継ぐもの




「ここはどこ・・・・・?」



私は暗闇のなかにいた。自分1人だけポツンと立っている。
真っ黒な世界。反響する声、誰もいない、怖い、誰か来てほしい・・・・
なんにもないこの場所、でも私が想像する様々な恐怖を内包している気がした。

なぜか私は制服を着ていた。紺のブレザーと少々短めなスカート、ストラップを
たくさん付けた携帯電話に通学鞄といつも私が通学する出で立ちだ。


私は当てもなく歩いた。止まっていても仕方がない。もしかしたら何かあるかも
しれない、しかし進んでも何も変わらなかった。ただ広がる黒闇・・・
これでは進んでいるのかもわからない。しかし進んで行く内に私は段々気が付きつつ
あった。

「これは夢だ。こんなことあるはずない。」
夢なら気楽でいよう。おかしな夢であるが、別に特別悪夢というわけでもない。
すぐ覚めるだろう。
私は走った。進んでいるのかもわからないこの黒闇を一心に・・・・


「あ〜〜〜〜〜!」
私は突然立ち止まって叫んだ。どこまでも反響する声、いったいどこまで続いているのだろうか?
大の字になって寝そべった。感触は石のように硬く冷たい。

「まだ覚めないのかな〜?つまんないよ・・・」
私は宙に向かって呟いた。

「あら?何をやっているの?」

「!?」
私は急いで体を起こして前を見た。眼に映ったものはとても滑稽で奇妙だった。
黄色と青が立てに半分入ったピエロみたいな仮面。そして赤いモヒカンが存在感を
出していた。体はなく頭だけが宙に浮いているようだった。

「あなた誰?・・・・」
私はこの奇妙な仮面に尋ねた。その仮面は頭を回転させながら答えた。

「オホホホホホ、あたしはハイグレ魔王。この地球の支配者!・・・・・・・・・
・・・・・・・・・になるはずだった者よ。」

最初に頭が勢いよくあがったがすぐに落ち込むように下がった。
オカマみたいな口調、変な名前、気持ち悪い・・・・・・
私は胸から込み上げてくるものを感じたが何とか抑えた。そしてさらに尋ねる。

「なるはずだった・・・・?私になにか用があるの?ここはどこ?
これは夢なの?」

「そんないっぺんに聞かれても答えられないわ〜もう一人のあ・た・し」

「もう一人?」
その言葉に引っ掛かりを感じた。こんなモヒカンのオカマ野郎と私
との間に共通点も関わりも一切ないしこんな友人も覚えがない。

「もう少しで地球を侵略できたのにね〜〜まああなたの世界の話じゃないから
安心なさい。」

こいつは何を言っているんだ?まったく理解できない。もしかして最近よく聞く
電波ってやつか?とにかくこいつに付き合ってるのも馬鹿みたいになってきた。
適当に言って巻こうかと考えていた時、急にあたりが明るくなってきた。

さっきとは真逆にまっ白い世界。あたりが眩しい。正面のモヒカンは頭だけかと思ったら真っ黒な
マントを羽織っていた。

「あらもう時間のようね、もっと話をしたかったけど残念ね・・・」

モヒカンの姿が段々と薄くなっていく・・・私もあたりの眩しさから眼を細めてい
た。

「オホホホホホホホホホホホホ!また会えることを願うわ!今度は夢ではなく
現実でね!あたしのかわいい紗枝よ」

そう言ってモヒカンは消えていった。そして私もこの眩しさから眼をつぶっていた

どうして私の名前を知っているの・・・・・?
耳にキーンという金属音のような鋭い音が響く。眼をつぶり耳を押さえた私は
その疑問を感じながら、意識が飛んだ。



眼が覚めた。汗をかいている。8月という季節もあるが私は枕元の携帯電話を見る。時間は5時半過ぎ、
まだ起きるには早い時間だ。もう少し寝ていようかと思ったが眼が覚めてしまった
ので起きることにした。

「変な夢・・・・・」
私はつぶやきながら二階の階段を下りて洗面所に向かった。本当におかしな夢だった。
そして私は今までこんな鮮明な夢を初めて見たことに気がついた。
夢は無意味な情報を捨て去る際に知覚される現象と言われているが本当にその通り
だと思った。真っ黒な世界に仮面のモヒカン。どちらも覚えていないがきっとわたし
が過去に見た情報なのだろう。私は服を脱いでシャワーを浴びる。

「ふ〜♪気持いい♪」

普段朝シャンはしないのだが、悪くないしスッキリする。正直毎日やってみても
いいと思った。そんなことを考えながら私は軽快にお風呂から出て体を拭く。
そしてドライヤーをかけながら今日の予定を考える。

「今日はテストか〜超めんどい・・・・」

そう今日は高校の期末テストだ。正直私の成績はそんなに良くない。毎回友達に
泣きながらノートを見せてもらうのは慣例だ。一年で一番憂鬱な日かもしれない。
だからと言ってなにも勉強しないという自分も毎度のことながら愚か者だと言える。

制服に着替えて居間に来たら既に妹が起きていた。

「おはよ〜お姉ちゃん!今日は早起きだね!いつも遅刻ギリギリなのに」

元気にあいさつしながら弁当の準備をしている妹、由利は今年入学したばかりの
高校一年だ。気立てが良く頭のいい由利は私とは正反対な存在だと言える。
両親が不在しがちな我が家がなんとか回っているのは妹の影響が一番大きいと言える
だろう。短めのポニーテールを揺らしながら由利は私に弁当を渡した。

「はい!お弁当!今日のテスト頑張ってね!」

やっぱり兄弟や姉妹がいると本当に違う。こんなことでも私の今日の憂鬱を消し去
ってしまうようだった。

「ありがとう!ちょっと早いけど言ってくるね!」

「うん!いってらっしゃい〜」

私は軽快に玄関へ行き靴を履く。携帯電話、財布、教科書と忘れ物が無いかどうか
最後に確認し、外へ出る。

外は真夏の眩しさで一杯だった。私は眼を細めながら歩いて行く。
おっと、紹介が遅れたが私の名前は田中紗枝、現在高校3年生だ。特に夢もなく
部活動もしていなかったので今までの高校生活はまさに惰性で過ごしていた感が
いなめない。と言っても今日だけは本当に清々しく実に心地よい朝だった。
真夏とは言え朝の涼しさ、朝シャンした髪がスースーして気持いい・・・


程無くして私は駅に着いた。しかしそこで私は何か不可解ことが起きていることに
気がついた。人が一人もいないのだ。

私は定期を改札に入れようとしたが機械が止まっている。改札窓口にも人はいない。

「どうなってるの・・・・?」

私は必死に考えを巡らせた。鉄道会社の臨時休業、もしくはストライキなど考えたが
そんな情報、昨日に私は聞いたことが無いし由利も朝にそんなことは言わなかった。
でも胸に何か不確かだけれども不安が広がった。この感覚は覚えがある。そうあの
夢の真っ黒な世界と同じような感覚・・・・

私は不確かな不安を抱えつつも歩いて学校に向かうことにした。
学校へは歩くと大体30分以上かかる。その道中で何か情報が得られるかもしれない。


歩く。歩く。ひたすら歩いていく。こんなにも時間が長いと感じたことはないだろう。
そして私が抱いていた希望も失われることになった。
そういえばこうして歩いて行く間、私は誰とも会っていない・・・・・・
本当に世界で自分がただ一人の人間になってしまったかのようだった。

私は市街地へ抜けるための地下道を渡った。暗く1人ぼっち・・・・
夢で見たあの真っ黒な世界のようだ。ただ違うことと言えば、規則正しく並ぶ
無数のオレンジ色に輝くランプ。かえってそれがこの不気味さを助長させているの
さえ思った。しかし、しばらく歩くと出口が見えてきた。

段々光が見えてくる・・・まもなく市街地に抜ける。そして何よりも人の声が聞こえ
る。

「やっと人に会える・・・・!」

私は胸を弾ませながら駆け足で出口へ向かう。まずは交番に行こう。
今日の出来事に関して何か知っているのかもしれない。そんなことを考えながら
出口へでた。真夏の太陽が眩しい・・・・私は眼をつぶりながら歩いて、
ゆっくりと開いた。そして私は、今まで見たことが無く、どこまでも異様な光景を
みることになった。



『ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!』



非常に滑稽だった。市街地へ着き、大きな交差点を見渡す先、男も女も子供も老人
もみんな女性用のハイレグ水着を身に纏い、「ハイグレ!」と奇妙な掛け声と共に足を
ガニ股に開き水着の切れ込みに沿って手を動かしていた。これは一昔前に流行ったコマネチそのものだった。その人たちの表情は非常に様々だった。笑顔でポーズを取っているもの、真剣な表情や中には泣きながらや苦しそうにポーズを取っているものもいた。

無理やり取らされている・・・・?
そんな疑問を感じているうちに空から何かがやってきた。


まるでアニメに出てきそうなUFOみたいな音を出しながらやってきたそれは、
頭からパンストを被ってオマルに跨り、肩には大きなライフルのようでその
先端が球型になっている玩具のようなものを携えていた。今私が見ているこ
の異様な光景と同じく奇妙で滑稽な存在だ。私は声が出せずぼーっと
それを眺めていると、それは私に向かって持っている銃を向けてきた。

「危ない・・・・・・・・・・!?」

危険を感じた私は銃が発射と同時に避けた。銃からは実弾ではなく
クリアピンクな色をした光線だった。

殺そうとしている!?

あれに当たったらひとたまりもない。きっと一瞬で蒸発してしまうだろう。
私はその場から逃げた。しかしオマルに乗った変態は尋常じゃないスピードで
追ってくる。


真近に迫ったとき私はとっさに鞄からヘアスプレーを取り出し、投げつけた。
スプレーは変態の頭に命中し一瞬ひるんで低空飛行になった。
そのすきを突いて私は持っていた教科書がぎっちり入っている鞄を変態に向けて
力いっぱい叩きつけた。

変態はオマルから引き離され、オマルは正面の壁に激突し大きな爆発と共に炎上
した。完全に伸びているようで私はこのすきに逃げた。

「一体何だっていうのあれは!?」

私は小走りで何処か隠れる場所が無いか探した。一体どうしてしまったのだろう
昨日はこんなはずじゃなかったのに、まるで夢でも見ているかのようだった。
夢であってほしい・・・先ほど体験した恐怖を思うとそう願わざる得ない。

やがて公園に辿りついた。そこにはちょうど隠れられそうな土管がある。
私は体を丸めてその中に身を潜めた。

「いつまでいればいいんだろう・・・・・」

既に30分が経過した。いい加減出ても大丈夫かもしれない。
そう思って出ようとした時、正面から女性の悲鳴が聞こえてきた。

「イヤアァァァァァァァァ!」

公園に駆け込んできたのは私と同じ女子高生だった。セミロングの髪がなびいて
いた。私は土管の穴から覗ていた。

「いやぁぁ・・・・来ないで・・・!」

私は女子高生を土管に招き入れようとしたが出来なかった。なぜならその子の前には
あのパンストを被った変態がいたからだ。

「来るなぁ! この変態野郎!」

女子高生は地面に落ちている石を投げつけた。しかし命中せず変態は持っている
ライフルの標準を合わせた。

「いやあぁ・・お願い!あんなことしたくない!助けて!」
足をガクガクさせながら命乞いをした。
しかし変態は女子高生の必死の懇願を無視して銃を発射した。

「キャアァァァァァァァァッァ!」

ピンク色の光線は女子高生に命中した。周りが赤と青に激しく点滅する。
私はたまらず眼をつぶった。殺された・・・・そう思いながらこの女子高生の
断末魔を聞いていた。やがて光が収まった。あの変態はもういない・・・
そして殺されたと思っていたあの女子高生が立っていた。しかしおかしい・・・

「あっ・・・・・」

女子高生は紺色のハイレグ水着を身に纏っていた。手を横に広げ足は仁王立ち
していた女子高生は、全身を小刻みに震わせている。

「っゃぁ・・・・・・」

やがて30秒たったあと女子高生は震えながら足をガニ股に開き、手を腰まで切れ上が
ったハイレグにそって手を動かしながら・・・・

「ハ、ハイグレッ・・・・ハイグレッ・・・・ハイグレ!」

女子高生は眼をつぶりながら、恐怖からか、それとも羞恥心からか、顔を苦痛で
歪めながらコマネチをしていた。

驚愕だった。あの光線は人を殺すのではなく、今の女子高生のようにハイレグの水着姿にしてあの変態的なポーズをとらせるものだった。

しかしなぜ・・・・・・・?
私は疑問に思った。なぜそんなことをする必要がある?
なんのメリットも目的もわからない。
そしてあの変態は一体何者なのか?
人間の科学では到底実現できないものに乗り、光線銃を持っている。
私はその疑問に対する明確な答えが用意できない。


やがて空からおびただしい数のオマルの駆動音が聞こえてきた。数にして100体を超える大編隊だった。幸いこちらには気付いていなかったがそれらは住宅地へと向かっていった。

「ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!」

私の隣の女子高生は相変わらず苦しそうにコマネチをし続けていた。
これでは話しかけることすらかなわないだろう。

「あっ!」

私は気付いた。そして同時に胸に言いようのない危機感が溢れる。さっきの
オマルの軍団は住宅地へと向かっていった。あれは私の家がある方角だ。
そして何よりも家には妹が・・・・・・

「電話しなくちゃ!」

私は持っていた携帯電話を家にかけた。お願い出て・・・・・・
祈るように電話のコール音を聞き続ける。

「どうしたのお姉ちゃん?」

妹が電話に出た。同時に安心感が広がる。

「由利!外に出ちゃダメ!家の中の隠れられそうなところに隠れて!」

私は無我夢中で妹に指示する。

「え?なんで?なにかあったの?」

「どうしても!理由は後で絶対話すから!お願い!」

「わ、わかったよ・・・」

妹に必死に懇願する。どうしても妹だけは助けてやりたい。
由利があんな姿にされるのは想像したくない・・・・・
私は電話を切った後、夢中で走り続けた。
幸いここら辺はあいつらはもういないようだった。

