To LOVEる 〜舞い降りた魔王〜



「ちょっと、そこ! サボってないで早くネット張ってください!」
風に揺れる黒髪を右手で押さえながら、古手川唯はコートの隅にたむろしている少女達を注意した。
「だってさ〜、今日寒いんだもん。ねえ里紗?」
「うんうん! しかも一時間目から体育なんてやってらんないよねぇ。古手川さんも一緒に隅っこでちぢこまろーよ♪」
「まったく・・・・・・」と溜息をつきながら後ろを振り返ると、コートを区切っているフェンスの上に、ピンク色の髪の女の
子が飛び移っているのを見つけた。

「ら、ララさん!? ちょっと何やってるの!」

「お〜〜〜い、リト〜〜〜! 頑張って〜〜〜!」

ララはフェンスの上に座りながら、グラウンドでサッカーをしている男子の方に向かって声援を送り、手を振った。
手を振る度に、お尻からフェンスに垂れた黒い尻尾がひょこひょこ揺れる。

「あ〜もう、皆ちょっとは真面目にやってよね!」

「ま、まあまあ、古手川さん。まだ先生も来てないんだし、そんなに急がなくても・・・・・・」

腕組みしながら逆上する唯を、クラス委員長の西蓮寺春菜がおずおずとなだめる。唯と並んでいると、垂れがちな瞳とシ
ョートヘアが好対照をなしているのが見て取れる。

「まったく、西蓮寺さんがそんなだから・・・・・・まあいいわ」と唯は諦めたように言い、コートの出口の方に向き直った。
春菜が首を傾げる。

「古手川さん、どこに行くの?」

「体育倉庫よ。ボールを運んでくるから、あなたは皆をおとなしくさせておいて。特にララさんを」

「う、うん」



「まったく、どうして皆だらしがないのかしら……」

ぶつぶつと独り言を言いながら、唯はバレーボールの入ったカゴを抱え、体育倉庫を出ようとした。不意に、背後で耳慣
れない音がした。蚊の羽ばたきのような音……。振り返ってみると、体育倉庫の壁に、先刻までは無かった不審な穴が開
いていた。拳大だったそれは、唯の視野の中で少しずつ空間を切り取りながら大きさを増していった。

(何かしら、あれ……?)

唯はボールのカゴを置き、振り返ってその穴をまじまじと眺めた。彼女の肩幅くらいに穴が広がったとき、穴の向こうに
見たことも無い人物の顔が浮かび上がった。薄青い皮膚、赤い色のモヒアンヘアー……浮かび上がったその異形に驚いた
唯は、腰を抜かしたようにその場にへたり込んだ。突然、向こう側の人間(?)が手を伸ばし、空間の縁に掴まって、ズ
ブズブと音を立てながらこちら側に身を抜け出してきた。いつか見たホラー映画のワンシーンを体験しているようで、唯
は恐怖のあまり身体を動かすことが出来なかった。脚の先まですっぽりと抜け出したそのヒトのようなモノは、ゆっくり
と体育倉庫の地面に降り立った。赤いモヒカン、人間とは違う肌の色、加えて、それの着ていた黒いマントと赤い色のハ
イレグが、唯の目には恐ろしく見えた。

「ふぅ、どうやらちゃんと目的地に着いたようね……あら、あなた、ここのニンゲンかしらン?」

甘ったるい口調と、やや中性的な声色で、その人物は唯に質問した。それが意思疎通のできる生き物であると分かると、
唯の頭は幾分冷静になった。冷静になると、唯にある考えがひらめいた。それと同時に、向こうが口を開いた。

「ねえあなた、ララ・サタリン・デビルークがどこにいるか知っているかしらン?」

(やっぱり! ララさんの知り合いなのね。まったく、おかしな登場して、ちょっとびっくりしちゃったじゃない……)

「ララさんなら、グラウンドに……ところで、あなた何者?」

「アタシのことを知らないっての? 地球人って、無知なのねぇ。よくお聞き、アタシはこの宇宙を統べる者、その名も
ハイグレ魔王!」

 ハイグレ魔王は、言い終えると同時に腰を落として脚を開き、両手を股に添えて、

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

と奇妙な掛け声と共にポーズを取った。その様子を見て、唯はぽかんと口を開けた。

(よ、余計に意味がわかんないわ……それに、宇宙を統べる? なんか胡散臭いわね……)

「何か不満? このポーズを見て慄かないなんて、ナマイキねぇ。証拠を見せてあげるわン」

訝しげな、呆れるような唯の視線が気に入らなかったのか、機嫌を損ねた表情をした宇宙人は、唯に向かって右手の小指
を差し出した。唯は何か手品でもするのかと、その訝しげな目線を小指に向けた。刹那、毒々しい真っ赤な色をした閃光
が、小指から放たれる。

「なっ……きゃああああああああああああああっ!」

光線は唯に向かって一直線に走り、彼女の身体にぶつかって四散した。



 バレーボールコートでは体育教師が女子を整列させ、出欠を取っていた。

「古手川唯さん……古手川さん? 欠席ですか?」

「あれっ? 唯、今日来てたよね」とララが不思議そうに言い、春菜が教師に向かって手を挙げた。

「先生、古手川さんは体育倉庫にボールを取りに行って、まだ帰ってきてないんです」

「あらそう。それにしては遅いわね……西蓮寺さん、ちょっと様子見てきてくれない?」

「はい、わかりました」と春菜はにっこり頷き、体育倉庫のある体育館の方に向かった。


 体育倉庫の扉を開けようとすると、中から聞こえる奇妙な言葉が、春菜を一瞬ためらわせた。

「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ」

(何だろう……古手川さんの声みたいだけど、何かあったのかな……?)

「どうしたの、古手川さん? ……きゃっ!」

扉を開けて、その目に飛び込んできた体育倉庫の様子に、春菜は驚き戸惑った。そこには、青色の腰まで切れ上がったハ
イレグ水着を着て、奇妙なポーズ、言動を発する唯の姿があった。そしてその向こうに仁王立ちしている、不審な人物…
…。その人物よりも、目の前の古手川の変わり果てた姿に唖然とした春菜は、口を聞くことも、動くこともできなくなっ
ていた。

「あらン、また迷える子猫ちゃんが一匹……じゃあ、あなたにも、アタシの可愛い下僕になってもらおうかしらン」

「い、嫌……来ないで……いやあああああああああああああああああっ!」

先刻、唯が浴びたものと同様の光線を浴び、春菜はそれに包まれながら苦渋の声を上げた。

「ホッホッホ! それがあなたの人生二度目の産声……あなたは新しいニンゲンとして、生まれ変わるのよぉ♪」

やがて光が収まると、そこには唯の着ていたものと同じく腰まで切れ上がった白色のハイレグを身に纏った春菜の姿があ
った。



「唯も春菜も遅いなぁ〜……どうしたんだろ?」とララは体育館の方を見ながら呟いた。授業はすでに準備体操も終え、
バレーボールのチーム分けをしている最中だった。ララが自分も様子を見に行こうとしたとき、体育館の方角から、一
つの人影が歩いてくるのが見えた。それはボールのカゴを運んでいる春菜の姿だった。

「西蓮寺さん、どうしたの? 随分遅かったけど……それに、古手川さんは?」と教師が不思議そうに尋ねる。

「すいません、先生。古手川さんが体育倉庫の前でお腹を押さえてうずくまっていて、保健室に連れて行ってたんです。
よいしょっと」

教師の前にカゴを置き、春菜が愛想良く答える。春菜の前で、ララと教師が古手川について心配そうな表情をしている。

「あら、そう……。でも、御門先生に任せておけば安心ね。それじゃ、西蓮寺さんは、Bチームね」

「春菜、こっち側のコートだよっ!」とララが春菜の腕を引っ張りながら向こう側のコートに案内する。

「へえ、ララさんと同じチームなんだ。良かった……」と春菜が微笑みながら言い、ズボンの右ポケットにゆっくりと手
を入れ、中に入っている物を点検するようにまさぐった。



 体育倉庫では、依然として奇妙な掛け声が響いていた。その声の主は、先刻と変わらず汗を滴らせ、顔を上気させながら、
疲労した表情をしていた。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

「まったく、なんて強情な娘なのかしらン! さっきのハルナとかいうコはすぐに素直になってくれたというのに……で
もまあいいわ。アナタもじきに気持ちよくなってくるでしょう。ホッホッホッホ!!」

(気持ちよく? 何言ってんのよ、気持ちよくなんて……そりゃ、言われてみれば確かにこの辺がちょっとムズムズして
きたけど……で、でもそれは単に水着がちょっとキツくて擦れてるだけなんだからっ!)

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」



「行っくよ〜〜、それっ!」

跳躍した高い打点から、ララがボールをスパイクする。かなり加減して打ったつもりだが、打球は爆発音を立てながら、
銃弾のように地面にめり込んだ。レシーブをしようとした女の子が、湯気を立てて半分になったボールの後ろでペタンと
へたり込んだ。

「ちょ、ちょっとララちぃ! もうちょっと手加減してよぉ、こんなの取れないってば〜!」

「ご、ゴメンゴメン」と舌を出しながら、ララがおどけて謝る。その背後では、春菜が先刻から張り付くようにララの動
き追従していた。敵陣からのアタックに怯えているように見えるが、その顔は始終、含みのある笑顔を絶やさなかった。

 そこへ、コートの外を、黒服を着た金髪の少女が通りかかった。彼女は適当なベンチを見つけると、そこへ座って読み
かけの本の頁を開いた。再度スパイクを打つために飛び上がったララが、その姿を見つける。

「あ、ヤミちゃん! お〜〜〜い!」とララが手を振ると、金髪の少女は顔を上げ、ララの方に向き直った。

「プリンセス……。お早うございます」とヤミは小さく頭を下げて挨拶した。

「ヤミちゃんもこっちおいでよ! 一緒にバレーボールしよっ?」とララが言うと、教師が眉をしかめた。

「ララさん、これはクラスの授業ですし、部外者を入れるわけには……」

「え〜、いいじゃん先生! このままじゃ勝負になんないしさ〜」

「そうよそうよ、ヤミヤミがこっちに入ったら、ララちぃと戦力的に釣り合いが取れるじゃない!」とララの敵側のコー
トにいる里紗と未央が愚痴るように言うと、観念したように、教師はヤミの参戦を認めた。ララが手招きするのを見て、
ヤミは少し顔を赤らめた。

「ま、まあ、プリンセスがそう言うなら……」



 ヤミがコートに入ってからも、春菜は変わらずララの背後に付いて来るべきチャンスを待っていた。先刻まではララに余
裕があったために、彼女の背後に隙は見当たらなかったが、ヤミの参戦により、彼女の注意は前方にのみ向けられていた。

(これは思ってもないチャンスね……今よ!)

