ハイグレ鬼ごっこ

全国の普通の人間さん、あなたたちの無駄な抵抗にはあきれました。なので、




              全滅させます



ここはちょっとした集落。日本全国にあるうちの一つ人口は百人くらい。なんで集落に住んでるかって?それは・・・

「おほほほ、この星の人間は皆ハイグレ人間にしてしまいなさい。」

ハイグレ魔王って奴が攻めてきたんだ。
地球の科学では奴らの変な光線銃に歯が立たなかった。
俺の父さんも母さんも奴らの光線に当たってハイレグ水着姿になり、ハイグレ人間って言う存在にされ、奴らの手先にされちまった。国も世界も奴らの力にのまれた。

そう、人間は負けたんだ。

でも、ハイグレ魔王の奴はある程度の人間をハイグレ人間にしたら活動をやめたんだ。
なぜ?・・・普通の人間を奴隷にするためさ。
あいつらは最後まで抵抗を続けた人間たちにこう言ったんだ。

「もし、ハイグレ人間になりたくなかったら・・・奴隷になりなさい。」

追い詰められていた人間たちに断る権利はなかった。
俺たち人間に奴らは強制労働をさせた。それも死にたくなるほど辛い強制労働を・・・
・・・皆嘆いたよ・・・
『こんな辛いの耐えられない』
『もう嫌だ、逃げたい』
脱走を試みる者もいた。当然その人達はハイグレ人間にされた。
それに対して、ハイグレ人間達は人並み以上の生活を送っていた。
学校にも行ける、風呂にも入れる、3食しっかり食べれる、布団で寝れる、あげればきりがない。
そうなると、こういう言葉が出てくる。
『ハイグレ人間になれば自由が手に入る』
そう思い始めた人間達、そしてハイグレ魔王に懇願するんだ。

『ハイグレ人間にしてください』って

ハイグレ魔王は抵抗していた人間が涙ながらにお願いする姿を見るのが愉快で仕方ないらしい。
奴らは人間の落ちていく無様な姿を見たいがために俺たちをハイグレ人間にしないんだ。
あいつらは人間を遊び道具としか思ってない。
俺たち人間は労働中以外は集落で暮らしている。
環境も最悪、スラム街とでも言った方がいいだろう。
もう今までの生活が戻ってくるなんて思ってるやつ・・・いないんじゃないか?
え?俺は誰って?・・・まだ抵抗を続けている人間だよ・・・



俺の名前は『橋山 祐樹』黒髪でツンツン頭、見た目で言えば普通の高校三年。顔は・・・疲労がたまってるとしか言いようがない。
「祐樹、食事もらってきたよ・・・。」
「ありがとう、沙耶。」
集落のテントで休んでる俺に食事を持ってきてくれた少女、『白田 沙耶』俺と同い年、強制労働を受ける前は元気な少女だった。だけど、強制労働を受けてからというもの瞳が汚く濁ってきている。少し前は茶髪でサラサラのロングヘアが綺麗だった。沙耶も自分の髪が気に入っていた。
だけど・・・だけど・・・





『そんな長い髪邪魔だ、今すぐ切れ』





奴らに人間の気持ちを考えるなんてありえなかった。
沙耶は仕方なく髪を切った。
俺は悲しそうに髪を切る沙耶を見て怒りが込み上げてきてた。
でも・・・・何もできなかった。


「一緒に食べていい・・・?」
「あぁ。」
辛い・・・沙耶は最初のころは・・・

「ほらほら、ご飯が冷めちゃうよ?大丈夫、なんとかなるって。」

沙耶の笑顔が俺に元気をくれた。
でも・・・沙耶はずいぶん前に笑顔を失った。
もう笑うなんて動作・・・・忘れちゃったんじゃないか?そんなことを思わせるほど辛そうな顔の沙耶。
「いただきます。」
「・・・いただきます。」
箸を進める俺に対して沙耶はほとんど食べない。
「沙耶・・・。」
「ごめんね、私のせいで最近は迷惑かけっぱなしだね。」
ハイグレ魔王は日に日に労働をきつくしていく。弱音を吐く人間が減っていくからだ。
沙耶は女の子だ、強制労働なんて耐えられる方がすごい。
最近迷惑をかけていると言ったが、それほどでもない。
少し俺の仕事が増えただけだ。でも沙耶は責任感が強い子だからな・・・。
「平気さ、沙耶が笑顔になってくれたらな。」
俺は沙耶の笑顔が見たい・・・それさえ見れれば力が出るはず。
「笑顔?・・・・・ごめんね、とてもじゃないけどできないよ。」
ショックだった。そこまで沙耶は身も心もボロボロだったのか・・・。
「そうか、無理を言って悪かった。」
「気にしてないよ・・・。」
最近の食事は前よりまずい。奴らの仕業だろう。
「そろそろ情報の時間だな。メインテントに行こうぜ。」
「・・・うん。」
メインテント、それはこの街唯一の情報収集の場、テレビがあるのだ。
テレビといっても見れる番組は一つ、その日のニュースのみ。

「あ、祐樹お兄ちゃん、早く。」
俺のことをお兄ちゃんと呼ぶこの子は『塚本 怜奈』俺とは血のつながりがあるわけではないが妙になついてくる。
根性がある子で生き残っている人間最年少だ。ちなみに小学三年生。
まぁ、大人よりは労働内容は楽だが・・・きついのに変わりはない。
「あぁ、怜奈、まだニュースは始まってないな?」
「うん。でも急いで。」
俺と沙耶、怜奈はメインテントの中へ。
『それではニュースを始めます。』
「始まったか・・・。」
俺たちにとってニュースというのは時に希望を与えてくれる・・・本当に少ないが。
『まずは今日の転向情報』
転向情報・・・俺の一番嫌いなコーナー。
今日一日でどれだけの仲間がハイグレ人間になったか数字というさみしいもので表わされるのだから。
『ではハイグレ魔王様、お願いします。ハイグレッ!ハイグレッ!』
ニュースキャスターがハイグレポーズをとると映像がハイグレ魔王の玉座に変わった。
「おほほほ、今日の転向人数は千百五十人。」
多いな・・・
「・・・結構減っちゃったね。」
沙耶が悲しそうな眼をしている。
「・・・あのな、沙耶・・。」
『ここで緊急速報です。』
「ん!?」
緊急速報なんて珍しい、昔は人間が攻めてきたなどで緊急速報が流れたが、今となってはさっぱりだった。
「あたしはもう飽きたのよね、無駄な抵抗をする人間に。でも、ただハイグレ化するのも面白くないわ。そ・れ・で、鬼ごっこを開催するわ。」
「鬼ごっこ!?」
鬼ごっこって・・・あの鬼ごっこか?
「ただの鬼ごっこじゃないわ。鬼はハイグレ人間、逃げるのは愚かな人間ども。期間は七日間、時間は二十三時から零時までの一時間。それまでは労働もなし。さらに、逃げきった者が一人でもいたら・・・あたしたちはこの星をあきらめるわ。」
「それって・・・俺たちにとって最初で最後のチャンスじゃないか!」
「祐樹・・・まだ、希望が残ってたね。」
沙耶がかすかに・・・かすかに笑った。俺はすごくうれしくなった。
「おほほほ、でも捕まった人間はその場でハイグレ人間になってもらうわ。」
「ッ!?」
かなりハードな増やし鬼ってわけか。
人間とハイグレ人間の人数の比率は一対四だ。つまり、一人辺りが追われる人数は四人ってわけか。
「開催は明日からよ。じゃあ、頑張ってね。無駄な抵抗だろうけど。」
今日のニュースは終わった。