セミロングの髪が大きく揺れる、私は体中から溢れる汗も疲労感も物ともせず
走り続ける。やがて住宅地に入っていった。そして段々とあれが聞こえてた・・・


「ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ」

町の中はハイレグ姿にされた人で溢れかえっていた。市街地ほどではないが自宅に近くなるにつれて多くなっていく。中には近所の子供や同級生も混じってコマネチしていた。きっとあの軍団にやられたのだろう。

胸が痛む。そして不安も一層増えていった。

「由利・・・・・・無事でいて!」

私は声に出す。由利のためならどんなことだってしてやる。
妹を守るためなら代わりにあの変態にハイレグ姿にされたって構わない。


ついに自宅へ着いた。息をハアハアと切らす。
ゆっくりとドアノブを回し家へ入っていく。
玄関前には誰もいない・・・・・奥から声が聞こえる。

「お姉ちゃんお帰り〜♪」

姿は見えないが居間のドアの向こうから由利の声が聞こえる。

「良かった・・・・・」
私の胸に安心感が広がる。高校生活これほど安心したことはないだろう。
しかしそれもつかの間、由利を連れて速く安全な場所に避難しなくては・・・
同時に危機感がまた広がる。

私は居間のドアを開けた。






「ハイグレ♪ハイグレ♪ハイグレ♪」






由利はいつも私に向けてくれた一番大好きなあの笑顔で迎えてくれた。

ピンクのハイレグ水着を身に纏い、元気一杯にコマネチをしながら。




「ゆっ・・・・・由利・・・!」

私の心の中にある数え切れないほどの由利との思い出、一緒に笑ったあの日々
そして今朝の私に向けてくれた笑顔、そのすべてが崩れ去っていくのを感じた。

小柄な由利の体にピッタリとフィットしたハイレグ水着は不謹慎ながら女の私
が見てもとても可愛らしい。しかし今私の前で笑顔でコマネチしている由利は
自分で自分が今まで築き上げてきたものを壊しているようにしか見えない。


「ど、どうしたの?・・・・・・・」

私は尋ねる。どうしてそうなったかなんて知っているはずなのに・・・・・


「ハイグレ♪ハイグレ♪お姉ちゃんから電話があった後すぐにねパンスト兵
様にハイグレ人間にして頂いたの♪」


由利はコマネチしながら嬉しそうに私に言った。コマネチするたびに短めの
ポニーテールと小振りな胸が揺れる。

「ハイグレ♪ハイグレ♪早くお姉ちゃんもパンスト兵様にハイグレ人間にして
いただきなよ♪とっても気持ちいいよ?ハイグレ♪ハイグレ♪」

「何言ってるの・・・・・・?言ってる意味分からないよ・・・・?」

こんなの由利じゃない・・・・・・
由利はこんなこと言わない・・・!

由利はやがてコマネチをやめて私に向き合った。

「実はねあの電話の後すぐ外に出ちゃったんだ。なにかあったのかと思って。
そしたら空からパンスト兵様の軍団がやってきたんだよ」

やっぱりそうだったのか・・・・・
もう少し早く着いていたら・・・・・
後悔の念が広がる。

「私夢中で逃げたんだよ?町のみんながハイグレ人間になっても私一人ずっと
逃げてたんだ〜今考えたら逃げる必要なんてなかったのにね♪」

「きっとお姉ちゃんが助けに来てくれる。それまで頑張るんだ!ってあのとき
張り切ってたんだよね。」

私の中で罪悪感が生まれる。由利を守ってやれなかった罪悪感が・・・・

「でも結局疲れちゃって、最後にやられちゃったんだ。」

由利は切なそうな顔で言った。


「最初ハイグレになった時すごい怖くて嫌だったんだよ。心の中で
怖いよぉ・・・助けてお姉ちゃん・・・・って叫んでたんだよ、でもおかしい
よね♪正しいことをしているのに怖がるなんて♪」

その場面を想像すると本当に胸が痛む。どんなに怖い思いをしたのだろうか。
変われるなら変わってやりたかった。あの時立場が逆だったらどんなに良かった
ことだろう。
私は姉失格だ・・・本当に守りたかった人を守れないなんて・・・・


由利は口を開く。そして私が一番聞きたくなかった言葉を口にした。






「でもお姉ちゃんが助けに来なくって本当に良かった♪おかげで無事に
ハイグレ人間にして頂けたんだもん♪」






「由利・・・・・本気で言ってるの?」

由利は笑顔で答える。

「うん♪だからお姉ちゃんも早く外にいるパンスト兵様にハイグレ光線を浴びせ
て貰って一緒にハイグレしよ?」

私は気付いた。由利はあのパンストの変態に洗脳されたんだ。
あいつらは由利を辱めて、由利の心を洗脳によって捻じ曲げた。目の前にいる
由利は幸せそうだが、本当の心の奥底にある由利は泣きながら助けを求めている。
「こんなの私じゃない・・・助けてぇ・・・お姉ちゃん・・・・・」って

私は由利に背を向け走った。

「お姉ちゃん!」

背後から由利の声が聞こえたが構わず走る。
家を出てとにかく走った。当てもなく。

「由利!必ず元に戻してあげるからね!」

今私の心には由利をこんな姿にした変態に対する地獄の業火よりも熱い怒りで
満ち溢れていた。そして今度は由利を絶対助けてやるんだという使命感も同じ
ぐらい溢れていた。一体どうやって助けるんだという疑問も沸いたが私は
走りながら考える人間だ。きっと何か方法があるはず。そのためにも自分は
逃げなくてはいけない。


やがて私は電車の歩道橋の真下までたどり着いた。私は息を切らす。
どれだけ走ったかわからない。しかしあのパンスト兵たちは見当たらない。

「ふうっ・・・・・」

一安心して壁に寄り掛かる私。これからどうするのか、そしてどうやって由利を
元に戻せばいいのか当てもなく考える。

「由利の言っていた変態、パンスト兵は一体何が目的で、みんなを洗脳している
んだ?」

私は考える。しかし答えは見つからない。しかしわかったことが一つだけある。
あの無数にいるパンスト兵の背後にそれを束ねる親玉が絶対いるはずだ。
そいつを叩けばもしかしたら・・・・・

「いやまず隠れ家を探したほうがいい・・・・」

そうしばらく潜伏していられる場所が必要だ・・・人のいない空家などない
だろうか?

そう考えるうちに背後から声が聞こえた。

「もしかして紗枝・・・・・・?」

私は驚いて振り向いた。

「弥生・・・・?」

私の正面には女子高生が立っていた。背丈は私より少し高い、ショートボブが
愛くるしい。その声は女の子にしては低く、しかしそれがかえって彼女の魅力を
引き立たせている感じがした。

「弥生!?」

「紗枝!?」

二人は同時に互いの名前を呼び抱擁を交わした。
そう彼女は西嶋弥生。私の大の親友だ。水泳部に所属している彼女は
華奢に見える体とは裏腹にがっちりした腕で私をきつく抱き締める。

「いっ痛いよ弥生!・・・」

「あっごめんごめん♪本当嬉しくってさ♪」

私も嬉しかった。彼女と出会ったのは高校一年生の時、当時私が周りの女子から
陰湿で執拗ないじめを受けていた時、助けてくれたのがきっかけだった。
以来彼女とは本当の姉妹のように遊んだり、時には助け合った。この状況下で
彼女がいることは非常に心強い。

「紗枝!私についてきて!安全なところ知っているから!」

弥生は私について来るように言う。

「安全な場所?」

「そう!私たちレジスタンスやっているんだ!研究所には私の仲間がみんないる
から付いてきて!」

そう言って弥生は私の手を掴み走った。




----------------------------------------------------------------------



あたしの心は満足感で満ち溢れていた。前回の地球侵略の失敗からこれほどまで
に盛り返せるなんて。つい今しがた部下から東京の人間は、ほぼすべて
ハイグレ人間への転向が完了したとの報告を受けた。前と同じように宇宙船を
都庁に繋げてその天辺から街を眺めるあたしの顔からは笑みがこぼれる。

そう私は地球人全員をハイグレ人間へと転向させあたしの忠実な下僕とする。
そしてこの地球をあたしの理想的な王国へと変えるの。素晴らしいでしょう?

風が吹いている。そして同時に羽織っているマントも大きく揺れる。
日は既に落ちかけている。前回の地球もそうだがこの夕暮れというのは本当
に綺麗だ。この星を侵略したがるだけのことはある。

だがあたしが今、喜んでいるのは侵略が順調に進んでいるだけではない。
そしてまだ、あたしは両手を上げて歓喜の声を出すことは出来ない。


「そうよねぇ〜♪」

今回の地球侵略最大の功労者。そう彼女抜きでは喜ぶことなんてできないもの。
彼女は今どうしているのかしら? ・・・ウフ♪なんてね♪彼女のことはすべて
お見通し。うまいこと研究所へ入ったわね。あそこにはスパイも忍び込ませて
いる、ほんの少しでも脅威となるものは摘み取っておかなくちゃね♪
もしかしたらアレがあるかもわからないし。でも楽しみだわ。あの子が絶望で
うなだれる様、あたしに向ける怒り、悲しみ・・・・

そして何よりもあの子のハイグレ姿がとても楽しみ♪一体どんな色であたし
の前で大好きで可愛らしいあの笑顔でハイグレしてくれるのかしら?

「オホホホホホホッ!本当に楽しみねぇ〜♪」

あたしは夕暮れに向かって笑う。そう後数日で再び彼女に会えることを祝って。











夕日は沈んで夜になった。しかしその場所にもうハイグレ魔王はいなかった。





----------------------------------------------------------------------



「ここが研究所よ!」


かなりの距離を歩いたり走ったり、辺りはもう真っ暗だった。私たちは郊外の
古ぼけた一軒家についた。長年空き家だったのか、窓のいたるところは割れたり
ヒビが入っていたりした、屋根の瓦は何枚か剥がれており、研究所というよりは
心霊スポットに見えてしまう。


「本当にこれが研究所?」

弥生を疑うわけではないがこの外見では到底そうは見えない。
しかし隠れ家という点ではピッタリな場所だろうと勝手に自分で解釈する。

「とりあえず中に入って!わかるからさ!」

私は弥生に促されて玄関のドアを開ける。
中はクモの巣だらけ、あちこちで床の板が外れていたり、住めるような場所
ではない。 そして居間の奥の部屋に空いてる大きな穴が存在感を放っていた。

「こっちよ!」

弥生はその大きな穴へ向かっていく。よく見たらその穴には梯子が付いていた。
私は一緒に降りて行く。下に進むにつれ人の話す声、機械だろうか、たくさんの
電子音、そして明りが見えてくる。

少し長い梯子を下りた私は中の様子に驚愕した。中で忙しそうに仕事をする
白衣の研究員らしき人たち、そして私が今まで見たことが無い様々な機械、
大型モニターや大小の無数のメーター、そして巨大な空間がどこまでも広がって
いた。

「ここが研究所。そして私たちの最後の希望の場所よ。」


研究所には多くの人がいた。あの古ぼけた一軒家の地下にこれほどの拠点
がることに私は改めて驚かされた。

「私の部屋に来て!積もる話もいっぱいあるでしょ?」

私は研究所内の弥生の部屋に案内された。この研究所は周りのあちこちに
このような部屋があるようだ。
弥生の部屋は小さく、備え付けのベットと小さな机、そしてテレビがある質素
なものだった。

「さあ話して、何があったの?」

さすが友人だった、弥生は私の様子がいつもと違うことなんてお見通しだった。
私は事の経緯を話す、由利のこと、そして由利を守ってやれなかったことを、

「そう、由利ちゃんが・・・・」

弥生は悲しそうな顔で言った。由利と何度も遊んだ中である弥生も
やはりショックを隠しきれない。

「でも大丈夫よ!ハイグレ魔王さえ倒せばみんな元に戻るんだから」

「ハイグレ魔王?」

私はその言葉に引っ掛かりを感じた。何処かで聞いたことがある・・・・
でも思い出せない。

「ええ、あのパンスト団を率いている親玉よ!」

いわゆるボスというやつだ。しかしこれで目的がはっきりした。
そう由利を助けるにはハイグレ魔王を倒さなくてはいけないということ。


「ここはね、ハイグレ魔王を倒すために様々な研究がされてるの」

こんな施設がいつの間に出来ていたなんて・・・・

「これから私はどうすればいいの?」

私は聞く。何の役にも立たないけど、由利を助けたい・・・
助けるためなら何だってやってやる。

「ん〜とりあえず今日はもう遅いから明日にしよ?紗枝の部屋もあるから
案内するよ」

そう言って弥生と私は部屋をでる。しかし部屋を出たすぐ目の前に1人の
女性が立っていた。

「あなたが新入りさんね?」


その女性は私よりも年上で茶髪のロングヘアーにワインレッドのタートルネック
の上に白衣を羽織り、下はブーツカットのジーンズという格好だった。


「初めまして!田中紗枝です!」


「こちらこそ、私は桜矢代子、ここの責任者よ。よろしくね」

愛想笑いのような笑顔で私に自己紹介する。

「いきなりで悪いけどあんまり中をウロチョロしないでね、あなたのことスパイ
じゃないかって疑っている人が結構多いのよ」

私が疑われている?しかしすぐに弥生が答える。

「博士!紗枝はスパイなんかじゃありません!私が証明できます!」

弥生が猛烈な抗議の声を上げる。
 
「そうね、その子がみんなの前で素っ裸になるんだったら、みんな信用してくれ
るんじゃないかしら?」

私は場の雰囲気が気まずいことになっていることを感じた。私は周りから信用
されていない?いや、しかしそれも当然かも知れない。ついさっき来た私と
弥生では信用に差が出てしまうのも納得できる。あくまでも私はあの人たち
から見ればよそ者に過ぎない。多少の冷遇は眼をつむろう。

