クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王 〜魔王の逆襲・しんのすけの死闘・完結版 〜 |
ハイグレ魔王との戦いが終わり、元いた地球に帰ってきて数か月。野原家はどたばたしたり事件に巻き込まれたりしつつ、楽しい日常生活を送っていた。そんなとある日曜日、野原家に突然の来客がやってきた。みさえがドアを開けるとそこにいたのは、郷剛太郎と桜ミミ子だった。 「おおっ!!アクション仮面!!」 「やあ、しんのすけ君。元気だったかい?いい子にしてたかな?」 茶の間に通された二人は野原家の歓待を受ける。ただ遊びに来たわけではない事は分かっていたので、さっそく用件を聞く。 「実は・・・別次元にある地球がピンチなの。またハイグレ魔王に襲われているのよ。」 「ハイグレ魔王はしんのすけが倒したはずだろ?何でこんな短い間に戻って来るんだ?」 「ハイグレ魔王は私たちより数段上の科学技術を持っているわ。私たちが数か月過ごしている間に、ハイグレ魔王は数百年分の働きをして勢力を蓄えていたの。」 「どういうこと?浦島太郎みたいなものなの?」 みさえがチンプンカンプンになって聞き返す。 「ええ、そう理解してもらって間違いではないわ。とにかく、ハイグレ魔王がさらに勢力を拡大してこの前とは別の地球を襲っているの。それと実は、ハイグレ魔王の罠でアクションストーンが奪われてしまったの。幸いその地球にはリリ子と北春日部博士がいるから、あなたたちに協力してもらってアクションストーンを取り戻してハイグレ魔王を倒したいのよ。」 「おいおい、だったらアクション仮面を次元なんとか装置に乗せて運べばいいじゃないか。」 剛太郎が首を横に振ってそれは無理だと言う。 「私がアクションストーン以外の方法で次元を移動するには莫大なエネルギーを必要とする。これはアクション星の他のヒーローたちも同じだ。残念ながら一般人しか次元移動装置に乗せて運べない。だから、あなた方の協力を是非ともお願いしたい。」 しんのすけが立ち上がって宣言する。 「オラ、アクション仮面をお助けするぞ!!」 「まったく、この子は言い出したら聞かないでしょうね。」 「ああ、息子が正義のために戦うってのに親が逃げるわけにはいかないな〜。」 「お〜。」 みさえ、ひろし、ひまわりもしんのすけの意見に同調する。アクション仮面を助けるために出発することになった。 海辺にあるアクションハウス。NO.99のカードを持ち、次元移動装置に乗り込む一家四人。 「頼んだぞ、しんのすけ君。地球・・・いや、宇宙の平和は君の手にかかっているんだ。」 「任せて、アクション仮面!!向こうで一緒に戦うぞ!!」 「気を付けて、しんのすけ君。リリ子の話だとハイグレ魔王は前よりもずっと強力よ。きっと罠があるに違いないわ。」 乗り物のゲートを閉めて発進。亜高速飛行に入り、向こうの世界の野原一家と入れ替わり、しんのすけたちはハイグレ魔王の待つ地球へと向かって行った。 しんのすけ達は次元移動装置の中で起きた。以前来た時と同じく気を失っていたのだ。 「ここは・・・ハイグレ魔王の世界?」 「ああ、おそらくな。おい、しんのすけ、ひまわり、行くぞ!」 四人は外に出る。そこには桜ミミ子の双子の妹、桜リリ子が立っていた。 「待っていたわ。時間が惜しいの。すぐに出発しましょう。」 リリ子の勧めに従い、ひろしの運転で海岸を離れる。 リリ子がかいつまんで状況を説明する。三日前にやってきたハイグレ魔王がパンスト団を使って瞬く間に東京を制圧しつつあり、埼玉、千葉、神奈川にも侵攻を開始している。例によって警察や自衛隊では歯が立たず、首都機能は壊滅状態に陥っていた。 「幼稚園のみんなは?」 「春日部市にはまだ敵の手はのびてきていないわ。でも、ハイグレ魔王はしんのすけ君を探すためにスパイを放っていると思うわ。」 「ひとまず家に戻りましょう。ひまわりのミルクとかおむつの替えとか心配だし。」 野原家へと車の進路を向ける。特に渋滞もなく自宅に到着した。 「よし・・・これで一週間は持つわ。」 「ったく、何で先に持っていかなかったんだよ。」 「だって、こっちの世界はあたしたちの世界じゃないから、こっちの物を使ったほうがお金かからないじゃない?」 「・・・・妖怪ケチケチおばば。」 しんのすけはげんこつを見舞われた。 「だ〜れが妖怪ケチケチおばばだ!」 「オウオウオウ!!」 必要な荷物を抱えて玄関から外に出ようとすると、チャイムを鳴らす音が。開けるとよしなが先生が立っていた。 「しんのすけ君、無事だったのね?」 「よしなが先生、今日は幼稚園お休みのはずですけど?」 みさえが今日は土曜日であることを指摘する。 「何を言ってるんですか!この町にハイグレ魔王が攻めてきてるんですよ!早く避難しないと!」 リリ子が悔しそうな顔をする。 「既にこの町に攻めてきたのね。今回のハイグレ魔王は手ごわいわね。」 四人とミミ子がバスに乗り込む。中にはお馴染みのカスカベ防衛隊のメンバー、風間君、まさお君、ボーちゃん、ねねちゃんが乗っていた。 「オッス、組長。今日も相変わらず顔が恐いですな。」 「僕は組長じゃなくて園長。それと顔が恐いのは生まれつきだから仕方がないんです。あの、しんのすけ君、どこに行くんですか?」 「シロも連れてくるのー!!」 前回と同じく、しんのすけはシロを連れに犬小屋に走った。 「出発おしんこー!!」 「それを言うなら出発進行、でしょ?」 シロを乗せ、バスは出発した。 「さて、一度幼稚園に戻ります。まつざか先生と上尾先生が幼稚園の近くにいる子供たちを集めてそろそろ待機しているはずです。」 幼稚園バスは一路ふたば幼稚園に向かった。 幼稚園に到着する。そこには大勢の子どもたちが待っているはずだった。しかし・・・ 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 園児たちが皆ハイグレ姿でハイグレポーズを繰り返している。 「こ、これは一体!?」 「園長先生、ここに安全な園児はいないようです。これから言う場所なら安全なので、そこに向かってください。」 バスを走らせてしばらく行くと、路上に倒れいている女性がいた。急ブレーキをかけて止まる。 「ななこお姉さん!!」 路上で私服姿のななこが倒れていた。気を失っている。 「しんのすけ、そこをどけ。とにかくななこちゃんをバスの中に・・・。」 「おーい、そこのバス、待って〜!」 ななこを後部座席に寝かせ、バスを発進させようとすると聞き覚えのある声がした。バックミラーに映っていたのは・・・ 「おお、まつざか先生、上尾先生、あいちゃん!!」 しんのすけが駆け寄ろうとするのをミミ子が止める。 「うかつに近づいちゃ駄目よ。まつざか先生は前にスパイだったのよ?」 「ほうほう〜。」 よしなが先生に出迎えられた三人の前にしんのすけが行き、まつざか先生が着ているTシャツをバッと上にまくった。 「まつざか先生、スパイじゃないぞ。」 「ちょっと、しんのすけ君!?」 「このおバカ!!何やってるの!!」 みさえがしんのすけを慌てて引き離す。 「すみません、すみません。ウチの息子がご迷惑を・・・・。」 まつざか先生たちは、幼稚園を襲ったパンスト団から園児を必死で逃がそうとしたが時既に遅く、あいだけを抱えて何とか逃げて来たのだった。 「しん様、あいは嬉しいです。こうしてしん様に助けていただけるなんて夢のようです。」 「あれ、黒磯さんは?」 「あの男は・・・既にハイグレ人間になってしまいましたわ。」 園長先生がパンパンと手を叩く。 「さて、出発しましょう。早くしないとまた悪い奴らに捕まってしまうでしょうから。」 「うふふ、逃がしませんよ!!」 幼稚園バスの前に乗り物が降下してくる。そこには女性が一人乗っていた。 「くっ、まずいわ!あの女は諜報部隊長、レイン。ハラマキレディースを押しのけて一番の腹心になった才女よ!」 「野原しんのすけ君を頂きに来ました。出でよ、ハイグレ親衛隊!!」 レインが叫ぶと、どこからどもなくハイレグの水着姿の剣士たちが現れる。 「桂ヒナギク、ここに。」 「川添珠姫、ここに。」 「川澄舞、ここに。」 「この程度の人数ならあなたたちだけで十分でしょう。後は頼みましたよ。」 レインはそう告げて去って行った。 「おお、きれいなお姉さん!!」 しんのすけとひろしが美剣士三人に反応する。 「あ、あんたたちねぇ・・・・。」 緊張感の無い二人に呆れるみさえ。 「園長先生、バスの中に入られたらおしまいです!すぐに発進してください!」 「分かりました!」 園長はアクセルを踏み込み、急発進。三人を尻目に爆走する。 「よし、うまく撒けたみたいだね。」 風間君が後ろの窓を見て安堵の表情を浮かべる。 「まだ、安心するのは早い。」 ボーちゃんが一言。その瞬間、バスの天井から刀の切っ先が生えてきた。 「うわ〜ん、恐いよ〜。」 「うるさい、おにぎり!!」 泣きだすまさお君をねねちゃんが殴る。その間に天井に刀で丸い穴が開けられ、親衛隊がバスの中に侵入してくる。 「あなたが野原しんのすけ君ね?ここでハイグレ人間になってもらうわよ!」 ヒナギクは持っている刀に力を込めると、刀身がハイグレ光線と同じ色になった。他の二人もそれに続く。 「全員正義のためにハイグレ姿になっていただきます。」 「はちみつくまさん。」 「覚悟っ!!」 しんのすけに大振りに打ちこむヒナギク。しんのすけはそれを子供にあるまじきスピードで避ける。 「くっ、ちょろちょろと!逃がさないわよ!」 「たっ!」 しんのすけは天井に空いた穴につかまり、バスの上に上る。 「逃がさないわよ!」 ヒナギクはその後を追って上に行く。 「さあ、ここならもう逃げ場はないわよ!」 「ねえねえ、お姉さん。」 「何?」 「そんな所に立ってると落ちちゃうぞ?」 ヒナギクは自分の足元を見る。バスのへりに立っていた。 「ひっ!高いところ!きゃあっ!」 足がすくんだヒナギクは下に落ちる。受け身を態勢を取ったので命に別条はなかった。 「くっ!無念!」 「私の突きが避けられている・・・!」 川添珠姫は自分の自慢の突きが当たらないことに驚いていた。避けているのはまさお君で、あいちゃんを守るナイトの役割を果たしているつもりだった。 「あいちゃん・・・君には指一本触れさせないよ。」 「黙れこのおにぎり!!」 怒ったねねちゃんがまさおを珠姫に向けて投げる。 「ひいいっ!!」 「・・・・・っ!!」 弾き飛ばされた珠姫は刀を落としてしまう。 「ふっふっふっ!このねねの怒りの一撃、受けてみなさい!」 うさぎを片手に持ち、そのコンビネーションの元に攻撃する。 「これまで・・・。撤退します。」 珠姫は横の窓を開けて飛び降りた。 舞の攻撃はボーちゃんの鼻水によって全く致命傷を与えることが出来ない。 「えいっ!」 ボーちゃんが鼻水を伸ばして舞の剣を絡めとる。 