ひぐらしのなく頃に ハイグレ晒し編


昭和58年7月1日夕刻。私、古手梨花は沙都子と羽入と一緒に住んでいる家の縁側で涼んでいた。千年を経て勝ち取った奇跡の世界。その世界を私は生きている。その祝いの酒にこっそり拝借した安物の梅酒だけでは物足りないけど、まあ、それも一興かしらね。
「嬉しそうな顔をしていますですね。梨花のそういう顔を見ると僕も嬉しくなりますですよ。」
羽入が私の隣に座って風に当たる。一緒にいろんな世界を旅してきたいわば戦友だ。
「羽入、この日を迎えるまでいろいろあったわね。」
「はいなのです。圭一が暴走する世界、詩音が暴走する世界、レナが暴走する世界もありましたです。」
この雛見沢村特有の風土病。ルートX、Y、Zか。遠い過去の話に聞こえるわね。
「他にもありましたです。レアな世界でしたけど、皆で戦ったけど殺されてしまった世界、圭一が転校してこなかった世界。富竹が死ななかった世界もありましたね。」
「そんなのあったかしら?」
「ありましたですよ。ほら、ハイグレ人間に襲われた世界なのですよ。」
ハイグ・・・レ・・・?その瞬間、頭に忌まわしい光景がよみがえる。そうよ、あれは事故・・・。あんな世界あたしは認めない・・・。
「梨花・・・?」
羽入の声が遠ざかっていく。私はどんどん記憶の底に落ちていく。思い出す、あの記憶を・・・・。



昭和58年6月19日。綿流しの当日。私は学校の机に座って頬杖をつき、空を眺めていた。この世界でも何も変えられそうにない。富竹と鷹野は死ぬのだろう。そして、何があるにせよ私は死ぬ・・・。
「おはよう!!」
「おはよう!!」
富田、岡村、それに部活メンバー。みんながいつもの通り同じ時間に同じ順序でやってくる。千年も生きてればこのくらいわけなく覚えているわね。いつもどおりに皆着席して、いつもどおりに知恵が同じ時間に出席を取る。そして、同じ授業が始まった。

「頂きます!!」
「頂きます!!」
昼休みに部活メンバーでお弁当を食べる。相変わらず同じメニュー。同じやりとりが続く。退屈だわ。
「梨花?梨花?何をぼうっとしていますの?」
沙都子が肩をゆすって私の名前を呼ぶ。
「何でもないのですよ、み〜。」
「あ、分かった。今日の綿流し、緊張してるんでしょ?大丈夫だって。梨花ちゃんならうまくできるよ。」
「そうだよ。梨花ちゃん、毎日練習してるもんね。」
魅音とレナが私にそんな事を言う。練習?できるに決まってるじゃない。何十回やってると思ってるのよ。
「あ、なんだ、あれ?」
「うわっ!なによ?気持ち悪い〜。」
他の生徒たちが何やら窓から外を見て騒いでいる。何かしら。今までとは異なる事象だわ。ちょっと興味をそそられる。私たちも窓を見る。
「なんだ、ありゃ?なんかのショーか?」
圭一が食べかけのウインナーを口にくわえながらいぶかしげな表情をしている。何かしら、あれ?赤い服とパンストを被った正体不明の存在。銃を抱えてオマルに乗って二人が校門を入ってくる。
「どうかしましたか?」
知恵が騒ぎを聞きつけて教室にやってくる。
「先生、見てください、あれ。」
圭一が正体不明のパンスト男を指さす。知恵も怪訝な顔をして怪しむ。
「皆さんは教室で待機してい下さい。先生と校長先生が話を聞いてきます。不審者の恐れもあります。園崎さん、子どもたちをよろしくお願いしますね。」
「はい。分かりました。」

海江田を先頭にして知恵がグラウンドに出ていく。
「あなた方、この学校になんの用ですかな?この不肖・海江田がご用件を承りますが。」
「アクションストーンを渡せ。」
パンストを被った男が叫ぶ。
「アクションストーン?はて、そのようなものはこの学校にありませんが。知恵先生、なにかご存知ですか?」
「いえ、私も。何なのです、そのアクションストーンとは。」
「とぼける気か。いいだろう。」
パンストを被った男二人が肩にかけていた銃を正面に構える。まっすぐ海江田と知恵を狙っていた。
「な、なんのまねだ!!」
「その銃をおろしてください!!」
しかし、二人の男たちは聞く耳を持たず、銃を撃つ。
「うわああああああああああっ!!」
「きゃああああああああああっ!!」
すごく眩しい光線が二人を包む。大の字になって数秒後、二人の服装がハイレグの水着姿に変わっていた。
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
海江田は黒、知恵は水色のハイレグ水着に身を包んでコマネチをしている。変な男たちからハンドガンを受け取って学校内に戻ってくる。パンストを被った男二人も一緒についてくる。

