武装錬金 ハイグレ人間の誓い

ホムンクルスとの戦いが終わり、町には平和が訪れていた。錬金戦団は活動規模を縮小し、カズキら戦士は任務から解放されて平穏な日々を送っていた。

とある日曜日。カズキと斗貴子は近くの山にハイキングにやってきた。銀成学園からほど近く、二人っきりでのデートにはもってこいの場所だ。
「待ってくれ、カズキ。少し速すぎるぞ。」
「何言ってるんだよ、ハイキングなのにそんな動きにくい服で来るからじゃないか。」
カズキはこんな日にも制服を着ている斗貴子を笑う。
「わ、私はこっちの方が落ち着くんだ!」
そう文句を言いつつ、頂上までやってくる。
「いい景色だな〜。」
「ああ、本当に。そこのベンチで昼食にしようか?」
二人は近くにある木のベンチに座って弁当を広げる。おにぎり、タコウインナー、卵焼きなど、定番の弁当料理をつまんで昼食をとる。
「この後はどうするんだ、カズキ?このまま帰るか?」
「それじゃ面白くないから、登山道じゃない道を探検しよう。」
「大丈夫か?」
「安心してよ、斗貴子さん。俺は遭難ごっこの達人だ!」
冗談はさておき、二人は登山道から外れた方角へ続くけもの道を歩いていく。斗貴子は一抹の不安を覚えたが、カズキに身を委ねて先へと進んでいった。

「待て、カズキ。」
しばらく進んだところで斗貴子が歩みを止める。その表情は険しく、あたりを警戒しながらうかがっている。
「どうしたんだよ、斗貴子さん?」
「しっ!声を立てるな。近くに誰かがいる。それも複数だ。」
様々な訓練を積んでいた斗貴子には、その気配がただの登山客ではなく、何か怪しげな団体であることがすぐに分かった。
「斗貴子さん・・・あっちから話し声がするよ。」
「何!?よし、近づいてみよう。念のため気付かれないようにな。」
木や草にぶつかって大きな音を立てないようにそろりそろりと近づく。斗貴子はカズキより一足早く目視可能な場所までたどり着いて、目標を覗き込んだ。
「な、何だあれは!?」
「どうしたの?」
後ろにやってきたカズキが入れ替わりに茂みの中からのぞき見る。そこには、パンストをかぶった不気味な一団が数十人いた。
「何だろう、あいつら。蝶野の友達かな?」
「いや、あいつと違って邪悪なオーラを感じる。この感覚はホムンクルスと戦っていた時以来だ。気をつけろ、カズキ。」
「なんか話してるよ、聞いてみよう。」
二人は彼らの会話に耳をそばだてた。

「いいか、お前たち!これより地球ハイグレ化の一環としてこの町を征服するのよ!日没までに作業を完了せよ!」
「イエッサー!!」
「パンスト団全員出動おし!!」
ハラマキを着用した三人の女性の前に傅いていたパンストをかぶった男たちが白いオマルに乗って次々と空へ向かって飛んで行った。編隊を組んで四方向へ向かっていく。

「何だ、奴らは!?空を飛べるのか!?」
斗貴子は思わず大声を出してしまう。
「そこ、誰かいるわね!!出てきなさい!!」
「まずい、見つかった!!」
カズキは斗貴子の手を引いて一目散に逃げる。敵はオマルに乗って追ってきたが、障害物が多い森の中では操縦しづらく、追撃をあきらめた。

「す、すまない、カズキ。私としたことが・・・。」
「はあ、はあ。それよりも、奴ら地球征服の手始めにこの町を襲うって。みんなが危ない!戻ろう、斗貴子さん!」
「しかし、核鉄のない私たちが空を飛ぶ敵と戦えるのか?」
「そんなのやってみなくちゃ分からないさ!俺についてきてくれ、斗貴子さん!」
二人は手を取り合って山を駆け下りていった。



ハラマキレディースの追撃をかわし、カズキと斗貴子は山の入口まで戻ってきた。銀成学園はそこから走って三十分もかからない場所にある。
「カズキ、何か妙な声が聞こえないか?」
「えっ?あ、本当だ。」
町の方から大勢の人間が叫んでいる声が聞こえてくる。
「あ、あれは!」
カズキの指さした先にはオマルに乗った先ほどの兵士が空を飛びまわっている姿があった。右肩にかけている大型の光線銃を次々に発射している。
「くっ、無差別に襲っているのか!そのような虐殺など許さん!」
「待って、斗貴子さん!」
斗貴子はカズキの制止に聞く耳を持たず、全速力で駆けだした。カズキもそれを追いかける。

「何があったんだ、これは?」
山を離れて町中に入り、カズキはその異様な光景に絶句した。斗貴子もただ呆然として同じ光景を眺めている。

「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
老若男女を問わず外に出てハイレグ水着を着てコマネチをしている。
「きゃああ!!誰か助けてー!!」
「あっちから声がする。行ってみよう、斗貴子さん!!」
「ああ。」
声のする方に走ると、行きつけの店・ロッテリやから出てくる女性がいた。
「あの人は店員さん!!」
「助けよう!!」
百メートルほど先にいた彼女に駆け寄ろうとしたが、その前に・・・。
「きゃあああああああああ!!」
パンスト兵がハイグレ銃を浴びせた。彼女は体をのけ反らせてハイグレ姿になった。
「う、嬉しい!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
今まで恐怖で泣き腫らしていた顔が笑顔に変わる。大きくコマネチのポーズを取り、紫色のハイレグ水着に身を包んで胸を揺らしていた。
「あの兵士たちがみんなをこんな姿に変えていたのか。このままじゃ学園が危ない!!」
「ああ、カズキ。急ごう!!」
気を取り直した二人はハイグレ化した人々を尻目に走りだした。

