かってハイグレをする。
シャマルはハイグレ奴隷ではなく普通のハイグレ人間なので名前をナンバーに改められることはなかった。
そしてヴィータより上の身分である。
「ハイグレッ。ハイグレッ。次はなのはちゃんの番ね」
「……」
フェイトの姿は痛々しくバリアジャケットもそこら中で裂け、隙間から見える肌は
打撲や擦り傷で見ている方まで体が痛くなりそうな様相であった。
治療室ですぐに治療され痕も残らず消えるとはいえ、
毎日のように元々は同じ人間、そして仲間だったハイグレ人間たちや改造人間たちと、
戦いそして傷つけあうことを繰り返されることに、精神の方は休まる暇がなかった。
「フェイトちゃん…」
名前を小さく呼ぶなのはにフェイトは力なく、そして虚ろな笑みを浮かべる。
「…行ってくるね」
戻ってくるよ、と言う意味を込めての言葉を放ち、なのはヴィータとともに闘技場の入り口へと歩いていった。


闘技場の入り口につく。
既に入り口の向こうからは興奮の渦に包まれた観客たちの、怒号のような歓声が響いてきていた。
「ご武運を、ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
ヴィータがなのはに言う。
いつもの言葉だ。
しかし、彼女とてハイグレ人間。その言葉の裏の本心では、自分がハイグレになることを望んでいる…
なのははここに来るたび、そう思わずにはいられなかった。
「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
「……」
ハイグレし続けて見送っているヴィータを無視するように、無言で入り口へと進むなのは。
自動ドアで開いた入り口の向こうは日の光と照明のライトで明るく、なのは眩しさで目を細める。
その眩しさに目が慣れてよく見えるようになったその先に、一人の女性がいた。
「ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!」
白いハイレグを着たその女性は闘技場の真ん中で観客たちに見せ付けるように笑顔でハイグレを繰り返していた。
彼女の肌は、ハイグレ星人のように青い肌ではなく色白いが普通の人の肌だった。
顔つきは端正で、青緑色の綺麗な瞳、金色の髪を結い上げ、どことなく気品のある風貌をしている。
恐らくは元々は普通の人だったのだろう。
だが、服装はハイレグのみで観客席にいるハイグレ人間とハイグレ星人たちに誇らしげにハイグレする姿からは、
そのような気品を感じることは出来ない。
ハイグレ星人のために命をかけて尽くすだけの…ハイグレ人間。
「ようやく来ましたか」
ハイグレ人間がなのはに気づいたのか、ハイグレをやめて言う。
「全く、怖気づいてこないかと思いま」
「おーー待たせしましたーーー!!!
 本日のメインイベント!!
 最終試合!!! 」
耳を劈く声。実況のハイグレ星人の声だ。
いつもながらうるさくてしょうがない。
目の前のハイグレ人間も言葉をさえぎられて若干ムッとしているようだ。
「最終試合はお馴染み!
 機動六課の白い悪魔と恐れられ
 当コロシアムでも負けなし!試合前の予想を幾度となくひっくり返し
 勝利をつかみ続ける無敗の魔法使い!高町ィー なのはァ!!」
その声と同時に観客席から歓声が上がる。
ヴィータから、なのはにはハイグレ人間やハイグレ星人の中にも、
多くのファンがいて大人気だとなのはは聞いたことがある。
見回すとハイグレ星人たちの熱狂する顔や、
ハイグレ人間たちがどういう意味かはわからないがハイグレをしている姿が見える。
だがなのはにとってそれは不快なもの以外の何物でもない。
自分たちを楽しませる玩具として見られているも同じだからだ。
「せっかくの歓声に返事すらしないのですか。全く強いとはいえやはりただの人間。
 礼儀も何も知らない野蛮なものたちですね」
ハイグレ人間がなのはを見下した言葉を発す。
「……」
だがなのはは何の反応も示さない。
彼女らには人の常識などというものはない。
ハイグレ人間なのだから。わざわざ何かを言い返すだけ無駄だと、もうなのはは判りきっている。
そんななのはを見て、金髪のハイグレ人間はさらにムッとした顔をした。
「対するはぁー!
 とある高官ハイグレ星人の隠し玉!! ハイグレ人間闘技大会上位入賞者!!
 ハイグレ人間に洗脳するために、一個中隊を犠牲に払ったと言われるほどのツワモノ!
  ハイグレ騎士ー!セイバァーーー!!!」
まるで大きな滝の音のような、なのはの時とも負けず劣らずな大歓声がコロシアム中に響き渡る。
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!!ハイグレ!!」
その歓声に答えるように、ムッとした顔を瞬時に明るい笑顔に切り替え
大きい動きと大きい声でハイグレを繰り返すハイグレ人間──セイバー。
ちらりとなのはの方を見たその目には、これが正しいのですよと言う侮蔑の意思が込められていた。
「……」
そんな視線を送るセイバーに、なのはは悲しくなった。
だが何を言うことも出来なかった。言っても無駄だったのだ。今までも。
「さぁすがセイバー!!
 闘技大会5位のお墨付!気合の入ったハイグレだぁー!
 試合前の宣言どおり、このしぶとく抵抗を続ける白い悪魔に
 ハイグレの洗礼を受けさせることができるのかぁー!!?」
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレェ!!
 ふっ、して見せますよ。我が主の命令ですからね。
 貴女をハイグレにし、魔王様と、我が主のしもべにしてさしあげます」
実況のハイグレ星人にハイグレを褒められ、心底嬉しそうにハイグレをし、
なのはに向かってそう宣告するセイバー。
「私は、ハイグレになんて、ならない!」
セイバーにそう強く言い返すなのは。
(そう、ハイグレになんて…絶対にならない! 皆を元に戻すためにも!)
「レイジング・ハート!」
《Yes. Master.》
「いくよ。 セーットアーップ!!」
なのはの衣装が光になって消え、バリアジャケットが体を覆う。
戦うための姿へと変化する。
真っ白いバリアジャケットを身につけ、デバイスモードとなったレイジングハートを構えるなのは。
その姿を見た観客席から、歓声と笑い声とバカにしたような声が上がる。
「ふんっ、なんて醜い…」
そして目の前のセイバーもなのはのその姿を笑う。
「戦う姿というのはこういうものですよ。ハイグレ!」
ハイグレポーズを取ると同時にセイバーの白いハイレグが青いハイレグに変わる。
そして手には金属製と思われるガントレット、足にも金属製のブーツが魔法のように現れ装着される。
誇らしげにその姿を見せ付けるセイバーに、観客席から大きな喝采が巻き起こる。
一部のハイグレ人間たちはハイグレを繰り返して、既に興奮状態だ。
「おおっ戦士二人は既に臨戦態勢に入ったぁー!!
 さぁ、本日のメインイベントいよいよスタートだ!!
 皆準備はいいかぁ!?」
コロシアムの観客たち全てからハイグレッ!!!と声が上がる。
「オーケーィ!! ィーッツショータァーーーイム!!!」
試合開始の合図を告げる声とサイレン音が鳴り響く。