スパイクを打ち終えて着地したララが態勢を崩した瞬間を狙って、春菜は自分の右ポケットに手を突っ込んだ。反対側の
コートでは、強烈なララのスパイクをトランス能力によって巨大な腕に変形させたヤミの髪が受け止め、攻撃に転じよう
としていた。

「行きますよ、プリンセス」

「うんっ!」

里紗の上げた高くトスされたボールを、ヤミの髪がスレッジハンマーの如くララに向かって打ち下ろす。その威力に危険
を感じたララが、思わず身体を捻ってボールを避ける。横に飛び退いたララの視線の先とボールの軌道の先には、右ポケ
ットに手を突っ込んだままの春菜の姿があった。ボールの急襲に、春菜は不意をつかれてボーッとしていた。

「へっ?」



 春菜が意識を取り戻したのは、保健室のベッドの上だった。ガバッと身体を起こすと、額の辺りが重くうずいた。ベッド
の傍には、俯いたヤミと、黒髪の女性の姿があった。

「ヤミちゃん……それに、御門先生」

「急に起き上がろうとしちゃ駄目よ。気分はどう?」と春菜のコブの辺りに貼られている絆創膏を触りながら、御門が言
った。

「え、あ、はい。ちょっとずきずきするけど、平気です」

「そう、よかった。薬が効いているから、腫れはすぐに取れるでしょう。痕も残らないから安心して」

俯いていたヤミが不意に顔を上げた。顔を赤らめて、居心地悪そうな、申し訳なさそうな表情をしている。

「春菜さん、ええと、その……ごめんなさいです。プリンセスの手前、少しはしゃいでしまって……」

「ううん、私は大丈夫だから、そんなに気にしないでね。ほら、この通り!」と春菜はおどけて元気に振舞って見せた。
そして二人に見えないように、こっそりと右ポケットに手を入れてみた。手の中には硬い感触があり、それが春菜を安心
させた。

(ああ、よかった。落としちゃってたらどうしようと思ってたけど……コレ、誰かに見られなかったかな?)

「それじゃあ、私はこれで。ドクター・ミカド、後はよろしくお願いします」

「ええ、勿論よ。貴女も程々にね」と諌めるような、面白がるような口調で御門が言うと、ヤミは恥ずかしそうにそそく
さと保健室を後にした。

「ふふ♪ 金色の闇も、案外子供っぽい所があるようね」と御門が言うと、春菜は頷いた。

「そうですね。初めて会ったときは無表情でちょっぴりおっかなかったけど……ララさんのおかげかな」

自分で発したララという言葉に、春菜はハッとした。そうだ、彼女の所に行かなくては。そう思い、ベッドから降りよう
とすると、御門がそれを制した。

「どこへ行くの? まだ駄目よ、安静にしてなきゃ」

(ああもう、早くララさんの所に行かなきゃなんないのに……仕方ない!)

意を決し、ララの時には出し損ねた右ポケットの中身を取り出す。それは古い玩具屋に売ってそうなデザインをした銃だ
った。御門は突き付けられた銃の切っ先を不思議そうな表情で眺めていたが、やがて何かに思い当たった。

「そ、それは確か……ハイグレ星の……きゃああああああああああああああんっ!」



 一時間目が終わり、2-Aの生徒達も教室に戻った後も、唯は例のポーズを取り続けていた。だが、その表情には変化があ
った。口をだらしなく開け、その呼吸は荒く、目は恍惚の任せるままに歪んでいた。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレェッ!!」

その痴態を眺めながら、ハイグレ魔王の表情はみるみるうちに不機嫌なものへと変わって行った。

「いい加減におしっ!!」と魔王が一喝すると、唯の身体の動きがビクッと止まった。「まったく放っておいたらいつま
でも……アタシは女の乱れる様になんて興味ないのよ! 分かったらさっさとデビルークの小娘の所へ向かいなさい!」

「は、はいっ! 申し訳ございません……」と呼吸を整えながら、唯は跪いて言った。魔王は、先刻春菜が使っていた銃
と同じ物を唯に手渡し、パチンと指を鳴らした。すると天井に異空間の穴が開き、そこから彩南高校の女子用制服がバサ
ッと落ちてきた。

「さっさとそれを上から着て、作戦を開始なさい」

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」と唯が魔王に向かって了解の意を示すポーズを取った。



「それじゃあ、私たち春菜の様子見てくるね!」

「う、うん。お願いね」とララは里紗と未央に言い、少し弱々しく手を振った。二人が教室を出て行くと、彼女の席の前
に茶髪の少年が歩み寄った。

「どうしたんだよ、ララ。何か元気無いみたいだけど」

「あ、リト……実はね、春菜が保健室行きになったの、私のせいなの」

「ああ、聞いたよ。ヤミとお前のやり合いに巻き込まれたんだろ? でも大したケガじゃないらしいし、あんまり気にす
んなよ」とリトが慰めると、ララが控えめに笑った。

(なんだろ、いつものララらしくないな……普通なら真っ先に保健室に行って謝るはずなのに……)



 転向が完了した唯は、春菜と同じようにハイレグの上から変装の為に制服を着て、2-Aの教室に向かっていた。周囲の人間
の視線を気にしながら歩いている彼女の顔には苛立ちの様子が見て取れた。廊下には、当たり前のように制服を着て何食
わぬ顔で立ち話をしている生徒達の姿がある。その暴挙を許すには、彼女の歪められた正義感はあまりにも大きすぎた。

(まったく、いくら魔王様の為だからって、どうして私がこんな格好をしなければいけないのかしら……。そもそも、間
違った姿をしているのは皆の方なのに。正しい人間が弾圧されるなんて……横暴だわ!)

思いを巡らし終えた唯は、決意を秘めた表情を浮かべ、廊下の真中で歩みを止めてシャツのボタンを外し始めた。傍に居
合わせた生徒達は皆、彼女の奇行を目の当たりにし、思わず自分の目を疑った。次いで唯がスカートの留め金を外すと、
周囲の生徒達は彼女を見ながら声を潜めて話をしていた。

「おいおい、アイツ何やってんだ?」
「うっわ〜、すげえハイレグ……レースクイーンみてえ」
「何かの罰ゲームか? でなきゃ相当の変態だぜ」
「ねえねえ、あれって、2-Aの古手川さんでしょ?」
「何かあったのかしらねえ……普段は真面目一筋だったのに」

「ちょ、ちょっと古手川さん! なんて格好してるの!?」

周囲のどよめきを掻き分けて、2-Aの同級生がおそるおそる唯に歩み寄った。脱ぎ捨てて散乱した制服の上に佇んでいた
唯が、その呼びかけに反応して顔を上げた。

「それはこっちの台詞よ! 皆してそんな格好をして……。覚悟しなさい!」

唯は腰をかがめて、床に落ちたスカートのポケットから洗脳銃を取り出した。その銃の形があまりにも子供っぽかったた
めに、生徒達は誰一人恐怖心を感じることはなく、それによって逃げ出す者もいなかった。その隙を突いて、唯が幾筋も
の光線を銃口から撃ち出す。

「きゃああああああああああっ!」
「うわああああああああっ!」
「えっ、ちょ、何これ……あああああああああああんっ!」



「なんだか騒がしいね」

「上の階みたいだけど、何かあったのかな?」

里紗と未央がそうやり取りをしながら保健室のドアを開けた。先に入った里紗が失礼しますと言おうとしたまま固まり、
次いで入室した未央が両手で口を押さえた。

「「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」」

そこには緑色のハイレグ水着を着て、おかしなポーズを取っている御門の姿があった。他にも一年生の女子が二名、三年
生の男子が一名、御門と同じような格好をして、「ハイグレッ!」と叫んでいる。その光景の奥で、白いハイレグを着た
春菜の姿があった。

「あ、里紗、未央。お見舞いに来てくれたんだ、ありがとう」と春菜が言い、にっこりと笑う。普段の状況なら好意的に
受けとるところだが、彼女の異様のせいで必要以上に不敵に見えた。

「な、何なの、これ?」と御門の姿を見ながら未央が口を開く。

「二人も、私達とおんなじ姿になってハイグレしよ?」と悪戯っぽく笑いながら、春菜は二人にゆっくりと詰め寄った。
里紗と未央はじっと御門の姿を見つめていたが、やがてゆっくりと視線を交わしあい、春菜にこう言った。

「「うん、いいよ!」」

「……へっ?」意外な返答を聞き、春菜はきょとんとした。その様子を見て、二人はクスクスと笑った。

「だってさ、なんか楽しそうじゃん!」

「うんうん、それに、先生もいつもよりセクシーになってるし。私達もコレ着たい!」

「そ、そうなんだ。じゃあ、ちょっと痺れるけど、我慢してね」と春菜が洗脳銃を取り出して照準を合わせると、二人は
その銃を興味深く眺めた。

「へぇ〜、それで撃たれると着替えれるんだ〜」

「なんかドラえもんの道具みたいだねっ!」

「じゃあ、いくよ」片目を瞑って狙いを定め、春菜は里紗と未央に向かって引き金を二度引いた。

「きゃあああああああああああああっ!」

「あああああああああああああん!」

二つの光と二つの叫び声が部屋を満たし、春菜は顔をしかめて手で目を覆った。



 唯の引き起こした惨状を見ている群衆の中に、周囲と違った異彩を放つセミロングの少女、ルンの姿があった。唯の放
つ奇妙な光線に当たらないように男子生徒の影に隠れながら、変わり果てた姿の生徒達を眺める。光線を浴びた生徒達は
、着ている衣服を男女問わずハイレグの水着姿に変えていた。その姿に変わった生徒達は一様に脚を拡げ、腰を落とし、
滑稽とも淫靡とも取れるポーズのまま、

「「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」」

という掛け声を発していた。

(な、なんなのコレ……きっとララの仕業ね! そうよ、あんなヘンテコな光線銃作る人なんて、ララ以外にいるわけな
いもん!)