「風間君!」 「うんっ!任せて!」 ボーちゃんは刀を風間君に渡し、それを道路に投げ捨てる。 「私の刀が・・・!」 「もう、お姉さんに勝ち目はない。逃げた方が得。」 前の方に座っていた大人たちがやってくる。 「よく覚えていて・・・貴方達は私たちハイグレ人間の手のひらの上で踊っているだけ・・・。」 舞はそれだけ言うとひらりと身をかわし、バスの外へ脱出した。 「私たちが手のひらの上で踊っているだけ・・・どういう意味かしら、よしなが先生?」 まつざか先生が最後に舞が言い残したセリフを考える。 「さあ・・・・。」 「と、とにかく、安全な所までみんなで逃げましょう!」 上尾先生がそれを言って締めくくった。 「う・・・うん・・・・。」 今まで気を失っていたななこお姉さんが目を覚ます。 「ななこお姉さん!大丈夫?怪我はない?」 「しんちゃん・・・・。そっか、私、助かったんだ・・・。っ!!」 起き上がろうとしたななこは苦痛で顔をゆがめる。 「駄目よ、ななこちゃん。無理をしないで寝てたほうがいいわ。」 「すみません・・・。」 ななこお姉さんは起き上るのをやめて再び横になった。 春日部市から遠く離れた山奥。道なき道に入り、ひたすら進む。 「リリ子ちゃん、前とは随分違う場所にあるみたいじゃないか?」 ひろしは以前の基地と比べて手の込んだ場所にあるのを不思議に思った。 「ええ。本当はとても不便なんだけど、悪の組織から身を隠すためには仕方がないの。ハイグレ魔王はアクションストーンの生産拠点を狙っているから、特に、ね。」 「ヒーローもいろいろと大変なのね。」 「う〜。」 ひまわりもミルクを飲みながらそれに同意する。 狭い道を抜けるとそこには一軒の山小屋があった。山小屋の横の駐車スペースにバスを止める。 「みんな、こっちに来て。」 リリ子は山小屋を無視し、近くの崖に向かう。 「そっちの山小屋はダミーなの。アクション仮面の基地ではないわ。」 リリ子はポケットからカードキーを取り出し、崖のとある一つの穴に差し込む。すると、周囲の崖がするすると動き、金属製の扉が現れた。その扉は不思議な光を出している。ななこお姉さんをおぶった園長先生から順に中に入っていく。 「おお、リリ子君!!無事だったか!!」 基地の研究室に北春日部博士がいた。しんのすけ達にとっては久しぶりの再会であった。 「みんな元気そうで何より。さて、この基地の中なら安心じゃ。前よりもパワーアップしておるからの。」 ななこお姉さんが横たえられたソファーの上で目を覚ます。 「ななこお姉さん!!」 「んっ・・・。ここは・・・・。」 「ここはアクション仮面の秘密基地だぞ。」 ななこお姉さんはむくりと起きる。揃えて置いてあった靴を履いて立ち上がる。 「ななこお姉さん、一人で歩ける?オラがエチケットしてあげるぞ。」 「それを言うならエスコートでしょ?」 みさえがすかさずつっこむ。 「ありがとう、しんちゃん。でも、もう平気よ。」 そう言って長い髪をたなびかせて歩く。 全員が会議室に集められ、モニターを使って博士とリリ子の解説が始まる。 「さて・・・。知ってのとおり、地球はピンチに陥っている。そこでこの世界にアクション仮面を連れてきたいのじゃが・・・。アクションストーンがハイグレ魔王によって奪われて来ることが出来ん。アクションストーン自身はそう簡単に破壊できるものではないが、恐らくは魔王本人が持っているじゃろう。それを奪い返さねばならん。」 「でも、ハイグレ魔王のいるところまでどうやって行くの?」 よしなが先生が質問する。 「心配はいらん。今回はここにいる全員が乗れる秘密兵器を作っておる。これじゃ。」 モニターの画面を切り替える。そこには飛行船の形をした乗り物が映っていた。 「わしが開発したスーパー飛行船じゃ。今回は何と3000kgの重さまで耐えられる優れものじゃ。」 研究所内に警報音が流れる。博士とリリ子の顔に緊張の色が走る。会議室に研究員が入ってくる。 「は、博士!パンスト団の大軍が攻めてきます!」 「な、何じゃと?ここにはステルス機能がついていてそう簡単には発見できないはず・・・。とりあえずバリア作動じゃ!それと全ての哨戒攻撃システムをオンにするんじゃ!」 「分かりました!」 研究員が外に出る。全員後を追って指令センターに行く。 「博士、バリア作動完了しました。地下も含め360°十分な強度で展開しています。」 「博士、攻撃システムを入れました。危険ブロックには立ち入らないでください。」 次々に博士に報告が入る。 「ふっふっふっ、前回の雪辱を果たす機会がこんなにも早く訪れようとは。」 博士は一人で不敵に笑う。その自信を裏付けるように、パンスト団は攻撃を仕掛けてもバリアを破壊することができなかった。 「ねえ、しんちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど?」 「なになに、ななこお姉さん。」 「私にしんちゃんの持ってるNO.99のカードを見せて欲しいな〜って。」 「ほほ〜っ、ななこお姉さんも通ですなあ。ほい。」 しんのすけはポケットから取り出したカードをななこお姉さんに渡す。 「ありがとう、しんちゃん。これで博士の作った秘密兵器は動かすことができなくなるわ。」 ななこお姉さん今までに見せたことのない跳躍を見せる。研究員が動かしているバリア発生装置の前に近づく。 「ちょっと待って!何であなたがNO.99のカードが起動キーだって知ってるの?」 リリ子がななこお姉さんに問い詰める。ななこお姉さんは悪魔の笑みを浮かべる。 「あら、まだ気付かないのかしら?私はハイグレ魔王様のご命令でこの基地を無力化するために派遣されたスパイよ。」 ななこお姉さんは着ていた私服を全て脱ぎすてる。下には青のハイレグ水着を着ていた。 「おおおっ!!」 男性陣から漏れる感嘆の声。ななこお姉さんはスタイルもよく、そのハイグレ姿は様になっていた。 「うふふふふふっ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!気持ちいい!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 ななこお姉さんはハイグレポーズを恥じらいもせずにする。 「このバリアは邪魔ね。壊しちゃいましょう。」 「や、やめるんじゃ!」 ななこお姉さんは北春日部博士の制止に耳を貸すわけもなく、問答無用でバリア発生装置を破壊した。 「「「うわあああああっ!!」」」 バリアが消滅した途端研究所内に凄まじい衝撃が走る。しんのすけ達が入ってきた扉から中に敵が入ってくる。三人のハイグレ戦士だった。 「なんて羨ましいんだ!!」 「なんて恐ろしい、でしょ!?」 女性陣の声。ななこお姉さんと三人のハイグレ戦士のハイグレ姿への嫉妬だった。 「ハイグレ親衛隊射撃部隊が一人、レヴィだ。ここで全員おねんねしてもらうぜ!」 「同じく親衛隊が一人、フォルテ・シュトーレン。あたしらにあんなオモチャみたいな迎撃システムは効かないさ。」 「同じく朱鷺戸沙耶。あなたたち、全員ハイグレ人間になっちゃえばいいのよ!!」 三人がハイグレ銃を構える。歴戦のスナイパーだけが持つオーラは素人にでも分かるほどすごいものだった。 「「「攻撃開始!!」」」 三人がハイグレ銃を乱れ撃ちにしてしんのすけ達を狙う。 「だああああああああっ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 「博士!!」 博士が真っ先に狙われてハイグレ人間にされた。 「きゃあああああああああああああああっ!!」 あいちゃんにも命中し、赤いハイグレ姿のハイグレ人間にされる。 「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 「リリ子ちゃん、どうすればいいの!?」 みさえがハイグレ光線をかいくぐってリリ子に叫ぶ。 「とにかくNO.99のアクションカードを取り返して秘密兵器で脱出しましょう!!」 「よし、分かった!!ななこちゃんから取り返そう!!」 ひろしがハイグレ人間・ななこお姉さんが脱ぎすてた服のポケットに入っているはずのカードを狙う。 「させないわよっ!!」 ななこお姉さんがひろしにキックをお見舞いし、その隙にカードをポケットから抜き取る。 「行くわよ〜〜〜!!」 みさえもななこお姉さんに突進。手に持っているカードを奪い取ろうとするが、弾き飛ばされる。 「負けるか〜〜!!」 「うおおおりゃーーーーー!!」 二人でななこお姉さんに突撃を敢行。 「日本のサラリーマンの靴下の恐ろしさを教えてやるぜ!!」 「二児を育てて鍛えた足腰の強さを見せてあげるわ!!」 ひろしの臭い靴下攻撃とみさえのケツデカアタックでななこお姉さんが苦しみもだえる。 「たっ!!」 ななこお姉さんが混乱して落としてしまったカードをひまわりがくわえて持ってくる。 「よし、よくやったひまわり!!」 「さあ、逃げましょう!!」 「飛行船は上に発進庫があるの!!来て!!」 リリ子は隠し階段への扉を開けて中に入って誘導する。 「きゃっ!!」 ねねちゃんが転んで床にたたきつけられる。そこにハイグレ光線が飛んでくる。 「ねねちゃん!!」 ねねちゃんとハイグレ光線の間に上尾先生が割り込む。 「きゃあああああああ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 上尾先生は水色のハイレグ水着を着たハイグレ人間になってポーズをとる。 「先生!!私のために・・・!!」 「ねねちゃん、早く!!ここにいたら先生の犠牲が無駄になる!!」 ボーちゃんに手を引かれてねねちゃんは階段の入口に入る。 「ひいいいいいっ!!来ないでよ〜!!」 「うわあああああああっ!!」 風間君とまさお君はマフィアとの抗争で鍛えたレヴィの銃撃の前に入口に近づくことが出来ない。 「風間君、まさお君、私が囮になっている間に逃げなさい!!」 園長先生が見かねて脱出口から戻ってくる。 「うおおおおお!!子供を守る園長の力を見せてあげますよ〜!!」 園長先生が射手相手に大手を広げて突進。その間に二人は逃げた。 「よし、二人は逃げましたね。私も・・・・だああっ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 園長先生もハイグレ人間にされてしまった。 「父ちゃん、母ちゃん、ひま、早く!!」 しんのすけのこたえに応じ、三人はなんとか脱出口に潜り込んだ。 「閉めるわっ!!」 リリ子がボタンを押してドアを閉める。三重になっている頑丈な扉がすぐに閉まった。 「これでしばらくは敵の攻撃を防げるわ。」 生き残ったメンバーは梯子を使って上に向かう。 「これは・・・・。」 一番上にやって来るとそこはコックピットになっていた。 