「さあさあ、皆さん。静かにしてください。大切なお話があります。」
教室の生徒たちはみんな何が起きているのか分からない表情。
「今日から皆さんはハイグレ人間になって暮らしてもらいます。いいですね?拒否権はありません。それと、アクションストーンについて知っている人はすぐに申し出てください。ハイグレ魔王様に差し上げなければなりません。」
なによ、何言ってるのよ?さっぱり分からない。ハイグレ人間?ハイグレ魔王?アクションストーン?一つも理解できない。
「さあ、みんなハイグレ人間にしてしまおう!」
海江田の号令。そして、さっきの光線銃を撃ってきた。
「うわあああああっ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
富田がハイレグの水着姿になってポーズをとる。
「ぎゃあああああっ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
岡村もそれに続いてハイレグの水着姿になる。
「みんな、逃げてえっ!!」
魅音が大声で叫ぶ。しかし、その号令もむなしく次々に男の子も女の子もハイレグの水着姿に変えられていく。
「あたしたちも逃げるよ!!ほら!!」
「梨花ちゃん、沙都子ちゃん、離れちゃダメだよ!!」
私と沙都子は魅ぃとレナと圭一に連れられて教室の外に出る。ハイレグの水着姿にされたクラスメイト達が追ってくるのを振り切って学校の外に出た。
「くそっ、どうなってやがる!?とにかく隠れろっ!!」
私たちは近くの茂みに隠れて騒ぎが収まるのを待つ。生徒たちの悲鳴が次第に小さくなり、そして消えた。全滅してしまったようだ。ハイグレと叫ぶ声が大きくこだまする。
「電話を貸してもらおう。警察に電話だ!!」
圭一は先陣を切って集落の方へと駆け下りていった。私たちもそれに続いて走った。

一方、学校では・・・・・
「どう、Tバック?アクションストーンは見つかったかしら?」
「いいえ、どこにもありやせんぜ。ハイグレ人間にしたガキどもも知らないありさまで。」
「この村のどこかにあるはずよ。全員ハイグレ化してでも探しなさい。北春日部の一味に気づかれる前に。」
「はっ。合点承知です。」
「お行きなさい、Tバック男爵!!」
話し合っていたのは仮面をかぶったモヒカン男と眼鏡をかけた太っちょの戦士だった。



私たちは綿流しの準備をしている古手神社に向かう。あそこでは多くの村人がいるはずだ。
「うわっ!追手が来たよ!」
レナが空を指さす。オマルに乗った兵士が二人こちらに向かってくる。
「あたしに任せて!」
魅音が身をかがめて跳躍する。回し蹴りで二人とも倒した。
「よし、よくやった、魅音。これで古手神社までまっしぐらだぜ!」
圭一が先頭になって走っていく。私たちをぐんぐんと突き放して先に会場に着いてしまった。
「ぎゃああああああああああああっ!!」
圭一の悲鳴が聞こえる。まさか!?やられたの!?私たちが全速力で追いつくと、そこには倒れこんでうずくまっている圭一の姿が。
「何をやっているのですか、圭一?」
「気をつけろ、梨花ちゃん。敵は・・・・恐ろしい・・・・。」
圭一がうめき声を上げながら会場を指さしている。その指さす先を見ると、おぞましい光景が広がっていた。
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
祭りの準備をしていた老人たちが全員ハイレグの水着姿でコマネチをしている。何なのよ、これ!?
「婆っちゃっ!?」
「村長さん!?」
全員があちこちに固まってポーズを取っている。
「そうだ、電話!!」
レナが気を取り直して近くの家に入って電話をかける。しかし、つながらない。
「村に電話つないでる線は一つしかない。そこをやられたみたいだね。」
「なら、興宮に参りましょう。走ればすぐですわ。」

私たちは麓へ続く道をひたすら走る。走っている私たちに反対側から車が一台やってくる。
「危ないっ!!」
車の方も急ブレーキをかける。正面衝突だけは回避できた。
「前原さん!?はあ、はあ。皆さん、ご無事でしたか。」
車の窓から顔を出したのは興宮署の大石だった。
「ご無事ってあんたの方こそご無事ですか?」
「ええ、問題ありません。ほら、このとおり・・・。」
車から出ようとした大石はもんどりうって倒れる。腕には何かに斬られた跡があった。よく見ると車にも無数の穴やへこみがある。
「ここに来る途中にやられましてね・・・。なんとか撒いてきたんですが、ぐううっ・・・。」
「大石さん、しっかりして!すぐに手当てするから!」
「結構です、竜宮さん。それよりも早くこの事を麓に行って伝えてください。警察無線も妨害されて使えませんし、雛見沢に通じる道路は全て塞がっています。出来る限り人目につかない場所を通ってください。」
大石はなんとかそれだけ言うと、そのまま気を失ってしまった。魅音が大石のホルダーから拳銃を抜き取って護身用に懐にしまう。
「よし、裏山を通って行こう。あそこなら沙都子の作ったトラップで時間を稼ぎながら走れる。少し遠回りだけどあの兵士たちに狙い撃ちにされるよりはましなはずだよ。」
「ああ、そうだな。行くぞ、みんな!!」
「オーなのです!!」
私たちは勝手知ったる裏山へと入る。ここなら軍隊相手にも通用する沙都子のトラップで敵を撒くことができるだろう。

