新たなる王 一章・誕生
――アクション仮面の活躍により、ついに、
  ハイグレ魔王は倒されたのであった。

しかし、その時に魔王の手から投げられた、仮面。
その行方を気にする者は誰もいなかった。
誰も・・・



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「ねえ、由真、これなんだろ?」

 学校の帰り、一緒に歩いていた友達の一人がそう声を上げた。
 因みに、私たちは四人グループ。
 大抵、この四人で行動している。

 彼女の方を見ると、その手には、仮面。
 ピエロが着けているような、笑い顔のものだ。
 少し、怖い。
 でも、それ以上に、仮面を着けてみたいという衝動が、心にはあった。
 何故かは分からない。

「どうしたのよ、それ」
「ん〜、なんかね、拾った」
「拾ったって・・・」
「落ちてたんだもん、そこに」

 全く・・・彼女はいつも、何か落ちてれば拾って私に見せに来るのだ。
 犬か、あんたは。

「ねえ、由真ちゃん、これ着けてみたら?」

 もう一人、別の友人がそんなことを言ってきた。
 着けたい――そう思った。
 でも、そう思う自分が、自分じゃないようで。
 怖い。
 
「どんなオヤジが着けてたかもわからないのに、嫌に決まってるでしょ」
「ですよね〜www」

 着けたいと言う気持ちを振り払うように、答える。
 できるだけ、大きな声で、宣言する。
 仮面が、怖かったから。

「あ、由真ちゃん、じゃあさあの子に着けてやろうよw」
「あ、それいいね〜ww」

 あの子――私の幼なじみの女の子。
 私の好きな相手を取った、憎い、憎い、あの女。
 だから、私も答え直す。
 そうすれば、あの女が消える気がして。
 そうすれば、この仮面が消える気がして。
 だから、答えた。

「いいね〜それ、ナイス・・・ッ!」
 と。


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 私は、独りだった。
 理由は分かっている。
 幼なじみの彼女が好きだった彼・・・その彼が私を好きだったこと。
 そんなことが、簡単に私たちの友情を壊した。
 いや、初めからそんなモノ無かったのかもしれない。
 クラスで人気の彼女を敵に回せば、
内向的な私が村八分にされるのに時間はかからなかった。
 でも、私は彼女が好きだったから。好きだから。
 また、一緒に遊んでくれることを信じて待っている。
 
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「ねえ、如月さん、いいものあげるよ」
「くすくす・・・」

 あの女、如月楓を待って、路地に連れ込んだ。
 こいつが私の言うことを無視するなんて、あり得ない。
 付いてきて、と頼めば簡単に付いてくる。

「ほらあ、この、仮面。かっこいいでしょ?」
「ね、ほら、着けて、着けて」

 他の三人が楓を取り囲んで、仮面を着けることを強要する。
 私は参加しない。
 仮面に触るのも嫌だった。
 あの女を近くで見るのも嫌だった。
 だから、少し離れた場所で、ぼーっとソレを眺めていた。 

―――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 仮面を着けろ。
 暗くて、狭い路地に連れ込まれて、そんなことを言われた。
 嫌だ、なんて言えない。
 そんなことを言ったら、どうなるか分からない。
 いいえ・・・それ以上に、その仮面を着けたくて、着けたくて。
 だから、嫌だなんて・・・言えなかった。

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「ああぁぁぁぁぁぁ」

 目の前から、大きな声が聞こえてきた。
 ぼーっとしていた頭が、覚醒する。
 目の前で、仮面を着けた楓が、仮面を着けた顔を押さえて

 ――弾けた。

 いや、違う。
 弾けたのは、服。
 学校の制服がはじけ飛んで、下着がはじけ飛んで、
 楓の体が露わになる。
 彼を誘惑した、豊満な胸、括れた腰、肉付きのいいお尻。
 全てが、さらけ出された。

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 分かる。
 私が、私じゃなくなる。
 今までの、弱い私じゃ無くなるんだ。
 この仮面が、力を貸してくれる。
 抗う理由なんて・・・無い。

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 楓の体が、変色し始める。
 白い肌が、青く、青く、蒼く・・・
 
 動けない。
 私たちは、四人とも、ソレを眺めるしかない。
 動けなかった。
 
 恐怖・・・それとも、畏怖?