「まあ、いいわ、ゆっくりしていきなさい。退屈なところだけど他に当てが
ないんでしょ?」

そういってあの人は振り向いていってしまった。長いロングヘアーが揺れる。

「ごめんね紗枝・・・・」

弥生は謝る。いや彼女は悪くない。

「ううん、いいの、所詮よそ者だしさ・・・・・・そうだ私の部屋に案内して!」

私はこの雰囲気を変えるために笑顔で言った。このくらいでへこたれるわけには
行かない。向こうでは由利が助けを求めている。それに比べれば屁の突っ張りだ


「わかった!こっちよ!」

私は弥生について行く。途中、研究員の人に何人かすれ違ったが、やはり不審な
眼で見られた。どうやらスパイと疑われているのは本当らしい。

「ごめん、そういや言い忘れてたんだけど、相部屋でもう一人いるんだ」

部屋の前について弥生に言われた。私自信、相部屋は問題ないのだが、現在
スパイ容疑がかけられている私に対して警戒心などないだろうか?
そちらが気になってしまう。

「まあ入ってよ」

そういって弥生はドアを開けた。中はさっきの部屋とほとんど一緒だった。
ただ違うことといえば私の正面に小さな女の子が立っていることだ。

「・・・・・・・・誰?」

女の子は警戒心で一杯な声で私に聞いた。小学生だろうか?年にして7、8才
の印象を受ける。ウェーブがかかった、ふんわりした長い髪が可愛らしく、
オレンジ色の縞模様の入ったロングTシャツにデニムのホットパンツという
格好だった。

「この子は由利島佳枝ちゃんって言うんだ、」

「今日から相部屋だけど、よろしくね佳枝ちゃん!」

私は小さな子供に向ける笑顔で言った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

しかし女の子は答えない。それどころか私をじっと睨みつけている。
そしてそのまま走り去ってしまった。

「ごめんね、あたしもあの子も、つい昨日来たからあの子のことまだ良く
わからないんだ」

ということはあの子も私と同じで避難してきたんだ。そして他の家族は
きっと・・・・・・・

「昨日からずっと泣きっぱなしでさ、やっと落ち着いたと思ったら今度は
これだよ、子供って難しいね〜」

弥生は苦笑いしながら言った。確かに両親から引き離されての生活はあの
年頃の子供にとっては相当に酷なことだろう。周囲の大人が信用できないのも
仕方がない。

「たぶんすぐ戻ってくるだろうから、しばらく部屋にいてよ、御飯になったら
呼びに来るから」

そう言って弥生は部屋を出た。






とうとう、ここまで来てしまった。今頃、由利はどうしているのだろう。
ハイグレ人間になっても私のことを心配していることに違いない。




ふと涙が出た・・・・




「・・・・あ・・・あれ?」

おかしいなぁ、どうして涙が出るんだろう?さっき由利を助けてやるんだ!
ってあんなに意気込んでいたのにさ・・・・
いじめられていたときも、
由利がハイレグ姿にされた時も泣かなかったのに・・・・
どうして今?・・・・なんで?・・・・止まらないよぉ・・・・


「うわぁあああああああああああああああああん」



私は泣いた。こんなに泣いたのは、いつ以来だろう?確か祖母が亡くなった時
以来だ。
涙が止まらない。大粒の涙が床のカーペットを濡らしていく。
まるで締まりの悪い水道の蛇口みたいに涙が流れていく。今まで泣かなかったの
はこの急激な状況の変化で安心できる時間がなかったこと、そしてこの部屋で
1人になった時に安心感から泣いたのだろう。

「っう・・・・・・・・うぅ・・・」

「お姉ちゃん泣いてるの?」

気付いたら佳枝ちゃんが立っていた。悲しそうな顔で私を見ている。
私は涙を拭って彼女を見る。

「あたしもね・・お母さんとお姉ちゃんが・・・・・」

佳枝ちゃんは眼に涙を溜めながら近づいてくる。
しかし私は彼女に返事することが出来ない。

「・・・・っ泣かないでぇ・・・・あたしも泣きたく・・・・っう」

私は佳枝ちゃんを抱き締めて泣いた。佳枝ちゃんも答えるように私を
抱き締める。佳枝ちゃんの髪はふんわりしていて気持いい。そしてとても
良いにおいがする。抱き締めるだけでこんなに心って暖かくなるんだね、
人とふれあえるって本当にうれしいよね・・・・・・









二人は泣いた。泣いて泣いて泣き抜いた・・・・・・










「お姉ちゃん・・・・さっきはごめんね・・・・」

佳枝ちゃんは先ほどの余韻がまだ残っている眼を真っ赤にさせて
謝った。

「ううん、いいんだよ?」

私はふんわりした頭を撫でる。そういえばこういう光景に覚えがある。
そう、あれは私が小学生だったころ・・・・・







「・・・・・ぉ・・・おねぇぢゃん!・・・・ごめんなざい・・・!」

由利が私に抱き締められながら泣いている。そう、あれはまだ由利が小学校の
低学年の頃だった。

確かあれは、由利が私の誕生日プレゼントにお母さんから貰ったお人形を壊して
しまった時だ。
あの時、私は怒り心頭で「バカ! 嫌い!」とか言ってたっけ。
結局、最後には許したけど、あの時の由利と目の前の佳枝ちゃんは面影がどこか
似ている。


「さあ、そろそろご飯だから一緒に行こう?」

「うん!」

佳枝ちゃんは泣き声が晴れないまま笑顔で言った。





-------------------------------------------------------------------------



私は急速な研究の仕事に追われていた。早くアレを完成させなければ・・・
ここもいつまでも持つとは限らない。
私は長いロングヘアーを揺らしながらキーボードを叩く。
ハイグレ魔王は、はるか向こうの世界からやってきた侵略者だ。
この情報は向こうの同士から聞いている。そして今この状況こそがハイグレ魔王を
倒す絶好の機会なのだ。ヤツは前回の侵略の失敗の傷跡がまだ深く残っていて
十分な力を発揮できない。その証拠に今のヤツはパンスト兵以外の戦力を持って
おらず、前線をはってでることが出来ない。希望は十分にあるだろう。


しかし不安要素が一つある。そう彼女だ。最初は既に洗脳されていると感知して
いたが、どうやら違うらしい。これも向こうの同士から聞いた情報だが
彼女は・・・・・・・・・そう彼女がヤツの側に付いたらこちら側の状況は
非常につらいことになる。それだけは避けなくてはならない。
本当ならあの時彼女を撃ち殺しておけば良かったかもしれない。しかし、しなか
った。なぜなら、私たちの脅威であると共に彼女はハイグレ魔王を倒す希望
となるかもしれないからだ。



「なかなか、思い通りにはいかないものね」

私はコーヒーを飲みながら微笑する。さあ仕事の続きをしなくては。



-------------------------------------------------------------------------



夕食のカレーはレトルトだったが、とてもおいしかった。
隣の佳枝ちゃんもおいしそうに食べている。

「おいしいね〜♪」

佳枝ちゃんは口の周りをカレーだらけにして笑った。

「ほら、だらしない♪」

私はティッシュで口の周りを拭いてあげる。
まるで自分に子供が出来たような錯覚に陥った。


「もうすっかり親子ね」

正面に座る弥生が苦笑いしながら言う。

「さあ、御飯も食べたしシャワーを浴びて今日は寝ましょう?」
席を立った私は佳枝ちゃんを連れていく。

「うん、また明日ね」

「明日もよろしく!」

あいさつを交わした後、私たちはシャワー室へ向かった。






シャワー室はお風呂こそ付いていなかったが体を洗うには十分だろう。
私はまず一緒に入っている佳枝ちゃんの頭を洗っていく。

「キャハハ! お姉ちゃんくすぐったい!」

私の洗い方がくすぐったいのか、佳枝ちゃんは身をよじらせて笑った。
もっといじめてやりたいという、いけない考えが頭に浮かぶ。

「これはどうだ♪」

私は腋にシャワーを当ててみた。

「キャハハハハハッ! いゃだぁ!」

佳枝ちゃんは顔を真っ赤にして笑った。


こうして私たちのシャワータイムは40分もかかってしまった。







髪も乾かしジャージに着替えた私とパジャマ姿の佳枝ちゃんは一緒にベット
に入った。一緒に寝るなんて小学生のころに由利と一緒に寝てた以来だ。

「お姉ちゃん抱き締めて・・・」

佳枝ちゃんは身を震わせて私に体を寄せる。私はゆっくり佳枝ちゃんの頭を
自分の胸に抱きしめた。

「温かい・・・・・」

幸せそうな顔をしている。私の中にも幸福感という感情が溢れてくる。
そしてこの子を失いたくないという不安感も同時に広がる。
この子だけは、何としても守ってやりたい、もう由利の時みたいに、また
本当に守りたい人を守れないなんて嫌だ・・・・・

「佳枝ちゃん・・・お姉ちゃんが絶対守ってあげるからね?」

私は胸元に顔を埋める佳枝ちゃんに呟いた。

「スー、スー、」

どうやら安心して眠ってしまったようだ。そう、それでいい。今この瞬間
だけでも怖いこと、苦しいことを忘れてくれれば・・・・・





そうして私も意識が遠ざかって行った。












「ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!」



今、地球は侵略者たちの危機にさらされている。私たちはハイレグ姿にされた
人々の間を縫って、この市街地を駆けている。

私は真実を報道する記者だ。地球が侵略されている中、わたしはこの事実を
世界に向けて発信しなければならない。

「おはようございます。現在地球は侵略者たちの危機に瀕しています。私は
彼らの支配地域、新宿へやってきました。」

私はあいさつをする。これが最後かもしれないのに、心の中は意外と
平常心だった。

「今回、私の最後のニュースとなるかもしれません。ですが私は今ここで
何が起こっているのか、真実を伝えたいと思います。どうぞご覧ください。」



『ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!』


カメラはハイレグ姿にされた人々を映し出した。私はみんな、どうしてああな
ったか知っている。パンストを被った変態が持っているあの銃で撃たれたから
だ。人々はみんなコマネチをして、その表情も真剣な顔や笑顔と多様だった。


「これが真実です。侵略者たちは私たちをこのようなハイレグ姿に変えて
このようなポーズを取らせています。しかしその意図は私にもわかりません。」


一体なぜこんなことをしているのだろう?侵略するなら皆殺しにすればいい話だ。


「キャアアアアアアアアアア!!」

後ろで女性ディレクターの声が聞こえる。彼女は赤青に激しく点滅する光に
包まれていた。あまりの眩しさに私たちは眼をつぶる。

「ハイグレッ! ハ、ハイグレッ ハイグレ」

光がやむと彼女は紫のハイレグ水着を着てコマネチをしていた。
私たちは絶句する・・・・・
とうとう見つかってしまったのだ。

「逃げるわよ!」

そう言って私は仲間を連れて逃げだした。しかし相手のパンストは何十体も
いる。逃げてる途中で何人もハイレグ姿にされてしまった。

「こっちよ!」

気付いたら私とビデオディレクターの二人だけになってしまった。
私は初めて恐怖心に駆られた。怖い・・・・・
体が震える。しかし、私はここで仕事を投げ出すわけにはいかない。
なおもマイクをもって視聴者に向けてメッセージを送る。

「視聴者の皆さま。先ほど侵略者たちの攻撃にさらされました。現在、こちらは
私とディレクターの二名しかいません。」

今、視聴者はどんな気持ちで私を見ているのだろう?しかし私にはそれを知る
術がない。

「東京は今や侵略者の完全な支配下に置かれています。視聴者の皆さま、どうか
どこか遠くへ避難してください!」

向こうからあのパンスト達がやってきた。こちらは壁側でどうやらここまで
のようだ。

「今、私は侵略者たちに囲まれています。もう逃げ場はありません。
今までありがとうございました。しかし私は侵略者の支配には屈しません。
全力で抵抗したいと思います。」

そう、ただではやられない。コマネチなんて絶対にするものか。




「キャアアアアアアアアアアアアア!」









やがてパンストから放たれた光線が私の体に直撃した。















「っ・・・・・・・・・!!」

私はテレビ画面を食い入るように見ていた。
朝起きたらテレビ番組がやっていて・・・・
アナウンサーはきっとやられてしまっただろう。

画面が砂嵐になってもう10分近くになるが私は画面から目が離せない。

「お姉ちゃん・・・・・」
いつの間にか佳枝ちゃんが不安そうに私にくっついていた。
私は手を結んで落ち着かせようとする。


「・・・・ッレ!・・・・・・・ッグレ!」

砂嵐から音が聞こえる・・・・良く聞こえない。

しかし次の瞬間砂嵐が晴れた。


そして私達は驚愕の姿を見ることになった。







----------------------------------------------------------------------






「ハイグレッ ハイグレッ ハイグレッ」





黄緑色のハイレグ水着を着た私は真剣な表情でハイグレポーズを取っていた。
それは普段、仕事をするのと同じ真剣さだ。つい数分前、私はこの動作を嫌悪
感と羞恥心という愚かな気持ちでおこなっていた。
それが大きな間違いだということに私の心は罪悪感で一杯になる。
私は間違ったことをしていた。市街地の人はみんな正しいことをしていたのだ。
そんな彼らをカメラに写すなんて報道者としてあるまじき行為であると自覚せ
ざる得ない。今の報道でどれだけの人が混乱してしまっただろうか・・・・


「ハイグレ♪ハイグレ♪ハイグレ♪」


隣のディレクターの彼女も緑のハイレグ姿で嬉しそうにハイグレポーズ
を取っていた。彼女も無事にハイグレ人間にして頂けたようだ。
私は最初、全力で抵抗する。コマネチなんてするものか、と言っていたが
少しも抵抗する必要なんてなかった。当たり前のことをするのに、なぜ抵抗
する必要があるのだろう?やはり人間の価値観、倫理観で考えているからいけない
のだろう。だから、さっきの私たちみたいに逃げるという愚かな行為をして
しまうのだ。

さあ私はさっきの責任を取らなくてはならない。報道者としての責任。それは
真実を報道するということ。そう現在、地球はハイグレ魔王様によって侵略して
いただいており、パンスト兵様のハイグレ光線を浴びると身も心もハイグレ魔王様
の忠実なしもべにしてくれるということ。そしてその前に、私は視聴者
に言わなくてはならないことがある。それは決して抵抗する必要なんてない。
みんな早くハイグレ光線を浴びてハイグレになろうと。

私の後ろにはオマルを降りたパンスト兵様が並んでいる。そしてディレクター
がカメラを向けた。どうやら準備が出来たようだ。



「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」


私は真剣な表情でカメラに向かってハイグレポーズを取る。それはこの姿に
して頂いたハイグレ魔王様に最大の敬意を払う意味もあった。後ろには
何人ものパンスト兵様が並んでいる。私はポーズを取りながら述べる。






「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!視聴者の皆様、無駄な抵抗は止めて
早くハイグレを着ましょう!」