唯とは違った憤りを感じたルンは、群集を跳ね除け、2-Aの教室に向かって走り出した。その頃には廊下にいた生徒の大多
数がハイグレ姿に変わり、周辺の教室にいた生徒もその異変に気付き、パニックを引き起こしていた。

 教室に着くなり、ルンはずかずかとララの方に歩み寄った。ルンに気付いたララは、椅子に座ったまま彼女を見上げた。

「あ、ルンちゃんだ。どうしたの?」

「どうしたもこうしたも無いわよ! またタチの悪いイタズラして……さっさと何とかしなさいよ、アレ!」と教室の外
を指差しながらまくし立てるルンに、ララが首を傾げる。

「お、落ち着けよルン。アレって何なんだ?」とリトが聞くと、ルンはにわかに猫撫で声になって言った。

「ちょっとリト君、聞いてよ〜! ララちゃんったら――」

その時、ルンの声を遮るように教室の扉が勢いよく開かれた。三人がドアの方を向くと、そこには黄色のハイレグを着た
里紗と、オレンジ色のハイレグを着た未央の姿があった。二人の手にはそれぞれ洗脳銃が握られている。

「な……!?」と二人の姿を見てうろたえるリトを尻目に、里紗と未央はララを見て、嬉しそうに声を上げた。

「ララちぃ見っけ! さっそく魔王様の下僕になってもらうよん♪」と未央が陽気に言うと、二人は洗脳銃を構えて素早
く光線を射出した。しかし照準が甘かったせいで、二本の閃光はララには当たらずに逸れ、一発は天井に、もう一発はル
ンの身体に命中した。

「きゃああああああああああああああっ!」

光が収まると、ルンは赤色のハイレグを着て、廊下にいた犠牲者と同じようにハイグレポーズを取りだした。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

すぐ傍で奇声を発し始めたルンを見て、二人は唖然とした。

「ルン……?」

(い、嫌、身体が勝手に……何とかしてよララ、あんたのせいでしょ! ああ、リト君、そんな顔してないで……見ない
でよぉ……!)

「あ〜あ、外しちゃった」

「狙うの難しいんだよね、コレ」

恥ずかしそうにポーズを取るルンを無視しながら、二人はぶつぶつと不平を並べ始めた。

「こ、これは……!」とララの頭に張り付いている渦巻き目をした髪留めが喋った。

「何か知ってるの、ペケ?」

「はい。かつて、デビルーク星を壊滅の危機に追いやった侵略者がいたそうです。話によると、そやつは他者に水着を着
せて意のままに操る能力を使うとか……」

「じゃあ、やっぱり春菜も……」とララがぼそっと呟いたが、リトに気付く余裕はなかった。

「とりあえず逃げるぞ、ララっ!」状況はよく呑み込めないが、里紗と未央の狙いがララであることに危険を感じたリト
は、ララの腕を掴み、後ろの出入り口を目指して走り出した。

「逃がさないよ、ララちぃ!」と言いながら片目を瞑って狙いを定めている里紗と未央にめがけて、ララはポケットから
取り出した金属性の奇妙な模様のボールを投げつけた。ボールは二人の手前の地面にバウンドし、キンッと鋭い金属音を
立てた瞬間に炸裂し、中から真っ白い閃光が溢れ出した。

「きゃ……!」

二人は腕を上げて光を遮った。その隙を突いてリト達は教室から脱出し、里紗と未央が目を開けた頃には教室は誰もいな
くなっていた。

「ちぇっ、逃げられちゃったか〜……」と里紗が残念そうに呟く。

「まあ仕方ないよ里紗。とりあえず、春菜に報告しに行こ?」



 廊下には、すでに転向されかかっているハイグレ人間で溢れていた。立ち止まると襲い掛かられそうな気がしたリトは、
ララの腕を引っ張ったまま、なるべく人気の無い所は無いかと辺りをきょろきょろ見回した。

「とりあえず、職員室に行って先生に知らせたほうがいいんじゃない?」

「侵略者相手に先生が何できるんだよ! とにかく人がいる所じゃ巻き添えを喰っちまうかもしれから、どこかに逃げ込
もう!」

2-Aの教室から遠く逃げ出した二人の目に、図書室の文字が飛び込んだ。

(あそこなら、いつも誰もいないから安全だろう。ったく、それにしても、何がどうなってんだよ……



リト達はそーっと扉を開け、図書室に入った。廊下の喧騒に比べて、図書室内はしんとしていた。ざっと見たところ、リ
トの予想通りそこには誰もいなかった。

「いったいどうなってんだよ……おいペケ、あれは一体何なんだ?」

「は、はい。先程述べたように、これは昔デビルーク星を襲った侵略者と同一人物がやったものと見て間違いないでしょ
う。おそらくは、今一度デビルーク星に攻め込むために、ララ様を捕らえる魂胆でしょう」とペケが言うのを聞いて、リ
トは深く溜息をついた。

「ララも大変だな、色んなヤツにつけまわされて……で、その侵略者ってのはどんなヤツなんだ?」

「わかりません。なにぶん、私もララ様も生まれる前のことですので。それにしても、なぜ今更……」

ペケが考え込んでいると、奥の書架からゴトッと物音がした。リト達は物音のした方に振り返り、にわかに警戒しだした。

「だ、誰だっ!」

物音の発信源はためらうことなくコツコツと足音を鳴らしながらこちらに近づいてくる。リトは唾をごくりと飲み込んで
緊張していたが、物陰から出てきたのは、何冊もの本を抱えたヤミの姿だった。

「プリンセス、それに結城リト……。どうしたんです、そんなに身構えて」と何でもなさそうに言うヤミの姿はまだハイ
レグ姿になっておらず、また今起きている騒動についても知らないようだった。ヤミが無事なのを見て、リト達はほっと
胸を撫で下ろした。

「……? 何かあったのですか?」と、テーブルに抱えていた本を置きながら尋ねるヤミに、リトはペケから聞いたこと
や里紗と未央に襲われたことを話して聞かせた。

「なるほど……」

「ヤミちゃん、何か知ってるの?」

「いえ、直接というわけではありませんが、似たような輩の掃討依頼を何度か受けたことがあります。そのテの能力は術
者を無力化すれば解ける、というのがセオリーです」

「ってことは、この騒動を起こした張本人を探し出して、やっつけりゃいいわけだな?」とリトが尋ねると、ヤミは無言
で頷いた。

「よぉし、じゃあ早いとこその犯人を捜しに行こう!」と勢いよく立ち上がろうとするララを、ヤミが抑える。

「いけません、プリンセス。この学校全体が敵戦力に包囲されている以上、向こうの狙いは明らかに貴女です。それをこ
ちらからわざわざ出向くのは、得策とは言えません」

「でも、このままここに居たって何にも解決しないよ?」

「では私が行って、原因を取り除いてきます。プリンセスは引き続きここに隠れていてください。結城リト、貴方はプリ
ンセスが勝手に行動しないように見張っておいてください」

「ほ、本当に一人で行く気かよ!?」

「安心してください。相手は洗脳された素人と、それを頭数に入れて初めて成立するようなテロリスト……そんな烏合の
衆なんて、取るに足りません」とヤミが自信を込めて言ったが、リトは彼女を行かせることについて疑問を感じた。確か
に戦闘力において彼女が遅れを取るような事態は起こりえないだろう。しかし、ヤミはまだ、敵の容姿をその目で見たわ
けではない。人一倍性的なものを忌み嫌い、免疫のない彼女があの光景を目にしたとき、果たして平静でいられるだろう
か。そのとき、リトの視線がララの髪に付いているペケに移った。

「待ってくれ、ヤミ! 俺にいい考えがあるんだ!」

「?」

「ララ、ちょっとペケ貸してくれ!」

「え、うん、いいけど……どうするの?」と聞きながら、ララは頭からペケを取り外してリトに手渡す。リトは手の中の
ペケを眺めながら、あまり気の進まないような表情をしていた。その顔をペケが不安そうに見返していたが、やがて決心
したように叫んだ。

「チェンジ・ドレス・フォーム!」

その音声を認識したペケが眩い光を放ち、リトを包み込んだ。



「リト、全然似合ってないね」とララがひそひそとヤミに耳打ちする。ヤミはリトの姿を見ないように、視線を泳がせて
いた。二人の目の前で、リトは水色のハイレグ水着姿になって立っていた。

「……えっちいのは、嫌いです」

「し、仕方ねえだろっ! 俺だっけ好きでこんなカッコしてるわけじゃねえんだから」

「ただでさえララ様以外の衣服になるのも屈辱的なのに、加えてこんな見苦しいドレスアップをしなければならないとは
……」と、リトの着ている水着に擬態しているペケが溜息を漏らす。その本体が見えないため、一見するとリトが本物の
ハイグレ人間であるように見える。

「それじゃ、俺が敵の情報探ってくるから、二人ともじっとしといてくれよ」

「リト、絶ッ対ハイグレ人間になんかならないでね!」

「もしも洗脳されて帰ってきたら、骨くらいは拾ってあげます」と冷淡に言うヤミに、リトが涙目になりながら頷き、と
ぼとぼと図書室を後にした。

(さてと、まずは校門を見に行くか……でなきゃいざって時に逃げれるかわかんないからな)

図書室のドアを後ろ手で閉め、リトは校門を目指して一階へ降りる階段の方に足を向けた。

「あら、結城君じゃない。そこで何してるの?」

背後からの声にビクッと反応したリトがおそるおそる後ろを振り返ると、そこには何食わぬ顔でハイレグを着ている唯の
姿があった。その手には奇妙な形をした銃が握られている。

(そんな、古手川まで……ちょっといいかも…って何考えてんだ俺!)

