小学五年生の夏休みハイグレ日記 |
〜登場人物〜 片岡育夫 少年野球チームに所属。友人間の盛り上げ役。長嶋一茂似でシゲがあだ名。背は中。 島山正 育夫の幼なじみ。大人しめの性格だが最近の流行に詳しい。背はやや高。 大村彰人 サッカークラブ所属。ハンサムでクラス内外で女性人気が高い。背は高め。 笹尾武雄 クラスのリーダー格で色々な遊びを提案している。背はクラス一の高さ。 藤田俊平 パソコンに詳しい。メガネをかけているのでのび太と呼ばれる。背は低い。 田村沙央里 クラス一の美少女で成績も上位だが、強引な性格。胸は中。背は低い。ミドルヘア。 永川孝美 沙央里と仲良し。冷静でストッパー的役割。胸と背は中くらい。ツインテール。 明智秋子 お人好しで朗らか。ピアノが得意。胸は大、背は中。ポニーテール。 関河亜矢子 親衛隊が組織される程の人気者で不思議系。胸は小。背はやや低。ショートヘア。 森由美香 泳ぎ早いスポーツ系少女。性格はずぼら。胸は普通。背は高め。ロングヘア。 夏休みの午後の学校。校庭のプールでは低学年のプール教室が開かれている。子どもたちのはしゃぐ声と教師がスピーカーで指示を出している大声がプールの外にも聞こえてくる。小学五年生と六年生は低学年の一二年生と入れ替えでプール教室を終えて教室へ着替えに戻っていった。小学五年生の片岡育夫も濡れた体を拭き、巻きタオルを巻いて、団体の列になって校舎へと戻っていった。隣には幼なじみで友達の島山正が一緒にいて、並んでゲームの話などをしながら階段を上っていった。五年生の教室は三階にあり、廊下を先に歩いていった児童の濡れた足跡が幾重にも続いていた。 「ねえ。帰ったら俺んちで一緒にポケモンしようよ。」 「いいよ。僕も個体値上げたバシャーモがレベル100になったから対戦しようよ。」 育夫は正とそんな他愛もない会話をしながら歩いていると自分たちの教室に着いた。その前の廊下ではクラスメイト5、6人がまだ着替えずに遊んでいた。 「それ〜!!バシュン!!」 クラスのリーダーの笹尾武雄が手で巻きタオルをしている他のクラスメイトにピストルを撃つ真似をした。 「うわああああっ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 手のピストルの直線上にいたクラスメイトの大村彰人が巻きタオルを脱ぎ捨ててブリーフ型のスクール水着姿になってコマネチをしながら大声でハイグレと叫んでいる。武雄が他のクラスメイトたちにも撃つまねをすると、同じように巻きタオルを脱いでコマネチをしだす。 「何やってんの?」 育夫は武雄に尋ねた。 「これ?ハイグレ人間ごっこ。」 「ハイグレ人間ごっこ?」 育夫はハイグレ人間と聞いてピンときた。 「クレヨンしんちゃんのやつ?昔の映画の?」 「そ。お前らもやろうぜ。じゃんけんで勝ったら兵士になって、負けたらタオルしてハイグレ人間の役。」 「うん、いいよ。」 なんとなく面白そうという理由で育夫と正も仲間に加わってじゃんけんをした。何回かじゃんけんを繰り返して勝ちが決まり、正が兵士役になった。他のメンバーは横二列に整列した。 「じゃあ、いくよ。えいっ!!」 「うわああああっ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 最初に当てられたクラスメイトは思い切りよくハイグレポーズをした。次々と当てられていき、育夫は5番目に正に撃たれた。 「ぎゃああああっ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 育夫は上からタオルを脱いでコマネチをした。その遊びを男子たちはかれこれ5、6回も飽きもせず繰り返した。 「ねえ、もう着替えて帰らないと先生に怒られるよ。」 クラスメイトの一人・藤田俊平が時計を見て不安げに言った。彼のかけているメガネが光る。 「でも、面白いしなあ。そうだ、一旦帰ったら今日はこれやろうぜ。」 武雄がいつものように今日の遊びを提案した。