バックにパンスト兵様を写す中、私はいつまでもハイグレポーズを取り続けた。






----------------------------------------------------------------------








「怖いよぉ・・・・お姉ちゃん・・・・・」


佳枝ちゃんが私にしがみついてくる。そう先ほどの映像のせいだ。
かわいそうに・・・・・あのアナウンサーも洗脳によって心を捻じ曲げられて
しまった。きっと由利もあんな風に・・・・・・・

やはり、いつでも妹のことが気になってしまう。私いつからシスコンになった
っけ?いや違う、いつも傍に居たから気がつかなかったんだ。いなくなった時の
この孤独感に・・・・・・・


これ以上見るのは耐えられない・・・・・
私はテレビの電源を消した。


「わたし達もいつか、ああなっちゃうの?」


佳枝ちゃんは切なそうな顔で言う。


「ううん、お姉ちゃんが佳枝ちゃんだけは絶対に助けてあげるから安心して?
約束よ?」

私は笑顔で佳枝ちゃんに言った。今度は守ってみせる。例え代わりに私が
ハイレグ姿にされて由利を助けることが出来なくなっても・・・・

「でもお姉ちゃんだけ助からないなんて嫌だ!! だったら佳枝もああなる!!」

佳枝ちゃんは私のお腹に顔を埋めて泣く。佳枝ちゃんは私の希望だ、そう佳枝
ちゃんがああなるなんて想像したくない・・・・

「何言ってるの?佳枝ちゃんは、私の希望なんだよ?それにお姉ちゃんが妹を
助けるなんて当たり前じゃない」

私は佳枝ちゃんを、あやすように頭を撫でる。


「もし私がああなっても、佳枝ちゃんが助けてくれるって信じてるからね?」

そう佳枝ちゃんは、まだ小さいけど無限の可能性を秘めている。いつかこの状況
を解決してくれるかもしれない。なら私の犠牲なんて小さいものだ。


「うん・・・・・・・・・佳枝、絶対にお姉ちゃん助ける・・・・」

佳枝ちゃんは泣き顔で私に言ってくれた。本当に小さい頃の由利に似ている。




「紗枝〜博士が呼んでるよ!」

弥生がドアを開けて入ってきた。

「あり?ごめん、取り込み中だった?」

佳枝ちゃんを抱き締める私を見て弥生はバツが悪そうに言った。

「ううん、今行くよ、佳枝ちゃん待っててね?」

「うん!」


私は部屋を出た。



一体何の用だろう?
部屋に向かう途中で考える。
あまり良い話ではなさそうだ・・・
最初のアレを見ても。

「ここが部屋」

私たちとは違う少し大きめの部屋に付いた。

「ありがとう、先に部屋に戻ってて!」

「うん!佳枝ちゃんの面倒はみとくから!」

そう言って小走りでいってしまった。

「はあぁ〜、一体何なんだろう・・・・」

私はため息を吐きながらドアをノックする。

「どうぞ」

私は中に入った。部屋は私たちのより充実しており、パソコンなどの
機器が置かれていた。その中で彼女は、ひたすらパソコンのキーボード
を叩いていた。

「用ってなんですか?」

「あなたに話さなくちゃいけないことがあってね、まあ座ってよ」

円型のテーブルがある椅子に座るように促す。パソコンの電源を消すと彼女
は私が座っている反対側の椅子に座った。

「ハイグレ魔王を倒す兵器が出来たわ。」

「え?」

唐突過ぎて眼が点になる。

「本当ですか!?」

私の心に希望という光が溢れる。どんなに待ち望んだことか・・・・
これで由利を助けることができる!

「これが、それよ」

彼女はテーブルの上に転がした。それは光り輝くピンク色の・・・・・飴玉?

「これ・・・・・・・・・・・なんですか・・・・?」

ふざけているのか、飴玉で世界を救うつもりなのか?

「別にふざけてるわけじゃないわ、本当よそれがハイグレ魔王を倒す武器よ」

真剣な表情で彼女は言う。

「名前はアクションストーン、異邦人が授けてくれた強力な武器よ」

アクションストーン・・・これが凄いのはわかった。でもしかしこれは一体
どうやって使うんだ?それになんで私に?

「わかりました、でもなんで私に話すんですか?」

そう一番の疑問はそれだ。最初スパイと疑っていた人間にこんな重要な
機密情報を教えるなんて・・・・

「そう、そしてこれは、おそらくあなたにしか使えないからよ」

私にしか?これは人を選ぶのか?でもなんで私にしか?

「あなたは戦士としての素養があるのよ、そしてあなたは・・・・・」

彼女は言いかけてやめた。

「くわしいことは後ほど話す。でもこれが完成したことは現在あなたにしか
話していない。どういう意味かわかる?」

彼女は問いかける。でも私は明確な答えがわからない。

「実はねこれは既に敵に知られている物なのよ、そして一番恐れている。」

「私最初にあなたのことスパイだと疑ったわよね?でも断定は出来なかった。」

彼女は話を続ける。

「もしあなたがここに来た時点でこれを知っていたなら断定できたわ。まあ
あなたのこと遠くから見てたけどそんな素振り全然なかったからね。」

「そしてこのことは今、わたしとあなたしか知らない。研究員もこれが
アクションストーンだとは知らない」

彼女は段々と話を核心へと近づけてくる。

「つまり私達以外にこのことを知っている奴は完全にスパイだと断定できるの」

「気をつけてちょうだい。もしスパイがいたらきっとあなたのことを狙って
くるわ」

自分が狙われている?私の周りにはスパイらしき人はいない。
大丈夫だとは思うけど・・・・

「わかりました、気をつけます。もしスパイらしき人がいたら絶対に知らせます」

「わかったわ、もう戻っていいわ。そろそろ昼ごはんだしね」

もう昼だったのか。どうりでお腹が減るわけだ。
私はさっきの言葉の重要性。そして私自信が狙われてる可能性、気が重くなり
そうだが希望が見えてきた。ようやく由利を助けることが出来るのだ。
少々のことでへこたれるつもりはない。もっと自信を持っていこう。

さあ部屋には佳枝ちゃんも待っているし急ごう・・・・

わたしはあいさつをすると、小走りで部屋に向かった。












「ハイグレッハイグレッハイグレッ」


誰もいない個室シャワー室の中、水色のハイレグ水着で私はハイグレ魔王様に
忠誠を誓うポーズを取った。私の中に幸福感と快楽が広がる。
私は今とても光栄なことをしている。そうスパイとしてこの研究所に潜り込み
情報収集というハイグレ魔王様より授かったこの任務に対して。
私だからこそ選ばれた、そう彼女に最も近い人間として・・・・・・
しかし同時に我慢できない歯痒さもある。彼女、紗枝を早くハイグレ人間に
したい。私は彼女が好きだ。流れるようなセミロングの髪、細い手足、透き通る
ようなあの声、そして小動物のようなあの愛くるしい笑顔・・・
紗枝にこの素晴らしさを早く味あわせてやりたい、あの時の由利ちゃんみたいにね
でも今は駄目、我慢しなくちゃね。

やっと合間ができた。あの子はさっき寝かしつけて
しまったし、シャワーを浴びてれば怪しまれないだろう。私は先ほど報告に使って
たトランシーバーを鞄にしまう。
しかしあれがもう完成していたなんて・・・・
一刻も争う事態だ。研究所の詳しい場所は話した。しばらくしたらパンスト兵様の
大編隊が到着するだろう。


あぁ・・楽しみだ紗枝のハイグレ姿、一体どんな色なんだろう?紗枝だけは
私がハイグレ人間にしよう。そして佳枝ちゃんと三人でハイグレするんだぁ。








私は上から制服を着るとシャワー室を出た。















私は自分の部屋に着いた。どうやら弥生は居ないみたいだ。
ベットには佳枝ちゃんが気持ちよさそうに眠っている。寝かしつけて自分の部屋
に戻ったのだろう。

さっきのあの部屋での言葉が胸に突き刺さる。私は狙われているかもしれない。
でも今、佳枝ちゃんの寝顔を見てるとそんな憂鬱も忘れさせてくれる。
希望が見えてきた。こんな生活も、もう終りに近い。
全部終わったら佳枝ちゃんはどうするんだろう?もちろん親元に帰るんだろうが
もう会えなくなるのかな?ちょっと寂しいなぁ・・・・

そうだ、弥生の部屋に行かなくちゃ。佳枝ちゃんの面倒見てくれたお礼もしなくちゃ
いけない。

私は弥生の部屋に向かった。


「あっ!どうしたの紗枝?」

弥生は元気な声で私を迎え入れてくれた。

「うん!佳枝ちゃんの面倒見てくれてありがとうね!」

「ううん、なんか疲れてたみたいで、すぐに眠っちゃったんだよ」

弥生は苦笑いしながら言う。

「そういえば、博士と何話していたの?」

「ううん、たいしたことじゃないの。」

あれを言うわけにはいかない。たとえ弥生でも・・・
それに余計な心配をかけさせたくないしね。


「でも、この生活もいつまで続くんだろうねぇ〜」

私は話題を変える為に何気なく言った。

「もうそんな長くは続かないと思うよ、アクションストーンも完成したしね!」

そうアクションストーンが完成した。ハイグレ魔王を倒せる唯一の武器だ。
こんな生活はもうすぐ終わりだ。あとはハイグレ魔王を倒すだけ・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?


――――つまり私達以外にこのことを知っている奴は完全に
                   スパイだと断定できるの――


「!?」

どうして弥生がそのことを知っているの・・・・・・・・・?
まさか弥生が・・・いや、そんなはずない!だって弥生は私を助けてくれたんだよ?

「弥生・・・・・・」

「ん?」

聞きたくはない・・・でも

「どうしてアクションストーンのこと知ってるの?」

私は尋ねた。お願い、嘘だよね?何かの間違いだよね?
弥生は笑顔で言った。

「ああ、それなら博士からさっき聞いたんだよ」

笑顔で言う。しかし、今この状況ではとても不気味に見えてしまう。

「ウソ・・・・・・・博士、このことは私にしか話してないって・・・・・」

そうそれは嘘だ。
私はいつしかドア側に立ちふさがるように立っていた。

「ねえ・・・違うよね・・・弥生、スパイなんかじゃないよね・・・・?」

私は聞いた。胸のドキドキが収まらない。
弥生は笑顔を崩さない。しかし彼女は私の期待を裏切ることを言った。

「あ〜あ、バレちゃったか、もう少し隠すつもりだったのになぁ・・・」

弥生は先ほどの笑顔に妖美さを含んだ顔で言った。
どうして・・・・・・・・私の心は真っ白になった・・・・・
今まで弥生と過ごしたあれはみんな嘘だったの?

「弥生・・・・・どうして!!」

私は強い口調で言った。心の中は怒りと悲しみ、色々な感情が入り混じって
うまく表現できない。

弥生はおもむろに制服を脱ぎだした。そしてすべて脱ぐと彼女は下に
水着を着ていた。それは水泳部の競泳水着ではなく、水色のハイレグ水着
、私が一番見たくなかった姿だ。

「ハイグレッハイグレッハイグレッ」

弥生は私に向かってコマネチをした。真剣な表情で、しかしその眼は
いつも私と話したり遊んだりする、やさしい弥生の眼だった。

「いや・・・・・・・」

いやだ・・・・・・弥生のこんな姿見たくない・・・・・・
大切な友人を失った気がした。そしてもう二度と戻ってこない・・・
私の目の前でコマネチをしている親友はそんな私の気持ちも知らずに言う。

「さあ、私をどうするの?」

弥生は首を横に向けて笑顔で言った。

「ここから、出させない!」

私は体を恐怖でガクガクさせながら言う。しかしそれ以上に怖いのは
弥生が私の敵だということ。こんなの嘘だ。夢であって・・・お願い!

「紗枝、何も怖がることなんて無いんだよ?」

弥生は震えている私を見て穏やかで優しそうな顔で言った。

「私がハイグレ人間にしてあげる紗枝、一緒にハイグレしよ?」

「いつから洗脳されてたの・・・・?」

親友からのこんな言葉聞きたくなかった・・・・・・
やっぱり弥生も洗脳されてしまったんだ。こんなの弥生じゃない!!

私はハイグレ魔王に対する怒りで一杯になった。よくも弥生を!


「紗枝とあの時会う前からだよ。」

「このスパイの任務が無ければ、あのときどんなに紗枝をハイグレ姿に
したかったことか・・・・」


弥生は残念そうに言う。


「紗枝、私は紗枝が嫌いだからこんなことしてるんじゃないんだよ?
大好きだからなんだよ?紗枝にもこの素晴らしさをわかってもらいたいんだよ?」

「ウソ!!弥生は洗脳されてるんだよ!!お願い眼を覚まして!!」

私は弥生に懇願する。お願い話を聞いて・・・・・

「紗枝もハイグレになれば分かるようになるよ、そう由利ちゃんみたいにね」

「由利が・・・・?」

どうしてここに由利の名前が出てくるの・・・?

「由利ちゃんをハイグレ人間にしたの私なんだ〜、由利ちゃんったら私服姿の私に
すっかり騙されて、待ち伏せしてたパンスト兵様にハイグレ姿にして頂いた
んだ。」


「由利ちゃん最初泣きながらハイグレしてたけど、最後にはすごい気持ちよさそうに
ハイグレしてたんだよ?」

私の中で何かが溢れてくる。そう怒りと悲しみ、二つ混じった複雑な感情。


パンッ!


気付いていたら私は弥生の頬を叩いていた。弥生は叩かれた頬に手を当て
私を見る。

「・・・・・・・酷いよ弥生!!よくも由利を!!」


私は泣いていた。しかし弥生に対して怒るのは間違いだ。彼女は洗脳されている
のだから・・・・

「酷くなんかないよ・・紗枝もこの気持ちよさがすぐにわかるようになるから」

「もうすぐパンスト兵様の大編隊が到着するの。そしたら佳枝ちゃんと一緒に
ハイグレ銃を浴びせてもらおう?」

「もし、私がハイレグ姿にされても、もう私はあなたのこと親友とはもう思わない


言ってしまった・・・・・・・洗脳されているとはいえ、言いたくなかった。
しかし弥生が由利を洗脳したことが、わかっててもどうしても許せない。

ドスッ!!