と脳内の自己と戦っているリトの姿を、唯は訝しげに眺めた。その視線を感じ取ったリトは、にわかに平静を装った。

「よ、よお古手川っ。こんな所で会うなんて奇遇だな!」

「よお、ですって? 女の子に向かって『よお』だなんて、非常識ね」

「へ?」

「挨拶っていうのは、こうするものでしょう?」と言い、唯は腰を落として例のポーズを取った。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

 普段なら絶対にしない格好、普段なら絶対に取らない動作、普段なら絶対に言わない台詞……それらを真顔で
している唯の姿に、リトはかすかな興奮を覚えたが、なんとか理性で押し返し、彼女の行動を反復した。

「は、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」

嫌々やっていることを悟られないように、それとない動作で挨拶する。それが終わるのを確認した唯が口を開いた。

「それで? さっきまでそこの部屋にいたみたいだけど、ララさんはいたの?」

「え!? い、いや、誰もいなかったよ。この辺はもう俺が調べといたから、次は下の階に行こうぜ」

「……ええ、わかったわ」

下の階の行くために歩き出した唯の後ろ姿を眺めながら、リトはほっと胸を撫で下ろした。

「それにしても、随分静かだな。他の生徒はどうしたんだろう?」

「転向の済んだ人達の大部分が、魔王様に銃を頂いてから勝手に行動しているのよ。校外に出て、魔王様の別働隊に
混じって自己中心的に活動してるの。まったく、魔王様に失礼だわ」

「みんな、ララはもう外に逃げたと思ってるんじゃないか? そうだ! 俺達も外に行こうぜ! もうきっと学校にはいないんだよ」

「いいえ、駄目よ。もしララさんが逃げたのなら、見張りが確認している筈だもの。そうしたら、見張りの兵も外に向か
う手はずになってるの。見て」と唯が校門側の窓を顎で示した。校門には、パンストを被った奇妙な人型の生物がライフル
型の洗脳銃を構え、周囲を警戒していた。

(……逃げるのは難しそうだな。やっぱり、親玉を探し出してやっつけるしかないか)

そのとき、反対側の窓越しに見える別棟の廊下の光景が唯の目に飛び込んできた。そこには、縦ロールの金髪の女性が
ハイレグを着た太った男に追いかけられている姿があった。唯は傍のリトの肩を掴んで、その光景を指で示した。

「あ、あれは……」

「天条院センパイ!? と、校長……」とリトが呆れたような表情で言った。その反面、唯はその顛末を真剣な顔付きで
眺めていた。必死に追いかけている校長を尻目に、逃げ手の沙姫の表情には幾許かの余裕が窺える。

「あのままじゃ先輩に逃げられてしまうわ。結城君、校長に加勢しに行くわよ!」

「お、おい、待てよ古手川!」

洗脳銃を構えて今にも走り出しそうな唯の姿に、リトは狼狽した。

(今古手川を行かせると、センパイが挟み撃ちになっちまう! なんとかして、ん……?)

リトは視線の先に、誰か未洗脳の人間が歩いているのを発見すると、咄嗟に唯を呼び止めた。

「古手川! そこに未洗脳者がいるぞ! 天条院センパイは校長に任せて、俺達はそっちに行こう!」

その声に唯が振り向くと、制服を着た人間が曲がり角を曲がるところだった。一瞬迷った後、唯は頷いた。

「わかったわ、そっちに行きましょう」

(あ〜、よかった……無事に逃げ切ってくださいよ、センパイ……!)



「沙姫ちゃぁ〜ん!!」と校長が叫びながら沙姫に向かって幾度も光線を放つが、逃げる沙姫の速度に
照準の甘さが相まって、一発も当たらない。

「フッ、あんな変態校長にやられるほど、天条院沙姫は甘くなくてよ! オ〜ッホッホッホ!!」と高らかに笑う沙姫の
視線の先に、曲がり角から人影が現れた。沙姫は不意の挟撃に驚き、思わず足を止めた。そして眼前の女の子の顔を見て、
強い衝撃を受けた。眼鏡をかけたストレートヘアー、緑色のハイレグ……。

「綾……!」

沙姫の弱々しい呼びかけに、藤崎綾はかすかな笑みを浮かべた。分厚い眼鏡の奥の表情は読み取ることができない。

「ハァハァ、とうとう追い詰めたよぉ、沙姫ちゃぁ〜ん!」と沙姫が立ち止まっているうちに後ろに迫った校長が、勝ち
誇ったように言った。その声に沙姫は振り向き、苦々しげな表情を浮かべた。

「くっ、私としたことが……」

「ハァハァ…ウヒョ♪ さあ、ボクの銃でハイグレに……ヘボァ!」

奇妙な唸り声と共に校長の体が真横に吹き飛び、二階の窓から中庭に鈍い音を立てて不時着する。先刻まで校長がいた位置
には、ポニーテールの長身の女の子が立っていた。どうやら彼女が校長を背後から殴り飛ばしたらしい。沙姫の期待とは裏腹に、
彼女の身体には艶のある黒色のハイレグが纏われていた。

「凛! ど、どうして……」

「どうして校長を排除したか、ですか? そんなこと、答えるまでもありません。あのような下賎な男から貴女の身を守
るのが、我が九条家の使命ですから」

そんなことを聞くつもりではなかったが、今の沙姫に訂正を求める余裕はなかった。いつも側近のように自分の近くに身
を置き、慕ってくれていた二人が、今は敵として自分の行く手を遮っている。その状況が、彼女を一種のパニックに陥れ
ていた。そんな沙姫を尻目に、凛が話を続けた。

「そして今から遂行するのが、魔王様に仕えるハイグレ人間としての使命……綾! 沙姫様を捕縛しなさい」

凛に気を取られていた沙姫を、綾が搦め手から押さえつけた。紅潮した綾の頬と、普段の彼女からは想像できない程の強大
な腕力に呆気に取られ、沙姫は抵抗することさえ忘れてしまっていた。

「綾、放しなさい! お願いだから、放してっ!!」

「うふふ♪ その割には抵抗していないようですけれど。本当は沙姫様もこの姿になるのを望んでいるんじゃないですか?」

「ぶ、無礼なっ! 一体どうしたというの、綾、凛! お願いだから正気に戻って!」

「沙姫様も経験すれば分かる筈です。この全身を包み込む愉悦……えも言われぬ高揚感……」

頬を上気させ、恍惚に身震いする凛の姿に、沙姫はこの上ない恐怖を覚えた。普段は冷静で、色欲はおろか必要最低限の
感情しか表出させない凛をこれほどまでに豹変させる力とは、一体どのようなものなのだろうか。

「大丈夫ですよ、沙姫様。沙姫様が魔王様に忠誠を誓った後も、私達は貴女に尽くします。だから……」と綾が耳元で囁
くのを最後に、凛が洗脳銃の引き金を引いた。正確無比な弾道を描き、それは沙姫の腹部に命中する。

「ああああああああぁぁぁんっ!」




「合図を送ったら、結城君は角を曲がって飛び出して頂戴。あなたが目標の気を惹いている隙に、私が光線を撃ち込むわ」

「お、おう、わかった」

こうなっては適当な言い訳も思い浮かびはせず、むしろ無理に唯の洗脳活動を妨害しては逆に怪しまれてしまうと思った
リトは、仕方なく彼女の指示に従うことにした。

「それじゃ、行くわよ……せーのっ!」と唯がリトの背を強く叩き、隠れていた曲がり角から押し出した。リトはブレーキ
が利かず、勢い余って前につんのめってしまった。その衝撃音に気付いた目標は立ち止まり、後ろを振り返った。ガバッと
起き上がったリトは、彼女の姿を見て、一瞬思考が停止した。

「は、春菜ちゃん!?」

「……結城君?」

「そこまでよ! 動かないで!」

物陰から強襲に出た唯が春菜に銃口を向ける。しかし、唯は驚いたような、戸惑ったような表情を浮かべ、動きを止めた。
その一瞬に、春菜の危機を感じ取ったリトは反射的に唯に飛びついた。唯の動きを封じようと必死にもがき、胸だろうが
尻だろうが形振り構わず鷲掴みにした。

「ちょっ、やめ、結城君っ!?」

「逃げろ、西蓮寺っ! 早くっ!!」

しかし、そんな無我夢中のリトを見ても、春菜は一歩も動かず、むしろニッコリ笑っていた。その様子を不審に思ったリト
は唯を捕まえている腕の力を弱め、唯はその隙を突いて肘鉄を喰らわせ、リトを引き剥がした。

「ハレンチな!」

「痛ってぇ〜……はっ、西蓮寺、何やってんだ、早く逃げろ!」

「大丈夫だよ、結城君」

「……へっ?」

すると、春菜は制服姿のまま蟹股の姿勢になり、声高らかに「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」と言った。
リトはその光景を理解することができず、ポカンと口を開けていた。