早速敵のパンストをかぶった兵士たちが追ってくる。後ろには親玉と思しきサングラスをかけたオッサンがいる。
「いたぞっ!!あいつらにアクションストーンの反応がある。全員ハイグレ人間にして調べろっ!!パンスト団突撃っ!!」
ああ、あいつら、パンスト団っていうのか。それと、あの改造された村人やクラスメイト達はハイグレ人間っていうのね。
「うわあああああっ!!」
森の中に入って私たちを追いかけてきた兵士が悲鳴を上げて下へ消えていく。落とし穴に落ちたか。
「うわあああああっ!!」
今度はロープに引っ掛かって上から石が落ちてくる。
「くそっ、罠があるのか。気をつけろっ、お前らっ!!」
しかし、用心して進んでも次から次へとトラップに引っ掛かっていく。みるみるうちに敵兵が減っていく。私たちはその間に遠くへ逃げる。
「くそっ・・・地上戦は無理か・・・。こうなったら森ごと吹き飛ばしてやるぜ!!ティーバック!!」
男は乗っている乗り物に手をっ込む。すると、後ろからミサイルのようなものが出てきて、それを頭に抱える。
「ロックオン!!ファイヤー!!」
ミサイルがこっちに向かって飛んでくる。障害物を避けながら進んでくる高性能な代物だ。
「うわー、逃げろー!!」
私たちは必死に走る。しかし、ミサイルはどこまでも追ってくる。
「もう目の前に来ていますわ!!」
「みんな、伏せて!!」
レナの号令の前に全員自分に伏せる。ミサイルは止まれずにまっすぐ進んでその後Uターンしてくる。私たちはさっと横へ転がって避ける。
「おわああああああああっ!!」
後ろから追ってきていた男にミサイルが命中してしまった。
「ティーバック男爵様!!」
他の兵士たちも追撃をやめてティーバック男爵の救出に向かう。今のうちに逃げよう。私たちはその場を全速力で離れた。

「くそっ、奴らを取り逃がしちまった・・・。すぐに追わないと・・・。」
ティーバック男爵は歯ぎしりして悔しがった。そこへ兵士が無線を持ってやってくる。
「ハイグレ魔王様から連絡です。追撃は中止せよ。手は打ってある、と。」
「帰ったら魔王様からお仕置きを受けるだろうな・・・。」
男爵はため息をつく。しかたなしに引き上げることにした。



「追ってこないな・・・。もうあきらめたのか?」
圭一が走りながら後ろを振り返る。確かに、誰も後ろから追ってくる様子はない。
「走りすぎで疲れましたわ。少し休ませて下さいまし。」
「そうだね。あの木の下で休もうよ。」
レナがこのあたりで一番大きい木を指さす。あそこなら周りも見渡せるし、逃げる時も困らないだろう。地面に出ている木の根に座って足をストレッチする。
「あいつら、アクションストーンを狙っているって言ってたよね?圭ちゃん、レナ、沙都子、梨花ちゃん、何か心当りはない?」
「俺はポケットに小銭とハンカチぐらいしか持ってないぞ?」
「私はトラップの道具を少々。でも、石のような物は持っていませんわ。」
「僕も分かりませんです。」
レナがはたと何か気付いて口に手を当てる。
「もしかしたら!」
レナがポケットからビー玉くらいの大きさの虹色に輝く石を取り出した。
「なんだよ、それ。ただのビー玉か?」
「ただのビー玉じゃないよ。これ、昨日秘密基地の側で拾ったものだよ?だよ?すっごくかぁいいんだよ〜。」
レナが大事そうにその玉を持っている。
「それが一番怪しいっぽいね。奴らの目的はたぶんその石を奪うことだよ。」
「それに何の意味がありますの?村人を皆ハイレグの水着姿にしておかしなポーズを取らせてまで欲しいものなんですの?」
「さあね。ただ、奴らにそれを奪われるとやっかいなことになるんじゃないかな。是が非でも奪おうとしているしね。」
「と言ってもそれを持ったままだと追跡されちゃうみたいだぞ?捨てたほうがいいんじゃないか?」
圭一が魅音に反論する。ここはどうするべきだろう?よし、聞いてみるか。
「羽入・・・羽入・・・・。」
私は他のメンバーに聞こえないように小声で羽入を呼ぶ。すると、彼女が側に現れる。
「何なのですか、梨花?」
「あの石、なんか不思議な力とかあるの?」
「よくは分かりませんが、恐らく異次元の世界から様々なエネルギーを取り込んだりやりとりできるようなのです。この地球上にある物質からは作れませんですね。」
「やっぱり敵に奪われたらまずい?」
「恐らくまずいと思いますです。その石には僕と同じかそれ以上の力が込められていますです。それと、壊そうと思っても無駄なのです。その石は僕の力を持ってしても傷一つつけられない代物なのです。」
「そう・・・。時限爆弾より厄介ね。捨てる事も止めることもできない。」
「ただ、少しだけその石の力を弱めることはできると思いますです。人ならざる力を持つ者、つまり、この中では梨花の体内に取り込んでしまえば多少なりとも敵の目をごまかせると思いますです。」
つまり、飲み込めってこと?まあ、いいわ。やってやろうじゃない。
「レナ、レナ。僕にもその石を触らせてほしいのです。」
私はレナからアクションストーンを受け取り、口の中に放り込む。少しは躊躇いの気持ちもあったが、ごくりと飲みこむ。
「な、何やってるんですの、梨花?」
「あはは、美味しい飴さんに見えたので口の中に入れたらお腹のほうにいっちゃったのです。」
子供のたわいのない悪戯に見せかけてなんとかごまかす。これで少しでも敵の追撃をかわせるはず。
「た、大変だ、梨花ちゃん!!すぐに吐き出さないと!!」
圭一が慌てて立ち上がって私の方に歩いてくる。その圭一に赤い光線が飛んでくる。
「圭一君、危ない!!」
「へっ?」
圭一が後ろを振り返る。その瞬間、圭一にその光線が命中した。
「うわあああああああああああっ!!」
圭一の体が赤く光る。大の字になって悲鳴を上げる。制服とハイレグ水着が入れ替わり、光が収まるとそこには緑色のハイレグ水着を着た圭一が立っていた。
「な、なんじゃこりゃっ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
圭一が男の子にも関わらず女性用の水着姿になってポーズをとる。
「気を付けて!!敵襲だよ!!」
魅音が私を、レナが沙都子をかばいながら周囲を見渡す。