その時だった。私の腹部に強い衝撃が加わった。そこには弥生の腕がめり込んでる
・・・
急激に意識が薄れていった・・・・・
駄目だ・・・・もうすぐあいつらがやってくる・・・みんなに知らせなくちゃ
・・・・・

「ごめんね紗枝・・・・」


意識が無くなる前に弥生が何か言った気がした。














暗い・・・どこまでも暗い場所に私はいる。
そうあのときの夢と同じ・・・・
何かを忘れているような気がする・・・・・・・・・・
でも思い出せない・・・・・・
なんだか疲れた・・・・・ずっと眠っていたいよ・・・



――――お姉ちゃん――――



誰?・・・・・



――――助けて――――


どうして・・・・?



――――お姉ちゃん!――――


声がハッキリと聞こえてくる。そして同時に私の視界も明るくなってきた。



「お姉ちゃん!!」


眼が覚めた。仰向けで眠っていた私の目の前には佳枝ちゃんが必死な顔で
私を呼んでいた。


「どうしたの?」

私はまだ意識がハッキリしない口調で聞いた。


「大変なの!!みんなが!!」

みんな?・・・・大変?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?

そうだ!私は弥生に・・・・・
そしてみんなが危ない・・・・

「佳枝ちゃん逃げるよ!」

「うん・・でもお外が・・・・」

私は佳枝ちゃんの言葉を聞きつつドアをそっと開けて様子を見てみた。











『ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!』












外は地獄絵図と言えるありさまだった。地下の研究所に侵入したおびただしい
数のパンスト兵が研究所の人々をハイレグ姿にしていた。
逃げ惑う人々、抵抗する人、その両方が入り混じる中、光線銃の音と光、
そしてもう聞き慣れてしまったが聞きたくないあの声がこの地獄絵図をさらに
強調させていた。

それだけではない、絶望的な状況を私は直ちに知ることになってしまった。
外へ通じる出口がすべて奴らに抑えられていたのだ。みんな外へ逃げるつもり
だったのか、そこだけ異常な数のハイグレ人間が一斉にコマネチをしていた。


私はドアを閉める。幸いこの部屋は、まだ見つかっていないようだ。
しかしそれも時間の問題。

「どうしよう・・・お姉ちゃん・・・」

佳枝ちゃんが今にも泣きそうな声で私に聞く。
しかし私にはどうしようも出来ない・・・

部屋を見渡す中、私はあることに気付いた。

排気ダクトだった、私のような大人は到底入れそうにないが、子供なら
入れる。そう佳枝ちゃんなら・・・・


私の頭の中にあの言葉が蘇る。




――――お姉ちゃんが佳枝ちゃんだけは絶対に助けてあげるから安心して?
                            約束よ?――――


そう、今こそ約束を果たさなくちゃいけない。由利の時に守れなかった代わりに
佳枝ちゃんだけは私が守る。


「佳枝ちゃん」

私はこの状況下において、穏やかにそして優しく佳枝ちゃんの名前を呼んだ。

「何?」

「ここでお別れだよ、上に排気ダクトがあるのがわかる?私は無理だけど
佳枝ちゃんなら入って外に出ることが出来るの」

佳枝ちゃんは眉間にしわを寄せながら私の話を真剣に聞く。

「佳枝ちゃん、外に脱出して生き残って、ここに居れば私たちは全滅してしま
うの」

「やだ、佳枝も残る」

下に顔を伏せたまま言う。
しかしその両手は二つとも握りこぶしを作っており、ブルブルと震えていた。

「お願い佳枝ちゃん、私、佳枝ちゃんのあんな姿みたくないよ、
私のために逃げて・・・お願いっ!・・・・」

最後は涙声になっていた。佳枝ちゃんと短い間だけど過ごしたあの時間は
私の一生の記憶に深く刻まれるだろう。だからこそ、私はこの子を守らなく
てはいけない。前にも言ったが、佳枝ちゃんは私の希望だ。この状況を救ってくれる
一筋の光になってくれるかもしれない。

「やだよぉ・・・・・佳枝も一緒にいたいよぉ・・・」

泣きじゃくりながら佳枝ちゃんは言った。

「佳枝ちゃん、約束したでしょう?もしお姉ちゃんがああなっても佳枝ちゃんが
助けてくれるって?」

佳枝ちゃんは泣きながらうなずく。

「私、佳枝ちゃんが助けてくれるって信じてるからね?」

私は排気ダクトのフィンを開けた私は、佳枝ちゃんを抱っこして、
中に押し込める。

「お姉ちゃん・・・・佳枝が絶対助けるからね!」


涙で瞳がまるで星屑のように輝いていた佳枝ちゃんは笑顔で私に言って
くれた。


「うん!絶対だよ!」

そう言って、佳枝ちゃんはダクトの奥へと進んで行った








さあここからが私の正念場だ。私が出来ることは可能な限りこの部屋から奴ら
の眼をそむけること、つまりはおとりということだ。
どの道逃げ場なんて無い。だったら佳枝ちゃんの耐えにも華々しく散ろう
じゃないか。

私はドアを開け走る。奴らが気付いたらしく数体が追ってきた。
激しい光線銃の光と音が飛び交う中私は走り続けた。
不思議とあまり疲れを感じなかった。今の私はこの不思議を可能にしている
大きな原動力がある。そう佳枝ちゃん、あの子の存在が私をここまでさせて
くれるんだ。
そう考えると恐怖も何も感じなかった、マラソン選手のように規則的に息を
吐きながら私は考える。

あの子は無事に脱出できたのか?外に奴らが待ち伏せしているという可能性
は否定できない。しかし賭けるしかない。あの子が私を信じて約束してくれた
ように、私も信じなければ!
無限の可能性があるあの子を私は信じる!


「くっ!」

走った先は行き止まりだった。向こう側から何十体のパンスト兵がやってきた
。とうとうここまでのようだ。しかし時間稼ぎは出来ただろう。
それだけで十分。願わくば洗脳された私があの子と出会わないことを祈る。
きっと悲しむだろうから・・・・・・・・




パンスト兵からバシュウッっと一斉に私に向かって光線が放たれた
私は光線が迫る中、祈った。そして謝った。


どうか無事でいて佳枝ちゃん・・・・・・・・・!
ごめんね由利・・・・お姉ちゃんも一緒に・・・・・・


ゆっくりとスローモーションでピンクの光が迫ってきた。もはや逃げる術
は無い。

私はそっと目をつぶる。そして光線の直撃する・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はずだった。


「お姉ちゃん!!」

私の目の前に1人の女の子が立ちふさがった。ふんわりしてウェーブがかかっ
た髪にクリッっとした愛くるしい目をした私のかわいい妹だった。


「佳枝ちゃん!?」

私は信じられないくらい大きな声で叫んだ。目の前の大きな光線から
守るように佳枝ちゃんは手を横に広げて私と顔を合わせた。

「っ!!」

「きゃあああああああああああああ!!」

どうして来たの?と言いたかったがもう遅かった。光線を浴びた佳枝ちゃんは
姿勢を大の字にして、苦しそうな表情をしていた。
赤と青が激しく点滅する中、私はこの光景を瞬きせずに見つめていた。



















「ハイグレッ・・・・ハイグレッ・・・はいぐれっ!」




オレンジ色のハイレグ水着を着せられた佳枝ちゃんは私を守るために盾と
なって立ちふさがった位置で私に向かってゆっくりと足をガニ股に開き
コマネチをし始めた。愛らしいあの顔は苦痛によって非常に苦しい顔をし
ていた。その声は羞恥心からかそれとも恐怖心からか心底、小さな声だった。


私は佳枝ちゃんから目が離せない。あれだけ見たくなかった佳枝ちゃんの
ハイレグ姿に・・・・
もしかしたら見惚れているのかもしれない、
不思議な感覚だった・・・・

でも同時に何かが崩れ落ちる感覚がした。
言葉では言い表せない何かが・・・・
ごっそりと落ちて行ったのだ。

「ねえ、佳枝ちゃん・・・・」

私は声をかける、返ってくるはずはないのに。

「ハイグレッ・・・ハイグレッ!・・・ハイグレッ!」

佳枝ちゃんはそんな私をよそに、コマネチを続けていた。
さっきよりも声が大きく、動作も激しくなっていた。
何より顔が赤くなっている・・・・




もうやだよ・・・
こんなの見たくないよ・・・







あれ・・・・・・・・なんだろう?
急に眠くなってきちゃった・・・

その時、急激な眠気が襲った。



もういいや・・・何もかも疲れちゃったよ・・・
さっさとハイグレ人間にしてよ・・・・




私は意識を宙へ預けた。何体ものパンスト兵が周りにいるなかで。









――――お姉ちゃん・・・・――――


どこかで佳枝ちゃんの声が聞こえた気がした。






















「紗枝・・・・」



私はうずくまって気絶している紗枝を見つけた。
そしてその前にはハイグレ姿の佳枝ちゃんが・・・・


「ハイグレッ・・ハイグレッ・・・ハイグレッ・・」


オレンジ色のハイレグ水着を着た佳枝ちゃんは顔を真っ赤にしながら
ハイグレポーズを取っている。それは羞恥心からか、それとも快感からか
わからない。しかし、その口から徐々にではあるが笑みがこぼれていた。
もうすこしで佳枝ちゃんは完全にハイグレ人間へと転向する。
そんな佳枝ちゃんを紗枝が見たらどう思うだろうか?
今の紗枝では発狂してしまうだろう。そう、だから私は今、紗枝をハイグレ
人間にする必要がある。それが紗枝の為だ。


私は拳銃型のハイグレ銃を気絶してる紗枝に向けた。


あぁ・・やっと紗枝のハイグレ姿が見れる。この時をどんなに待ち望んだか、
友達なんだから当然だよね?紗枝は私がいないと駄目なんだ。いつだって私
を頼ってきた。そして姉妹のように遊んだ、語り合った。私はこんな日々を
守りたい、そして紗枝にハイグレ魔王様の忠実な下僕になることの素晴らしさ
を教えてやりたい、そうこの瞬間はとても意味があることなんだ。


いや、待てよ・・・・・・
意味があるからこそ、ここで紗枝をハイグレ人間にするのは、まだ早い、


――――もし、私がハイレグ姿にされても、もう私はあなたのこと親友とは
                         もう思わない――――


私にあの時の紗枝の言葉が突き刺さる。紗枝はなにも分かっていない、
これを浴びたら私の言ってることが全部、理解できるのに、紗枝は昔からこういう
ところが頑固だ。しかし今ここで撃つは易しいが、やはり後味が悪い。

よし、もう一度説得してみよう、起きてハイグレ姿のみんなを見せれば
きっと考えを変えてくれるだろう。それでも駄目だったらその時は
私が紗枝を洗脳すればいい。私は紗枝の親友だ。だから私は紗枝につらい
思いをしてほしくはない。ただそれだけなんだよ?







私は気絶している紗枝を担いだ



























チリリリリリリリリリリリリリリリン!!





目覚まし時計のすさまじい音が私を起こした。
時間は8時過ぎ、そう完全に遅刻だ
私はクシャクシャの髪のまま二階の階段を駆け降りる。


「ハイグレッ!ハイグレ!おはよう!お姉ちゃん!」

ピンクのハイレグ姿の由利が元気よくポーズをとった。


「ハイグレッ!ハイグレ!おはよう!」

紅色のハイレグ水着を着た私もポーズを取って返す。


「遅刻しちゃうよ!早く行かなきゃ!」

私は紺の通学鞄を持っていこうとしたが由利が制止した。


「なにやってるの?日曜日に」


日曜日・・・・・?
もしかして感違い・・・・・

「まじっすか・・・?」

「まじっす」

由利は何とも形容しがたい苦笑いを浮かべながら言った。








「いったいなんだったんだ〜」

私は起きたばかりのベットに寝そべった。
気持ちよくてまた寝てしまいそうだ。
もう一回寝ようかな?

そんな気持ちも浮かんだがやめた。
一度起きたんだ、また寝るのはつまらない。



紅色のハイレグ水着を着て手足を大の字に広げた私は天井を見ながら
そんなことを考えていた。



ハイグレ魔王様によって地球が侵略されてから今日で一週間になった。
もう地球上のほとんどの人がハイグレ人間への転向が済んだと聞いた。
この私もつい先日、あの研究所でハイグレ人間にして頂いた身だ。
ハイグレ魔王様を倒すという、どこまでも愚かで無駄な抵抗をしていた研究所
の人々は私も含め、みんなハイグレ人間にしていただいた。
私は本当に幸運だったと思う。あの時パンスト兵様の軍団がこなければ、
あのまま、あの子を自分から逃がしてしまうという愚かな行為、そしてハイグレ
魔王様を倒すなどという、ふざけた妄言を吐いて渦巻いていただろう。

パンスト兵様によって洗脳していてただけたおかげで私はこうしてまた由利と
暮らせることになったんだ。それに・・・・・・


ピンポーン

「お姉ちゃん!遊ぼう!」

可愛らしい声が聞こえてきた。

急いで階段を降りた私は玄関であの子を出迎える。

「ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!」

オレンジ色のハイレグ姿の佳枝ちゃんは玄関のドアを開けた私を元気よく
ポーズをとってあいさつしてくれた。

「ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!」

私もそれに答える。

「ねえ?今日は何して遊ぶの〜?」

「ん〜今日はお外で遊ぼうか?」


そんなたわいもない会話をしながら佳枝ちゃんを家に招き入れた。
何気ない日常、平凡だけどそんなところが良い。
あの日がすごく昔のことに感じてしまってならない。

あの時の私はなんであんなに悩んでいたんだろう?
佳枝ちゃんが目の前でハイレグ姿にされた時だって、どうしてあんなに
ショックだったのだろうか?むしろ喜ばしいことなのに・・・

そのあとパンスト兵様にハイグレ人間にして頂いた時、私はすべて理解した。
何も抵抗する必要なんて無かったのだ。由利や弥生が私に言ったことは
すべて正しかったのだ。やっぱり由利は最愛の妹で、弥生は最高の親友だ。
みんな私の為にしてくれたんだ。
それなのに私・・・・・

ふと泣きそうになってしまうのを堪えながら私は明るく振る舞う。

「おやつ食べようか?佳枝ちゃんの好きなケーキだよ?」

「うん!食べる!」

星屑のようにキラキラ目を輝かせながら、佳枝ちゃんはピョンピョン跳ねながら
私に言った。



キーン〜コーン!