「私もすでに魔王様の下僕なの」

「で、でも、何で……」と春菜から視線を剥がすことができず唖然としているリトの疑問を、訝しげな表情の唯が代わり
に答える。

「制服姿だと、ララさんも油断して出てくると思ったからよ。本当は私もそうするべきなんだけど、西蓮寺さんが一人で
引き受けてくれたの。ところで、あなた今、逃げてって言ったわよね?」

「えっ…………や、やだなぁ〜、何言ってんだよ古手川。『逃げるな西蓮寺』って言ったんだよ。なあ西蓮寺?」

リトは春菜に向かって必死に弁明したが、春菜は何も言わずに首を振った。

「結城君……あなたもしかして」と唯が静かに言うのを聞きながら、リトは観念したように、両目をグッと瞑った。

「西蓮寺さんの制服姿が見たかったんでしょ!」と唯は言い、人差し指をビシッとリトの方に向けた。

「…………へっ?」

「私欲で私の邪魔した上に、さっきから西蓮寺さんのことジロジロ眺めて……ハレンチどころか最低よっ! もし彼女が
未洗脳者だったらどうするの!?」

「こ、古手川さん、私なら大丈夫だから……」春菜は苦笑いしながら唯に言い、視線をリトの方に向けると彼と目が合い、
一方的に頬を染めて視線を逸らせた。「仕方ないよね。結城君も魔王様の下僕の前に、男の子だもん……」

春菜が恥ずかしそうに呟くのを聞いて、リトは一連の不可解なやり取りの意味を理解した。

(なるほど、春菜ちゃん達にとっちゃこのカッコが自然体になってるわけだから、逆に普段着がいやらしく見えるのか……
なんかややこしい話だなぁ……)

それと同時に、春菜の作戦の厄介さも分かり始めてきた。確かにあれならララも油断しそうだ。この格好のままあの部屋
の前を通りかかったら……。

「なあ西蓮寺。確かにそれっていい作戦だと思うけどさ、もう洗脳活動が始まってから大分時間経ってるんだから、未洗
脳者が堂々とうろついてんのはかえって不自然じゃないか?」

「え? そ、そうかな……」と自分の身体を点検するように眺め回しながら、春菜が言った。唯も、なるほどと納得した
ような表情を浮かべている。

「じゃあ、今度からは未洗脳者に見えるように演技しなくちゃいけないってことね?」と古手川が言った。

「え、いや、俺が言ったのはこういうことじゃ――」

「そうね、そうしたほうがいいかも……ありがとう、結城君。私、頑張ってみるね!」と春菜は言い、振り返って廊下の
向こう側に走り出そうとした。

「だから違うんだってば、西蓮寺!」と春菜を呼び止めようとしたリトは、不意に自分の身体が軽くなったような錯覚を
覚えた。心なしか身体を、特に下半身を覆っていた圧迫感が取り除かれたような気もする。しかし、数瞬の後、その錯覚
が現実のものであったことに、リトは気付いた。自分の身体から水着が消えているのだ。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

同時に、背後から唯の金切り声が耳元を劈いた。その声に春菜が後ろを振り返り、

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」と連鎖的に叫び声を上げた。リトは反射的に、股の所へ両手を持っ
ていった。

「ああ、あ、ああ、あなた何、は、裸になってんのよ!?」と唯が声を振り絞るように言った。

「い、いやこれはわざとじゃ、ていうか俺にも何が何やら……おいペケ! 何やってんだよ」

「申し訳ございません、昨日うっかり充電し忘れたもので……エネルギー切れです……」とペケは元のアクセサリーの形態に
戻っており、リトの髪の毛に留まっていた。心なしかその表情も形態も、だらっとしている。

(し、仕方ねえ、今のうちに逃げないと……)

股間を押さえながら、リトは唯の横を通り過ぎて反対側の廊下へ走っていった。春菜と唯は逃げるリトの裸の後姿を、目
や口元を押さえながらボーッと見過ごしていたが、やがて唯が弾かれるようにハッとして口を開いた。

「ハレンチなっ! い、色んな意味でハレンチだわ!!」

「それよりも古手川さん、結城君を追わなきゃ! やっぱり転向してなかったのよ!」と、春菜は身動きを取りやすくす
るために、服を脱ぎながら言った。

「え、ええ。行きましょう、西蓮寺さん!」



「はぁ〜ぁ、あたしハイグレ姿になるなんて、絶対にヤだなぁ。だってさ、そうなったらもう色んな服着たりオシャレし
たりとか、全然できなくなるんでしょ? そんなの考えらんない! ねえ、ヤミちゃん?」

「私は、着る物はこれだけあれば充分ですから。むしろ得体の知れない連中に好き勝手されることの方が許しがたいです」

二人が取り留めのない話をしていると、図書室の近くの廊下を、何者かが歩いてくる音がした。二人はその音に素早く反
応すると、見えない部屋の外を警戒しはじめた。

「足音からすると、どうやら単独行のようですね」と耳を澄ませながら、ヤミが言う。足音は図書室の一つ手前の備品室
の前で止まり、その扉を開けた。

「どうする、ヤミちゃん。待ち伏せする? それとも、一気にわーってやっつけちゃう?」

「そうですね……不意を突きましょう。私が行きます」

「二人じゃダメなの?」

「狭い部屋への奇襲ですし、人数を増やしても逆効果です。しばらく待って私が帰ってこなかったら、プリンセスは逃げ
てください」

ヤミは物音を立てないようにそっと図書室のドアを開け、するりと外へと出た。

ララは息を殺して待っていたが、向こうの部屋は静かなままだった。取っ組み合いが始まる予感も無く、不気味な静寂が
横たわっているだけだった。一分が一時間のように感じる感覚に耐えられず、痺れを切らしたララは図書館を飛び出した。
そのまま備品室のドアを蹴破り、中へと強襲したが、室内には誰もいなかった。先刻まで居たはずの敵の姿も足音も、ヤ
ミすらもどこかへ消えてしまったのだ。

「……ヤミちゃん」

誰も居ない部屋の真中で、ララは一人取り残され、これからどうしていいのかを完全に失念してしまった。



「「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」」

すっかりハイグレ魔王に洗脳された沙姫は、すでに動くことができるにも関わらず、未だに凛と綾と一緒にハイグレして
いた。二人ともいつまでもハイグレしている沙姫を咎める素振りも見せず、むしろ嬉しそうに同調していた。

(ん、はぁ……気持ち、いい……! いけませんわ、高貴な魔王様の下僕たる私が、欲情にかられるままにハイグレしつ
づけるなど……でも…んぁ♪ 止まりませんわ……)

(ああ、沙姫様…なんて妖艶なお姿……今の貴女様なら、ザスティン様もきっと振り向いてくれることでしょう……)

(沙姫様ったら、あんなに嬉しそうにハイグレを……よかった。これでやっと、迷惑ばかりかけてきた沙姫様へのご恩返
しができたわ!)

「「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」」

沙姫達が動きも声も心も揃えてハイグレしている所に、曲がり角を曲がって全速力でリトがやってきた。三人とも夢中に
なっているため、彼の接近に気付くことは無い。

「どいてどいて〜〜〜! どいてくれぇ〜〜〜!」

「結城君、待って!」

「絶対に逃がさないんだから!」

続いて角を曲がってきた春菜と唯の姿を振り返って確認したリトは、いよいよ形振り構っていられないことを思い知った。
廊下の真中に三人して突っ立っている所に差し掛かっても減速せず、そのまま三人に勢いよくぶつかった。

「キャ!」と悲鳴を上げ、沙姫達は尻餅をついて床に倒れこんだ。ハイグレを無理矢理中断されたことに対する呆然は、
すぐに怒りに変わり、加えてその張本人がリトであることに気付いた沙姫は顔を歪めて憤慨した。

「結城リト……よくも私たちが愉しみに水を差したわね! 許しませんわ!」

「わ、私……またあの人に乱暴された……」

「泣かないで、綾。仕返しは、彼を転向してからにしましょう」

三人が立ち上がり、ハイレグに付いた埃を払っているところに、春菜と唯が追いついた。

「天条院先輩、大丈夫ですか?」

「ええ、ありがとう。それよりも、早くあの不届き者をひっ捕らえませんこと? あんなあられもない姿で走り回ってい
るなんて、目に毒ですわ」

「はい、勿論です。そこで、先輩達は先回りして、一階と三階の踊り場を封鎖してください。未洗脳者を挟撃します」と
唯が言うと、沙姫達は頷き、一階と三階に行くために散開した。春菜と唯はそのまま真っ直ぐリトの逃げた道を辿って走
り出した。



「……ん……ここは?」

ヤミが目を覚ますと、そこには見覚えのある天井があった。それが保健室のものであることを認識するのに、そう時間は
かからなかった。

(そうでした……確か、私は備品室に入って、そこで……)

「お目覚めのようね、金色の闇」

聞き覚えのある声に反応し、その声のする方向へ頭を向けると、ヤミは、自分の身体がベッドに寝かされ布団をかけられ
ていること、その上でロープで拘束されていることに気付いた。自分の置かれている状況を呑み込むと、ヤミは目の前の
人物に敵対的な視線を送った。