「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
車もバスも止まり、全員がハイグレ姿で狂喜乱舞している。見るに堪えない異常な姿だった。父親はあちこちから毛が出ているのも構わず、母親はその横でブランド物のイヤリングやネックレスをしたままハイレグ姿になり、子どもたちは嫌々ハイグレポーズを取っている家族がいる。別の場所では女子高生たちが数人のグループでハイグレポーズを取っており、大きい胸、小さい胸をさらけ出している。カズキや斗貴子たちがホムンクルスと戦っていた時とは別の意味で残酷な光景だった。
「斗貴子さん、俺たちもあの光線に当たったらあんな姿になるのかな?」
カズキが走りながら横の斗貴子に問いかける。
「ああ、そうだろうな。絶対になりたくは・・・散れ、カズキ!!」
その瞬間、カズキは斗貴子に思いきり突き飛ばされ、彼女とは反対の方向に倒れた。二人がいた場所にハイグレ光線が飛んでくる。二人の頭上にはパンスト兵が二体、新たな獲物を捕らえようと銃を構えた。



飛来したパンスト団員は無言で銃を構える。
「ひっ!!」
二人は足がすくんで動けない。兵士が引き金を引こうとしたその時・・・
「パピ〜〜〜〜〜ヨン!!」
パンスト兵は何者かに蹴られ、一瞬のうちにカズキの視界のはるか後方に飛ばされてしまった。
「蝶野!!」
「久しぶりだな、武藤。」
カズキと斗貴子は立ち上がってパピヨンの下に行く。
「武藤、よく聞け。この町は今危険な状態にある。お前たちも見ただろうが、あのおかしな兵士たちが次々に町の奴らを襲ってハイレグの水着姿に変えている。」
「銀成学園はどうなってる?」
「知らん。だが、遅かれ早かれ襲われるのも時間の問題だろう。」
カズキは唇をかむ。この近くをうようよしているパンスト兵をそのままにしていくべきか倒すべきか、と心の中で葛藤していた。
「ここは俺に任せろ。あの程度の兵士、俺にかかればどうということはない。お前たちは行け!!」
「悪い、頼んだよ、蝶野。」
「ふん、謝るなよ、偽善者。」
パピヨンはそう言って鼻を鳴らし、ジャンプして民家の屋根の上をひらりひらりと舞って行った。

銀成学園に到着。二人はまず校門から校舎をのぞき見た。
「くっ!遅かったか!」
斗貴子ががっくりと膝を落とす。校庭にはハイグレ人間になった部活生たちの姿があった。
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
陸上部、野球部、サッカー部、テニス部の生徒たちが集団でハイグレポーズを取っている。
「斗貴子さん、今日はブラボーたちは?」
「戦士長たちは戦団の会議で不在だ。」
「そっか・・・。でも、寮ならきっと大丈夫さ。剛太と桜花先輩、秋水先輩がいるし、それに岡倉と大浜と六舛が何とかしてくれてるよ。」
「ああ、そうだな。まひろちゃんたちも心配だし・・・。こんな所で落ち込んでいる暇はないな。急ごう、カズキ。」
二人は学生寮に向かって全力疾走する途中、カズキは思った。斗貴子はハイグレ姿になったらどういう反応をするのだろうか?そのイメージが全く湧かなかった。



学生寮に到着した二人。玄関付近にはボコボコに殴られたパンスト団員たちが転がっていた。
「何があったんだ、これは?あちこちに倒れてるぞ!」
「これは・・・何かに殴られたような跡と刺されたような跡だ。」
二人の背後から何者かがいきなり襲いかかってきた。
「おのれっ!まだ残っていたか!覚悟!!」
カズキに向かって木刀が振り下ろされる。カズキは咄嗟に横に避け、相手を見た。
「秋水先輩!!」
カズキたちの先輩で剣術の達人・早坂秋水が木刀を片手に立っていた。
「武藤?すまない、先ほどまでこいつらの相手をしていたものだからつい・・・。」
「秋水君、少し落ち着きなさい。武藤君と津村さんが敵なわけないでしょう?」
「桜花先輩!!」
秋水の後ろから姉の桜花がにこやかに笑ってやってきた。手には弓道で使う穂先のない弓矢を持っている。傍らにはエンゼル御前が控えている。
「よお、カズキン、ツムリン、お前らも無事でよかったな!」
「ああ、御前様も。」
桜花は斗貴子に歩み寄り、手を差し出した。斗貴子は手を貸してくれるものと思って同じく手を差し出したが、桜花はそれとは別のところ、斗貴子の制服をつかんで思いっきり上に引き上げた。
「な、何をする!!」
「うん、ハイレグ水着は着てないわね。」
桜花はにこやかに笑ったまま制服を元の高さに戻した。
「お前、敵なわけないと言って最初にすることがそれか!」
「まあまあ、落ち着いて、斗貴子さん。」
カズキは斗貴子をなだめ、寮内に入った。