「これが博士の開発したスーパー飛行船よ。すぐに発進準備にかかるわ。しんのすけ君、カードを貸してくれる?」 しんのすけに手渡されたカードを一番前の操縦席にあるカードと同じ形をしたへこみにはめる。その瞬間、コックピットの中が一気に明るくなり、あらゆる計器が動き出した。 「す、すごくかっこいいぞ!!」 「さあ、しんのすけ君、手元にあるヘルメットをかぶってくれる?この飛行船はカードの持ち主の意思に従って動くわ。」 「おお、おらが船長?責任重箱だなあ〜。」 「「「それを言うなら責任重大、でしょ?」」」 「そうとも言う〜。」 「「「そうとしか言いません!!」」」 みさえ、よしなが先生、まつざか先生の三人が突っ込む。普段やり慣れている光景だった。 「よ〜し、出発おしんこーーー!!」 こうしてスーパー飛行船は屋上のハッチを開き、追ってくるハイグレ射撃隊のメンバーを尻目に発進した。 飛行船で某山地下の研究所を飛び出して十分。 「ちんたらしか進まないわね〜。」 「仕方無いよ、飛行船なんだから。」 ねねちゃんとまさお君は飛行船の遅さに既に飽きが来ていた。 「リリ子ちゃん、オラも退屈だぞ。もっと早く進まないの?」 「そうね・・・。私も詳しい訳じゃないから・・・そうだわ!風間君、そこにある青いボタンを押してくれる?」 「これの事?」 風間君が近くにある青い大きなボタンを押す。 「うわっ!?」 いきなり飛行船のスピードが上がる。後ろのターボエンジンが点火されたのだ。 「これで1.5倍の速さで移動できるわ。」 『緊急警報!緊急警報!敵襲!敵襲!直ちに迎撃準備をして下さい!』 艦内にコンピューターのアナウンスが流れる。 「もう追手が来たのね・・・・。しんのすけ君、戦闘モードをONにして!」 「ほっほーい!」 しんのすけが頭で念じるとコックピットにあらゆる攻撃システムが起動しだした。 「全員、とりあえずどこかの席に座って!」 まさお君を除いて全員が近くの席に座る。 「僕の席が無い〜!って、しんちゃん、その隣の席空いてるでしょ!座らせてよ!」 「え〜でも〜。オラ横になってゴロゴロしながら艦長したいし〜。」 みさえがげんこつを見舞う。 「おバカなこと言ってないでまさお君を座らせてあげなさい!」 よしなが先生がレーダーで敵の位置を確認する。 「この船の右後ろから敵がやってくるわ。まつざか先生、モニターに切り替えて。」 「了解。」 まつざか先生がボタンを押すと、モニターに敵影が表示される。 「ほうほう、これまた美人揃いですな。オラはあの金髪のお姉さんが好みだぞ。」 「俺はどちらかって言うとあっちの栗色の髪の女の子のほうが・・・。」 しんのすけとひろしにみさえのぐりぐり攻撃。 「いい加減にしなさ〜い!!」 「「オウオウオウ〜!!」 「たいっ!」 みさえが席を離れている隙にひまわりが勝手に近くのボタンを押す。 「ひまっ!めっ!勝手に押したら何が起きるか・・・・。」 その瞬間飛行船が大きく揺れる。 「これ、落ちてない?」 「今のは非常停止ボタンよ!すぐに起動しなおして!」 しんのすけが念じてすぐにエンジンを入れ直す。 「敵がさらに接近!今のドタバタでだいぶ追いつかれちゃったわ!」 「とにかく迎撃しましょう!艦首にビーム砲がついてるわ!」 「よ〜し、反転!!」 「俺に任せろ!!」 ひろしがビーム砲の発射装置のスイッチを入れる。 「おじさん、上手なの?」 「ああ、その通りさ、ボーちゃん。おじさんは子供のころは水鉄砲名人として秋田ではちょいとならしていたのさ。」 ひろしはそう言ってふっと笑う。 「よし、全員ショックに備えろ!!発射!!」 艦首の砲身にためられたエネルギー波が一気に追撃してくるパンスト団を飲み込む。敵は散開して逃げようとするが、それをも包み込む。 「ははっ、どんなもんだい!」 「敵が消えたわ。大成功です!」 全員がハイタッチして喜び合う。 「このまま何事もなく新宿にたどり着けるといいんだけど・・・。」 リリ子はほっとした表情で椅子に座る。その瞬間、船内に大きな衝撃音が走った。 「敵が三体、船内に侵入!こっちに上ってくるわ!」 よしなが先生が船内レーダーを見て言う。 「カスカベ防衛隊、出動よ!」 ねねちゃんが先頭に立って階段を降りる。 「おおー!!」 他の四人もそれに続いた。 階下には三人のハイグレ姿の女性がいた。 「おおっ、さっきのきれいなお姉さんたち!」 「あなたがミスター・ノハラね?私はハーマイオニー・グレンジャー。魔法使いよ。」 「おらは野原しんのすけだぞ。」 「さて、あなたを捕まえてハイグレ魔王様の所に連れていく役目を背負ってるの。大人しくついてきてくれると嬉しいんだけど。」 ハーマイオニーは右手に持つ杖を構える。 「私たちもできれば手荒な真似をしたくありませんわ。でも、抵抗するのであればこのマジックアカデミー校・シャロンも戦わせて頂きます。」 「その他のお子様たちは私たちの犬にしてあげるわ!」 ルイズも杖を構える。 「あんたたち、しんちゃんは私の大切なリアルおままごとのメンバーよ!絶対に渡さないわ!」 「しんちゃんは僕たちの友達。」 「僕たちを倒せるもんなら倒してみろ!」 「絶対に負けないぞ!」 四人がしんのすけを囲むように立ちはだかる。三人の魔法使いも全力でそれに立ち向かった。 「インカーセラス(縛れ)!!」 ハーマイオニーの杖からロープが出現し、しんのすけの体を縛る。 「アクシオ(来い)!!」 しんのすけが杖の力でハーマイオニーの方に引き寄せられる。 「さあ、捕まえたわ。」 「あはああはああはあ、オラ、捕まっちゃった。」 しんのすけはハーマイオニーの水色のハイグレ姿を前にうっとりしている。 「しんのすけ!!」 「邪魔ですわよ、あなたたち。少しお仕置きが必要ですわね。」 「とくと自分たちの罪を悔い改めなさい!!」 「「「「うわあああっ!!」」」」 火・水・大地・光の攻撃を受け、四人が散り散りになる。 「いくら刃向かっても所詮は子供。私たちに勝つことはできませんわ。」 シャロンが冷たく言い放つ。 「さ〜て、もう遊ぶのも面倒だし、ハイグレ人間になって魔王様に忠誠を誓っていただこうかしら?」 ルイズが杖を構え、呪文を唱える。 「くらえっ!アクショントリモチガン!!」 ハイグレ人間にする呪文を唱えているルイズにトリモチがまとわりついて中断される。 「な、なによっ!邪魔しないでよ!」 「そうは行かないわ。あなたたちの悪事、この桜リリ子が絶対に見逃さないわ!」 「リリ子ちゃん!」 「俺たちもいるぞ!」 大人たちが三人の魔法使いを取り囲む。 「なっ!?」 「杖が!!」 ハーマイオニーとシャロンも杖をひったくられる。しんのすけもその隙にみさえによって助けられる。 「杖を取られればあなたたちはただの人間よ。さあ、どうする?」 「ここは退きましょう。」 「ええ。」 「そうね。」 三人は飛行船の非常ハッチを開いて下に飛び降りる。 「そんな!?」 「自殺!?」 リリ子が首を横に振って否定する。 「あの三人はパンスト団。恐らくは下に部下が待機しているはずよ。」 「そういえば全員ここにいるけど、誰が運転してるの?」 ネネちゃんが質問する。ネネが知っている乗組員は全員彼女の目の届く範囲内にいた。 「えっ!?誰か残ってると思って下に来たんだけど!?」 ひろし・みさえ・リリ子・よしなが先生・まつざか先生が同時に同じセリフを言う。その瞬間、またしても飛行船は自由落下を始めた。 「うわああああああ!!」 「落ちる〜〜〜〜!!」 「しんのすけ君、早く船を立て直して!!」 「うおおおおおーーー!!無理だぞーーーー!!」 しんのすけも船に揺られて全くイメージを働かせることができない。船内がパニック状態。全員がそこら中を転がっていた。 「シロ!!おまえだけでも頼む!!」 「アン!!」 シロが野生の力を力を発揮して階段を駆け上がる。 「アン!!」 シロは操縦桿を噛んで向きを直す。こうしてなんとか墜落を免れることができた。 「それにしても・・・・。」 みさえが腕組みして思案顔でリリ子に尋ねる。 「どうしてこんなにハイグレ魔王が手ごわいのかしら?前の時はこんなに強い敵だとは思わなかったのに・・・。」 「そうね・・・。しんのすけ君を恐れているからレベルの高い刺客を送ってくるといのもあるけれど、それ以上にハイグレ魔王がアレを完成させたのが大きいわね。」 「アレって?」 「ハイグレ魔王が開発していたセブンス・グレイテスト・トレジャー・システム、略してSGTSよ。」 「何・・・それ?」 「直訳すると七つの至宝のシステムってことか?」 ひろしが横から口を出す。 「ええ、その通りよ。ハイグレ魔王が持つ七つの呪具に一定以上のハイグレ人間のパワーを溜め、それをエネルギー源に動かすの。」 「それを使うとどうなるの?」 「色々な世界で征服したハイグレ人間を大量に召喚することができるの。様々な世界から強力なハイグレ人間を集めてそれを元にして軍隊を作っているわ。」 「そっか・・・。だから今回はわずか三日でここまで来たってわけか。」 「ええ、もう少し遅れていたらきっとあなたたちを呼び寄せる間もなく私もハイグレ人間になっていたでしょうね。」 「もうすぐ新宿に到着します!」 よしなが先生がレーダーを見てほっとした表情をする。目の前には東京都庁の上に覆いかぶさるようにしてハイグレ城が乗っている。 「あっ、ハイグレ城から通信が来ているわ。モニターに映すわね。」 まつざか先生がボタンを操作し、コックピット前面に表示する。その画面には仮面をした例のあの人が玉座に座った状態で映っていた。 「ホホホホ、ようやく来たわね、あなたたち。待ちくたびれちゃったわ。」 「おおっ、ハイグレ魔王!!お久しぶりぶり〜。」 「ふんっ、ガキンチョも相変わらずね。あなたの目的は分かっているわ。アクションストーンを取り返しに来たんでしょう?ななこの報告で分かっているわ。」 「ななこお姉さんの?」 「ええ、そうよ。ななこもこの城の中にいるわ。ほら。」 ハイグレ魔王が指さした先には絞首台に立った状態で吊るされているななこお姉さんが映った。 「ななこお姉さん!」 「この絞首台はね、特別製なの。十分ごとに一段ずつ足元が下がっていくわ。一番下まで下がると完全に首が吊られてあの世行き。」 「卑怯だぞ、ハイグレ魔王!男なら正々堂々戦うものだぞ!」 「あたしは男じゃないの、オ・カ・マ。そういうわけだから、一時間以内にあたしの所まで来てね。そうしたらアクションストーンも返してあげる。ゲーム開始よ。」 ハイグレ魔王がボタンを押すと、ななこお姉さんの絞首台が一段下げられる。カウントダウン開始の合図だ。 「うふふ、せいぜいがんばって。退屈なあたしを失望させないでね、ボウヤ。」 ハイグレ魔王は高笑いして通信を切った。 「もう許さないぞ、ハイグレ魔王!オラがギッタンギッタンにしてやっつけてやる!」 「落ち着きなさい、しんのすけ。