「ドクター・ミカド……あのときあそこに居たのは貴女だったのですね。まさかこちらが出し抜かれるとは、油断してい
ました」

ヤミの寝ているベッドの傍で、緑色のハイグレを着た御門が不敵な笑みを浮かべている。その目は異様なほどにぎらぎら
した光を湛えていた。

「悔しがることはないのよ。私があなたを瞬時に組み伏せることができたのも、ハイグレ魔王様の御加護があったからな
んだから」

「ハイグレ魔王? ……それが元凶の名前ですか。ヘンテコな名前ですね」

「ヘンテコ、というのは聞かなかったことにするわ……でも、元凶というのは頂けないわね。あのお方は私たちを幸福に
導いて下さる救世主なのよ?」

「……下らない。今の貴女と一緒にしないでください。私は何にも属さないことにしているんです」

「うふふ……これを見ても、まだそんなことが言えるかしら?」と微笑みを浮かべながら、御門はヤミの身体の上の布団
を剥ぎ取った。そこにも先刻までヤミを包んでいた黒装束は影も形も無く、代わりにピンク色のハイレグがその身体を包
んでいた。

「なっ……!」

「驚いたでしょう? 実はもう、あなたも魔王様の立派な下僕なのよ」ヤミのハイレグに包まれた身体に指を這わせなが
ら、御門が嬉しそうに言った。ヤミは自分の身体を包むモノの存在を直視できず、目いっぱい視線を逸らせた。いやらし
い衣装を着せられていることに対する羞恥心で真っ赤になっているヤミの頬を、御門は掌で覆いながら彼女に顔を近付け
た。

「どうしてハイグレを着ているのに、意思はそのままなのか、気になるでしょう? 本当なら、あなたも私のようになる
筈なんだけど、少し考えてみたの。果たして普通に光線を撃つだけで、金色の闇をハイグレ人間に転向できるのかしら?
もちろん魔王様の御力を疑うわけじゃないけど、あなたの精神力じゃ随分抵抗されることは確かだった。そこで薬を使っ
て一時的に意識を封じて、光線を撃ったの。精神に干渉されない肉体は、思いのほか転向を受け入れてくれたわ」

御門はヤミの手足を捕縛しているロープを解いた。身体が自由になったヤミは、ベッドから降りたが、それは彼女の意思
によるものではなかった。彼女は自分の身体が何か得体の知れない力に支配されているのを感じ、自身を破壊したくなる
ほどの不快感を覚えた。

「どうして、こんな回りくどい真似を……?」

「決まっているじゃない、魔王様の為に働いてもらうの。何せララさんを仕留めることができる人といったら、金色の闇、
あなたくらいしかいないもの」

「私が……プリンセスを……?」

御門から洗脳銃が手渡されたが、やはり抵抗することはできず、それを受け取ると、彼女の身体は不意に蟹股になり、例
のポーズを取った。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

(い、嫌っ! こんな、えっちいことを……)

「あらあら、すっかりやる気みたいね、ハイグレ人間・ヤミ。さあ、魔王様の為に武勲を立ててきなさい。ハイグレッ!
ハイグレッ! ハイグレッ!」と御門もポーズを取った。
 保健室を出たヤミの足は勝手に図書室の方角に向き直り、一目散に駆け出した。

(プリンセス……逃げて……逃げてください!)



 一人になったララは居ても立っていられなくなり、図書室を飛び出して辺りをさまよったが、彼女は自分がハイグレ魔王
を探しているのか、リトを探しているのか、ヤミを探しているのか、はっきり見定めることはできなかった。とりあえず
高い所から誰かいないか探そうと思い、階段に向かおうとしたが、ララは進路の前方を塞いでいる人物がいることに気付
いた。彼女と目が合うと、ララはその場に呆然と立ち尽くした。

「ヤミちゃん……」

「プリンセス……逃げてください!」とヤミは叫んだが、その反面身体は勝手に右腕を突き出し、ララに向かって洗脳銃
の照準を正確に合わせた。ヤミの腕はためらうことなく引き金を引いた。

「!」

バシュッという音と共に射出された赤い光線を、ララは身を捩じらせて避けた。

「早く、空を飛んで逃げてください!」

「無理だよ! リトにペケ渡しちゃったから飛べないの!」

(くっ、どうすれば……)

とっさに窓から校庭に飛び降りたララを追いながら、ヤミは対処法を模索したが、どうあがいても、身体が自分の支配下
に戻ることは無かった。光線を何発も撃ちながら、髪の毛を拳の形にトランスさせている自分の身体を、ヤミは心底憎ん
だ。
校庭に場所を移したことで、ヤミの攻撃を回避しやすくなったが、状況は一向に改善されはしなかった。ペケのいない今、
逃げ出すことはできないとわかってはいるのだが、まともな意識の残っているヤミに攻撃するのをどうしてもためらって
しまう。ヤミの拳を生身で受けながら、ララはハイグレ光線を何度も間一髪で回避した。ララの身のこなしを見てヤミは
少し安堵したが、彼女の後ろを見て、思わず声を上げた。

「プリンセス、駄目です! 後ろに逃げないでください!」

しかしその声に反応することができず、ララはバックステップで攻撃を回避した。すると、背中が何か障害物に当たり、
彼女の動きが一瞬鈍ってしまった。

「え、な、何?」とララが後ろを振り向くと、それは体育館の外壁だった。とっさに右に回避しようとしたララに対し、
ヤミは洗脳銃に切っ先を右に向けてララを牽制した。動きの止まったララの身体に、ヤミの拳に変形した髪が渾身の力で
殴りつける。

「きゃ……!」

両腕をさらしてガードしたが、衝撃を吸収しきれず、ララの身体は体育館の外壁を破壊、貫通し、館内へと吹き飛ばされ
た。

「痛っててて……」と痛む腰の辺りを押さえながらララが身体を起こそうとした。しかし彼女は動きを止めざるを得なか
った。外壁の穴から中へ入ってきたヤミが、ララの眉間に銃を突きつけていたからだ。ヤミは俯きながら、細い一筋の涙
を流していた。

「ヤミちゃん……」

二人はしばらく互いの目を見ていたが、不意に体育館の舞台の方から奇妙な笑い声が横槍を入れた。

「ホッホッホ!! よくやったわ、そこのハイグレ人間!」

その声に振り向くと、二人の目線の先には、舞台の上に置かれた演壇に座っているハイグレ魔王の姿があった。

「あれが……ハイグレ魔王……」とララは呟き、壇上の宇宙人に対して、にわかに怒りの感情がこみ上げるのを感じた。
それは彼女に銃を突きつけているヤミも例外ではなかった。

「いい加減待ちくたびれて、アタシが出向こうと思ってたところだったのよ。ハイグレ人間、あなたお名前は?」

「気安く話しかけないでください。それに私は、ハイグレ人間なんかじゃありません」とヤミが言い捨てると、ハイグレ
魔王は呆気に取られた表情をした。

「おかしいわね、アタシの言うことを聞かないなんて。まあカラダはちゃんと堕ちてるみたいだから、問題は無いわね。
とりあえず、そのコが逃げ出さないように捕縛なさい」と魔王が言うと、ヤミは髪のトランスを解除し、ララの身体を髪
で縛り上げた。ララが苦しそうに呻いたが、ヤミにはどうすることもできなかった。

「どうして、こんなひどいことをするの……?」とララが弱々しく魔王に問いただした。それを聞いた魔王の顔から、お
どけた雰囲気が消えた。

「ひどい? あなたの父がしたことに比べれば、こんなの、何でもないわ」

「?」

「アナタが生まれるよりも前のことよ。その頃、アタシは故郷のハイグレ星を統べる王だった。星はアタシの統治の下、
とても平和だった。でもある日、強大な軍隊が攻めてきた。それは圧倒的な数と力だった……それに、残虐だった。奴ら
は仲間が取り込まれようが、構わず攻撃してきた。そしてアタシの星は壊滅……アタシは一人、命からがら宇宙へ逃げ出
したわ。そして復讐を誓った。あの憎きギド・ルシオン・デビルークに!」

「そ、そんな……でもペケは、そっちが攻めてきたって……」

「ふん、歴史なんてのは、都合の良いように修正されるものなのよ。勝者の手によってね……だから、今度はアタシが勝
者になるのよ。……つまらない話ね。忘れて頂戴。さあ、さっさとその小娘をハイグレ人間にしておしまい!」