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 チカラチカラチカラ
 
 魔法の言葉、チカラ
 この言葉、チカラ
 
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「ハイグレぇぇぇぇぇぇ・・・ッ!!!」

 青い、楓だったモノ。
 それが、訳の分からない言葉を叫んだと同時に、光が爆ぜた。

 真っ赤な光――目を開けていられないほどの、洪水。
 
 それが収まって、そこにいたのは、やっぱり楓だったモノ。
 違うのは、服を着てたって、それだけだ。
 
 ――服・・・?
 ちがう、服じゃなくて、あれは水着。
 真っ赤な、際どい、真っ赤な、水着。

 それだけの変化なのに。
 私は、何か、とても恐ろしくなって。
 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「嫌あぁぁぁぁぁ!!」

 逃げる、逃げる。
 由真ちゃんが逃げる。
 
 また、私から離れていくの?ねえ。
 キレイになったよね、私。
 こんなに、キレイになったのに。
 何で逃げるのかなあ?

「もう、失礼しちゃうわぁ」

 だから、由真ちゃんを追いかけようとして、何かがぶつかった。
 ぶつかって、気づく。

「まだ居たの、アンタたち」

 ソレは、つまらないもの。
 ぶつかるまで、気づかなかった。
 それくらいつまらないモノが私を囲んでいた

「ハイグレェェ・・・だって、くすくす」
「そんな、恥ずかしい格好してwww」
「馬鹿じゃないの?」

―――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 後ろを振り返ると、あの三人が、楓を囲んでいた。
 馬鹿はアンタらだ。
 あれ、なんであんなつまんない奴らと付き合ってたんだっけ?
 
 楓と縁を切ってまで、なんであんなつまんない奴らと。
 楓様を虐めてまで、何でアンナツマンナイ
 魔王様に逆らって、何で、何で

 そう思った。
 思ったら、

「ホホホホホホ」
 
 マオウサマノコエガシテ。

「あああああぁぁぁぁぁん!!」

 ツマンナイサンニンのコエガシテ。
 ソノコエハトッテモコワクテ。
 
 ――ゼンリョクデ、ニゲタ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「馬鹿じゃないの、その恥ずかしい格好www」

 馬鹿は、お前達だ。
 この美しさが分からないのね。
 こんなのと付き合ったら、由真ちゃんが馬鹿になる。 
 でも、安心していい。
 私が、教えてあげるから。
 美しさを、強さを、私が教えてあげる。

 ――ホホホホホホ




―――――エピローグ―――――――――――――――――――――――
 
 私たちが、楓に仮面を着けてから、約、一年が経った。
 楓――ハイグレ魔王は、東京に基地を構え、世界征服に乗り出した。


「ハラマキレディーズだああ!!」
「逃げろ!ハイグレにされるぞ!」
「ハイグレェェェェ!!」

 
 あの三人は、魔王の腹心として、今日も街をハイグレに染める。
 楓に悪戯してた教頭も、見るに堪えない格好で将軍やってる。

 私は・・・

「来たな、ハイグレ魔王軍!
 私が居る限り、お前達の勝手にはさせないっ!!」
「ちぃぃっ、またお前かっ。」
「今日こそ貴女もハイグレにしてあげるわ」
「魔王様のためにっ!!」

 私は、とある博士が、「こんな事もあろうかと」作ったスーツに身を包み
 今日も戦う。

 楓があのとき発した光。
 あれは、洗脳効果があったらしい。
 このスーツが無いと、私は、魔王に服従してしまう。
 魔王の下僕になってしまう。
 それじゃあ、だめだ。
 私が、楓を元に戻すんだ。
 魔王から、楓を助けるんだ。
 だから、今日も戦う。

「アクショォォォォンキィィィック!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「またやられてきたのね」
「も、申し訳ございません、ハイグレ魔王様!!」
「私たち三人、どんな罰でも!」
「ハイグレ兵士からやり直せと言うなら、やり直します!」
「いいわ、別に。あれが強いのは分かってるもの。
 アンタらと違ってね。」
「「「ははっ!!!ありがとうございます!」」」
「Tバック、次、アンタが行きなさいね。」
「ハイ。分かりました。ハイグレッハイグレッ!!」

 ――アンタたちをハイグレ兵に?
 馬鹿なことを言う。
 アンタたちは、決してハイグレにはならないの。
 ハイグレに成れない、その惨めな姿で、働いてもらうの。
 でも、まあ、由真ちゃんが仲間になってくれたらハイグレにしてあげよう

 ああ、楽しいな。
 由真ちゃんが、こうやって遊んでくれて。
 今は別チームだけど、今度は一緒のチームで遊ぼうね。

「ハイグレッハイグレッハイグレッ!!!」
「「「ハイグレッハイグレッハイグレッ!!!」」」
2009年04月04日(土) 14時40分49秒 公開
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■作者からのメッセージ
初SSなので、見苦しい部分しか無いかもしれません。
ご指摘頂ければ、直せるところは直していきたいと思いますので、妄想にお付き合い頂ければ幸いです。