アクション仮面を呼ぶのが先でしょう?」 「そうだそうだ。アクション仮面に来てもらえばななこちゃんも絶対に助けてもらえるぞ。」 「たいっ!」 スーパー飛行船をハイグレ城の入口に横付けし、全員が降りる。そして、ハイグレ魔王のいる玉座を目指して走り出した。 ハイグレ城の中は以前と勝手が違っていた。外見こそ同じだが、中身は全く別の城になっていた。警戒しつつ一本道を先に進むと円形の広い部屋に出た。そこは先に扉がなく行き止まりになっていた。 「随分広い部屋ね。先に行くにはどうすればいいのかしら?」 「何かあそこにあるぞ?」 ひろしの指さした先には七つの台があった。四角い人が乗れる大きさで、真ん中にある円を囲むように等間隔にある。 「ここに何か書いてあるわ。ええと、愚かなる人間の七つの罪を背負いし勇者現れれば、道は開かれん。」 「七つの罪・・・七つある台・・・。つまり、この台に一人ずつ乗れってことか?」 そして、人数の割り振りを決める。野原一家以外の七人が台に乗ることに決めた。 「しんのすけ、僕たちも必ず後を追うからな!」 「戦う時はみんな一緒。」 「しんちゃん、頑張って!」 「ネネたち、しんちゃんを信じてるわ!」 カスカベ防衛隊員、リリ子、まつざか先生、よしなが先生が台に乗ると、上に昇っていく。 「おっ!?こっちも動いたぞ。」 七つの台の真ん中にあった円が浮いて光る。 「父ちゃん、母ちゃん、ひま、シロ、オラたちも行くぞ!」 「おお〜!!」 「アンアン!!」 お互いに分かれて戦地へと出発した。 「ここは・・・。」 ネネちゃんが上で止まった台を降りると、そこは暗闇の世界だった。 「なんか薄気味悪いところね・・・。出口がどこだか分かんないわ。」 ネネちゃんはあたりをきょろきょろ見回すが、見えないので無駄だと分かり前だけ向いて歩きだした。 「どこまであるのかしら・・・。」 歩いても歩いても暗闇は晴れない。どこまでその暗闇が続くのかも分からず、距離感もなくなってしまう。精神の緊張状態が続き、疲労感が高くなっていった。 「いたっ!」 ネネちゃんは何かに躓いて転ぶ。恐る恐る手を触れてみると、線上に何か盛り上がっているのが分かった。それを伝っていくと、星形であるのが推測できた。 「真ん中に何かあるかもしれないわね。」 彼女は星形の真ん中だと思われる場所に入ってみる。すると、星形の盛り上がっている部分が強く光り出した。目が慣れてくると、人が立っているのが分かった。 「あんた、誰?」 正面には女性が一人立っていた。黒髪で目は生気がなくおどろおどろしている。ハイグレ水着を纏い、手には魔導書らしき物を持っている。 「私はハイグレ魔王様の選ばれし僕・・・そうですネ、現世での仮の名をエリカ・バーミリオンと申しマス。現世ではオカルト研究会の部長をしていますネ。」 「ネネに何の用?早く先に進みたいんだけど。」 「それはできませン。ここはハイグレ魔王様に逆らう者を裁く七つの間が一つ、嫉妬の間。ここを通すわけにはいきませんネ。」 部長は高速で魔法を唱える。 「召喚魔法発動でス。出でよ、ハイグレ人間!!」 部長の叫びとともに、三人のハイグレ人間が現れる。 「桂言葉、ここに。」 「芙蓉楓、こちらに。」 「園崎詩音、参りました。」 「ここは嫉妬の間。普通の人間がハイグレ人間になる前に妬む罪を洗い流す場所でス。あなたのように常に何かに嫉妬している人にお似合いの場所ですネ。」 「う、うるさいわね!!」 「さあ、皆さん。このお嬢さんと少々遊んであげてくださイ。」 部長はネネちゃんの話を遮って命令を下す。 「かしこまりました。・・・・・・・死んじゃえ!!」 言葉が鉈を一閃。ネネちゃんの頭をかすめるが、寸前で避けた。 「あんたなんか・・・死んじゃばいんだー!!」 出刃包丁で斬りかかる楓。それを避けると次の攻撃が。 「ぶちまけられてーかぁ!!」 詩音がスタンガンをネネちゃんの体に押し付ける。 「ぎゃあああああ!!」 ネネちゃんはスタンガンの電気ショックでしびれて動けなくなった。 「ハイグレ人間に逆らった者にこの程度のお仕置きでは軽すぎるのですが・・・。まあ、いいでショウ・・・。ハイグレ人間にして差し上げまショウ。」 部長はハイグレ銃を構える。 「や、やめてよっ、この変態女!!」 「ああ、凄くいい雑言ですネ。ふふふっ、ハイグレ人間にした後ゆっくり楽しむことにしまショウ。イザ!!」 部長がハイグレ銃の引き金を引く。 「いやあああああああああああああっ!!」 ネネちゃんはハイグレ姿にされてしまう。 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ魔王様に刃向かったのはすごく悪いことです!!ハイグレ!ハイグレ!!」 「分かって頂けましたカ。それでこそハイグレ人間でス。これから共に闘いまショウ。」 「はい!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 まつざか先生は低木のいっぱい茂っている部屋を歩いていた。 「何なのかしら、この部屋は・・・。あそこに札があるわね・・・。植物名・カネノナルキ・・・。」 まつざか先生はため息をつく。 「そういえば今月もローンの支払いがきつかったわね・・・。また食費切り詰めないと・・・。」 「おやおや、それはまた大変ですね。ただ、あなたの場合、ご自分の無駄遣いが原因だと思いますが。もう少しお金の使い方を見直されてはいかかがですか?」 「そうなのよね。ついブランド物のバッグとか服とかコートとか衝動買いしちゃうのよね。少しは我慢しないといけないんだけど・・・って、誰よ、あんた!?それにその情報をどこから!?」 まつざか先生の後ろには一人の美少年が立っていた。恭しく一礼して自己紹介を始める。 「僕は綾崎ハヤテ。この部屋の守護者です。ちなみに、情報はハイグレ人間の上尾先生という方から教えていただきました。」 「くっ、上尾先生・・・。今度とっちめてやる!」 まつざか先生は歯ぎしりして悔しがる。そして、自分の置かれている状況に気づき、後ずさった。周りをハイグレ人間に囲まれていたのだ。 「逃げようと思っても無駄ですよ?」 ハヤテは跳躍して後ろに回り込む。人間離れしたその動きに唖然とするまつざか先生。 「ここは強欲の間。普通の人間がハイグレ人間になる前に欲深き自らの体を洗い清める場所。残念ながら、あなたたちメンバーの中でまつざか先生が一番の強欲と判断されたようですね。」 「そ、そんな・・・!!た、確かに私はちょっとばかりお金にガツガツしてるかもしれないけど・・・。」 「ま、そういう訳なんで、ハイグレ人間になる前にご自分の所業を反省していただきます。では、皆さん。お願いします。」 ハヤテがパチンと指を鳴らすと、正面にいたショートヘアのハイグレ人間が札束をばらまく。その札束が渦を巻き、まつざか先生を縛りつける。 「おほほほっ、どうかしら、札束に自分が従わされる気分は。私もかつては金に溺れていた身。ハイグレ魔王様にその愚かさに気づかされたわ。あなたにも教えてあげる!!」 札束がさらにまつざか先生を縛りあげる。 「ぐううっ・・・。」 「おほほほ、いけませんわ、なびきさん。あまり体罰を行いすぎるのは逆効果ですわ。ここは私にお任せ下さいませ。」 まつざか先生を縛りつける札束が緩められる。今度は別の小柄なハイグレ人間がやってくる。 「私はミント・ブラマンシュと申します。かつては私も色々とあこぎな商売をしておりました。地獄の沙汰も金次第・・・そんな愚かな私にそれ以上の価値を魔王様は与えてくださったのですわ。」 「それ以上の価値?お金に上回る価値なんて命くらいじゃないの?」 「そんな事はありませんわ。ハイグレ人間にとって最高の価値、それは皆でハイグレ姿になってポーズを取り、そして楽しく暮らすこと。・・・・心の中でバカになさっていますわね?」 「私の心が読めるの?」 「少々テレパシーを使えますので。今はお信じになれなくても結構ですわ。ハイグレ人間になることでそのような世俗の汚れた考えから抜け出すことができますから。でも、その前に、ハイグレ魔王様に謀反を起こしたあなたには少々お灸をすえなければいけません。ナミさん、よろしくお願いします。」 ミントが下がると、次は胸の大きなハイグレ人間が出てきた。 「私は泥棒猫・ナミ。棒術に覚えがあるわ。さて、ハイグレ人間にして下さいって言ってもらえるかしら?」 ナミは手に持っている棒でまつざか先生を殴り飛ばす。 「ぐはっ・・・!?誰があんたたちなんかに・・・・・・・・!?」 まつざか先生はなおも立ち上がり、抵抗の姿勢を示す。 「やれやれ、往生際の悪い人ですね。」 ハヤテが素早くまつざか先生の懐に潜り込み、カウンターパンチを入れる。 「い、いたっ!!」 まつざか先生は痛みをこらえて立ち上がるが、ふらついてしまう。自分の今までの人生について振り返ってみる。男を漁り、ブランド物を買っては自分を着飾って生きてきた。その報いを今受けている。 「そうよ・・・ハイグレ人間ならこんな堕落した人生を送らないかもしれない・・・・。この苦しみから逃れるためなら・・・ハイグレ人間にして下さい!!」 まつざか先生は土下座をして頼み込んでいた。 「いいでしょう、お望みどおりに。」 ハヤテはハイグレ銃を構え、発射する。 「きゃあああああああっ!!これがハイグレ人間!!素晴らしいわ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 まつざか先生は歓喜する。これから新しいハイグレ人間の生活が始まる。これからは清く正しく生きよう。そう誓った。 リリ子は楼閣の屋敷風の建物の中にいた。 「ここは・・・昔で言う吉原というところかしら・・・・。なんでこんなところに・・・。」 警戒しつつふすまを開けては先に進む。何度か部屋をまたぐと、他とは作りが違う豪華な襖がある。その上には大きな木の板に『色欲の間』と書いてある。 「色欲・・・それで吉原ってことね。きっと何か仕掛けがあるはず・・・。」 リリ子は手にアクショントリモチガンを持ち、ゆっくりと扉を引く。中には着物姿の女性が四人いた。 「あら、お客さまね。どうぞ、遠慮なく入って。」 上座にいる長髪の女性が声をかける。リリ子は少しためらったが、中に入る。 「空いてる席に座ってくれる?」 銃を離すことはなかったが、言われたとおりに下座に座る。 「私は朝倉みくると申します。ようこそお越し下さいました。」 「私は峰不二子。以後、お見知り置きを。」 「井上織姫です。ゆっくりしていってね。」 下座にいる女性たちが三つ指をついて自己紹介をする。 「私は桜リリ子。アクション仮面のパートナーをしているわ。あなたは?」 上座にいる女性が後を受けて話す。 「私は南春香。この色欲の間を預かる番人です。」 「その耳に付けているイヤリングは何かしら?着物を着るときにはアクセサリーは普通は外すと思うけど?」 