「お兄ちゃん!」
「カズキ!」
妹のまひろ、友人の岡倉たちがカズキと斗貴子を出迎えた。
「良かった、みんな無事だったんだな。」
「お兄ちゃんも斗貴子さんも無事で良かった〜。」
話を聞くと、学校が襲われていることに六舛が気づき、岡倉、大浜と一緒にハイグレ化していない生徒たちを学生寮に誘導。その周囲を早坂姉弟と剛太・毒島の錬金戦士たちが守っていた。カズキも事情を話し、お互いの全容を知ることができた。
「お前も働けよ、カズキ。お前らがデートでラブってる間こっちは大変だったんだからな。」
「分かってるよ、岡倉。俺たちも戦うよ!」
「あはは、カズキ君がいれば百人力だね!」
大浜が横で大きく笑った。

いきなり大きな警報音が寮内に鳴り響く。カズキと斗貴子以外の全員の顔が強張る。
「三回目か・・・。」
「そうですね。」
剛太と毒島が立ち上がる。他の面々もそれに続く。
「どうしたんだよ、みんな?」
近くにいる六舛に尋ねる。
「敵襲だ。パンスト兵が近づいてきたら警報音で知らせる仕掛けを俺が作っておいたんだ。」
「お前何者だよ!」
プロ顔負けレベルのレーダーを寮に仕掛け、360度の視界で敵をリサーチすることができるようになっていた。
「数は?」
「飛行しているのが二十体、地上から十体だ。」
「くそっ、さっきの三倍の兵力だ。きついな・・・。」
秋水が唇をかんで悔しがる。飛行艇がこの数だと核鉄を持たない戦士たちにはこの上ない不利であった。
「だとしても、ここで俺たちが戦わなくちゃみんなハイグレ人間にされるんだ!頑張ろう、みんな!」
カズキはいつものように熱血なセリフを吐き、外に出て行った。他の戦士たちも苦笑しつつそれに続く。岡倉やまひろたちはそれを見送った。



「くそっ!なんて数が多いんだ!」
カズキは歯ぎしりした。核鉄のない彼らはただの人間。いくら日頃から鍛えていても、空を飛ぶ敵には苦戦を強いられた。木刀で地上から迫ってくる敵を倒そうにも、飛行艇が邪魔だった。
「はあ、はあ・・・・。」
斗貴子が飛行艇のパンスト兵を一人倒す。桜花の攻撃で落下した敵をしこたま殴って気絶させた。秋水、毒島、剛太も波状攻撃に悩まされつつもなんとか全てを倒し、武装を取り上げた。
「これで全部かな?」
「ええ、恐らくは。戻って休憩しましょう。」
桜花がみんなに撤収を命じる。全員がほっとした表情になり、玄関に向かう。そこへ・・・
「危ない!!」
剛太が斗貴子を突き飛ばす。剛太は身代わりになって飛んできた光線に当たってしまった。
「うわあああああああああああああああ!!」
「剛太!!」
激しい光線に一瞬視界を奪われた斗貴子は、もう一度目が慣れてきて入ってきた光景に驚愕した。剛太が青いハイグレ姿になってコマネチをしていたのだ。
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
剛太はみんなに見られているのをお構いなしにハイグレポーズを続けた。
「そこかっ!!」
秋水は剛太を撃ったパンスト兵を見つけ出し、木刀で突き倒した。

「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
ハイグレ人間になった剛太は斗貴子の声に耳を傾けることはない。無視してポーズを取り続ける。
「剛太・・・私が不注意だったばっかりに・・・・。すまない・・・。」
斗貴子は肩を落としてうなだれる。剛太をハイグレ人間にしてしまった自責の念に駆られている。
「斗貴子さん、落ち込んでちゃダメだ。俺達でパンスト団をやっつけて元に戻してあげるんだ!」
カズキが斗貴子を元気づける。斗貴子もそれに応えて立ち上がる。そこへ・・・・
「きゃああああああああああああっ!!」
「うわああああああああああああっ!!」
学生寮の中から生徒たちの悲鳴と怒号が鳴り響く。学生寮を見上げると、屋根に大きな穴の空いた建物と、その穴から侵入するパンスト兵が。
「くっ!こっちは陽動か!謀られた!」
「悔しがってる暇はないよ、先輩!みんなを助けるんだ!」
カズキは真っ先にパンスト兵のいるであろう最上階へ走って行った。

階段を上がるとそこは地獄絵図だった。逃げ惑う生徒たちを後ろから次々とパンスト兵が狙い撃ちにしている。男子生徒も女子生徒も後ろから次々にハイグレ人間にされていった。
「岡倉!大浜!六舛!」
バカ三人組が逃げてくるのと鉢合わせした。三人ともほうほうの体で逃げてきた。
「まひろたちはどうした?」
「悪い、カズキ。見失っちまった。まだパンスト兵のいる方向の部屋に取り残されているかもしれない。」
「彼女たちのことは私とカズキに任せて、君たちは何とか脱出しろ!」
「任せたぞ、カズキ、斗貴子さん。」
斗貴子に促され、岡倉たちは一階への階段を下りて行った。