他のメンバーの都合を聞いたところ、塾などでいけない人を除くと、育夫、正、彰人、武雄、俊平の5人だけだった。 「みんな、何やってんの?」 女子の集団が教室の前を通りかかった。濡れた髪を拭きながら、プールバッグを手に持って帰宅のために通りがかったのだ。 「今日もみんなで遊ぶの?」 このクラスでは特に男女で壁がなく、混ざり合って近くの公園で鬼ごっこやカクレンボをして遊ぶのが日課になっていた。 「今日はハイグレ人間ごっこやろうぜ。」 「ハイグレ人間ごっこ?」 女子たちには言われてなんのことだか分からなかった。 「ほら、これだよこれ。ハイグレ、ハイグレって。」 育夫は水着の切れ目に沿ってコマネチをした。女子の一人・永川孝美がそれを見てピンときた。 「クレしんのやつ?映画の。」 「あっ、知ってる知ってる。ハイレグ水着着てやるやつ。」 他の女子たちも次々に思い出した。クレヨンしんちゃんはかなりの知名度があり、その映画もだいたいの人間が知っていた。 「えー、それやるのやだよー。」 何人かの女子は嫌そうな素振りを見せた。しかし、そのうち五人は暇もあり興味を持ったので参加することになった。沙央里、孝美、秋子、亜矢子、由美香の5人だった。 「じゃあ、うちでやろうよ。どうせ親いないから。」 クラスメイトの秋子がそう提案した。さすがに外でやるのはよくないので、共働きで昼間は家に一人の秋子の家でやることにした。 「秋ちゃんの家に集合だね。」 沙央里が確認をとってから散会した。 「じゃあ、後でね。」 まあ、ハイレグ姿でないとはいえいつもの遊びとは違うので楽しいだろう。そう考えた育夫は家に帰ってから母親に遊びにいくと告げて外に出た。 育夫は自転車で五分くらい走り、秋子の自宅があるマンションに着いた。オート式のインターフォンの前で彼女の家の番号を押して中に入る許可をもらい、エレベーターに乗って彼女の家に入った。他のメンバーもほぼ同じ時間に秋子の家のリビングダイニングに集まった。 「じゃあ、遊ぼうか。」 「あっ。待って。男の子はこれに着替えて。」 由美香が大きなデパートの紙袋を差し出す。俊平がそれを受け取った。 「何、これ?」 「開ければ分かるよ。」 言われたとおりに紙袋の中に手を入れて中に入っている布らしきものを出して床に広げてみる。5着の女性用のスクール水着に似たタイプの黒の水着だった。 「あたしが通ってる水泳教室のお古の水着。」 5人は目が点になった。一体これはどういうつもりなのだろうか、と考えあぐねた。 「もう使わないやつだから遠慮しないで着ちゃっていいよ。」 水泳で使う競泳水着は総じて消耗が激しく、1〜2ヶ月おきに買い換えないといけない。そのため、お古でこうしてたくさん持っていると説明した。 「Mが2着あるから、シゲ君とのび太君が来てね。あとの三人はLを着て。」 「いや、別にそこまでする必要は・・・・。」 彰人が難色を示した。当然の反応だろう。 「え〜着てよ〜。せっかく由美香ちゃんが持ってきたんだからさ。」 亜矢子が不満そうに口を尖らせる。 「私たちもせっかく自分の持ってきたのに。あんたたちだけ着ないなんてずるいよ。」 沙央里が5人に競泳水着を着るように強要してくる。 「じゃあ、私たち部屋の外で待ってるから。着替え終わったら呼んでね。」 孝美が話のあとを続けて、女子たちはリビングダイニングを出て行った。 「ねえ、どうするの?着るの?」 正が少し怯えた表情で他の4人に尋ねる。 「着るしかないんじゃないか?着ないと意気地なしとか弱虫とか言われるよ。」 武雄も想定外のことにびっくりしていたが、観念してLサイズの競泳水着を手にとった。 「しかたない。このままじゃ帰してくれないだろうし。」 彰人も武雄に続いて水着に手を伸ばした。 「よし、着替えよう。」 育夫は真っ先に立ち上がって上に着ているティーシャツを脱いだ。他の4人も靴下を脱いで上半身裸になった。隠すものがないので、部屋のドアから女子に見えないように下を脱ぐ。 「よし・・・。」 育夫はトランクスを脱いで素っ裸になった。