「祐樹、まだ終わりじゃないね。」
「あぁ、頑張ろう。」
俺たち人間は逃げ切ってやる。
奴らの最後の遊び ハイグレ鬼ごっこ。



次の日の朝、俺はまだ集落の皆が寝ている位早くに起きてしまった。
「だめだ・・・眠れない。」
ゆっくり休まなくちゃいけないのに一度起きると寝れないものだ。
「・・・そうだ。」
俺は集落から少し離れる、この集落から進める道は三つ。
一つ目はハイグレ人間の住む街、つまり電車などの交通機関も発達しているエリア。逃げる場所としては最適だが、ハイグレ人間の数は群を抜いて多いエリアのため危険だろう。
二つ目は昼でも薄暗く、かなり広い森。脱走者はこの森を使おうとするが森の中には数々の罠が仕掛けられていて、そう簡単には森を抜けられない。そう言えば鬼ごっこ中でも罠は取り除かれないから森に隠れるのはあえて危険かもしれない。
三つ目はハイグレ魔王の城?・・・いや、要塞とでもいうべきであろう。労働場もこのエリアに部類される。正直逃げ場は少ない。
「今日の鬼ごっこ・・・どのエリアを使うべきか。」
どのエリアにもメリット、デメリットがある。かなり難しい選択だ。
「あらら?祐樹君?どうしたのですか?」
「綾香さん?」
十字路で悩んでる俺に話しかけてきた女性は綾香さん、人間の中でも数少ない街で働いてる女性。なんで街で働けるって?・・・かなりの料理上手だからさ。でも、一日中決められたものを作らされるのも大変そう。それにしても、大人の魅力って言うのはこういう人のためにあるのでは?
「何をしているの?」
「今日の鬼ごっこのルートなどをちょっとね。」
「逃げるルートなら街の方がいいわよ。」
妙に自信ありげな綾香さん。
「どうしてそう思うの?」
「以外と街には人気がないところも多いわ。これでも私は街の道に詳しいのよ。」
成程、そうだとしたら・・・
「綾香さん、鬼ごっこ・・・行動を共にしませんか?」
「やめておいた方がいいわ。私は足が遅いもの。」
「それじゃ・・・あきらめるんですか?」
「そんなことしないわ、私だってあんな露出の高い水着は着たくないもの。洗脳されるのも絶対嫌。だから私は隠れつつ逃げるって感じで。」
綾香さんの戦法は効率がいいかもしれない。だとすると俺は逆に足手まといになる。
「そうですか・・・わかりました。お互い頑張りましょう。」
「えぇ、祐樹君も無事に逃げ切れることを。それと、沙耶ちゃんを守ってあげなさい。あなたの未来のお嫁さんでしょ?」
「な!?何を言ってるんですか!!」
「顔真っ赤じゃない、ふふっ、私は今日も仕事だから。じゃあね。」
綾香さんは手を振って去っていった。
「なんか綾香さんを見てると今地球がハイグレ魔王の手中に収まってるとは思えないな。」
きっと綾香さんも人間対ハイグレ魔王の戦いに終わりが見えたから元気が出てきたのだろう。
「祐樹!何してんの?」
沙耶が俺のもとに来た。昨日より元気そうで何よりだ。
「沙耶、どうしたんだ?」
「黙って出ていっちゃだめでしょ。」
「あ、あぁ。」
俺と沙耶は集落に戻った。

「祐樹お兄ちゃん。」
「怜奈、皆は何をしているんだ?」
労働がない一週間、皆は何をして過ごすんだろう。
「基本的に寝ている人が多いわね。」
怜奈の代わりに沙耶が答える。
「そうか、沙耶と怜奈は寝ないのか?」
「・・・私は寝れないよ、鬼ごっこが始まるって思うとね。」
沙耶の気持ち、痛いほどわかる。
「だったら遊ぼうよ。」
怜奈が俺の背中に乗ってきた。
「おいおい、怜奈は疲れてないのか?」
「祐樹お兄ちゃんと遊べば疲れなんて吹っ飛んじゃうよ。」
本当にたくましい子だ。俺と十歳近く違うのに。それじゃ俺は弱音なんて吐けないな。
「よっしゃあ!飽きたっていうまで遊んでやる。」
「やったぁ、沙耶お姉ちゃんも一緒に遊ぼう?」
「うん、いいよ。」
俺たちは鬼ごっこのことなんて忘れて遊んだ。あっという間に時間は過ぎた。
「ふぅ、疲れたな。」
「そろそろ休んだ方がいいんじゃない?・・・鬼ごっこもあるし。」
沙耶の顔が急に真剣になった。俺も覚悟しないとな。
「怜奈も・・・って、眠っちゃったか。」
怜奈は俺の背中で眠っていた。
「テントに戻ろう?」
「あぁ。」
俺たちはテントで眠った。

「やばっ!寝過ぎた。」
俺が目を覚ました時には時計は夜十時を指していた。
「沙耶、怜奈、起きろ・・・あれ?」
俺の横で寝ていた沙耶の姿がなかった。
「どうしたの?祐樹お兄ちゃん。」
「沙耶がいない。」
「え!沙耶お姉ちゃんが?」
どうしたんだ?沙耶の奴・・・

「沙耶ーー!何処だーー!」
「沙耶お姉ちゃーーん!」
集落を探し回ったが沙耶は見つからなかった。他の人たちももう逃げているみたいだ。どのテントにも誰もいない。
「沙耶お姉ちゃん・・・・。」
心配そうな怜奈。俺がしっかりしないと。
「行こう、怜奈。」
「何処に?」
「街にだよ。」