「!」
それと同時にセイバーの姿が一気に大きくなったように見えた。
いや違う。セイバーが一瞬のうちになのはの目の前に来たのだ。
「ふっ!!」
そして、セイバーは両の手を振るう。だが若干間合いが遠い、素手では届かない。
しかし、その殺気になのははとっさにレイジングハートを前に出す。
金属同士がぶつかる音と、突風が巻き起こる。
「何、これ!?」
なのはは飛行をし宙に浮き、いったん距離をとろうとする。
しかしセイバーは跳躍一つで浮いているなのはの高さに追いつき、また両の手を振るう。
《Protection》
今度の攻撃はレイジングハートがオートガードの魔法でで防いだ。
バリアに見えない剣が当たり、火花が盛大に散る。
《Axel Fin》
移動魔法を使い、セイバーとの距離をとるなのは。
「見えない…武器?」
そう呟いたなのはを見てセイバーはニヤリと笑う。
レイジングハートが恐らくは風によって光を屈折し、剣を見えなくしているのだとなのはに説明する。
「あの素早さに跳躍力、ただの人じゃない…!」
「そう、私は『人』などではありません
 主のために仕える剣、主のために命を懸けるハイグレの騎士、ハイグレ人間・セイバーです
 ハイグレ!ハイグレ!」
そう名乗りハイグレするセイバーに、なのはは攻撃魔法を放つ。
ピンク色の光弾がハイグレをしているセイバーに直撃、ドゥンという音がして噴煙が巻き上がる。
しかし、その噴煙を突き破ってセイバーがなのはに突貫してくる。
再度見えない剣をなのはに振るうセイバー。
「傷一つないなんて!」
「その程度の魔法で、私にダメージなど──」
大きく剣を振るいなのはをガードごと吹き飛ばすセイバー。
「っ!」
観客席に飛び込まないよう、アクセルフィンで何とか持ちこたえるなのは。
観客席に入ってしまえば、その場でハイグレ化し、敗北が決定してしまう。
しかしセイバーは元々ハイグレ人間、観客席に飛び込んだとしても負けることはない…
「くぅっ!」
「──話に聞いたほどではないですね」
アクセルフィンで逃げた先にもすぐ追いつき、なのはに斬撃を繰り返すセイバー。
プロテクションを貫通し、バリアジャケットを裂き、肌にも稀に傷を作る。
防戦一方、なのは観客席に弾き出されないように必死である。
その観客席からは、セイバーを応援する声とハイグレを繰り返す声、
そして少しは反撃しろという罵声が響いている。
実況の面白がった声がコロシアム中に鳴り響いて、戦闘中のなのはの耳をつんざく。

観客たち──ハイグレ人間たちは全て、なのはが負けてハイグレになることを望んでいる。
反撃しろなどと言うのは、必死に抵抗する様を見て面白がりたいだけだ。
ファンというのも、必死に戦った挙句敗北し
どんな風にハイグレになるのか、それを心待ちにしている奴らでしかない。
なのはに勝って欲しいと真剣に思っているものなど、
元の人間に戻りたいという意思を表しているものなど誰もいない。
完全に洗脳されて誰も戻りたいとも思っていない。狂わされ、それを当然だとされた人たち。
「……っ!」
それでもなのはは、そんな間違った世界を直したい。元に戻したいと思っている。
異次元の異星から来た宇宙人たちに押し付けられた価値観にゆがめられ、
それに従属する人たちの世界を元に戻して、平和な世界へ戻したいと──
「だからっ!!」
「!?」
《Barrier Burst》
セイバーの剣を防いでいたバリアを、爆裂させる。
閃光と衝撃、そして噴煙に包まれ、セイバーが噴き飛ばされる。
地面に着地し姿勢を整え、なのはを見据えるセイバー。
だが、
「皆を元に戻すために──」
なのはは既に砲撃のモードの体制に入っていた。
しかし、動きを止めるなど愚の骨頂。すぐに切りかかってトドメを──
と体を動かそうとしたが手足が全く動かない。
ピンク色の輪がセイバーの動きを拘束していた。
バインドである。
「こんなもの…!」
無理やり引き剥がそうともがくセイバー。
後十数秒あればセイバーのその力でバインドを振りほどくことも出来たであろう。
しかし、足りなかった。
「スターライト!!」
レイジングハートの先に魔力が集中し──
「ブレイカーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
解き放たれた。
「──────!!」
もがいていたセイバーがピンク色の光、スターライトブレイカーに包み込まれる。
そしてその下にあった地面ごと光によって抉り取られていく。
轟音が鳴り響き、粉塵と衝撃波が闘技場を包み込み、そして閃光が広がって──
──消えた。
抉り取られ、クレータのようにくぼんだ地面に、セイバーが転がっていた。
死んではいないようだが意識はなく、ハイレグもズタボロで、股間も乳房も丸見えだった。

コロシアム全体を揺れ動かす、まるで地鳴りのような歓声が響き渡る。
なのはの大逆転に、ハイグレ星人とハイグレ人間たちの、拍手と驚きの声とハイグレが闘技場中に満たされる。
「ゲーーーーーーーームセッーーーーーーーート!!
 勝者は、高町ぃー!なのはっ!!!
 まさかまさかの一撃逆転!!
 闘技大会5位のセイバーをも屠って勝利をつかんだー!」
実況の声がその地鳴りのような歓声すら貫いてなのはの耳に届いた。
「強い!人の身のままでこれほどの強さをもてるというのか!?
 いや彼女はもはや人ではない!まさに、まさに悪──────」
賛辞のような言葉が聞こえるが、なのはには意味のある言葉には聞こえなかった。
ハイグレ星人とハイグレ人間たちの、悪魔のような笑い声だけが耳についていた。


自動ドアが開き、食堂に入るなのはとヴィータ。
そこにはフェイトとその後ろにシャマルがいた。
試合の後、治療室にて手当てを受けたのか、なのはもフェイトもともに体に傷は見受けられなかった。
ハイグレ星人たちの技術で作られた治療装置は、一時間弱もあれば殆どの傷を治療する。
以前なのはは、槍で腹部を串刺しにされたことがあったが、傷跡一つ残さず綺麗に治して見せた。
次の日もすぐに試合を行えるように──
「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
「ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!」
ヴィータとシャマルがハイグレで挨拶をする。
「フェイトちゃん…」
「なのは…」
治療を受け、体の傷は治ってはいても、フェイトの顔からはものすごい疲労感が漂っていた。
「なのは様、お食事は何になさいましょうか?」
ヴィータがなのはに問う。
「今はいい…」
「ではお飲み物は?」
「いらない。…少し静かにしててヴィータちゃん」
「…かしこまりました。ハイグレ!ハイグレ!
 …でも、私の名前は023号なのですが」
なのはは、ヴィータの言うことを無視してフェイトの前の席に座る。
「大丈夫?フェイトちゃん」
「…うん」
心ここにあらずといった様子で返事をするフェイト。
「…………」
「…………」
会話が続かない。
コロシアムに送られて約3ヶ月の間、なのはとフェイトはほぼ毎日戦い続けてきた。
元は同じ人間だった相手たちに、常識知らず、人でなし、反逆者とののしられ続けながら。
元は仲間だった人たちに、お前もハイグレにしてやると言われ続けながら。
観客席のハイグレ人間たちの、冷たい笑顔にさらされ続けられながら。
心も体も削るような戦いを毎日続けてきた。
「でも……」
「……うん」
それでもなのはたちは諦めずに勝ち続けてきた。
一人一人、仲間たちがハイグレ人間になり、どんどん減っていって行っても諦めずに。
「負けられない…負けちゃ駄目だよね」
「…………うん」
そう、皆を元に戻すために。
平和で、人々が普通に暮らしていける世界に戻すために。
そのためになのはは負けられない。
そしてフェイトも────