「あっ・・・・・・」



お昼のチャイムが鳴り響いた。これが鳴った時、私を含めみんな何を
するか決まっている。


「ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!」


私は会話をやめてハイグレ魔王様に忠誠を誓うポーズを取った。
ハイグレ人間はみんな決まった時間にこうしてハイグレポーズを
取らなければならない。



「ハイグレ♪ハイグレ♪ハイグレ♪」

「ハイグレ♪ハイグレ♪ハイグレ♪」



隣で佳枝ちゃんと由利が元気よくポーズを取り始めた。
私も並んで一緒にポーズを取る。
耳を澄ませば外からも声が聞こえる。
まるで合唱のようで、とても心地よい・・・

ああ・・あの時なんで私はこれを嫌がっていたのだろうか?
こんなに素晴らしいものなのに・・・
ハイグレ魔王様によって侵略していただいた地球は本当に平和だ・・・
争いも略奪もない、ただハイグレ魔王様の忠実な奴隷として存在している
私たちは何て幸せだろうか・・・・・

そう思うと私は感謝に堪えない。



「ハイグレ♪ハイグレ♪ハイグレ♪」

ああ・・気持いい・・・

つい数日前の私なら羞恥心と嫌悪感で絶対にしなかったであろう
このポーズを今は躊躇せずに取っている。
羞恥心など人間の価値観で考えるからおかしく思うんだ。
こんなに気持ちいいこと恥ずかしく思う方がおかしい。



――――本当にそれでいいのか?――――



男の人の声が聞こえた。低く、しかしそれでいながらどこまでも澄んでいて
心地よい声だった。



――――まだ、やることがあるはずだ――――

頭の中に聞こえる声は、続けて言った。

まだやること・・・・?

もうやることなんてないよ・・・・・


――――助けるんじゃなかったのか?あれは偽りなのか?――――


そう・・・・・偽りなんかじゃない
助けるんだ・・・・由利を佳枝ゃんを・・・みんなを・・・!
今のこの状況こそが偽りだ・・・・

徐々に目が覚めていく、あの時の私に戻っていく・・・
ありがとう。
私にはまだやらなくちゃいけないことがある。


最後まで絶対にあきらめない・・・・!

















そのとたん私の視界は急に揺らいだ




















「はっ・・・・・・・・・・!」


目が覚めた。どうやら自室のベット上のようだった。

頭がクラクラする。まだ周囲の状況が理解できないようだ。
けれど、あのことは、はっきり覚えている。
そうあきらめない・・・・絶対に!


「目が覚めた?」


起きた私の横に小鳥のさえずりの様な綺麗な声が聞こえた。
弥生はいつも私と接するときのあの笑顔と優しい眼差しで私を見ていた。
そう、それはいつもと変わらない弥生だった。
ただ違うということは彼女が水色のハイレグ姿をしているという点というだけだった。


「弥生・・・・・」

私は呼んだ。

いったいどうしたんだろう、どうして弥生がいるの・・・・?
私どうなったんだっけ?



「気絶してたから私がここまで運んだんだよ」


私が聞こうとするより先に弥生が答えた。
それは凛とした力強い声、そしてしたたかな優しさが籠っていた。


「どうして私を・・・」


「撃たなかったって?」


また私より先に答えた。先ほどの表情は変わらず、椅子に座った
私の親友は今まで見たこともないほど、凛とした表情で私に言った。


「もう一度、紗枝を説得しようと思ったんだ」


少し目を細めて私に言う。しかしその目は私を捕えて離さない。
目には光が宿っているかのようだった。


「紗枝、ハイグレ人間になりなよ、もうそれしか道は残ってないんだよ?」


弥生は訴えるように私に言う。決して困っているわけでも、呆れているわけでもない
あの表情は私の為に、親友の為に私を説得している表情だった。


「弥生・・・・」




すこし嬉しい気がした。例え洗脳されても私の事をこんなに親友と思って
くれるなんて、私は本当に幸せ者だ。
でも同時に怒りも沸いた。そうハイグレ魔王に対する弥生を由利を、
このように辱め、純粋な心を洗脳によって捻じ曲げたあいつを・・・




「こっちに来なよ、いいもの見せてあげるから」


弥生は立ち上がって私に言った。蛍光灯に照らされた水色のハイレグが光る。
こんな時に不謹慎だけど本当に弥生は良い体をしている。さすが水泳部に所属
しているだけある。



私もベットから立ち上がって弥生について行く。そして弥生がドアを開けた
その先に・・・・・・・・・・・・・









『ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!』






ドアを開けたその先、ハイレグ姿の研究所の人々が整列して一斉にコマネチを
していた。赤や黄色、紫など様々な色のハイレグ姿を着せられた人々は、もう
既に洗脳が済んだのか、真剣な表情や笑顔、うっとりした顔でコマネチをしていた。

かわいそうに・・・・・・
あの中には私が見知った人が何人か混じっていた。特に最前の真ん中で幸せそうな顔
をしてコマネチしている白いハイレグ姿の女性。研究所で何度か見たことのある人
だった。おっとりした顔で、私が見たらいつも微笑んでくれた。そんな女性が今、同じ表情
で卑猥なポーズを取っている。




心が痛む・・・・こんな光景見たくはない・・・・・・・・・


私は顔を伏せた。耳も塞ぎたかった・・・・
でも私が一番聞きたくないあの声が聞こえてくるの・・・・




「ハイグレ♪ハイグレ♪ハイグレ♪」




最前の一番端に笑顔でコマネチしている女の子がいた。
活発な少女らしい元気な声で叫んでいる佳枝ちゃんはオレンジ色のハイレグ姿
を身に着け、元気一杯にコマネチをしていた。その表情は今まで苦しみが一気に
無くなったかのように幸せそうな顔をしていた。そして洗脳が完了するまで悔しさから
、それとも羞恥心か恐怖から泣いていたのだろうか目には涙の跡が浮かんでいた。



どんなに怖い思いをしたことか・・・
そう佳枝ちゃんは私を庇ってああなったんだ。本当はその役は私だったのにね・・・
悔しい・・・自分が守りたかった人が二度も守れないなんてさ・・・
佳枝ちゃんを守るためなら自分がああなってもいいと思った。だって佳枝ちゃんは
私の希望で、本当の妹みたいだったから・・・・・・


「どう?紗枝?」

そんな私を尻目に弥生は私に尋ねた。やはり表情は崩さず凛としている。


「みんなハイグレになって良かったって言ってくれたんだよ?」


そういって弥生は佳枝ちゃんの方に向かって歩き出した。



「ねえ佳枝ちゃん?ハイグレになった気分はどう?」

弥生は私にとって残酷なことを聞いた。
私は佳枝ちゃんを凝視する。


「ハイグレ♪ハイグレ♪ハイグレ♪ うん!すごく気持ちいい♪」


佳枝ちゃんは嬉しそうな顔で言った。
あんなに怖がっていたのに・・・・・・・・・


「またパパとママに会えるね、佳枝ちゃん」


「ハイグレ♪ハイグレ♪ハイグレ♪うん!すごく嬉しい!」


コマネチしながら言う佳枝ちゃんは心底幸せそうだった。でも本当はこんなこと
望んでいない。洗脳という卑怯な方法でそうさせたのだ。


「でもね〜お姉ちゃんまだハイグレじゃないんだよ?」

弥生は囁くように言った。子供に話すような話し方で・・・・・

「ほら、お姉ちゃんに言ってあげて?」

「ハイグレ♪ハイグレ♪お姉ちゃんも早くハイグレ着て、一緒にハイグレ
しよう♪」


「佳枝ちゃん・・・・」


私は佳枝ちゃんを見つめていた。わかっている、あの子も洗脳されて
しまった。どうやらこの研究所内で普通の人間はどうやら私だけのようだ
絶対絶命というのはまさにこのことだろう。
でもなぜか私の心は吹っ切れている。何も開き直ったわけじゃない。
ただ夢の中あの人の言葉が私に強く渦巻いているからだ。

「さあ紗枝、答えを聞かせて」

優しい声で私に尋ねた。これが最後通告なんだろう。
私は弥生の目を見て答えた。彼女と同じように凛として表情、そして命が宿った
目で、

「いやよ、私は絶対ああならない」

答えた。そして続ける。


「私は絶対それに抗う、体は奪っても心だけは私のもの」


私は横で玩具の様な銃を持っている弥生に強い口調で言った。


「そう、残念だよ紗枝・・・・」

そういって手に持ってる銃を私に向けた。顔には悲しみの表情を浮かべている。

「楽にしてあげるから、これで紗枝も私と一緒だよ?」

銃を私に向けた弥生は私に言う。ありがとう弥生・・・・そんなに私の事・・・



私は目を閉じて、撃たれるであろう光線銃を待ち構えた。









ドン!





銃が撃たれた。しかしこれは光線銃の音ではなかった。
目を開けると光線銃が弾かれ右手を押さえてる弥生の姿があった。



「くっ!・・・・・・」



弥生が私が今まで見たこともないような憎悪に満ちた目で真横を
睨みつけた。

そう私の真横で拳銃を構えている人物、それは博士だった。


「お前・・・・・・・・・・!!」

弥生は憎悪を再び博士に向ける、しかし博士は持っている拳銃を何故か
私に向けた。



「動かないで、動いたらこの子の頭を打ち抜くわ」


博士は冷淡に淡々と言った。

「この子に死なれると困るでしょ?あなた自身もそしてあいつもね」


「どうしてそれを・・・・!!」


弥生は驚愕の表情を浮かべながら言った。


「さあ、こっちに来なさい、」


博士は銃口を私に向けたまま言う。
私はこの異様な状況におどおどしながらも、博士の下に歩いた。



「一緒に来て」

淡々と述べ私を連れて博士はその場を離れた。
私が振り返る先、こちらを睨みつける弥生の姿と沢山のパンスト兵、
そして・・・・・




『ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!』



ハイレグ姿にされた人たち、そしてあの中には佳枝ちゃんもいる。
しかしもう振り返らない。そう佳枝ちゃんは絶対に助ける。
由利もみんなも・・・・・!



外へ出た。そこには車が待機してあった。赤い外車みたいで、高そうな印象
をうける。

「さあ、乗って」

博士に促されて乗る。


ブオオオオオオオオオン!


乗ってドアを閉めた瞬間、車は激しい音とスピードを出して走りだした。
衝撃で頭をすこし打ったが車は気にせず走り続けた。


「あの・・・・・・・・・」


車が走り続けること10分。私は聞きたかったことを聞こうとした。


「なぜ、あなたに銃を向けたかってこと?」


博士は私が聞く前に答えた。


「それはね、あなたがあいつのお気に入りだからよ」


「アイツ?お気に入り?」


博士が言ったことがいまいち理解できなかった。

「もうじきわかるわ」

そういって二人は無言になってしまった。


さらに走り続けること10分。車は気高い丘に到着した。

「さあ、ここまでね」

そう言って博士は車を降りた。一緒に私も降りる。


降りた先、丘からは都内が一望できた。こんな場所があったんだと一瞬
見惚れたが、すぐに異様な存在を見つけた。
新宿、都庁だろうかビルに異様な物が乗っかっていた。
城にも見える、怪しげなピンクと緑の建物、そして中央の輪っか上の歯車
どれもここには不釣り合いな物だった。


「あれが、宇宙船よ」


「宇宙船?」


「そうあの中にハイグレ魔王がいるわ」


あれが宇宙船なのか、驚きを隠せなかった。とうとうここまで来たんだ。
たった数日しかたって無いのにこれまでが果てない道のりのように感じられた。
そしてあの中にハイグレ魔王がいる。あいつを倒すのが私の最終目的、そして
長かった旅の終着点だ。なんだか不思議な感じがする・・・・・


「よいしょっと!」


不意に博士は車のトランクからあるものを取りだした。
ガシャンというおおげさな音を立てて地面に落ちたそれはパンスト兵たち
が移動の手段に使っているオマルだった。


「車じゃここまでしかいけない、となるとわかるわよね?」


そう、つまりこれに乗ってあそこへ向かうということだ。聞いたとたんに私の
心が緊張で痺れそうになる。
しかしもうここまで来たんだ、後戻りはできない。


「わかりました、これに乗っていきます」

私は凛として答えた。


「あと、これを忘れずに」

そう言って博士は私にあるものを手渡した。それはピンク色に光り輝くまるで
飴玉みたいなもの、そうこれこそがハイグレ魔王を倒す最終兵器だ。
しかし・・・・・・・・・・


「あの・・・・・・・・・これどうやって使うんですか?」


肝心の使い方が分からなくては意味が無い。一体どうやってこの飴玉みたいな
ものでアイツを倒すのだろうか?



「大丈夫、そのときになったらそれは力を発揮するわ、必要なのは勇気と
強い心よ」


博士は私の目を見て言った。その目には私が見たことないほどの輝いていた。


「さあ行きなさい。ごめんなさいね今まで冷たくて、でもねあなたは私たちの
希望なの、私はここまでだけどあなたはまだ進めるのよ」


博士は話を続ける。風でロングヘアーを靡かせるその姿は、どこか哀愁を
感じる。


「さあ、乗って 大丈夫オートバイのような感覚だからすぐ慣れるわ」

「はい!私行きます!」


私はオマルに跨った。思っていたよりも軽かった。私は意を決してハンドルを
回す。オマルはUFOのような音を立てて勢いよく上に上がっていった。
上から見下ろす先博士は既に小さくなっていたが、私をずっと見つめていた。






















「なんとかなったようね・・・」


私は安堵する。なんとか自分の役割を果たせたようだ。
これでいい・・・・彼女ならきっとやってくれる。
彼女には人を思いやる気持ち、そしてそのために出来る勇気がある。
それは戦士としての資質にはとても重要なことだ。
ぶっきらぼうだったけど、もう少し一緒にいたかったな・・・・・・



ヒュルルルルルルルルルルルルルルルル



「フフ、ようやく来たようね」


小さく微笑しながら言う。パンスト兵の大編隊がやってきた。
間に合って良かった。あれだけの数、きっと宇宙船からのも全てこちらに
いるのだろう。となるとあの子が進む先誰も邪魔は入らないというわけだ。


「さあ!こっちよ!」


私は叫んだ。そう少しでも時間を稼ぐためにも私はここでノコノコ待ってる
わけにはいかない。


・・・・・・・・・・・・・・・どうやら気付いたようだ。
願わくば、どうかあの子に気付かないでほしい。



パンスト兵たちの光線銃が一斉に私に銃口を向けた。
怖くないと言えば嘘になるが私はここから先一歩も通すわけにはいかない!