『ハイグレ鬼ごっこ・・・始まりました。』
妙な音のサイレンが街に、国に、世界に鳴り響く。
俺と怜奈は元々俺が通っていた高校に身を潜めていた。三階建てで西階段と東階段、そして北階段の三つが逃げ道。現在は二階の放送室に隠れている。
「懐かしいな、少し前に通っていた学校なのに十年近く来てなかったみたいだ。」
しかし、この部屋にある色とりどりのハイレグ水着・・・それを見るだけですべてが変わってしまったようにも見える。
「祐樹お兄ちゃん、誰か学校に入ってくるよ。」
窓からグラウンドを覗く怜奈の不安そうな声が聞こえる。暗くてよく見えないが・・・鬼は四人ほどだな。
「怜奈、俺にしっかりついてくるんだぞ?」
「・・・うん。」
やっぱり沙耶のことが気掛かりみたいだ。さっきは絶対大丈夫だって言ったけど・・・
「沙耶はあれでも足は速いんだ。逃げ切れるって。」
「大丈夫、今は自分の心配を・・・だよね?」
「そうだよ。でも、俺が守ってやるから。」
とは言っても、参ったな・・・俺は多少足には自信があるけど、怜奈はまだ小学生だ。とてもじゃないけど鬼には勝てないだろう。
『こっちにはいなかったぞ。そっちはどうだ?』
まずい、鬼だ。
この部屋は北階段のすぐ近く、多分鬼は二人。足音は・・・近付いてきてる。
「祐樹お兄ちゃん、どうしよう・・・。」
このままだと見つかるのは時間の問題だ。
「何か・・・使えそうな物は・・・・。」
放送室だけあって放送用の機材くらいしかない・・・
『ガチャ・・ガチャ・・・』
「「!!!」」
放送室の扉を開けようとしてる。
『さっさと扉を壊すぞ。』
「お、お兄ちゃん。」
怜奈が震えてる。よっぽど怖いんだろう。俺も心拍数がやばいことになってそうだ。
「くっ・・・。」
俺は窓を開ける。
「祐樹お兄ちゃん・・・もしかして・・・・。」
怜奈は俺が何をしようとしているか気づいたようだな。
そう、校舎の外側の壁には通気口・・・つまりパイプがある。それをうまく使えば下に降りれる。俺だけなら普通に飛び降りるんだが小学生にそれはきつい。
「怜奈、パイプをうまく伝って降りろ。」
「こ、怖いよ。」
無理もないよな・・・でも。
「いいから行け。」
「・・・・・。」
怜奈は窓から足を出す。
「きゃっ!」
外は風が吹いていて時間は夜中、暗くて危険だ。
『今、声がしなかったか?』
『中にいるんじゃない?』
「急げ、怜奈。」
「う・・うぅ・・・。」
扉が・・・もう持ちそうもない。
「えい!」
怜奈はパイプにつかまり、なんとか降りれた。よし、俺も・・・
『いたわよ!』
扉が壊された!
「行くしかねぇ!」
俺は窓から飛び降りた・・・・なんとか着地。労働のおかげで身体能力は上がってたようだ。
「祐樹お兄ちゃん、鬼が・・・。」
ハイグレ人間も二階から飛び降りそうだ。
「走るぞ、怜奈。」
「うん。」
俺と怜奈は走り出した。怜奈の速さに合わせる分速度は低かったが、学校近くの神社に隠れれた。
「ふぅ、本気でやばかったな。」
「ごめんなさい。私が飛び降りれなくて。」
「怜奈は悪くないよ。」
悪いのはどう考えてもハイグレ魔王だろう。
「あなたたち!」
見つかった!?・・・・あれ?この人・・・
「友里恵さん。」
「無事だったのね。」
友里恵さんとは同じ集落の皆の母親的存在。かなりの美人だ。だけど・・・強制労働のせいで疲れ顔。息子と娘をハイグレ人間にされたらしい。
「友里恵さん・・・よかった、俺と怜奈が起きたときには皆居なくなってて心配だったんだ。」
「あなたたちはまだ集落の中にいたの?」
「そうな・・・・。」
俺の口が動かない・・・ハイグレ人間が神社の中に入ってきているからだろうか?
「どうしたの?」
「はい・・・ぐれに・・・ん・・・・。」
何とか口を動かそうとする俺。
「はいぐれにん・・・鬼!?」
友里恵さんが振り返った時にはハイグレ人間がこちらに全速力で走ってきていた。
「逃げるぞ!」
俺と怜奈と友里恵さんはの御堂の裏に走り、ブロック塀を乗り越え草むらの中に隠れる。
「こっちに。」
俺と怜奈は友里恵さんについて行く。
「この中に隠れて。」
友里恵さんが人目のつかないような場所のもう使われていなさそうなボロボロの倉庫に俺と怜奈を誘導する。
「この中なら少しはやり過ごせるわ。」
「そうですね。」
俺と怜奈が倉庫に入った時、友里恵さんは扉を閉めた。
「友里恵さん!?」
「少しこの辺の様子を見たら戻ってくるわ。」
友里恵さんはどこかに行ってしまった。
「俺も行く。」
俺が倉庫から出ようとしたら、怜奈に腕をつかまれた。
「行かないよね?」
怜奈が涙目で俺を見ている・・・行くに行けない。
「すぐ戻る。」
「嫌だよ、一人は嫌。」
「絶対に戻る。友里恵さんも連れて。信じろ。」
「・・・絶対だよ?」
「約束だ。」
俺は倉庫から出て、神社の方へ戻った。
「誰もいない・・・。」
夜中だけあって誰もいないのは妙に不気味。
『たたたた』
足音?いや、誰かが走ってくる。
「ハア・・ハア・・・。」
中学生くらいの女の子だ。俺たちの集落にはいなかったような・・・あっ!
「嫌ぁ!来ないで!」
『おとなしくハイグレになれ。』
三人ほどに追われてる・・・まずい、あっちは行き止まりだったはず。
「そんな・・・・。」
『すぐに気持ち良くなるから安心しろ。』
助けに行く?いや、もう間に合わない?見捨てるのか?
俺の頭の中はもうパニックだった。
「きゃああああ!!」
・・・手遅れか・・・・・
俺はつい目を伏せてしまった。
「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレ魔王様こそ偉大。ハイグレ魔王様こそすべて。ハイグレッ!」
さっきの子の楽しそうな声が聞こえてくる。・・・また一人ハイグレ人間が誕生してしまったんだな・・・・
「あれぇ?祐樹君、ダメじゃない。ちゃんと倉庫にいなさいって言ったでしょ?」
「友里恵さん!」
俺は声の聞こえた方に振り替える。
友里恵さんが・・・いる・・・・黄緑のハイレグ水着に体を包まれた友里恵さんが・・・
「もう、これだから祐樹君はねぇ。今ハイグレ人間に生まれ変わらせてあげる。」
「そんな・・友里恵さんまでハイグレ人間に・・・・。」
「ハイグレッ♪ハイグレッ♪うふふ、楽しい。」
いつも疲れに負けず頑張っていた友里恵さんが楽しそうに自分のXラインに沿って手を動かしている・・・完全にハイグレの虜になってしまっている。
「冗談ですよね?」
「ハイグレッ♪ハイグレッ♪ハイグレッ♪」
友里恵さんがハイグレをしながら俺に迫ってきてる。
「うそだろ?」
足が・・・動かない・・・・・・
「怖がらないで、今まで抵抗してたのがバカだったって思うほどの快感だから。」
「う、動いてくれ・・動いてくれよ・・・・。」
体が石のようだ。
「ハイグレッ♪ハイグレッ♪ハイグレ魔王様のために生きるのって本当に気持ちいいわ。」
どんどん俺と友里恵さん・・・いや、ハイグレ人間友里恵の距離が縮んでいく。
「くそっ!畜生。」
「何をしている!」
男の子が俺の手を引っ張り走り出す・・・この子は俺たちの集落の子じゃない。
「君は?」
「どう考えても今は話せる状況じゃない!」
それはそうだ、友里恵さんが追いかけて・・・こない?
「君、もう誰も追いかけてこないよ。」
「え?あ、ほんとだ。」
「でも・・・なんでだ?・・・・・まさか!!」
俺は男の子を置いて走り出す。
「お、おい待てって。」
ハイグレ人間友里恵さんが俺をあきらめたってことは・・・。

そのころ、怜奈は・・・
「祐樹お兄ちゃん・・・・・。」
「怜奈ちゃ〜ん、いるかしら?」
「友里恵さん!」
「ここを開けてもらえるかしら?」
「うん。」
「させるかぁぁぁぁ!!」
俺はハイグレ人間友里恵さんを突き飛ばす。
「痛っ!やってくれるじゃない、ハイグレ魔王様に忠誠を誓わない愚か者の分際で。」
完全にハイグレ魔王の配下にされてしまった友里恵さんを見て改めて悔しさが実感できる。
「ど、どうしたの!?友里恵さん!!」
外の様子が分からない怜奈の心配そうな声がする。
「暴力行為をしたら行けないのよぉ?」
「怜奈は絶対に守る。」
「いい度胸ね、ハイグレに染めてあげるわ。」

『ハイグレ鬼ごっこ 一日目、終わりました。』

「残念だけど、終わりだってさ。」
「命拾いしたわね。まぁ、偉大なるハイグレ魔王様の前じゃ無力だけどね。ハイグレッ!ハイグレッ!」
ハイグレ人間友里恵さんは俺に向かってポーズをとると走り去っていった。ルールを破るとハイグレ魔王に罰を与えられるらしい。
「何がどうなってるの?」
怜奈が悲しそうな眼で俺を見ている。どうやらハイグレ人間となった友里恵さんを見てしまったようだ。
「怜奈、仕方ないんだ。」
「・・・・・・・・。」
「なんだなんだ?随分沈んでるな?」
さっきの男の子だ。
「ところで、お前、何か言うことあるだろ?」
「あ、さっきは助かった。」
「ふっ、それでいい。」
何なんだこいつ。
「えっと、お取り込み中のようだから・・・失礼。」
男の子は去っていった。
「怜奈、帰るぞ。」
「・・・・・・うん。」
ハイグレ鬼ごっこ一日目終了。