「うふふ、やっと見つけたわよ、あなたたち。」
長距離狙撃銃を持って出てきたのは鷹野だった。黒いハイレグの水着姿だ。
「鷹野さん!?あなたもハイグレ人間に!?」
「私だけじゃないわよ。ねえ、ジロウさん。」
後ろから富竹もやってきた。同じ黒のハイレグの水着姿だった。
「やあ、君たち。ははは、どうだい。僕のハイグレ人間姿も似合っているかい?」
似合ってるわけないでしょ。男が着る格好じゃないもの。圭一もそうだけど、恥かしくないのかしら?まあ、洗脳されているのにそんなこと言っても無駄か。
「さあて、前原君の次はどの子をハイグレ人間にしてあげましょうかね?うふふ、迷っちゃうわ。だって、どの子も可愛いハイグレ姿になってくれるでしょうから。」
鷹野が残酷な笑みを浮かべながら銃をちらつかせる。
「どの子からでもいいじゃないか、鷹野さん。どうせ全員ハイグレ姿にするんだから。」
「もう、ジロウさんは分かってないわね。ランチバイキング行ったら沢山好きなメニューが並んでて困るでしょう?それと同じよ。はあ、どの子にしようかしら?」
鷹野はまだ迷っていた。しきりに銃を動かしている。
「そうだ、前原君に決めてもらいましょう。ねえ、前原君。誰からハイグレ人間にしてあげるのがいいかしら?」
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!そうだな・・・梨花ちゃんかな。アクションストーン持ってるの梨花ちゃんだし。」
「あら、そうだったの。じゃあ、梨花ちゃん。お姉さんの前に来て頂戴。優しくしてあげるから。ふふふ。」
「させるかっ!!皆、耳ふさいで!!」
魅音が大石の拳銃を取り出す。間髪入れずに撃鉄を外し、引き金を引く。ズドンという音とともに鷹野の銃の銃身が真っ二つに割れる。
「逃げるよっ!!」
私たちはすぐさま走る。これ以上にないくらい全速力で。
「逃がすかあっ!!ジロウさん、撃って!!あの子たちを撃って!!」
鷹野が狂乱して叫ぶ。富竹がすぐにハイグレ光線を撃ってくる。えっ?私の方に飛んでくる?駄目・・・・避けられない!!
「うわあああああああっ!!」
ああ、私、当たったんだ・・・・。あれ?でも、私の体が光ってない。なんで?恐る恐る目を開けてみる。私の前には魅音がいた。彼女にハイグレ光線が当たって苦しんでいる。
「魅ぃ!!どうして?僕をかばってくれたのですか?」
「当り前でしょ?オジサンは部長だからね。みんなを守る義務がある。早く逃げて・・・。もう、精神保てない・・・。」
魅音が赤色のハイレグの水着姿で苦痛に耐えながら喋っている。そして・・・
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
魅音が大きな胸を揺らしながらハイグレポーズを取る。完全に精神まで洗脳されてしまった。
「二人とも、レナから離れないで!!逃げなきゃ・・・圭一君と魅ぃちゃんの犠牲が無駄になるよ!!」
私と沙都子はレナに連れられて敵の追撃を撒くためにこの場を走り去った。



私たちは追手を撒いて興宮との境界付近までやってきた。やはりハイグレ人間の見張りがいる。
「ここからでは先に進めませんわ。でも、戻るにも追手が来ますし・・・。」
「ダム工事現場のつり橋を通って行こう。ここがダメだと興宮に行くにはあそこを通っていく以外にないから。」
レナに連れられて森をまた走る。追手はトラップに引っ掛かっているのかやってこない。