バシュウッと音と共に一斉に発射された光線が私に大量に降り注いだ。










オマルに乗ってる私、下は怖いから見ないようにしている。
オートバイ感覚と言っていたけど本当に簡単だった。
これが現実に販売されたらきっと大ヒット商品になること間違いない。
私の進む先、都庁ビルを乗っ取っている宇宙船が段々と少しずつではあるが
近くなっている。そしてあの声も段々と聞こえてきた。





『ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!ハイグレ!』




下は怖くてあまり見たくないとは言ったが嫌でも見てしまう。
市街地は悪夢だった。ハイレグ姿の人々で溢れかえっていたのだ。
どうやら電車も道路も完全に止まっているらしい。
ハイグレ魔王の侵略は様々な人間社会のインフラ、システムをめちゃくちゃに
破壊してしまったようだ。


わたしはふと気がついた・・・・というよりは疑問なんだけど・・・





――――ハイグレ魔王はどこから来たの?――――



もしかしたら重要なことかもしれない。一体あいつは何者なのか?
男か女かそれとも両性具有?
もちろう宇宙から来たということは宇宙人だろう。
しかしなぜ地球に来たんだ?偶然かそれとも意図したことなのか
女子高生風情の私には到底、答えが出せない疑問だった。


それに博士のあの言葉




――――あなたはアイツのお気に入りなのよ――――


あいつとはハイグレ魔王の事だろう。でもお気に入りとはなんだ?
私は会ったことも見たこともないし・・・・
でも気になる。博士はきっと何か知っていたんだ。
私とあいつとの接点を・・・・・・・・・・・・・

いや気にしてもしょうがない、私がしなければならないことは唯一つ
ハイグレ魔王を倒すということ。
それですべて終わるんだ。決着をつけなくちゃ。





気付いたら宇宙船は目前に迫っていた。降りる準備をしなくちゃ・・・・・・
・・・・・・・・・でもどうやって降りるの?





















静寂が広がっている。どこまでも静かだ・・・・・人間ならば孤独、寂しさ
を感じるが今のあたしには、とても心地よい状況だ。
二つの黄金の女神像が立つ真ん中の同じく黄金の玉座に座るあたしは
これからやってくる、愛しのあの子を今か今かと待ち焦がれている。
こんなに興奮するのは久々だ。あたしは彼女と二人きりになることを望んだ。
だから、パンスト兵たちを全員外へと出したのだ。
すべては彼女の為に・・・・
残念なのは彼女がまだ普通の人間だということだ。そうでなければ彼女に
会ったときこの喜びを分かちあえないからだ・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・いや、かえってその方が良かったのかもしれない。
だってあたし自身の手で彼女を生まれ変わらせてやれるのだもの。
素晴らしいじゃない?


「フフッ」


思わず微笑する。今のあたしは前回の戦いの傷が完全に癒えておらず
もしかしたら絶体絶命のピンチとなるかもしれないのに・・・・
それほど彼女が来るのが楽しみなのだろう。
















さあ、どうやら彼女が城へ着いたようだ。最高のおもてなしをしなくては・・
・・・・・・・・・
























宇宙船に着いた・・・・・・・・・・とうよりは不時着に近いだろう。
降り方が分からない私はオマルからこの宇宙船へ飛び降りたのだ。
落ちた衝撃で腰が痛い。オマルは下へ落下してしまった。


「イテテ・・・・・」



腰をさすりながら辺りを見回す。どうやら人の気配がないようだ。
静寂に満ちている・・・・・
奇怪に溢れた場所だった。
一面に広がるピンク色の床、すぐ下に私が映っている。
そして周りは色々な形の歯車と遊園地かなにかを連想させる。


しばらく呆然と立ち尽くしていたが意を決して進んだ。
どうやら道は一本のようだった。
さあ、ゴールはもう目の前だ。




























「ハイグレッ!ハイグレッ! ハイグレッ!」




研究所からだいぶ先の気高い丘、紗枝を追ってパンスト兵様と一緒に
進んだ先、赤いハイレグ水着を身に纏った博士を見つけた。
パンスト兵様に囲まれてハイグレポーズを取っている博士は普段私が
見ているのと同じくらい真剣な表情だった。大量の光線銃を浴びたせいだろう
どうやら一瞬で洗脳されたようだった。




「博士、何してるんですか?」

私は不意に博士に聞いてみた。


「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!何してるかですって?見てわからないの?」


足を大きくガニ股に開き手をクロスさせながらポーズをとる博士はまるでそれが
当たり前のことをしているかのような顔をしている。そしてその豊満な胸と
ロングヘアーが大きく揺れる。


「ええ、ハイグレになった気分はどうですか?」

「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ええ最高の気分よ!」

博士は頬を少し赤めながらも真剣な表情で答えた。
フフ、とうとうあの博士もハイグレ人間に・・・・・・・・
これでハイグレ魔王様に抵抗する物は存在しなくなったのだ。
いや、まだだ・・・・まだ紗枝がいない。


「博士、紗枝はどうしたんですか?」

私は見下すように言った。


「ハイグレッ!ハイグレッ!ごめんなさいね、アクションストーンを持たせて
宇宙船に行かせてしまったわ」


誤算だった、紗枝はどうやら先へいってしまったようだ。しかもアクションストーン
も一緒に・・・・・
どうやら私も追わなければならないみたいだ。
私は近くに置いてあったオマルに跨る。
紗枝もどうか無事にハイグレ人間にして頂ければいいけど・・・




「ハイグレッ!ハイグレッ!頑張りなさい!地球侵略を完遂するのよ!」




言われなくてもわかっている。オマルに乗った私は勢いよく飛び上がり
紗枝を追った。















「あんたは・・・・・・・!?」





扉を開けた先、私の目の前にいる玉座に腰をかけている者がいた。
全身を黒いマントで覆い、ピエロの様な黄色と黒の仮面をつけた姿に
私は見覚えがあった。
そう運命のあの日の前、私が見た不思議な夢、すべて思い出した。
夢の中であいつはハイグレ魔王と名乗っていた。



「あんたが・・・ハイグレ魔王!?」


動揺が隠せない。夢の中の話なのにどうして?
混乱に渦巻く中、ハイグレ魔王は静かに答えた。





「そうよ、あたしはハイグレ魔王、ようやく来たようね」



まるで私を待ちわびていたかのように答えた。


「まず貴方にお礼を言わなくちゃね♪」


「お礼・・・・・?」



なんのことだ?私はこんなやつにお礼を言われる筋合いはない。


「ええ、今回の地球侵略はあなたのおかげということよ?」

「なんのこと?」

私ははっきりと聞いた。なにを言ってるの?なんか見透かされているみたいで
気持ち悪い・・・


「あなた、私がこの広い宇宙、さらに知的生命体がある星をこんなピンポイント
で見つけてこれると思ったの?」


「・・・・・・・・・・」



「あたしはね、パラレルワールドからやってきたの、同じ地球だけど少し違う、
別の地球からやってきたのよ」



「それとわたし、何の関係があるの?」



「ええ、パラレルワールドといっても簡単にはいけないわ、旗印が必要なのよ」


「旗印?」


「そう、その旗印とは貴方のことよ夢の中、精神世界で貴方に接触することができた
あたしは、貴方にこの世界へ行くことができる旗印を付けることに成功したのよ?」


「そんな・・・・・・ということは・・・」

心の中に動揺がいっそう広がる。
まさか・・・・・

「そうよ、ありがとね紗枝、貴方がいなければ地球侵略どころかこの世界にすら
辿りつけなかったわ」


今回の事態を招いたって言うのはわたしだっていうの?
信じられない・・・・そんなの認めない!


「ウソよ!そんなの信じない!みんなを元に戻してよ!」


「あらあら、カッカしちゃって、こんなすばらしい世界にしてあげたって言うのに」

ハイグレ魔王は笑いながら言った。

「でもあたしはあなたのこととても気に入っているのよ?パンスト兵を通して
見させてもらったわ、あなたの勇気と知恵、人を思いやる心、とてもすばらしい
ものだったわ」

「それに引き換え、他の人間達は、みんな恐怖に慄き、逃げ出す始末、あなたは
それに立ち向かっていった。貴方は他の人間とは違うのよ」


「さあ、これからどうするの?」


どうするか・・・・・・・決まっている!


「あんたを倒して平和な日常を取り戻す!勝負よ!」

「アハハハハハハハハハハハハ、いいじゃない!受けてたちましょう!」



そういってすぐ二人の間に二本の剣が現れた。金色の柄の西洋風の剣で扱いやすい
印象をうける。


「剣で勝負よ、あなたが勝ったら、この地球から去ってあげるわ、もちろんみんなも
元に戻してあげる。でも貴方が負けたら・・・・・・」


マントを脱いで赤いハイレグ姿の魔王は仮面越しから怪しげな光を目から放ちつつ
言った。

わかっている・・・・・敗北はすべて終わりだ。しかし大丈夫、私にはアレもある。




「さあ、行くわよ!」

戦いが始まった。ハイグレ魔王は音の速さで私に切りかかる。

キイン!

私は寸前で剣で防いだ。当然私は剣の心得なんてない。
しかし体が軽い、アレが力を与えているのかもしれない。


「なかなかやるわね、さすがアクションストーン、でもこれならどうかしら!」

ハイグレ魔王は、剣の連撃を繰り返した。対する私は防戦一方、
これでは埒が明かない。

「くっ!やあっ!」

連撃の合間、一瞬の隙をついて私は切りかかった。しかしことごとく避けられる。




「ハァハァ・・・・・・・・・」

気づいたら私は息切れを起こして立ち止まっていた。ハイグレ魔王はそんな
私を見下ろして、仮面越しから不適な笑みをこぼしている。


「ねえ、戦いの途中で悪いけど、あたしと手を組む気はない?」

「なんですって・・・・?」


突然のハイグレ魔王からの提案、私は息を整えながら聞く。


「さっきも言ったけど、あたしは貴方のことをとても気にいっている、
二人ならこの世界を自由に支配できるのよ?素晴らしいと思わない?」


「こんな無益な戦いする必要なんかないのよ?貴方は特別な人間。だから
あたしと一緒にこの世界を支配する資格があるのよ」


私の前の魔王は空想めいたことを本気で語っている。
反吐が出る・・・・
あんたはここで私が倒す・・・それ以外道はない!


「わたしは、あんたとは一緒に行かない!あんたを倒すだけよ!」

そういってハイグレ魔王に向かって切りかかった。


「残念ねえ・・・・・・じゃあもう終わりにしましょうか?」

剣と剣を合わせた二人、ギリギリと金属音を立てている二つの剣が重なる中
ハイグレ魔王は仮面の奥の目を怪しげな光を放ちながら言った。


バチイィン!

その瞬間、重なっていた剣が飛んだ。それは私が持っていた剣・・・・・
それは高く飛び上がり私の後ろへ無残にも刺さった。


「そ・・・そんな・・・・」

「さあ、あたしの勝ちね♪」


負けた・・・・・・
絶望が広がる、私の顔は青ざめていた。


ハイグレ魔王はキチガイのように大きな笑い声をあげていた。


「い・・・・・いやっ!」

気づいたら私はその場から逃げ出していた。さっきまで怖くなんてなかったのに、
負けたとたん一気に私は弱い人間になった。

「あらあら、どこへ逃げるというの?」

開かない扉をドンドンたたく私をハイグレ魔王は面白おかしく言った。

「こないでっ!」

そして私はまた反対方向へと逃げる。しかしその先は扉も何もない行き止まりだった。

行き止まりの壁の前、私は恐怖で足をガクガクさせながら立っていた。


「貴方も所詮は弱い人間、残念ねえ、」

ハイグレ魔王の手がピンクと青に光りながら私に向けられた。


「いやっ・・・・・誰か助けて・・・・!」

恐怖で私は命乞いをする・・・・
 
「フフ、これでお終いよ、さあ、ハイグレになりなさい♪」










「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」







ハイグレ魔王が放った光線は何の迷いもなく私に向かって直撃した。







私の目の前がピンクと青と激しく点滅する。体が少し静電気を食らったように
ピリピリとする。大の字の姿勢になった私は、目をつぶり、この状況に耐えていた。
非常に奇妙な感覚だった。来ている制服が一瞬裸になり、そして体にフィットした
ハイレグ水着が私の体を覆う。その繰り返しが何十秒も続いていたのだ。

やがて光から開放されると紅色のハイレグ姿となった私は、手を横に広げ足を
仁王立ちしたまま立っていた。


「ぅ・・・・くっ・・・・・ぁぁ!」



私は光線を浴びた者はみんな勝手に体が動くのだろうと思っていたが間違いだった。
頭の中でハイグレしなくてはいけないという声が聞こえてくる。この声に従いたくなり
腰を下ろしそうになるが私は必死に耐えていた。


「あら、強情ね」


ククッと笑いながらハイグレ魔王は言う。


きっと由利も佳枝ちゃんもこんな気分だったのだろうか、すごく苦しい・・・
これにいつまで耐えられるかわからない。


「さあ、ご挨拶は?」


「ひっ・・・!」


その言葉を聞いた瞬間、私は頭の中で響いている声に従ってしまった。
一気に腰を落としガニ股になった私は手を足の根元に沿って動かして・・・


「ハ、ハイグレ!・・・ハイグレ!・・ハイグレッ!」


私は初めてハイグレポーズを取ってしまった。
そして私の心に言いようのない幸福感が生まれる。
頭の中に受け入れなさいという声が聞こえてくる・・・・




「ハイグレッ!ハ、ハイグレ!ハイグレ!・・・・」


気持ちいい・・・・・・
頭がぼーっとしそうになる。
ポーズを繰り返す私は何も考えられなくなる・・・



「くっ!」

いや駄目だ!だいぶ時間が立ったがまだ洗脳されていない。
必ず打開策があるはずだ!あきらめちゃだめだ!
由利や佳枝ちゃん、弥生みんなの為にもここであきらめるわけにはいかない!