「くっ……」

ハイグレ魔王の命じるままに、ヤミは引き金を引こうとした。しかし、その瞬間――

「だあああぁ!」

投げやりな叫び声と共に体育館のドアが開き、疲労困憊したリトが中へと押し入ってきた。ぜえぜえと肩で息をするリト
の姿を見て、ララの顔はにわかにぱあっと輝きだした。

「はぁ、はぁ…はぁ……ん? ……ララ! それに、ヤミ……お前……」

「結城リト……見ないでください。そして逃げてください。貴方では、私には敵いません」とヤミが俯きながら言った。

「逃げるわけないだろ、ヤミ……馬鹿な真似はよせ! 銃を捨てろよ!」と必死に叫ぶリトの後ろで、扉の開く音がした。

「とうとう追い詰めてよ、結城リトっ! 凛、捕まえなさい!」

背後で沙姫の声がしたかと思うと、リトは振り返る暇もなく、凛によって腕を絞り上げられ、床に組み伏せられた。

「ぐえっ……!」

「抵抗しても無駄よ。おとなしく転向されなさい」

「……その男は、何者なのかしらン?」

悠々としたハイグレ魔王の声を聞くと、リトの傍にいたハイグレ女達は一斉に声の主の方を向き、口々に驚嘆の声を上げ
た。

「ハ、ハイグレ魔王様!」

「も、申し訳ございません。このような見苦しい形で参じたばかりでなく、挨拶もし忘れてしまって……」

「皆さん、早く魔王様に御挨拶を!」と唯が一同に呼びかけると、ハイグレ女達は一斉にポーズを取った。

「「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」」

しかし舞台の上のハイグレ魔王は下僕達の挨拶が遅れたことについては咎めず、むしろ不気味な笑顔を見せており、その
目には狡猾な光が宿っていた。

「それよりも、その裸の男の子は誰かしらン? アタシ好みの顔と身体……♪ ここへ連れてきなさい」

「だ、駄目っ! リトには何もしないで!」とヤミに縛られながら、ララは苦しそうに懇願した。ララの必死な表情を見
て、魔王はより一層リトに興味をそそられた。

「ふぅん……このコ、アナタにとって余程大事と見えるわね。それじゃあゆっくりと拝むといいわ。このコがアタシのモ
ノになるトコをねぇ」

リトの周りに集まったハイグレ女は彼を無理矢理起こして舞台の方へ歩かせた。ハイグレ魔王は、舞台に上がったリトの
身体をねっとりとした視線で眺め回した。

「ホッホッホ、見れ見るほどアタシ好みだわン……喜びなさい、転向した暁には、アナタを側室にしてあげるわよ」

「だ、誰が喜ぶかよっ!」と勇んで言うリトに、ハイグレ魔王は小指を差し向けた。その指に赤い光が燈る。

「ホッホッホ、遠慮しなくてもいいのよン。そんな裸じゃ寒いでしょう、今ステキなハイグレを着せてあげるわ」

「い、嫌……やめてえええええええええええええ!!」

ララの叫び声も虚しく、魔王は何のためらう素振りも見せずに光線をリトに向かって放った。その赤い閃光を防ぐものは
何も無く、リトの身体に直撃した。

「うわああああああああああああああああ!」



「「ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!!」」

水色のハイグレを着せられたリトがポーズを取り始めると、ハイグレ女達は彼に合わせて同じポーズを取り始めた。体育
館の真中でララを捕縛していたヤミも、髪を解いてララを降ろし、魔王に向かってハイグレポーズを取っていた。その顔
にはもはや憎悪も悔恨も見られず、諦めるように無抵抗な表情をしていた。降ろされたララは、うずくまって涙を流して
いた。

(みんな、私のせいで……こんな……ごめん、ホントにごめんね……)

「どうして泣いてるの?」と、ふとララの傍で声がした。顔を上げると、そこには春菜の姿があった。

「は、春菜……ごめんね」

「どうして謝るの? 変なララさん」と優しく笑いながら、春菜はララに洗脳銃を手渡した。「ララさんも、ほら。怖が
ることはないわ……それに、転向が済んだリト君がそんな姿のララさんを見たら、きっと悲しむわ。むしろ嫌いになるか
もしれない」

「リトが……」とララは呟き、舞台の上のリトの姿を見つめる。ハイグレ女達に囲まれてポーズを取るリトの顔から、少
しずつ苦しそうな表情が消えていくのを、ララは見た。転向が済んで、ハイグレ魔王の下僕になったリトは、私にどんな
言葉をかけるのだろう。本当に自分のことを嫌いになってしまうのだろうか。

(私がハイグレ姿になったら、ザスティンもパパも悲しむだろうなぁ……でも、そんなのもういいや……私だって王女の
前に、一人の女の子なんだもん……)

ララは春菜から洗脳銃を受け取ると、ふらふらと立ち上がり、自分のこめかみに銃口を突きつけて、引き金を引いた。



「魔王様、デビルーク星の情報管理施設にハッキングすることに成功しました。こちら側の映像と音声を送信する準備も、
すでに整っております」

体育館の真中に立っている魔王に向かって、御門が跪いて言った。その周りには魔王を取り囲むようにハイグレ人間達が
控えていた。街に出向いていた生徒達が戻ってきたため、その人数はかなりのものになり、体育館に収まりきらなくなっ
ていた。その中には完全にハイグレ人間に転向したヤミを含め、学校に残っていたメンバーの姿があった。

「ホッホッホ、よろしい。では、ララ・サタリン・デビルーク。母星の人々に改めて自己紹介なさい」

舞台の上には誰もいなかったが、魔王が呼びかけると、舞台の袖から、ピンク色のハイグレを着た女の子が歩いてきた。
舞台中央に立ち止まると、彼女は俯き加減だった顔を上げた。その満面の笑顔と、変わり果てた姿を、舞台のすぐ前に設
置された怪しげなデザインのカメラが映していた。彼女はそのカメラに向かって、喋り始めた。

「デビルーク星の皆さん、はじめまして。はじめましてじゃないと思った人もいると思うけど、それは間違いです。私は
ハイグレ魔王様によって、新しく生まれ変わったんです。だからもう、私はあなた達の知っているララ・サタリン・デビ
ルークじゃありません。ハイグレ魔王様に忠誠を誓う下僕、ハイグレ人間・ララです」

そこでララは喋るのを止め、ハイグレポーズを取った。体育館に列挙したハイグレ人間達は、その様子を固唾を呑んで見
守っていた。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ……私のこの姿を見て、ショックを受けていることでしょう。悲しんで
いる人もいるかもしてません。でも、どうか悲しまないでください。皆さんも、私と同じ姿になれば、きっと分かってく
れる筈です。間違っていたのは自分の方だったって。だから、皆さん、魔王様に投降して、素直にハイグレ人間になって
ください。もし魔王様の言うことが聞けないと言うのなら、その時は私が、私たちがそっちに攻め込むことになるでしょ
う。良い返事を待ってます。では、ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

「「ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!!!」」

言葉の終わりのハイグレポーズに合わせ、体育館中のハイグレ人間達が同じポーズを取る。彼らの顔は一様に輝き、ハイ
グレ魔王に永久に仕え、デビルーク星との戦争のための駒になることをも厭わない決意を秘めていた。その喝采の中で、
ヤミは御門の方に歩み寄り、口を開いた。

「とりあえず、宣戦布告は済みましたね」

「ええ。でも、これからが問題よ。あの高慢なデビルーク王が、素直に降伏するとは思えないわ。多少なりとも、衝突は
避けられないわね」

「魔王様に楯突く者は誰であろうと私が許さない。それに、プリンセスも……私が守ります」

「うふふ、頼もしいわね」

舞台の上で演説が済み、ほっと一息ついているララの前に、リトが歩み寄った。

「おつかれ、ララ」

「ふう……慣れないことしら、なんだか疲れちゃった」とララがおどけて笑う。

「でも、とんでもないことになったな。父親と戦うなんてな……。お前は辛くないのか」

「大丈夫、魔王様のためだもん。私が頑張らなきゃ」

「そうか……も、もしもの時には、お、俺が盾にでも何にでもなってやるからよ」

「リト……ありがとう!」とララは嬉しそうにリトに抱きついた。その様子を眺めながら、ハイグレ魔王は復讐のための
手駒が揃ったことを、心密かに喜んだ。

(ホッホッホ、待ってなさいよ、ギド・ルシオン・デビルーク。アナタの最愛の娘を使って、今度こそデビルーク星を乗
っ取って見せるわ!!)

「「ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!!!」」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



それから数時間後━━━━━━━

「じゃあねー、美柑。バイバイー」

「またねー」

結城美柑は下校途中のT字路で同級生二人と別れた。夕飯の買い出しのために商店街に向かうためだ。

「今日の夕ご飯は何にしよっかなー♪」

曲がり角を曲がる友人を見送り、夕飯の献立を考えていると美柑の耳に同級生の悲鳴が飛び込んできた。

「きゃあああああああああああああ」 「いやあああああああああああああああああん」

「ど、どうしたの?!二人とも!」
血相を変えて友人たちの悲鳴があがった場所へ駆けだす美柑。元来た道を戻り、二人と別れた曲がり角を曲がるとそこには・・・・

「「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」」

赤と黄色のハイレグ水着を身に纏い、股を大きく開いて股布の切れ込みに沿って手を動かす変わり果てた友人達の姿があった。苦しいのか表情は歪んでいた。

「な、なによこれ・・・・・・・」

その光景にしばし唖然としていると、友人達の影から1人の女性が現れた。

軽くウェーブがかかったセミショートの黒髪に大きな瞳、急角度に切れ込み光沢のついた緑のハイレグに白衣を羽織り、黒いヒールブーツを履いたその女に、美柑は見覚えがあった。

「あなたは確かリトの学校の・・・・・・・・・」

そう、そこにいたのは美柑の兄・リトの通う彩南高校の校医の御門涼子だった。片手におもちゃのような銃を携えて獲物を狙う女豹のような鋭い目つきで美柑に迫っていた。

やがて彼女も美柑に気付いたのか驚いたように、
「あら?あなたは確か結城君の妹の美柑ちゃん」

美柑は直感的に自分の友達に何かをしたのは御門だと思った。そして、珍しく強い口調で問い詰めた。
「御門先生!あなた、私の友達に何をしたの?!」

「あらあら、凄い剣幕ね。私はただあなたの友達をハイグレ人間に転向してあげただけなのに」

「ハイグレ・・・・人間・・・・・・?」
初めて聞いた言葉に訝しげな顔をする美柑。

「そう、これよりこの地球の支配者となられる偉大なハイグレ魔王様の忠実なるしもべとなることを許された名誉な存在。それがハイグレ人間よ。そして私は魔王様より地球ハイグレ化計画の責任者ハイグレドクターミカドなの。ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」
誇らしげにハイグレをしながら説明する御門。

訳のわからないことを言う御門に軽い眩暈を覚えながらも必死に反論する美柑。
「何言ってるのよ!そんな恥ずかしい格好をしてヘンテコなポーズを取ることが名誉なワケないじゃない。早く二人を元に戻してよ!苦しそうじゃない!」

それを聞いた御門はニヤリと笑うと、
「うふふ、本当にそうかしら?ねぇ、二人とも。どうかしら?ハイグレ人間になれた感想は?」
まだハイグレしている二人に尋ねた。

すると友人二人の表情は苦悶の表情から、みるみるうちに恍惚としたものに変わっていく。

そして・・・・・
「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレ人間にてんこーしました〜♪ハイグレ魔王様にえーえんにちゅうせいを誓います〜♪洗脳していただきありがとうございました、マスターミカド!ハイグレッ!」