俺と怜奈は集落に帰ってきた。
「・・・ただいま・・。」
俺は怜奈を寝かしてメインテントに向かった。
「祐樹君、今から緊急放送が始まるって。」
疲れてはいるみたいだが笑顔を見せる綾香さん。
「緊急放送?」
俺はテレビに目を向ける。
「おほほほ、今からルールを犯した人たちの公開転向作業を行うわ。」
「なんだって!?」
テレビで人間をハイグレ人間にするところを流すなんて、あいつは悪魔か!
「テレビを消そうぜ!」
「「「・・・・・・。」」」
皆は黙ってテレビ画面に目を向けている。
「お、おいおい皆、人間がハイグレになるところなんて見たくないだろ。」
「「「・・・・・・。」」」
「やめようぜ、あと六日逃げ切ればすべてが元に戻るんだから。」
俺の言葉に一人が言い返す。
「あと六日?・・・逃げ切れるはずがない。」
「現に今日は逃げ切ったじゃないか。」
「何人犠牲になったと思ってるんだ・・・。」
俺は周りを見渡す。メインテントにいる人数は三十人位。
「皆寝てるんだろ?」
「二十人位な。」
俺は自分の耳を疑った。
「計五十人ほど?冗談だろ?この集落の半分がたった一時間でハイグレ人間になったのか?」
「そんなの・・・信じられない・・・・。」
驚いてるのは俺と綾香さんだけだ。
「もう終わったんだ・・・明日には全滅するんだ・・・・。」
がっくりと肩を落とす集落の皆。
「まだだ、まだ終わったらだめだ。」
『嫌、やめてぇ!ハイグレなんて嫌!きゃあ!・・・・・ハイグレッ♪ハイグレッ♪』
テレビから悲鳴が聞こえてきた。数秒後にはハイグレコールが聞こえてきたが。
「「「・・・・・・。」」」
集落の皆は自分の寝床に帰っていった。
「祐樹君、私はあきらめないよ。」
「綾香さん・・・俺もさ。」
俺と綾香さんは握手をしてメインテントから出て、自分の寝床へ。
「そういえば、沙耶は何処だ?」
俺は沙耶の寝床に向かった。
「沙耶、いるか?」
沙耶はいなかった。
「・・・・沙耶・・・まさかハイグレ人間になっちまったのか・・・・。」
一番起きてほしくなかったことが起きた。
「・・・・もう・・・無駄なのか・・・・・?」
俺の頭の中に逃げ切るという自信はなくなっていた。



次の日の朝、俺は目を覚ましたが起きたくなかった。
「祐樹お兄ちゃん、起きてよ。」
怜奈が俺を起こしに来たが起きる気にはなれなかった。
「もう少し寝かせてくれ。」
「うーん、わかった。沙耶お姉ちゃんのところに行く。」
「今すぐ起きる。」
怜奈は沙耶がハイグレ人間になったなんて知ったらショックを受けるに決まっている。
「急にどうしたの?」
「別に、ただ起きたくなっただけだ。」
俺は外に出た。誰ひとり起きていなかった。綾香さんは街に行っているし。
「沙耶お姉ちゃんも寝てるのかな?」
「さぁ?どうだろうね。」
「起こしに行こう?」
「今日は俺がたっぷり遊んでやる。」
何があっても沙耶がいないことを怜奈に知られたくない。
「沙耶お姉ちゃんも一緒がいい。」
「沙耶は昨日で疲れたから休ませてって言ってたから寝かせといてやろう?」
「・・・・・わかった。祐樹お兄ちゃん、遊ぼ?」
「あぁ、とことん付き合ってやる。」
怜奈は本当にタフだな。
俺と怜奈は昨日のように遊び、昨日のように寝た。鬼ごっこが始まるまで・・・。



・・・沙耶はというと・・・
「嘘ですよね?嘘って言ってくださいよ・・・。」
『ハイグレッ!ハイグレッ!沙耶もハイグレになりなさい。ハイグレッ!』
私は無駄だと分かっていても、ハイグレ人間にされた集落の仲間だった人のところに来ていた。
「あんなにハイグレを嫌がってたじゃないですか!」
『本当にバカなことをしてたわ。それと、ハイグレにならない分際で街にいるなんて・・・警察に連れていくわよ?』
ハイグレ人間の街では人間がうろついているだけでも許されない。
「失礼しました・・・。」
私があきらめて帰ろうとすると・・・
『待ちなさい、逃がさないわよ。』
「な、なんですか?」
『うふふふふ。』
いつの間にかハイグレ人間たちが集まってきていた。
『取り押さえなさい。』
私はハイグレ人間たちに取り押さえられた。
「は、放して!」
『鬼ごっこ中以外は人間が街に入ったらいけないの。だから・・・』





『あなたもハイグレにしてあげる。』





「何を言っているんです!!」
『平気よ、ここには女性しかいないし。』
私は服を脱がされ、ピンクのハイレグ水着を着させられた。
「・・・酷い。」
『光線銃を使わなかったのよ。感謝しなさい。』
そういえば、光線銃を使わなければ意志さえ保てればハイグレ人間にはならないらしい。
「じゃあ・・何のために・・・・。」
ハイグレ人間は私の背中に光線銃を突き付けてきた。
『あなた自らハイグレをさせるためよ。』
「そんな・・・私・・・・嫌・・。」
『ハイグレをしないと光線銃から赤い光が放出されちゃうわよ?』
「・・・・・・・・。」
私はハイグレをする体勢になった。そして、ゆっくりと自分の手を股に近づける。
『早くやりなさい。』
「どうして私の意志でやらせようとするんですか?」
『刺激がほしいのよ。そんなことより早くやりなさい。』
「グスッ・・はいぐれ・・・・。」
恥ずかしいよ・・・悔しいよ・・・
『元気良くやらないと、ハイグレ人間になるわよ?』
「ハイグレッ!ハイグレッ!」
私は今ハイグレ人間と同類・・・考えるだけで悔しい。
『笑顔で、もっと楽しそうに。』
「ハイグレッ♪ハイグレッ♪」
私・・・はたから見ればハイグレ人間なんだ・・・・あれ?そう思うと気持よくなってきちゃった・・・・
「ハイグレェッ♪ハイグレェッ♪あはは♪ハイグレェッ♪」
私はハイグレ人間なんだ。ハイグレ魔王様はなんて素晴らしい方なんだろう。
『これで沙耶も私たちと同じ。』
「ハイグレェェッ♪ハイグレ魔王様ぁ♪」
私は決めた、これからはハイグレ魔王様のために生きるって。



「そろそろだな・・・・。」
俺は午後九時を指す時計を見てため息が出る。
「街に行こう?」
「・・・そうだな!!」
ハイグレ鬼ごっこ二日目が始まる。しかし・・・なんか嫌な予感がする。