「たぁああっ!」
「やあああああっ!!」
白いハイレグをつけた少女と黒いハイレグをつけた少女の二人が、揃ってなのはにパンチをする。
そのパンチをなんとか身をそらして回避するなのは。
しかし、二人のハイグレ少女は地面につくと同時に、再度跳躍し、なのはに向かって再度突撃し攻撃を繰り出す。
「っこの!」
息の合った二人の攻撃を何とか捌き、誘導攻撃魔法を放つなのは。
「ほのか!」
「なぎさ!」
その魔法を見た二人は、示し合わせたような動きをしだす。
誘導魔法を出来る限りひきつけた後、正面衝突するかのような動きを見せ、
ほんの少しずらしすれ違う。そして魔法と魔法を衝突させ、消滅させた。
なんと言う動きの鋭さであろうか。
先日のセイバーにも匹敵するやもしれない。
それにそのコンビネーション。
おそらく二人は、ハイグレ人間となる前から息の合ったコンビだったのであろう。
だが、なのはにはその動きに驚愕している暇はない。
また二人が一気になのはに近づき、上に跳躍、二人で足を揃えてのキックをする。
「!!」
レイジングハートで何とか防いだものの、そのキックの威力になのはは吹き飛ばされ地に落ち転げまわる。
バリアジャケットのおかげで大したダメージはないものも、もし二人の攻撃が直撃した時のことを考え、なのはは震

えた。
二人のハイグレ人間は着地し、決めポーズを取る。
「ハイグレの使者、キュアブラック!」
黒のハイレグを着た少女が名乗る。
「ハイグレの使者、キュアホワイト!」
白のハイレグを着た少女が名乗る。
『ふたりはプリキュア!ハイグレ!!ハイグレ!!』
そして二人揃ってハイグレを繰り返す。
それと同時に観客席から大歓声が巻き起こる。
「古き世界の亡者たちよ!」
「とっととハイグレにおなりなさい!」
あぁ、やはり彼女たちも、ハイグレこそ全てのハイグレ人間なのか。
こんな少女たちも容赦なく洗脳し、従わせ、戦いの場に繰り出すのか。
…なのははまた心苦しくなった。
そして、こんな世界認めてはいけない。こんなことを認めてはいけないという思いが
さらに強くなった。
「──っ!」
立ち上がり、杖を構えるなのは。
それを見ると同時に飛び込んでくるハイグレプリキュアの二人。
左右に別れ、2方向から同時になのはに攻撃を仕掛ける。
ホワイトは左から拳を、ブラックは右から蹴りを突き出す。
それに対しなのは、杖を離し目の前に浮かせ、両の腕を左右に開き──
「!!」
轟音。
そして衝撃波が巻き起こり闘技場の地面にヒビ割れが起こる。
「なっ…!?」
「そんな!?」
なのははそれだけの威力を発する二人の打撃を、それぞれ左右の手で受け止めていた。
衝撃により、腕周りのバリアジャケットは破れ、手からは血が流れていたが、受け止めたまま悠然と立っていた。
そしてホワイトの拳を、ブラックのつま先をがっしりと掴み逃げられないようにする。
レイジングハートがカートリッジを4発ロードし、なのはの足元に、桃色の魔方陣が広がる。
「──クロスファイア!」
その言葉とともに、なのはとプリキュアの二人を包み込むように、
無数のピンクの球体、魔力スフィアが数十個一気に現れた。
この数は、さすがなのはにとっても制御しきれる数ではないが、今は関係はない。
素早いものを追う制御をせずにすむように、その手で捕まえているのだから。
「シューーーート!!」
全ての魔力スフィアが内側に、なのはとプリキュアたち目掛けて加速する。
そして全てが3人に命中した。
ピンクの閃光が広がり、爆音が鳴り響き、衝撃波が吹き荒れ、煙と土ぼこりが撒き散らされる。
煙が晴れた後──立っていたのはなのは一人であった。
自分の魔法の威力で多少傷ついてはいたものの、その両の足で立ち、
プリキュアの二人を見下ろしていた。
とても悲しい瞳で。