そして、生まれて初めての異性の水着に少し胸が高まりながら、右足と左足を交互に上げて水着の下の穴に足を通した。そのまま水着の上の部分を持ちながら胸のあたりまで引き上げる。そして、水着の肩にかける部分を器用に腕を動かしながら入れた。水着のめくれている部分を少し手直しして着替え完了。 「っ・・・・。」 下半身が締め付けられて少し痛かった。上半身も胸パッドのあたりがすれてあまりいい気分ではない。 「みんな、着替え終わった?」 育夫は他の4人を見た。全員競泳水着に着替え終わっていた。 「お前、チンコはみ出してるぞ?」 武雄が俊平の水着の下を指さして言った。 「うわっ!」 俊平は慌てて少しはみ出している部分を水着の布地の中にしまった。 「着替え終わった〜?」 「うん、終わったよ。」 正が弱々しい声で外に向かって言った。ドアが開き、女子たちが入ってくる。全員スイミングスクールの腰が空いているタイプの競泳水着に着替えていた。手には今まで着ていた服を持っている。下着がなかったので、元々最初から着込んでいたらしい。 「きゃはははは、よく似合ってるじゃん。その格好でプールも行けるんじゃん?」 沙央里が大笑いして5人をじろじろ眺めた。 「じゃあ、これからハイグレ人間ごっこ始めようよ。」 亜矢子が手にアクション仮面VSハイグレ魔王のビデオを手にして言う。本人が家から持ってきたものを、秋子の家のビデオプレーヤーにセットする。再生されたのは新宿でリポーターが襲われているシーンだった。こうして、十人は世にも奇妙なハイグレ人間ごっこを開始した。 『貴重な映像をどうぞ御覧下さい。』 テレビの画面の中でリポーター・団羅座也が言っている場面で亜矢子が一時停止ボタンを押した。 「じゃあ、ここから始めるよ。並んで準備して。」 もう何が何だか分からない男性陣は言われるがままに整列する。女子が前に、男子が後ろに横一列に並んだ。 「じゃあ、再生。」 『ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ。』 新宿上空のハイグレ人間の映像が出る。十人もテレビに合わせてハイグレポーズを取る。地上から見た映像に切り替わって、女子の腕の動きが大きくなる。そして、リポーターが襲われるところでビデオが止まった。 「ちょっと〜。男の子もちゃんとハイグレッって言わないと。忘れてるよ?もう一回やるから。」 孝美が男子の声が小さい事を指摘する。巻き戻して最初からまた始まった。 「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!ハイグレッ!!」 武雄が大声で叫ぶ。他の四人もそれに引っ張られる形で大声でハイグレと叫んだ。 「う〜ん、アンタたちって体硬いの?シゲ君と彰人君はスポーツやってるんじゃないの?」 由美香はコマネチをした腕を肩の上に振り上げながら言う。 「女の子のほうがやっぱり柔らかいんじゃない?俺も大ちゃんも水泳はやってないし。」 女子は全員スイミングスクールに通っているメンバーなので肩はよく使っている。野球やサッカーはそれに比べるとあまり使わない。それに、男のほうが股関節も固いのでハイグレ人間の構えは結構きつかった。 「まあ、あんたたちは仕方ないわよね。これやるの初めてでしょ?」 沙央里が言うには、スイミングスクールでは女子が何人かで更衣室でたまにやっているとのこと。今日は男子がふざけてやっていたので、面白そうだから乗っかったとのこと。なので、捨てずに古い水着を取っていた由美香が5着用意して持ってきた。つまり、男子5人は嵌められたのだ・・・。 「も、もういいでしょ?やめようよ。」 正が下を隠しながら涙目で訴えた。 「駄目だよ。皆の靴隠したから。遊んだあとじゃないと帰れないよ。」 男子が着替えている間に秋子が次善策として5人の靴を隠していた。嫌でも逃げることができず、従うしかない。 「うわっ!」 俊平が下を両手で押さえる。しかし、その手がどんどん上にやってくる。 「チンコ立った〜。」 武雄が囃し立てる。俊平がますます恥ずかしそうに股を隠す。