『ハイグレ鬼ごっこ二日目・・・始まりました。』
俺と怜奈は再び学校に来ていた。今度は考えがあってだが。
「祐樹お兄ちゃん、どうして二階に隠れているの?」
俺と怜奈は二階の美術室に隠れていた。西階段の隣とは言え、逃げるのには不適切だ。
「怜奈、窓の外に何がある?」
「えっと・・・体育館が見えるよ。」
「そう、それだ。」
この学校は校舎と体育館の距離がかなり狭い。土地が狭いから仕方ない。
「でも、それが何なの?」
「校舎と体育館をつなぐ通路があるだろ?その通路の頭上には屋根がある。二階の窓からだと丁度いい連絡橋になるんだ。」
つまりこの教室に誰かが来たら、昨日のように飛び降りるのではなく、屋根の上を渡り、体育館に入る。
体育館には出口が校舎から入るのと、非常口の二つだ。充分に逃げ場ができる。
「すごーい、これなら平気だね。」
「まあな。」
一日中考えていたことは黙っておこう。
・・・沙耶・・・本当にハイグレ人間になっちまったのか?・・・俺は何もできなかった。
「でも・・・俺なんかじゃ誰も助けられない・・・・。」
「祐樹お兄ちゃん。」
「沙耶がハイグレ人間になってたら俺はどうすれば・・・。」
「祐樹お兄ちゃん!!」
「うわっ!なんだよ。」
俺は怜奈の大きな声で我に帰った。
「そ、その、お守り落としちゃって。」
「お守り?」
そういえば怜奈には大切にしてるお守りがあるって言ってたような。
「何処に落したんだ?」
「わからない・・・・学校に来るまではあったんだけど・・・・・。」
鬼ごっこ中じゃなければ探してあげたいんだけど・・・
「怜奈、鬼ごっこが終わったら探してやる。」
鬼ごっこ開催中は夜の九時から深夜二時まで人間が街をうろついていいルールがある。
「・・・うん。」
あれ?怜奈ががっかりしてるな。どうしたんだ?
「そのお守りは大切なのか?」
「・・・・・そんなことないよ。」
「な、ならいいんだけど。」
今日は運がいいのか鬼が来る気配がしない。今日は見つからないといいのだが。
「ゆ、祐樹お兄ちゃん・・・・。」
怜奈が窓の外を見て怯えている。
「どうしたんだ?怜奈。」
「た・・体育館の窓に・・・・。」
俺は体育館の窓の方に目を向ける。
「な!?何だ!?」
体育館の窓に人影が三つほど。
「鬼なのか?」
「わかんないけど・・・怖い・・・・。」
待てよ、これじゃあ体育館逃げ込めないじゃないか。
「移動するぞ、怜奈。」
「うん。」
俺と怜奈は美術室の扉を開けて、西階段に行く。
「ッ!!」
俺は西階段へ続く曲がり角を曲がった瞬間、引き返した。
「どうしたの?ゆう、ん!!」
俺は怜奈の口をふさいだ。
「ん!んん!」
怜奈が俺の手を離そうとしている。
「静かに。」
俺は怜奈の耳に囁く。
今俺が一階と二階の踊り場で見たのはどう考えても鬼だった。二人いた。
『今、声がしなかった?』
『そうかしら?』
「・・・・・。」
怜奈も状況が理解できたらしく、おとなしくなる。
二人とも女性か。背丈的に大人だろう。二人とも白いハイレグ水着姿だった。
『一階には誰もいなかったし、二階を探しましょうか?』
『そうね、階層ごとに調べた方がいいわね。』
足音が近づいてくる。
「行くぞ、怜奈。」
「・・・(コクン)」
俺と怜奈は一本道の廊下をゆっくり歩き出す。
怜奈の足では鬼には勝てない。こっちに鬼が来たら逃げ切れる確率はかなり低い。
『あら?今三階から物音が聞こえたわ。』
『誰かいるんじゃないかしら?』
もしかすると、助かるかもしれない。
『いたわよ!!』
世の中そんなに甘くない。進路は変わらなかったか。
「怜奈!走るぞ!!」
「・・・・・うん。」
俺と怜奈は東階段に向かって走り出す。
『ハイグレ人間になりなさい!!』
長い廊下での鬼ごっこが始まった。俺は怜奈のスピードに合わせて走っているため、鬼との距離は縮まる一方だ。
「怜奈・・大丈夫か・・・?」
「・・・大丈夫。」
俺たちは北階段に続く曲がり道と東階段への真っ直ぐ行く道の分かれ道に差し掛かった。学校の出口に近いのは北階段だ。
「曲がるぞ!」
俺と怜奈は北階段の方へ進路を変えた。
・・・一人は真っすぐ走っていった!?そうか、この学校の構造が理解できていないんだな。
「急げ!下だ!」
俺と怜奈は北階段から一階に下りる。
鬼との距離はかなり近いが外には出れた。このまま神社に隠れれば何とかなる。
俺たちが神社側の門へ走っていると・・・
『パリーン』窓が割れた・・・ってやばい!さっき真っすぐ走っていったハイグレ人間だ。
『おほほほほ、こっちの道は通れません。』
「・・・・くっ。」
俺は方向転換をする。
前と後ろには鬼がいる。左は校舎、だとしたら逃げ道は右のグラウンドだ。
「怜奈!!」
俺は怜奈の手を引っ張り、グラウンドへ走る。
正直この距離感の狭さ・・・もう捕まるのは時間の問題か・・・・・。
グラウンドを横切った先は体育倉庫。
「いけるか・・・。」
俺は体育倉庫の前でかがみ、手を出す。
「祐樹お兄ちゃん!?」
「俺の手を踏み台にして屋根の上に登れ!!」
今は迷っていられるほど時間がない。
「でも・・・。」
「俺のことを思っているなら早くしろ!!」
怜奈は優しいから厳しい言い方をしないと動かない。
「・・・わかった。」
『駄目よぉ、ハイグレ人間になりなさい。』
「早く!!」
怜奈は俺の手をうまく使って体育倉庫の上に登った。
『おほほ、あの子は助かってもあなたは無理よ。』
「これでも俺は足が速いぜ?」
『そう、でも逃げ場がないなら意味はないわ。』
俺の背後は体育倉庫、前には二人のハイグレ人間。
「確かにな・・・。」
『また仲間が増えるわ。ハイグレッ♪ハイグレッ♪』
足の速さならこの二人には勝っている。だとしたら・・・
「行くぜ!!」
俺は二人のハイグレ人間に突っ込んでいく。
「祐樹お兄ちゃん!」
『完全に投げやりになってるわね。』
かかった。奴らは俺が自棄になってると思って油断した。
「油断したな!」
俺は急カーブ、校舎側へ走る。
『な!?なんて運動神経なの!』
あんだけ強制労働させられたら動きだってよくなるっての。あいてが女性でよかった。
だけど・・・この行動が吉と出るか凶と出るか・・・・・
『だったらこの子を捕まえるわ。』
「ゆ、祐樹お兄ちゃん!」
凶と出たか・・・あいつらが俺を狙ってくれたら大成功だったのに。
「今何時だよ・・・・。」
時計は十一時五十五分を指していた。
「あと五分かよ!!」
まずい、もうハイグレ人間は体育倉庫の上に登る寸前だ。
「ちっ、一か八かだ!!」
俺は再びハイグレ人間に向かう。今度は作戦なしだ。
「それは駄目よ?」
「・・・・・・・・?」
俺が見ているのが幻覚だ。茶髪の少女・・・どう見ても沙耶だ。
ピンクのハイレグを着ている・・・沙耶・・・・・。
「祐樹、探したよ?」
「沙耶じゃないよな?」
「沙耶だよ。ハイグレ魔王様の僕、ハイグレ人間沙耶。」
頭の中が真っ白になった・・・
「・・・・・・・。」
「でも、よかった。祐樹がハイグレ人間になってなくて。」
「え?」
何でよかった何だ?
「祐樹は私がハイグレ人間にしてあげたかったから♪」
言葉が出ない・・・
「ほらほら、楽しいよ。ハイグレェェッ♪ハイグレェェッ♪」
沙耶は楽しそうにハイグレ魔王への忠誠を意味するポーズをとっている。
・・・あれだけ嫌がってたのに・・・・・
「祐樹。怜奈ちゃんの方は平気なの?」
「怜奈!!」
俺が怜奈の方を振り返ると、怜奈は・・・いない・・・・
体育倉庫の上に怜奈がいない?下にいるはずのハイグレ人間も・・・
下に降りて逃げているのか・・・走りの勝負になったら怜奈は負ける・・・
「祐樹、もう無駄だってわかったでしょ?」
「・・・無駄なんかじゃない・・・・。」
「あきらめ悪いなぁ、私は祐樹と一緒にハイグレがしたいから探してたのに。」
沙耶は笑顔で俺に近づいてくる・・・
「そっか・・・沙耶がいいなら俺もハイグレ人間になって一緒に・・・・。」
「痛くないから平気だよ。」
俺の戦いは終わった・・・怜奈?
俺の眼に映ったのは二人の鬼から必死に逃げている怜奈だった。





『怜奈は俺が守ってやらないと・・・・』





そうだ、俺があきらめてどうするんだ。
「悪いな、沙耶。」
俺は怜奈のもとに走る。足がすぐに最高速度に達した。
「怜奈!!」
俺は怜奈の手を握り、走り出す。
『逃がさない!』
追いつかれる・・・
「だったら、こうだ。」
俺は怜奈を背中に乗せて走る。
『それで走れるとでも?』
「強制労働はもっときついんだよ!!」
俺の全力疾走に勝てるはずないだろ!