「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」



だいぶハイグレも体に馴染んできたようだ。ハイグレ魔王様に向かって
忠誠のポーズをとる私はなんとか打開策が無いか頭を回す・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・ん?打開策?なんで打開策を立てる必要があるのだろうか?
なにもする必要はない。今こうしてハイグレポーズをとる私、何がおかしいんだろう?
今こうして、やっとハイグレ人間にして頂いたというのに、おかしな考えだ。
それに私なんで魔王様に歯向かっていたんだろう?







「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」





私は先ほど考えていたことに疑問を感じながらハイグレポーズを取り続けた。













「どこなの?」


オマルから降りた私は宇宙船の中に居た。紗枝を追った私は今この不可思議な場所
を見渡していた。
どうやら一本道のようだ・・・
その先に紗枝がいるのだろう。彼女はどうしているのだろうか?
きっと魔王様自身の手でハイグレ人間にして頂いたに違いない。
私も魔王様の前でハイグレしたい・・・・

いや、それよりも前に親友がしっかりとハイグレ人間にして頂けたか確かめな
ければならない。一本道を進みながら考える。
思えば私の高校生活ずっと紗枝と一緒だった。私、本当に紗枝の友達で良かった。
だからこそだ・・・間違ったことをしている紗枝は親友の私が正してやらなきゃ
いけない。紗枝にもこの素晴らしさをわかってほしい。


「ここね・・・」

気付いたら扉の前に居た。きっとこの中にいるのだろう。
期待で胸が弾む。一体どんな色のハイレグなんだろうか?
一緒にハイグレしたい。






私は静かにドアを開けた。















「ハイグレ♪ハイグレ♪ハイグレ♪」


ハイグレ魔王様に向かってハイグレポーズを取る私は幸せそうな顔をしていた。
洗脳が完了した私は今までの苦しみ、恐怖がすべて抜け切ったようで心底
心地よかった。
玉座に座る魔王様に向かってポーズを取る私はとても誇らしいのと嬉しいという
二重の幸せを味わっている。


ああ、ハイグレ人間になって良かった・・・・
なにもこんなことする必要なんてなかったんだ。
そう私が今までやってきたこと、それはすべて間違いだったんだ。
最初、あの時に由利の忠告を聞いておけばよかった。
由利やみんなは正しいことをしていたんだ。そしてそれを私にも説得していたのに・・
私は由利にあんなひどいことを言ってしまった。姉失格だろう・・・
弥生も私の為にここまでしてくれたのに、でも佳枝ちゃんはハイグレ人間にして頂いて
本当に良かった。あのまま逃げていたら可哀そうだったろう。
ハイグレを着た佳枝ちゃんは可愛らしく、とても幸せそうだった。
なのに私・・・・・


「ハイグレ♪ハイグレ♪ハイグレ♪」


私は頬を赤めながら、満面の笑みでハイグレポーズを取った。
これが恥ずかしいなんて誰が言ったんだろう?
こんなに気持ちのいいことなのに・・・
さあ、これでみんなに会える。由利や弥生、佳枝ちゃんとも・・・
いつもの日常が待っている・・・














――――本当にそうなのか?――――



















いつしかの男性の声が聞こえる。
そうよ、これがすべて真実なの・・・・



――――それは偽りだ、目を覚ませ・・・――――




偽り?違うこれが真実だ。ハイグレ魔王様の忠実な奴隷として存在することの
どこが偽りなの?





――――お姉ちゃん・・・――――


由利と佳枝ちゃんの声が聞こえる・・・
なんでそんなに悲しそうな声なの?
どうして?




――――目を覚まして・・・お願い・・――――


何かが・・何か違う、私一体?
私は・・・ワタシワ・・・・・





――――さあ、立ち向かうんだ――――

・・・・・そうだ、私はまだやらなきゃいけないことがある。
みんなを助けること。
そしてハイグレ魔王を必ず倒すということ!
またこの声に助けられたようだ、ありがとう。
どうやら正気に戻ったようだ。













その瞬間私の視界が大きく歪んだ。












「ハァハァ・・・・・・・・・・」


気付いたら私は床に四つん這いになっていた。
息が激しく乱れる。
とっさに自分の体を確認する。
制服を着ている。
まともだ・・・一体どういうことだ?




「あら、目が覚めた様ね」


私の前に立ち尽くすハイグレ魔王が言った。


「まさか・・・・幻?」

今まで見ていたのはあいつの幻だったのか?

「そうよ、どうだった?ハイグレになった気分は?とても気持ちよさそうだったけど?」

「くっ・・・・・!」
そういえば最初ハイグレ魔王の眼が怪しげに光っていた。あれは幻術だったのか!
一度でも堕ちてしまった自分が恥ずかしい。息を整えながら私はハイグレ魔王を
睨みつける。



「さあ、戦いの続きをしましょ?今度負けたら本当にハイグレになってもらうわ」


剣を持ち直したハイグレ魔王は私を待ち構えている。


「負けるか・・・・!」

床に転がっていた剣を取った私は、攻撃のの姿勢を取る。


「やあぁっ!」

私はハイグレ魔王斬りかかった。ことごとくかわすあいつを見据えながら
防御も欠かさない。

「たあっ!」

ハイグレ魔王がひるんだ一瞬の隙を突いて私はあいつの肩に傷を負わせた。


「くっ・・・・!」


ハイグレ魔王が後ろへ後退する。


「・・・・・よくも、傷をつけたわね」


先ほどの甘ったるい声とは違う、突き刺さりそうな声を放っているハイグレ魔王
に恐怖感を抱いた。
ハイグレ魔王は親指と人差し指、小指を立てた手を私に向け、ハイグレ光線
とは違う白い電撃の様なものを放った。



「きゃああああああああ!!」

電撃が私の体を包む。凄まじい痛みと苦しみが私を襲う。


「小娘が、よくも! いいわ!あんたはここで殺してあげる!」


そう言ってハイグレ魔王はまたも電撃を放った。






「キャアアアアア!!」





またしても苦しみと痛みが伝わる。
苦しい・・・・・・・・
私はこれに耐えるしか術はなかった・・・・・















目を小さく細める私の視界の奥に弥生がいた。


















「紗枝・・・・」


ドアを開けた先、遠くでハイグレ魔王様と紗枝が戦っていた。
しかし今、紗枝は魔王様が放っている電撃に必死に耐えていた。

どうしたらいいの・・・・・・・・・・・?
魔王様に逆らうの?

さっき魔王様は紗枝を殺すと言っていた。
魔王様に逆らったんだしょうがない・・・・



「やよいぃ・・・」

こちらに気付いた紗枝が私を呼んでいる。幸い魔王様は気付いていないようだ。

「やよいぃぃ・・・・助けて・・・・」

私の心の中は葛藤している。紗枝を助けなくちゃ、でも魔王様に逆らうことになる。
どうしよう・・・・・・・・・・
私はこの状況を見続けていることしかできない・・・・・

いや違う、私は紗枝の親友だ・・・親友が困っている時は助けなくちゃいけない
ならすべきことは唯一つだ・・・





そのとき私は体が自然と動いていた。










「イャアアアアアアアアアアアア!!」


私は先ほどから続く電撃にひたすら耐えていた。
意識が朦朧とする・・・・・
どうやらもう終わりのようだ・・・・・・・




「さあ、これで止めよ!」


ハイグレ魔王がこれでもかというばかりの激しい電撃を放とうとしている。
私はギュッと目をつぶった。



バシィィィィィィン!



激しい電撃が炸裂する。



















しかし電撃は私に直撃しなかった。静かに目を開けた先、そこには
弥生が立ちふさがっていた。



「弥生・・・!」

「さ、さえ・・・・・」


弥生は私の顔を見て小さく微笑した後、音もなく倒れてしまった。


「や、やよい・・・・?」

私は弥生の体を揺さぶる。しかし彼女からの反応は無かった。


「いやだよ・・・弥生!」

私の目に涙が溜まる。
弥生どうして私を庇ったの?
必死に揺さぶるが相変わらず反応が無かった・・・・

「ふん、奴隷の分際が随分と生意気なまねをしいてくれたじゃない」

彼女を殺した、ハイグレ魔王は意に介さずに話した。

「・・・・・・・っくも・・・・」


「ん?」



「よくも・・・・・・・・・・・!」


私の心に決して消えそうにない大きな業火が宿った。


「弥生を・・・!!」


心の中が爆発した、そして同時に手に握っていたアクションストーンが
熱く鼓動を打っていた。


「まさか・・・・・・!?」


「これは・・・・」

私は手に持っているアクションストーンを見てみた。それは金色に光り輝いていた。
その周りは同じ色の稲妻が忙しなくパチパチとなっている。


「おのれ・・・させるか!!」


ハイグレ魔王は明らかに焦りの色を見せながら私に斬りかかった。


バシィィイイン!!


しかしアクションストーンを持つ私は、その石の金色に輝く稲妻によってその攻撃を
はじき返した。






――――使い方はわかっているな?――――




男性の声が聞こえる・・・・
ええ、わかっている。
今、とても気持ちが澄んでる。
何でもできるような気がするの。
勇気も、希望も溢れんばかりに私を覆っていく。




私はそっと目を閉じた・・・
これまで会ってきたいろんな人、
由利、弥生、佳枝ちゃんに博士・・・・
ありがとう・・・・
私はここまで来たんだよ?



――――お姉ちゃん、頑張れ! 頑張れ紗枝! ――――



由利に佳枝ちゃん、弥生の声が聞こえる。
ありがとう、私はもう迷わない、最後まであきらめなくて良かった・・・




私はアクションストーンを持った拳をハイグレ魔王に向けてパンチのように
繰り出した。その瞬間私の体から、金色に輝く、光線の様な稲妻がハイグレ魔王
に向かって一気に放出された。



バシィィイイイイイイイイン!!



「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」


ハイグレ魔王は化け物の断末魔の様な声をあげながら、稲妻を一心に受けていた。


「まだだ・・・・まだ、やられない・・・・・!!」

しかしハイグレ魔王は稲妻を受けながらも少しずつ私に向かっていった。


「くっ・・・・・・・・!」


駄目だ・・・まだ足りない・・・もう少しなのに!!


「ガアァッ!?」


しかし急にハイグレ魔王は立ち止まって叫び声を上げていた。
その背中に剣を突きたてていた者がいた。

「弥生!?」


そう弥生がハイグレ魔王の背中に剣を深く突きたてていたのだ。


「紗枝!やっちゃえ!!」


「うん!」

弥生が生きていた!
これほど嬉しいことはない。
私は弥生が離れたのを確認すると。
渾身の力を込めて稲妻を放った。


「さあ、消し飛べ!!!」



「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」



ハイグレ魔王の断末魔の声を聞いた後、私たちの周りをとてつもない爆発が
襲った。

















その爆風に飛ばされた私はいつの間にか意識を失っていた・・・・










――――よくやった、ワッハハハハハハ!――――





意識を失う寸前、男性の笑い声が聞こえた・・・・




















「ぇ・・・・・さえ・・・・・紗枝!」


私を起こそうとしている人がいる・・・・・
まだ眠っていたいのに・・・・
そう考えた矢先、私は先ほどの事を思い出した。


「あっ!弥生」


私は体を起こし弥生を見た。
彼女は制服を着ていた。


「ああ・・・弥生・・・」

弥生が元に戻った・・・・
終わったんだ・・・全部・・・・・
倒したんだ・・・
とたんに涙が流れる・・・



「ごめんなさい、紗枝・・・・私、あなたに酷いことを・・・・」

弥生も泣きながら私を抱きしめて謝った。


「いいんだよ・・・・もう全部終わったんだから・・・」


私は立ち上がり言った。
気付いたらそこは玉座の間ではなく、一面が空の天井だった。



「綺麗だね・・・」


空は夕焼け空で飾られていた。手に持っていたアクションストーンは粉々に
なっていた。
これでいい・・・・・
まだ私にはしなければならないことがある・・・・
















私たちは夕日が沈むまでいつまでも空を眺めていた。





















「お姉ちゃん朝だよ!!」



由利のけたたましい声で起こされた。
しまった遅刻のようだ・・・
いつもながら恥ずかしいとしか言えない。私は急いで二階の階段を駆け下りていく。
途中踏み外して盛大に転んだが、そんなこと気にしない。



「もう、毎回遅刻だよ!先に言ってるよ!」

身支度を済ませた由利はもう玄関にいってしまった。


日常が戻った。あれからもう一カ月になる。由利はどうやら自分がハイグレ人間
だったことは覚えていないようだった。
それでいい・・・覚えていても辛いだけだから。


制服に着替えた私も急いで玄関にかけていく。
由利を追ってかけていく内に同じく走っている弥生に会った。

「弥生も遅刻!?」

弥生が遅刻するとは珍しい。いつも部活の朝連で早いはずなのに。


「完全に寝坊だよ〜紗枝は相変わらずだね!」

何とも恥ずかしい・・・・
でもこんな弥生も面白いかも!


「どっちが早く着くか勝負しようか?」


「運動部なめんなよ?」


そうじゃれあいながら走っていく。



途中、ランドセル姿の佳枝ちゃんに会った。


「お姉ちゃん、おはよう!」


ふわふわロングヘアーの可愛らしい瞳を持つ佳枝ちゃん。
あれから休日は何回も遊んだっけ・・・・

「おはよう佳枝ちゃん!」


「気をつけてね〜!」

走る私たちに手を振って見送ってくれた。










さあ、もうすぐ校門だ、ゴールは近い。でも到達点ではない。
これから始まるんだ。人生も恋も・・・・
あきらめるなと応援してくれたあの人の為にも・・・・














そして今日も学校は活気と生徒の元気な声で満ちており、その空は綺麗すぎるほどの
晴天に満ち溢れていた。













































・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・誰もいない、散らかされた二階の部屋、洋服、教科書など乱雑に置かれているなかベットの上には黄色と青のピエロの様な仮面が不気味な青白い光を放ちながら置かれていた・・・・・・・・・・












                                   〜終わり〜
コッペパン
2010年07月04日(日) 02時58分30秒 公開
■この作品の著作権はコッペパンさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
おまたせしました!今回でラストです!
こんなにたくさんの人に読んでもらえて
嬉しかったです!

このお話はこれでおしまいですが、もしまた
需要があったらなんか書きたいと思います!
どうもいままでありがとうございました!