他のメンバーは女子の水着姿に照れるよりも突然の出来事に気が動転して下半身が緊張して小さくなっていた。 「テレビみたいにみんなバラバラになってハイグレポーズとろうよ。」 亜矢子の提案に他の女子が乗る。男子たちは完全に発言権を奪われ、ただ従うのみだった。適当にバラけて並ぶ。育夫は沙央里の隣に並んで一緒にハイグレポーズ。 「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 OLと土木作業員の動きに合わせるように、交互にハイグレポーズをした。 「シゲって慣れるの早いね。男の子の中じゃ様になってるじゃない。」 「そう・・・かな?」 「まあ、武雄ほどはっちゃけてはいないけど。」 育夫は武雄を見てみる。一番おふざけが好きな武雄は、素早くコマネチを繰り返して楽しそうにハイグレポーズをしていた。 「結構つらいね、これ。体力使うよ。」 彰人は冷房の効いた部屋にも関わらず、頭から汗が一筋流れ落ちた。 「彰人君ってハイグレ人間になってもかっこいいね。写真とらせてよ。」 秋子が彰人をからかった。彰人の急所がまた一段と小さくなっていく。 「じゃあ、次は研究所のシーンやろうか。」 ハマリにハマっている女子たちはビデオテープを早送りし、スパイ・まつざか先生のシーンへとコマ送りした。 『見破られたのなら仕方ないね!』 まつざか先生がスパイだとばれて服を脱ごうとするシーン。そこでビデオが止まった。 「みんな服を着て。こっから始めるから。」 適当に割り振りが振られる。髪の毛や体格などを基準に配役が決定する。 「じゃあ、始めるよ・・・・。」 再生ボタンが押される。まつざか先生のシーン。音量を少し小さめにする。 『見破られたのなら仕方ないね!』 「見破られたのなら仕方ないね!」 ロングヘアの由美香が真似をして服を脱ぐ。 「私はハラマキレディー様のスパイさ。ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ!」 由美香はまつざか先生のように小さくコマネチをした。 「とおっ!」 さすがに人を蹴ることはなかったが、近くにあった椅子を水着姿で蹴る真似をした。 「バリア解除!」 大きなレバーの代わりに部屋の明かりのスイッチを引いて対応した。ビデオではドリルが打ち込まれ、ハラマキレディースが登場する。 『さあ、みんなハイグレ姿にしておしまい!』 テレビ画面の中でパンスト兵がハイグレ光線を発射した。 「どわああああっ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 一番背の高い武雄が服を脱いで水着姿になってコマネチをし始めた。 「うわあああああっ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 次は俊平がまさお役になって水着姿になる。 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ。」 「うわあああ!ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ。」 ネネちゃん役の孝美と風間君役の正が並んでハイグレポーズ。 「ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!」 「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ。」 育夫はポニーテールを揺らす秋子の隣でハイグレポーズをした。 「うわあああ!」 ひろしの真似をして彰人がハイグレ人間になってポーズを取る。 「皆を助けるためにもここにいちゃいけないわ!」 リビングの扉の前で叫んで扉を閉める沙央里。 「ここから先は一歩も遠さんぞ!だあああ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ。」 亜矢子が博士の真似をしてハイグレポーズをする。