『ハイグレ鬼ごっこ 二日目、終わりました。』

「逃げ切った・・・」
『・・・無駄な抵抗よ。』
二人のハイグレ人間は去っていった。
「・・・沙耶。」
俺はグラウンドにいる沙耶のもとに駆け寄った。
「次こそはハイグレにしてあげるね。ハイグレッ♪ハイグレッ♪」
沙耶は俺に向かってポーズをとると、帰っていった。
「沙耶、ハイグレ人間になっちまったのかよ・・・。」
「祐樹お兄ちゃん・・・帰ろう?」
「・・・・・・・。」
ハイグレ鬼ごっこ二日目終了

「祐樹お兄ちゃん、私のお守りのこと忘れちゃってるのかな・・・・。」
「怜奈、何か言ったか?」
「別に何も言ってないよ。」
怜奈は作り笑いでもしているようだ。
「そうか、ならいいんだ。」

俺と怜奈は集落に帰ってきた。
「怜奈、早く寝な。」
「・・・・・・。」
怜奈は黙って自分のテントに入っていった。
「祐樹君、お疲れ様。メインテントに行きましょう。」
綾香さんが俺を迎えてくれた。
メインテントに入ると、集落のメンバーが十人ほどいた。
「ゆ、祐樹君。」
「・・・ほかの皆は?」
集落のメンバーが俺の方を向く。
「今日で昨日の半分がハイグレ人間になった。」
「に、二十五人・・・。」
たった二日で四分の一になったのか・・・・
「・・・・そう、でもあきらめたらだめよね!」
「そうだね、綾香さん。」
「そうかい、まぁ、無駄だろうけど。」
集落のメンバーは自分のテントに帰っていった。
「それじゃあ祐樹君、寝ましょ。」
「・・・・悪いけど、先に寝てて。」
「そう?じゃあまた明日ね。」
綾香さんも自分のテントに帰っていった。
「やることがあるからな。」
俺はメインテントから出て行った。

「ここにあるのか・・・。」
俺は学校に来ていた。当然怜奈のお守りを探すため、怜奈はまだ小学生だ。高校生の俺がこれぐらいやらないと。
「そういえばどんなお守りなんだろ・・・。」
とにかくお守りらしいお守りがあればわかるだろう。
「かなり大変だけどやるしかないな。」
俺は校舎内を探し回る。
「見つからないな・・・・。」

「・・・・・・・はっ!つい寝てしまった。」
俺は学校で寝てしまっていた。
「今の時間は・・・朝の六時・・・・これはやばい。」
ハイグレ人間が歩き回っている中、集落に帰るのはかなり・・・いや、無理だ。
「ここももうすぐ先生たちが来て・・・・きて・・・着て・・・・。」
俺は放送室に向かう。
「・・・着るしかないよな・・・・・・。」
俺は青いハイレグ水着を手に取る。
「・・・・駄目だ、人間をやめるのは・・・・。」

『人間がいるわ!』
『捕まえろ!』
「夜より見通しがいいからきついな・・・・。」
俺は街中を駆け抜ける。当然私服姿だ。
「げっ!前からも来てる。」
『おとなしく投降しなさい。』
「警察まで来てるし・・・。」
それにしても、女警察官のハイグレっていいよな・・・じゃなくて!
どうして人間って非常時のときに変なことを考えてしまうんだろう。
『仕方ないですね、撃ちます。』
光線銃を取り出した!?
「かわしてやる!」
俺はその場に伏せて光線をかわした。しかし、囲まれてしまいました。
『なぜ人間がここにいる?』
「・・・・・それは・・・・。」
『言えないならハイグレにします。』
まずい!!
「そこまでにしてあげてください。」
「綾香さん!!」
綾香さんが走ってきた。
『・・・何者ですか?』
「この街で働いている人間です。」
『証明書は?』
この街で働く人間には証明書がある。
「これですよね?」
綾香さんが証明書を取り出し、警察官に見せる。
『・・・確かに。それで、この少年は?』
俺のことは何て説明するんだろう?
「私の息子です。」
え!?・・・・・そうだったらいいなぁ・・・じゃなくて!
こんな言い訳が通じるのか?
『なるほど・・・それなら今回に限り見逃します。』
上手くいくもんだな・・・・・
「ありがとうございます。」
『ハイグレ魔王様は鬼ごっこで人間をハイグレにしたいようなので、ここで獲物を減らすのはよろしくないですからね。』
「ありがとうございます。」
とにかく頭を下げ続ける綾香さん。俺のためにここまでしてくれるなんて・・・
「祐樹君、行きましょう。」
「何処に?」
「集落です。」
「仕事は?」
「祐樹君を放っておくとまた警察に捕まる・・・違う?」
まったくもってその通り。
「すいません、俺のせいで。」
「平気よ。それより早く帰りましょ、あんまり寝てないよね?」
「はい、本当にご迷惑をかけて。」
「謝ってばっかいないの。」
綾香さんは先に歩きだす。
『ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!』
『ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!』
俺と綾香さん以外はハイレグ水着を着ている。当たり前だけど、鬼ごっこの時間になったら敵、そう考えると恐ろしい。
「祐樹君、どうしたの?」
「べ、別に。」
綾香さんはいつもその恐怖と闘っているんだよな・・・・・

俺と綾香さんは集落に到着。
「怜奈はいないの?」
「寝てると思うわ。」
「そ、そう・・・・綾香さん、迷惑かけてすいませんでした。」
「いいってば、じゃあ、仕事があるから。」
綾香さんは再び街に向かっていった。
「・・・・・・沙耶はどうしてるんだろう・・・。」
俺にとって沙耶と怜奈が心の支えだった。
「あと・・・五日か。」
やらなくちゃいけない。直に始まる・・・三日目の鬼ごっこ。

そのころ、沙耶は・・・
「・・・・・今日こそ、ハイグレ魔王様のために祐樹をハイグレ人間にする。」
「沙耶、気合入ってるね。」
私の友達、由理香。勿論ハイグレ人間よ。色は黄緑。
「当然よ。私はまだ一人もハイグレ人間にできてないんだから。こんなんじゃハイグレ魔王様に恩返しができない。」
「だったら今夜は協力しない?」
「え?本当?」
「うん、沙耶のためだもん。」
「ありがとう、じゃあ早速作戦を考えましょう。」
私は絶対に祐樹を・・・

戻って集落。俺はただ座っている。
「・・・・・・・・。」
怜奈は寝ているし、集落のメンバーは仲間同士でさえ話さない。初日の元気が残っている奴なんていなかった。
「・・・このままじゃダメだ!!」
俺は立ち上がる。
「皆、聞いてくれ!」
俺は外にいる仲間たちに呼びかける。皆は俺の方に視線を向ける。
「鬼ごっこは残り五日だ。たった五時間走りきればいいんだ!」
「「「・・・・・・。」」」
皆はただ黙って俺を見ている。
「今までの労働を堪えた俺たちは油断さえしなければ逃げ切れる!」
「「「・・・・・・。」」」
皆は俺から視線を逸らし、それぞれテントに戻っていく。
「お、おい皆!!」
俺が呼んでも皆は足を止めない。
「・・・・・俺は・・・何もできないのか・・・・。」
今の皆に何を言ったところで無意味だ・・・・

あの後、俺は何もできなかった・・・あっという間に鬼ごっこの時間がやってきた。
「怜奈、行くぞ。」
俺は怜奈の寝ているテントに入った。まあ起きてるだろうけど。
「・・・・・・。」
怜奈は黙って立ち上がる。
「今日も学校・・・と言いたいが、あの場所のことは鬼にばれてるから、今日はエリアを変える。逃げ場は少ないが労働場エリアに行く。」
普通に考えたら街のエリアの方が逃げやすいが、俺は街のエリアに行きたくなかった気持ちが強かった。沙耶と会う気がするからだ。
「ほら、時間がない。」
俺と怜奈は労働場エリアに入っていった。