「一気につり橋までやってきましたわね。」
ダム工事現場のそばまでやってきた。下はゴミ捨て場になっていて不法投棄の産業廃棄物が散乱している。
「あっ・・・・・。」
レナが鉈を取り落とした。拾ってあげようと振り返る。しかし・・・・
「レナ!?」
レナが大の字になって悲鳴を上げていた。体が点滅し、収まると白いハイレグ水着を着ていた。
「に、逃げて・・・・だ、だめーーーーーっ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
レナは革靴を履いた状態で前屈みになってハイグレポーズを取り出した。
「そ、狙撃ですわっ!!」
「沙都子、あのつり橋を渡っちゃダメ!!狙い撃ちにされるわ!!こっちよ!!」

「いたっ!こっちだよ!みんなあたしに続いて!」
魅ぃと圭一が他のクラスメイト達を率いて追ってきた。ハイグレ銃を撃ちながらこっちに突進してくる。
「レナ!!お前も我がハイグレ部の一員だ!!一緒に梨花ちゃんと沙都子をハイグレ人間にしようぜ!!」
「うん、了解だよ!!二人ともかぁいいハイグレ人間にしてあげようかな、かな?」
レナの目が黒くなる。L5の時と同じ目をしてハイグレ銃を持って追ってくる。まずい・・・あの状態のレナに勝てるわけない。逃げるが勝ち!!

私は沙都子を連れてレナのゴミ捨て場に逃げ込んだ。ここなら資格も多いし、そう簡単には捕まらないだろう。
「どうして・・・どうしてこんな事になってしまったんですの!?なんですの、あの人たちは!?ハイグレ人間ってなに!?ごほっ、ごほっ!!」
「落ち着くのです、沙都子。僕たちは必ず助かりますですよ。」
「ゴホッ!!ゴホッ!!」
まずい・・・。このままストレスのある状態が続けば沙都子が危ない。誰か、誰でもいいから助けにきて!!
「ぐわあああっ!!」
「きゃあああっ!!」
遠くから悲鳴が聞こえる。でも、これ、あたしのクラスの子供たちじゃない?なんで?

「あはは、梨花ちゃん、沙都子ちゃん、み〜つけた!」
しまった!悲鳴のする方向にばかり気を取られて反対側からやってくるレナの足音に気づかなかった!
「さあ、動かないでね。二人ともかぁいいから迷っちゃうな〜。ああ、どんな色のハイレグ水着を着てくれるんだろう、だろう?」
レナは妄想世界にトリップしつつもハイグレ銃をこちらにちらつかせている。
「あ、そうだ。梨花ちゃんがアクションストーンを持ってるんだったね?」
「アクションストーンを渡せば助けてくれますですか?」
「あはは、それは無理だよ。だって〜、この村の人は全員ハイグレ光線でハイグレ人間にしなきゃいけないからね。」
後ろからも足音。魅ぃと圭一だった。
「ここは完全に包囲した。さあ、大人しくハイグレ人間に・・・・っ!!きゃっ!!」
魅音が私にハイグレ銃を向けようとした瞬間、ぐらりと体が揺れて倒れた。
「お、お前は・・・・っ!!ぐわああっ!!」
圭一もハイグレ銃を向けようとした瞬間にバチッと音がして倒れる。
「詩音さんっ!!来てくれたんですのねっ!?」
スタンガンを片手に持った詩ぃが魅ぃと圭一の前に立っていた。
「は〜い、来ちゃいましたー。学校抜け出してサボろうと思っていたら、こんな面白い場面に遭遇するとは思ってもいませんでした。」
詩ぃは私と沙都子をかばって前に出る。レナと対峙する。
「どうして邪魔するのかな、詩ぃちゃん?せっかくのお楽しみなのに!!」
「どうして?そんなの決まってるじゃないですか。こんな妙なのに付き合う義理はありませんから。」
詩ぃは言うなりレナの懐に飛び込んでスタンガンの電撃を浴びせる。水着一枚で防ぎようのないレナはその場に倒れ込んだ。
「詩音さーんっ!!」
沙都子が詩ぃに飛びついて泣きだす。助けが来てほっとしたようだ。
「あらあら、本当にどうしたんですか?梨花ちゃま、私にも分かるように説明してもらえます?」



しばらくして・・・・
状況を把握した詩ぃはスタンガンで気絶させた雛見沢分校の生徒たちを全員縛りあげてバスの中に閉じ込めた。私と沙都子もそれを手伝って奴らが目を覚ます前に作業を終えた。
「さて・・・これで邪魔者はいなくなりました。後はつり橋を通って興宮まで行きましょう。私の実家に駆けこめばなんとでもなります。園崎組を舐めないで下さい。」
「皆はどうするんですの?」
「監督に相談できればよかったんですけど、この騒ぎだと彼自身もハイグレ人間になっている可能性が高そうですね。」
入江ならなんとかしてしくれるかもしれない。でも、この状況じゃ無理よね。
「ま、その辺は警察とか自衛隊とかに任せましょう。税金泥棒たちにはこういう時に働いてもらわないと。」