「ゲーーーーームセッーーーーーーーーーーーーート!!
 勝者は、またしても高町ぃ、なのはっ!!!
 恐ろしいっ!恐ろしすぎる!
 あんな戦い方今まで見たことがない!
 その戦い!その立ち姿!その瞳!まさに悪魔と言う他ないっ!!!」
何が悪魔か。お前たちこそ悪魔ではないか。魔王のしもべの悪魔ではないか。
「凄まじい、凄まじい戦いでした!!
 前の試合のことなど吹き飛ばす、まさに見事としか言いようのない試合!
 こんな試合を見せてくれた彼女に皆様心からの拍手とハイグレを!!」
前の────試合?
「ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!ハイグ──
 …え?何?……えー、……マジすか?…予定だとこれで…
 それに彼女傷ついてまいすし……後日ちゃんと予定組んで、宣伝してから……千万?本当に?」
実況のハイグレ星人が誰かと何か小声で話している。
その声を聞いてか、観客席もざわざわとどよめきはじめる。
「……おっけーい。忘れないでよ。
 ………オホン。
 えーっ、みんなぁ!!予定にはないが、なんと飛び入りで!試合を申し込む御仁が現れた!
 何でも先ほどの試合のみっともなさと、皆をガッカリさせたことへの償いに、
この場ですぐに戦いをさせたいとの話だ!!」
二連戦と言うことだろうか。
たまにあることだ。金を捻じ込んで、弱ったところを狙う金持ちのハイグレ星人が、
ハイグレ人間を送り込んで自分の欲しい人間をハイグレにして手に入れようという策略だ。
こんなことは、なのはにとっては慣れっこであった。
だが──
「その戦うハイグレ人間の彼女も、やる気満々のようだ!
 先ほどの汚名を返上するために、この白い悪魔をハイグレにすると豪語しているらしいぞ!
 面白いだろう!?このコロシアムで戦い続けてきた『あの』二人が、今日この場で戦うことになったぞ!!」
その実況の言葉を聞いて、わぁっ、と観客席が大いに盛り上がる。
…戦い続けてきた?…前の試合?
なのはがまさかと思ったその瞬間、実況の声が響いた。
「では、紹介しよう!
 機動六課の白い悪魔と並び恐れられた黒の魔女!
 このコロシアムに来て87日!総試合数なんと115試合!!今日の今日まで戦い続け、
 ついにハイグレの虜となった戦士!!
 ハイグレ人間ーーーッ、フェイト・テスタロッサーーーッ!!!」
「!!」
その言葉と同時にコロシアムの中心に小さな爆発が起こり煙が上がる。
そして、その煙の中から聞こえてきたのは──
「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!!」
なのはにとって聞きなれた声での、最も聞きたくない言葉だった。
「いや…そんな…」
間違いであって欲しい、そう思い、その声のするほうから少しずつ後退するなのは。
だがこの声は、そして煙の晴れた中から出てきた女性は、
「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
黒いハイレグを身に纏い、そのなまめかしく光る生地に包まれた豊満な乳房と金色の髪を揺らしながら、
ハイグレ魔王と、ハイグレ星人のしもべの証であるハイグレを繰り返しているのは、
間違いなくフェイト・テスタロッサそのものであった。
「そんな…そんな!」
「あぁ…なのは…ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
慟哭するなのはを見ても、ハイグレを止めようともせず、むしろ見せ付けるようにハイグレを繰り返すフェイト。
「おおーっ素晴らしい!
 やる気に満ちたなんとも美しいハイグレだぁ!」
「ありがとうございます!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
「フェイトちゃん!やめて!目を覚まして!!」
今まで敵だった相手に礼を言いながらハイグレし続ける。
そんなフェイトは見たくないと思うなのはだが、フェイトはなのはの言うことなど無視してハイグレを続ける。
「どうして?こんなに素晴らしいこと、なんで止めなければならないの?ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
先日食堂であった時の暗い表情とは全く違う。
明るく、まっすぐで、楽しそうな笑顔。
あんなにハイグレになることを拒んでいたフェイトが、もはや完璧にハイグレのしもべであった。
ハイグレし続けるフェイトに、ハイグレ星人たちの乗り物、オマル号に乗ったハイグレ人間が近づき、
手に持ったマイクでフェイトに聞いた。
「ハイグレ!ハイグレ!どうですか?フェイトさん。ハイグレになったご気分は?」
「ハイグレッ!ハイグレッ!とっても清々しいです!
 胸の痞えが全部消えたみたいで、とっても気持ちよくて
 今まであんなに悩んで、苦しんでいたのが馬鹿みたいです。
 ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
ハイグレしながら答えるフェイトは本当に心底嬉しそう、気持ちよさそうに見えた。
(嘘よ…こんなの本当のフェイトちゃんじゃない!)
そう思うなのはだったが、目の前にいるのは紛れもないフェイト自身だった。
「なぜハイグレになるのが嫌だったのですか?」
「……心苦しいのですが、魔王様たちのことを敵だと思って、
 洗脳されてしまうことそのものが嫌だったのです。
 それにハイグレ姿も、ハイグレという行為そのものもあの時は恥ずかしいと思ってしまっていたんです。
 こんなに素晴らしいことだったのに…。」
「そんな考えしてる方が恥ずかしいですよー」
「い、言わないでください…それによくよく考えると私のバリアジャケットって、
 普通に、ハイレグだったりしたんですよね…。
 それを考えるとハイグレを拒否していたことが、もう本当に馬鹿みたいです」
その言葉を聞き観客席が笑いに包まれる。
しかしなのはは、笑うどころではなかった。
今までの常識を恥ずかしいと言い、ハイグレを素晴らしいと言うフェイトの変貌に、
恐怖と嫌悪感を感じて青ざめていたのだ。
「それに気づいて、先ほどの試合では自分から負けに行ったのですか?」
(──!!?)
自分から、負けた?
フェイトがそんな行為に出たと言うのか。
「いいえ。その、あの時は、もう疲れてしまっていたんです。抵抗し続けることに。
 もう知っている人で、ただの人間だったのはなのはと私の二人だけで、
 皆はもうハイグレ人間で、誰ももう人に戻りたいなどと思ってなくて。
 そんな状況で、私が頑張ってどうなるんだろうって。無理やり皆を元に戻して
 どうするんだろうって気持ちになってしまったんです。
 誰も望んでないのに」
「そんな…嘘よ!嘘だと言ってよフェイトちゃん!」
なのははそう叫んだ。嘘だといって欲しかった。
しかしフェイトの口から出た言葉は全く逆の言葉だった。
「嘘じゃないわ…。本当に疲れちゃったの。
 それに、なのはに頑張らないとって言われるのも辛かった。」
「!!!」
フェイトの言葉がなのはに突き刺さる。
自分が、自分の言葉がフェイトを追い詰めていたとは、思いもしなかったのだ。
「で、今は立派なハイグレ人間として、このコロシアムで戦いたいと言うわけですね?」
「ハイグレッ!ハイグレッ!はい、その通りです!
 今までハイグレ人間となることを拒み続けてきた罪を償うために。
 先ほどの試合で何もせず一方的に負けて、皆様をガッカリさせてしまったお詫びをするために。
 そして、なのはをハイグレにして欲しいという、私のご主人様の願いを叶えるために。
 ハイグレ人間として、ここでなのはと戦いたいです!ハイグレッ!ハイグレッ!」
その言葉を聞き、沸き立つ観客席。
ついになのはをハイグレにするものが現れたという期待で大盛り上がりだ。
「フェイト……………ちゃん…………」
その歓声に答えるようにハイグレするフェイトを見ながらなのはは絶望感にうちひしがれていた。
そこにいるのは、なのはの知っていたフェイトではない。
完全なハイグレ星人のしもべ、ハイグレ人間であった。
「ありがとうございました。頑張ってくださいね。ハイグレ!ハイグレ!」
「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
そうフェイトにつげハイグレし、オマル号で離れていくハイグレ人間。
それをハイグレしながら見送るハイグレ人間のフェイト。
「んーっ!素晴らしい気合だーっ!!
 ハイグレ人間となったフェイト!おそらく今までの挑戦者の中でも最強の相手だ!!
 この強敵相手に、白い悪魔、高町なのはは勝利を掴むことが出来るのか!?」
勝つ──そうだ、勝たないといけない。
ここで負ければ、フェイトも皆も元に戻すことが、元に戻せる希望が、潰えてしまう。
「っ!」
力を振り絞り、レイジングハートを構えるなのは。
「…抵抗するんだね、なのは。
 嫌だって気持ち私も持ってたからわかるよ。
 でも、それは間違いだから…」
フェイトが胸元から彼女の杖、彼女のデバイス、待機状態のバルディッシュを取り出す。
「私が、目覚めさせてあげるね」
「フェイトちゃん…それは、私も同じなの」
体にダメージは残っている。先ほどの戦いで結構な量の魔力も消費した。
だが負けるわけには行かない。
フェイトを救うためにも。
「…行くよ、バルディッシュ」
《high-gle》
「セット!アップ! ハイグレッ!!!」
フェイトがハイグレポーズを取りながらバリアジャケットを纏う。
服ではなくハイグレ人間たちの纏うハイレグとなったバリアジャケットを。
長い金髪は黒いリボンによってツインテールに結い上げられ、
そして手にアサルトフォームになったバルディッシュを持った。
「んはぁ…ハイグレバリアジャケット…気持ちいい…」
身を包み、ギュッと食い込むハイレグの感覚に恍惚とした表情を浮かべるフェイト。
その淫らな表情をするフェイトを見て、なのはは歯を強く噛み締めた。