「あら、よく見ているわね。これはハイグレ魔王様から特に頂いたもの。簡単に外すことはできないわ。」 「やっぱり・・・あなたたちハイグレ魔王の手下なのね?だったら、ここで成敗してあげるわ!」 リリ子がアクショントリモチガンを構える。 「覚悟!」 アクショントリモチガンからいくつもの弾丸が発射される。しかし、春香はバリアーらしき物を張ってそれを防ぐ。 「無駄よ、魔王様から頂いた魔王のイヤリングの前では、ね。」 「なら、これなら!!くらえ、アクションレーザービーム!!」 リリ子は腕時計をハイグレ人間たちに向け、スイッチを押す。液晶画面からビームが出る。 「キャンセルします!!」 織姫が楯を作ってその攻撃を防ぐ。リリ子は驚いて声も出ない。 「無駄だと言ってるでしょう?ただの人間が私たちには勝てないわ。」 「アクション仮面がいれば・・・!!」 「いつもそうやってアクション仮面〜って呼んでるのよね?でも、その助けは来ないわ。」 「くっ・・・。」 「アクション仮面に味方する者は重罪。本来ならハイグレ人間になっても罪を償わなくてはならないわ。でも、あなたにはチャンスがあるの。それはあなたが悪い心を捨てて改心すること。」 「悪い心?アクション仮面と一緒に戦ってる私にそんな邪悪なものがあるはずないわ!!」 「本当に?あなたには大きな悩みがあるわ。それは、あなたの成長しない体。」 ビクンッ、と体を震わせるリリ子。彼女には思い当たる節がありすぎた。双子であるにもかかわらずミミ子よりも発育が遅く、毎日のように胸を大きくする努力をしていた。牛乳は欠かさず飲み、一人になれば胸を揉んで大きくしようし、見かけを大きくするためにパッドを入れるなど、その情熱は悪者と戦う時以上だった。リリ子には、目の前にいる南春香をはじめ、朝比奈みくる、峰不二子、井上織姫、全員がバストが大きく羨ましい限りであった。 「なるほど・・・それで色欲ってわけね。私が七つの大罪の中で唯一持っている欲望。」 「ハイグレ人間になれば、胸の大きい小さいは関係なくなるの。あなたはその小さい胸をテレビの前でさらすことも、それをごまかすためにパッドを入れる必要もなくなるわ。だから・・・そんな見せかけだけの体にはさようならを必要があるわね。」 春香は他のハイグレ人間たちに目配せをする。ハイグレ人間たちは着物を脱ぎすて、ハイグレ姿になって迫ってくる。 「な、何するのよ、あなたたち!!や、やめて、パッドが・・・!!」 三人がリリ子に飛びついてセーラー服を脱がす。パッドがずれておなかのあたりをさまよっていた。順にスカート、靴下、下着も脱がされて素っ裸になる。 「ふふふ、それがあなたの動物としての本来の姿よ。恥ずかしがることはないわ。」 「あなたたちのように胸の大きい人たちには分からない悩みだわ!!」 「まだこだわっているのね。ハイグレ人間になればそんな悩みなんて関係ないと思うんだけど。みんな、この子が暴れないように押さえていて。」 春香が三人のハイグレ人間に命じる。右腕、左腕、そして首根っこを押さえつけられて身動きが取れない。 「さあ、あなたもハイグレ人間に!!」 春香がハイグレ銃を取り出してリリ子に放つ。 「きゃあああああ!!」 リリ子の体が赤く光り、ハイグレの水着姿になる。 「さあ、色欲は吹き飛んだかしら?」 「ハイグレ!!ハイグレ!!なんて私はくだらない事を気にしていたの!!ハイグレ!!ハイグレ!!今はそんなの関係ないわ!!」 リリ子は自分のスタイルを気にすることもなく、ハイグレポーズを繰り返した。 ここはハイグレ魔王の玉座。魔王は映し出される侵入者たちの映像に見入っていた。映画並みの戦いぶりに退屈を忘れていた。 「うふふ、おもしろいわねえ、レイン。どうせ全員ハイグレ人間になるのに、無駄にあがいているわ。」 「さながら猫になぶり殺しにされる鼠のようですね。」 「でも、窮鼠猫を噛むということもあるわ。他の侵入者たちもそうそうに始末しなさい。恐らくあのボウヤだけはここにやってくると思うけど、その子の相手だけは私がするわ。」 「ふふ、お戯れを。私の張った罠の前に例え野原しんのすけといえども手も足も出ないでしょう。」 ハイグレ魔王は分かっていないという顔でため息をつく。 「あなたがあのボウヤの弱点をついても無駄よ。必ず突破してくるわ。」 「でしたら、なぜ野原しんのすけをここに素直に連れてこないのですか?」 「あら、その方が楽しいじゃない?」 「は、はあ・・・。」 レインもハイグレ魔王の悪趣味ぶりにはほとほと呆れていた。 「時にレイン、SGTSのハイグレパワーはちゃんと溜まっているでしょうね?」 「はっ・・・。第四から第七の秘宝については十分溜まっておりますが、第一から第三の秘宝については一定値溜まる前に破壊されてしまったので不安定になっています。現在、四から七のエネルギーを移して対応しています。」 「やはり初手での失敗が大きかったわね。作業を急ぎなさい。アクション仮面がやってくる前に作業を終えておくのよ。」 魔王がレインに命令している横でななこお姉さんの絞首台が一段引き上げられる。残り時間が後四十分になった。 「おやおや、次のカモが傲慢の間に入ったようね。」 ハイグレ魔王は傲慢の間の立体映像に目を移す。そこではまた激戦が繰り広げられていた。 「よく来た、風間トオル。ここは傲慢の間。おごり高ぶる人間を浄化し、清らかな心を持つハイグレ人間を作る場所だ。この俺、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが貴様の中の悪を取り除いてやろう。」 「悪はお前たちだろう!?」 「ほう、早速驕りか。貴様は我々ハイグレ人間が悪で自分は正義であると?この地球は騙し合い、憎み合い、奪い合い、強い者が弱い者を虐げ、人々の恨みの声が満ち満ちている。我らがハイグレ魔王様は、その汚れた地球をハイグレ化することによって平和な生活を約束してくださる。それでも、悪と言うのか?」 「そんなのは皆の意思じゃない!ハイグレ魔王が作り上げてる偽物だ!」 「ふん、やはり子供だな。自分たちの力で醜い世界を生きるか、ハイグレ魔王様のお力できれいな世界に住むか。どちらが皆にとって正義なのかは比べるまでもない。それが分からんから貴様は子供だ。」 ルルーシュは笑って手を上げる。それに応じてハイグレ人間が三人やってくる。 「高波・アスカ・ラングレー、涼宮ハルヒ、沢近愛理、こいつらはハイグレ人間になる前は自分のことばかり考え、周りの迷惑も顧みない生活を送っていた。見た目が良いのをいいことに、男に傅かせ、友を蔑ろにし、己を偽って傲慢に人と接してきた。だが、ハイグレ人間になった今は心を入れ替え、真っ直ぐに生きている。貴様もそうなってくれると嬉しいが。」 「ぼ、僕はそんな傲慢な生活はしてないぞ!!」 「ふん、どうかな?なら、それをよく知っているお前に聞いてみよう、風間トオル。」 ルルーシュは左目に手を当て、服従のギアスを発動する。 「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命ずる!!貴様のおごり高ぶった生活を思い出せ!!」 ルルーシュの言葉が風間君の脳の中に入ってくる。 「はい・・・。」 風間君の脳裏にいつもの日常風景が蘇る。友人の前で塾で教わった英会話をひけらかし、家では魔女っ子アニメのコスプレをし、事あるごとにしんのすけにつらく当たっていた。 「や、やめろ〜!!僕はこんなんじゃ〜!!」 「これが現実だ。その腐った性根、ハイグレ人間になることで償ってもらおう。」 ルルーシュは今度は右目に手を当ててギアスを発動する。 「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命ずる!!貴様はハイグレ人間になれ!!」 「うわあああああああああああああああああああ!!」 風間君の体が光り、ハイグレ姿にされる。 「さあ、ポーズを取れ。そして、今までの自分を捨て、ハイグレ人間に生まれ変わるのだ!!」 「は、はい!!仰せのままに!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 風間君はハイグレポーズを取り始める。 「さあ、お前たちも一緒にハイグレポーズを取ってやれ。」 「はっ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 アスカ、ハルヒ、愛理も一緒にハイグレポーズをとる。傲慢の感情を捨てた彼女たちと風間君はお互いを分かりあうためにポーズを繰り返した。 「憤怒の間。よし・・・入ってみよう。」 よしなが先生は決心して扉から中に入る。眼前に広がっているのは燃え盛る業火、眩しい光によって体に直射する熱線、熱を含んで火傷しそうな砂浜だった。 「あ、暑い・・・。何なのよ、ここは・・・。」 砂漠よりも酷い環境の中を歩く。汗が滝のように流れおち、顔は湯だるまのようになって意識が朦朧とする。 「あ、あれは・・・。」 目の前に現れるオアシス。冷たい水がわき出ている池があり、丁度浅くなっていて人が入るのに適した環境になっていた。池端にはおあつらえに脱衣カゴとバスタオルが置いてある。罠かとも思ったが、体が我慢できずに無意識のうちに服を全て脱ぎすてて池の中に飛び込んでいた。 「気持ちいい!!はあ・・・安らぐ・・・。」 汗でべとべとになった体をさすり、きれいな水を飲んでのどを潤す。顔も洗ってきれいさっぱりの心持になった。 「さて・・・エネルギー補給もしたことだし、先へ進みますか。」 よしなが先生が池から出ようと立ち上がる。その瞬間、池の水の温度が一気に下がり、一面が氷になってしまった。上半身裸で、下半身は氷のせいで身動きが取れなくなってしまった。 「わ、罠!?」 「今頃気づいても遅いわ!!」 気づくと池をツインテールのハイグレ人間が先生を見下ろしていた。 「誰よ、あなた!?」 「この憤怒の間をハイグレ魔王様から預かっている柊かがみ。石坂みどり、あなたをここで野原しんのすけを攻撃するハイグレ人間に改造するのが私の役目よ。」 「な、何ですって!?そんなの絶対に嫌よ!!」 「何を驚いてるの?ハイグレ人間になればあなたは我々の思うがまま行動することになるわ。前にハイグレ人間になったことを忘れちゃったの?」 「そ、それは・・・。」 よしなが先生には夏休みにハイグレ銃で撃たれてハイグレ人間にされた記憶を思い出す。研究所でハイグレ銃が当たった後の記憶はないが、今にして思えばとても恥ずかしい格好だった記憶がある。 「今回はただハイグレ人間にするだけじゃないわ。魔王様の御趣向であなたの罪を贖ってあげようと思うの。」 「罪?贖う?何のことかしら?」 「あら、とぼけようと思っても無駄よ?あなたの罪はこの部屋の名前と同じ憤怒。