「きゃああああああああああっ!!」
寮の一室から悲鳴が上がっている。その部屋の前に数人のパンスト兵が固まっている。部屋の中に向けて間断なく光線銃を放っている。
「うおおおおおおおおおっ!!」
カズキと斗貴子はパンスト兵の懐に飛び込み、拳と蹴りで敵を無力化した。部屋の中を覗いてみると、数人のハイグレ化した女子生徒が恥ずかしげもなくハイグレポーズを繰り返していた。色とりどりのハイグレ水着に着替えている。その奥にはカズキがよく知る三人の生存者が制服姿で震えていた。
「まひろ!!ちーちゃん!!さーちゃん!!」
「お兄・・・ちゃん?」
まひろが怖さに震えて大泣きして目をはらしていて、千里と沙織と三人で寄り添い合っていた。
「も、もう駄目かと思いました・・・。」
「恐かったよお〜〜〜。」
千里と沙織もまひろにつられて泣きだす。
「君たち、泣くのはここを出てからだ。私たちが防いでいる間に逃げるんだ!」
三人はすぐに承諾して部屋を出る。
「カズキ、私たちも行こう。この先にはもう無事な生徒はいないようだ・・・。」
「もっと早く来てればこの子たちもハイグレ人間にならずに済んだはずなのに・・・。」
カズキは周りでハイグレポーズを取っている女子生徒たちをみて悲しくなったが、すぐに気を取り直して部屋を出た。

「皆さん〜!!落ち着いて、押しあわずに階段を下りてください〜!!」
毒島がありったけの声を出して階段を降りる生徒たちを誘導している。恥ずかしがり屋の彼女もこの非常事態には、日頃の性格をとやかく言っていられなかった。しかし、いくら言ってもパニックを起こしている群衆には効果が無い。押し合いへしあいになってなかなかスムーズに行かなかった。
「まずいぞ、カズキ。全員が階段を降りる前にパンスト兵に襲われたら・・・。」
「って、言ってるそばから来たよ!!」
寮の廊下をオマルに乗ったパンスト兵が二列縦隊を組んで飛んでくる。前列のパンスト兵を倒してもすぐに次の列の兵士が代わるやっかいな陣形だった。
「あ、あいつらだ!!」
「ハイレグ姿にされちゃう!!」
逃げている生徒たちが余計にパニック状態になり、最悪なことに将棋倒しの状態になる。二十人近くの男女が絡み合っている状態の所にハイグレ光線が集中する。
「うわあああああああ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
「いやああああ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
次々とハイグレ人間になって立ち上がり、男女が向きあったり同姓同士で並んでハイグレポーズを取りだす。その混乱が下にも波及し、さらにパニックが広がった。まひろたちもそのパニックの中を逃げ惑っているのがカズキたちにも見える。外では早坂姉弟が裏山へ隠れるように誘導しているが、そこまでたどり着くのに難儀している状態だった。
「とにかくパンスト兵を止めないと・・・。カズキ、華花!!バリケードを作るんだ!!」
カズキが階段に一番近い部屋からベッドや机を放り投げ、斗貴子と毒島がそれを盾にしてハイグレ光線を遮断する。
「よし、これで一安心だな。」
三人はそのバリケードを死守し、全員が階段を降りて玄関に向かったのを確認して自分たちも逃げた。



外に出てもパンスト団の執拗な攻撃は続く。次々とクラスメイト達がハイグレ人間にされていく。一番手頃な隠れ家である裏山に逃げ込んだ時は、カズキの顔見知りのメンバーだけになっていた。
「随分少なくなっちゃったね、斗貴子さん。」
「ああ。他にも散り散りになった生徒たちも無事でいてくれるといいんだが・・・。」
バカ三人組も妹たちも疲労の色を隠せない。全員が意気消沈していた。
「なんだ、お前たち。死んだわけじゃないんだ。もっと前向きに・・・。」
そうみんなを励まそうとした秋水も、ため息をついて座りこんだ。輪を囲んでいる彼らの後ろに、周辺の巡回を終えた桜花が戻ってきた。
「桜花先輩、ハイグレ人間たちは?」
「いいえ、いなかったわ。ハイグレ人間もパンスト団もこの近くには攻めてきていないようね。時間の問題だろうけど。」
「・・・・・・・・・。誰だ、お前は?」
秋水が鋭い視線で姉を睨む。立ち上がって木刀を桜花の顔先に向け、殺気を放つ。
「あらあら、秋水君。姉さんに決まってるでしょ?」
「違う。お前は俺の姉さんじゃない!!ハイグレ人間だ!!」
秋水が突きを繰り出す。桜花はそれをひらりとかわす。
「カズキーン!!ツムリーン!!」
エンゼル御前が傷ついた体でふらふらしながら飛んでくる。
「ご主人さまが!!ご主人さまが!!」
御前が泣きながら訴える。目の前に本人がいるのも分からないくらい気が動転していた。
「うふふふ、私の正体、見せてあげるわ!!」
桜花は制服を脱ぎすてた。その下にはハイレグ水着を着ていなかった。

