ロックマンEXE-ハイグレウイルスの脅威-
 西暦20XX年。コンピュータネットワークが高度に発展し、ネットワーク技術が様々な分野に利用されるようになった社会。
 人々は携帯端末「PET(ペット)」と人格を持ったプログラム「ネットナビ」により、専門的な知識を持たずして、数々のネットワーク技術の恩恵を受けられるようになっていた。
 しかし、生活が便利になっていくその一方で、数々のネット犯罪も引き起こされていた。
 インターネットには数多くのウイルスが出現しており、市民はネットナビをバトルチップやカスタムデータによって強化し、これに対抗していた。


 インターネット、アキハラエリア。
 桜井メイルとそのネットナビのロールは、未知のウイルスに襲われていた。
「っ! ロール、キャノン!」
「うんっ、たあっ!」
 バトルチップ『キャノン』でロールはそれを攻撃した。
 しかし、そのウイルスは傷ひとつなかった。
「なんなの……? こいつ……」
 そのウイルスは、奇妙な形状をしていた。
 一言で言えば、上半身だけのネットナビだった。
 ローブのようなもので身を包んでおり、顔にはピエロがつけるような仮面を付けていた。
 浮いているのか、ローブの下に腰から下はなかった。
 その一見すればネットナビにも見える形状は、明らかに他のウイルスとはレベルが違った。
「攻撃もまったく効果がないし……ここはいったん退くべきかも」
「……うん」
 ロールの言葉に、メイルは頷いた。
 もともと、ロールは戦闘向きなナビではない。
 ある程度の戦闘はこなせるようにカスタマイズとバトルチップは用意していたが、それはレベルの低いウイルスの駆除が出来る程度で、ネットナビを相手にしたネットバトルは全く想定していない装備だった。
 今、ロールの目の前にいる敵には、とても対向出来るようなものではなかった。
「なんとか隙を見つけないと……」
「うん……キャッ!?」
 突然ウイルスが震えだし、ローブの至る所が触手のように伸びてロールを襲った。
「ロール!?」
「たあっ!」
 迫り来る何本もの触手をギリギリで回避し、ウイルスの顔面にロールアローを撃ち込んだ。
 やはりダメージはないようだったが、ウイルスの動きが一瞬止まった。
「メイルちゃん、今よっ!」
「あっ、うん! エスケープ!」
 ウイルスがもう一度触手を伸ばすより早く、ロールは別の場所へと転移していた。
「…………ふう」
 二人は胸をなでおろした。
「ロール、大丈夫?」
「うん……でも、なんだったんだろうね、さっきのウイルス」
「わからない……ものすごく強かったし、今度熱斗に相談してみよっか」
「そうだね。私たちじゃ、どうしようもなかったもんね」
「…………」
 二人は沈黙する。
「ふう、なんか変なこともあったし、今日はこれで寝ようか、メイルちゃん」
 気を取り直すように、ロールが明るい声で言う。
「うん、そうだね。じゃ、プラグアウトしよっか」
「了解、プラグアウト」
 こうしてロールはインターネットから自分のPETに戻った。

 だが、この時は気づいていなかった。
 あのウイルスとの戦闘。
 あの時の触手が、ロールの体をかすめていたのだった。
 眼に見えないほどの小さな、ほんの小さな傷。小さなノイズ。
 ほんの小さな歪みにメイルもロールも気づかぬまま、一日を終えるのだった。


 綾小路やいとは、学校の帰りに黒井みゆきが経営する骨董品屋に寄っていた。
 習い事の日ではないし、やいとのナビ、グライドも少しだけなら、と許してくれた。
「……ねえ」
 と、やいとが古い壺などを見ていると、店主のみゆきの方から声をかけてきた。
「な、何か?」
 驚きながらやいとは店主を見た。
 みゆきは正直言って不気味というか、無表情で自分から話しかけてくるタイプには見えなかったからだ。
「ふ……ふふ、そんなに驚かなくてもいいの」
 みゆきはクスクスと笑いながら、カウンターに一枚のバトルチップを置いた。
「ただ私は……あなたは何となく、チップが欲しいのではないかと……思っただけよ」
「はぁ……」
 やいとはみゆきの微笑みから顔をそらしながら、カウンターに近づいた。
 確かに、チップを欲しいと思っているのは事実だった。
 自分の家が金持ちであることもあり、珍しいチップはできるだけ手に入れていた。
 それがグライドの戦力アップにもつながるからだ。
「私も……骨董品だけじゃ商売もきついし……あなただって……ここへ来ても見るだけでしょう?」
 それを言われると、やいとも返す言葉がなかった。
「と言うわけで……どう? お安く……しておくけれど」
 やいとは、チップを手にとった。
「何このチップ、見たことないんだけれど……」
「……それはそう……当然……」
 みゆきは、さらに深い笑みを見せた。
「偶然発見した未知のウイルスから手に入れた……ものだから……まだほとんどの人が……知らない」
「ふうん……」
 その言葉に、やいとは興味を示した。
 インターネットの深くには、ラッシュのようなめったに姿を見せない、珍しいウイルスが存在する。
 そのウイルスから手に入るチップも、当然レア物。
 もしもみゆきの言うとおり未知のウイルスからのチップならば、相当なレアチップだろう。
「……どう?」
「買うわ。でも、不良品や偽物だったら承知しないわよ?」
 即答して、やいとは店主を見た。
「……ええ、大丈夫。きっとあなたも気に入るはずよ」
「?」
 みゆきの言葉にやいとは首を傾げた。
「……何でもないわ。それで、値段は二千五百ゼニーで……どう?」
「……グライド」
「はい……ですが」
 グライドが何かを言う前に、やいとが口を開いた。
「構わないわ。偽物だったらこの店に殴りこめばいいだけよ」
「……はい、やいと様」
「クスクス……まいどあり……」
 みゆきは一層深い笑みで、チップをやいとに手渡した。
 その店主の笑みに不審なものを感じたが、この店主が不気味なのはいつものことだと思い直し、やいとは店から出た。


「ウマクイッタヨウダナ」
「……はい」
 夕暮れ、みゆきはPETから響く声を聞きながら店を閉めた。
 PETから見えるのは、本来のみゆきのネットナビのスカルマンではなく、ピエロのような仮面。
「はぁ……はぁ……」
 店に戻ったみゆきは我慢の限界かのように、服を脱ぎ捨てた。
 そこに現れたのは、肌を包む黒いハイレグだった。
 そして、不意にガニ股になると、深い切れ込みにそってゆっくりと手を動かし始めた。
「ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……ああ、気持ちいい……」
 その動作がよほど快感なのか、みゆきは恍惚とした表情で動作を繰り返す。
「ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ人間が……ハイグレを我慢だなんて……辛すぎるわ……」
「モット、ハイグレヲヒロゲロ」
「ハイグレ……ハイグレ……わかっております……魔王様」
 みゆきは机に立てかけたPETの中の存在に向けてハイグレポーズを見せた。
「すぐにこの世界も……電脳世界も……ハイグレ魔王様のものに……なることでしょう……」
「ハヤク、ハイグレニンゲンヲ、フヤセ」
「かしこまりました……ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ……」
 みゆきは笑いながら、何度も何度もハイグレポーズを繰り返し続けた。
吟狐
2009年12月11日(金) 23時43分48秒 公開
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■作者からのメッセージ
このゲーム、原作から洗脳プログラムやダーク化などがあるのでつい書いてしまいました。
随時更新します。