俺と怜奈は労働場に入り込んだ。
「俺たちはここで強制労働を・・・・・。」
思い出すのも嫌なこと。
「さてと、何処に隠れようか。」
労働場は建物の中と外がある。隠れるなら中、足を使って逃げるなら外だろう。俺だけなら外でいいが、怜奈がいるから中にするべきだろう。
「よし、中に隠れるぞ。」
「・・・うん。」
さすがにたくさんの人間を入れていただけあって建物の中は広い。しかし、逆を言えばこのエリアで逃げれるのはここだけであろう。
「広いぶん何処に隠れていいものか・・・。」
『ここに人間がいるはずよ。』
どうやら今夜もただでは済まないようだ。
「さて・・・どうする。」
この建物は横に長い・・・というか、三階までしかない。地下は二階まであるけど・・・窓からの脱出も考えてこの三階層を使うのが賢明か。
「どうやらハイグレ人間は二人いる様子だな・・・。」
「祐樹お兄ちゃん、どうするの・・・?」
「とりあえず、労働部屋に入ろう。」
俺と怜奈は俺達が働かされていた部屋に入った。
『どこにいるのかしら?』
「祐樹お兄ちゃん・・・。」
不安そうに俺の顔を見てる怜奈・・・
「大丈夫。いいか、怖かったら走ってるとき以外は俺だけ見てろ。」
「・・・・うん。」
やっぱり怜奈は精神的な傷があるみたいだな。沙耶が理由だろう・・・
「・・・行ったみたいだな。」
俺が一息つくと怜奈は俯く。
「なぁ、怜奈。逃げ切れたら皆もとに戻るんだ。だから今は元気出せよ。」
「・・・・・。」
怜奈は黙りっぱなしだ・・・
「そ、それじゃあ、廊下に出るか。」
怜奈は一度だけ首を縦にふった。
「よし・・・誰もいないみたいだな。」
俺と怜奈はゆっくりと部屋を出て息を殺す。
「昨日だけであんなに追い込まれたんだ・・・今日はどうなることやら。」
『いたわよ!』
「くっ・・・見つかった。走るぞ、怜奈。」
ただ長い廊下を走る俺と怜奈・・・だが、前方から・・・・
『人間発見!』
運悪いのやら・・・はさみうちか・・・・
「こういう場合は窓って学んださ。」
二階だけど問題ない。
「怜奈、何かをつたって降りろ。」
「・・・・うん。」
『逃がしたら駄目よ!』
ヤバい、廊下の鬼が迫ってきてる。
「平気か?」
怜奈がちゃんと着地できたことを確認した俺は当然飛び降りた。
「怜奈、こっちだ。」
怜奈の手を取り、屋外労働場に逃げ込んだ。
「参ったな・・・隠れる場所がない所にきちまった・・・。」
俺はいい・・・だけど怜奈は危うい。
「まだ30分しかたってないな・・・・。」
俺は何度も腕時計を確認してしまう。
「とりあえず・・・・建物の中に戻るか。」
「・・・・・うん。」
再び建物に戻ろうとするが・・・・
『いたわよー!』
「やっぱり待ち伏せかよ!」
俺と怜奈は労働場エリアから去って行った。



「結局集落に戻っちまったな・・・怜奈?」
いつの間にか怜奈がいなくなっている。
「お、おい、怜奈?こんな時までふざけてる余裕はないぞ?出て来いって。」
周りからは風の音しか聞こえない。
「・・・俺が見失ったのか?嘘だろ・・・・・。」
だとしたら怜奈はまだ労働場に?それは・・・本当にヤバい。
「怜奈!いるんだろ!」
怜奈がいないとわかっていても呼び続ける。そうするしかできない・・・
「戻るしかないか・・・。」
俺が労働場エリアに戻ろうとすると街の方向から一人の少女が・・・
「鬼か!?」
いつでも走れる体勢に入る。
「ゆ・・祐樹・・・・。」
「沙耶・・・?」
荒く切られた髪、優しそうな表情、聞き覚えのある声、どう考えても沙耶だ。ただ・・・ピンクのハイレグ姿だけど・・・
「な・・・なんだよ、鬼の沙耶がなんかの作戦か?」
俺の言葉を聞いて苦しそうに沙耶は口を開く。
「助け・・・て。」
「え・・・?」
昨日の沙耶と妙に違う・・・昨日の沙耶はもっと明るかった。
「祐樹・・・私・・・ハイグレ人間なんて嫌・・・・・。」
「沙耶、まだ意識が残ってる?」
俺が少し沙耶に近づこうとすると、沙耶は下半身をモジモジさせる。
「で、でも駄目・・・は、ハイレグが食い込んで・・・あんっ♪・・気持ち良くなってきちゃって・・・・もう、自分の意識がもたないの・・・。」
「沙耶・・・。」
「だ、だから祐樹、お願いがあるの・・・。」
沙耶がゆっくりこっちに近づいてくる。
「沙耶、その手に持ってるのは何だ?」
「これぇ?これはねぇ・・・祐樹のハイレグ。」
俺の脚が動かない・・・・逃げろと脳で命令しても体が動かない。
「もう私はハイグレ人間沙耶なの。でも・・・私、寂しいの。」
じわじわと近付いてくる沙耶。わかってた。なのに、体は動かない・・・・
「祐樹は私のこと思ってくれてるもんね。だから逃げれないんだよね。」
沙耶はもう目の前に来ていた。
「一人だとハイグレも寂しいよ・・・だから祐樹もハイレグを着よ?」
「沙耶・・・一つだけ言いたいことがある。」
「何?」
「沙耶のために怜奈・・・泣いてたぞ・・・・。」
「そっか、じゃあ怜奈もハイグレ人間にしてあげるから平気。」
「いい加減に目を覚ませ、沙耶。」
「祐樹のハイレグ姿か・・・かっこいいだろうな・・・・・。」
沙耶は赤いハイレグを取り出す。
「私が着せてあげるね。恥ずかしがらないでいいよ。私は祐樹なら抵抗ないから。」
今なら走れる・・・・今逃げないと・・・・終わりだ。
「悪いな、沙耶!」
俺が走り出すのよりも速く沙耶は俺の体を捕らえた。
「なっ!?」
「駄目だよ、祐樹。一緒にハイグレしてよ、寂しいよ・・・。」
俺の服に手をかける沙耶。
「祐樹には光線銃は使いたくないんだ。私と祐樹は心からハイレグに染まるの。」
「やめろ沙耶!!ハイグレなんかになりたくねぇって。」
「平気だよ。キュッて締め付けてくれて気持ちいいから。」
俺は抵抗もできず、ハイレグを着せられた。
「素敵・・・祐樹、凄く似合ってる。」
「くっ、こんなの今すぐ脱いでやる。」
「だーめ。ハイグレするの。ハイグレッ♪ハイグレッ♪」
どうしてだろう・・・沙耶がコマネチしてるのを見ると、俺もしたくなってくる。
「ほら、気持ちいいよぉ。」
「・・・・ハイグレ、ハイグレ。」
「ふふっ、ハイグレ人間祐樹の誕生だね。」
「お、俺、もうハイグレ人間なのか?」
「うん、凄く似合ってるよ。」
でも・・・ここでハイグレ人間になってしまったら怜奈は・・・・
「・・・・ゆ・う・き、ハイグレしたいでしょ?気持ち良くなりたいでしょ?」
沙耶が愛くるしい顔で迫ってくる。
「や、やめろ・・・俺は怜奈を。」
「怜奈もハイグレ人間にしてあげるから。祐樹は私と一緒にハイグレをすればいいんだよ。」
そうか・・・怜奈もハイグレ人間にしてあげればいいのか。
「ハイグレッ!ハイグレッ!沙耶、俺もハイグレ魔王様のためにすべてを捧げるよ。」
「ハイグレッ♪これで祐樹は私達と同じ。」
「ハイグレッ!さあ、転向してない人間を探そう。」
「うん。」
俺と沙耶は街エリアへと歩き出す。そこで偶然にも・・・
「ゆ・・・祐樹・・君?」
「綾香さん。」
綾香さんとばったり会った。
「どうしちゃったのその姿・・・。」
「これ?俺はハイグレ人間になったんだ。」
綾香さんは目を反らす。
「どうして・・・祐樹君だけはハイグレにならないって・・・。」
「綾香さん、祐樹は私と同じ道を進む決心をしたんです。ね?祐樹。」
「ハイグレッ!そう、俺もハイグレ魔王様の役にたてるよう戦うって決めた。ねえ、綾香さん。ハイグレは凄く気持ちいいよ。ハイグレ人間になろう。」
綾香さんは一歩下がり走り出す体勢に移る。

『ハイグレ鬼ごっこ三日目・・・終了』

「あ・・・終わりだって。」
「そうか、じゃあ帰るか、沙耶。」
「ハイグレッ♪」
俺と沙耶は街へと歩き出す。綾香さんはただ俺達を見ているだけだった。

「あ〜、母さん怒ってるだろうな。今まであんだけ抵抗したから。」
「きっと心配してくれてるって。ついていってあげよっか?」
「べ、別にいいよ。」
「そうだ、今日は私の家に泊まって行きなよ。家にお姉ちゃんしかいないし。」
「え・・・何か悪い気が。」
「いいのいいの。祐樹は今日からハイグレ人間だから。」
「そうか?じゃあ今日一日だけな。」
「「ハイグレッ!ハイグレッ!」」
俺と沙耶はしばらくハイグレを続けていた。