「さぁ、ついに、ついに始まるぞぉ!
 この世紀の大勝負!!
 白が勝つか、黒が勝つか、誰にも予想の出来ないこの戦い!!
 皆準備はいいかぁーっ!!!?
ハイグレ!!と揃った声がコロシアムに鳴り響く。。
「オーケーィ!! ィーーーーッツ……ショーゥタァーーーーーーーーーーーーイム!!!」
フェイトとなのはを戦わせる、非情な声とサイレンが、鳴り響いた。

それと同時になのはは、後ろに下がる。
フェイトの得意な距離から離れ、様子を見るのだ。
先ほどのダメージもまだ多少残っている。
しかしそれを許してくれる相手でもなかった。
《Plasma Lancer》
「そこっ!!」
距離をとろうとするなのはに容赦なく魔法を放つフェイト。
直線的な動きで近づく魔法をなのはは身をひねりかわす。
《divine shooter》
その動きをすると同時に、なのはも迎撃の魔法を放つ。
数発の光弾が曲線を描きフェイトに向かって飛ぶ。
「!」
だがフェイトは向かってくる光弾に、いや、それに繰り出したなのはに向かって突っ込む。
飛んでくる魔法をときにかわし、ときに弾いてなのはに一気に近づき、
「っ!!」
「ふぅっ!!」
ハーケンフォームとなったバルディッシュを振る。
それをプロテクションで受け止めるなのは。
「──っ!」
防御魔法越しに伝わってくる力は、明らかに強い。
なのはに前の戦いのダメージが残っているからというわけではない。
このフェイトの力は、
(本気の、力だ!)
バリアに力を混め、フェイトの攻撃を弾く。
だがフェイトは、すぐに二撃目、三撃目を繰り出す。
ともにかわし、移動魔法で距離を取ろうとするなのはだが、
速さではフェイトにはかなわず、またすぐ距離を詰められ、攻撃を防御するしかない。
「なら!」
《Barrier Burst》
プロテクションを爆破し、相手を吹き飛ばして強制的に距離を離す。
だがバインドはかけられない。
この手はフェイトも知っているからだ。
当然対策を採ってくる。
だからバインドせず間髪いれずに攻撃。
《Accel Shooter》
レイジングハートがカートリッジをロードする。
「アクセルシューター! シュート!」
十数発の魔力スフィアが飛び一直線に吹き飛ばされたフェイトに向かう。
「ふっ!」
だが、フェイトはその全てを、体勢を立て直すと同時に避け、バルディッシュで一つずつ叩き落した。
「!」
やはり、互いによく手の内の知り尽くした相手。
どう動くか、どういうスキルを持っているかがわかっているだけにやりにくい。
ゆえにフェイトは距離をつめ、なのはの得意な砲撃を使わせにくい状況に持ち込みつつ、
自分の得意な距離、近接で攻めてくると、そうなのはは思っていた。
しかし、
「!?」
フェイトは足を止めた。
距離をあけたそのまま。
そして、
「バルディッシュ」
《high-gle.
 Zamber form》
バルディッシュが姿を変える。
ザンバーフォーム、大剣の姿へと。
「この距離でザンバーフォーム…まさか!?」
その言葉を聞いてフェイトはニヤリと不敵に笑った。
そう、撃ち合うつもりなのだ。砲撃魔法を。
「…!」
その目は本気だった。そうなれば受けて立つしかない。
なのはもレイジングハートを砲撃体勢へとエクシードモードへと移行する。
「──────」
「──────」
二人の足元に魔方陣が広がり、互いのデバイスに魔力が集中する。
さらになのはの前方前に魔方陣が広がり、フェイトのバルディッシュからは雷光が幾筋か零れ落ちる。
「スターライトーー!」
「プラズマザンバーー!」
観客席も実況も、その様を息を呑んで見守り、
「「ブレイカーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」」
同時に、放った。
爆音と轟音が鳴り響き、大量の魔力を含んだ魔法の桃色の砲撃と金色の砲撃がぶつかり合った。
その中心から巻き起こる衝撃波と魔力の余波が、コロシアム全体を揺り動かし、
観客席に張られたシールドが悲鳴を上げる。
周りのハイグレ人間とハイグレ星人たちが悲鳴をあげ、実況が大慌てしているが、
なのはにそんなことを気にする余裕はなかった。
押されているのだ。
「くぅっ…!ううっ!!」
全力で魔力を混め押し戻そうとするが、すぐにフェイトの魔法に押し返される。
「こ、こんな!」
ダメージがあるとはいえ、自分の全力の魔法が、砲撃が押し戻されているなど──
ハイグレの洗脳は一種の肉体強化と、能力強化の効果があるということをなのはは知っていたが、
まさかこれほどのものとは思いもしなかった。
「なのはぁああああああああああああ!!」
フェイトの魔法がさらになのはに迫る。
そしてスターライトブレイカーが、
「!!」
弾かれた。
スターライトブレイカーの最後の威力でプラズマザンバーブレイカーは軌道を反れ、
なのはの数十センチ横を通り過ぎ闘技場の壁を穿っていたが、その威力の余波の雷光になのはは焼かれていた。
「あああああああああああああっ!!」
雷光による痛みに叫ぶなのは。
バリアジャケットが裂ける。
そして、その隙に、
「なのはっ!!!」
「!!!?」
フェイトは一気に距離を詰めていた。
そしてザンバーフォームのバルディッシュを振るい、なのはを打った。
観客席の方へと。
吹き飛ばされ、観客席に飛び込みそうになるなのは。
飛び込んでしまえば、なのははハイグレ光線にさらされることとなる。
「っ!!だ、駄目!!!」
全力で移動魔法を発動し、体勢を立て直すことなど考えず、
なんとか観客席に飛び込まないよう体を止め闘技場の方へ戻そうとする。
そのかいあって、なのはは観客席に飛び込むほんの数センチ、いや数ミリ手前で止まり、地面に落ちた。
「うぅ、げふっ、げふっ、かはっ」
痛みと衝撃で咳き込むなのは。
だが、まだ負けていない。
ハイグレになってはいない。
まだ、戦えると思いレイジングハートを支えに立とうとする。
が──
「!?」
《ma-master ma-high my ma-high》
レイジングハートの様子がおかしい。
不安定に鳴動し、そして、
「レイジングハート!?」
スタンバイモードに戻ってしまった。
レイジングハートが小さな宝石の姿に戻ってしまい、支えを失ったなのはは倒れこむ。
《Sorry.master....my mast....》
目の前に転がったレイジングハートがそう呟き、そして次の瞬間。
《high-gle! high-gle! high-gle! high-gle! high-gle!》
「ッッッ!!!!!!」
ハイグレと繰り返し始めた。
先ほどの瞬間、なのはは観客席内に飛び込まずに済んでいた。
だが手にしていたレイジングハートの先は、中心部分に当たる部分は、観客席へと入り込んでしまっていたのだ。
「そんな…!嘘ッ!レイジングハート!?レイジングハート!!?」
《high-gle! high-gle! high-gle! high-gle! high-gle!》
なのはの問いかけに答えず、ハイグレと繰り返し続けるレイジングハート。
そのことを実況で理解した観客たちが、大歓声を上げる。
だが、なのはにそんなものは聞こえない。
目の前に転がるデバイスにむなしく問い続けるも、レイジングハートはハイグレと繰り返すだけ。
「なのは…」
そんななのはの横にフェイトが近づいてきた。
ハイレグ姿のフェイトが
「──ひっ」
小さく悲鳴をあげて尻持ちついたまま、下がるなのは。
そして手を伸ばし、魔法を発動させようとするが。
「あっ!ああっ!!」
フェイトのバインドに縛り上げられ、身動き一つ取れなくなってしまった。
「あぁ、なのは…やっと…」
「ひぃ…!」
フェイトは赤く火照った顔をあげ、潤んだ瞳でなのはを見る。
「やっと…なのはも一緒になれる…」
「やぁ、いやぁ!」
なのはには、それがとても恐ろしく見えた
「ぉおおおおおおおおおおおおお!!
 ついに、ついについについについについにっ!
 高町なのはが!あの白い悪魔が!!
 人として最後のときを迎える時がきたぁあああっ!!!!」
実況が高らかに声をあげ、観客席から大喝采が巻き起こる。
観客席のハイグレ人間たちも、ハイグレ星人たちも、期待に昂った顔をし
その視線をなのはとフェイトに注いでいた。
「いぃ、い、い、いやああっ!いやぁああ!止めてフェイトちゃん!やめてぇ!」
泣き叫び懇願するなのは。
「あぁ…なのは…その顔、その表情…とっても」
だがそんななのはの言葉を無視して、フェイトはバルディッシュを構え、
「──素敵──」
「いやぁああ!助けて!誰か!誰か!」
観客席ではハイグレコールが巻き起こり、フェイトはバルディッシュをさらに深く構え、
実況は囃し立てる声をあげていた。
誰もなのはを助ける人はいない。
そんな中、なのはの目線がレイジングハートへと行った。
「レイジングハート!!レイジングハートッ!!!」
最後にすがりついたのは小さな宝石のようになっている自らのデバイス。
《my master.》
「レイジングハート!?」
デバイスはその言葉に答えこう言った。
《good luck.》
「!!!!!!!!!」
打ちひしがれ、声にならない悲鳴をあげるなのは。
そして、
「いやああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
一際大きい悲鳴を上げると同時に、再度、フェイトのバルディッシュによって、観客席へと打ち出された。
飛ばされるままになのはは、観客席の中へと、叩き込まれた──