私たち三人はつり橋を渡る。渡っている途中に敵が来ないといいんだけど。絶好のカモよね、私たち。
「う、後ろから追手が来ますわ!!」
後ろから鷹野、富竹、それに多くの手下を抱えてハイグレ人間を撃ちながら追撃してきた。
「ま、前からも来るのですっ!!ボクたち囲まれているのですっ!!」
前からは入江が追ってきた。なんて巧妙な連携プレーなの!?
「早く渡りきって!!全員ハイグレ人間にされます!!きゃっ!!」
鷹野の撃ったハイグレ銃が詩ぃの大きな胸を貫いた。何が起きたのが一瞬分からない表情だったが、それがすぐに苦しみに変わる。
「きゃあああああああああああああああっ!!」
「詩ぃ!!」
吊り橋の上でそのままの姿勢で詩ぃは黄緑色のハイレグ水着を着た姿に変わっていた。
「な、なんですか、これはっ・・・・!!い、いや・・・・ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
詩ぃは少し拒絶反応をしながらもハイグレポーズを取るたびに嬉しそうな顔に変わっていく。
「沙都子、詩ぃのことはあきらめて逃げるのですよ!!」
「もう嫌ーーーっ!!」
「落ち着くのです、沙都子!!しっかり!!」
「こんな恐い目に遭うなら・・・いっそハイグレ人間になった方がましですわ!!梨花だけでもお逃げになって下さいまし!!」
「何を言ってるのですか、沙都子!!ボクだけ逃げるなんて嫌なのです!!」
そんなやり取りをしている間に敵は詩ぃをも巻き込んで私たちを取り囲んでいた。
「あらあら、いいわねえ、女の子同士の友情。お姉さん、ちょっと嫉妬しちゃうわ。」
「そうだね、鷹野さん。任務とはいえ少し撃つのが心苦しくなってくるね。」
鷹野!!富竹!!
「さあさあ二人とも。お着替えの時間ですよ!!といっても今日はメイド服ではなく・・・ハイレグですっ!!」
空気の読めない入江が突進しようとする。しかし、それを隣にいた男が肩をぐいと押さえる。
「二佐、焦りは禁物ですぜ。あの髪の長いアマのほうは、アクションストーンを持っています。下手に飛び降りたりされたら面倒ですぜ。」
ニサ?なんのこと?兄さんの略語かしら?
「しかし、どうすれば?」
「おい、やれ。」
隣にいた男が命令するとハイグレ人間の圭一・レナ・魅ぃが両腕に棒を巻かれた状態で出てきた。
「大人しくつり橋を渡ってここまでこい!!さもなくば、こいつらを一人ずつ川に突き落とす!!」
「い、いやああああああっ!!」
魅ぃが恐怖のあまり悲鳴をあげる。なんて汚い奴らなの・・・・!!
「い、嫌あああっ!!行きます!!行きますから三人を落とさないで下さいまし!!」
沙都子は半狂乱の状態でつり橋を駆けだした。私も沙都子を追いかけてつり橋を降りる。そこで捕まった。

「よくやったわ、お前たち。」
後ろから仮面をつけた人間がやってくる。みんなハイグレポーズを取りながら道を開けて通しているけど誰?誰なの?その人物は私たち二人の前に腰を下ろして仮面を外した。
「私はハイグレ魔王・・・。よ・ろ・し・く。」
気持ち悪い・・・・。オカマ・・・。
「で、どっちの小娘がアクションストーンを持っているのかしら?」
「こちらです。」
私がご指名に預かる。くっ・・・・皆の前で食べてしまったのが裏目に出たわね。
「あら、そうなの。じゃ、およこし。」
ハイグレ魔王が私のお腹のあたりにてをかざし、不思議な光線を出す。すると、体をすり抜けてさっき飲み込んだアクションストーンが出てきた。
「うふふ、砕けよ!!」
アクションストーンはハイグレ魔王の手によって砕け散った。こいつ・・・羽入以上の力を持っているっていうの?
「アクションストーンを壊したんならもうここにいる必要はないんでしょう!?だったら、私たちを元に戻して帰りなさいよ!!」
「あら、それは駄目よ。この村人たちは使えそうだから私が連れて帰って幹部職員候補にしてあげるわ。育てればティーバックやハラマキレディーズより優秀な中間管理職になれるわよ。さ、あなたたち。ハイグレ城にお行きなさい。」
そう命令されると仲間たちが次々にオマルに乗ってどこかに飛んでいく。
「さて、あなたたちもハイグレ人間にしてあげないと。じゃ、まずはあなた。」
「ひっ!!」
沙都子に魔王がハイグレ銃を突き付ける。
「恐がらなくてもいいのよ。気持ちいいから。」
「い、いやあああああああああっ!!」
沙都子の体がハイグレ光線に包まれる。悲痛の声を上げてハイグレ人間に改造されてしまった。
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
黄色のハイレグ水着を着て沙都子は思い切りよくハイグレポーズ。そんな・・・・。