普段は優しい女性を装っているつもりでも、その本性は怒りっぽくて一度キレると周りを恐怖のどん底にしてしまう。ご主人も園児たちにも恐れられているそうね?」 よしなが先生は心当たりがありすぎて反論ができない。ただ沈黙するのみだった。 「そういうわけだから教育的指導をしてあげるわ。おいで、みんな。」 かがみが胸に挟んでいたカードを取り出し、床にたたきつける。カードが変化してハイグレ人間になる。 「ハイグレ人間、藤林杏、ここに。」 「高町なのは、ここに。」 「真宮寺さくら、ここに。」 現れたハイグレ人間たちはそれぞれに武器を持っている。 「驚いたかしら?一度でもハイグレ人間になったことのある人は、こうしてハイグレ人間として召喚できるの。」 「へえ〜。じゃあ、私のカードもあるのかしら?」 「そうね。カードだからあなたと別に存在できるし、戦ってみる?」 「遠慮しておくわ。自分自身と戦ったらきっと相討ちになるでしょうから・・・ね!!」 よしなが先生はおしゃべりしている間に、上半身に力を入れて氷から抜け出す。 「さあ、行きなさい、あなたたち!!」 かがみの号令と共にハイグレ人間たちが攻撃を仕掛ける。歴戦のつわものを相手に勝てるわけもなく、一方的にボコボコニされてしまった。 「きゃあああ・・・!!」 杏の辞書投擲、なのはのSLB、さくらの破邪剣征桜花放心によって灼熱地獄の砂浜の上に弾き飛ばされる。 「む、無理・・・。勝てるはずないじゃない・・・。」 よしなが先生は走馬灯のように知っている人の顔を思い出す。先月地元からやってきた母親にカッとして喧嘩になったこと、つまらない事で夫やまつざか先生と口論になったこと、園児たちにからかわれ大人げなく怒ってしまったこと・・・。きちんと謝っておけば心残りもなかったのに、と後悔の念が沸き起こった。 「ふふ、反省したかしら?でも、心配ないわ。ハイグレ人間になれば全て解決。憤怒の心を忘れて穏やかに暮らすことができるわ。」 「ええ、それがいいかも・・・。」 よしなが先生は立ち上がり、観念した表情でかがみを見つめる。 「さあ、ハイグレ人間になりなさい!!」 かがみがハイグレ銃を放つ。 「きゃあああああああ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 ボーちゃんは怠惰の間の中にいた。奥に進むと、女ハイグレ人間が三人とその横に一人の男ハイグレ人間がいた。男ハイグレ人間がボーちゃんに気づいて話しかける。 「やあ・・・君がハイグレ魔王様に楯突く悪者だね?ボーちゃんって言ったかな?よく来たね。何の用?」 「僕、ハイグレ魔王を倒すために先に進みたい。」 「魔王様を倒す?滅多な事は言うもんじゃないよ?君みたいな子供が勝てるわけないよ?」 「皆で力を合わせれば倒せる。」 「仕方ないね・・・。なら、僕が相手してあげるよ。みんなもお願い。」 他のハイグレ人間たちも立ち上がる。 「僕はここの責任者の碇シンジ。ここは怠惰の罪を償う場所さ。ハイグレ魔王様は怠け者をとても嫌っていらっしゃるんだ。だから、一日も休みなく僕たちは働くんだ。全ての宇宙を制覇するためにね。」 「休みも必要だと思う。働き続けたら体が疲れておかしくなっちゃう。」 「あははは、そんな事はないよ。ハイグレ人間はそんなもの感じないから。」 「でも、毎日働いてばかりだと楽しくなくなっちゃう。」 「はあ、もう面倒くさいな・・・。いくら言っても理解してくれないみたいだね。ハイグレ魔王様からは謀反人をお仕置きしてからハイグレ人間にするように言われてるけど、さて、どうしようかな?」 シンジは少し腕組みをして考える。そして・・・ 「そうだ、ダラダラするのがそんなに大事だと思うなら、じっとしていられるようにしてあげるよ。」 女ハイグレ人間たちが椅子とロープを用意する。 「じゃ、お願い。」 「はっ、平沢唯、仰せのままに任務を遂行します。」 唯がボーちゃんをロープで縛る。ボーちゃんは暴れて抵抗する。 「逢坂大河、参る!!」 ボーちゃんの腹を目がけて木刀を突き刺す。がっくりとこうべを垂れて大人しくなる。そのまま椅子に縛りつける。 「さて、お前の怠惰な心をこの三千院ナギが叩き直してやろう。行くぞ!!」 ナギが鞭をしならせ、ボーちゃんを打つ。 「ううっ!!」 ボーちゃんは歯を食いしばってそれに耐える。 「ほう、今のに耐えられるのか?だが、いつまで持つかな?怠けず働き者になります、というまで痛めつけてやる!!」 ナギが鞭をびしばしボーちゃんの体にたたきつける。 「私も参加させてもらうわ。」 大河が木刀で面、突き、胴を繰り返す。 「ぐうう・・・・!!も、もうやめて!!」 ボーちゃんが虫の息になって叫ぶ。 「僕、怠けず働き者になる!!だから!!」 「縄を解いてあげて。」 シンジは唯に命令する。ボーちゃんの縄が解かれる。 「さて、もうお仕置きはやめてあげる。一緒にハイグレ人間になって死ぬまで働き続けよう!!」 シンジがハイグレ銃を放つ。 「うわああああ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 ボーちゃんはハイグレ姿になってポーズをとる。 「僕、ハイグレ魔王様のために頑張る!!」 「ああ、その意気だ。一緒に頑張ろう!!」 五人はハイグレポーズを取ってこれから共に魔王に忠誠をつくすことを誓った。 まさお君はたくさんの食べ物が置いてある庭園の中にいた。本当にお菓子で作った家、和中洋の一品料理が並べられたテーブル。植わっている木や草は食べられるものばかり。噴水からは色とりどりのジュースが噴き出ていた。 「すご〜い、不思議な場所だな。何でこんな部屋があるんだろう?」 「知りたい?ここはね、あなたが心の中に持っている欲望を映し出した世界なのよ。」 まさおの質問に眼鏡をかけた女性が答える。ハイグレ姿だった。 「お、お姉さん、だれ!?」 「私はこの暴食の間を支配するハイグレ王の一人・山中さわ子。よろしくね、ボク。」 「暴食ってなに?」 「むやみやたらに食べ物を食べてしまう罪よ。君は甘いものが大好きで、お母さんの言いつけを破って食べ過ぎてしまうことがよくあるそうね?」 「う、確かに悪いことだけど・・・。それとハイグレ人間とどういう関係があるの?」 「いい質問ね。ハイグレ人間はね、心がきれいでないといけないの。とても悪いことをして罪を背負った人はそれを償った後でないとハイグレ人間になれないの。」 「とても悪いこと?僕、警察に捕まるようなことしてないよ?」 「あら、分からないの?それはね、ハイグレ魔王様に逆らって倒そうとした罪よ。それは人殺しとか強盗より罪が重いの。でも、平気よ。これから与える罰は刑務所に入ったりとか鞭打ちの刑とかじゃないから。カモン、私の可愛い部下たち!!」 さわ子がパチンと指を鳴らすと三人のハイグレ人間が現れる。 「お呼びでございますか?リナ・インバースにお申し付けください。」 「神楽にも何か命令するね。」 「桂木ヤコにもご指示を。」 三人のハイグレ人間はさわ子の前で傅いている。 「この子の暴食の罪を洗い流してあげるのよ。さあ!」 さわ子が手を叩くと、三人は別々の場所から料理を取り出し、まさお君の前に持ってくる。さわ子はまさお君のためにテーブルと椅子を用意して座らせる。 「さあ、まさお君。たくさん食べていいのよ?」 「えっ?でも・・・。」 「大丈夫、料理に毒は入っていないわ。安心して。」 まさお君は恐る恐る渡された料理を一口食べてみる。何もおかしい味はせず、むしろ美味だった。 「おいしい・・・。頂きます!!」 まさお君も幼稚園児であり、自制がきかなくなって夢中になって食べ始めた。 「もうおなかいっぱいだよ・・・。」 まさお君は満腹になって腹をさする。しかし、料理は次々に運ばれてくる。 「もういいよ〜。」 「ふふふ、ダメよ。まだ食べてもらうから。」 「えっ?だから、もういいって・・・。」 「暴食の恐ろしさ、とくと味わいなさい!!」 料理を無理やりに口に押しこまれ、次々に食べさせられる。吐こうとしてもそれを許さず、次々に放り込んでいく。 「ぐうっ!!苦しい!!苦しいよ!!」 「ほら、あなたの好きなお菓子をもっと食べなさい!!」 「もういやあああ!!僕が間違ってた!!これからは規則正しく食事をするから!!」 「本当に?」 「約束します!!」 さわ子は笑って部下たちに下がるように命ずる。 「よかったわ。君がハイグレ人間になる前に反省してくれて。これで心おきなくハイグレ人間にしてあげられるわ。」 「えっ!?話が違うよ!!僕、ハイグレ人間なんかになりたくないよ!!」 「あらあら、私は暴食の罪を反省したらハイグレ人間にしない、なんて言ってないわ。」 「ひいいいいいっ!!」 「さあ、この魔王の銃でハイグレ人間になりなさい!!」 さわ子がハイグレ銃を取り出し、まさお君に放つ。 「うわあああああああっ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「どう?ハイグレ人間になるのは素晴らしいでしょう?」 「はい!!食べすぎでちょっと苦しいけど、これから努力します!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 野原一家は上に向かうエレベーターを降りる。 「おお、ここは前にも来たことがあるぞ!!」 しんのすけは見覚えのある城内の様子に驚いた。 「本当か?ハイグレ魔王はどっちにいるんだ、しんのすけ?」 「こっち!」 しんのすけが記憶を頼りに案内する。しばらく走ると広間に出る。 「ここがハイグレ魔王の部屋の前にある大きな広場だぞ。あのドアの先にハイグレ魔王がいるはずだぞ。」 「よし、ななこちゃんの処刑まであと二十分!!まだ間に合う!!行こう!!」 三人が走って行こうとするといきなり白い霧が立ち込める。 「おい、みさえ、しんのすけ、ひまわり、シロ、これは罠だ!!煙を吸うんじゃない!!」 「あな・・・た・・・・。」 「とう・・・・ちゃん・・・・。」 「ウー・・・・・・。」 「アン・・・・。」 「おい・・・しっかり・・・・しろ・・・・。」 全員がぐったりして倒れこむ。四人と一匹はレインの罠にはまり、幻想世界へと連れて行かれた。 あたり一面が濃い霧に覆われている。ひろしはそこで目を覚ました。 「ん、んん・・・・。ここはどこだ?確か俺は広間で・・・。」 ひろしは起き上がってあたりを見渡す。家族が近くに横たわっていた。 「おい、起きろ、みさえ、しんのすけ、ひまわり、シロ!」 「う、うん・・・・。」 全員が意識を取り戻す。ひろしが腕時計を見たが、大して時間は立っていなかった。 「急ぎましょう!!ハイグレ魔王の部屋はすぐそ・・・・・・・!!」 みさえは話している途中に濃霧の中から伸びてきた何かに口をふさがれ、引きずり込まれていった。 「母ちゃん!?」 「みさえ!?おい、どこに・・・・!!」 