なのはが飛んでくるのを見て、とっさに逃げる延長線上の観客たち。
だが、なのはの全身が観客席に飛び込んだ瞬間、
なのはの体は閃光に包まれ、空中に止まった。
「あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!?」
今までに感じたことのない、熱いのか冷たいのか全く判らない感覚に包まれるなのは。
世界が赤と青に明滅し、頭が熱くなる。
明滅にあわせるように、なのはの身につけていたバリアジャケットが、ハイレグと入れ替わりを繰り返す。
体が締め付けられたり開放されたりされるような感覚を何度も何度も味わうなのは。
そしてゆっくりと観客席へとおりながら、段々と明滅の頻度が少なくなってきたかと思うと、
観客席へ足がついたときには、明滅は止み、なのはの服は完全に真っ白い、純白のハイレグへと摩り替わっていた。
「!!!」
なのはは、体が勝手に動き出すという奇妙な感覚に襲われた。
足がガクガク震え始め腕もまっすぐ伸びようとしてくる。
「いやっ!やだっ!あんなこと!あんなことしたくないっ!!」
最後の力を振り絞り必死の抵抗をするなのは。
体をガクガク震えさせ続けるなのはに、観客席から喝采が飛ぶ。
「おおおおおっ!なんと言うことだ!いや、流石は白い悪魔!
 意思の力でハイグレを押さえ込もうとしている!!
 観客席は常にハイグレ光線で満たされていると言うのに、そんなことがありえるというのか!?」
実況が感嘆の声を上げる。
「しかし、彼女はすでにハイレグを身に着けたハイグレ人間!
 心では嫌がっても、もう命令には逆らえないはず!!
 さぁハイグレ星人の皆!!声を揃えていこうかー!!
 せーので行くぞ!!
 せーーーーのっ!!!」