「さて、最後はあなたね。散々私たちに逆らってくれたけど、それも終わり。今まで逆らってきた分、きっちりと奴隷のように働いてもらうわよ。」
「あんたなんかに操られるもんですか!!」
「そんな事を言っていられるのは今のうち。さあ、ハイグレにおなりなさい!!」
ハイグレ魔王が私に向けてハイグレ銃を撃つ。
「きゃああああああああっ!?」
私の体が・・・・!!私の体が変わっていく・・・・!!制服が・・・シャツとスカートと下着が全部脱がされる。綿流しの後に裸にされて殺される時と同じ苦しみ・・・・そして、その後すぐにキツキツの服が着せられる。スクール水着よりもタイトなハイレグ水着・・・・。切り込みのラインがきつい青のハイレグ水着が制服と交互に入れ替わって私に強制的にその姿にされる。光線の点滅が収まると、私は青いハイレグ水着姿になっていた。
「くっ・・・・あやつ・・・あやつら・・・・ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
だ、だめ!!なんてことなの!!私が私以外の誰かによって操られている!!私はハイレグ派じゃないのよ!!こんなのプールで誰も着ないでしょ!!
「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
このポーズは何!?なんでこいつら恥ずかしくないの!?それに・・・沙都子と並んでハイグレポーズなんて取ったら私の胸が小さいのがバレバレじゃない!?魅ぃや詩ぃの隣だったら余計よ!!やめて、今すぐこのポーズをやめさせて!!
「は・・・羽入!!」
私はハイグレポーズを取りながら必死にその一言を絞りだして叫んだ。

「時間よ止まれ・・・・!!神の力展開!!」
羽入が呪文を詠唱して時間を止める。私も含めて全ての周りの動きが止まる。
「今は僕の力で梨花のハイグレ化を止めていますです。ただし、時間が歩み出せば梨花は完全に自我を失い、沙都子のように完全なるハイグレ人間になってしまうのです。」
「どうすれば・・・・いいの?」
私は大きく腕を上げた状態で止まりながら羽入に問う。
「この世界は壊れすぎていますです。それは昭和58年の運命を打ち破れるとしても、それ以上に雛見沢の世界を維持できないほど強力なものなのです。」
「だったら、つり橋まで走って飛び下りれば・・・!?」
そうすれば次の世界に行けるはず。またその世界でやり直せばいい。
「それは無理なのです。時間の戒めを解けば梨花の自我はすぐ完全に失われるのです。そうすればハイグレ魔王の奴隷となるより他にありませんです。」
「だったら、どうすれば!?」
「今から僕が梨花の体から正常な精神だけを分離するのです。そして梨花の体を離れて次の世界に行きましょうなのです。」
嘘っ!?ってことは、抜け殻になった私の体がハイグレ魔王のいいようにされるっていうの!?なんて屈辱!?そんな生き恥さらすなんて死ぬより嫌よ!!
「迷っている時間はないのです。梨花、分離しますですか?しませんですか?」
こうなったら背に腹は代えられない。この体が奴隷にされるのは悔しいけど、悔しいけど、悔しいけど!!
「頼むわ、羽入。」
その瞬間、私の意識は体を抜けていた。羽入に手をつかまれてどんどん空に昇っていく。そして、呪文を解除されて時間が動き始める。体の私がどんどん恍惚とした表情になって嬉しそうにハイグレポーズをしている。さようなら、私。せいぜいがんばって・・・・。抜け殻の私に言えるのはそれが精いっぱいだった。



「梨花、梨花?何をぼうっとしていますですか?」
気づくと私は縁側にいた。隣では羽入が心配そうに私を見つめている。
「あんたのせいで嫌な記憶を思い出したのよ。ハイグレ魔王に乗っ取られた私の体のこともね。」
「それはごめんなさいなのです。ただ、僕はハイグレ人間にはなっていないので、本当の梨花たちの苦痛は分からないのですよ。」
羽入がすまなそうに謝る。そう、そういえばあの場にいなかった赤坂を除くと、全員がハイグレ姿にされているのに、こいつだけは実体がないのをいいことに高見の見物をしていたんだったわね。
「あの、梨花?もしかしてハイグレ魔王の事を思い出させたことを怒っていますですか?」
「全然。今となってはあれも懐かしい思い出よ。」
まあ、いいか。あれはイレギュラーな世界。私たちだって想定していなかった世界だったものね。
「それは良かったのです。でも、あの時の梨花は傑作だったのです。いつもの腹黒い梨花では考えられないくらいはっちゃけいて、あんな恥ずかしいポーズを平気な顔して取っていたのがおかしくて仕方ないのです。」
やっぱ、訂正。こいつにもハイグレ人間の苦痛を味あわせてやるわ。
「二人とも、もうすぐお夕食ができますわよ。遊んでいないで、少しはお皿の準備でもして下さないな。」
沙都子がおたまを片手に台所から私たちに文句を言っている。
「少し待って下さいなのです。用事があるのを思い出したので電話してきますです。」
私は自宅の黒電話を取ってダイヤルを回す。園崎家に。
「あ、もしもし、梨花ちゃん?何の用なの?えっ?・・・・・うん・・・・・うん・・・・・へえ、面白そうだねえ。」
「魅ぃのお家にそういうのはありませんですか?」
「おじさんに任せときなって。じゃあ、明日の部活はそれをやろう。先に言っとくけど、おじさんが優勝だからね!!」
魅ぃと打ち合わせを済ませる。やっぱり魅ぃなら乗ってくると思った。羽入、あんたにハイグレ人間の苦痛を味あわせてやるわ!!