扉の外に逃げたリリ子役の沙央里が戻ってきて再現が完了した。 「ちょっと人数が足りないね。」 孝美がため息混じりに言った。研究所のシーンはハイグレ人間になる人数が足りないと楽しくないシーンだった。 「もう15分位やってるね。少し休もうよ。」 正が水着姿のまま床に座った。育夫もそれにならってフローリングの床にあぐらを掻いて座る。すると、フローリングの床のひんやりした感覚が急所を伝って全身にここちよい快感を与えてくれる。今まで萎縮していて小さかった急所が少しだけもぞもぞと反応した。 「うわーおっ!」 武雄も二人の反応を見て座って、同じような反応を示した。 「そうだ・・・。いいこと思いついた。秋ちゃん、新聞を縛るようなロープってある?」 亜矢子が何か考えついたらしく、秋子にすずらんテープを所望する。秋子は近くの棚からテープとはさみを持ってきた。 「このくらいでいいかな・・・?」 亜矢子ははさみを使って50cmくらいのすずらんテープの紐を二本作る。それを自分の水着の脇下から入れて股下から出した。そして、紐の両端を引っ張って股下の角度を引き上げる。そのままの姿勢を保ち、ロープを結んだ。逆側も同じ様に結ぶ。 「見てみて。こうすると本当のハイグレ人間みたい。ハイグレ、ハイグレ。」 しかし、そういうことをすると水着のゴムが伸びてしまうのですぐに外した。 「そうだ!皆で缶蹴りをしよう。」 武雄が提案した。普通の缶蹴りと違い、水着姿で逃げて鬼に捕まったらその場でハイグレポーズをするというもの。他は同じ。じゃんけんをしたら育夫が鬼になった。 「もう〜いいかい?」 「もう〜いいよ!」 育夫は競泳水着姿で歩き出した。 秋子の家は一般的なサイズの3LDKの間取りだった。ただし、上層階で角の部屋のため、小さいながらもルーフバルコニーがついていて、親の趣味でガーデニング用品を置いてある。つまり、隠れる場所は普通の家よりたっぷりあるということだ。育夫は缶を置いてあるリビングの周囲から探し始めた。 「ソファーとテレビ台とテーブルの下にはいない・・・。じゃあ、ベランダかな・・・。」 育夫はリビングの正面にあるベランダの扉を開いて外を見た。誰もいない。 「んっ・・・?」 ベランダへ通じる扉の右端にかけてあるカーテンが揺れた。よく見ると膨らんでいる。 「そこっ!」 育夫はカーテンを思いっきり引っ張ってはぎ取った。 「うわっ・・・見つかった・・・!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 彰人がすぐにハイグレポーズを始めた。それを勝ち負けが決まるまでずっとしなければならない。本来の缶蹴りは捕まえた人物の名前を言うが、このゲームではハイグレと叫ぶのでその必要はない。育夫は次の目標を探した。 「見つけたっ!」 リビングに隣接するキッチンの物陰に亜矢子が隠れているのを見つけた。 「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 亜矢子はその場でハイグレポーズを始めた。 その後次々に正、武雄、孝美、秋子、由美香を見つけた。三々五々各々の場所でハイグレポーズを続けている。育夫はまだどこに隠れているか分からない俊平と沙央里に気を配りつつ、探索を続けた。 「のび太も沙央里も頭がいいからな・・・。どこに隠れてるんだか・・・・。」 育夫は一度見た部屋をもう一回探していく。秋子の部屋、クローゼット、玄関、トイレ。後ろではハイグレの声が木霊している。 「ここにもいない・・・。」 育夫は洗面所をもう一回見た。風呂場と脱衣のためのかご。それと洗面台に洗濯機。育夫は何の気なしに洗濯機の蓋を開けてみた。 「きゃっ!」 「えっ!?」 開けた育夫のほうが驚いた。沙央里が一槽式の洗濯槽の中で身をかがめて隠れていたのだ。 「くっ・・・!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 沙央里は洗濯機の外に出てハイグレポーズを始めた。 