「「「「「「「「ハイグレしろ!!!」」」」」」」」
「ひっ!」

観客席にいる数百人のハイグレ星人からの命令が、なのはに飛び掛る。
その言葉に突き動かされ、震えていた足は一気に蟹股へとガバッと広がり、手が下にビシッと伸びた。
そして、
「は、は、ハ、ハイグレッ!!」
伸ばしていた腕をV字にそって動かし、胸をそり上げ、そう大きく声を張り上げるなのは。
なのはの初めてのハイグレであった。
その動きをすると同時に、ハイレグがキュッと体を締め付け、えも言われぬ感覚をなのはに与えた。
そしてなのはの心に不思議な充足感があふれ出してきた。
ハイグレ星人の、自分たちの主の命令を遂行することが出来た、と言うハイグレ人間の根本に植えつけられた
従属者の感覚を。
(い、いやっ!こんなのいやっ!)
だがなのははその感覚を認めようとはしなかった。
一度ハイグレしただけで、繰り返しハイグレなどしまいと、強靭な意志で抵抗を続ける。
「うおおおっ!?これだけの人数の命令に、まだ逆らう意思があると言うのか!?
 なんという、なんという意志力だあああああ!!」
実況のハイグレ星人が、なのはの精神力に賞賛の言葉を送る。
その言葉になのははまた、えも言われぬ幸福感を感じた。
ハイグレ人間の根本に植え付けられた喜びの感覚を。
だがそれも認めようとはしなかった。
一度ハイグレをしたポーズのまま、必死にハイグレしまいと耐えるなのは。
「んーっっ!なんて強情なんだ!
 仕方ないもう一度行くぞー!
 せー」
「ストーーーーーップ!!!」
観客席のとある場所、VIP席と呼ばれる場所から声が上がる。
その声で実況と観客のハイグレ星人たちの声が止まる。
声のした方向にみなの視線が向く。
そこには小太りで、髭の生えた初老のハイグレ星人がいた。
煉瓦色をしたハイレグが、余った肉に食い込み、同じ色のブーツを履いていた。
その頭には、珍妙な、まるでアヒルのような形をした帽子を被っていた。
「あの人は!」
「第三侵略軍総司令!」
「ビッグダック将軍!」
観客席にいたハイグレ星人が口々に言う。
「「「「「ハイグレ!ハイグレ!」」」」」
観客席にいたハイグレ人間たちは、高官のハイグレ星人に対し、敬礼のハイグレをしている。
「ご主人様!ハイグレッ!ハイグレッ!」
フェイトがその初老のハイグレ星人、ビッグダック将軍をそう呼び、ハイグレをした。
「諸君。彼女は私のしもべのハイグレ人間が洗脳した。
 つまり私のものだ。」
あのハイグレ星人が自分の主だと!
勝手なことを言うビッグダック将軍に、なのはの胸は嫌悪感で一杯になった。
「ゆえに彼女をハイグレに染める手筈、私に任せてくれないかね?」
「そりゃまぁ、よろしいですが…」
実況のハイグレ星人がそう答える。
観客席のハイグレ星人たちも文句を言えるはずもなく、黙っていた。
「結構。ではフェイト」
「はい!」
「彼女を、なのはを闘技場の中心あたりに連れてきなさい」
「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!喜んで!」
フェイトは走ってなのはに近づき、なのはの手を握ると引きずるようになのはを闘技場の中心に連れて行った。
抵抗しようとしたが、体の自由が上手く利かず、引かれるがままに闘技場の中心へと移動してしまうなのは。
「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
先に中心に来て待っていた将軍に、フェイトはハイグレをする。
なのはもハイグレをしなければならないと言う衝動に駆られたが、震えるだけでハイグレはしなかった。
「強情なことだ」
なのはを見て将軍はそう呟く。
「後フェイト」
「ハイグレッ!ハイグレッ!なんでしょうご主人様!」
「ご主人ではなく将軍と呼びなさい」
「はっ、はい!ご…将軍様!ハイグレッ!ハイグレッ!」
なのははそんなことを言う将軍を見た。
ハイレグの開いた首元から見える大量の胸毛。
処理もされていない腋毛。
そしてなぜかそこだけは綺麗に処理され、はみ出ないようになっている、膨らんだ股間
たるんだ顔にたるんだ腹、太もも。
見れば見るほど嫌悪感を感じるのでなのは目を閉じることにした。
「目を開けてしっかり立ちたまえ」
しかし将軍にそう命令されるや否や、なのはは目を見開き、直立不動の姿勢をとってしまった。
(いやぁ…)
心は嫌がっても、体は逆らえない。
その苦しみに、なのはの心は悲鳴を上げていた。
そんな様子を見守っている観客席から、実況のハイグレ星人が降りてきた。
痩せ型で黄緑色のハイレグを着た実況は、マイクを持って将軍にインタビューをする。
「あのー、これからどうするおつもりで?」
「見てれば判る」
将軍はそう簡潔に答えた。
それと同時に、闘技場の片方の入り口が開き、誰かが入ってきた。
数名のパンスト兵がオマル号を使って、一つのコンテナを運んできたようだ。
将軍はそれを闘技場の中心に下ろさせると、コンテナを開放させた。
中には透明な、六角柱のケースが入っていた。
それは扉がついており、大きさは人が二人か一人入れる程度のものだった
「フェイト、なのはをその中へ入れ、扉をしっかりしめなさい」
「ハイグレッ!ハイグレッ!」
フェイトは将軍に言われるがままに、なのはをその六角柱の中に入れる。
六角柱の中は、前面が鏡だった。
上も下も前後左右全ての面が鏡だった。
外から見るとなのはは普通に見えるところからどうやらマジックミラーの類のものであろうか。
なのははその鏡によって、ハイレグ姿となった自分を凝視することになった。
ハイレグを着た自分。それが合わせ鏡のようになった六角柱の内部に無数にいた。
汚れのない真っ白いハイレグを着ているはずなのに、
なのはには自分がとても汚らわしい物に見えた。
その身を破壊したくなるほどに。
しかし体は言うことを聞かない。魔法を発動させることすら出来ない。
せめてもの反抗として目をつむろうとしたが。
「目を開けと言ったぞ」
その将軍の言葉のせいで目をつむることすらままならない。
「なんとー!将軍はハイグレ人間となった自分自身を大量に見させ続けるという方法に出るようだー!
 面白い、実に面白いぞー!
 晒し者となったその状態で、自分自身の姿で、ハイグレへと堕ちるのか白い魔王!」
実況が囃し立て、観客席が盛り上がる。
(そんなことになってたまるもんか。最後の最後まで諦めたりしない!)
そう心に誓うなのはだが、
「気をつけ!!」
将軍のその一喝に、なのははビシッと姿勢を正してしまう。
外にいるフェイトもその迫力に直立不動の姿勢をとってしまっていた。
そして、
「一度だけ、ハイグレッ!!」
「ハイグレッ!」
その鋭く、威厳のある一言を聞いて、抵抗する暇もなくハイグレをしてしまうなのは。
そして鏡の中の大勢の自分もビシッとハイグレをする。
「────!!」
その鏡の中のなのはの、自分自身の表情をなのはは見てしまった。
命令されるがままに、嫌がる表情すら見せず、機敏にハイグレをする自分を。
凛とした表情で、堂々とハイグレをする、ハイグレ人間となった自分を。
(う、嘘…そんな…)
「声に合わせて繰り返せ!ハイグレッ!!」
「ハイグレッ!」
また自分と、鏡に移った自分たちがハイグレをする。
命令されるがままに、将軍の言うがままに。
「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
今度は4回続けて繰り返された。
もう手足は完全に言うことが聞かない。
いや表情を見ると言うことを聞いているのかもしれない。
鋭く、鋭敏に、動く手足と、将軍の言ったタイミング通りにハイグレと繰り返す口。
そして、それを何の疑問もっていない、自分の瞳
「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
将軍の言葉に合わせて動く体と口。
何か抵抗しよう、何か考えようとする暇もなく繰り返されるハイグレの命令とそれに従う自分。
「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
そのうちなのはは自分自身がわからなくなっていた。
堂々とハイグレしつづける自分を見続け、自分自身の抵抗する意思を、見失っていた。
なぜなら自分は、抵抗すらせず言われるがままに、ハイグレ人間のように、ハイグレし続けていたからだ。
「よし、次はいいというまで自らのペースでハイグレを続けろ!!」
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
そして今度は自分のペースでハイグレをさせられる。
止めようとすることは出来なかった。
言われるがまま何度も何度もハイグレを繰り返す自分たち。
密閉空間で、何度も何度もハイグレを繰り返すうちに、体温が上がり、六角柱内の温度も上がってきた。
「ハイグレッ! ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
汗ばみ、若干朦朧としながらも言われた通りハイグレし続けるなのは。
ここには命令に従わない自分はいない。命令に従う自分しかいない。
命令に従うのが自分──
「フェイト、あの石を取って来い」
「ハイグレッ!ハイグレッ!」
将軍たちの声が聞こえる。
だがまだ将軍はいいとは言っていない。
だからハイグレをやめることは出来ない。
命令に従うのが自分なのだから。
「…うむ。なのは!」
「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ」
「鏡に映る自分をよーく見てみろ」
言われたとおり、ハイグレしながら鏡に映る自分をよく見るなのは。
そこに映っていた自分は、汗をたらしながら、呆けた顔でハイグレし続けるハイグレ人間だった。
「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ」
白いハイレグも汗ばみしっとりと濡れている。
まさにハイグレにおぼれるハイグレ人間そのもの。
「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ!ハイグレッ!」
それに気づいた瞬間。今まで気づかなかったハイレグの感触。
濡れて体にぴったりと張り付いたハイレグが、ハイグレの動きとともにこすれる感覚。
揺れるハイレグに包まれた乳房。
反る動きに合わせ、食い込む股間の布…
「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレェ!!」
段々と声が大きくなる。
そして声に違った音色が混ざりだす。
その声は、紛れもなく──なのはがハイグレの快楽を感じ始めた証。
「ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!」
そんななのはの様子を見て、将軍はフェイトから受けとった石、レイジングハートをなのはの方に放った。
不思議なことにレイジングハートは六角柱の壁にぶつかることなく、まるで素通りするかのようになのはの胸元へと