次の日の放課後。私たちは体操着を着て校庭にいた。中にハイレグ水着を着て。
「おい、魅音。外で遊ぶのになぜ中にハイレグ水着を着なきゃいけないんだ?っつーか、男がなんで萌え要素のない格好をせにゃならんのだ!!」
「ごちゃごちゃ言わないの、圭ちゃん。じゃ、集まって!!部活、第一回・ハイグレ大会の開催をここに宣言する!!」
全員でお義理の拍手。
「じゃ、ルールを説明するよ。基本的にはカクレンボと一緒。鬼を決めてそれ以外は60秒以内に隠れる。で、違うのは、見つかったら体操服を脱いで悲鳴を上げて水着姿でコマネチをする。その時にハイグレって叫ぶの。」
「ええ!?そんなコマネチなんて恥ずかしいよ〜。」
レナが文句を言う。それが当然の反応だろう。
「レナ以外がやるんだったらどう?」
「はう〜、それは可愛いからOKだよ。梨花ちゃんも、沙都子ちゃんも、羽入ちゃんも、みんなお持ち帰り〜!!」
レナは見事にかぁいいモードへと旅立って行った。羽入は逆に恐怖のモードへと旅立っていた。
「謀りましたですね、梨花!!やっぱり怒っていたのですね、梨花!!嫌なのです嫌なのです嫌なのです!!」
「羽入さんは何を怯えていらっしゃいますの?」
沙都子は隣ではてなマークを頭に浮かべていた。
「じゃあ、鬼決めをしよう。みんな、引いて。」
魅ぃが割りばしの入った袋にみんなの手を入れさせる。全員一本ずつ持ったのを確認して引き抜く。私の割りばしだけが赤い。やったわ・・・・。私が鬼よ。
「梨花ちゃんが鬼だね。よし、じゃあ制限時間は20分。その間に全員を見つければ梨花ちゃんの勝ちで一回だけ誰にでも命令できる女王様の権利。見つけられなかったら梨花ちゃんがハイレグの水着姿になってコマネチで恥をかく、と。これでいいかな?」
「分かりましたのです。本気モードで全員をあっという間に見つけてあげるのですよ。」
「ほう、大した自信だな、梨花ちゃん。カクレンボの達人、圭一様を見つけてみやがれってんだ!!よし、みんな、隠れろ!!」
こうして私と主に羽入の戦いの火ぶたは切って落とされた。


皆で家路につく私たち。私は勝った。速攻で羽入を見つけてコマネチをさせ、それを18分続けさせた。他の全員も見つけ出した。おまけに、罰ゲームで全員ハイレグの水着姿で家に帰り、挨拶する人にはポーズを取りながらハイグレと言うように命令した。
「こんばんは。あらあら、今日はなんの罰ゲームだい?」
「「ハイグレッ!!ハイグレッ!!」」
全員でハイグレポーズを取って挨拶をする。
「く、くそーっ!!なんで今日に限ってこんなに人が多いんだ!!」
「さ、さすがにおじさんでもこれは恥ずかしいよ。」
「梨花、後で覚えてらっしゃい!!」
全員が文句を言いつつもその実結構楽しそうにやっている。一人を除いて。
「梨花、なんて腹黒い・・・・。僕への復讐のために、ここまでするとは梨花は悪魔の生まれ変わりなのです!!」
私はお社様の生まれ代わりじゃなかったっけ?紫のハイレグの水着姿の羽入は恨めしそうに私を睨んでいる。
「そういえば、レナ。アクションストーンを持っていませんですか?」
「アクションストーン?」
「このくらいの大きさの虹色の玉なのです。」
「ああ、あれ?よくレナが持ってるの知ってたね。」
レナは制服を入れてある鞄をガソゴソと動かしてその玉を出す。あの時の玉と同じ奴だ。ってことは、この世界ではまだ奴らは襲ってきてないのね。
「それ、欲しいのです。もしくれたら、僕のハイレグ姿でのコマネチをレナにだけ特別に見せてあげてもいいのですよ。」
「はうー!!あげるあげる!!だから、レナにだけ見せて!!今すぐ!!」
私はアクションストーンを手に入れるためにレナに連行された。

その日の晩、私はダム工事現場の側を流れる川岸にいた。
「さようなら、アクションストーン。二度と私の前に現れないで。」
そう願って手作りのビー玉が乗る大きさの舟に乗せて流した。これなら海まで流れて誰の手も届かない場所に行くだろう。もしハイグレ魔王が来たとしてもこの雛見沢には見向きもしないだろう。でも、あの圧倒的な科学力で雛見沢のみならず地球征服に来たとしたら?羽入でも勝てない相手に私たちは立ち向かえるのだろうか?いえ、きっと私たちはその困難を乗り越えられる。仲間と共に協力しあえば奇跡でも何でも起こせる。それを昭和58年6月の世界で学んだ。奴らなんて返り討ちにしてみせるわ!

その時の私はまだ知らなかった。ハイグレ魔王を打ち破る力を持っていたのは、私たちではなく十数年後の一人の五歳の幼稚園児であることを。



MKD
2010年01月06日(水) 18時54分15秒 公開
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■作者からのメッセージ
ひぐらしのなく頃にのリメイク完了です。書き直していると自分自身の悪いなりの成長を感じます。