ひろしも後ろから伸びてきた何かに引きずり込まれていく。しんのすけが気づいた時には既にいなくなっていた。 「父ちゃん!?」 「タイタイ!!」 しんのすけとひまわりの呼びかけに誰も答えない。 「ひま、おいで。オラとひまとシロだけになっちゃった。」 しんのすけはひまわりを抱き上げ、シロと共に前に進む。 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 しんのすけたちの前に三人の女ハイグレ人間が現れた。全員コマネチのポーズをしている。 「あはああはああはあ〜。きれいなお姉さんたち〜。納豆にはネギ入れるタイプ?」 ハイグレ人間たちがしんのすけに気づいて寄ってくる。 「君は野原しんのすけ君かな?」 「オラの名前を知っているとは光栄ですな〜。」 「照れちゃって可愛い〜。美観お姉ちゃんと遊んで欲しいな。」 美観にギュッと抱かれる。しんのすけは胸の谷間に顔をうずめていた。 「オオオオオオオオオ!!」 「次はボクにも抱かせて!!」 隣にいたショートヘアの少女がしんのすけを抱きかかえる。 「こんにちは、ボクは月宮あゆ。あゆお姉ちゃんって呼んでね。」 ほおずりをしてしんのすけを籠絡する。 「ずるいです!私にもご挨拶をさせてください!」 その隣にいた少女にしんのすけは手渡される。 「しんのすけ君、はじめまして。古河渚と言います。」 そうして同じように抱きかかえる。 「タイタイ!!」 「アンアン!!」 ひまわりとシロが外野から盛んに警戒する。 「そ、そうだ!オラ、ハイグレ魔王のところに行かなくちゃ!」 「そんな事よりボクたちと遊ぼうよ〜。」 「で、でも、オラ・・・・!!」 「え〜、しんのすけ君は私たちと遊ぶのがつまらないのかな?」 「ハイグレ魔王を倒したら一緒に遊んで欲しいぞ!!」 「あはは、無理ですよ。ハイグレ魔王様はとってもお強いんですから。」 「オラ、絶対倒すもん!!」 しんのすけは全力で三人から逃れる。 「ひま、シロ、逃げるぞ!!」 しんのすけたちは全速力で駆ける。カッと周囲が光り、白い霧が消え去った。 「あれ?ずいぶん走ったつもりだったのに、これだけだったのか。」 しんのすけたちはハイグレ魔王の間の扉の前にいた。ひろしとみさえは依然として見当たらない。 「よし、行くぞ!!」 しんのすけはハイグレ魔王のいる玉座への扉を開けはなった。 「よく来たわね、ボウヤ。久しぶりだわ。」 しんのすけの目的の人物は玉座に座っていた。奇天烈な仮面と黒いマントをまとった男、ハイグレ魔王。 「ハイグレ魔王!!ななこお姉さんを放せ!!」 「あら、忘れてたわ。」 ハイグレ魔王は剣を抜くとななこお姉さんの首を吊っていた絞首台を切り裂く。つま先立ち状態だったななこお姉さんはそのままうつ伏せになって倒れて気を失った。 「51分。ギリギリだったわね。でも、まあ、ここまでたどり着けただけよしとしましょう。他はほぼ全滅ですものね。」 「全滅?」 「そう、あなたの仲間は全員私の下僕になったわ。御覧なさい。」 ハイグレ魔王が手をかざすと部屋の中を流れ落ちる滝が画面になって城内の様子が映し出される。 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 友人や先生、協力者のリリ子もハイグレ姿になってポーズを取っている。 「あたしの趣味で作ったトラップに全員かかったわ。人間なんて愚かなものね。やっぱりハイグレ人間が一番よ。」 「父ちゃんと母ちゃんは?」 「ああ、あなたのご両親だけはまだだったわね。でも、どうかしら?ヤバそうよ。」 魔王が場面をひろしとみさえの部分にする。しんのすけとひまわりとシロはその画面を食い入るように見た。 「うわあああああああああっ!!やめろ!!俺の心の中に入ってくるな〜!!」 ひろしは頭を抱えてうずくまる。彼に精神攻撃をかけているのは城戸沙織とアンリエッタと秋山麗子だった。神、国王、社長令嬢と全員上位世界にいる人々だった。 「はあ、はあ・・・。」 「肩書きにこだわるなど愚かなことです。ハイグレ人間になって雑念を取り払い、まっすぐに生きるのです!!」 「うわあああああああああ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 みさえは毛利蘭、七瀬美雪、天上院桂に囲まれていた。 「うふふふ、どうかしら?うらやましい?あなたの求めているおっぱいが大きくて腰がくびれててお尻の小さい女の子が。」 三人とも抜群のスタイルをハイグレ姿になってこれみよがしに見せてくる。 「くっ、あたしだって!!」 「そんな服を着飾ってごまかそうとしてもダメ。ハイグレ人間になっておっぱいの大きさなんて関係なしに生きるのよ!!」 「いやああああああああ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「父ちゃん!!母ちゃん!!」 「オーホホホホッ!!私に逆らう者はみんなこうなるのよ!!ハイグレ!!ハイグレ!!って私に服従するのよ!!」 ハイグレ魔王は高笑いをする。退屈がまぎれて楽しくて仕方がなかったのだ。 「さあ、ボウヤ。ここに来たってことは当然アクションストーンをとりに来たんでしょう?」 「うん。オラ、もう許さないぞ!!」 しんのすけはハイグレ魔王にとびかかり、イヤリングを奪い取る。そして、アクションカードと合体させて叫ぶ。 「助けて、アクション仮面!!」 アクションカードとアクションストーンが光る。そして・・・・ボンッと大きな音がして爆発した。しんのすけの手にはアクションカードだけが残された。 「あれ?何で?」 「おバカね〜。前と同じ場所に隠すはずがないでしょう?本物はあっちよ、あっち。」 ハイグレ魔王は上を指し示す。この階の上は屋上。つまり、アクションストーンはハイグレ魔王の像の一番上にあった。 「ひま、シロ、取りに行くぞ!!」 「お待ちなさい!!あなたはここでハイグレ人間になるのよ!!」 ハイグレ魔王がハイグレ銃を取り出す。 「うわっ!!」 しんのすけは次々に撃ちだされるハイグレ光線を避ける。 「ほらほら、アクションストーンを取りに行くんじゃなかったの?」 ハイグレ魔王はわざと外して撃ちながらしんのすけの反応を楽しんでいる。 「もう疲れてきたのかしら?動きが鈍くなってきたわね〜。」 「はあ、はあ・・・。」 「もう遊びはおしまい。ハイグレ人間におなり!!」 魔王がハイグレ銃をしんのすけの胸元に突き付ける。 「おやすみ、ボウヤ。」 ガブッ!!と何者かがハイグレ魔王の腕を噛む。 「シロ!!」 「アンアン!!ウ〜〜〜!!アンアン!!」 「おやめなさい!!この犬!!」 ハイグレ魔王はシロに思いっきり噛まれたりひっかかれたりしてのたうちまわる。 「シロ!!任せたぞ!!」 しんのすけはひまわりをおんぶしてアクションストーンを取りにハイグレ魔王の像に向かった。 「うおおおおおおおっ!!」 しんのすけはひまわりをおぶったままハイグレ魔王の像を登る。幼児特有のすばしっこさを生かし、するすると動く。 「あっ!いたっ!お待ちなさい、このガキ!」 体中がひっかき傷だらけのハイグレ魔王が屋上にやってくる。魔王も自分の像に手をかけて後を追う。 「うおおおっ!!追ってきたぞ!!」 「お待ちなさい!!」 「すごく恐いぞ!!」 ハイグレ魔王の憤怒の形相に恐れをなしてしんのすけのスピードが上がる。そんなこんなで上の方まで追いかけっこは続いた。 「はあ、はあ・・・。ついたぞ・・・。」 ハイグレ魔王より先に頂上のハイグレ魔王の手の部分に到着。しかし、しんのすけはふらふらになっていた。 「早く、アクション、ストー、ンを・・・・。」 今までしんのすけにしがみついていたひまわりが離れ、中央にある円筒形のケースに向かう。 「タイタイッ!」 ひまわりはそのケースに飛び乗り、宝石のようなきれいな玉をしんのすけの元に運んでくる。 「でかしたぞ、ひま・・・。」 へとへとになったしんのすけはポケットからNO.99のカードを取りだす。 「お待ちなさい、それを使ったら!!」 ハイグレ魔王が手を伸ばしてひったくろうとする。しかし、その前に・・・・ 「助けて、アクション仮面!!」 しんのすけは二つを重ねて大声で叫んだ。重ねた部分が金色に光る。全員がその眩しさに目を覆う。 「うわっ!!」 「うわあああっ!!」 カードから仮面をかぶった男が飛び出してくる。アクション仮面だった。 「うおおおおおっ!!アクション仮面、参上!!ははははははっ!!」 「アクション仮面!!」 「ありがとう、しんのすけ君!!君のおかげでここまで来ることができた!!一緒にハイグレ魔王と戦おう!!」 「おおっ!!」 「来ちゃったのね、アクション仮面。」 「ああっ、今度こそ決着をつけさせてもらうぞ、ハイグレ魔王!!」 「うふふふっ、返り討ちに遭うとも知らずに呑気なものね。」 「返り討ち?」 「そうよ。私もあなたとは決着をつけなきゃいけないと思ってたし、いいわ。勝負しましょう。」 「望むところ・・・・!!」 二人は対峙する。しんのすけとひまわりはそれを見守る。 「なら、今回は銃で勝負しましょう?剣はあなたの方が勝っているのは分かったし。それとも、銃は苦手かしら?」 「私は地球を守るために全ての武術を学んでいる。射撃とて例外ではない。」 二人の前に銃が一丁ずつ出てくる。 「なら、それを手に持って構えて。西部劇みたいに1、2、3、で撃ちあいましょう。」 「いいだろう。」 「1、2、で撃ったり卑怯なことしちゃ駄目よ?あたし、そういうずるいの嫌いなの。」 「私は正義のために戦っている。子供に見せられないような戦い方はしない。」 「うふふ、相変わらず頭でっかちねえ。じゃ、背中を合わせて。」 二人は銃を構えたまま背中を合わせる。そして、反対方向に向かって歩き出した。 「1」 「2」 「「3ッ!!」」 二人はお互いを向いて銃の引き金を引く。噴き出した硝煙と大きな音がした後、その場に静寂が訪れた。 二人はお互いに銃の引き金を引いた後もしばし微動だにせず立っていた。 「ぐっ!」 アクション仮面がうずくまり、左肩を押さえる。押さえた手からは血がぽたぽたと流れ落ちた。 「アクション仮面・・・おバカ・・ねえ・・・。」 ハイグレ魔王はそう呟く。そして、ぐらりと体が揺れ、そのまま前のめりに倒れる。魔王の体からは血が滴り落ちる。 「アクション仮面・・・ハイグレ魔王、死んじゃったの?」 「いや、急所は外しておいた。しかし、この状態で私と戦うのは無理だろう。」 「じゃあ、地球は救われたんだね?」 「ああ、もちろんさ。君のおかげだよ、しんのすけ君。」 「オオーッ!!ワーハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」 「ワーハッハッハッハッハッハッハッ!!」 しんのすけとアクション仮面は勝利のポーズで喜びを分かち合う。 