「そ、その格好は!?」
全員が驚きの声を上げる。桜花はハイグレ人間ではなく、黒のビキニを着ていた。
「私はビキニ星人。ビキニ共和国のビキニ大統領に忠誠をつくすスパイよ。」
「ビキニ星人?なんの冗談だ!!」
「冗談ではないわ、津村さん。これは厳然たる事実よ。」
桜花が説明する。ハイグレ王国は北の宇宙で生まれ、平行世界への移動能力を生かして勢力を拡大した。対してビキニ共和国は南の宇宙で生まれ、若い女性に絞って洗脳し、若い戦力で戦うことで成長した。そして、ありとあらゆる星で人間の取り合いとなっている。
「この地球にハラマキレディースが潜入したという情報を得たビキニ共和国はすぐに工作員を派遣し、そして、私はその下についたってわけ。」
「くっ・・・・早坂桜花・・・・また裏切るのか!!」
「そんなにカッカしている暇は無いわ。ここは完全に包囲されているわよ?」
気が付くと周りにビキニ姿の女性たちが輪を縮めて包囲陣形を敷いていた。
「おしゃべりに夢中になりすぎたようね?うふふふ、じゃ、まずはあなたからね、津村さん。」
桜花は斗貴子に抱きついて押し倒す。
「何をする気だ!!」
「ビキニ星人化の神聖なる儀式。」
そう笑って言い、口付けをした。
「っ!!!!!」
暴れる斗貴子に熱い接吻をする。
「斗貴子さん!!」
カズキが飛びかかろうとするが、桜花に弾き飛ばされる。そして、十秒後に斗貴子を解き放つ。
「き、きさま・・・なにをっ・・・・あ、ああ・・・・・・・・・・・・。」
斗貴子は胸を押さえ、苦しみだす。それもつかの間、彼女の体が青く光る。
「うわあああああああああああああああああああっ!!」
斗貴子にまとわりつく光が収まると、青のビキニ姿になっていた。
「くっ!!私が・・・・・・・・・・そんなっ!!」
斗貴子はビキニ姿で立ちあがり、足を内またにして前かがみの態勢になって両腕を大きく広げた。
「すまない、カズキ・・・・・・・・・・。ビッ、キッ、ニッ!!」
斗貴子は平泳ぎの時のように大きく広げた腕をまた下で勢いよくクロスさせ、そのまま外側へ45度伸ばし、また最初のモーションに戻り、同じポーズを繰り返した。



「斗貴子さん!!そ、そんな!!」
ビキニ姿になった斗貴子はビキニポーズを取り続ける手を止め、カズキを睨みつける。
「私の名を気安く呼ぶな、カズキ。ビキニ星に男は必要ない。お前との仲もこれまでだ。」
斗貴子は今までに見せたことのない嫌悪の表情でカズキを拒絶する。
「斗貴子さん、何を言ってっ・・・!!」
近づこうとするカズキの肩を六舛がつかんで止める。首を横に振り、もうダメだとジェスチャーで伝える。
「あなたもよ、秋水君。悪いけど、姉弟の縁を切らせてもらうわ。」
「姉さん!!」

「さて、次は君たちの番だ。」
ビキニ星人・斗貴子はまひろに近づく。まひろは覚えた表情で後ずさる。桜花は毒島を、沙織と千里もそれぞれ敵のビキニ星スパイたちによって拘束される。
「い、いや、来ないで・・・。」
顔を近づけてくる斗貴子から逃れようと抵抗するまひろ。しかし、それをお構いなしに口付けをする。
「い、いやああああああああああっ!!」
まひろの体が青く変色する。そして・・・・
「ビッ!!キッ!!ニッ!!ビッ!!キッ!!ニッ!!」
まひろはピンクのビキニ姿でポーズを取りだした。千里は白、沙織は黄、華花は赤のビキニ姿で同じポーズをとる。

邪魔をしようとした男五人は全員ボコボコニされて身動きが取れなかった。カズキは自分の無力さを痛感する。
「核鉄があれば・・・・。」
しかし、それは儚い希望であった。
「それでは皆さん、ハイグレ化したこの町をビキニ化するために、力を!!」
「オーーーッ!!」
ビキニ姿の女性たちはカズキらを放置して町へ向かって行った。

「くっ・・・・・・・・・ハイグレ人間ってだけで訳が分からなかったのに、今度はビキニ星人か・・・・。」
大浜が痣になった足をさすりながら言う。
「でも、ハイレグにビキニ・・・・。なんて夢のような・・・・グハッ!?」
横から秋水に傷をつつかれて岡倉は大人しくなった。
「どうする、カズキ?斗貴子氏たちを追うのか?」
六舛がカズキに意見を求める。カズキは決然として立ちあがる。
「もちろんだ!!斗貴子さんや皆があんなことを言うはずがない!!みんな操られてるんだ!!俺達で助けよう!!」
五人は一致団結する。そして、山を全速力で駆け下った。

町はパンスト団に襲われているだけの時よりもカオスになっていた。若い女性は次々とビキニ姿にされ、ハイグレ人間たちと衝突していた。家族連れ、カップルが相対し、一種の戦争状態になっていた。
「なんでこんな事に!!みんな、喧嘩はやめるんだ!!」
カズキが叫ぶ。しかし、そんな言葉に耳を貸すものは一人もいない。
「ビキニ星人がやってきた事で状況がかなり複雑になってしまったな。これだったらまだ俺達全員がハイグレ人間の方がいい。」
「どういう意味だ、六舛?」
「少なくともハイグレ人間なら男女で争うことはない。だが、ビキニ星人は男女でいがみ合っている。二者択一ならどっちを選ぶ?」
話を静観していた秋水が木刀を構える。その先には・・・
「ブラボー!!」
よれよれになって歩いてくるキャンプテン・ブラボーがいた。近づくと、カズキに寄りかかるようにして倒れる。
「戦士・カズキ・・・・・・・・。無事だったか・・・・・。」
「どうしたんだよ、ブラボー!!あんたがこんなにやられるなんて・・・・。」
ブラボーは体にいくつもの傷を負っていた。核鉄は凍結されているので、攻撃を防げなかったのだろう。
「ハイグレ人間とか言う奴らが本部に攻めてきた・・・・・。それを追い払った直後に、戦士・斗貴子たちが攻めてきた。戦士・千歳をビキニ星人とやらに洗脳して・・・そして、仲間を・・・・。」
「斗貴子さんたちが!?」
「大戦士長も火渡もみんなやられた・・・・。情けないが、自分が逃げてくるで精一杯だった・・・。頼む・・・・。あいつらは核鉄を狙っている。今は本部の地下に厳重に保管されているが、ビキニ星人たちの手に渡ったらまずい・・・。核鉄を取り戻し、そして、ビキニ星人とハイグレ人間を倒して、くれ・・・・。」
息も絶え絶えに一気にしゃべるブラボー。そして、そのまま気を失った。