「後は一人だけ・・・。」 育夫は一計を案じた。バルコニーへの扉を開ける音をわざと大きく立て、家中に聞こえるようにした。そして、外に出るふりをする。しばらくすると・・・ 「よ、来た・・・。」 案の定、しびれを切らして水着姿の俊平がリビングに入ってきた。あたりを伺い、缶に近づいていく。 「今だ!」 育夫は隠れていた場所から飛び出し、俊平にタッチした。試合終了。育夫の勝ちだった。 「やられた・・・。」 俊平がため息を漏らした。逆に育夫は勝ったという満足感に浸っていた。 その後、たまたま早く帰ってきた秋子の親に全員が叱られた。テレビの真似してふざけた遊びをするんじゃない、と。ハイグレ人間ごっこはそれっきり封印されることになった。 数年後の秋・・・ 育夫は地元の高校に進学し、弱小ながら野球部に所属していた。現在は文化祭の催し物でお化け屋敷の準備をしている。クラスが一丸となってセット作りに精を出している。委員に引っ張られる形でみんながやる気を出し、なかなかこった演出を考えている。自分たちで学校七不思議風にお化けを作っていた。白衣を着てジェイソンの仮面を被った理科室の亡霊、女生徒の制服を着た男などなど十数体。しかし、その中で誰もやり手がいない役が一つあった。それは・・・プールで女亡霊に殺された男の子。夜な夜な女の子の水着を着て現れるという設定。誰もやりたくないならやめにしようか、というところで育夫がやると名乗り出た。 「片岡もモノ好きだなあ・・・・。」 「皆のために、なんて無理言わなくてもいいんだけど・・・。」 級友たちはわざわざクラスのために役を引き受けてくれた育夫に感嘆の声をあげる。しかし、育夫には別の目論見があった。それは、合法的に皆の前で女性用の水着姿になれるということ。さすがに小学生の時に着た競泳水着というわけにはいかないが、密かにそれを楽しみに以後の文化祭の準備に勤しんだ。 そして、運命の文化祭前日。育夫はお古でサイズの合いそうな赤色のタンキニと女性用のかつらなどの道具を渡された。他の男子と一緒に更衣室でお化け屋敷の練習のために着替える。育夫だけは水着に着替えるため、一人個室で着替えた。ブレザーの上下を脱いでハンガーにかける。そして、トランクスを脱いで素早くボトムのパンツを履く。懐かしい締め付けられる感覚・・・。そして、上にトップスを着て紐を締める。タンキニとはいえ、スカートをつけなければ見た目はワンピース水着と変わらない。皆が見ていないのを確認して小さくコマネチをしてみると、たまらない快感を覚えた。スカートとかつらをつけ、ビーチサンダルを履いて外に出る。 「似合ってるじゃん。」 「随分派手な水着だね・・・。」 計画者の話では、お化け屋敷の中は暗幕を張っていて暗いので、赤のような派手な色でないと目立たないとのこと。そんなこんなで少し肌寒いながらも育夫は皆の話に入って練習を始めた。 文化祭当日・・・ 育夫たちのクラスのお化け屋敷は盛況を博していた。様々な趣向をこらしていた成果だった。次々にやってくる客を驚かせては戻り、次の客を驚かしにかかる。非常に楽しい仕事だった。 「あ、あれは・・・。」 育夫は次にやってくる客が誰なのかすぐに分かった。彰人と由美香が手をつないでやってきたのだ。二人は中学生の頃から恋人づきあいをしていた。 「よし、脅かしてやろう・・・。」 育夫は持ち場に隠れて機会を伺う。そして・・・・ 「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」 育夫は二人の前でハイグレポーズをした。 完 |
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2010年02月24日(水) 18時02分10秒 公開 ■この作品の著作権はMKDさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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