「・・・・怜奈ちゃん・・。」
「祐樹お兄ちゃんはどこなの?」
「今は・・・いないわ。」
「帰ってくるよね?絶対帰ってくるよね?」
「・・・・・・・・・えぇ。」
この日、私は怜奈ちゃんに嘘をついた。祐樹君はもう戻ってこない・・・





「ほら、祐樹。朝だよ。」
いい匂いがする・・・・俺が目を開けると沙耶がジッと見ていた。
「うわっ!沙耶・・・もう朝?」
「うん、早く起きて、朝ご飯できてるよ。」
沙耶が部屋から出て行った。
「そうだ、俺は沙耶の家に泊まったんだ・・・・。」
俺がリビングに行くと、沙耶と紫のハイレグを着た、沙耶のお姉さんがいた。
沙耶のお姉さんはスタイルもよく、黒髪のロングヘアで、沙耶と同じく愛嬌のある顔立ちだ。
お姉さんが俺に気づくと近付いてきて、俺を珍しそうに見る。
「あら、あなたが祐樹君ね?ふ〜ん、沙耶ってこういう子が好みなんだぁ〜。」
「ち、ち、違うよ!!」
小悪魔の笑みを浮かべているお姉さんと子供みたいに頬を膨らます沙耶を見ていると姉妹っていいななんて思う。
「へぇ、沙耶は祐樹君に興味ないんだ。じゃあ、祐樹君?私と付き合わない?」
「え・・・えぇぇ!?」
「ほらほら、私のハイグレを見て、ハイグレッ!ハイグレッ!」
沙耶のお姉さんは俺に向かってハイグレを繰り返す。
ハイグレをする度に上下に揺れる胸が色っぽい。
「こ、コラァ!!祐樹を誘惑するなぁ!!」
「興味ないんじゃないの?ふふっ、私はもう行くわね。ハイグレッ!」
沙耶のお姉さんは玄関へ向かって行った。
「もう、お姉ちゃんはこれだから。」
さっきから頬を膨らましっぱなしの沙耶。
「そろそろ学校だろ?早く支度しようぜ?」
「あ、そうだね。」





「怜奈ちゃん、夜に迎えに来るから、いい子にして待っててね?」
怜奈ちゃんは黙って頷いている。
私は街に向かって歩き出す。
「綾香さんの嘘つき・・・・・。」
後ろから聞こえてきた怜奈ちゃんの言葉が心に突き刺さっていた。
でも、私は逃げ切る。そうすれば祐樹君も目を覚ましてくれるはずだから・・・。

「おい、そこの人間、どこ見て歩いてんだ?邪魔だよ。」
「すいません・・・以後気をつけます。」
私が街を歩いているとハイグレ人間に嫌がらせをされたりする。
鬼ごっこの残り日が少なくなるにつれ嫌がらせはエスカレートしていた。
そして、仕事場に到着する。
「おはようございます。」
「まだ人間なの?早くハイグレ人間になりなさいよ、楽しいわよ?」
ここで働くハイグレ人間達は毎日同じことを言ってくる。
「すいません、お断りさせていただきます。」
「そう・・・まぁ、あなたもハイグレ人間になればわかるわ。」
時々泣きたくなる。少しでも失敗すると引っ叩かれる。
(怜奈ちゃんに嘘をついた私は・・・最低ね・・・。)
もう自分で自分を責めることしかできなかった・・・・辛い・・・・・





学校に着いた俺が見たのは様々な色のハイレグを着て学校へ登校してくる生徒達だった。
「橋山君、久しぶりね。ハイグレッ!」
「祐樹、お前もやっとハイグレ人間になったか、ハイグレッ!」
俺が学校に行くと、みんなが迎えてくれた。凄く懐かしくて、温かかった。
「沙耶〜、よかったじゃない。祐樹君もハイグレ人間にしてあげれて。ハイグレッ!」
「うん、由理香のアドバイスのおかげだよ。ハイグレッ!」

「橋山君、無事にハイグレ人間になれたのね、よかったわ。ハイグレッ!ハイグレッ!」
教室に入った俺と沙耶に緑のハイレグを着た先生は笑顔を見せてくれた。
「先生・・・俺も沙耶にハイグレ人間にしてもらったんだ。」
「これで私の生徒達、みんなハイグレ人間にしていただいたのね。」
とにかく嬉しそうな先生に沙耶が笑いながら話す。
「先生〜、違いますよ。クラスだけじゃなく、この学校の生徒がみんなハイグレ人間にしていただいたんです。ハイグレッ!」
そうか、俺がこの学校で一番最後にハイグレ人間になったのか・・・・。
「さぁ、授業を始めましょ。祐樹君、勉強の方、大丈夫?」
「あ・・・それはまずい・・・・。」
クラスには笑い声が溢れていた。





時はすぐ流れた。
「沙耶、もうすぐだな。」
「そうだね、早くみんなにハイレグ着せてあげたいなぁ。」
午後10時、後1時間後に鬼ごっこは始まる。





『ハイグレ鬼ごっこ四日目・・・はじまりました』

「怜奈ちゃん、こっちよ。」
「でも・・・・。」
「もう街のエリアを使うのは危険なの、わかって。」
私は怜奈ちゃんを呼ぶ。
行こうとしているのは森のエリア。
罠があって危険なのは百も承知。
だけど、祐樹君に足で勝てるはずがない・・・・。
「お願い、私の言うこと聞いて。」
「・・・・・・・・。」
怜奈ちゃんは黙ってついてくる。
「この森を抜ければ他の集落があるはずだから。」
今日の集落の荒れようは酷かった・・・。



鬼ごっこ開始1時間前・・・

「怜奈ちゃん?何処にいるの?」
私は仕事を終えて集落に戻ってきていた。
「・・・・・・。」
私を集落のみんなが見ていた。
5人程しかいなかった。
「あの、怜奈ちゃんを知りませんか?」
なんとか笑顔を作って話しかける。
「・・・・・・・。」
「え・・・?どうしたんですか?」
私は訳がわからなかった。
何でみんな黙っているの?
「もう終わったんだよ・・・・とうとうこの集落も7人になった。」
「4日目でもう7・・・・・。」
「やっぱり無理だったんだ・・・。」
「そんなことありません!私達が諦めなければ可能性は残っています。」
私が何を言ってもみんなはヒソヒソと話し合っている。
「そうだ、誰か一緒に行きませんか?怜奈ちゃんを守るためにも。」
「・・・・・・・。」
みんなは黙って街のエリアへ歩きだす。
「あの・・・・・・。」
「うるさい、あんたは街で働いているから強制労働を受けていた俺達の気持ちなんてわかんないさ。」
そのままみんなは振り向くことなく街へ進んで行った。
「・・・・私だって・・・・・悲しいことぐらいあるよ・・・・・・・・。」
下を向いてそう呟いた。
涙が頬を伝っているのがわかる・・・・。
私・・・・泣いているの・・・・・・・?
いつも祐樹君が私を後押ししてくれていた・・・・。
一人になった途端、私は弱い人間になっていた・・・・。





今は暗い森の中・・・ただ歩いている。
「平気よ、絶対に逃げ切れる。」
私が笑顔を見せても怜奈ちゃんは笑ってくれない・・・・。
「きっと、他の集落には頼りになる人がいるわよ。」
「祐樹お兄ちゃんはいるの?」
怜奈ちゃんは急にこっちを向き、真剣な表情で聞いてくる。
「え・・・・・?」
「沙耶お姉ちゃんはいるの?」
言葉を返せない・・・・・いるはずない・・・・・これ以上嘘をつきたくない・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・。」
「どうして答えてくれないの・・・・・・。」
怜奈ちゃんの声が涙声になっている・・・・。
私だって泣きたい、でも泣けないの・・・・・。
「逃げ切れば会えるから・・・・・。」
今の私はそれ以外言えなかった。



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2010年07月24日(土) 00時17分35秒 公開
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