錬金戦団の本部にやってきた五人。
「よし、入ろう!」
「待て、カズキ。誰かいるみたいだぞ?」
岡倉に止められる。本部の前には三人の女性がいた。
「やっぱり来たね、お兄ちゃんたち。ここは通さないよ。ビキニ星人の未来のために!」
まひろ、沙織、千里のビキニ星人化した三人が前を塞ぐ。
「戦わなきゃいけないのか・・・。妹を倒すなんて気が引けるな・・・。」
「倒す?何言ってるの?たかが人間が崇高なビキニ星人に勝てると思ってるの?」
まひろがせせら笑う。と同時に、三人が動いた!
「ぐはっ!?」
カズキの鳩尾にボディーブローが決まる。カズキはそのまま十メートル以上反動で吹き飛ばされた。
「カズキ!!」
「人の心配をしてる暇はありませんよ!」
千里がトルネードキックを大浜と六桝に見舞う。
「こっちからもいくよ!」
沙織が手刀を一閃。岡倉と秋水を地面に叩き付けた。
「ばっ、馬鹿な!?動きが読めない!!」
秋水が苦しみにもだえながら驚愕する。まったくの別人のような動き。これこそビキニ星人化の恐ろしさ、と悟った。三人は全く動けない五人をそのままにし、戦団の中へと入っていった。

「くそ・・・・。このままじゃビキニ星人に勝てない・・・・。でも、行かなきゃ・・・・。」
カズキは痛む体で這いつくばって前に進もうとする。そこへ・・・・
「パンスト団!!」
倒れている五人の側にパンスト兵が二体やってくる。動けない彼らに照準を合わせる。
「だ、だめだ、逃げられない・・・・・・・・・ぐわあああああああああああっ!!」
次々にハイグレ光線の餌食にされる。
「なんだろう、これ!?痛みも苦しみも全部包み込んでくれるこの感覚は・・・・・。気持ちいい・・・・。」
カズキにまとわりついていた光が収まると、黒のハイレグ水着姿になっていた。他の四人も同様にハイグレ姿になっている。
「くっ・・・・・・・。そ、そうだ、何をしていたんだ、俺達は!!俺達はハイグレ人間だったんじゃないか!!」
カズキは今までの事が全て幻であり、自分達はハイグレ人間になるべく生まれてきたように思えてきた。
「そうだ、みんな!!ハイグレ魔王様に忠誠の誓いを!!」
「「「「おお!!」」」」
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
五人はハイグレポーズを取り、魔王への忠誠を確認する。
「よし、斗貴子さんを追おう!!ハイグレ人間の力なら皆を元に戻せる!!ビキニ星人の洗脳から解放してハイグレ人間にしてあげるんだ!!」
五人は一致団結し、本部の地下へと降りていった。



階段を慎重に下りていく。至る所にビキニ星人たちによって打ちのめされた戦士たちが倒れていた。苦しむ彼らをハイグレ人間にすることで開放していく。
「あの扉は!?」
目の前に3m以上ある大きな扉があった。重量感ある鉄の扉だ。
「この先に核鉄があるみたいだ。入ろう。」
全体重をかけて扉を開く。中に入ると敵の影を確認することができた。毒島華花と早坂桜花だった。
「侵入者・・・。ここで排除させてもらいます。」
「秋水君・・・・。ハイグレ人間にまで堕落するとは・・・。姉さんが殺してあげるわ!!」
二人は核鉄をかかげる。
「「武装錬金!!」」

「武藤、お前たちは先に行け。ここは俺が引き受ける。」
「で、でも先輩!?」
「お前たちの目的はあくまでハイグレ魔王様のためにビキニ星人の野望を打ち砕くこと。姉さんたちをハイグレ化したら俺も後を追う。」
「分かった、任せたよ、先輩!!」
カズキたちは秋水を残し下へ向かった。
「ふふふふ、私たちに勝つつもりなのかしら、秋水君?」
「ああ、そのつもりさ。ハイグレ人間になった俺に今までのような死角はない。始めようか。」
秋水とビキニ星人二人が得物を構えた。