「美柑、ごめんねー。お先に魔王様のしもべにしてもらっちゃった♪んぁあ!ハイグレするの気持ちいいよぉ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ほらぁ、美柑も早くいっぱい切れ込んだハイグレきて一緒にハイグレしよ?」


「そ、そんな・・・・・・」
美柑は友人たちの変わり果てた姿を目の当たりにし、ショックでその場に立ち尽くしてしまった。

御門は、そんな美柑にさらに追い打ちをかける。
「失礼ね、そんなに引くことないじゃない。あなたのお兄さんももう既に魔王様のしもべとして生まれ変わったのにねぇ」

「う・・・・・・・・・うそ・・・・・・?」
信じられないといった表情で口を手で押さえる美柑。



「オホホホホ、うそなものですか。これを御覧なさい」
御門は白衣のポケットからペンライトのようなものを取り出して、それをコンクリートの壁に向かって照射した。

「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!全てはハイグレ魔王様のために!」
そこに映し出されたのは、赤いハイレグを着たモヒカン頭のオカマに向かって、水色のハイグレ姿で一生懸命ハイグレをする大好きな兄の痴態だった。
その中にはなんと、ララや春菜、唯といった美柑の知る人達もいたのであった。

「今頃魔王様に可愛がって頂いているんじゃないかしら?羨ましいわぁ。一時的に魔王様のお好みのショタっこになれる薬でも作ろうかしら?」
美柑の反応が面白いのか、御門は頬を紅潮させ高笑いしながらトドメとばかりにまくしたてる。


ペタン・・・・・
(そんな・・・・・リトが・・・・・ララさんが・・・・・・・)
瞳から光が消え、美柑はその場にへたりこんでしまった。

それを確認した御門は真顔に戻り、
「さぁ、今よ」
生まれたばかりのハイグレ人間達に目配せした。

「「ハッ!マスターミカド!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!」」
二人は了解のハイグレをすると、美柑の両脇を抱え込んでその場に立たせた。さらに両側から美柑の頭の中に染み込ませるように耳元で囁き始めた。

「さ、美柑も、美柑のお兄さんみたいな立派なハイグレ人間になろ♪」

「美柑の大好きなお兄さんが、美柑が魔王様に反抗してるだなんて知ったら、美柑のことを嫌いになっちゃうよ?」


「なんだよ、美柑。お前まだハイグレ人間にして頂いてないのか?俺、そんな素直じゃない美柑、嫌いだな」
いつも自分に笑顔で優しくしてくれる兄の蔑むような眼。そんなイメージが美柑の脳裏によぎる。

「い・・・嫌ぁ!」
ブンブンと頭を横に振って悪いイメージを振り払おうとする美柑。

そんな美柑に逃げ道を与える御門。
「大丈夫よ、美柑ちゃん。ちゃんとハイグレ人間になればお兄さんも今までと同じに。いいえ、それ以上に貴方のことを好きでいてくれるわよ?」

「ほん・・・・・・と・・・・?」
目に涙を浮かべ懇願するように御門をみつめる。

「ええ、本当よ。それくらいハイグレ人間になるということは素晴らしいことなの。神聖なハイグレを身に纏い、偉大なるハイグレ魔王様にハイグレをすることで忠誠を誓い、お仕えするの。あぁ、なんて素敵なことなの!」
頬を紅潮させ、その豊満な肉体を抱くようにして恍惚に浸っている。

昔から両親は仕事で多忙を極め、ほとんどの時間を兄と二人で過ごしてきたと言ってもいい。苦楽を共にしてきた美柑がリトに対して抱いてる感情は恋愛感情に限りなく近いものだった。
そんな兄に嫌われるなんて考えられなかった。

そして、
「ハイグレ人間に・・・・して・・・・」
力のない声でそうつぶやいた。

それを聞いた両脇のハイグレ人間は、ニヤリと笑うと御門のほうへ向いて深く頷いた。

「うふ・・・・じゃぁ、お望み通りにしてあげるわね」
そう言って御門は右手にハイグレ光線銃を構えて狙いを美柑に定めると、躊躇いもなく引き金をひいた。

音もなく迫る光の束に反射的に目を瞑る美柑。光線が命中したかと思ったその刹那。

バシィ!!

美柑の体と光線との間に割り込み、光線をはじいたモノがあった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
自分を衝撃が襲うかと思いきや、いつまで経ってもそれは来ない。どうなったのかと不思議に思い、恐る恐る目を開けるとそこには・・・・

「ヤミさん!」
見慣れた金髪に黒の戦闘衣の後姿が美柑の目に飛び込んできた。自然と美柑の瞳に輝きが戻ってくる。

「危なかったですね、美柑」
宇宙一の殺し屋「金色の闇」が左腕を盾に変形させ、ハイグレ光線を弾いたのだった。

「どういうつもりかしら?金色の闇?」
ひきつった笑いを浮かべている御門。

「ドクターミカド、貴女に美柑はやらせません」

「・・・・・・・・・どういう意味かしら?」

「そのままの意味です」

それだけの問答をすると、暫く黙ったまま互いに見つめあう二人。

やがて、
「仕方ないわね。あなたには勝てそうもないし、ここは引くとするわ」
御門は諦めたように肩を竦める仕草をすると、パチンと指を鳴らして美柑を拘束しているハイグレ人間達に合図を送った。
すると二人のハイグレ人間は美柑を解放すると足早に御門の足元まで移動し、その場に跪いた。
それを確認した御門は、テカテカとしたハイレグに包まれた胸の谷間からリモコンのようなものを取り出しボタンを押した。

「では、金色の闇、美柑ちゃん。またいずれ会いましょう。うふふ・・・」
そして、ブゥンという鈍い音を立てて3人はどこかへテレポートしていった。



「大丈夫ですか?美柑」
ヤミが美柑のほうを振り向くやいなや、美柑が目に涙をためて抱きついてきた。

「ヤミさん・・・・!リトが・・・・!リトが・・・・!」

助けを求める美柑を待ってたのは、ヤミの信じられない言葉だった。

「結城リトはハイグレ人間に転向し、魔王様の側室になりました。美柑、貴方も魔王様に忠実なしもべになるのです」

プスリ
「痛っ!」

衝撃的な言葉とともに美柑の首筋に針で刺されたような痛みが走った。

「そ、そんな・・・・・ヤミさんも・・・・・・。じゃあ、なんでさっき助けたの?」
首筋を押えながらヤミから離れ後ずさる美柑の表情は困惑で満ちていた。

「簡単なことです、美柑。貴方は私の手で洗脳したかった。ただそれだけです」
表情を変えずそう言い放つと、ヤミは髪を刃物に変化させ自らの戦闘衣を粉々に切り裂いた。
バラバラになった戦闘衣の下にはピンクのハイレグがあった。

「ハイグレッ!!ハイグレッ!!ハイグレッ!!」
頬を赤らめながらも誇らしげに、美柑に見せつけるようにハイグレするヤミ。

「違う!違うよ!ヤミさんはハイグレ魔王とかいうやつに騙されてるんだよ!それにえっちぃのは嫌いなんじゃなかったの!?」

「ハイグレ魔王様は、私を孤独と呪われた強化人間から解放してくださった偉大なお方。いくら美柑でもあのお方の悪口は許しません。それにハイグレは神聖な儀式です。えっちぃことじゃありません。それに・・・」
そういうとヤミは不意に美柑に近づいていき、頭を抱きかかえるようにして突然その唇を奪った。

「んーーーーーーーーーーーーー!!!」
驚愕のあまり目を見開き、必死にジタバタと暴れる美柑。


「んむっ・・・ちゅるあむじゅるる・・・・」
そんなことはお構いなしといったように舌も差し入れるヤミ。

暫く卑猥な水音と美柑のうめき声が響いていたが、やがて美柑の抵抗がなくなったのを確認したヤミは美柑を解放して一言。

「魔王様に洗脳して頂いたお陰でえっちぃのも好きになりましたよ・・・・?美柑・・・・・」

美柑は暫く荒い息をついて呆然としていたが、はっと我に返った。そしてヤミに抗議しようとしたが・・・。
「ハァハァハァハァハァ・・・・ちょっとヤミさん、何を・・・・・・?!」

急に体に火がついたように熱くなる。とても服などきていられないほどに。
「ハァハァ、体が熱い。どうしちゃったの、私?!」
少しでも涼しくなろうと必死に服を脱ぎ、そして全裸になるがそれでも火照った体は収まりそうにない。

「やっと効いてきたようですね、美柑。先程貴方に注射したのはハイグレ魔王様の精液。さあ、美柑。私のトモダチなら貴方は何をすればいいのか、もうわかっているはずです」
ヤミは微笑みながら赤いハイレグ水着を美柑に手渡した。

「ハァハァハァ、早く・・・・早くハイグレしたいのぉ!」
美柑はもう我慢できないように素早く水着を着ると、
「ハイグレッ!!!ハイグレッ!!!ハイグレッ!!!ハイグレ人間ミカン、完全に転向しました!なんでこんなに気持ちイイこと拒んでたんだろ?ゴメンね、ヤミさん。ミカド様にも謝らなくっちゃ!ハイグレッ!ハイグレッ!」

「いいんです、美柑。これからもわたしたちはトモダチなのですから・・・・」

「ありがと、ヤミさん!さ、一緒にハイグレしよ?」

「そうですね・・・・わかりました。では・・・・」




「「ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレッ!ハイグレ魔王様万歳!」」



二人のハイグレは夕焼けの空にずっと木霊しているのだった。


0106 with AI
2010年08月28日(土) 23時10分24秒 公開
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■作者からのメッセージ
こんばんは、AIです。このたびは手違いで更新しちゃいましたので一旦消させてもらいますね。すいません。