「タイタイッ!!」 ひまわりが叫ぶ。 「どうしたの、ひま?」 「なっ!?」 ハイグレ魔王が立った状態でこちらを向いていた。 「うふふふっ。いい一撃だったわね、アクション仮面。」 「まだ立てるのか、ハイグレ魔王!!」 「このくらいであたしが死なないのはあなたも知ってるでしょ?でも、あなたと最後に戦えてよかったわ。それに・・・・時は満ちたわ。」 「時は満ちた?何の事だ?」 「うふふふ、集まれ、ハイグレ人間のハイグレパワー!!」 ハイグレ魔王が両手を上に上げる。すると、どこからともなくピンク色のハイグレ光線と同じ色の光が集まってくる。ハイグレ魔王の銅像の上を包むようにそれは増えていった。 「な、何だ、これは!?」 「あなたを殺すことができないのはこの前戦って分かったわ。だから、あなたを支配するのよ、アクション仮面。ハイグレ人間として私に従うのよ!!」 「私にハイグレ光線が効かないのも分かっているはずだ、ハイグレ魔王。」 「うふふふ、ただのハイグレ光線では、ね。だから、調べたの。古より我が王家に伝わるハイグレの儀式。その効果は何人たりとも拒絶できないわ。」 「何だと!?」 「でもね、そのためのハイグレパワーが足りたくてね〜。今まであちこちを旅して集めていたのよ。でも、その苦労もこれで報われるわ。」 「その完成の前に貴様を倒す!!しんのすけ君!!」 「おおっ!!」 アクション仮面としんのすけは横に並んで両腕を前に伸ばす。 「「アクションビーム!!」」 「させないわよっ!!」 ハイグレ魔王の御前に現れたハラマキレディーたちがバリアーを張ってアクションビームを防ぐ。 「あたしたちも落ちぶれたとはいえハイグレ魔王様の僕!!時間稼ぎくらいはできるわ!!」 「くっ!!しんのすけ君、正義の力を!!」 「おおっ!!おおおおお〜〜〜っ!!」 二人はアクションビームの力を最大限に増やす。ハラマキレディーたちの張ったバリアーはそれに対抗できずに粉々に割れてしまった。 「キャアアアアッ!!」 レディーたちは吹き飛ばされて気を失った。 「ハイグレ魔王!!覚悟!!」 「うふふふ・・・時間稼ぎありがとう、ハラマキレディー。」 ハイグレ魔王は不敵の笑みを浮かべた。 「アクション仮面、ハイグレ人間になりなさい!!」 ハイグレ魔王は満タンにたまったハイグレパワーを一気にアクション仮面に向けて放った。巨大なエネルギーの束がアクション仮面を襲う。 「う、うわあああああああああああああああああっ!!」 アクション仮面は立っていることができず、床をのたうちまわる。 「ほら、どうしたの、アクション仮面?さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」 「ぐわああああああああっ!!」 「うふふふふ、さすがはアクション仮面。これだけのハイグレパワーを送られても抵抗できるのね。」 「アクション仮面!!」 しんのすけとひまわりが近づこうとする。 「邪魔よ!!いいとこなんだから!!レイン!!捕まえておきなさい!!」 「はっ!!」 いつの間にか後ろで控えていたレインが呪文を唱えると、何もないところから現れたロープによって二人が縛られた。 「うわああああああああああっ!!だ、だめだ・・・・!!」 アクション仮面の体から力が抜け、仰向けになって倒れる。眩いばかりのハイグレ光線が収まると、そこには緑のハイレグ水着を着たアクション仮面が眠っていた。 「起きなさい、アクション仮面!!」 ハイグレ魔王がアクション仮面を蹴り飛ばす。アクション仮面は起き上ると、訳が分からないという感じであたりを見回した。 「さあ、アクション仮面。あなたはハイグレ人間になったのよ。何をすればいいのか分かるわよね?」 「はっ、ハイグレ魔王様。当然の事でございます。」 ハイグレ姿のアクション仮面は立ち上がって股間に両手を当てた。 「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 アクション仮面はハイグレ魔王のしもべになり下がってしまった。 「アクション仮面!!」 「おほほほ、見た、ボウヤ?あれだけ私に逆らっていたアクション仮面が私に従っているのよ?滑稽ね。すごく滑稽だわ。」 ハイグレ魔王は成就した願いを前に喜色満面になっていた。 「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 アクション仮面はずっとハイグレポーズを取っている。 「さて、後は憎らしい野原しんのすけ、それに妹もいたのね。あなたたちをハイグレ人間にすれば万々歳ね。」 しんのすけとひまわりの顔が脅えの表情になる。 「あら、恐いの?アクションかめ〜んって呼んでも誰も助けてくれないものね?家族も友達もみ〜んなあなたたちの敵ですしね〜。」 ハイグレ魔王はネズミをいたぶる猫のように二人を脅えさせる。 「レイン、この二人を玉座に連れて行きなさい。あたしが直々に余興を見せてあげるわ。」 「かしこまりました。」 しんのすけとひまわりはレインに担がれ、魔王の玉座に連行された。 「みんな、揃っているようね。」 ハイグレ魔王は玉座に座ると控えている者たちに声をかける。 「父ちゃん!!母ちゃん!!」 控えていたのは家族と友人たちであった。 「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 全員がハイグレポーズで忠誠を示している。 「いい響きだわ。今のハイグレ魔王は宇宙一の存在。誰もあたしの邪魔をしない。そうでしょう?アクション仮面?」 「その通りです、ハイグレ魔王様。」 ハイグレ人間・アクション仮面は魔王に臣従していた。 「さて・・・みんなに集まってもらったのは他でもないの。私に刃向かった重罪人・野原しんのすけとその妹ひまわりを即決裁判で審議するわ!」 魔王がパチンと指を鳴らすと部屋が変化して裁判所の法廷のようになる。 しんのすけとひまわりは被告人席に手錠をかけられた姿で登場した。 「これより裁判を開廷するわ!まずは検察官、被告人の罪状を読み上げなさい。」 「はっ!」 裁判長・ハイグレ魔王は検察官・レインに向かって命令する。 「被告人は恐れ多くもハイグレ魔王様に二度にわたって反逆し、最初の反逆ではハイグレ魔王様の御身を傷つけ、地球のハイグレ化を妨害しました。二回目の反逆においても同様、周囲の人間と共謀してハイグレ城に侵攻、我が支配下のパンスト団や親衛隊と交戦に及び、アクション仮面を呼ぶなどの利敵行為も行いました。」 「被告人、今の罪状を聞いて何か申し述べたい事は?」 ハイグレ魔王はしんのすけに何か言うように促す。 「おらはハイグレ魔王をやっつたかっただけだぞ!おらは正義の味方の味方だぞ!この悪党め〜!」 しんのすけの暴言に怒った裁判官(七人のハイグレ王たち)が次々に立ち上がる。 「ハイグレ魔王様に何たる無礼!」 「発言を取り消しなさい!」 「こいつは死刑にするしかない!」 ハイグレ魔王は木槌を叩いて静粛にするように言う。 「弁護側の証人・・・。」 「はっ!」 ひろしとみさえが前に出る。 「我が息子と娘はハイグレ魔王様に楯突きました。しかし・・・それは我々も同じ。どうか、私のようなやり直しの機会を。」 「どうか・・・お慈悲を・・・。死刑だけは・・・。」 ひろしとみさえが涙ぐんで訴える。しんのすけは自分が間違ったことをしていたかのような錯覚に襲われる。 「弁護側証人・・・次の者。」 幼稚園の先生たちが前に出る。 「しんのすけ君は本当はいいこなんです。きっと、罪を償えば自分の間違いに気付いてくれるはずです。」 「担任の私も同じ考えです。本当は優しい子で、みんなの事を思ってくれている子なんです。」 「どうか・・・更生の機会を彼に与えてあげてください!」 「検察官、あなたの意見を述べなさい。」 「はっ!野原しんのすけはハイグレ魔王様に楯突いた謀反人。しかも、他の者たちとは違い、直接魔王様に危害を加えました。これは不敬罪にあたり、極刑をもって臨むべきです。」 「これから判決を下すけど・・・弁護人、何か最後に言うことは?」 弁護人・桜リリ子が立ち上がる。 「ハイグレ魔王様の思し召しのままに。私はハイグレ魔王様のお慈悲を信じております。」 「いいでしょう・・・。審理終了、これより判決を下すわ。」 「判決!野原しんのすけと野原ひまわりは四か月の有期懲役に処す!」 即決裁判だけに判決はすぐに出た。 「ゆうき・・・ちょうえき?」 「そうよ、あなたはこれから三ヶ月間、食べる事も寝る事も許されず、ずっとハイグレポーズを取り続けるの。つらい罰よ。」 「ずっと・・・?おら、そんなの嫌だぞ!」 「タイタイ!!」 「お黙り!これほどの重罪人を裁くのは久しぶりなの。罪が重くなるのも仕方ないわ。でも、せっかくだから、あたしがハイグレ人間にしてあげる。」 ハイグレ魔王は裁判官の服を脱ぐと、ハイグレ姿でしんのすけとひまわりの前にやってくる。 「さ、いいこだから、今までのことは水に流して・・・これからは私と一緒に暮らしましょう。」 「い、いやだ〜。」 「あなたたちに拒否権はないの・・・。さあ、ハイグレ人間におなり!!」 しんのすけとひまわりにハイグレ光線な浴びせられる。 「うわああああああ!!」 「タアアアアアアア!!」 しんのすけは青、ひまわりはオレンジのハイグレ姿になる。 「さあ、あなたたちの新しい人生の始まりよ!!」 「オ・・・オラ・・・・。」 しんのすけはしばし躊躇ったが・・・。 「ハイグレ!!ハイグレ!!ハイグレ!!」 「タイタイ!!タイタイ!!タイタイ!!」 ひまわりも一緒になってハイグレポーズに精を出す。ここにアクション仮面、カスカベ防衛隊、ふたば幼稚園、そして野原一家。しんのすけに関わる全ての希望が潰え去った。 「とうとうハイグレ魔王様の野望が成就しましたね。」 「ええ、あたしを唯一負かしたアクション仮面と野原しんのすけ・・・。これで宇宙征服、全ての次元の宇宙をハイグレ化するのに脅威が消え去ったわ。」 「しかし・・・前途はまだ多難ですね。全宇宙の掌握には敵対勢力の壊滅、そして更なる高みへいたる進化が必要です。」 「そうね。でも、心配はいらないわ。あたしはハイグレ魔王。全ての人間をハイグレ化するまで闘い続けるわ!」 ハイグレ魔王にとってアクション仮面をめぐる地球との戦いは通過点。これからも老若男女を問わずにハイグレ化し、理想の帝国を気づくことを新たに宣言した。まさに、新たなるハイグレ人間の夜明けである。 完 |
MKD
2009年10月15日(木) 17時55分35秒 公開 ■この作品の著作権はMKDさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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