カズキたち四人は一番下の階にたどり着いた。核鉄を保管するために厳重すぎる警備をしていた本部はかなり広大な領域を持っており、かなりの時間を要した。
「ここから先は通さないわよ!!」
まひろ、千里、沙織が立ちはだかる。
「カズキ、お前は斗貴子さんを追え。ここは俺たちだけで十分だ。」
「岡倉!!それに、大浜と六舛も!?」
「俺達で道を開く。斗貴子氏は手ごわい。頼むぞ、カズキ。」
「悪い、気を付けてくれよ、三人とも!!」
カズキはダッシュして先に進む。
「待ちなさい!!ハイグレ人間がこの先に進むことは許されないわ!!」
追おうとする三人の前に大浜が立ちはだかる。
「カズキ君を追うのは僕たちを倒してからだよ。その前に・・・君たちをハイグレ人間化してあげるからね。」
「望むところ!!」
バカ三人組はハイグレ銃を、妹たち三人は奪った核鉄をそれぞれ構えた。

「はあ、はあ・・・・。」
カズキはただ一人核鉄を保管している部屋に入った。すでにいくつもの核鉄の保管施設が破壊され、中身が空になっている。
「早く斗貴子さんを見つけないと。ぐはっ!?」
気が付くと後ろにはビキニ星人・千歳が立っていた。右手に持ったナイフがカズキに深々と刺さっている。カズキのハイグレ水着を真っ赤に染める。千歳がナイフを抜くと血がとめどなく流れ落ちた。



カズキは体に熱いものを感じ、自分が刺されたことを知った。鮮血が流れ落ち、体に激痛が走った。ハイグレ水着を真っ赤に染め、そして崩れ落ちた。
「悪いわね、武藤君。あなたがハイグレ人間になってしまった以上、死んでもらうしかないの。」
「ぐっ・・・・・・。がはっ・・・・・・!!」
幾多の修羅場を潜り抜けてきたカズキもその激痛に身をよじって暴れる。しかし、流血によって体温が急激に下がり、その元気もなくなってくる。
「そのまま五分もすればあなたは痛みも薄れて死ぬわ。ご冥福をお祈りしておくわね、武藤君。」
千歳は薄ら笑いを浮かべ、その場を去っていった。

「駄目だ・・・・。体に力が入らない・・・。このまま死ぬのか・・・。」
カズキは体からとめどなく流れる血を止めることもできず、ただ呆然とする。カズキの脳裏に家族や友人の顔が次々と浮かんでは消えていく。
「斗貴子さんにもう一度会いたかった・・・・。斗貴子をハイグレ化して・・・・・また・・・・一緒に・・・・。」
ビキニ星人になって変わってしまった彼女とまた学生生活を送れるかもしれない。そんな期待が段々薄れていく。
「いや・・・・・・・。まだだ・・・・・・・。まだ俺は諦めたりはしない!!」
カズキはまだ諦めなかった。それに呼応するように、体が青白く光る。
「な、なんだ、これは!?」
不思議な光がカズキの体を覆う。体の痛みが消え、床に広がっていた血がカズキの体の中に戻って傷口を塞いだ。
「くっ!!なんだ、これは!?」
カズキは近くの透明な壁に映し出された自分の姿に驚く。皮膚が青白くなり、頬には星のマークが刻まれている。
「これは・・・・・・・!?いや、今はそんなことはどうでもいい。先に進もう!!」
完全に動くようになった体をほぐし、カズキは立ち上がった。

走るとすぐに千歳に追いついた。彼女は手当たり次第に核鉄の保管施設を破壊していた。
「武藤君!?あなたは確実に殺したはず!!どうしてここに!?その格好は!?」
「俺にも分からないんだ。ただ、これだけは確実に言えるよ。あんたはハイグレ人間になる!!」
カズキは持っているハイグレ銃を放つ。避けることができず、千歳に命中する。
「きゃあああああああああっ!!」
千歳の体が赤く光り、そして千歳のビキニを赤のハイレグに変えた。
「なっ!?ビキニ星人になった私がこんな屈辱的な・・・・!!」
「もう千歳さんも立派なハイグレ人間だよ。さあ、一緒にハイグレ魔王様に忠誠の誓いを立てるんだ!!」
「い、嫌よ・・・。ビキニ大統領閣下に忠誠を誓った私が・・・・・!!」
頭を抱えて何とか洗脳に対抗しようとする千歳。しかし・・・・・・・・。
「もう・・・・・・・・駄目・・・・・・・・・・・!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
千歳はビキニ星人からハイグレ人間への転向を果たした初めての地球人になった。ハイグレ人間・千歳から斗貴子がこの先の最深部にいることを教えられ、カズキは最終決戦へと向かった。