飛び込んだ。
「ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!」
胸元に目をやるなのは。
揺れる自分の胸元で、レイジングハートもこう繰り返していた。
《high-gle! high-gle! high-gle! high-gle! high-gle!》
それを見て、なのはは判った。
(あぁ…レイジングハートも…私と一緒なんだ…)
自分と同じ、そう、『ハイグレ』が気持ちいいんだ。

「ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!」
《high-gle! high-gle! high-gle! high-gle! high-gle! high-gle!》

レイジングハートが、なのはとタイミングを合わせてハイグレを繰り返している。
(レイジングハート…一緒だね…一緒に…)

「ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!」
《high-gle! high-gle! high-gle! high-gle! high-gle! high-gle!》

レイジングハートと一体になったかのようにハイグレを繰り返すなのは。
(一緒に…気持ちよく…気持ちよくなろうっ…)

「ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!」
《high-gle! high-gle! high-gle! high-gle! high-gle! high-gle!》

レイジングハートの快感は、なのはの快感。
なのはの快感は、レイジングハートの快感。

「ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!」
《high-gle! high-gle! high-gle! high-gle! high-gle! high-gle!》

そんな感覚に包まれながらなのはは、
鏡に映る無数のなのはは、

「ハイグレェ!ハイグレェ!ハイグレェ!!ハイグレェ!!ハイグレェ!!!ハイグ────」
《high-gle! high-gle! high-gle!! high-gle!! high-gle!!! high-g────》

ハイグレの快楽に、

「ハイグレェェェェェェ!!!!!!!」
《high-gleeeeeeeeeeeee!!!!!!!》

溺れた──────

「ハイグレッ…ハイグレッ…ハイグレッ…ハイグレッ…」
ハイグレしたまま達しながらも、命令どおりハイグレを止めないなのはを見て、将軍は口を開いた。
「よし!いいぞ、ハイグレやめ!」
その言葉を聞き、ハイグレを止めるなのは。
ふらふらで、腰も足もガクガクしており、白いハイレグは汗でべしょべしょ。
股間は汗以外のもので洪水のように濡れぼそっていた。
そしてその顔は、快楽で淫猥にゆがみながらも、晴れ晴れとした笑顔だった。
「…気をつけ!」
将軍がそう一喝するとなのはは、命令どおりに直立不動の体勢を取った。
表情もキリッとしたものになるが、数刻前のものとは違い、顔は紅潮し、瞳は快楽によどみ、口もにやけていた。
なのはにとって、もう命令に従うことはそれすなわち快楽、喜びであった。
「そこにいる、高町なのはに問う!」
将軍は声を張り上げてなのはに言う。
「お前は何者だ!」
自分は誰か──
今のなのはにとっては簡単な質問であった。
命令に従うのが自分。自分は命令に従うもの。
将軍の声に、主の命令に、ハイグレの快楽に従い、喜びを感じるもの。
「私は──」
なのは、将軍の問いに答えるために──
股を開き、腕を伸ばした──。


エピローグ

「フェイトちゃーん!」
通路の向こうからフェイトを呼ぶはやて。
「あ、はやて!」
二人は近づきそして挨拶をした。
「ハイグレ!ハイグレ!」
「ハイグレ!ハイグレ!」
二人は茶色いハイレグを着ていた。
それは、ここで働くものの制服。
第三侵略軍のとある部隊のための制服ハイレグであった。
「でも、はやてもここにいるだなんて、初めて知った時はビックリしたわ」
「うん、まぁ、私は最初は別のハイグレ星人様のとこにいてたんやけど、将軍様がトレードで引き抜いてくれたんや」
通路脇の手すりに二人は寄りかかる。
「やっぱり、将軍様は、第三侵略軍に作る気かな?」
「せやろうね…。元機動六課メンバー全員集めた、ハイグレ部隊!」
「魔王様にずっと逆らい続けてた私たちが、また一つに集まるなんて、
 ちょっとおかしな気分」
「せやなー。でもみんな揃て魔王様のために罪滅ぼしできるなんて、最っ高に素敵や」
「そうだね…でもそのためにはまだまだメンバー…足りないね」
「みんな散り散りで色んなハイグレ星人様のところへ行ってもーてるもんなー」
「そのためになのはと私が、交代で交換要員集めに出て行ってるんだよね」
「あ〜、ええなー。ええな〜。私も戦いたいわぁ。コロシアムで」
「で、でも、はやての能力だと狭いコロシアムで戦うにはちょっと不向きだから…」
「むー」
「ここでも色々やることあるんだから、頑張らないとね」
「…せやな。魔王様と、将軍様と、ハイグレのために」
「うん」
そう言って通路の窓から空を見上げるフェイトとはやて。
「…がんばろうね、なのは。」


「ハイグレッ!ハイグレッ!なのは様、そろそろ試合のお時間です。ご準備を」
赤いハイレグを着た小さな少女、ヴィータが、部屋にいるなのはを呼ぶ。
「ハイグレ!ハイグレ!今いくから。ちょっと待って023号」
そう返事をし、なのははハイレグの食い込みを直し、準備をする。
「っと…」
胸元にあるレイジングハートを取り出して調子を聞く。
「調子はどう?レイジングハート?」
《No problem.》
「うん、じゃあ行こう!」
《high-gle!my master.》


   終


マヴィーン
2009年03月13日(金) 06時44分55秒 公開
■この作品の著作権はマヴィーンさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうも、マヴィーンです。
絵ではなく文章で自分の好きなハイグレを表現してみたくなったので、初SSを投下させていただきます。
なのは、FATE、プリキュア等が混ざるクロスオーバー物となっております。
作品への理解度や、物理、科学、現象等、少々怪しい部分がありますが、優しい目で見ていただけたらうれしいです。
おまけに、文章力についても優しい目で見ていただけたら、とてもうれしいです。

感想、批評、心からお待ちしております。
では、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
また次の機会があれば、よろしくお願いしますね。