「・・・・・・・来たか、カズキ。」
最深部に斗貴子はいた。青のビキニ姿で足にはヴァルキリースカートを装備している。
「間近で見るとやはり違うな。君はハイグレ人間ですらなくなっている。」
斗貴子は一瞥してため息をつく。そして、戦闘態勢に入る。
「君を殺す。今度は復活などできないくらいに切り刻む。」
「斗貴子さん、何でそんなに性格がゆがんじゃったんだよ?俺は・・・すごく悲しいよ。」
「うるさい・・・・ビキニ星人になった私に人間だった時の記憶など邪魔なだけだ。ビキニ星人に男などいらない。死ねッ、カズキ!!」
ヴァルキリースカートの刃を全開にする。
「腸をぶちまけろ!!」
全ての攻撃がカズキに向かう。肉が千切れる音と共にカズキの体をズタズタに引き裂いた。刃をスカートに収めると傷口から血が吹いた。
「核鉄を持たない君が私に刃向かったのが悪い。さようならだ、カズキ。」
斗貴子は倒れているカズキに背を向けて歩き出す。その歩き出す足を誰かが掴んだ。
「・・・・・っ!?カズキ!?」
斗貴子が驚いて振り向くと貫いたはずの体に傷口が全くない。全て回復しているらしかった。
「斗貴子さん・・・・俺はこのままやられるわけにはいかないんだよ。」
「くっ・・・・・・。ならば、今度はもっと・・・・。」
「おっと、させないよ!!」
カズキは後ろから斗貴子に抱きついて羽交い絞めにする。いくら斗貴子といえどもこの密着した状態で攻撃をすれば自分も傷を負うため、うかつに攻撃できなかった。
「や、やめろっ!!男が私に抱きつくなッ!!汚らわしい!!」
「斗貴子さんがそんなこと言うはずがない!!」
「これは私の意志だ!!」
「斗貴子さんがそんなことを言うのはビキニ星人なんかに操られているからだ!!」
「なっ、離れろ!!くっ、フッ、フックが!!」
ビキニのブラのフックが外れ、斗貴子は剥がれ落ちるブラを押さえるために手で押さえる。その隙をカズキは見逃さなかった。
「今だっ!!」
カズキは素早くハイグレ銃を引き抜き、斗貴子の頭に押し当てる。
「なっ!?」
「さあ、ハイグレ人間になるんだ、斗貴子さん!!」
「うわあああああああああああああああああっ!!や、やめろおおおおおおおおおおおおおっ!!」
斗貴子はハイグレ光線の力の前にもだえ苦しむ。青のビキニ姿が青のハイグレ姿に変換しなおされるのに時間はかからなかった。
「い、嫌だ、こんな格好は!!死んだほうがマシだ!!」
斗貴子は自分のハイグレ姿に絶望してうつ伏せになって泣く。
「受け入れるんだ、斗貴子さん。新しいハイグレ人間の人生を!!」
「や、やめろっ、それ以上私の中に入ってくるな!!」
斗貴子は頭を抱えて抵抗する。しかし、洗脳に対抗する手段は存在しない。しばらくして・・・・
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!私は今まで間違っていた!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
斗貴子はハイグレポーズを繰り返し、今までの罪を懺悔した。



「おお〜い、カズキ〜。」
友人三人組と後ろから秋水がやってくる。
「カズキ!!俺達も加勢に来たぞ!!」
「岡倉、六桝、大浜!!無事だったのか!!」
「ああ、もちろんさ。ほら、まひろちゃんたちも人間の心を取り戻したんだ。」
後ろにハイグレ人間になったまひろ、沙織、千里、それに桜花と華花もいた。
「斗貴子氏もハイグレ人間にできたようだな、カズキ。」
「ああ、勿論さ!!これでみんな同じハイグレ人間さ!!」
「同じ・・・?武藤、お前は俺達と違うように見えるが。」
秋水がカズキの青白い体と大きな頬の星のマークについて指摘する。カズキ自身もこの状態については全く知らない。

外に出るとパンスト団とビキニ星人の戦いはパンスト団に軍配が上がっていた。パンスト団はハラマキレディーの精鋭部隊、逆にビキニ星人側は斗貴子たち以外全てが捕縛され、そしてハイグレ化されていた。
「ハ、ハイグレ魔王様!?いつこちらに!?」
ハラマキレディーの一人がカズキを見て驚いてやってくる。他の二人も急いでやってきてカズキの前に傅く。
「えっ!ハイグレ魔王様?俺が?」
カズキは自分は武藤カズキであると名乗る。
「ハイグレ魔王様じゃ・・・ない?ほ、本当だ!!」
カズキの顔を良く見てレディースは驚く。
「リーダー、これはどういうことなんですか?」
「あたしも魔王様に詳しく聞いたわけではないが・・・。瀕死に至ったハイグレ人間がまれに魔王様と同等の力を手に入れるできるそうだよ。つまり、この少年はその稀有な例って事だね。」
ハイグレ人間は瀕死になった状態で、死を乗り越える事で新たな段階に至ることができる。それは卓越した身体能力、精神力、そしてハイグレ魔王への忠誠心が備わっていなければならない。
「カズキを元に戻す方法は無いのか?このままでは普段の生活に支障が出ると思うんだが。」
斗貴子がレディースに尋ねる。
「覚醒状態は三日程度で収まる。後は自分の意思でその力を出し入れすることができるはずよ。」
レディースは地球侵略のため、カズキの力を使う任務が下るであろう旨を伝えて立ち去る。

「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
女性陣は新しくハイグレ人間になった感触を確かめるためハイグレポーズを取り合う。
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」
男性陣も右に習えでハイグレポーズ。

「カズキ・・・私はビキニ星人に惑わされて君を裏切った。それでも許してくれるか?」
「何度も言ってるじゃないか。俺達は一心同体。いつまでもハイグレ人間でいればもう何にも惑わされたりしないさ。」
これからもハイグレ人間の世界のために頑張っていこう。二人はそう誓い合った。

MKD
2009年09月11日(金) 17時07分05秒 公開
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■作者からのメッセージ
武装錬金のハイグレ小説完結です。ビキニ星人との戦いはまた別の場所で起こるかも。というフラグを立ててみます。
これで十九作目。長中短編とよくこれだけ書けましたね。自分でも驚きです。